説明

シールド掘削機の到達方法及びエントランス装置

【課題】立坑へのシールド掘削機の到達時にシール部材の損傷を防ぐことができ、シールド掘削機の到達誤差を吸収できるシール部材を設けることで、コンパクトなエントランス装置を提供する。
【解決手段】立坑3の内壁面に取付けられる筒状のエントランス装置5の内面に設けられ、内部圧力を高くすることで内側へ向けて膨張し、シールド掘削機1に圧接して地山60とシールド掘削機1との間のシール性を確保するシール部材51を備える。シール部材51の内側には、エントランス装置5の底部側に位置し、シール部材21を覆う保護装置21を設ける。保護装置21は、シールド掘削機1の立坑到達時に立坑壁部(新素材コンクリート15からなる壁部 )が掘削された際、その一部がエントランス装置5の底部に落下する。保護装置21は、その崩壊片を受け止め、シールド掘削機1に押圧されてシール部材21の全体が露出する位置まで移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立坑へのシールド掘削機の到達時に用いるエントランス装置及びシールド掘削機の到達方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、シールド掘削機によって地中にトンネルを構築する際、シールド掘削機の到達位置には立坑が構築され、掘削を終了したシールド掘削機は立坑の壁面を破壊して立坑内に進入する。
【0003】
前記立坑のシールド掘削機が到達する部位の壁面には、到達時に高圧のトンネル内から土砂や地下水等を含む地山が立坑内に流入するのを防止するため、例えば、特許文献1に示すような、所定のエントランス装置が設けられる場合がある。
【0004】
上記のエントランス装置は中空の円筒形であって、その一端がシールド掘削機が進入する壁面に取り付けられ、その内周面に、ゴム製のリング状のシール部材が設けられる。シールド装置の到達時にはシール部材が膨張して、これがシールド掘削機の周壁面と強く接触する。このような構造によって、地山の圧力が高く、高圧力が作用する大深度掘削用のシールド装置の場合でも、シールド掘削機とエントランス装置との間の確実なシール性が保持される。
【0005】
そして、エントランス装置内へシールド掘削機が進入するとき、その最先端に位置するシールド掘削機の掘削刃がシールド部材に接するように通過し、かつ立坑壁を破壊した際には掘削土がエントランス装置側に崩れ、シール部材の上に落下する等、外部要因によってシール部材は損傷し易い条件下にある。
【0006】
この問題を解決するために、特許文献1の装置では、エントランス装置の外周面に設けたシール部材の内側に位置する移動可能な保護筒体を設け、掘削刃を保護筒内の内部を通過させ、かつ掘削土を保護筒内に落下させることで、シール部材の損傷を防止する構造となっている。
【0007】
また、シールド掘削機がエントランス室内へ進入するとき、例えば、数センチメートル単位の到達誤差が生じて、予定位置の中心からずれて到達する場合がある。このとき、リング状のシール部材は、シールド掘削機の表面に強く接触する部分と、反対に弱く接触する部分が生じて、均一なシール性能が得られなくなり、最悪の場合にはシール不足による地山の侵入があり得る。この場合には、保護筒体の位置を修正する位置決め修正手段を設け、到達予定位置のずれに対応している。
【特許文献1】特開2004−92233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の従来の装置はいわば内外の筒体を備えた二重構造となり、構造が複雑で高価となる問題がある。また、保護筒体の位置を修正する位置決め修正手段は、伸縮ロッドとシリンダからなるジャッキであって、エントランス装置の外周に突出して設けられる。
【0009】
このように、ジャッキを外周の数箇所に設けるのは装置が複雑化するばかりでなく、エントランス装置を設置する場合、さらにこの修正手段であるジャッキが収まる空間が確保されるように立坑の大きさを設計する必要がある。通常、立坑の大きさは、その内部で掘
削終了後のシールド装置を分解できることを基準に設計され、様々な条件からミニマムな大きさに設定されるので、エントランス装置としては、出来る限り余分な空間を要しない構造であることが望ましい。
【0010】
上記の理由から、その機能を損なうことなく、よりコンパクトで立坑を拡大させることなく、かつその製造や施工コストを抑制できるエントランス装置が要望されていた。
【0011】
