説明

ジイソチオシアナート誘導体を含有する非水電解液、及びその二次電池

【課題】リチウム二次電池の充放電サイクル特性を向上させる非水電解液を提供すること、また充放電サイクル特性に優れる二次電池を提供すること。
【解決手段】本発明の非水電解液は、下記一般式(1)で表される化合物を含有する。一般式(1)中、Xは、炭素数2〜14の直鎖アルキレン基、炭素数3〜14の分岐アルキレン基、炭素数3〜14の環状アルキレン基、又は二価の炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を示す。好適には、一般式(2)で表される不飽和スルトン化合物及び/又は一般式(3)で表されるビニレンカーボナート若しくはその誘導体を併用する。本発明のリチウム二次電池は、前記非水電解液を用いる。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液、及びリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムを利用する非水電解液二次電池(リチウム二次電池)は、リチウムを可逆的に吸蔵放出可能な材料を含む正極および負極、リチウム塩を含む非水電解液、及びこれらを適切に保持、隔離する部材から構成される。リチウムが軽量かつ極めて卑な電位を有するため、リチウム又はリチウム合金を負極とする二次電池は高電圧、高容量という優れた特徴を有する反面、デンドライトが析出し短絡しやすいという欠点も有していた。
【0003】
一方、負極に炭素材料を有する電池は、長期にわたって充放電を繰り返した際の容量の低下の度合いが小さいというサイクル特性の向上は認められるものの十分とはいえない。長期にわたって充放電を繰り返した際の充放電特性(サイクル特性)を改良する試みは、様々な観点から検討されている。電解液に特定の化合物を添加してサイクル特性を向上させる試みも多数検討されている。
【0004】
例えば、添加剤としては、アミン類を使用すること(例えば、特許文献1参照)が、またリチウムに対する配位性基を有する化合物を添加すること(例えば、特許文献2参照)が、さらにまた、イソシアナート基を有する化合物を添加すること(例えば、特許文献3参照)が記載されている。
【特許文献1】特開平6−333595号公報
【特許文献2】特開平5−234618号公報
【特許文献3】特開2007−242411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、リチウム二次電池の充放電サイクル特性を向上させる非水電解液を提供すること、また充放電サイクル特性に優れる二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の課題は、正極、負極、リチウム塩を含む二次電池の非水電解液において、下記一般式(1)で表される化合物を含有させること、更には一般式(1)で表されるジイソチオシアナート化合物と一般式(2)で表されるスルトン誘導体又は一般式(3)で表されるビニレンカーボナート誘導体をそれぞれ併用すること、更には、前記一般式(1)、(2)及び(3)を併用すること、によって解決されることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
【0008】
<1> 下記一般式(1)で表される化合物を含有するリチウム二次電池の非水電解液。
【0009】
【化1】

【0010】
一般式(1)中、Xは、炭素数2〜14の直鎖アルキレン基、炭素数3〜14の分岐アルキレン基、炭素数3〜14の環状アルキレン基、又は二価の炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を示す。
【0011】
<2> 前記一般式(1)におけるXが、炭素数2〜14の直鎖アルキレン基、炭素数3〜14の分岐アルキレン基、又は炭素数3〜14の環状アルキレン基であり、
2つのイソチオシアナート基が、前記アルキレン基の互いに異なる2つの炭素原子に結合した構造を有する前記<1>に記載の非水電解液。
【0012】
<3> 前記二価の芳香族炭化水素基が、ベンゼン環、ナフタレン環、又はアントラセン環である前記<1>に記載の非水電解液。
【0013】
<4> 前記二価の芳香族炭化水素基が、ベンゼン環である前記<3>に記載の非水電解液。
【0014】
<5> 前記一般式(1)で表される化合物が、1,4−ジイソチオシアナトベンゼン、又は1,6−ジイソチオシアナトヘキサンである前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の非水電解液。
【0015】
<6> 更に、下記一般式(2)で表される化合物を含有する前記<1>〜<5>のいずれか1項に記載の非水電解液。
【0016】
【化2】

【0017】
一般式(2)中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、フッ素原子、又はフッ素を含んでもよい炭素数1〜12の炭化水素基であり、nは0〜3の整数を表す。
【0018】
<7> 前記一般式(2)で表される化合物が、下記式(4)で表される化合物である前記<6>に記載の非水電解液。
【0019】
【化3】

【0020】
<8> 前記一般式(2)又は式(4)で表される化合物の添加量が、非水電解液全体に対して0.001質量%〜10質量%である前記<6>又は<7>に記載の非水電解液。
【0021】
<9> 更に、下記一般式(3)で表される化合物を含有する前記<1>〜<8>のいずれか1項に記載の非水電解液。
【0022】
【化4】

【0023】
一般式(3)中、R及びRは、各々独立に、水素原子、メチル基、エチル基、又はプロピル基を示す。
【0024】
<10> 前記一般式(3)で表される化合物が、下記式(5)で表される化合物である前記<9>に記載の非水電解液。
【0025】
【化5】

【0026】
<11> 前記一般式(3)又は式(5)で表される化合物の添加量が、非水電解液全体に対して0.001質量%〜10質量%である前記<9>又は<10>に記載の非水電解液。
【0027】
<12> 前記一般式(1)で表される化合物の添加量が、非水電解液全体に対して0.001質量%〜10質量%である前記<1>〜<11>のいずれか1項に記載の非水電解液。
【0028】
<13> 正極と、
負極活物質が金属リチウム、リチウム含有合金、リチウムとの合金化が可能な金属若しくは合金、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な酸化物、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な遷移金属窒素化物、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な炭素材料、又はこれらの混合物から選ばれた少なくとも一つからなる負極と、
前記<1>〜<12>のいずれか1項に記載の非水電解液と、
を有するリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、サイクル特性が不充分であったリチウム二次電池において、充放電サイクル特性が向上する非水電解液およびその非水電解液を用いた電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の非水電解液、及びこの非水電解液を用いたリチウム二次電池について具体的に説明する。
【0031】
<非水電解液>
本発明の非水電解液は、本明細書記載の一般式(1)で表される添加剤であるジイソチオシアナート化合物を含有し、一般式(2)で表される不飽和スルトン、及び/又は一般式(3)で表されるビニレンカーボナート誘導体がそれぞれさらに添加剤として含有されてもよい、リチウム二次電池用途の非水電解液である。
【0032】
(ジイソチオシアナート化合物)
本発明のリチウム二次電池の非水電解液は、下記一般式(1)で表される化合物を含有する。
【0033】
【化6】

