説明

シール部材

【課題】接着剤を使用せずともインサート部材とゴム部との密着性を確保して、接着剤使用の従来品と同等レベルのシール性能を発揮し得るシール部材を提供する。
【解決手段】シール部材1は、インサート部材10と当該インサート部材10を包含するゴム部20とを一体成形してなると共に、ゴム部20の一部がシールリップ21,22として機能するものである。インサート部材10には、一体成形時にゴム部20の一部を係合させる凹部としての環状係合溝13が設けられている。インサート部材10の環状係合溝13とゴム部20の一部との係合に基づくアンカー効果により、インサート部材10とゴム部20との密着性が高められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用機械その他の機械に使用される密封装置用のシール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示された油圧緩衝器には、そのシリンダ開口端においてシリンダ内部の油密性を保持するためのシール部材が設けられている。そのシール部材は、金属製のインサートメタルに対してゴムを一体成形したものであり、インサートメタルを包含するゴム部によってオイルシール部(オイル側シールリップ)及びダストシール部(ダスト側シールリップ)が構成されている。
【0003】
このようなインサートメタル・ゴム一体成形型のシール部材にあっては、インサートメタルに対するゴムの密着性がシール性能に少なからぬ影響を及ぼす。即ち、インサートメタルに対するゴムの密着性が低く、インサートメタルからゴムが剥離し易いと、ピストンロッド等の可動部品の稼働時にシールリップが捲くれ上がったり、不自然に座屈したりしてシール性が低下し、設計時に想定した所期のシール性能を発揮できなくなってしまう。
【0004】
それ故、かかる不都合を回避するために、インサートメタルの表面に特殊な接着剤(例えば、ゴムと金属との接着用に開発されたゴム・金属間加硫接着剤)を予め塗布し、その接着剤を介してインサートメタルの表面にゴム材料を焼き付け接着して、インサートメタルとゴムとを一体成形していた(特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−233215号(第0025,0026段落)
【特許文献2】特開2002−70920号(第0009段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のインサートメタル・ゴム一体成形型のシール部材では、その製造過程において接着剤の塗布及び乾燥のための工程が必要であり、これらの工程の存在が製造コストの上昇要因となっていた。本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものである。
【0007】
本発明の目的は、接着剤を使用せずともインサート部材とゴム部との密着性を確保することにより、接着剤使用の従来品と同等レベルのシール性能を発揮し得るシール部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、インサート部材と当該インサート部材を包含するゴム部とを一体成形してなると共に、前記ゴム部の少なくとも一部がシールリップとして機能するシール部材に関するものである。前記インサート部材には、一体成形時に前記ゴム部の一部を係合させる凹部又は凸部が設けられている。そして、前記インサート部材の凹部又は凸部と前記ゴム部の一部との係合に基づくアンカー効果により、前記インサート部材と前記ゴム部との密着性が高められている。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシール部材によれば、インサート部材には一体成形時にゴム部の一部を係合させる凹部又は凸部が設けられているので、インサート部材の凹部又は凸部とゴム部の一部との係合に基づくアンカー効果により、インサート部材とゴム部との密着性を高めることができる。従って、従来例のように製造工程において接着剤を使用せずとも、インサート部材とゴム部との間に十分な密着性を確保して、従来品と同等レベルのシール性能を発揮及び維持することができる。また、接着剤を使用しないことで、接着剤に関わる製造コストの低減を図ることができ、更には、接着剤から揮発する有機溶剤による作業空間の汚染や作業者の健康被害を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のいくつかの実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0011】
[第1実施形態]
図1に示すように、本発明の第1実施形態のシール部材1は、中心軸線Cの周りで回転対称な概して環状の部材であって、インサート部材10と、そのインサート部材10を包含するゴム部20とを一体成形したものである。
【0012】