本発明は、上記のような事情に鑑みてされたもので、簡易な構造で立坑へのシールド掘削機の到達時におけるシール部材の損傷を防ぐことができると共に、シールド装置の到達誤差をシール部材により吸収可能とし、到達誤差を調整するための特別な機構を排除することで、全体の大きさをよりコンパクトにしたエントランス装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を達成するために、本発明は次のような構成とした。すなわち、トンネル掘削を実施したシールド掘削機が到達する地点に立坑を構築し、この立坑内のシールド掘削機の進入位置にエントランス装置を設置する工程と、
前記エントランス装置におけるエントランス室内の内周面には、内部圧力を高くすることで内側へ向けて膨張するリング状のシール部材を取り付けるとともに、少なくともエントランス室の底部側のシール部材を覆うように保護装置を設置する工程と、
シールド掘削機がエントランス装置が取り付けられた立坑の所定位置の壁面を掘削して、エントランス室内に進入する工程と、
シールド掘削機の進入に伴い掘削された立坑の壁部の崩壊片を受け止めた保護装置が崩壊片を載せた状態で、シール部材の存在領域から外れる位置まで移動する工程と、
前記シール部材を、エントランス室内に進入したシールド掘削機の外周面全体に圧接するように膨脹させて、シールド掘削機と地山との間のシール性を確保する工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、シールド掘削機が立坑に到達してエントランス室内へ進入する際、シールド掘削機によって破壊された立坑の壁面の崩壊片は保護装置上に落下する。よって、シール部材に損傷を与えることがなくなる。なお、この崩壊片は、壁面を構成していたコンクリート片や地山の土砂が含まれる。
【0014】
また、本発明のシールド掘削機を立坑に到達させるために立坑内に設置されるエントランス装置は、
前記シールド掘削機の外径よりも径大で、前記立坑の内壁面に取付けられる筒状のエントランス室と、前記エントランス室の内壁面に設けられ、内部圧力を高くすることで内側へ向けて膨張し、シールド掘削機に圧接して地山とシールド掘削機との間のシール性を確保するシール状態及び縮小した待機状態に切換え可能なリング状のシール部材と、
待機状態にある前記シール部材の内側であってエントランス室の底部側に位置し、エントランス室内の底部側のシール部材を覆う保護装置と、を設け、
この保護装置は、シールド掘削機の立坑到達時に立坑壁が掘削された際、エントランス室の底部に落下する立坑壁部の崩壊片を受け止め、かつ前記エントランス室内へのシールド掘削機の進入に伴い、シール部材の全体が露出する位置まで、崩壊片を載せた保護装置が移動することを特徴とする。
【0015】
前記保護装置は、シールド掘削機の立坑到達時に前記崩壊片が内部に落下するように上面が開口した容器状とすることが好ましい。
より具体的には、前記保護装置は略半円筒形であり、待機状態にある前記シール部材の内側のエントランス室の底部側に位置し、少なくとも開口した上面部の縁部の近傍には、
凹部または凸部を有する変形防止手段を形成することができる。
【0016】
このようにすれば、最小限の大きさで、かつ衝撃に対する補強がされているので、コンクリート等からなる崩壊片が落下した際、これらを支障なく受け止めることができる。この場合、エントランス装置全体が内外壁を備えた二重構造ではないので、その構造が簡略になる。
【0017】
また、シールド掘削機の外周面に存在する凹凸、例えば、中折れ式のシールド掘削機の折曲り部の凹部等、を考慮して確実なシール性を確保するため、リング状のシール部材は、シールド掘削機のエントランス室内への進入方向に対して所定の間隔を有して複数配置するのが好ましい。
【0018】
また、前記保護装置は、エントランス室の底部側(シールド掘削機よりも外周側)に位置するが、全体として軽量であるので、シールド掘削機の推進に伴い、これに押されて容易に崩壊片を載せた状態でシール部材の存在領域から外れた位置まで移動する。このような構造であるので、シールド掘削機が進入すると、この外周面に接するシール部材の全体がエントランス室内に露出する。
【0019】
本発明のシールド掘削機を立坑に到達させるために立坑内に設置されるエントランス装置においては、前記シールド掘削機の外径よりも径大で、前記立坑の内壁面に取付けられる筒状のエントランス室と、前記エントランス室の内壁面に設けられ、内部圧力が上昇するとエントランス室の内側へ向けて膨張してシールド掘削機に圧接し、地山とシールド掘削機との間のシール性を確保するシール状態及び縮小した待機状態に切換え可能なリング状のシール部材を備え、