【0034】
一般式(1)中、Xは、炭素数2〜14の直鎖アルキレン基、炭素数3〜14の分岐アルキレン基、炭素数3〜14の環状アルキレン基、又は二価の炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を示す。
【0035】
つまり、上記一般式(1)で表される化合物はジイソチオシアナート化合物であり、直鎖、分岐あるいは環状アルキレン基、又は二価の芳香族炭化水素基に2個のイソチオシアナート基が置換する化合物である。
【0036】
一般式(1)で表されるXにおいて、直鎖状アルキレン基は、炭素数2〜14であり、炭素数2〜10であることが好ましく、3〜7であることがより好ましい。
【0037】
炭素数2〜14の直鎖状アルキレン基としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基、トリデカメチレン基、トトラデカメチレン基が例示される。
このなかでも、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基が好適である。
【0038】
一般式(1)で表されるXにおいて、分岐状アルキレン基は炭素数3〜14であり、炭素数3〜10であることが好ましく、3〜7であることがより好ましい。
炭素数3〜14の分岐状アルキレン基としては、1−メチルエチレン基、2−メチルトリメチレン基、2−メチルテトラメチレン基、2−メチルペンタメチレン基、3−メチルヘキサメチレン基、4−メチルヘプタメチレン基、4−メチルオクタメチレン基、5−メチルノナメチレン基、5−メチルデカメチレン基、6−メチルウンデカメチレン基、7−メチルドデカメチレン基、7−メチルトリデカメチレン基などが例示される。
このなかでも、1−メチルエチレン基、2−メチルトリメチレン基、2−メチルテトラメチレン基、2−メチルペンタメチレン基、3−メチルヘキサメチレン基が好適である。
【0039】
一般式(1)で表されるXにおいて、環状アルキレン基は炭素数3〜14であり、炭素数3〜10であることが好ましく、3〜7であることがより好ましい。
炭素数3〜14の環状アルキレン基としては、1,3−シクロブチレン基、1,3−シクロペンチレン基、1,4−シクロヘキシレン基、1,3−シクロヘキシレン基、1、2−シクロヘキシレン基、1,4−シクロヘプチレン基などが例示される。
このなかでも、1,3−シクロペンチレン基、1,4−シクロヘキシレン基、1,3−シクロヘキシレン基、1、2−シクロヘキシレン基が好適である。
【0040】
一般式(1)で表されるXにおいて、アルキレン基として好適には、炭素数3〜7の直鎖状アルキレン基、炭素数3〜7の分岐状アルキレン基、又は炭素数5〜7の環状アルキレン基であり、より好適には、ヘキサメチレン基、3−メチルヘキサメチレン基、又はシクロヘキシレン基である。
【0041】
一般式(1)で表されるXにおいて、芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などが例示される。
このなかでも、ベンゼン環、ナフタレン環、又はアントラセン環が好適であり、ベンゼン環がより好適である。
【0042】
一般式(1)で表される化合物としては、1,4−ジイソチオシアナトベンゼン、又は1,6−ジイソチオシアナトヘキサンであることが特に好ましい。
【0043】
本発明の非水電解液において、前記一般式(1)で表される化合物の添加量は、非水電解液に対して、0.0001質量%〜30質量%が好ましく、0.001質量%〜10質量%がより好ましく、0.1質量%〜7質量%が更に好ましく、0.2質量%〜5質量%が更に好ましい。
ジイソチオシアナート化合物の非水電解液への添加量が上記範囲内にあると、本発明の効果が奏され、且つ電極界面インピーダンスの上昇が抑えられる。
【0044】
本発明の一般式(1)で表される化合物において、Xが直鎖、或いは分岐鎖アルキレン基のジイソチオシアナートは、J. Org. Chem., 62(13), 4539-4540 (1997)、J. Org. Chem., 66 (12) 4386-4392 (2001)等の文献記載の方法によって製造される。また、Xがヘキシレンのジイソチオシアナート等は、市販品としても入手可能である。
また、本発明の一般式(1)で表される化合物において、Xが芳香族炭化水素基のジイソチオシアナートは、J. Org. Chem., 27, 2214-2217 (1962)等の文献記載の方法によって製造される。また、Xがフェニレンのジイソチオシアナート等は、市販品としても入手可能である。
【0045】
本発明の一般式(1)で表されるジイソチオシアナート化合物は、電解液中で、水分並びに酸分をトラップする働きをもっているものと考えられる。このトラップ効果は主に、正極の遷移金属の溶出やガス発生を抑制しているものと推察できる。
本発明の一般式(1)で表されるジイソチオシアナート化合物は、単独で用いてもよいが、下記一般式(2)で表されるスルトン化合物、及び/又は、一般式(3)で表されるビニレンカーボナート又はその誘導体との組み合わせで更に、電池の高温サイクル特性を向上させることができると考えられる。
【0046】
下記に示す一般式(2)で表されるスルトン化合物は、電解液用添加剤として有効であり、電解液中において負極で還元分解し、硫黄化合物が正極側で皮膜をつくることが考えられる。
詳細には、一般式(2)で表される不飽和スルトン化合物中の不飽和結合が負極上で反応し、負極上に結合して安定的な皮膜を形成する一方、負極上の皮膜を形成しなかった不飽和スルトンは、スルトン基が負極上で還元分解することで不飽和スルトン化合物自体が分解し、この分解で生成した硫黄化合物が正極上で酸化反応を行い、正極上にも皮膜を生成することが考えられる。すなわち、不飽和スルトンは、正極、負極共に、皮膜を作ることが可能な化合物であると考えられる。
すなわち、本発明に係る一般式(2)で表される不飽和スルトンは、正極を構成するマンガンなどの溶出による正極、負極へのサイクル特性の低下を抑制することができると考えられる。
【0047】
また、下記に示す一般式(3)で表されるビニレンカーボナート又はその誘導体は、負極側にて表面皮膜を作り、負極の安定化に寄与する。
【0048】
したがって、本発明に係る一般式(1)、(2)及び(3)で示される添加剤を添加した電解液は、負極上の電解液の還元分解を抑制する効果が高く、高温保存試験やサイクル試験時の電池の容量低下を抑制し、電解液の分解に伴うガスの発生を抑制する。また、高温保存試験やサイクル試験時の正極の界面インピーダンスの上昇を抑制して、負荷特性の劣化を抑制する。
【0049】
特に、電極上で、一般式(1)で表されるジイソチオシアナート化合物が存在することにより酸分並びに水分がトラップされ、一般式(2)で表される不飽和スルトン化合物の皮膜と、一般式(3)で表されるビニレンカーボナート又はその誘導体による皮膜の形成がより適切なものとなり、正極の遷移金属の溶出やガス発生を効果的に抑え、正極および負極での副反応が相乗的に抑制されるものと推測される。
なお、本発明は上記推測によって制限されない。
【0050】
(不飽和スルトン)
本発明のリチウム二次電池の非水電解液は、下記一般式(2)で表される化合物を含有することが好適である。
【0051】
【化7】

