説明

ジェット印刷に適用可能なナノ粒子ベースの組成物及び印刷方法

基材に対する物質の塗布を制御するための装置及び方法には、基材から物質をブロックする、又は基材へ物質を引き付けるナノ粒子ベースのゲート剤を使用することが含まれる。その装置及び方法は、インクジェット技術を利用して、直接基材に、又は中間物の表面にゲート剤を塗布することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェット印刷に適用可能なナノ粒子ベースの組成物及び印刷方法に関する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国仮出願第60/965,361号(2007年8月20日出願)、第60/965,634号(2007年8月21日出願)、第60/965,753号(2007年8月22日出願)、第60/965,861号(2007年8月23日出願)、第60/965,744号(2007年8月22日出願)及び第60/965,743号(2007年8月22日出願)の利益を主張するものであり、上記に挙げた全ての出願は、これら全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
平版印刷技術及びグラビア印刷技術は、長年にわたって改善や改良が続けられてきている。平版印刷の基本的原理は、インキ受容領域とインキ反発領域との両方を有する表面から、インキを転写するステップを含む。オフセット印刷では、インキの中間転写が行われる。例えば、オフセット平版印刷機では、版胴からゴムブランケット胴へとインキが転写され、このブランケット胴から表面(例えば、紙ウェブ)にイメージが転写される。グラビア印刷では、インキが入る凹型のくぼみが刻まれた版胴が紙ウェブに接触し、帯電によりインキの紙への転写を促進する。
【0004】
初期の平版印刷技術では、隆起した部分のみにインキが付着するようにプレート上に形成された、印刷されるイメージのレリーフを利用していた。現在の平版印刷の印刷工程では、材料科学の原理を活用している。例えば、印刷される部分が疎水性を有するように、印刷されるイメージが親水性プレート(版)にエッチングされる。このプレートをインキ塗布の前に水で湿しておくと、油性インキは、プレートの疎水性部分(すなわち、湿し水工程で濡れなかった部分)のみに付着する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、これらの印刷技術のいずれもが、同じイメージが何度も繰り返し印刷されるという点において、同様の問題を抱えている。これは、従来の平版印刷で用いられるプレートが、各々、レリーフイメージ又はエッチングされた疎水性イメージ等の、固定の(すなわち、不変の)イメージを有することによるものである。また、グラビア印刷でも、版胴に刻まれた凹型のインキくぼみによる固定イメージが用いられている。平版印刷機に用いられるプレート、又は、グラビア印刷機に用いられる版胴もしくは版胴スリーブを作成するには、かなりの費用がかかる。このため、少ない部数を印刷するジョブ(すなわち、短期的ジョブ)を平版印刷機又はグラビア印刷機で行うのはコスト効率が悪い。また、高コストで低速ではあるがインクジェットヘッドを備えて改良された印刷機を除いて、従来の平版印刷機及びグラビア印刷機は、可変データ(例えば、請求書、財務表、ターゲット広告等)の印刷には用いられていない。通常、短期的ジョブ及び/又は可変性を必要とするジョブは、レーザープリンタ(静電トナー等)及び/又はインクジェットプリンタによって行われることが多い。
【0006】
従来、書籍や雑誌等の出版物は、多くのポストプレス工程(後処理工程)を含む印刷工程を経て印刷されている。例えば、雑誌では、1つのページ又はページ群が5,000回印刷される。この後、次のページ又はページ群が5,000回印刷される。雑誌の全ページが印刷されるまでの間、各ページ又はページ群について上記工程が繰り返される。そして、印刷されたページ又はページ群は後工程に送られて、集版及び裁断が行われ、最終製品になる。
【0007】
このような従来の作業フローは、時間及び作業集約型である。もし平版印刷の画質及び速度で可変イメージ(すなわち、ページごと又はページ群ごとに変わるイメージ)を印刷することができれば、雑誌は連続するページ(又はページ群)順に印刷され、完成した雑誌がそのまま印刷機から出てくるようになるであろう。これは、雑誌印刷の速度を劇的に上げ、雑誌印刷の費用を大幅に削減することになる。
【0008】
