シール構造、シール方法、それを用いた鋳造システム、及び、鋳造方法
【課題】溶湯による高温に耐え、繰り返し使用することができ、しかも高いシール性能で嵌合部をシールすること。
【解決手段】ロボットのアームに連結されて前記アームと一体的に変位するラドル14を有し、前記ラドル14の底部には、外形にテーパ面32を有する突出口18が設けられ、ダイカストマシンの射出スリーブ26には、前記突出口18が嵌合する孔部44a、44bを有し鋼材によって弾性変形可能な2枚の板状体46a、46bが設けられ、前記2枚の板状体46a、46bは、上下方向に所定間隔離間して積層配置され、板状体46a、46b間に形成された室56を真空引きする真空ポンプ60が設けられる。
【解決手段】ロボットのアームに連結されて前記アームと一体的に変位するラドル14を有し、前記ラドル14の底部には、外形にテーパ面32を有する突出口18が設けられ、ダイカストマシンの射出スリーブ26には、前記突出口18が嵌合する孔部44a、44bを有し鋼材によって弾性変形可能な2枚の板状体46a、46bが設けられ、前記2枚の板状体46a、46bは、上下方向に所定間隔離間して積層配置され、板状体46a、46b間に形成された室56を真空引きする真空ポンプ60が設けられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャビティ内を真空引きした後に溶湯を圧入する真空ダイカスト法において、湯汲み装置と、ダイカストマシンの嵌合部とのシール構造、シール方法、それを用いた鋳造システム、及び、鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、貯留容器内の軽金属溶湯を運搬装置に設けられた可動式のラドル(運搬容器)内に取り込んだ後、ラドルの着脱アダプタ部(溶湯出入口)と成形型の相手アダプタ部(溶湯出入口)とを嵌合して、ラドルに取り込まれた溶湯を成形型のキャビティ内に注入する技術が開示されている。
【0003】
この場合、特許文献1では、ラドル、着脱アダプタ部及び相手アダプタ部等を、それぞれ、軽金属溶湯に与える影響が少ないステンレス鋼等の合金鋼で形成するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−192330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、ラドルの着脱アダプタ部と成形型の相手アダプタ部との両者が合金鋼の金属で形成されているため、着脱アダプタ部と相手アダプタ部との嵌合部位がメタル同士の当接となる。このため、着脱アダプタ部と相手アダプタ部との嵌合部位では、成形型のキャビティ内を真空引きしたときにエアのリークが発生する。このエアのリークは、成形型が溶湯によって加熱されて高温になるにつれてそのリーク量が大きくなる。この結果、特許文献1では、嵌合部位におけるエアのリークによって鋳造成形品に対して悪影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
このようなエアのリークの発生を回避するために、着脱アダプタ部と相手アダプタ部との嵌合部位に、例えば、ゴム系のOリングを装着することが考えられる。しかしながら、ゴム系のOリングの耐熱温度は、約200℃くらいであり、軽金属溶湯が注入される嵌合部位をシールすることが困難である。
【0007】
また、着脱アダプタ部と相手アダプタ部との嵌合部位を、例えば、メタルガスケットやメタルOリング等のメタルシールを用いてシールすることが考えられる。しかしながら、この種のメタルシールは、一旦、潰してしまうと元の形状に復帰しないため、繰り返し使用することができないという問題がある。加えて、この種のメタルシールでは、シールするときに大きな加圧力(潰し力)が必要になり、加圧力付与手段が別途必要となって成形装置が大型化すると共に、製造コストが高騰するという難点がある。
【0008】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、溶湯による高温に耐え、繰り返し使用することができ、しかも高いシール性能で嵌合部をシールすることが可能なシール構造、シール方法、それを用いた鋳造システム、及び、鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明は、流動体を気密状態で、一方の容器から他方の容器へ搬送する際に一方の容器と他方の容器とが嵌合される嵌合部をシールするシール構造であって、前記一方の容器には、外形がテーパ状からなる突出口を設け、前記他方の容器には、前記テーパ状の突出口が嵌合する孔部を有し、鋼材によって弾性変形可能な板状体からなるシール部材が設けられることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、一方の容器の突出口を、他方の容器の弾性変形可能な板状体の孔部内に嵌挿してシールすることにより、前記板状体が弾性変形してテーパ状の突出口を好適にシールすることができる。また、前記板状体を鋼材で形成することにより、高温な流動体に対応する耐熱性を有し、繰り返し使用することができる。
【0011】
また、本発明は、所定間隔離間して複数配置された板状体間に形成された室を減圧する減圧手段が設けられるとよい。前記減圧手段によって板状体間の室内を減圧することで、外部から前記室内に進入するエアを吸引すると共に、他の容器側へのリークを抑制することができる。
【0012】
さらに、本発明は、減圧手段が、他方の容器内の圧力よりも板状体間の室内の圧力が低くなるように設定され、複数の板状体の最上部に位置する板状体の反力が、最上部に位置する板状体を除いた他の複数の板状体の反力よりも高くなるように設定されることで、高いシール性能を得ることができる。この場合、例えば、最上部に位置する板状体を、他の複数の板状体と比較して撓み部の長さを短く設定し、又は、他の複数の板状体と比較して板厚が大きくなるように設定されるとよい。
【0013】
なお、流動体は溶湯からなり、一方の容器は溶湯が汲み入れられる可動式のラドルからなり、他方の容器はダイカストマシンの射出スリーブとすることで、ラドルと射出スリーブとの嵌合部が好適にシールされた状態で、ラドル内の高温な溶湯を射出スリーブに対して繰り返し供給することができる。また、他の減圧手段によってラドル内の溶湯や射出スリーブ内に供給された溶湯を減圧することで、例えば、湯廻り不良やガスによる鋳巣の発生を回避することができる。
【0014】
さらにまた、本発明は、2枚の板状体間に形成される室内の圧力が、他方の容器内の圧力よりも低く設定されることにより、より一層シール性能を向上させることができる。
【0015】
さらにまた、本発明は、溶湯が貯留された貯留炉と、多軸に変位可能なアームを有する搬送装置と、前記アームに連結されて前記アームと一体的に変位し、前記貯留炉から汲み入れられた溶湯を搬送するラドルと、前記ラドル内に汲み入れられた溶湯が供給される射出スリーブを有するダイカストマシンとを備え、前記ラドルは、前記搬送装置のアームの変位によって、前記貯留炉と前記射出スリーブとの間を往復移動可能に設けられ、前記ラドルの底部には、外形形状が下端に向かって徐々に縮径するテーパ面を有する突出口が設けられ、前記射出スリーブには、前記突出口が嵌合する孔部を有し鋼材によって弾性変形可能な板状体からなるシール部材が設けられることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、ラドルの突出口を、射出スリーブに設けられた弾性変形可能な板状体の孔部内に嵌挿してシールすることにより、前記板状体が弾性変形して突出口のテーパ面を好適にシールすることができる。また、板状体を鋼材で形成することにより、高温な溶湯に対応することができ、鋳造システムで繰り返し使用することが可能なシール部材を得ることができる。
【0017】
また、本発明によれば、溶湯が貯留された貯留炉からラドル内に溶湯を汲み入れた後、ラドルを射出スリーブまで移動させ、ラドルの底部に設けられたテーパ状の突出口を、射出スリーブに設けられた弾性変形可能な板状体の孔部に対し嵌挿してシールする。そして、前記シールが保持された状態で真空引きし、ラドル内の溶湯を射出スリーブ内に供給した後、ラドルを射出スリーブから離間させる。このような鋳造方法を採用することで、高品質な鋳造成形品を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、溶湯による高温に耐え、繰り返し使用することができ、しかも高いシール性能で嵌合部をシールすることが可能なシール構造、シール方法、それを用いた鋳造システム、及び、鋳造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るシール構造が適用された鋳造システムを上から見た構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係るシール構造が適用された嵌合部の縦断面図である。