インサート部材10は、前記中心軸線Cを取り囲む円筒部11と、その円筒部11の一端(図1では右端)から半径方向内向きに延設された鍔状の内側フランジ部12とを備えている。内側フランジ部12が円筒部11とつながる部位を内側フランジ部12の外周端部とすれば、その外周端部と反対側に位置する内側フランジ部12の内周端部には、インサート部材10における凹部としての環状係合溝13が形成されている。
【0013】
この環状係合溝13は、内側フランジ部12の内周端部の端面(内周側端面)に開口するように設けられている。加えて、環状係合溝13は、図1の半径方向断面で見た場合に、当該係合溝13の開口端部の幅よりも、やや奥まった部位(奥部)の幅の方が若干広くなるような断面形状に形成されている。つまり環状係合溝13は、その開口端部が相対的に狭くなり且つ奥部が相対的に広くなるように形成されている。
【0014】
なお、この環状係合溝13は、インサート部材10の内側フランジ部12の内周端部にあって前記環状係合溝13の両側(図1では左右両側)に位置する二つの区画壁14によって区画されている。このため、これら二つの区画壁14を、凹部としての環状係合溝13を区画形成すべくインサート部材10に設けられた凸部として把握することもできる。
【0015】
またインサート部材10には、円筒部11と内側フランジ部12との境界位置において、当該円筒部11の内側に開口した環状溝形状の切り欠き15が設けられている。この環状溝形状の切り欠き15も、その開口端部が相対的に狭くなり且つ奥部が相対的に広くなるように形成されている。環状溝形状の切り欠き15は、前記環状係合溝13に比べて小さいが、インサート部材10に設けられた第2の凹部として位置付けることができる。
【0016】
図1に示すように、インサート部材10には、当該インサート部材10を包含するようにゴム部20が一体成形されている。この一体成形は、いわゆるインサート成形によるものである。ゴム部20は例えばNBR(ニトリルブタジエンゴム)等のゴムでできている。なお、本実施形態では、インサート部材10とゴム部20とを相互に接着するための接着剤は一切使用されていない。
【0017】
ゴム部20は、第1のシールリップとしてのオイルリップ21と、第2のシールリップとしてのダストリップ22とを有している。オイルリップ21及びダストリップ22はいずれも、中心軸線Cを取り囲む環形状をなしている。また、オイルリップ21及びダストリップ22は、それぞれの基端部が互いに連結されると共に、それぞれの先端部が中心軸線Cに沿って互いに略反対方向に突出している。このシール部材1にあっては、オイルリップ21とダストリップ22との連結部の近傍にインサート部材10の内側フランジ部12の内周端部が位置し得るように、インサート部材10とゴム部20とが一体成形されている。
【0018】
なお、オイルリップ21及びダストリップ22はいずれも、それぞれの基端部よりも先端部の方が中心軸線Cに近づくような勾配で傾斜して設けられている。このため、オイルリップ21とダストリップ22との間で且つ両リップの内側には、両リップ21,22の各内周面を天井面とするような断面略三角形状のポケット領域Pが確保されている。なお、オイルリップ21の周囲には、当該リップ21を締め付けるためのガータスプリングGが装着される。
【0019】
図1のシール部材1では、インサート部材10の内側フランジ部12の内周側端面に開口形成された環状係合溝13と、インサート成形時にその環状係合溝13内に進入したゴム部20の一部とが互いに係合している。あるいは、インサート部材10の内側フランジ部12の内周端部に設けられた二つの区画壁14と、インサート成形時に前記二つの区画壁14間に進入したゴム部20の一部とが互いに係合していると見ることもできる。
【0020】
それ故、インサート部材10の環状係合溝13(又は二つの区画壁14)と前記ゴム部20の一部との相互係合に基づき、インサート部材10に対するゴム部20のアンカー効果が生じ、接着剤不使用にもかかわらず、インサート部材10とゴム部20との密着性が確保されている。
【0021】
図1のシール部材1の性能が、接着剤を使用した従来のシール部材の性能に匹敵し得ることは、コンピュータシミュレーションによる強度及び耐久性試験により証明される。
【0022】
図6(a)は、インサート部材10とゴム部20とを接着剤を用いて接着してなる従来のシール部材(従来例)を示す。この従来例におけるインサート部材10Dは、上記環状係合溝13及び環状溝形状の切り欠き15を有していない点を除いて図1のインサート部材10と実質的に同じである。
【0023】
また、この従来例におけるゴム部20Dは、図1のゴム部20と実質的に同じである。図6(b)は、図6(a)の従来例を仮想ロッド(破線Rで示す)に装着すると共に0.5MPaの圧力を付与、更に時間が経過したと仮定した場合における従来例の変形状態を示す。なお、図6(b)ではガータスプリングGの図示を省略しているが、ガータスプリングGが装着された状態での変形状態を示す。また、図6(b)における仮想線は、従来例のシール部材が自然状態(非装着・無負荷の状態)にあるときの形態を示す(図7(b)の仮想線も同じ意味)。