インクジェット印刷技術は、可変機能を有するプリンタを備えている。インクジェット技術には主に、サーマル方式(すなわち、バブルジェット(登録商標)方式)及び圧電方式と、コンティニュアス型と、の2つがある。いずれの方式でも、微小なインキ液滴がページに噴射される(すなわち、吹き付けられる)。サーマルジェットプリンタでは、熱源によりインキを気化させて、バブル(気泡)を発生させる。気泡の膨張により液滴が形成され、この液滴がプリントヘッドから噴射(吐出)される。圧電方式では、インクタンクの後ろ側にあるピエゾクリスタル素子を用いる。交流電位を用いて、クリスタル素子を振動させる。クリスタル素子の往復動作によって1滴分のインキが引き込まれ、このインキが紙に噴射される。コンティニュアス型ジェット方式の場合、ノズルがプリントを行わない時には、ノズルは連続的に噴射を続け、各ノズルに関連する電極が、液滴をタガーへと偏向させて集める。ノズルがプリントを行う場合には、電極は非アクティブとなり、その結果、液滴は基材(substrate)へと送られる。
【0009】
高速カラーインクジェット印刷の品質は、通常、オフセット平版印刷及びグラビア印刷の品質よりも桁違いに低い。更に、最速のインクジェットプリンタであっても、通常は、平版印刷又はグラビア印刷よりも印刷速度がかなり低い。従来のインクジェット印刷では、紙に水性インキを塗布することによる影響も問題になっている。水性インキを用いると、紙に水分が過剰に吸収されて、印刷されたウェブにシワ及び波打ちが生じることがあり、また、不注意で湿気にさらされることにより、ウェブが容易に破損することもある。この現象を抑制するために、インクジェットプリンタでは特殊な紙やコーティングが用いられる。このような紙は、従来の工業用印刷に使われるウェブ紙に比べて、非常に高価であることが多い。
【0010】
更に、インクジェット技術をカラー印刷に用いた場合には、インキの被覆面積及び水の吸収量が多くなる。これは、カラーイメージを生成するのに4つのカラー処理が用いられるためである。4つのカラー処理は、シアン、マゼンタ、イエロー、及び、ブラック(すなわち、CMYK)のインキの塗布量を調整することにより、ページに色を付けることを含む。このため、ページの部分によっては、所望の色を出すために4色全てのインキの層が重なることがある。また、インクジェットプリンタによって形成されたドットが広がって、ぼやけたイメージになってしまうことがある。更に、インクジェットプリンタで使用されるインキは、従来の平版印刷及びグラビア印刷で使用されているインキと比べて非常に高価である。この経済的要因のみにより、インクジェット技術は、商業印刷用途にはほとんど利用されず、特に、長期間用途には利用されない。
【0011】
現在のところ、レーザー印刷の高速可変印刷化には限度がある。これは、その生産速度が、まだ、オフセット印刷及びグラビア印刷に比べて非常に低いこと、及び、その資材コスト(例えば、トナー等)が、市販のオフセットインキ又はグラビアインキの価格と比べて非常に高価であること、に起因している。レーザーカラー印刷では、印刷されたページを折り曲げた際にひび割れが発生することが多いので、雑誌及び他の製本出版物に対してレーザーカラー印刷を用いるのも難しい。
【0012】
印刷技術は、他の製品(例えば、トランジスタ及び他のデバイスを含む電気部品)の製造に有用であることが知られている。また更に、印又は他のマーキングが、紙以外の基材(プラスチックフィルムや金属基材等)に印刷されている。この印刷技術には、上述した紙基材印刷用の技術を用いることが可能であるが、この場合でも、この技術には同様の欠点がある。他の場合では、平版印刷のように、プレートの印刷前処理を必要とするフレキソ印刷が用いられる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の一態様において、ナノ粒子ベースのゲート剤(gating agent)組成物には、約5%〜約20%の水分散性成分、約5%〜約15%のアミン、及び約75%〜約95%の水が含まれる。
【0014】
別の態様において、高速可変印刷運転に用いられる装置には、少なくとも1つの表面を有するハウジング、その1つの表面上に備えられる一連の噴射ノズルであって、各噴射ノズルが要求に応じて液滴を噴射可能な噴射ノズル、及びノズルと連通するゲート剤供給源が含まれる。ゲート剤は、約8%〜約10%の界面活性剤を含んで構成され、ゲート剤組成物の残りは、水を含んで構成される。
【0015】
別の態様において、高速可変印刷の方法には、パターンを形成するように基材上へゲート剤組成物を噴射するステップが含まれる。ゲート剤は、その組成物が、約1〜14mPa・sの範囲内の粘度を有するように、約0.05〜約10重量%のブロック剤、最大約3重量%の表面張力調整化合物、最大約8重量%の粘度調整剤を含み、ゲート剤組成物の残りは、溶媒を含んで構成される。ゲート剤は、60dyn/cm(0.06N/m)未満の動的表面張力を有する。高速可変印刷の方法には、基材に印刷物質を塗布するステップが更に含まれ、ゲート剤のパターンによって覆われない領域においてプリントイメージを形成する。
【0016】