【図3】(a)は、前記嵌合部の拡大縦断面図、(b)は、上部側の板状体の平面図、(c)は、下部側の板状体の平面図、(d)は、(c)のIII−III線に沿った部分拡大縦断面図である。
【図4】(a)〜(e)は、前記鍛造システムのシステム工程図である。
【図5】前記鍛造システムの動作を示すフローチャートである。
【図6】2枚の板状体間の室内を真空引きしてスリーブ内リークを抑制する状態を示す説明図である。
【図7】(a)、(b)は、大気圧Pairと、板状体間の室内の圧力Ppreと、スリーブ内のキャビティ圧Pcaviとの関係を示す説明図である。
【図8】2枚の板状体に付与される力関係の説明に供される図である。
【図9】シール部のシール力の説明に供される図である。
【図10】他の実施形態に係るシール構造を示す縦断面図である。
【図11】さらに他の実施形態に係るシール構造を示す縦断面図である。
【図12】(a)は、テスト治具の構成を示す構成図、(b)は、前記テスト治具の圧力センサによって検出された一つの検出データ例を示した特性図である。
【図13】前記テスト治具によって行った実験結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係るシール構造が適用された鋳造システムを上から見た構成図、図2は、本発明の実施形態に係るシール構造が適用された嵌合部の縦断面図、図3(a)は、前記嵌合部の拡大縦断面図、図3(b)は、上部側の板状体の平面図、図3(c)は、下部側の板状体の平面図、図3(d)は、図3(c)のIII−III線に沿った部分拡大縦断面図である。
【0021】
図1に示されるように、鋳造システム10は、相互に直交するXYZの3軸を含む多軸に変位可能なアーム12aを有するロボットからなる搬送装置12と、前記ロボットのアーム12aの先端部に連結されて前記アーム12aと一体的に変位し汲み入れられた溶湯を搬送するラドル(一方の容器)14とを含む。なお、本実施形態では、多軸ロボットによって構成された搬送装置12を例示しているが、例えば、ローダー等を用いてもよい。
【0022】
さらに、鋳造システム10は、溶湯が貯留された貯留炉16と、図示しないエアブロー装置及び回転ブラシを含みラドル14の突出口18(後記する図2、図3参照)を清掃する清掃部20と、図示しない複数の金型を開閉する型締め部や溶湯を前記金型内に圧入する射出部とを有するダイカストマシン22とを備える。なお、溶湯は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金が溶融した流動体からなる。
【0023】
前記射出部には、図2及び図3に示されるように、給湯口24が設けられた円筒状の射出スリーブ(他方の容器)26や、前記射出スリーブ26内を軸方向に沿って摺動することで射出スリーブ26内に供給された溶湯を押圧するプランジャ28等が設けられる。このダイカストマシン22は、貯留炉16と射出部とが分離されたコールドチャンバ式で構成され、射出スリーブ26には、射出スリーブ26内を減圧する真空ポンプ(減圧手段)30が設けられる。
【0024】
搬送装置12は、貯留炉16と清掃部20とダイカストマシン22(射出スリーブ26)とからなる三者の間に配置され、ロボットのアーム12aの変位によってラドル14が、貯留炉16と清掃部20との間、清掃部20とダイカストマシン22(射出スリーブ26)との間を往復移動可能に設けられている。
【0025】
ラドル14の底部には、外形形状が下端に向かって徐々に縮径するテーパ面32を有する突出口18が設けられ、この突出口18には、ラドル14内の室14aと連通するポート36が設けられる。なお、突出口18は、ラドル本体と一体的に構成し、又はラドル本体と別体で構成された突出口を、例えば、ボルト等で一体的に締結してもよい。
【0026】
ラドル14には、ラドル14内の室14aとポート36とを連通させる連通路38を開閉する栓部材40が設けられる。例えば、図示しないアクチュエータを介して栓部材40を所定長だけ上昇させることにより、連通路38が開口してラドル14内の室14aとポート36とが連通する。一方、図示しないアクチュエータを介して栓部材40を所定長だけ下降させることにより、連通路38が閉塞してラドル14内の室14aとポート36との連通が遮断される。
【0027】
さらに、ラドル14の室14a内に汲み入れられた溶湯を真空引きする真空ポンプ(減圧手段)42が、例えば、ロボットのアーム12aに付設される。この真空ポンプ42によってラドル14の室14a内の溶湯を減圧することにより、真空下での給湯が行われる。なお、図1中では、真空ポンプ42を省略している。
【0028】
貯留炉16からラドル14の室14a内に汲み入れられた溶湯をダイカストマシン22まで搬送し、ラドル14の室14a内の溶湯を溶湯口24から射出スリーブ26内に導入する際、ラドル14の底部に設けられた突出口18と射出スリーブ26の溶湯口24とが接続される。この接続部位には、本発明の実施形態に係るシール構造が適用される。
【0029】
このシール構造は、射出スリーブ26に形成された給湯口24の近傍部位に設けられる。前記シール構造は、中心部に円形状の異径の孔部44a、44bが貫通してそれぞれ形成され、上下方向に所定間隔離間して積層配置された2枚の板状体(シール部材)46a、46bと、前記2枚の板状体46a、46bを支持する支持部材48とを有する。板状体46a、46bの孔部44a、44bには、外形形状がテーパ状に形成されたラドル14の突出口18が嵌挿される。
【0030】
上部側の板状体46aは、大径の孔部44aが形成された円板状の鋼材によって弾性変形可能に形成される。下部側の板状体46bは、小径の孔部44bが形成された円板状の鋼材によって弾性変形可能に形成される。2枚の板状体46a、46bの孔部44a、44bの内周縁部45は、図3(d)に示されるように、面取りされた断面R形状に形成され、断面R形状とすることにより、嵌合されるラドル14の突出口18のテーパ面32との間でクリアランスの発生を抑制してシール部が形成される。この2枚の板状体46a、46bは、支持部材48によって弾性変形可能に支持される。
【0031】
支持部材48は、分割された3つの環状ブロック体48a〜48cによって構成され、複数のボルト50によって一体的に締結される。上下方向に隣接する各環状ブロック体48a(48b、48c)の間で2枚の板状体46a、46bが挟持される。最下部の環状ブロック体48aの上面部には、下部側の板状体46bを支持する第1環状段部52aが形成される。下部側の板状体46bの内径部には、最下部の環状ブロック体48aの上面との間でクリアランスを有し弾性変形可能な第1撓み部54aが設けられる。
【0032】
中間の環状ブロック体48bの上面部には、上部側の板状体46aを支持する第2環状段部52bが形成される。上部側の板状体46aの内径部には、中間の環状ブロック体48bの上面との間でクリアランスを有し弾性変形可能な第2撓み部54bが設けられる。
【0033】
この場合、図3(a)中において、第1撓み部54aにおける径方向の寸法D1と、第2撓み部54bにおける径方向の寸法D2とは、同一に設定されているが(D1=D2)、後記するように、上部側の第2撓み部54bにおける径方向の寸法D2が、下部側の第1撓み部54aにおける径方向の寸法D1よりも短くなるように設定されるとよい(D1>D2)。
【0034】
テーパ状に形成されたラドル14の突出口18が2枚の板状体46a、46bの孔部44a、44b内に嵌合されたとき、上下方向に積層された2枚の板状体46a、46bの間に密封された室56が設けられ、中間の環状ブロック体48bに形成された真空ポート58を介して、この室56内のエアを真空引きする真空ポンプ60(減圧手段)が設けられる。
【0035】
この真空ポンプ60によって室56内のエアを真空引きすることにより、外部から室56内へ進入したエアが、射出スリーブ26内へリークされることを抑制して、シール性能を向上させることができる(図6参照)。この点については、後記で詳細に説明する。
【0036】
なお、本実施形態では、2枚の板状体46a、46bの中心に形成された異径の孔部44a、44bによってラドル14の突出口18のテーパ面32の傾斜角度を約45度に設定しているが、これに限定されるものではない。
【0037】
本実施形態に係るシール構造が適用された鋳造システム10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその動作並びに作用効果について説明する。
【0038】
先ず、図4(a)〜(e)のシステム工程図及び図5のフローチャートに基づいて、鋳造システム10の動作を概略説明する。併せて、適宜、図1〜図3を参照する。また、図6は、2枚の板状体間の室を真空引きする状態を示す説明図である。
【0039】
図4(a)に示されるように、ラドル14の栓部材40を上昇させた状態で貯留炉16内にラドル14を浸漬し、ポート36からラドル14の室14a内に溶湯を汲み入れる(ステップS1)。ラドル14の室14a内に所定量の溶湯が汲み入れられた後、図示しないアクチュエータを駆動させて栓部材40を下降させポート36を閉塞し、ロボットのアーム12aを変位させてラドル14を貯留炉16から引き揚げる。