前記シール部材内の圧力を調整する圧力制御手段を設け、エントランス室内へのシールド掘削機の進入位置が予定位置からずれた場合には、シール部材の内部圧力を調整して前記シール部材の非均等な膨張を許容することで、シールド掘削機と地山との間のシール性を確保することができる。
【0020】
この場合、シール部材を複数設け、これらのシール部材及びシール部材間の圧力を調整することができる。
上記ように、シール部材、あるいは複数のシール部材とこれらの間の密封された空間の圧力の膨張度を調整できれば、通常生じる範囲のシールド掘削機の到達誤差に対しては、特別な装置を設けることなく対処できるので、立坑の拡大を抑制でる。また、エントランス装置を簡易な構造でコンパクトにできるので、施工コスト削減に有利である。
さらに本発明では、前記保護装置は、待機状態にある前記シール部材の内側のエントランス室の底部側に位置し、シールド掘削機の立坑到達時に前記崩壊片が保護装置上に落下するように設置され、ストッパを外すことでシールド掘削機により押されて移動する。
【0021】
なお、シール部材を複数設けることで、各シール部材をそれぞれ独立した膨張圧に調整できるため、シールド掘削機の本体部から径が小さくなる後半のセグメント領域にわたってシール部材をほぼ均一の膨張圧で弾接させることが可能となり、段差を有するシール周壁面に対して確実なシール性能が得られる。特に、中折れ式のシールド掘削機では、その折曲部に凹部が存在するが、その凹部に接したシール部材のシール性が損なわれる場合でも、他のシール部材によってシール性を保持することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、従来の二重円筒構造を廃した簡易な構造のエントランス装置により、立坑へのシールド掘削機の到達時におけるシール部材の損傷を防ぐことができる。
【0023】
また、シールド掘削機の到達位置の誤差が生じた場合でも、シール部材のシール性を損なうことが減少する。この場合、誤差が通常生じる範囲であれば、別個の位置ずれ調整機構を設ける必要がないので、装置全体の大きさをよりコンパクトにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を図1ないし図8を参照して説明する。
図1は、本発明のシールド掘削機の到達方法の作業手順を示す図である。
所定長さのトンネルを地中に構築したシールド掘削機1が到達する立坑3内には、円筒状のエントランス装置5が設けられる。以下、その手順を(1)ないし(6)において、図1(a)から(e)を引用しながら説明する。
【0025】
(1)立坑3の構築とエントランス装置5の設置
図1(a)に示されるように、トンネル掘削を終了したシールド掘削機1が到達する地点に、立坑3が構築される。この立坑3は、例えばケーソン工法、あるいは、その他の公知の地下連続壁工法等の方法によって構築することができる。
シールド掘削機1は、図1及び図2に示すように、最先端面に掘削刃7を備えた円筒状の本体部9を備え、外径が小さくなるセグメント領域11(図1)が後方に連続する構造である。
【0026】
通常は、立坑3の壁部3aは、到達坑口13を除き、鉄筋コンクリートで形成される。ただし、前記壁部3aは、鉄筋コンクリート製にこだわらず鋼製等であってもよい。立坑3には、前記シールド掘削機1が到達する位置に、シールド掘削機1の本体部9の径より径大な到達坑口13が設けられる。この到達坑口13は、例えば、新素材コンクリート15によって完全に閉塞される。新素材コンクリート15は、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の補強筋材が用いられ、所定の耐圧を備えることと、シールド掘削機1の掘削刃7による掘削が可能である。
【0027】
シールド到達におけるエントランス装置5は、図1(b)に示すように、立坑3内で前記新素材コンクリート15によって形成された到達坑口13の範囲内に配置される。なお、この到達坑口13は、シールド掘削機1によって掘削され得るものであればよく、必ずしも新素材コンクリート15で形成する必要はない。
前記エントランス装置5は略円筒管状であり、シールド掘削機1の到達の方向、高さを確認し、その真円度、及び前後方向を適切に決定し、既設架台2上に載置して到達坑口コンクリート部13に設けられる。
【0028】
シールド到達におけるエントランス装置5は、前記到達坑口13に接するエントランス室17と、シール部材51と、保護装置21とを備えた構造となっている。