また別の態様において、高速可変印刷運転に用いられる装置には、少なくとも1つの表面を有するハウジング、その1つの表面に備えられる一連の噴射ノズルであって、各噴射ノズルが要求に応じて液滴を噴射可能な噴射ノズル、及びノズルに連通するゲート剤供給源が含まれる。ゲート剤は、その組成物が約1〜14mPa・sの範囲内の粘度を有するように、約0.05〜約10重量%のブロック剤、最大約3重量%の表面調整化合物、最大約8重量%の粘度調整剤を含み、ゲート剤組成物の残りは、溶媒を含んで構成される。ゲート剤は、60dyn/cm(0.06N/m)未満の動的表面張力を有する。
【0017】
基材への物質塗布を制御する装置及びその方法の更なる特徴、これらの本質、及び、様々な効果については、以下の詳細な説明及び添付図面によって明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来技術における印刷システムの側面図である。
【図2】基材への物質塗布を制御する装置の一例示的実施形態の側面図である。
【図3】基材への物質塗布を制御する装置の一例示的実施形態の側面図である。
【図4】図3に示される装置により可能な出力を例示する図である。
【図5】本発明の装置の一実施形態の概略図である。
【図6】図5の装置の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、従来型のオフセット平版印刷装置100を示している。従来の平版印刷工程においては、印刷されるイメージが親水性プレート102にエッチングされてインキが付着する疎水性部分が形成される。親水性プレート102は、版胴104に取り付けられ、回転して湿しシステム106及びインキシステム108を通過する。湿しシステム106は水供給装置107を含み、また、インキシステム108はインキ供給装置109を含む。親水性プレート102の親水性部分は、湿しシステム106によって湿らされる。油性のインキを用いることにより、インキは、プレート102の疎水性部分のみに付着する。
【0020】
ブランケット胴110が用いられる場合は、インキイメージが版胴104からブランケット胴110へと転写される。そして、このインキイメージが、ブランケット胴110と圧胴114との間のウェブ112(例えば、紙)に転写される。圧胴114を用いたウェブ112へのイメージ転写は、印刷されるイメージとウェブ112とを実質的に均等な圧力又は力で押圧することにより行われる。版胴104とウェブ112との間に媒介物としてゴムブランケットが用いられる場合には、この工程は一般に「オフセット印刷」と呼ばれる。プレート102は、エッチングが行われて版胴104に取り付けられているので、平版印刷は同一のイメージを何度も印刷する際に用いられる。平版印刷は、高品質の出力が得られるという点で、望ましい。4台の印刷装置を連続して配置することにより、雑誌品質の4色のイメージ印刷が可能になる。
【0021】
図2に示されるように一態様によれば、基材への物質の塗布を制御する装置及び方法は、基材からの物質をブロック(阻止)する、又は基材に物質を吸着させるナノ粒子ベースのゲート剤の使用を伴う。
【0022】
本開示の別の態様は、基材に一時的に塗布されるナノ粒子ベースのゲート剤を用いた高速可変印刷の方法を提供することである。この方法には、基材を提供するとともに、基材上への噴射可能なゲート剤組成物を基材へ塗布して、基材上のイメージ形成を可能にすることが含まれる。
【0023】
本明細書に開示された装置及び方法は、基材又は中間物の表面へ直接ゲート剤を塗布するための噴射技術を利用する。インキの塗布を要望通りにブロックするいかなる薬剤も利用可能である。本明細書に開示された実施形態は、ブロック用組成物及び転写補助用組成物のいずれか一方(若しくは、両方)、又は両方の特性を有する1つ以上の組成物を用いることを含んでいるので、以下、主物質(principal substance)に対するこれらの機能のいずれか一方又は両方を有するゲート剤について説明する。特に、ゲート剤は、主物質の全部、略全部、又は、一部の転写をブロックするものである。ゲート剤は、その代わりに、又は追加的に、主物質の全部、略全部、又は一部分の転写を補助することが可能であり、あるいは、主物質の一部分をブロックし、かつ、他部分の転写を補助することが可能である。主物質の例には、例えば、平版インキ、染料、タンパク質(例えば、抗体、酵素、プリオン)、核酸(例えば、DNA及び/又はRNAのオリゴヌクレオチド)、小分子(例えば、無機分子及び/又は有機分子)、生体サンプル(例えば、細胞及び/又はウィルスの溶解物、及びこれらの留分)、調合薬(抗生物質及び/又は他の薬剤、及び塩類、前駆体、及びこれらのプロドラッグを含む)、細胞(例えば、原核細胞、真正細菌、及び/又は真核細胞)、及び金属(例えば、酸化ケイ素、導電性金属及びこの酸化物)が含まれる。図2において、主物質はインキであり、基材は紙ウェブであり、そして、主物質の選択部分がイメージ領域である。
【0024】
図2は、平版印刷業界で知られているような、インキシステム202、プレート204、版胴206、ブランケット胴208、及び、圧胴210を有する印刷装置200を示している。プレート204は、その全体が親水性である(例えば、標準アルミニウム平版プレート)。但し、図1の湿しシステム106は、図2では、クリーニングシステム212及び水溶液ジェットシステム214に置き換えられている。