【0024】
図7(a)は、図6(a)の従来例と同一構造のシール部材において接着剤を全く使用しないで製造したシール部材(比較例)を示す。それ故、この比較例におけるインサート部材10Dは、上記環状係合溝13及び環状溝形状の切り欠き15を有していない点を除いて図1のインサート部材10と実質的に同じである。
【0025】
また、この比較例におけるゴム部20Dは、図1のゴム部20と実質的に同じである。図7(b)は、図7(a)の比較例を仮想ロッド(破線Rで示す)に装着すると共に0.5MPaの圧力を付与、更に時間が経過したと仮定した場合における比較例の変形状態を示す。なお、図7(b)ではガータスプリングGの図示を省略しているが、ガータスプリングGが装着された状態での変形状態を示す。
【0026】
他方で、図2は、図1のシール部材1を仮想ロッド(破線Rで示す)に装着すると共に0.5MPaの圧力を付与、更に時間が経過したと仮定した場合におけるシール部材1(第1実施形態)の変形状態を示す。なお、図2ではガータスプリングGの図示を省略しているが、ガータスプリングGが装着された状態での変形状態を示す。また、図2における仮想線は、シール部材1が自然状態(非装着・無負荷の状態)にあるときの形態を示す。
【0027】
図2、図6(b)及び図7(b)に示したコンピュータシミュレーションの結果から、第1実施形態及び従来例は比較例よりも優れた強度及び耐久性を示すこと、及び、第1実施形態は従来例に匹敵する強度及び耐久性を示すことがわかる。これを以下説明する。
【0028】
先ず、図7(b)に示す比較例によれば、インサート部材10Dの内側フランジ部12の内周端部の直下に大きな隙間Sが生ずると共に、オイルリップ21の内周面もダストリップ22の内周面もほぼ全体が仮想ロッドRの表面に貼り付いてしまい、両リップ21,22と仮想ロッドRの表面との間に確保されるべきポケット領域Pが全く存在しない。
【0029】
これに対し、図6(b)に示す従来例によれば、インサート部材10Dの内側フランジ部12の内周端部の直下においてもその他の部位においても、インサート部材10Dとゴム部20Dとの間の剥離を示唆するような隙間は生じていない。それのみならず、図6(b)では、オイルリップ21の内周面及びダストリップ22の内周面が仮想ロッドRの表面に強く押し付けられてはいるものの、両リップ21,22と仮想ロッドRの表面との間には、断面略三角形状のポケット領域Pが依然として確保されている。
【0030】
つまり従来例では、上記のような圧力付与下でも、オイルリップ21及びダストリップ22がシールリップとしての本来的機能を発揮可能な状況が維持されている。このように従来例と比較例との比較から、接着剤の使用によってインサート部材10Dとゴム部20Dとの相互剥離が防止され、そのことによって高負荷時でもシール部材の機能が担保されることがわかる。
【0031】
他方、図2に示すシール部材1によれば、環状係合溝13の内壁面とその環状係合溝内に進入したゴム部20の一部との間において小さな隙間S1が生ずると共に、二つの区画壁14の直下においても小さな隙間S2がそれぞれ生じている。しかしながら、これらの隙間S1,S2は非常に小さなものであり、環状係合溝13内のゴム部20の一部は依然として当該係合溝13内にとどまってアンカー効果を保っている。
【0032】
このため、オイルリップ21及びダストリップ22の各基端部が仮想ロッドRの表面から離間した状態が保たれ、両リップ21,22と仮想ロッドRの表面との間には、断面略三角形状のポケット領域Pが確保されている。図2におけるポケット領域Pの状態は、図6(b)の従来例におけるポケット領域Pの状態と比べて遜色ないものである。
【0033】
これらの結果から、第1実施形態のシール部材1は、同じく接着剤不使用の比較例に比べて、強度及び耐久性の面で格段に優れている。また、第1実施形態のシール部材1は、接着剤使用の従来例とほぼ同等の強度及び耐久性を有することが期待できる。
【0034】
このように第1実施形態のシール部材1によれば、インサート部材10には、一体成形時にゴム部20の一部を係合させる凹部としての環状係合溝13(又は凸部としての区画壁14)が設けられているので、インサート部材10の環状係合溝13(又は区画壁14)とゴム部20の一部との相互係合に基づくアンカー効果により、インサート部材10とゴム部20との密着性を高めることができる。
【0035】
第1実施形態によれば、従来例のように製造工程において接着剤を使用せずとも、インサート部材10とゴム部20との間に十分な密着性を確保して、従来例と同等レベルのシール性能を発揮し維持することができる。特に、シール部材1が時間の経過に伴って形崩れする現象(へたり)や使用時におけるシール部材1の過度な変形を極力防止することができるため、シール部材としての基本性能を損なうことなく長寿命化を図ることができる。