【0029】
図1及び図2に示すように、エントランス装置5は円筒状の鋼管であって、その一側5aは開口しており、新素材コンクリート15によって形成された到達坑口13の部分に対応するように装着される。その反対側には、分解及び取外し可能な耐圧壁23が設けられる。大深度トンネルである場合等、必要に応じて支保工19により耐圧壁23を補強する。耐圧壁23の取付け後は、エントランス室17内に、周知の方法により水等を充填して高圧とし、シールド掘削機1の到達に備える。このようにして、シールドの切羽土水圧に対抗するのに必要な圧力を、エントランス室17内に保持した状態とする。
また、内部のエントランス室17の下半部には、保護装置21が移動可能に設けられている。保護装置21の設置については、(3)で後述する。
【0030】
(2)シール部材51の設置
エントランス室17内の内周面には、シール部材51(シールド坑口封止用パッキン)
が設けられる。図2ないし図6に、本発明に係る第1実施形態のシール部材51が示されている。この例では、シール部材51は前後方向に2個設けられているが、シール部材51は単数であってもよい。
図3に示すように、シール部材51は、帯状のゴム部材52と、このゴム部材52の両側端に設けられた断面が楔状の取付部53、53とを有している。図4は、シール部材51を展開して示した図である。
【0031】
上記の帯状のゴム部材52は、エントランス室17の内周と略同一長さで、所定の幅を有している。また、このゴム部材52の内部には、図4に示すように、ゴム部材52の全面に亘って補強繊維層54が設けられている。
【0032】
この補強繊維層54は、二層の繊維部材55、55が積層されている。各繊維部材55、55は、例えばポリエステル補強コードが一方向に並べられて織られている。積層された二層の繊維部材55、55は、互いのボリエステル補強コードがクロスするように配置されている。
【0033】
上記の二層の繊維部材55、55は、ゴム部材52内では積層されているが、取付部53、53における根元部分の近傍で分離されている。これらの分離された二層の繊維部材55、55は、互いに所定の間隔をあけて、それぞれ取付部53、53の表裏面53a、53b側に配置されている。
【0034】
また、取付部53、53の厚さは、ゴム部材52の厚さより厚く形成されている。これらの取付部53、53内には、二層の繊維部材55、55に別の補強繊維56、56が外側に積層されて埋設されている。
【0035】
また、図5に示すように、取付部53、53における上記二層の繊維部材55、55の間には、変形しにくい硬質ゴム57が設けられている。この硬質ゴム57によって取付部53、53の抜け出しが抑制される。
【0036】
このように、本発明のシール部材1は、ゴム部材52の厚さより大きな厚さを有する取付部53a、53bを備えているので、ゴム部材52と円筒部材51間に形成される閉鎖空間59(図3参照)内に、供給管61を介して高圧の圧力水又は空気を供給した場合に、取付部53a、53bが固定部材55に係止された状態が保持され、シール部材51が所定の固定位置から位置ずれしたり、完全に外れてしまうことが防止できる。
【0037】
なお、このシール部材は、図6に示すように、シールド掘削機1のエントランス室17内への進入位置が予定位置からずれた場合には、必要により、すなわち、ずれの大きさ等に応じて内部圧力を調整する。
このようにして、シールド掘削機1がエントランス室17の中心からずれて進入したような場合でも、シール部材51の非均等な膨張を許容することで、シールド掘削機1と地山との間のシール性を確保することができる。
【0038】
この場合、シール部材51の内部圧力を調整する手段(圧力制御手段)として、図6に示すように、それぞれ、第1ポンプ装置P1、第2ポンプ装置P2及び第3ポンプ装置P3が、図示しない水または空気の供給源に接続されて設置される。第1ポンプ装置P1は、第1シール部材51aに接続され、その内部に水または空気を供給する。同様に、第2ポンプ装置P2は第2シール部材51bに、また第3ポンプ装置P3は、第1シール部材51aと第2シール部材51bとの間の空間51cに、それぞれ水または空気を供給することができる。
【0039】
このようにして、シールド掘削機1の到達位置が、エントランス室17の中心からずれた場合でも、第1シール部材51a、第2シール部材51b、また空間51cの圧力を適切に調整し、第1シール部材51a、第2シール部材51bがシールド掘削機1の外周面に密着してシール性が保持されるようにする。