【0025】
水溶液ジェットシステム214は、一連のジェットカートリッジ(例えば、バブルジェット(登録商標)カートリッジ、サーマルカートリッジ、圧電カートリッジ、コンティニュアスインクジェットシステム等)を有する。バブルジェット(登録商標)は、ヒーターの作動により、液滴を噴射する。圧電システムは、圧電アクチュエータの作動により、液滴を噴射する。液滴は、ジェットカートリッジに設けられた小さな孔から噴射する。カートリッジには、多数の孔があけられている。一般的な例としては、ジェットカートリッジは600個の孔を有しており、300個ずつ2列に配置されることが多い。水溶液ジェットユニットは、既知のプリントカートリッジユニットで、例えば、HP、Lexmark、Spectra、Canon等の各社によって製造されるものである。ジェットカートリッジ及びジェットヘッドの一例が、Murakamiなどの米国特許第7,240,998号に開示されており、それらは、参照によって本明細書に組み込まれる。コンティニュアスシステムは、Versamarkという商標名で、コダック(Kodak)社から入手可能である。
【0026】
水溶液ジェットシステム214、又は、本明細書に開示される、いかなるジェットシステムを用いても、インクジェットカートリッジからゲート剤又は主物質が噴射される。一実施形態において、ゲート剤及び/又は主物質には水溶液又は非水溶液が含まれる。水溶液には、水、水溶性の有機化合物、又はこれらの組み合わせが含まれる。特定の一態様では、水及び溶解共力剤を用いる。溶解共力剤は、通常、水溶性又は混和性の化合物であり、均質な組成物を形成する。ゲート剤に溶解共力剤を加える1つの理由は、それが表面張力調整剤として作用するためである。プロセスの時間スケールが短いので、表面張力の著しい変化が望ましいのだが、界面活性剤を使用しただけでは得られない。組成物は、それが塗布されるときには、ある特定の表面張力を、そして最終的な印刷表面又は媒体上にイメージが形成されるときには、それとは異なる表面張力の特性を備えることが望ましい。例えば、組成物の付着直後、少量が分散してジェットヘッド間の極小隙間を満たすことが望ましい。しかし、形成されるイメージの端部がくっきり明瞭となるようにイメージが形成されるときには、表面張力は迅速に変化する必要がある。溶解共力剤は、ゲート剤の表面張力を特定のレベルに調整することができる。ブロックプロセスの時間スケールの問題があるため、接触面への界面活性剤の移動のみに依存しているだけでは、要求レベルまで表面張力を調整するには不十分である。
【0027】
好適な水溶性又は混和性有機化合物は、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、又はtert−ブチルアルコール等のようなアルコール、例えばジメチルホルムアミド又はジメチルアセトアミド等のようなアミド、カルボン酸、例えば酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、及びエチレンカーボネート等のようなエステル、例えば2−ブトキシエタノール、テトラヒドロフラン又はジオキサン等のようなエーテル、グリセリン、例えばポリプロピレングリコール及びジエチレングリコール等のようなグリコール、グリコールエステル、例えばプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル等のようなグリコールエーテル、例えばアセトン、ジアセトンアルコール、又はメチルエチルケトン等のようなケトン、例えばN−イソプロピルカプロラクタム又はN−エチルバレロラクタム、2−ピロリジノン、N−メチルピロリジノン等のようなラクタム、例えばブチロラクトン等のようなラクトン、有機硫化物、例えばジメチルスルホン等のようなスルホン、例えばジメチルスルホキシド又はテトラメチレンスルホキシド等のような有機スルホキシド、及びその派生物並びにその混合物を含む。
【0028】
本明細書に開示されているように、他の実施形態において、ゲート剤は、例えばナノ粒子などのような水分散性成分を含んでもよく、それは調整されて表面へ塗布される。ナノ粒子ベースのゲート剤は、例えば、本明細書で詳述される基材、プレート及び/又はローラー等いかなる表面にも塗布が可能である。
【0029】
ある実施形態において、ナノ粒子ベースのゲート剤は、石英系であってもよい。他の実施形態においては、ナノ粒子ベースのゲート剤は、アルミナ、ジルコニア、酸化亜鉛、コロイダルセリア、酸化アンチモン又は他の同種物質から形成されてもよい。本明細書において特定のナノ粒子が記載されているが、表面に所望の特性を与える他のナノ粒子も有用である。
【0030】
有用で好適な石英系ナノ粒子には、Snowtex(登録商標)を含む、日産化学工業(テキサス州、ヒューストン)社により提供されるもの、及び/又はNycol Nexil 20Aを含む、Nyacol Nanotechnologies社により提供されるものが含まれる。石英系のナノ粒子は、球状粒子、楕円状粒子として提供されるか、又は他のいかなる形状で提供されてもよい。