【0052】
一般式(2)中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、フッ素原子、又はフッ素を含んでもよい炭素数1〜12の炭化水素基であり、nは0〜3の整数を示す。
【0053】
つまり、上記一般式(2)で表される化合物は、環状スルホン酸エステルであって環内に炭素−炭素不飽和結合を有するスルトン化合物である。
【0054】
一般式(2)中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、フッ素原子、又は炭素数1〜12のフッ素を含んでもよい炭化水素基であり、R、R、R及びRは、互いに同一でも異なってもよい。nは0〜3の整数を示す。
【0055】
一般式(2)中、R、R、R及びRで表されるフッ素原子を含んでもよい炭素数1〜12の炭化水素基は、具体的には、メチル基、エチル基、ビニル基、エチニル基、プロピル基、イソプロピル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−メチレンプロピル基、1−メチル−2−プロペニル基、1,2−ジメチルビニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−メチル−2−メチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ビニルフェニル基、エチニルフェニル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ジフルオロメチル基、モノフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、ジフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロプロピル基、テトラフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロシクロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロノニル基、パーフルオロデシル基、パーフルオロウンデシル基、パーフルオロドデシル基、フルオロフェニル基、ジフルオロフェニル基、トリフルオロフェニル基、パーフルオロフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基などが例示される
【0056】
以上例示した中でも、R、R、R及びRで表される炭化水素基は、炭素数が4以下であることが望ましく、より望ましくは2以下である。
【0057】
前記一般式(2)において、特に望ましくはR、R、R及びRの全てが水素原子の場合である。
【0058】
前記一般式(2)中、nは0〜3の整数を表す。n=1又は2であることが好ましく、更にはn=1であることが好ましい。
【0059】
本発明に係る前記一般式(2)で表される化合物のうち最も望ましい化合物は、下記式(4)で表される1,3−プロパ−1−エンスルトンである。
【0060】
【化8】

【0061】
この化合物は、以下の文献に記載される方法などで合成することができる。
Angew. Chem. /70. Jahrg. 1958 / Nr.16、 Ger. Pat. 1146870 (1963) (CA 59, 11259 (1963))、Can. J. Chem., 48, 3704 (1970)、 Synlett, 1411 (1988)、 Chem. Commun., 611 (1997)、Tetrahedron 55, 2245 (1999)。
【0062】
本発明の非水電解液において、前記一般式(2)で表される化合物の添加量は、非水電解液に対して、0.0001質量%〜30質量%が好ましく、0.001質量%〜10質量%がより好ましく、0.1質量%〜7質量%が更に好ましく、0.2質量%〜5質量%が更に好ましい。
不飽和スルトンの非水電解液への添加量が上記範囲内にあると、本発明の効果が奏され、且つ負極の界面インピーダンスの上昇が抑えられる。
【0063】
(ビニレンカーボナート又はビニレンカーボナート誘導体)
本発明のリチウム二次電池の非水電解液は、下記一般式(3)で表される化合物を含有することが好適である。
【0064】
【化9】