【0040】
続いて、搬送装置12の支柱を回動中心としてアーム12aを周方向に向かって所定角度だけ回動させ、ラドル14を清掃部20まで移動させる(ステップS2、図1の矢印A参照)。この清掃部20では、ラドル14の突出口18のテーパ面32に付着した溶湯を図示しないエアブロー装置によってエアブローすると共に、図示しない回転ブラシによって除去する(ステップS3、図4(b)参照)。
【0041】
清掃部20においてラドル14のシール部を清掃した後、搬送装置12の支柱を回動中心としてロボットのアーム12aを周方向に向かって所定角度だけ回動させ、ラドル14をダイカストマシン22の射出スリーブ26の給湯口24の上方位置まで移動させる(ステップS4、図1の矢印B参照)。さらに、ロボットのアーム12aを下降させてテーパ面32を有するラドル14の突出口18を、支持部材48によって上下方向に沿って所定距離だけ離間して積層された2枚の板状体46a、46bの孔部44a、44b内に嵌挿する(ステップS5、図4(c)参照)。その際、2枚の板状体46a、46bの第1撓み部54a及び第2撓み部54bは、ラドル15のテーパ面32からの押圧力によって弾性変形した状態でシールする。その際、2枚の板状体46a、46bの第1撓み部54a及び第2撓み部54bが弾性変形することにより、ラドル15の突出口18のテーパ面32を押圧する反力が発生する。なお、この反力については、後記で詳細に説明する。
【0042】
ラドル14のテーパ面32が2枚の板状体46a、46bによってシールされた状態において、各真空ポンプ30、42、60をそれぞれ駆動させ、射出スリーブ26内、溶湯が汲み入れられたラドル14の室14a内、及び、2枚の積層された板状体46a、46b間の室56内が、それぞれ同時に又は略同時に真空引きされる(ステップS6)。この場合、射出スリーブ26内の圧力とラドル14の室14a内の圧力の関係は、射出スリーブ26内の圧力よりもラドル14の室14a内の圧力が高くなる、又は、射出スリーブ26内の圧力とラドル14の室14a内の圧力が同圧となるように設定される。また、射出スリーブ26内の圧力よりも板状体46a、46b間の室56内の圧力が低くなるように設定される。
【0043】
この場合、図6に示されるように、本実施形態では、上下方向に沿って所定間隔だけ離間して積層された2枚の板状体46a、46bの間の室56が、真空ポンプ60によって真空引きされる。この板状体46a、46b間の室56が真空引きされることにより、大気中から板状体46a、46b間の室56内に進入するエア(図6中の進入エア参照)を吸引して、室56内から射出スリーブ56内へリークされるエア(図6中のスリーブ内リーク参照)のエア量を抑制することができる。
【0044】
各真空ポンプ30、42、60によって射出スリーブ26内、溶湯が汲み入れられたラドル14の室14a内、及び、2枚の積層された板状体46a、46b間の室56内が減圧されて、所望の圧力関係に到達したときに図示しないアクチュエータを駆動させてラドル14の栓部材40を上昇させ(ステップS7)、ラドル14の連通路38、ポート36、及び、給湯口24を介して、射出スリーブ26内に溶湯を供給する(図4(d)参照)。
【0045】
ラドル14の室14a内の溶湯が射出スリーブ26内に供給された後、ロボットのアーム12aの変位によってラドル14を射出スリーブ26から上昇させ、ラドル14の突出口18を2枚の板状体46a、46bの孔部44a、44bから脱抜して離間させる。さらに、ロボットのアーム12aの回動動作によってラドル14をダイカストマシン22の射出スリーブ26から後退させて、ラドル14を清掃部20まで移動させる(ステップS8、図1の矢印C参照)。
【0046】
清掃部20では、ラドル14の突出口18のポート36、連通路38や栓部材40の先端部に付着した溶湯をエアブローすると共に、回転ブラシによって除去する(ステップS9、図4(e)参照)。
【0047】
清掃部20による清掃工程が終了した後、ロボットのアーム12aの回動動作によってラドル14を貯留炉16の上方位置まで移動し、次のショットまで待機する(ステップS10、図1の矢印D参照))。
【0048】
本実施形態では、ラドル14(一方の容器)の突出口18を、射出スリーブ26(他方の容器)に支持部材48を介して支持された弾性変形可能な2枚の板状体46a、46bの孔部44a、44b内に嵌挿してシールすることにより、前記板状体46a、46bが弾性変形して突出口18のテーパ面32を密着することで、好適にシールすることができる。また、前記板状体46a、46bを鋼材で形成することにより、高温な溶湯に対応する耐熱性を有し、繰り返し使用することができる。
【0049】
また、本実施形態では、所定間隔離間して配置された2枚の板状体46a、46b間に形成された室56を、真空ポンプ60によって真空引きすることで、外部から室56内に進入するエアを吸引すると共に、射出スリーブ26側へのリーク(図6中のスリーブ内リーク)を抑制することができる。
【0050】
さらに、本実施形態では、各真空ポンプ30、60の真空引きにより、射出スリーブ26内の圧力よりも板状体46a、46b間の室56内の圧力が低くなるように設定され、上部側の板状体46の反力が、下部側の板状体46bの反力よりも高くなるように設定されることで、高いシール性能を得ることができる。この点については、後記する。この場合、例えば、上部側の板状体46aの第2撓み部54bの長さD2を、下部側の板状体46bの第1撓み部54aの長さD1よりも短く設定するとよい(D1>D2)。または、上部側の板状体46aの板厚が下部側の板状体46bの板厚と比較して大きくなるように設定されるとよい。
【0051】
本実施形態では、このようなシール構造を鋳造システム10に適用することで、ラドル14と射出スリーブ26との嵌合部が好適にシールされた状態で、ラドル14内の高温な溶湯を射出スリーブ26内に繰り返し供給することができる。また、真空ポンプ42、30によってラドル14内の溶湯や射出スリーブ26内に供給された溶湯を真空引きすることで、例えば、湯廻り不良やガスによる鋳巣の発生を回避することができる。
【0052】
さらにまた、本実施形態では、2枚の板状体46a、46b間に形成される室56内の圧力が、射出スリーブ26内の圧力よりも低く設定されることにより、シール力を高めてより一層シール性能を向上させることができる。この点については、後記で詳細に説明する。
【0053】
また、本実施形態では、溶湯が貯留された貯留炉14からラドル14内に溶湯を汲み入れた後、ラドル14を射出スリーブ26まで移動させ、ラドル14の底部に設けられたテーパ状の突出口18を、射出スリーブ26に設けられた弾性変形可能な板状体46a、46bの孔部44a、44bに対し嵌挿してシールする。そして、前記シールが保持された状態で真空引きし、ラドル14内の溶湯を射出スリーブ26内に供給した後、ラドル14を射出スリーブ26から離間させる。このような鋳造方法を採用することで、高品質な鋳造成形品を得ることができる。
【0054】
次に、2枚の板状体46a、46bに発生する力及び板状体46a、46bの寸法設定について説明する。
結論として、シール部におけるシール性能を向上させるためには、ラドル14の突出口18のテーパ面32と2枚の板状体46a、46b間の室56内で発生する圧力Ppreよりも、射出スリーブ26内のキャビティ圧力Pcaviの圧力が大きいことが好ましい(Ppre<Pcavi)。なお、図7、図8中において、Pairは、大気中の圧力(大気圧)を示している。
【0055】
図7(a)に示されるように、2枚の板状体46a、46b間の室56内で発生する圧力Ppreよりも、射出スリーブ26内のキャビティ圧力Pcaviの圧力が大きい場合(Ppre<Pcavi)、上下空間部の圧力差(Pcavi−Ppre)によって発生する力P2(図9参照)は、上部側の板状体46aではラドル14のテーパ面32から離間する方向に発生し(PA2参照)、下部側の板状体46bでは、ラドル14のテーパ面32側に向かって押圧する方向に発生する。すなわち、下部側の板状体46bに発生する力PBは、PB1、PB2ともに下部側の板状体46bをラドル14のテーパ面32に押圧する方向に発生し、これにより所望の押圧力(シール力)が確保される。
【0056】
一方、上部側の板状体46aに発生するPAのうち、上下空間部の圧力差によって生じるPA2は、板状体46aを離間させる方向に大きくなるため、所望の押圧力PAを得るためには、PA1が大きくなるように設定する必要がある。
【0057】
これに対して、図7(b)に示されるように、射出スリーブ26内のキャビティ圧力Pcaviよりも、2枚の板状体46a、46b間の室56内で発生する圧力Ppreが大きい場合(Ppre>Pcavi)、上下空間部の圧力差(Ppre−Pcavi)により発生するP2は、上部側の板状体46a及び下部側の板状体46bともに板状体46a、46bをラドル14のテーパ面32から離間させる方向に発生する。以下の各場合に分けて説明する。