【0031】
本開示で有用なナノ粒子は、外形寸法が、約1〜約10nm、又は約5〜約15nm、又は約3〜約30nm、又は約50nm未満、又は約100nm未満という特徴を有する。
【0032】
例示的に、石英系ナノ粒子は、石英の重量百分率が、石英粒子の約1重量%〜約50重量%、又は約5重量%〜約20重量%というサイズ特性を有する。球状粒子の寸法は、約3〜約100nm又は約5〜約20nmである。楕円状粒子の寸法は、幅が約3〜約50nm、かつ長さが約50〜約150nm、又は幅が約9〜約15nm、かつ長さが約80〜約100nmである。
【0033】
サプライヤーからナノ粒子が納品される前か後において、他の構成物質は、ナノ粒子に添加されてもよい。例えば、ナノ粒子は、約3重量%未満又は約1重量%未満又は約0.05重量%未満又は約0.05重量%未満のナトリウムイオン又は他のアルカリイオンを含んでもよい。また、所望の特性を与える添加構成物質は、サプライヤーから納品される前か後において、有用な他のいかなる重量割合で添加されてもよい。
【0034】
ある実施形態において、ナノ粒子は、エトキシレート(EO)、プロポキシレート(PO)、及び/又はアミンを含むエトキシレート/プロポキシレート(EO/PO)部分を用いて、官能基化されてもよい。いかなるアミンも、1級アミン、2級アミン、及び/又は3級アミンを含んで用いられる。例えば、アミンのSurfonamine(登録商標)シリーズ、特にB−60、B−30、B−200を含む、Huntsman International LLCにより市販されているアミン・エトキシレートは、本開示に有用である。EO/PO部分の一般的な例は、単一のエトキシ基及び9つのプロポキシ基を含む、アミン・エトキシレートである。エトキシ基及びプロポキシ基の数に大きなばらつきがあることにより、所望のHLB(親水性−親油性バランス)及び抵抗特性へゲート剤を調整することが容易となる。HLBは、約2〜約18の範囲内にあってもよいが、ナノ粒子は、官能基化されて、HLBがこの範囲から外れることにより、所望の特性を与えることになる。
【0035】
他の実施形態において、ナノ粒子は、他の官能基を含む部分を用いて官能基化されてもよい。例えば、脂肪酸エトキシレート又はポリエーテルアミンが用いられる。Jeffamine(登録商標)シリーズを含む、Huntsman International LLCにより市販されているポリエーテルアミンは、本開示に有用である。例えば、Huntsman International LLCによる取扱商品Teric(商標)及びEcoteric(商標)などの、脂肪酸エトキシレートは、本開示に有用である。
【0036】
理論に拘束されるものではないが、官能基を含む部分に正電荷を与えるプロトン化を通じて、EO/POアミンは、石英粒子又は他の好適なナノ粒子ベースの表面に静電的に吸着されると考えられる。ナノ粒子の表面は、粒子表面の化学的な性質のために、正味の負電荷を帯びると考えられる。さらに、官能基化されたナノ粒子は、EO/POによって自己界面活性特性を有し、調整可能な紙ホールド−アウト(hold-out)特性を備える。アミン・エトキシレートを備えた石英コア又はナノ粒子コアの改良を通じて、EO/POは、コアの周囲に層又は殻構造を形成すると考えられる。EO/POアミンの大きさを調節することで、所望の化学的及び立体的特性を付与することができる。
【0037】
例として、本開示に有用なナノ粒子は、次の処理を用いて官能基化されてもよい。最初に、50g(0.05kg)のSurfonamine(登録商標)B−60が、1リットルのガラスビーカーに加えられ、150g(0.15kg)の純水が、ビーカーに加えられた。ビーカーは、磁気かくはん機を含み、このかくはん機は、純水がビーカーに加えられた後に作動された。混合物のpHが、標準的な実験用pHメータを用いて計測され、約11であることが判明した。混合物のpHは、混合物に1.5規定の塩酸(JT Baker(登録商標)社から入手可能)を緩徐に添加することにより、約4まで調節された。分液漏斗(VWR社から入手可能)を用いて、20%の日産化学工業社製Snowtex−O(登録商標)50g(0.05kg)が、350g(0.35kg)の純水とともにビーカーに添加された。Snowtex−O(登録商標)のナノ粒子が混合物に加えられると同時に、pHが監視された。石英ナノ粒子の添加が完了すると、pHは約4となった。混合物は、室温で翌日までかくはんされた。約100g(0.1kg)の酸洗浄済み珪藻土が混合物に添加され、約5分間かくはんされた。得られた混合物は、Whatman(登録商標)のグレード3(150mm)ろ紙を用いたブフナー漏斗でろ過された。ろ過された液体は集められ、公称0.22のVersapor(登録商標)メンブレン・プレディスク・フィルターを備えた1μm(1×10-6m)のアブソリュート・ポリエステル・フィルタを通してろ過された。得られたろ液は、容量1リットルのNalgene(登録商標)ボトルに集められた。