【0065】
一般式(3)中、R及びRは、各々独立に、水素原子、メチル基、エチル基、又はプロピル基を表す。R及びRは、互いに同一でも異なってもよい。
つまり、上記一般式(3)で表される化合物は、ビニレンカーボナート又はビニレンカーボナート誘導体である。
【0066】
一般式(3)で表されるビニレンカーボナート又はビニレンカーボナート誘導体の添加は、電池の保存特性およびサイクル特性を改善する点で好ましい。
【0067】
一般式(3)で表されるビニレンカーボナート又はビニレンカーボナート誘導体としては、ビニレンカーボナート、メチルビニレンカーボナート、エチルビニレンカーボナート、ブロピルビニレンカーボナート、ジメチルビニレンカーボナート、ジエチルビニレンカーボナート、ジプロピルビニレンカーボナートなどが例示される。
これらのうち一般式(3)で表される化合物としては、R及びRが水素原子の場合、すなわちビニレンカーボネートが最も好ましい。
【0068】
一般式(3)で表されるビニレンカーボナート又はビニレンカーボナート誘導の含有量は、目的に応じて適宜選択できるが、非水電解液全量に対して、0.001質量%〜10質量%が好ましく、0.1質量%〜3質量%であることが更に好ましい。
【0069】
(非水溶媒)
本発明に係る非水溶媒は、種々公知のものを適宜選択することができるが、特には、環状の非プロトン性溶媒および/又は鎖状の非プロトン性溶媒とからなることが好ましい。
環状の非プロトン性溶媒は、電池の安全性の向上のために、溶媒の引火点の向上を志向する場合は、非水溶媒として、使用することが好ましい。環状の非プロトン性溶媒は単独で使用してもよいし、複数種混合して使用してもよい。また、環状の非プロトン性溶媒と鎖状の非プロトン性溶媒を混合して使用してもよいが、鎖状の非プロトン性溶媒を混合して使用する場合には、鎖状の非プロトン性溶媒の混合比は、非水溶媒全体に対して質量比で20%未満に制限することが望ましい。
【0070】
−環状の非プロトン性溶媒−
環状の非プロトン性溶媒としては、エチレンカーボナートのような環状カーボナート、γ−ブチロラクトンのような環状カルボン酸エステル、スルホランのような環状スルホン、ジオキソランのような環状エーテルが例示される。
【0071】
環状カーボナートの例として具体的には、エチレンカーボナート、プロピレンカーボナート、1,2‐ブチレンカーボナート、2,3‐ブチレンカーボナート、1,2‐ペンチレンカーボナート、2,3‐ペンチレンカーボナートなどが挙げられる。特に、誘電率が高いエチレンカーボナートとプロピレンカーボナートが好適に使用される。負極活物質に黒鉛を使用した電池の場合は、特にエチレンカーボナートが好ましい。また、これら環状カーボナートは2種類以上混合して使用してもよい。
【0072】
環状カルボン酸エステルとして、具体的にはγ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、あるいはメチルγ−ブチロラクトン、エチルγ−ブチロラクトン、エチルδ−バレロラクトンなどのアルキル置換体などを例示することができる。
【0073】
環状カルボン酸エステルは、蒸気圧が低く、粘度が低く、かつ誘電率が高い。このため、電解液の引火点と電解質の解離度を下げることなく電解液の粘度を下げることができる。このため、電解液の引火性を高くすることなく電池の放電特性に関わる指標である電解液の伝導度を高めることができるという特徴を有するので、溶媒の引火点の向上を指向する場合は、前記環状の非プロトン性溶媒として環状カルボン酸エステルを使用することが好ましい。特にγ−ブチロラクトンが最も望ましい。
【0074】
また、環状カルボン酸エステルは他の環状の非プロトン性溶媒との混合物にするのが好ましい。例えば、環状カルボン酸エステルと、環状カーボナートおよび/又は鎖状カーボナートとの混合物にすることが考えられる。
【0075】
環状カルボン酸エステルと環状カーボナートおよび/又は鎖状カーボナートの組み合わせの例として、具体的には、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボナート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボナートとジメチルカーボナート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボナートとメチルエチルカーボナート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボナートとジエチルカーボナート、γ−ブチロラクトンとプロピレンカーボナート、γ−ブチロラクトンとプロピレンカーボナートとジメチルカーボナート、γ−ブチロラクトンとプロピレンカーボナートとメチルエチルカーボナート、γ−ブチロラクトンとプロピレンカーボナートとジエチルカーボナート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボナートとプロピレンカーボナート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボナートとプロピレンカーボナートとジメチルカーボナート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボナートとプロピレンカーボナートとメチルエチルカーボナート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボナートとプロピレンカーボナートとジエチルカーボナート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボナートとジメチルカーボナートとメチルエチルカーボナート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボナートとジメチルカーボナートとジエチルカーボナート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボナートとメチルエチルカーボナートとジエチルカーボナート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボナートとジメチルカーボナートとメチルエチルカーボナートとジエチルカーボナート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボナートとプロピレンカーボナートとジメチルカーボナートとメチルエチルカーボナート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボナートとプロピレンカーボナートとジメチルカーボナートとジエチルカーボナート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボナートとプロピレンカーボナートとメチルエチルカーボナートとジエチルカーボナート、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボナートとプロピレンカーボナートとジメチルカーボナートとメチルエチルカーボナートとジエチルカーボナート、γ−ブチロラクトンとスルホラン、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボナートとスルホラン、γ−ブチロラクトンとプロピレンカーボナートとスルホラン、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボナートとプロピレンカーボナートとスルホラン、γ−ブチロラクトンとスルホランとジメチルカーボナートなどが挙げられる。
【0076】
環状カルボン酸エステルの非水溶媒中の混合割合は、10質量%〜100質量%、さらに好ましくは20質量%〜90質量%、特に好ましくは30質量%〜80質量%である。このような比率にすることによって、電池の充放電特性に関わる電解液の伝導度を高めることができる。
【0077】
環状スルホンの例としては、スルホラン、2−メチルスルホラン、3―メチルスルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジプロピルスルホン、メチルエチルスルホン、メチルプロピルスルホンなどが挙げられる。
【0078】
−鎖状の非プロトン性溶媒−
本発明の鎖状の非プロトン性溶媒としては、ジメチルカーボナートのような鎖状カーボナート、ピバリン酸メチルのような鎖状カルボン酸エステル、ジメトキシエタンのような鎖状エーテル、リン酸トリメチルのような鎖状のリン酸エステルが例示される。
【0079】
鎖状カーボナートとして具体的には、ジメチルカーボナート、メチルエチルカーボナート、ジエチルカーボナート、メチルプロピルカーボナート、メチルイソプロピルカーボナート、エチルプロピルカーボナート、ジプロピルカーボナート、メチルブチルカーボナート、エチルブチルカーボナート、ジブチルカーボナート、メチルペンチルカーボナート、エチルペンチルカーボナート、ジペンチルカーボナート、メチルヘプチルカーボナート、エチルヘプチルカーボナート、ジヘプチルカーボナート、メチルヘキシルカーボナート、エチルヘキシルカーボナート、ジヘキシルカーボナート、メチルオクチルカーボナート、エチルオクチルカーボナート、ジオクチルカーボナート、メチルトリフルオロエチルカーボナートなどが挙げられる。これら鎖状カーボナートは2種類以上混合して使用してもよい。
【0080】
鎖状カルボン酸エステルとして具体的には、ピバリン酸メチルなどが挙げられる。
鎖状エーテルとして具体的には、ジメトキシエタンなどが挙げられる。
鎖状のリン酸エステルとして具体的には、リン酸トリメチルなどが挙げられる。
【0081】
本発明に係る鎖状の非プロトン性溶媒は、電池の安全性向上のために溶媒の引火点の向上を志向するために、混合することができる。例えば、鎖状カーボナート、鎖状カルボン酸エステル、鎖状リン酸エステルが例示され、特に、ジメチルカーボナート、ジエチルカーボナート、ジプロピルカーボナート、ジブチルカーボナート、ジヘプチルカーボナート、メチルエチルカーボナート、メチルプロピルカーボナート、メチルブチルカーボナート、メチルヘプチルカーボナートなどの鎖状カーボナートが好ましい。