【0036】
第1実施形態によれば、製造工程で接着剤を使用しないことで、接着剤に関わる製造コストを低減することができる。また、インサート部材10とゴム部20とが接着剤で貼り合わされていないため、シール部材1の廃棄時にインサート部材10とゴム部20とを分離し易く、資源リサイクルの点でも有利である。
【0037】
第1実施形態によれば、インサート部材10の内側フランジ部12の内周端部がゴム部20におけるオイルリップ21及びダストリップ22の連結部又はその近傍に位置する共に、前記環状係合溝13がインサート部材10の内周端部の端面に開口するように設けられている。それ故、その環状係合溝13と当該環状係合溝13内に進入したゴム部20の一部との相互係合に基づいて、両リップ21,22の連結部の形状維持がより確実になり、両リップ21,22の連結部の直下に確保される前記ポケット領域Pの形崩れを極力防止することができる。その結果、オイルリップ21及びダストリップ22がシールリップとしての本来的機能を長期にわたって発揮することができ、シール部材1の耐久性を少なくとも従来例と同程度にすることができる。
【0038】
第1実施形態によれば、インサート部材10の凹部としての環状係合溝13は、その開口端部が相対的に狭くなり且つ奥部が相対的に広くなるように形成されているため、インサート成形時に環状係合溝13に進入したゴム部20の一部は、環状係合溝13から外に向かう引張作用を受けた場合でも当該係合溝13から離脱し難い。このため、第1実施形態では、インサート部材10に対するゴム部20の密着力(あるいは凹部からの離脱防止能力)が非常に高い。
【0039】
第1実施形態によれば、インサート部材10の円筒部11と内側フランジ部12との境界位置には、当該円筒部11の内側に開口した環状溝形状の切り欠き15が設けられ、この切り欠き15もインサート部材10とゴム部20との密着性向上に貢献する。従って、第1の凹部としての環状係合溝13及び第2の凹部としての切り欠き15の併設により、インサート部材10に対するゴム部20の密着性を飛躍的に高めることができる。
【0040】
なお、環状溝形状の切り欠き15は、円筒部11と内側フランジ部12とによって形作られるインサート部材10の内側コーナー部に位置しているため、かかる内側コーナー部において生じ易いゴム部20の剥離を防止することに大変役立つ。
【0041】
[第2実施形態]
図3は、本発明の第2実施形態のシール部材1Aを示す。以下では第1実施形態と異なる点を中心に説明し、第1実施形態と共通する構成については説明を極力省略する。
【0042】
図3のシール部材1Aも、インサート部材10Aとそれを包含するゴム部20Aとを一体成形したものである。ゴム部20Aは、互いに略反対方向に突出するオイルリップ21及びダストリップ22を備えている。図3のインサート部材10Aは、円筒部11と鍔状の内側フランジ部12とを備えており、内側フランジ部12の内周端部は、ゴム部20Aにおけるオイルリップ21とダストリップ22との連結部の近傍に位置している。
【0043】
そして、その内側フランジ部12の内周端部には、インサート部材10Aにおける凹部としての環状係合溝16が形成されている。この環状係合溝16は、内側フランジ部12の内周端部の側面に開口するように設けられている。加えて、環状係合溝16は、図3の半径方向断面で見た場合に、その開口端部よりも底部の方が内側フランジ部12の内周端部の端面に近くなるような傾斜勾配を持った奥行き又は深さを有している。つまり、凹部としての環状係合溝16は、その係合溝16が開口しているインサート部材10Aの内側フランジ部12の内周端部の表面(この場合、側面)に対して非直角に傾斜した奥行き又は深さを有している。
【0044】
環状係合溝16が上述のよう傾斜した奥行き又は深さを持っているため、オイルリップ21及びダストリップ22の基端部(つまり両リップ21,22の連結部)に対して、シール部材1Aの中心に向かうような引張作用(図3で下向きの引張作用)が働いた場合でも、環状係合溝16内に進入しているゴム部20Aの一部が当該係合溝16から離脱し難い。換言すれば、環状係合溝16に対するゴム部20Aの引っ掛かりがよい。従って、内側フランジ部12の内周端部付近は特に、インサート部材10Aとゴム部20Aとの密着性が高められている。
【0045】
図3によれば、上記環状係合溝16は、インサート部材10Aの内側フランジ部12の内周端部にあって当該係合溝16の直下に位置する端部区画壁17によって区画されている。このため、この端部区画壁17を、凹部としての環状係合溝16を区画形成すべくインサート部材10に設けられた凸部として把握することもできる。
【0046】
また、図3のインサート部材10Aには、前記第1実施形態と同様、円筒部11と内側フランジ部12との境界位置において、当該円筒部11の内側に開口した環状溝形状の切り欠き15が設けられている。