【0038】
別の実施形態において、ナノ粒子は、より大きな官能基を用いて官能基化されてもよい。例えば、ポリエーテルは、本開示に有用である。Dow(登録商標)社により市販されており、例えばTriton(商標)X−100などのTriton(商標)シリーズに含まれるノニルフェノール・エトキシレートは、本開示に有用なポリエーテルの一典型例である。本実施形態のナノ粒子は、前述と同様の方法で官能基化されてもよい。より大きな官能基を用いてナノ粒子を官能基化することにより、固有の化学的特性をゲート剤に付与してもよいと考えられている。官能基化の結果として、ゲート剤は例えば、「自己界面活性」、及び「自己平滑化作用」といった化学的特性を得る。
【0039】
別の実施形態において、ゲート剤は、最大約15%、又は約8%〜約10%、又は約3%〜約5%の量で存在する界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤又は表面調整剤には、例えば、ポロキサマー、エトキシ化アセチレンジオール又は他のエトキシ化界面活性剤などのような非イオン性界面活性剤が含まれる。アニオン性、非イオン性、カチオン性又は他のタイプの界面活性剤を含むいかなるタイプの界面活性剤も、所望の特性を付与するためにゲート剤に含めることは有用である。さらに、平滑剤は、表面調整剤としても作用することが可能である。表面調整剤の別種には、少なくとも1つの親水性部分及び少なくとも1つの疎水性/疎油性部分を有する多官能基化合物(例えば、3M製Novecのようなフッ素系界面活性剤)が含まれる。この種の化合物により、平版インキをはじく傾向がある親水性部分を有した水溶性阻止媒体を基材上へ噴射することが可能となる。
【0040】
さらに好適な非イオン性界面活性剤には、例えば、Dow Chemical社により市販されているTergitolシリーズ、例えば15−Sといった第2アルコールエトキシレート、炭素数11〜15の直鎖アルコールエトキシレート、オクチルフェノール(ocyylphenole)エトキシレート、エトキシ化アセチレンジオール、及びN−オクチル−2−ピロリドンが含まれる。前記のような、種々の非イオン性界面活性剤を混合した物を用いることにより、約2〜約18のHLBを有する複合的な界面活性効果を提供することができる。
【0041】
使用に適したポロキサマー界面活性剤は、化学式HO(CHCHO)(CHCHCHO)(CHCHO)Hにより表すことができ、この場合に、x,y及びzは2〜130の範囲の整数を表し、特に、15〜100の値を取る。また、xとzとは同一の値を取るが、これらはyから独立して選択される。これらの中では、ポロキサマー188(x=75,y=30及びz=75)が使用可能であり、これは、BASF社からLutrol(登録商標)F68(あるいはPluronic(登録商標)F68)という商品名で入手可能である。また、ポロキサマー185(x=19,y=30及びz=19)が使用可能であり、これは、ISP社からLubrajel(登録商標)WAという商品名で入手可能である。また、ポロキサマー235(x=27,y=39及びz=27)が使用可能であり、これは、BASF社からPluronic(登録商標)F85という商品名で入手可能である。また、ポロキサマー238(x=97,=39及びz=97)が使用可能であり、これは、BASF社からPluronic(登録商標)F88という商品名で入手可能である。また、BASF社製Pluronic(登録商標)123、及び/又はBASF社製Pluronic(登録商標)127のポロキサマー407(x=106、y=70、そしてz=106)が使用可能である。さらに、いくつかの例を挙げると、ポロキサマー101、108、124、181、182、184、217、231、234、237、282、288、331、333、334、335、338、401、402、及び403は、夫々、ゲート剤に含まれ得る。
【0042】
使用に適したエトキシ化アセチレンジオールには、Air Products社製Surfynol(登録商標)400シリーズの界面活性剤(それぞれSurfynol(登録商標)420、440、465、及び485)が含まれる。Surfynol(登録商標)400シリーズの界面活性剤は、様々な量の酸化エチレンを、テトラ−メチル−5−デシン−4,7−ジオール(Air Products社製Surfynol(登録商標)104)に反応させて製造される。さらに好適な界面活性剤には、OSi Specialties社(コネティカット州ダンベリー、以前は、Union Carbide Organo Silicon Products, System, and Services社)から市販されているシロキサンブロックポリマー、SILWET(商標名)7200が含まれる。別の好適なゲート剤成分は、BASF社のSokalan(登録商標)のマレイン酸/オレフィンコポリマーである。他の有用な物質には、ポリエチレンイミン(PEI、分子量約1,200)、エトキシ化PEI(分子量約50,000)、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB)、ポリオキシアルキレンエーテル、ポリ(オキシエチレン)セチル・エーテル(例えば、Atlas Chemicals社製のBrij(登録商標)56又はBrij(登録商標)58)が含まれてもよい。