【0082】
−溶媒の組み合わせ−
本発明に係る非水溶媒は、1種類でも複数種類を混合して用いてもよい。また、環状の非プロトン性溶媒のみを1種類又は複数種類用いても、鎖状の非プロトン性溶媒のみを1種類又は複数種類用いても、或いは環状の非プロトン性溶媒及び鎖状のプロトン性溶媒を混合して用いてもよい。
これらの中でも、電池の負荷特性、低温特性の向上を特に意図した場合は、非水溶媒を環状の非プロトン性溶媒と鎖状の非プロトン性溶媒の組み合わせにすることが望ましい。さらに、電解液の電気化学的安定性から、環状の非プロトン性溶媒には環状カーボナートを、鎖状の非プロトン性溶媒には鎖状カーボナートを適用することが最も好ましい。また、環状カルボン酸エステルと環状カーボナートおよび/又は鎖状カーボナートの組み合わせによっても電池の充放電特性に関わる電解液の伝導度を高めることができる。
【0083】
環状カーボナートと鎖状カーボナートの組み合わせとして、具体的には、エチレンカーボナートとジメチルカーボナート、エチレンカーボナートとメチルエチルカーボナート、エチレンカーボナートとジエチルカーボナート、プロピレンカーボナートとジメチルカーボナート、プロピレンカーボナートとメチルエチルカーボナート、プロピレンカーボナートとジエチルカーボナート、エチレンカーボナートとプロピレンカーボナートとメチルエチルカーボナート、エチレンカーボナートとプロピレンカーボナートとジエチルカーボナート、エチレンカーボナートとジメチルカーボナートとメチルエチルカーボナート、エチレンカーボナートとジメチルカーボナートとジエチルカーボナート、エチレンカーボナートとメチルエチルカーボナートとジエチルカーボナート、エチレンカーボナートとジメチルカーボナートとメチルエチルカーボナートとジエチルカーボナート、エチレンカーボナートとプロピレンカーボナートとジメチルカーボナートとメチルエチルカーボナート、エチレンカーボナートとプロピレンカーボナートとジメチルカーボナートとジエチルカーボナート、エチレンカーボナートとプロピレンカーボナートとメチルエチルカーボナートとジエチルカーボナート、エチレンカーボナートとプロピレンカーボナートとジメチルカーボナートとメチルエチルカーボナートとジエチルカーボナートなどが挙げられる。
【0084】
環状カーボナートと鎖状カーボナートの混合割合は、質量比で表して、環状カーボナート:鎖状カーボナートが、5:95〜80〜20、さらに好ましくは10:90〜70:30、特に好ましくは15:85〜55:45である。このような比率にすることによって、電解液の粘度上昇を抑制し、電解質の解離度を高めることができるため、電池の充放電特性に関わる電解液の伝導度を高めることができる。また、電解質の溶解度をさらに高めることができる。よって、常温又は低温での電気伝導性に優れた電解液とすることができるため、常温から低温での電池の負荷特性を改善することができる。
【0085】
−その他の溶媒−
本発明に係る非水電解液は、非水溶媒として、上記以外の他の溶媒を含んでいてもよい。他の溶媒としては、具体的には、ジメチルホルムアミドなどのアミド、メチル−N,N−ジメチルカーバメートなどの鎖状カーバメート、N−メチルピロリドンなどの環状アミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノンなどの環状ウレア、ほう酸トリメチル、ほう酸トリエチル、ほう酸トリブチル、ほう酸トリオクチル、ほう酸トリメチルシリル等のホウ素化合物、および下記の一般式で表されるポリエチレングリコール誘導体などを挙げることができる。
HO(CHCHO)
HO[CHCH(CH)O]
CHO(CHCHO)
CHO[CHCH(CH)O]
CHO(CHCHO)CH
CHO[CHCH(CH)O]CH
19PhO(CHCHO)[CH(CH)O]CH
(Phはフェニル基)
CHO[CHCH(CH)O]CO[OCH(CH)CHOCH
【0086】
前記式中、a〜fは、5〜250の整数、g〜jは2〜249の整数、5≦g+h≦250、5≦i+j≦250である。
【0087】
(電解質)
本発明の非水電解液は、種々公知の電解質を使用することができ、通常、非水電解液用電解質として使用されているものであれば、いずれをも使用することができる。
電解質の具体例としては、(CNPF、(CNBF、(CNClO、(CNAsF、(CSiF、(CNOSO(2k+1)(k=1〜8の整数)、(CNPF[C(2k+1)(6−n)(n=1〜5、k=1〜8の整数)などのテトラアルキルアンモニウム塩、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSiF、LiOSO(2K+1)(K=1〜8の整数)、LiPF[C(2k+1)(6−n) (n=1〜5、k=1〜8の整数)などのリチウム塩が挙げられる。また、次の一般式で表されるリチウム塩も使用することができる。
【0088】
LiC(SO)(SO)(SO)、LiN(SOOR10)(SOOR11)、LiN(SO12)(SO13)(ここでR〜R13は互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基である)。これらの電解質は単独で使用してもよく、また2種類以上を混合してもよい。
【0089】
これらのうち、特にリチウム塩が望ましく、さらには、LiPF、LiBF、LiOSO(2k+1)(K=1〜8の整数)、LiClO、LiAsF、LiNSO[C(2k+1)(k=1〜8の整数)、LiPF[C(2k+1)(6−n)(n=1〜5、k=1〜8の整数)が好ましい。
【0090】
本発明に係る電解質は、通常は、非水電解質中に0.1モル/リットル〜3モル/リットル、好ましくは0.5モル/リットル〜2モル/リットルの濃度で含むことが好ましい。
【0091】
本発明の非水電解液において、非水溶媒として、γ−ブチロラクトンなどの環状カルボン酸エステルを併用する場合には、特にLiPFを含有することが望ましい。LiPF6は、解離度が高いため、電解液の伝導度を高めることができ、さらに負極上での電解液の還元分解反応を抑制する作用がある。LiPFは単独で使用してもよいし、LiPFとそれ以外の電解質を使用してもよい。それ以外の電解質としては、通常、非水電解液用電解質として使用されるものであれば、いずれも使用することができるが、前述のリチウム塩の具体例のうちLiPF以外のリチウム塩が好ましい。
具体例としては、LiPFとLiBF、LiPFとLiN[SO(2K+1)(k=1〜8の整数)、LiPFとLiBFとLiN[SO(2k+1)](k=1〜8の整数)などが例示される。
【0092】
リチウム塩中に占めるLiPFの比率は、1質量%〜100質量%、好ましくは10質量%〜100質量%、さらに好ましくは50質量%〜100質量%が望ましい。このような電解質は、0.1モル/リットル〜3モル/リットル、好ましくは0.5モル/リットル〜2モル/リットルの濃度で非水電解液中に含まれることが好ましい。
【0093】
本発明の非水電解液は、リチウム二次電池用の非水電解液として好適であるばかりでなく、一次電池用の非水電解液、電気化学キャパシタ用の非水電解液、電気二重層キャパシタ、アルミ電解コンデンサー用の電解液としても用いることができる。
【0094】
<二次電池>
本発明のリチウム二次電池は、負極と、正極と、前記の非水電解液とを基本的に含んで構成されており、通常、負極と正極との間にセパレータが設けられている。
【0095】
(負極)
本発明に係る負極を構成する負極活物質としては、金属リチウム、リチウム含有合金、リチウムとの合金化が可能な金属もしくは合金、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な酸化物、リチウムイオンのドープ・脱ドープ可能な遷移金属窒素化物、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な炭素材料、又はこれらの混合物のいずれかを用いることができる。リチウムイオンとの合金化が可能な金属もしくは合金としては、シリコン、シリコン合金、スズ、スズ合金などを挙げることができる。
これらの中でもリチウムイオンをドープ・脱ドープすることが可能な炭素材料が好ましい。このような炭素材料は、カーボンブラック、活性炭、人造黒鉛、天然黒鉛であっても非晶質炭素であってもよく、繊維状、球状、ポテト状、フレーク状いずれの形態であってもよい。
【0096】
非晶質炭素材料として具体的には、ハードカーボン、コークス、1500℃以下に焼成したメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソペーズビッチカーボンファイバー(MCF)などが例示され、黒鉛材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛があり、人造黒鉛としては、黒鉛化MCMB、黒鉛化MCFなどが用いられる。また、黒鉛材料としては、ホウ素を含有するものなども用いることができ、また、金、白金、銀、銅、スズなどの金属で被覆したもの、非晶質炭素で被覆したり、非晶質炭素と黒鉛を混合した物も使用することができる。
【0097】
これらの炭素材料は、1種類で使用してもよく、2種類以上混合して使用してもよい。炭素材料としては、特にX線解析で測定した(002)面の面間隔d(002)が0.340nm以下の炭素材料が好ましく、真密度が1.70g/cm以上である黒鉛又はそれに近い性質を有する高結晶性炭素材料が好ましい。このような炭素材料を使用すると、電池のエネルギー密度を高くすることができる。
【0098】
(正極)
本発明に係る正極を構成する正極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な遷移金属を含有する物質で、当該遷移金属の少なくとも一部としてマンガンを含有するものが用いられる。マンガンは安価で入手が容易であり、かつ安全性が高いことから、正極活物質として好ましい。