【0040】
(3)シール部材51を覆う保護装置21の設置
シール部材51の内側(エントランス室17のさらに内周側)に位置する保護装置21は、図7及び図8に示すように、半円筒管状である。
【0041】
この保護装置21は、シール部材51の両側にそれぞれ設置した移動用キャスタ67により支持されている。この移動用キャスタ67(67a、67b及び67c)は、図7に示すように、最下端中央に設置した第1キャスタ67aに対し、円周方向に所定の角度をもって、左右に第2キャスタ67b、67cを設置している。したがって、保護装置21は、ぐらつくことなくシールド掘削機1の進入方向に沿ってスライド移動可能である。
【0042】
また、保護装置21は、その他側の両側の上端部において、ローリング防止金具62a、62bを備えている。このローリング防止金具62a、62bによって、保護装置21は所定の移動時以外は、エントランス室17内でローリングすることが防止されている。
前記ローリング防止金具62a、62bは、エントランス室17の外部から貫通し、エントランス室17内側の端部には、板状のストッパ64a、64bが一体に連設されている。
前記保護装置21は、例えば、エントランス室17の外側から保護装置21を貫通するように挿入された抜き差し可能なロックピン等からなるストッパ64cが設けられ、前記ストッパ64a、64bと共に、所定位置に保護装置21を固定支持しておけば、前後方向にスライドすることはない。
このようにすれば縮小した待機状態(図2)の底部側に位置するシール部材51は、保護装置21によって覆われている状態が保持される。
【0043】
保護装置21は、開口した上面部の縁部の近傍と底部付近には、凸部21a,21bを設け、衝撃を受けた場合の変形防止手段としている。
また、保護装置21は、一端にシールド掘削機1の先端部と当接し合う端部壁66が設けられる。シールド掘削機1がエントランス室17内まで推進され、前記端部壁66にシールド掘削機1の先端が当接する際、前記ストッパ64a、64b及び64cを外して保護装置21のスライドをフリーにすれば、そのままシールド掘削機1に押圧され、図2で矢印Bで示す方向に前進する。すると、図1(c)に示すように、保護装置21が耐圧壁23側へ移動する。したがって、シールド掘削機1がエントランス室17内に進入するのに伴い、保護装置21によって一部が覆われていたシール部材51の全体が、エントランス室17内において露出する。
【0044】
なお、保護装置21は、掘削土を始めとする外部要因に対してシール部材51の保護を図る構造となっていればよく、例えば、パイプ管、目の細かいメッシュ筒管等いずれの手段であってもよい。
【0045】
このようなシールド到達におけるエントランス装置5によれば、図2に示すようにシールド掘削機1が立坑3を貫通し、エントランス室17内への進入するとき、シールド掘削機1の掘削刃7によって掘削された新素材コンクリート15の崩壊片及び掘削土は保護装置21内に落下する。この結果、シール部材51に損傷等の悪影響を及ぼすことがなくなる。
【0046】
一方、シールド掘削機1の進入時には、移動防止金具64を取り去ると共に、シールド
掘削機1の先端を保護装置21の端部壁66に当接させると、スライド可能なフリー状態にある保護装置21は、図1(C)に示すように、シールド掘削機1の前進に合わせてスライド移動し、上述のようにシール部材51の全体がエントランス室17の内周面に露出する。この露出時にはシール部材51が膨張可能となり、図1(c)及び(d)、また図6に示すように、シールド掘削機1の周壁面と確実に弾接し合い確実なシール性能が得られるようになる。
【0047】
(4)シールド掘削機1の到達位置確認とシール部材51内の加圧
シールド掘削機1が立坑3に到達した時には、シールド掘削機1が立坑3の壁部(到達坑口コンクリート部13)を貫通してエントランス室17内へ進入するため、その到達誤差がシール部材51によるシール性を確保する上で、許容変位量以内であることを確認する。
【0048】
このようなシールド掘削機の進入時、上述のように、保護装置21は、シールド掘削機1の前進に合わせてエントランス室17の端部(耐圧壁23側)までスライド移動し、上述のようにシール部材51を露出させる。シールド掘削機1が立坑3内の所定位置まで推進したら、シール部材51内に、外水圧を考慮した封入圧を作用させて、所定の圧力まで加圧し、シール部材51の作用状況を確認する。シールド掘削機1との間で漏水があれば、封入圧を徐々に増加し止水を行う。
【0049】
(5)耐圧壁23及び保護装置21の撤去