【0047】
このように第2実施形態のシール部材1Aによれば、インサート部材10Aには、一体成形時にゴム部20Aの一部を係合させる凹部としての環状係合溝16(又は凸部としての端部区画壁17)が設けられているので、インサート部材10Aの環状係合溝16(又は端部区画壁17)とゴム部20Aの一部との相互係合に基づくアンカー効果により、インサート部材10Aとゴム部20Aとの密着性を高めることができる。従って、第2実施形態のシール部材1Aは、第1実施形態のシール部材1と同様の作用及び効果を奏することができる。
【0048】
[第3実施形態]
図4は、本発明の第3実施形態のシール部材1Bを示す。以下では第1実施形態と異なる点を中心に説明し、第1実施形態と共通する構成については説明を極力省略する。
【0049】
図4のシール部材1Bも、インサート部材10Bとそれを包含するゴム部20Bとを一体成形したものである。図4のインサート部材10Bは、円筒部11と鍔状の内側フランジ部12とを備えており、更に内側フランジ部12の内周端部19は、円筒部11の先端部(図4では左端部)の方へ向けて屈曲形成されている。この屈曲した内周端部19は、ゴム部20Bにおけるオイルリップ21とダストリップ22との連結部の近傍に位置している。
【0050】
図4のインサート部材10Bには、内側フランジ部12の本体部と前記屈曲した内周端部19との境界位置において、当該円筒部11の内側に開口した環状係合溝18が形成されている。この環状係合溝18は、好ましくは前記第1実施形態と同様、その開口端部が相対的に狭くなり且つ奥部が相対的に広くなるように形成される。なお、環状係合溝18の直下にて屈曲形成された前記内周端部19を、凹部としての環状係合溝18を区画形成すべくインサート部材10Bに設けられた凸部として把握することもできる。
【0051】
また、図4のインサート部材10Bには、前記第1実施形態と同様、円筒部11と内側フランジ部12との境界位置において、当該円筒部11の内側に開口した環状溝形状の切り欠き15が設けられている。
【0052】
このように第3実施形態のシール部材1Bによれば、インサート部材10Bには、一体成形時にゴム部20Bの一部を係合させる凹部としての環状係合溝18(又は凸部としての内周端部19)が設けられているので、インサート部材10Bの環状係合溝18(又は内周端部19)とゴム部20Bの一部との相互係合に基づくアンカー効果により、インサート部材10Bとゴム部20Bとの密着性を高めることができる。従って、第3実施形態のシール部材1Bは、第1実施形態のシール部材1と同様の作用及び効果を奏することができる。
【0053】
[第4実施形態]
図5は、本発明の第4実施形態のシール部材1Cを示す。以下では第1実施形態と異なる点を中心に説明し、第1実施形態と共通する構成については説明を極力省略する。
【0054】
図5のシール部材1Cも、インサート部材10Cとそれを包含するゴム部20Cとを一体成形したものである。図5のインサート部材10Cは、円筒部11と、鍔状の内側フランジ部12と、その内側フランジ部12の本体部に対して屈曲形成された内側フランジ部12の内周端部19Cとを備えている。内側フランジ部12の内周端部19Cは、ゴム部20Cにおけるオイルリップ21とダストリップ22との連結部の近傍に位置している。
【0055】
インサート部材10Cは、出発材として金属製平面リング(例えばワッシャー)を用いると共に、その金属製平面リングに対して異形プレス成形を施して得たものである。それ故、インサート部材10Cは、図5の半径方向断面で見て略S字状に蛇行した断面形状を持つ。
【0056】
異形プレス成形の結果、内側フランジ部12の本体部と内周端部19Cとの境界位置には、ダストリップ22の側に開口し且つ断面鋭角状をした環状の凹部31が形成されている。この環状の凹部31は、第2実施形態における環状係合溝16又は第3実施形態における環状係合溝18に相当するものであり、当該凹部31に進入したゴム部20の一部を係合させるという役目を果たす。
【0057】
また、前記異形プレス成形の結果、インサート部材10Cにおける円筒部11と内側フランジ部12との境界位置には、当該円筒部11の内側に開口した環状の凹部32が形成されている。この環状の凹部32は、第1〜第3実施形態における環状溝形状の切り欠き15に相当するものであり、当該凹部32に進入したゴム部20Cの一部を係合させるという役目を果たす。
【0058】
このように第4実施形態のシール部材1Cによれば、インサート部材10Cには、一体成形時にゴム部20Cの一部を係合させる環状の凹部31,32が設けられているので、インサート部材10Cの環状の凹部31,32とゴム部20Cの一部との相互係合に基づくアンカー効果により、インサート部材10Cとゴム部20Cとの密着性を高めることができる。従って、第4実施形態のシール部材1Cは、第1実施形態のシール部材1と同様の作用及び効果を奏することができる。