本発明に係る正極活物質は、遷移金属全体に対してマンガンを35モル%以上含む遷移金属の複合酸化物であることが好ましい。当該遷移金属に対するマンガンは、さらに好ましくは50モル%以上、最も好ましくは80モル以上である。このように正極活物質中の遷移金属に占めるマンガンの割合が多い場合には、経済的に低コストであり、かつ安全性が向上する点で好ましい。さらに正極活物質はリチウムを含有することが好ましく、リチウムとマンガンを含有する複合酸化物がより好ましい。
【0099】
上記のマンガンを含有する正極活物質に特に制限はないが、例えば、下記の組成式(6)で表される組成を有するものが好ましい。
LiMn(1−y)M1 組成式(6)
【0100】
組成式(6)中、xは0<x≦1.2を満たす数、yは0≦y≦0.65を満たす数、M1はNi、Co、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、Zn、及びNbからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。
組成式(6)において、M1はNi、Co、Feであることが特に好ましく、また、xは0.2≦x≦1.15であることが特に好ましく、yは0≦y≦0.5であることが特に好ましく、yは0≦y≦0.2であることが最も好ましい。
【0101】
また、下記の組成式(7)で表される組成を有するものも好ましい。
LiMn(2−y)M2 組成式(7)
【0102】
組成式(7)中、xは0<x≦1.2を満たす数、yは0≦y≦1.3を満たす数、M2はNi、Co、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、Zn、およびNbからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。
組成式(7)において、M2はNi、Co、Al、Mgであることが特に好ましく、また、xは0.05≦x≦1.15であることが特に好ましく、yは0≦y≦1であることが特に好ましく、yは0≦y≦0.4であることが最も好ましい。
【0103】
組成式(7)で表される組成を有するものの具体例としては、例えばLiMn1.8Al0.2、LiMn1.5Ni0.5等を挙げることができる。
【0104】
上記の正極活物質は、1種類で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。正極活物質は通常導電性が不充分であるため、導電性助剤とともに使用して正極を構成する。導電助剤としては、カーボンブラック、アモルファスウィスカー、グラファイトなどの炭素材料を例示することができる。
【0105】
(セパレータの説明)
本発明に係るセパレータは、正極と負極を電気的に絶縁し且つリチウムイオンを透過する膜であって、多孔性膜や高分子電解質が例示される。多孔性膜としては微多孔性高分子フィルムが好適に使用され、材質としてポリオレフィン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル等が例示される。
特に、多孔性ポリオレフィンが好ましく、具体的には多孔性ポリエチレンフィルム、多孔性ポリプロピレンフィルム、又は多孔性のポリエチレンフィルムとポリプロピレンフィルムとの多層フィルムを例示することができる。多孔性ポリオレフィンフィルム上には、熱安定性に優れる他の樹脂がコーティングされてもよい。
高分子電解質としては、リチウム塩を溶解した高分子や、電解液で膨潤させた高分子等が挙げられる。本発明の電解液は、高分子を膨潤させて高分子電解質を得る目的で使用してもよい。
【0106】
(電池の構成)
本発明のリチウム二次電池は、前記の負極活物質、正極活物質及びセパレータを含む。本発明のリチウム二次電池は、種々公知の形状をとることができ、円筒型、コイン型、角型、フィルム型その他任意の形状に形成することができる。しかし、電池の基本構造は、形状によらず同じであり、目的に応じて設計変更を施すことができる。
【0107】
例えば、図1に示すコイン型電池では、円盤状負極2、非水電解液を注入したセパレータ5、円盤状正極1、必要に応じて、ステンレス、又はアルミニウムなどのスペーサー板7,8が、この順序に積層された状態で、極缶3と封口板4との間に収容される。正極缶3と封口板4とはガスケット6を介してかしめ密封する。
【0108】
本発明の実施形態の非水電解液及びその電解液を用いたリチウム二次電池の用途は特に限定されず、種々公知の用途に用いることができる。例えば、ノートパソコン、モバイルパソコン、携帯電話、ヘッドホンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、電子手帳、電卓、ラジオ、バックアップ電源用途、モーター、自動車、電気自動車、バイク、電動バイク、自転車、電動自転車、照明器具、ゲーム機、時計、電動工具、カメラ等に広く利用可能なものである。
【実施例】
【0109】
以下に実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
【0110】
[評価方法]
<電池の初期特性評価>
試験用電池を、1mA定電流かつ4.2V定電圧で充電し、1mA定電流で2.85Vまで放電を10サイクル行った。その際、1サイクル目の充電容量[mAh]、また、放電容量[mAh]から初回の充放電効率を下記式にて計算を行った。
【0111】
初回の充放電効率[%]
=1サイクル目の放電容量[mAh]/1サイクル目の充電容量[mAh]×100[%]
【0112】
<電池高温サイクル試験>
上記初期特性評価試験を終えた試験用電池を50℃の恒温槽中で3.5mA定電流かつ4.2V定電流定電圧で電流が0.05mAになるまで充電した後、3.5mA定電流で2.85Vまで放電した。この充放電サイクルを500サイクル行った。下記式にて、高温サイクル試験での容量維持率を算出した。
【0113】
高温サイクル試験での容量維持率[%]
=500サイクル目の放電容量[mAh]/1サイクル目の放電容量[mAh]×100[%]
【0114】
[実施例1]
<負極の作製>
人造黒鉛20質量部、天然黒鉛系黒鉛80質量部、カルボキシメチルセルロース1質量部及びSBRラテックス2質量部を水溶媒で混錬してペースト状の負極合剤スラリーを調製した。
次に、この負極合剤スラリーを厚さ18μmの帯状銅箔製の負極集電体に塗布し乾燥した後に、ロールプレスで圧縮して負極集電体と負極活物質層からなるシート状の負極を得た。このときの負極活物質層の塗布密度は10mg/cmであり、充填密度は1.5g/mlであった。
【0115】
<正極の作製>
LiMnを90質量部、アセチレンブラック5質量部及びポリフッ化ビニリデン5質量部をN−メチルピロリジノンを溶媒として混錬してペースト状の正極合剤スラリーを調製した。
次に、この正極合剤スラリーを厚さ20μmの帯状アルミ箔の正極集電体に塗布し乾燥した後に、ロールプレスで圧縮して正極集電体と正極活物質とからなるシート状の正極を得た。このときの正極活物質層の塗布密度は30mg/cmであり、充填密度は2.5g/mlであった。
【0116】
<非水電解液の調製>
非水溶媒としてエチレンカーボナート(EC)とジメチルカーボナート(DMC)とメチルエチルカーボナート(EMC)をそれぞれ34:33:33(質量比)の割合で混合した中に、電解質であるLiPFを溶解して、電解質濃度が1モル/リットルとなるように調製した。
前記の溶液に対して、添加剤として、1,3−プロパ−1−エンスルトン(PRS)、ビニレンカーボナート(VC)、及び一般式(1)の化合物である1,4−ジイソチオシアナトベンゼン(添加剤A)を非水電解液全量に対してそれぞれ0.5質量%含有するように調整した。
【0117】
<コイン型電池の作製>
上述の負極を直径14mmで、上述の正極を直径13mmで円盤状に打ち抜いて、コイン状の電極を得た。また厚さ20μmの微多孔性ポリエチレンフィルムを直径17mmの円盤状に打ち抜きセパレータを得た。
得られた負極、セパレータ及び正極を、この順序でステンレス製の電池缶(2032サイズ)内に積層し、非水電解液20ulを注入してセパレータと正極と負極に含漬させた。
更に、正極上にアルミニウム製の板(厚さ1.2mm、直径16mm)およびバネを乗せ、ポリプロピレン製のガスケットを介して、電池缶蓋をかしめることにより電池を密封し、直径20mm、高さ3.2mmのコイン型電池を作製した。
得られたコイン型電池について、初期特性評価、及び高温サイクル試験を実施した。
【0118】
[実施例2]
1,4−ジイソチオシアナトベンゼン(添加剤A)を、1,6−ジイソチオシアナトヘキサン(添加剤B)に変えて非水電解液全量に対して0.5質量%含有するように調整した以外は、実施例1と同様にしてコイン型電池を得た。得られたコイン型電池について、初期特性評価、及び高温サイクル試験を実施した。
【0119】
[実施例3]
添加剤として、1,3−プロパ−1−エンスルトン(PRS)、ビニレンカーボナート(VC)を添加せず、1,4−ジイソチオシアナトベンゼン(添加剤A)のみ非水電解液全量に対して0.5質量%含有するように調整した以外は、実施例1と同様にしてコイン型電池を得た。得られたコイン型電池について、初期特性評価、及び、高温サイクル試験を実施した。
【0120】
[比較例1]
非水電解液として、添加剤を無添加にしたこと以外は、実施例1と同様にしてコイン型電池を得た。得られたコイン型電池について、初期特性評価、及び、高温サイクル試験を実施した。
【0121】
[比較例2]
添加剤として、1,3−プロパ−1−エンスルトン(PRS)、ビニレンカーボナート(VC)を添加せず、添加剤1,6−ジイソシアナトヘキサン(添加剤C)のみを非水電解液全量に対して0.5質量%含有するように調整した以外は、実施例1と同様にしてコイン型電池を得た。得られたコイン型電池について、初期特性評価、及び、高温保存試験を実施した。
【0122】
実施例1〜3及び比較例1〜2の評価結果を表1に示す。
【0123】
【表1】