Ppre=(Pair−Pcavi)/2の場合
この場合、上部側の板状体46aと下部側の板状体46bにそれぞれ発生するP2は同一となり、P1(板状体の撓み反力)の設定は、前記の場合と同様である。
Ppre>(Pair−Pcavi)/2の場合
この場合、P2(板状体を離間させる方向に作用する力)について、PB2>PA2となり、P1(板状体の撓み反力)は、PB1>PA1となるように設定することが好ましい。
Ppre<(Pair−Pcavi)/2の場合
この場合、P2(板状体を離間させる方向に作用する力)について、PB2<PA2となり、P1(板状体の撓み反力)は、PB1<PA2となるように設定することが好ましい。
【0058】
次に、板状体46a、46bの押圧力の設定方法について、以下説明する。
ラドル14の突出口18のテーパ面32に対する、板状体46a、46bの孔部44a、44bの内周縁部45の密着力(シール力)は、板状体46a、46bの板厚、第1撓み部54a及び第2撓み部54bの長さ、板状体46a、46bの材質によって設定される。
また、板状体46a、46bの弾性変形量は、板状体46a、46bの板厚、第1撓み部54a及び第2撓み部54bの長さ、変形量、及び板状体46a、46bの材質によって決定する。
この結果、板状体46a、46bの変形を、塑性変形することを回避して弾性変形内とし繰り返し使用することが可能となる。なお、これらは、例えば、有限要素法のCAEによるシミュレーション解析やテスト治具等によって確認したものである。
【0059】
次に、図9に基づいて、シール部におけるシール力について説明する。
ラドル14の突出口18のテーパ面32に対する、板状体46a、46bの孔部44a、44bの内周縁部45の密着力P(シール力P)は、以下のパラメータにより、P1及びP2を調整することで設定されるとよい。
但し、P1;板状体の撓み反力
P2;上下空間部の圧力差によって発生する力
P;板状体の内周縁部をラドルのテーパ面に密着させる力(シール力)
P=P1−P2
なお、P1∝1/a、v、E、I
(a;撓み部の長さ、v;撓み量、E;ヤング率、I;断面2次モーメント)
P2∝A、ΔP(Pcavi−Ppre、又は、Ppre−Pair)
A;板状体の板面積
【0060】
板状体46a、46bの撓み反力P1は、板状体46a、46b及び支持部材48の形状設計によってa(撓み部の長さ)、v(撓み量)を設定し、板状体46a、46bの材質によってE(ヤング率)を設定することが好ましい。
【0061】
また、上下空間部の圧力差によって発生する力P2は、各真空ポンプ30、42、60によって減圧される各空間部の圧力、板状体46a、46b、及び、支持部材48の形状設計によってA(板状体の板面積)を設定することが好ましい。
【0062】
なお、シール力Pが矢印Z方向に対してマイナスの値となるとき、板状体46a、46bの内周縁部45とラドル14のテーパ面32との間にクリアランスが発生して、シール構造が成立しない。この結果、板状体46a、46b及び支持部材48の形状設計によって、P=P1−P2>0となることが必要である。
【0063】
次に、他の実施形態に係るシール構造を図10及び図11に示す。
図2及び図3に示される前記実施形態では、2枚の板状体46a、46bが上下方向に所定間隔離間して積層配置されているが、これに限定されるものではなく、1枚以上の板状体を用いてシール構造とすることが可能である。なお、前記実施形態と同一の構成要素には、同一の参照符号を用い、その詳細な説明を省略する。
【0064】
例えば、図10に示されるシール構造では、弾性変形可能な1枚の板状体46で構成されている点に特徴がある。また、図11に示されるシール構造では、弾性変形可能な3枚の板状体46a〜46cを上下方向に所定間隔離間して積層配置している点に特徴がある。この場合、板状体46a〜46c間に形成される2つ室56a、56b内のエアが真空ポンプ60によってそれぞれ真空引きされる。
【実施例】
【0065】
次に、本発明の効果を確認した実施例について説明する。
図12(a)に示されるようなテスト治具を創作して、以下のような試験を行った。
テスト治具は、内部にチャンバが形成された容器と、前記チャンバを閉塞するカバー部材と、前記容器とカバー部材との間に配置されてチャンバをシールする各種シール手段と、チャンバ内の圧力を検出する圧力センサと、スイッチとして機能するバルブを介してチャンバ内を減圧する真空ポンプとによって構成される。
【0066】
試験方法としては、真空ポンプによってチャンバ内を5kPa以下まで真空引きして減圧した後、5〜30kPaまでの復圧時間(t1〜t2)を測定し、この復圧時間にチャンバ体積を乗算してリーク量Qを求めた。なお、図12(b)は、圧力センサによって検出された一つの検出データ例を示したものである。
【0067】
各種シール手段としては、条件1;金属同士のメタル当接によるシール、条件2;金属同士のメタル当接によるシール+真空引き、条件3;2枚の板状体+真空引き(本実施形態と同一)、条件4;ゴム製のOリングによるシール、の4つの条件を設定した。
【0068】
図13に示される試験結果により、本実施例(条件3)では、リーク量を抑制することができ、ゴム製のOリングと略同等のシール能力が得られた。
【符号の説明】
【0069】
10 鋳造システム
12 搬送装置
12a アーム
14 ラドル(一方の容器)
14a 室
16 貯留炉
18 突出口
22 ダイカストマシン
26 射出スリーブ(他方の容器)
30、42、60 真空ポンプ(減圧手段)
32 テーパ面
44a、44b 孔部
46、46a〜46c 板状体
54a、54b 撓み部
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャビティ内を真空引きした後に溶湯を圧入する真空ダイカスト法において、湯汲み装置と、ダイカストマシンの嵌合部とのシール構造、シール方法、それを用いた鋳造システム、及び、鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、貯留容器内の軽金属溶湯を運搬装置に設けられた可動式のラドル(運搬容器)内に取り込んだ後、ラドルの着脱アダプタ部(溶湯出入口)と成形型の相手アダプタ部(溶湯出入口)とを嵌合して、ラドルに取り込まれた溶湯を成形型のキャビティ内に注入する技術が開示されている。
【0003】
この場合、特許文献1では、ラドル、着脱アダプタ部及び相手アダプタ部等を、それぞれ、軽金属溶湯に与える影響が少ないステンレス鋼等の合金鋼で形成するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−192330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、ラドルの着脱アダプタ部と成形型の相手アダプタ部との両者が合金鋼の金属で形成されているため、着脱アダプタ部と相手アダプタ部との嵌合部位がメタル同士の当接となる。このため、着脱アダプタ部と相手アダプタ部との嵌合部位では、成形型のキャビティ内を真空引きしたときにエアのリークが発生する。このエアのリークは、成形型が溶湯によって加熱されて高温になるにつれてそのリーク量が大きくなる。この結果、特許文献1では、嵌合部位におけるエアのリークによって鋳造成形品に対して悪影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
このようなエアのリークの発生を回避するために、着脱アダプタ部と相手アダプタ部との嵌合部位に、例えば、ゴム系のOリングを装着することが考えられる。しかしながら、ゴム系のOリングの耐熱温度は、約200℃くらいであり、軽金属溶湯が注入される嵌合部位をシールすることが困難である。
【0007】
また、着脱アダプタ部と相手アダプタ部との嵌合部位を、例えば、メタルガスケットやメタルOリング等のメタルシールを用いてシールすることが考えられる。しかしながら、この種のメタルシールは、一旦、潰してしまうと元の形状に復帰しないため、繰り返し使用することができないという問題がある。加えて、この種のメタルシールでは、シールするときに大きな加圧力(潰し力)が必要になり、加圧力付与手段が別途必要となって成形装置が大型化すると共に、製造コストが高騰するという難点がある。
【0008】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、溶湯による高温に耐え、繰り返し使用することができ、しかも高いシール性能で嵌合部をシールすることが可能なシール構造、シール方法、それを用いた鋳造システム、及び、鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明は、流動体を気密状態で、一方の容器から他方の容器へ搬送する際に一方の容器と他方の容器とが嵌合される嵌合部をシールするシール構造であって、前記一方の容器には、外形がテーパ状からなる突出口を設け、前記他方の容器には、前記テーパ状の突出口が嵌合する孔部を有し、鋼材によって弾性変形可能な板状体からなるシール部材が設けられることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、一方の容器の突出口を、他方の容器の弾性変形可能な板状体の孔部内に嵌挿してシールすることにより、前記板状体が弾性変形してテーパ状の突出口を好適にシールすることができる。また、前記板状体を鋼材で形成することにより、高温な流動体に対応する耐熱性を有し、繰り返し使用することができる。