シール部材51による止水状況が完全なものであることを確認した後、図1(d)に示すように、耐圧壁23及び保護装置21を撤去する。
【0050】
(6)シール部材51内への充填材の注入
次に、シールド残置及び引出し完了後の坑口部の止水性を確保するため、シール部材51内に充填材を注入し、充填材を固化させることで坑口部の止水を行う。充填材としては、充填後の体積変化による漏水の発生防止を考慮して、例えば、無収縮モルタル等を使用することが望ましい。注入はシール部材51の加圧用の配管を使用することができる。
【0051】
(シール部材による止水性確認試験)
次に、本発明の封止構造、すなわちシール部材51による止水性能を確認するため、図6に示すように、実際のシールド掘削機1及び本発明の封止構造を用いて、その止水性能を確認した。なお、図6においては、シールド掘削機1は偏心して到達している。
【0052】
本発明のシール部材を備えたエントランス装置5について、次のような条件でシール試験を行った。ここでは、シール部材51は、互いに所定の間隔をあけて二個設けられている。
【0053】
<前提条件>
(1) シールド掘削機1の外径は2、280mm、長さは5、000mmである。また、円筒部材50の内径は2、640mm、長さは1、550mmである。
(2)シールド掘削機1と円筒部材50(エントランス室17)との隙間は、片方がw1、他方がw2であり、下記のようにこれらの隙間を変化させた。
【0054】
(3)シール部材51a、51b間に地下水に相当する圧力を有する外水を供給し、シール部材51a、51b自体には、地下水に応じて設定された圧力を有する圧力水を供給することにより、シール部材51a、51bの止水性能を確認した。
【0055】
<試験項目>
(対照):外水圧1.0MPa、シールド掘削機1の円筒部材50(エントランス室17)に対する偏芯量0mm(上記のw1=0、w2=0)とした場合の止水性能を確認する。
(試験例):外水圧1.0MPa、シールド掘削機1の円筒部材50(エントランス室17)に対する偏心量100mm(上記のw1=80mm、w2=280mm)とした場合の止水性能を確認し、これを上記の(対照)と比較検討する。
【0056】
<試験手順>
(1)シール部材51a、51b内にそれぞれ圧力水を供給し、シール部材51a、51bの内圧PA、PBを0.5MPa程度まで加圧した。
(2)シール部材51a、51bの間の空間51cの外水圧の圧力P0を0.3MPa程度まで加圧した。
(3)シール部材51a、51b内の圧力PA、PBと、これらシール部材51a、51b間の空間51cの圧力P0とが、上記1、2の関係(PA(PB)/P0=0.4/0.3≒1.67)を維持したまま、シール部材51a、51b間の圧力が1.0MPaになるまで、上記のPA、PB、P0を加圧した。
(4)シール部材51a、51b間の圧力を1.0MPaに保持した状態で、シールド掘削機1を前進させ、シール部材51a、51bによる止水状態を確認した。
【0057】
<試験結果>
(対照)外水圧P0=1.0MPa、シールド掘削機1の偏芯量0mmとし、シール部材51a、51b内の圧力PA(PB)を1.5〜1.9MPaに変えて試験した結果、何れの圧力でも良好な止水性能が確認できた。
(試験例)外水圧P0=1.0MPa、シールド掘削機1の偏芯量100mmとし、シール部材51a、51b内の圧力PA(PB)を1.5〜1.9MPaに変化させたところ、何れの圧力でも良好な止水性能が示され、対照と比較して遜色ないことが確認された。
上記結果を考慮すると、シール部材51a、51b内の圧力PA、PBは、外水圧P0すなわち地下水の圧力の1.3倍以上、好ましくは1.5倍以上にするのが好ましいことが理解できる。
【0058】
以上のことから、シールド掘削機1の到達位置がずれた場合であっても、通常発生し得る程度の誤差であれば、シールド部材の内圧やシールド部材間の圧力を調整することで、充分なシール性(止水性)が得られることが判明した。
【0059】
また、シールド部材51が複数設けられた封止構造では、シールド掘削機1が蛇行したとき、すなわち、立坑への到達時にその中心が予定箇所よりずれた場合、それぞれのシールド部材51a、51bと、シールド部材51a、51b間の圧力を、別々にコントロールすることもできるので、止水性能低下を防止するのにより有利である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の方法の概略を説明する図であって、(a)から(e)は立坑内にエントランス装置を装着し、シールド掘削機を到達させる手順を経時的に説明する図である。