【0043】
界面活性剤を、芳香族アミンを含む立体的に大きいアミンと反応させ、濃度希釈に使用可能な有機塩を形成してもよい。本開示に有用なアミンには、ジシクロヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、及び/又はブチルアミンが含まれてもよい。
【0044】
ある実施形態において、必要であれば、ゲート剤組成物は、粘度を1〜14mPa・sにするための粘度調整剤を含んでもよい。より好ましくは、粘度は1〜8mPa・sに設定され、そして最も好ましくは、粘度は1〜4mPa・sに設定される。いくつかの例をあげると、この粘度調整剤は、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、セルロース材料(例えばCMC)、キサンタンゴム、又はBASF社製の溶解性高分子であるJoncryl(登録商標)60、Joncryl(登録商標)52、Joncryl(登録商標)61、Joncryl(登録商標)678、Joncryl(登録商標)682、ニュージャージー州ウェーンのInternational Specialty products社から市販されているPVPのK−12からK−90といったポリビニルピロリドン、及び炭素数15〜200のポリグリコールを含んでもよい。
【0045】
ある実施形態において、ゲート剤は、約0.05〜約10%のブロック化合物を含む。好適なブロック化合物の例には、International Specialty products社(ニュージャージー州ウェーン)からいずれも市販されている、Gantrez S−96−BF及びGantrez AN−119などのポリビニルメチレン/マレイン酸共重合体、グリセリン、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、例えばGP217高分子化合物などのシリコーンポリオール、quaterium8などのカチオン性シリコーンポリオール、AQ48超高分子化合物(ultrapolymer)などのスルホン化高分子化合物、及びその混合物が含まれる。
【0046】
他の実施形態において、表面張力調整剤は、拡散を低減するために用いられる。好ましくは、動的な表面張力は60dyn/cm(0.06N/m)未満に設定される。より好ましくは、46dyn/cm(0.046N/m)未満の動的な表面張力が実現される。表面張力調整剤は、特に、ポロキサマー(例えば、BASF社のPluronic(登録商標))又はAir Product社のSurfynols(登録商標)(例えば、Surfynols(登録商標)400シリーズ界面活性剤)、米国コネティカット州ウォリンフォードのBYK−Chemie社によって製造される、BYX−381、BYK−333及びBYK−380Nポリジメチルシロキサンなどの平滑剤を含み得る。
【0047】
さらに他の実施形態において、ゲート剤成分は、受容面調整剤を含む。受容面(例えば紙)調整剤は、遮られたインキ又は他の主物質の受容面への転写を促進する。受容面調整剤は、いくつか例を挙げると、例えば金属粉、及びコルク粉等の表面散布剤を含み得る。受容面調整化合物の他の例には、ポリエチレンイミンとエトキシ化ポリエチレンイミン(10〜80%のエトキシル化)が含まれる。
【0048】
さらに、ゲート剤の考え得る成分は、溶媒、防腐剤、カール防止剤(anticurl agent)、ゲート剤固定材、保湿剤(例えば、プロピレン・グリコール)、消毒剤、殺生物剤(バイオサイド)、着色剤、芳香、界面活性剤、ポリマー、消泡剤、平滑剤、塩類、無機化合物、有機化合物、水、pH調整剤、及びこれらいずれかの組合せ、の少なくとも1つを含む。
【0049】