【0124】
添加剤A:1,4−ジイソチオシアナトベンゼン
添加剤B:1,6−ジイソチオシアナトヘキサン
添加剤C:1,6−ジイソシアナトヘキサン
【0125】
リチウム二次電池は、実施例3と比較例1とを比較すると、一般式(1)で表されるジイソチオシアナート化合物を単独で添加した場合でもサイクル特性の向上が確認できた。更に、一般式(2)で表される不飽和スルトン化合物及び一般式(3)で表されるビニレンカーボナート又はその誘導体を併用した実施例1及び2において、特にPRS及びVCを併用した場合において、サイクル特性を更に向上させることができることが明らかとなった。
【0126】
一方、実施例3と比較例2との比較により、ジイソシアナート化合物より、ジイソチオシナート化合物の方がサイクル特性を向上させることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本発明のリチウム二次電池の一例を示すコイン型電池の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0128】
1 正極
2 負極
3 正極缶
4 封口板
5 セパレータ
6 ガスケット
7,8 スペーサー板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を含有するリチウム二次電池の非水電解液。
【化1】


〔一般式(1)中、Xは、炭素数2〜14の直鎖アルキレン基、炭素数3〜14の分岐アルキレン基、炭素数3〜14の環状アルキレン基、又は二価の炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を示す。〕
【請求項2】
前記一般式(1)におけるXが、炭素数2〜14の直鎖アルキレン基、炭素数3〜14の分岐アルキレン基、又は炭素数3〜14の環状アルキレン基であり、
2つのイソチオシアナート基が、前記アルキレン基の互いに異なる2つの炭素原子に結合した構造を有する請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
前記二価の芳香族炭化水素基が、ベンゼン環、ナフタレン環、又はアントラセン環である請求項1に記載の非水電解液。
【請求項4】
前記二価の芳香族炭化水素基が、ベンゼン環である請求項3に記載の非水電解液。
【請求項5】
前記一般式(1)で表される化合物が、1,4−ジイソチオシアナトベンゼン、又は1,6−ジイソチオシアナトヘキサンである請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の非水電解液。
【請求項6】
更に、下記一般式(2)で表される化合物を含有する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の非水電解液。
【化2】