【0059】
[変更例]
図1の第1実施形態では、凹部としての環状係合溝13をインサート部材10の内側フランジ部12の内周端部の端面に開口形成したが、これに代えて、同様の環状係合溝13を内側フランジ部12の内周端部の側面に開口するように形成してもよい。
【0060】
図3の第2実施形態では、凹部としての環状係合溝16をインサート部材10Aの内側フランジ部12の内周端部の側面に開口形成したが、これに代えて、同様の環状係合溝16を内側フランジ部12の内周端部の端面に開口するように形成してもよい。
【0061】
上記の実施形態及び変更例はいずれも、二つのシールリップ21,22を有するタイプのシール部材であったが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではなく、シールリップが一つだけのタイプのシール部材に本発明が適用されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のシール部材は、例えば、油圧緩衝器、ガススプリング、各種シリンダ装置などに使用される密封装置の構成部品として利用される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】第1実施形態に従うシール部材の半径方向の断面図。
【図2】図1のシール部材の強度及び耐久性試験における変形状態を示す概略断面図。
【図3】第2実施形態に従うシール部材の半径方向の断面図。
【図4】第3実施形態に従うシール部材の半径方向の断面図。
【図5】第4実施形態に従うシール部材の半径方向の断面図。
【図6】(a)は従来例たるシール部材(接着剤使用)の半径方向の断面図、(b)はそのシール部材の強度及び耐久性試験における変形状態を示す概略断面図。
【図7】(a)は比較例たるシール部材(接着剤不使用)の半径方向の断面図、(b)はそのシール部材の強度及び耐久性試験における変形状態を示す概略断面図。
【符号の説明】
【0064】
1,1A,1B,1C…シール部材
10,10A,10B,10C…インサート部材
11…円筒部
12…内側フランジ部
13…環状係合溝(凹部)
14…二つの区画壁(凸部)
15…環状溝形状の切り欠き
16…環状係合溝(凹部)
17…端部区画壁(凸部)
18…環状係合溝(凹部)
19,19C…内側フランジ部の内周端部(凸部)
20,20A,20B,20C…ゴム部
21…オイルリップ(第1のシールリップ)
22…ダストリップ(第2のシールリップ)
31…環状の凹部
32…環状の凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インサート部材と当該インサート部材を包含するゴム部とを一体成形してなると共に、前記ゴム部の少なくとも一部がシールリップとして機能するシール部材であって、
前記インサート部材には、一体成形時に前記ゴム部の一部を係合させる凹部又は凸部が設けられており、前記インサート部材の凹部又は凸部と前記ゴム部の一部との係合に基づくアンカー効果により、前記インサート部材と前記ゴム部との密着性を高めたことを特徴とするシール部材。
【請求項2】
前記凹部は、その開口端部が相対的に狭くなり且つ奥部が相対的に広くなるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシール部材。
【請求項3】
前記凹部は、その凹部が開口している前記インサート部材の表面に対して非直角に傾斜した奥行き又は深さを有していることを特徴とする請求項1に記載のシール部材。
【請求項4】
前記ゴム部が互いに略反対方向に突出する第1及び第2のシールリップを備え、
前記インサート部材は、その一端部が前記ゴム部における第1及び第2シールリップの連結部又はその近傍に位置するように前記ゴム部と一体成形されており、
前記インサート部材の凹部は、前記連結部又はその近傍に位置する前記インサート部材の前記一端部の端面又は側面に開口するように設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のシール部材。
【請求項5】
前記インサート部材は、円筒部と、その円筒部の一端から半径方向内向きに延設された内側フランジ部とを備えており、当該インサート部材の円筒部と内側フランジ部との境界位置には、当該円筒部の内側に開口した環状溝形状の切り欠きが設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のシール部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−97551(P2009−97551A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267363(P2007−267363)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】