【0011】
また、本発明は、所定間隔離間して複数配置された板状体間に形成された室を減圧する減圧手段が設けられるとよい。前記減圧手段によって板状体間の室内を減圧することで、外部から前記室内に進入するエアを吸引すると共に、他の容器側へのリークを抑制することができる。
【0012】
さらに、本発明は、減圧手段が、他方の容器内の圧力よりも板状体間の室内の圧力が低くなるように設定され、複数の板状体の最上部に位置する板状体の反力が、最上部に位置する板状体を除いた他の複数の板状体の反力よりも高くなるように設定されることで、高いシール性能を得ることができる。この場合、例えば、最上部に位置する板状体を、他の複数の板状体と比較して撓み部の長さを短く設定し、又は、他の複数の板状体と比較して板厚が大きくなるように設定されるとよい。
【0013】
なお、流動体は溶湯からなり、一方の容器は溶湯が汲み入れられる可動式のラドルからなり、他方の容器はダイカストマシンの射出スリーブとすることで、ラドルと射出スリーブとの嵌合部が好適にシールされた状態で、ラドル内の高温な溶湯を射出スリーブに対して繰り返し供給することができる。また、他の減圧手段によってラドル内の溶湯や射出スリーブ内に供給された溶湯を減圧することで、例えば、湯廻り不良やガスによる鋳巣の発生を回避することができる。
【0014】
さらにまた、本発明は、2枚の板状体間に形成される室内の圧力が、他方の容器内の圧力よりも低く設定されることにより、より一層シール性能を向上させることができる。
【0015】
さらにまた、本発明は、溶湯が貯留された貯留炉と、多軸に変位可能なアームを有する搬送装置と、前記アームに連結されて前記アームと一体的に変位し、前記貯留炉から汲み入れられた溶湯を搬送するラドルと、前記ラドル内に汲み入れられた溶湯が供給される射出スリーブを有するダイカストマシンとを備え、前記ラドルは、前記搬送装置のアームの変位によって、前記貯留炉と前記射出スリーブとの間を往復移動可能に設けられ、前記ラドルの底部には、外形形状が下端に向かって徐々に縮径するテーパ面を有する突出口が設けられ、前記射出スリーブには、前記突出口が嵌合する孔部を有し鋼材によって弾性変形可能な板状体からなるシール部材が設けられることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、ラドルの突出口を、射出スリーブに設けられた弾性変形可能な板状体の孔部内に嵌挿してシールすることにより、前記板状体が弾性変形して突出口のテーパ面を好適にシールすることができる。また、板状体を鋼材で形成することにより、高温な溶湯に対応することができ、鋳造システムで繰り返し使用することが可能なシール部材を得ることができる。
【0017】
また、本発明によれば、溶湯が貯留された貯留炉からラドル内に溶湯を汲み入れた後、ラドルを射出スリーブまで移動させ、ラドルの底部に設けられたテーパ状の突出口を、射出スリーブに設けられた弾性変形可能な板状体の孔部に対し嵌挿してシールする。そして、前記シールが保持された状態で真空引きし、ラドル内の溶湯を射出スリーブ内に供給した後、ラドルを射出スリーブから離間させる。このような鋳造方法を採用することで、高品質な鋳造成形品を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、溶湯による高温に耐え、繰り返し使用することができ、しかも高いシール性能で嵌合部をシールすることが可能なシール構造、シール方法、それを用いた鋳造システム、及び、鋳造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るシール構造が適用された鋳造システムを上から見た構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係るシール構造が適用された嵌合部の縦断面図である。
【図3】(a)は、前記嵌合部の拡大縦断面図、(b)は、上部側の板状体の平面図、(c)は、下部側の板状体の平面図、(d)は、(c)のIII−III線に沿った部分拡大縦断面図である。
【図4】(a)〜(e)は、前記鍛造システムのシステム工程図である。
【図5】前記鍛造システムの動作を示すフローチャートである。
【図6】2枚の板状体間の室内を真空引きしてスリーブ内リークを抑制する状態を示す説明図である。
【図7】(a)、(b)は、大気圧Pairと、板状体間の室内の圧力Ppreと、スリーブ内のキャビティ圧Pcaviとの関係を示す説明図である。
【図8】2枚の板状体に付与される力関係の説明に供される図である。
【図9】シール部のシール力の説明に供される図である。
【図10】他の実施形態に係るシール構造を示す縦断面図である。
【図11】さらに他の実施形態に係るシール構造を示す縦断面図である。
【図12】(a)は、テスト治具の構成を示す構成図、(b)は、前記テスト治具の圧力センサによって検出された一つの検出データ例を示した特性図である。
【図13】前記テスト治具によって行った実験結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係るシール構造が適用された鋳造システムを上から見た構成図、図2は、本発明の実施形態に係るシール構造が適用された嵌合部の縦断面図、図3(a)は、前記嵌合部の拡大縦断面図、図3(b)は、上部側の板状体の平面図、図3(c)は、下部側の板状体の平面図、図3(d)は、図3(c)のIII−III線に沿った部分拡大縦断面図である。
【0021】
図1に示されるように、鋳造システム10は、相互に直交するXYZの3軸を含む多軸に変位可能なアーム12aを有するロボットからなる搬送装置12と、前記ロボットのアーム12aの先端部に連結されて前記アーム12aと一体的に変位し汲み入れられた溶湯を搬送するラドル(一方の容器)14とを含む。なお、本実施形態では、多軸ロボットによって構成された搬送装置12を例示しているが、例えば、ローダー等を用いてもよい。
【0022】
さらに、鋳造システム10は、溶湯が貯留された貯留炉16と、図示しないエアブロー装置及び回転ブラシを含みラドル14の突出口18(後記する図2、図3参照)を清掃する清掃部20と、図示しない複数の金型を開閉する型締め部や溶湯を前記金型内に圧入する射出部とを有するダイカストマシン22とを備える。なお、溶湯は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金が溶融した流動体からなる。
【0023】
前記射出部には、図2及び図3に示されるように、給湯口24が設けられた円筒状の射出スリーブ(他方の容器)26や、前記射出スリーブ26内を軸方向に沿って摺動することで射出スリーブ26内に供給された溶湯を押圧するプランジャ28等が設けられる。このダイカストマシン22は、貯留炉16と射出部とが分離されたコールドチャンバ式で構成され、射出スリーブ26には、射出スリーブ26内を減圧する真空ポンプ(減圧手段)30が設けられる。
【0024】
搬送装置12は、貯留炉16と清掃部20とダイカストマシン22(射出スリーブ26)とからなる三者の間に配置され、ロボットのアーム12aの変位によってラドル14が、貯留炉16と清掃部20との間、清掃部20とダイカストマシン22(射出スリーブ26)との間を往復移動可能に設けられている。
【0025】
ラドル14の底部には、外形形状が下端に向かって徐々に縮径するテーパ面32を有する突出口18が設けられ、この突出口18には、ラドル14内の室14aと連通するポート36が設けられる。なお、突出口18は、ラドル本体と一体的に構成し、又はラドル本体と別体で構成された突出口を、例えば、ボルト等で一体的に締結してもよい。
【0026】
ラドル14には、ラドル14内の室14aとポート36とを連通させる連通路38を開閉する栓部材40が設けられる。例えば、図示しないアクチュエータを介して栓部材40を所定長だけ上昇させることにより、連通路38が開口してラドル14内の室14aとポート36とが連通する。一方、図示しないアクチュエータを介して栓部材40を所定長だけ下降させることにより、連通路38が閉塞してラドル14内の室14aとポート36との連通が遮断される。
【0027】
さらに、ラドル14の室14a内に汲み入れられた溶湯を真空引きする真空ポンプ(減圧手段)42が、例えば、ロボットのアーム12aに付設される。この真空ポンプ42によってラドル14の室14a内の溶湯を減圧することにより、真空下での給湯が行われる。なお、図1中では、真空ポンプ42を省略している。
【0028】