【図2】エントランス装置が立坑内に設置された状態を示す一部を破断した図である。
【図3】シール部材の構造を示す断面図である。
【図4】シール部材を展開した状態を示す図である。
【図5】シール部材の取付部の構造を示す断面図である。
【図6】シールド掘削機がエントランス装置に到達し、シール部材に接触した状態を示す図である。
【図7】エントランス装置の正面図である。
【図8】保護装置の正面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 シールド掘削機
3 立坑
5 シールド到達におけるエントランス装置
17 エントランス室
51 シール部材
21 保護装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル掘削を実施したシールド掘削機が到達する地点に立坑を構築し、この立坑内のシールド掘削機の進入位置にエントランス装置を設置する工程と、
前記エントランス装置におけるエントランス室内の内周面には、内部圧力を高くすることで内側へ向けて膨張するリング状のシール部材を取り付けるとともに、少なくともエントランス室の底部側のシール部材を覆うように保護装置を設置する工程と、
シールド掘削機がエントランス装置が取り付けられた立坑の所定位置の壁面を掘削して、エントランス室内に進入する工程と、
シールド掘削機の進入に伴い掘削された立坑の壁部の崩壊片を受け止めた保護装置が崩壊片を載せた状態で、シール部材の存在領域から外れる位置まで移動する工程と、
前記シール部材を、エントランス室内に進入したシールド掘削機の外周面全体に圧接するように膨脹させて、シールド掘削機と地山との間のシール性を確保する工程と、を含むことを特徴とするシールド掘削機の到達方法。
【請求項2】
シールド掘削機を立坑に到達させるために立坑内に設置されるエントランス装置において、
前記シールド掘削機の外径よりも径大で、前記立坑の内壁面に取付けられる筒状のエントランス室と、前記エントランス室の内壁面に設けられ、内部圧力を高くすることで内側へ向けて膨張し、シールド掘削機に圧接して地山とシールド掘削機との間のシール性を確保するシール状態及び縮小した待機状態に切換え可能なリング状のシール部材と、
待機状態にある前記シール部材の内側であってエントランス室の底部側に位置し、エントランス室内の底部側のシール部材を覆う保護装置と、を設け、
この保護装置は、シールド掘削機の立坑到達時に立坑壁が切削された際、エントランス室の底部に落下する立坑壁部の崩壊片を受け止め、かつ前記エントランス室内へのシールド掘削機の進入に伴い、シール部材の全体が露出する位置まで、崩壊片を載せた保護装置が移動することを特徴とするエントランス装置。
【請求項3】
前記保護装置は、待機状態にある前記シール部材の内側のエントランス室の底部側に位置し、シールド掘削機の立坑到達時に前記崩壊片が保護装置上に落下して受け止められるように設置され、シールド掘削機により押圧されて移動することを特徴とする請求項2に記載のエントランス装置。
【請求項4】
シールド掘削機を立坑に到達させるために立坑内に設置されるエントランス装置において、
前記シールド掘削機の外径よりも径大で、前記立坑の内壁面に取付けられる筒状のエントランス室と、前記エントランス室の内壁面に設けられ、内部圧力が上昇するとエントランス室の内側へ向けて膨張してシールド掘削機に圧接し、地山とシールド掘削機との間のシール性を確保するシール状態及び縮小した待機状態に切換え可能なリング状のシール部材を備え、
前記シール部材内の圧力を調整する圧力制御手段を設け、エントランス室内へのシールド掘削機の進入位置が予定位置からずれた場合には、シール部材の内部圧力を調整して前記シール部材の非均等な膨張を許容することで、シールド掘削機と地山との間のシール性を確保することを特徴とする請求項2または3に記載のエントランス装置。
【請求項5】
シール部材を複数設け、これらのシール部材及びシール部材間の圧力を調整することを特徴とする請求項4に記載のエントランス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−63672(P2006−63672A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248459(P2004−248459)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】