〔一般式(2)中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、フッ素原子、又はフッ素を含んでもよい炭素数1〜12の炭化水素基であり、nは0〜3の整数を表す。〕
【請求項7】
前記一般式(2)で表される化合物が、下記式(4)で表される化合物である請求項6に記載の非水電解液。
【化3】

【請求項8】
前記一般式(2)又は式(4)で表される化合物の添加量が、非水電解液全体に対して0.001質量%〜10質量%である請求項6又は請求項7に記載の非水電解液。
【請求項9】
更に、下記一般式(3)で表される化合物を含有する請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の非水電解液。
【化4】


〔一般式(3)中、R及びRは、各々独立に、水素原子、メチル基、エチル基、又はプロピル基を示す。〕
【請求項10】
前記一般式(3)で表される化合物が、下記式(5)で表される化合物である請求項9に記載の非水電解液。
【化5】

【請求項11】
前記一般式(3)又は式(5)で表される化合物の添加量が、非水電解液全体に対して0.001質量%〜10質量%である請求項9又は請求項10に記載の非水電解液。
【請求項12】
前記一般式(1)で表される化合物の添加量が、非水電解液全体に対して0.001質量%〜10質量%である請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の非水電解液。
【請求項13】
正極と、
負極活物質が金属リチウム、リチウム含有合金、リチウムとの合金化が可能な金属若しくは合金、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な酸化物、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な遷移金属窒素化物、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な炭素材料、又はこれらの混合物から選ばれた少なくとも一つからなる負極と、
請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の非水電解液と、
を有するリチウム二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2010−61851(P2010−61851A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223605(P2008−223605)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】