貯留炉16からラドル14の室14a内に汲み入れられた溶湯をダイカストマシン22まで搬送し、ラドル14の室14a内の溶湯を溶湯口24から射出スリーブ26内に導入する際、ラドル14の底部に設けられた突出口18と射出スリーブ26の溶湯口24とが接続される。この接続部位には、本発明の実施形態に係るシール構造が適用される。
【0029】
このシール構造は、射出スリーブ26に形成された給湯口24の近傍部位に設けられる。前記シール構造は、中心部に円形状の異径の孔部44a、44bが貫通してそれぞれ形成され、上下方向に所定間隔離間して積層配置された2枚の板状体(シール部材)46a、46bと、前記2枚の板状体46a、46bを支持する支持部材48とを有する。板状体46a、46bの孔部44a、44bには、外形形状がテーパ状に形成されたラドル14の突出口18が嵌挿される。
【0030】
上部側の板状体46aは、大径の孔部44aが形成された円板状の鋼材によって弾性変形可能に形成される。下部側の板状体46bは、小径の孔部44bが形成された円板状の鋼材によって弾性変形可能に形成される。2枚の板状体46a、46bの孔部44a、44bの内周縁部45は、図3(d)に示されるように、面取りされた断面R形状に形成され、断面R形状とすることにより、嵌合されるラドル14の突出口18のテーパ面32との間でクリアランスの発生を抑制してシール部が形成される。この2枚の板状体46a、46bは、支持部材48によって弾性変形可能に支持される。
【0031】
支持部材48は、分割された3つの環状ブロック体48a〜48cによって構成され、複数のボルト50によって一体的に締結される。上下方向に隣接する各環状ブロック体48a(48b、48c)の間で2枚の板状体46a、46bが挟持される。最下部の環状ブロック体48aの上面部には、下部側の板状体46bを支持する第1環状段部52aが形成される。下部側の板状体46bの内径部には、最下部の環状ブロック体48aの上面との間でクリアランスを有し弾性変形可能な第1撓み部54aが設けられる。
【0032】
中間の環状ブロック体48bの上面部には、上部側の板状体46aを支持する第2環状段部52bが形成される。上部側の板状体46aの内径部には、中間の環状ブロック体48bの上面との間でクリアランスを有し弾性変形可能な第2撓み部54bが設けられる。
【0033】
この場合、図3(a)中において、第1撓み部54aにおける径方向の寸法D1と、第2撓み部54bにおける径方向の寸法D2とは、同一に設定されているが(D1=D2)、後記するように、上部側の第2撓み部54bにおける径方向の寸法D2が、下部側の第1撓み部54aにおける径方向の寸法D1よりも短くなるように設定されるとよい(D1>D2)。
【0034】
テーパ状に形成されたラドル14の突出口18が2枚の板状体46a、46bの孔部44a、44b内に嵌合されたとき、上下方向に積層された2枚の板状体46a、46bの間に密封された室56が設けられ、中間の環状ブロック体48bに形成された真空ポート58を介して、この室56内のエアを真空引きする真空ポンプ60(減圧手段)が設けられる。
【0035】
この真空ポンプ60によって室56内のエアを真空引きすることにより、外部から室56内へ進入したエアが、射出スリーブ26内へリークされることを抑制して、シール性能を向上させることができる(図6参照)。この点については、後記で詳細に説明する。
【0036】
なお、本実施形態では、2枚の板状体46a、46bの中心に形成された異径の孔部44a、44bによってラドル14の突出口18のテーパ面32の傾斜角度を約45度に設定しているが、これに限定されるものではない。
【0037】
本実施形態に係るシール構造が適用された鋳造システム10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその動作並びに作用効果について説明する。
【0038】
先ず、図4(a)〜(e)のシステム工程図及び図5のフローチャートに基づいて、鋳造システム10の動作を概略説明する。併せて、適宜、図1〜図3を参照する。また、図6は、2枚の板状体間の室を真空引きする状態を示す説明図である。
【0039】
図4(a)に示されるように、ラドル14の栓部材40を上昇させた状態で貯留炉16内にラドル14を浸漬し、ポート36からラドル14の室14a内に溶湯を汲み入れる(ステップS1)。ラドル14の室14a内に所定量の溶湯が汲み入れられた後、図示しないアクチュエータを駆動させて栓部材40を下降させポート36を閉塞し、ロボットのアーム12aを変位させてラドル14を貯留炉16から引き揚げる。
【0040】
続いて、搬送装置12の支柱を回動中心としてアーム12aを周方向に向かって所定角度だけ回動させ、ラドル14を清掃部20まで移動させる(ステップS2、図1の矢印A参照)。この清掃部20では、ラドル14の突出口18のテーパ面32に付着した溶湯を図示しないエアブロー装置によってエアブローすると共に、図示しない回転ブラシによって除去する(ステップS3、図4(b)参照)。
【0041】
清掃部20においてラドル14のシール部を清掃した後、搬送装置12の支柱を回動中心としてロボットのアーム12aを周方向に向かって所定角度だけ回動させ、ラドル14をダイカストマシン22の射出スリーブ26の給湯口24の上方位置まで移動させる(ステップS4、図1の矢印B参照)。さらに、ロボットのアーム12aを下降させてテーパ面32を有するラドル14の突出口18を、支持部材48によって上下方向に沿って所定距離だけ離間して積層された2枚の板状体46a、46bの孔部44a、44b内に嵌挿する(ステップS5、図4(c)参照)。その際、2枚の板状体46a、46bの第1撓み部54a及び第2撓み部54bは、ラドル15のテーパ面32からの押圧力によって弾性変形した状態でシールする。その際、2枚の板状体46a、46bの第1撓み部54a及び第2撓み部54bが弾性変形することにより、ラドル15の突出口18のテーパ面32を押圧する反力が発生する。なお、この反力については、後記で詳細に説明する。
【0042】
ラドル14のテーパ面32が2枚の板状体46a、46bによってシールされた状態において、各真空ポンプ30、42、60をそれぞれ駆動させ、射出スリーブ26内、溶湯が汲み入れられたラドル14の室14a内、及び、2枚の積層された板状体46a、46b間の室56内が、それぞれ同時に又は略同時に真空引きされる(ステップS6)。この場合、射出スリーブ26内の圧力とラドル14の室14a内の圧力の関係は、射出スリーブ26内の圧力よりもラドル14の室14a内の圧力が高くなる、又は、射出スリーブ26内の圧力とラドル14の室14a内の圧力が同圧となるように設定される。また、射出スリーブ26内の圧力よりも板状体46a、46b間の室56内の圧力が低くなるように設定される。
【0043】
この場合、図6に示されるように、本実施形態では、上下方向に沿って所定間隔だけ離間して積層された2枚の板状体46a、46bの間の室56が、真空ポンプ60によって真空引きされる。この板状体46a、46b間の室56が真空引きされることにより、大気中から板状体46a、46b間の室56内に進入するエア(図6中の進入エア参照)を吸引して、室56内から射出スリーブ56内へリークされるエア(図6中のスリーブ内リーク参照)のエア量を抑制することができる。
【0044】
各真空ポンプ30、42、60によって射出スリーブ26内、溶湯が汲み入れられたラドル14の室14a内、及び、2枚の積層された板状体46a、46b間の室56内が減圧されて、所望の圧力関係に到達したときに図示しないアクチュエータを駆動させてラドル14の栓部材40を上昇させ(ステップS7)、ラドル14の連通路38、ポート36、及び、給湯口24を介して、射出スリーブ26内に溶湯を供給する(図4(d)参照)。
【0045】
ラドル14の室14a内の溶湯が射出スリーブ26内に供給された後、ロボットのアーム12aの変位によってラドル14を射出スリーブ26から上昇させ、ラドル14の突出口18を2枚の板状体46a、46bの孔部44a、44bから脱抜して離間させる。さらに、ロボットのアーム12aの回動動作によってラドル14をダイカストマシン22の射出スリーブ26から後退させて、ラドル14を清掃部20まで移動させる(ステップS8、図1の矢印C参照)。
【0046】
清掃部20では、ラドル14の突出口18のポート36、連通路38や栓部材40の先端部に付着した溶湯をエアブローすると共に、回転ブラシによって除去する(ステップS9、図4(e)参照)。
【0047】
清掃部20による清掃工程が終了した後、ロボットのアーム12aの回動動作によってラドル14を貯留炉16の上方位置まで移動し、次のショットまで待機する(ステップS10、図1の矢印D参照))。
【0048】
本実施形態では、ラドル14(一方の容器)の突出口18を、射出スリーブ26(他方の容器)に支持部材48を介して支持された弾性変形可能な2枚の板状体46a、46bの孔部44a、44b内に嵌挿してシールすることにより、前記板状体46a、46bが弾性変形して突出口18のテーパ面32を密着することで、好適にシールすることができる。また、前記板状体46a、46bを鋼材で形成することにより、高温な溶湯に対応する耐熱性を有し、繰り返し使用することができる。
【0049】
また、本実施形態では、所定間隔離間して配置された2枚の板状体46a、46b間に形成された室56を、真空ポンプ60によって真空引きすることで、外部から室56内に進入するエアを吸引すると共に、射出スリーブ26側へのリーク(図6中のスリーブ内リーク)を抑制することができる。
【0050】
さらに、本実施形態では、各真空ポンプ30、60の真空引きにより、射出スリーブ26内の圧力よりも板状体46a、46b間の室56内の圧力が低くなるように設定され、上部側の板状体46の反力が、下部側の板状体46bの反力よりも高くなるように設定されることで、高いシール性能を得ることができる。この点については、後記する。この場合、例えば、上部側の板状体46aの第2撓み部54bの長さD2を、下部側の板状体46bの第1撓み部54aの長さD1よりも短く設定するとよい(D1>D2)。または、上部側の板状体46aの板厚が下部側の板状体46bの板厚と比較して大きくなるように設定されるとよい。
【0051】
本実施形態では、このようなシール構造を鋳造システム10に適用することで、ラドル14と射出スリーブ26との嵌合部が好適にシールされた状態で、ラドル14内の高温な溶湯を射出スリーブ26内に繰り返し供給することができる。また、真空ポンプ42、30によってラドル14内の溶湯や射出スリーブ26内に供給された溶湯を真空引きすることで、例えば、湯廻り不良やガスによる鋳巣の発生を回避することができる。
【0052】
さらにまた、本実施形態では、2枚の板状体46a、46b間に形成される室56内の圧力が、射出スリーブ26内の圧力よりも低く設定されることにより、シール力を高めてより一層シール性能を向上させることができる。この点については、後記で詳細に説明する。
【0053】
また、本実施形態では、溶湯が貯留された貯留炉14からラドル14内に溶湯を汲み入れた後、ラドル14を射出スリーブ26まで移動させ、ラドル14の底部に設けられたテーパ状の突出口18を、射出スリーブ26に設けられた弾性変形可能な板状体46a、46bの孔部44a、44bに対し嵌挿してシールする。そして、前記シールが保持された状態で真空引きし、ラドル14内の溶湯を射出スリーブ26内に供給した後、ラドル14を射出スリーブ26から離間させる。このような鋳造方法を採用することで、高品質な鋳造成形品を得ることができる。
【0054】
次に、2枚の板状体46a、46bに発生する力及び板状体46a、46bの寸法設定について説明する。
結論として、シール部におけるシール性能を向上させるためには、ラドル14の突出口18のテーパ面32と2枚の板状体46a、46b間の室56内で発生する圧力Ppreよりも、射出スリーブ26内のキャビティ圧力Pcaviの圧力が大きいことが好ましい(Ppre<Pcavi)。なお、図7、図8中において、Pairは、大気中の圧力(大気圧)を示している。
【0055】
図7(a)に示されるように、2枚の板状体46a、46b間の室56内で発生する圧力Ppreよりも、射出スリーブ26内のキャビティ圧力Pcaviの圧力が大きい場合(Ppre<Pcavi)、上下空間部の圧力差(Pcavi−Ppre)によって発生する力P2(図9参照)は、上部側の板状体46aではラドル14のテーパ面32から離間する方向に発生し(PA2参照)、下部側の板状体46bでは、ラドル14のテーパ面32側に向かって押圧する方向に発生する。すなわち、下部側の板状体46bに発生する力PBは、PB1、PB2ともに下部側の板状体46bをラドル14のテーパ面32に押圧する方向に発生し、これにより所望の押圧力(シール力)が確保される。
【0056】
一方、上部側の板状体46aに発生するPAのうち、上下空間部の圧力差によって生じるPA2は、板状体46aを離間させる方向に大きくなるため、所望の押圧力PAを得るためには、PA1が大きくなるように設定する必要がある。
【0057】
これに対して、図7(b)に示されるように、射出スリーブ26内のキャビティ圧力Pcaviよりも、2枚の板状体46a、46b間の室56内で発生する圧力Ppreが大きい場合(Ppre>Pcavi)、上下空間部の圧力差(Ppre−Pcavi)により発生するP2は、上部側の板状体46a及び下部側の板状体46bともに板状体46a、46bをラドル14のテーパ面32から離間させる方向に発生する。以下の各場合に分けて説明する。
Ppre=(Pair−Pcavi)/2の場合
この場合、上部側の板状体46aと下部側の板状体46bにそれぞれ発生するP2は同一となり、P1(板状体の撓み反力)の設定は、前記の場合と同様である。
Ppre>(Pair−Pcavi)/2の場合
この場合、P2(板状体を離間させる方向に作用する力)について、PB2>PA2となり、P1(板状体の撓み反力)は、PB1>PA1となるように設定することが好ましい。
Ppre<(Pair−Pcavi)/2の場合
この場合、P2(板状体を離間させる方向に作用する力)について、PB2<PA2となり、P1(板状体の撓み反力)は、PB1<PA2となるように設定することが好ましい。
【0058】
次に、板状体46a、46bの押圧力の設定方法について、以下説明する。
ラドル14の突出口18のテーパ面32に対する、板状体46a、46bの孔部44a、44bの内周縁部45の密着力(シール力)は、板状体46a、46bの板厚、第1撓み部54a及び第2撓み部54bの長さ、板状体46a、46bの材質によって設定される。
また、板状体46a、46bの弾性変形量は、板状体46a、46bの板厚、第1撓み部54a及び第2撓み部54bの長さ、変形量、及び板状体46a、46bの材質によって決定する。
この結果、板状体46a、46bの変形を、塑性変形することを回避して弾性変形内とし繰り返し使用することが可能となる。なお、これらは、例えば、有限要素法のCAEによるシミュレーション解析やテスト治具等によって確認したものである。
【0059】
次に、図9に基づいて、シール部におけるシール力について説明する。
ラドル14の突出口18のテーパ面32に対する、板状体46a、46bの孔部44a、44bの内周縁部45の密着力P(シール力P)は、以下のパラメータにより、P1及びP2を調整することで設定されるとよい。
但し、P1;板状体の撓み反力
P2;上下空間部の圧力差によって発生する力
P;板状体の内周縁部をラドルのテーパ面に密着させる力(シール力)
P=P1−P2
なお、P1∝1/a、v、E、I
(a;撓み部の長さ、v;撓み量、E;ヤング率、I;断面2次モーメント)
P2∝A、ΔP(Pcavi−Ppre、又は、Ppre−Pair)
A;板状体の板面積
【0060】
板状体46a、46bの撓み反力P1は、板状体46a、46b及び支持部材48の形状設計によってa(撓み部の長さ)、v(撓み量)を設定し、板状体46a、46bの材質によってE(ヤング率)を設定することが好ましい。
【0061】
また、上下空間部の圧力差によって発生する力P2は、各真空ポンプ30、42、60によって減圧される各空間部の圧力、板状体46a、46b、及び、支持部材48の形状設計によってA(板状体の板面積)を設定することが好ましい。
【0062】
なお、シール力Pが矢印Z方向に対してマイナスの値となるとき、板状体46a、46bの内周縁部45とラドル14のテーパ面32との間にクリアランスが発生して、シール構造が成立しない。この結果、板状体46a、46b及び支持部材48の形状設計によって、P=P1−P2>0となることが必要である。
【0063】
次に、他の実施形態に係るシール構造を図10及び図11に示す。
図2及び図3に示される前記実施形態では、2枚の板状体46a、46bが上下方向に所定間隔離間して積層配置されているが、これに限定されるものではなく、1枚以上の板状体を用いてシール構造とすることが可能である。なお、前記実施形態と同一の構成要素には、同一の参照符号を用い、その詳細な説明を省略する。
【0064】
例えば、図10に示されるシール構造では、弾性変形可能な1枚の板状体46で構成されている点に特徴がある。また、図11に示されるシール構造では、弾性変形可能な3枚の板状体46a〜46cを上下方向に所定間隔離間して積層配置している点に特徴がある。この場合、板状体46a〜46c間に形成される2つ室56a、56b内のエアが真空ポンプ60によってそれぞれ真空引きされる。
【実施例】
【0065】
次に、本発明の効果を確認した実施例について説明する。
図12(a)に示されるようなテスト治具を創作して、以下のような試験を行った。
テスト治具は、内部にチャンバが形成された容器と、前記チャンバを閉塞するカバー部材と、前記容器とカバー部材との間に配置されてチャンバをシールする各種シール手段と、チャンバ内の圧力を検出する圧力センサと、スイッチとして機能するバルブを介してチャンバ内を減圧する真空ポンプとによって構成される。
【0066】
試験方法としては、真空ポンプによってチャンバ内を5kPa以下まで真空引きして減圧した後、5〜30kPaまでの復圧時間(t1〜t2)を測定し、この復圧時間にチャンバ体積を乗算してリーク量Qを求めた。なお、図12(b)は、圧力センサによって検出された一つの検出データ例を示したものである。
【0067】
各種シール手段としては、条件1;金属同士のメタル当接によるシール、条件2;金属同士のメタル当接によるシール+真空引き、条件3;2枚の板状体+真空引き(本実施形態と同一)、条件4;ゴム製のOリングによるシール、の4つの条件を設定した。
【0068】
図13に示される試験結果により、本実施例(条件3)では、リーク量を抑制することができ、ゴム製のOリングと略同等のシール能力が得られた。
【符号の説明】
【0069】
10 鋳造システム
12 搬送装置
12a アーム
14 ラドル(一方の容器)
14a 室
16 貯留炉
18 突出口
22 ダイカストマシン
26 射出スリーブ(他方の容器)
30、42、60 真空ポンプ(減圧手段)
32 テーパ面
44a、44b 孔部
46、46a〜46c 板状体
54a、54b 撓み部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動体を気密状態で、一方の容器から他方の容器へ搬送する際に一方の容器と他方の容器とが嵌合される嵌合部をシールするシール構造であって、
前記一方の容器には、外形がテーパ状からなる突出口を設け、
前記他方の容器には、前記テーパ状の突出口が嵌合する孔部を有し、鋼材によって弾性変形可能な板状体からなるシール部材が設けられることを特徴とするシール構造。
【請求項2】
請求項1記載のシール構造において、
前記板状体は、所定間隔離間して複数配置されることを特徴とするシール構造。
【請求項3】
請求項2記載のシール構造において、
前記複数の板状体間に形成された室を減圧する減圧手段が設けられることを特徴とするシール構造。
【請求項4】
請求項3記載のシール構造において、
前記減圧手段は、前記他方の容器内の圧力よりも前記板状体間の室内の圧力が低くなるように設定され、前記複数の板状体の最上部に位置する板状体の反力が、前記最上部に位置する板状体を除いた他の複数の板状体の反力よりも高くなるように設定されることを特徴とするシール構造。
【請求項5】
請求項4記載のシール構造において、
前記最上部に位置する板状体は、前記他の複数の板状体と比較して、撓み部の長さが短く設定されることを特徴とするシール構造。
【請求項6】
請求項4記載のシール構造において、
前記最上部に位置する板状体は、前記他の複数の板状体と比較して、板厚が大きくなるように設定されることを特徴とするシール構造。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載のシール構造において、
前記流動体は、溶湯からなり、
前記一方の容器は、溶湯が汲み入れられる可動式のラドルからなり、
前記他方の容器は、ダイカストマシンの射出スリーブからなることを特徴とするシール構造。
【請求項8】
請求項7記載のシール構造において、
前記ラドル及び前記射出スリーブには、他の減圧手段がそれぞれ設けられていることを特徴とするシール構造。
【請求項9】
請求項3記載のシール構造を有し、
2枚の前記板状体間に形成される室内の圧力は、前記他方の容器内の圧力よりも低く設定されることを特徴とするシール方法。
【請求項10】
溶湯が貯留された貯留炉と、
多軸に変位可能なアームを有する搬送装置と、
前記アームに連結されて前記アームと一体的に変位し、前記貯留炉から汲み入れられた溶湯を搬送するラドルと、
前記ラドル内に汲み入れられた溶湯が供給される射出スリーブを有するダイカストマシンと、
を備え、
前記ラドルは、前記搬送装置のアームの変位によって、前記貯留炉と前記射出スリーブとの間を往復移動可能に設けられ、
前記ラドルの底部には、外形形状が下端に向かって徐々に縮径するテーパ面を有する突出口が設けられ、
前記射出スリーブには、前記突出口が嵌合する孔部を有し鋼材によって弾性変形可能な板状体からなるシール部材が設けられることを特徴とする鋳造システム。
【請求項11】
請求項10記載の鋳造システムにおいて、
前記板状体は、上下方向に所定間隔離間して積層配置された複数の板状体からなり、
隣接する板状体間に形成された室内を真空引きする減圧手段が設けられることを特徴とする鋳造システム。
【請求項12】
溶湯が貯留された貯留炉からラドル内に溶湯を汲み入れる工程と、
前記ラドルを射出スリーブまで移動させ、前記ラドルの底部に設けられたテーパ状の突出口を、前記射出スリーブに設けられた弾性変形可能な板状体の孔部に対し嵌挿してシールする工程と、
前記シールが保持された状態で真空引きし、前記ラドル内の溶湯を前記射出スリーブ内に供給する工程と、
前記ラドルを前記射出スリーブから離間させる工程と、
を有することを特徴とする鋳造方法。
【請求項1】
流動体を気密状態で、一方の容器から他方の容器へ搬送する際に一方の容器と他方の容器とが嵌合される嵌合部をシールするシール構造であって、
前記一方の容器には、外形がテーパ状からなる突出口を設け、
前記他方の容器には、前記テーパ状の突出口が嵌合する孔部を有し、鋼材によって弾性変形可能な板状体からなるシール部材が設けられることを特徴とするシール構造。
【請求項2】
請求項1記載のシール構造において、
前記板状体は、所定間隔離間して複数配置されることを特徴とするシール構造。
【請求項3】
請求項2記載のシール構造において、
前記複数の板状体間に形成された室を減圧する減圧手段が設けられることを特徴とするシール構造。
【請求項4】
請求項3記載のシール構造において、
前記減圧手段は、前記他方の容器内の圧力よりも前記板状体間の室内の圧力が低くなるように設定され、前記複数の板状体の最上部に位置する板状体の反力が、前記最上部に位置する板状体を除いた他の複数の板状体の反力よりも高くなるように設定されることを特徴とするシール構造。
【請求項5】
請求項4記載のシール構造において、
前記最上部に位置する板状体は、前記他の複数の板状体と比較して、撓み部の長さが短く設定されることを特徴とするシール構造。
【請求項6】
請求項4記載のシール構造において、
前記最上部に位置する板状体は、前記他の複数の板状体と比較して、板厚が大きくなるように設定されることを特徴とするシール構造。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載のシール構造において、
前記流動体は、溶湯からなり、
前記一方の容器は、溶湯が汲み入れられる可動式のラドルからなり、
前記他方の容器は、ダイカストマシンの射出スリーブからなることを特徴とするシール構造。
【請求項8】
請求項7記載のシール構造において、
前記ラドル及び前記射出スリーブには、他の減圧手段がそれぞれ設けられていることを特徴とするシール構造。
【請求項9】
請求項3記載のシール構造を有し、
2枚の前記板状体間に形成される室内の圧力は、前記他方の容器内の圧力よりも低く設定されることを特徴とするシール方法。
【請求項10】
溶湯が貯留された貯留炉と、
多軸に変位可能なアームを有する搬送装置と、
前記アームに連結されて前記アームと一体的に変位し、前記貯留炉から汲み入れられた溶湯を搬送するラドルと、
前記ラドル内に汲み入れられた溶湯が供給される射出スリーブを有するダイカストマシンと、
を備え、
前記ラドルは、前記搬送装置のアームの変位によって、前記貯留炉と前記射出スリーブとの間を往復移動可能に設けられ、
前記ラドルの底部には、外形形状が下端に向かって徐々に縮径するテーパ面を有する突出口が設けられ、
前記射出スリーブには、前記突出口が嵌合する孔部を有し鋼材によって弾性変形可能な板状体からなるシール部材が設けられることを特徴とする鋳造システム。
【請求項11】
請求項10記載の鋳造システムにおいて、
前記板状体は、上下方向に所定間隔離間して積層配置された複数の板状体からなり、
隣接する板状体間に形成された室内を真空引きする減圧手段が設けられることを特徴とする鋳造システム。
【請求項12】
溶湯が貯留された貯留炉からラドル内に溶湯を汲み入れる工程と、
前記ラドルを射出スリーブまで移動させ、前記ラドルの底部に設けられたテーパ状の突出口を、前記射出スリーブに設けられた弾性変形可能な板状体の孔部に対し嵌挿してシールする工程と、
前記シールが保持された状態で真空引きし、前記ラドル内の溶湯を前記射出スリーブ内に供給する工程と、
前記ラドルを前記射出スリーブから離間させる工程と、
を有することを特徴とする鋳造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−86169(P2013−86169A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231844(P2011−231844)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
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