水溶液ジェットシステム214は、印刷イメージのうち、ポジイメージ(又はネガイメージ)の全部又はその一部を、版胴206上に「プリント」又は噴射するために用いられる。例えば、イメージコントローラがデータシステムからイメージデータを受信することができる。このイメージデータは、印刷されるイメージ又は印刷されるネガイメージを表現する。このイメージデータには、比較的頻繁に変更される(例えば、ページごとに異なる)可変イメージデータ、変更頻度の少ない(例えば、100ページごとに異なる)準固定イメージデータ、不変の固定イメージデータ、及び、可変・準固定・固定の各イメージデータの組み合わせが含まれる。イメージデータの一部又は全部は、バイナリデータ、ビットマップデータ、ページ記述コード、又は、これらの組み合わせとして保存される。例えば、ある実施形態では、ポストスクリプト(PostScript)又はプリンタコマンド言語(PCL)等のページ記述言語(PDL)が、イメージデータを定義及び解釈するために用いられる。そして、データシステムは、水溶液ジェットシステム214を電子制御して、様々なタイプのイメージデータの一部又は全部が表現するイメージ(又はそのネガイメージ)を水溶液で版胴206にプリントする。ネガイメージは、紙にインキが付着しない各部分のイメージである。このため、版胴206上のあるポイントが水溶液ジェットシステム214を通過した後、そのポイントに水溶液滴が配置されていない場合には、インキシステム202からのインキのみがそのポイントに付着することになる。ある実施形態では、真空源又は熱源215が水溶液ジェットシステム214の隣に又はその近傍に配置される。版胴206が1回転し、イメージをブランケット胴208に転写した後、版胴はクリーニングシステム212を通過して残留したインキ及び/又は水溶液が除去され、これにより、版胴206は次の回転で(又は所定回転後に)水溶液ジェットシステム214による新たなイメージプリントを行うことができる。
【0050】
ある実施形態では、版胴206は、従来の平版印刷技術によりプレート204にエッチングされた、特定の印刷ジョブに対する固定データの全てを有している。そして、水溶液ジェットシステム214を用いて、プレート204の特定部分に、可変又は準固定イメージデータによって表現されるジョブの可変部分のみを、イメージ化することができる。他の実施形態では、プレート204は用いられない。その代わりとして、当該技術分野で知られているように、版胴206の表面に加工や処理又はミーリングを行って、水溶液ジェットシステム214からの水溶液が付着するようにしている。また、版胴206に加工や処理あるいはミーリングを行って、固定データを含むと共に、水溶液を付着させて可変データを取り込めるようにしている。本開示のこれらの及び他の実施形態では、必要に応じて、ブランケット胴208を完全に除去し、イメージをウェブ216に直接転写するようにしてもよい。
【0051】
前述のように、ゲート剤は、1つ以上のジェットヘッドを用いて、版胴に塗布されるか、又は、ブランケット胴に直接塗布される。そして、インキが、選択的でない方法で版胴又はブランケット胴に塗布される。この後、インキは、版胴又はブランケット胴上のイメージ領域から紙ウェブに転写される。ゲート剤及びインキがブランケット胴に直接塗布される場合には、版胴を用いる必要はない。固定印刷ジョブ(特に短期間のものであるが、これに限らない)、又は、あらゆるサイズの可変もしくはカスタマイズ可能な印刷ジョブ(例えば、ターゲットメーリング、顧客への取引明細書、壁紙、カスタマイズされた包装紙等)を含む特定の印刷用途にとって有益となり得る。
【0052】
ゲート剤は、例えば、噴射装置、又は、他の精密制御可能なスプレー技術又は塗布技術を用いて、基材への選択的な直接噴霧、媒介物(中間物)の表面への選択的な噴霧、又は、主物質への選択的な直接噴霧によって、含水液体の状態で塗布される。含水液体は、通常、低粘度であり、また、障害物の形成を抑制する傾向を有するので、ジェットヘッドでの使用には有利である。但し、ゲート剤は、含水液体以外の形態で、噴射技術を用いて塗布されてもよい。例としては、紫外線硬化系及び非水シロキサン系が含まれる。更に、ゲート剤は、液体に限られているわけではなく、固体(例えば、薄膜、ペースト、ゲル、発泡体、又は、母材(matrix)等)の状態で使用されてもよい。ゲート剤は、粉末固体を含んで構成可能であり、この粉末固体は、主物質の塗布を抑制もしくは補助するように帯電され、又は、反対の極性の静電気電荷によって適切な位置に保持される。
【0053】
本開示のいずれのシステムについても、異なるサイズのゲート剤液滴を形成できるように、変更することが可能である。通常は、より高い解像度グリッド、すなわち300dpi以上のグリッドは、適合させた液滴サイズとともに、例えばインキ等の主物質のブロック又は転写/回収を向上させる。また、グリッドのdpiが増加するにつれて、最も効果的な液滴のサイズは一般的に小さくなる。比較的大きなサイズの液滴は、イメージ領域における強制湿潤化(強制ウェッティング)の影響を比較的受けやすい。この強制ウェッティングは、イメージが表面間(例えば、プレートとブランケットとの間の押圧(ニップ)領域)で転写されるときに、隣接した噴射液滴が結合することに起因するものであり、プリント濃度の低下によるイメージ品質の低下をもたらすものである。この強制ウェッティングについては、1つ以上の成分の追加もしくは除去、及び/又は、ゲート剤における1つ以上の物理的特性の変更もしくは調整によって最小化することが可能である。例えば、界面活性剤を若干減らすことによって、ゴーストの発生を抑制することができる一方、他の界面活性剤を使用、追加、及び/又は、代用することによっても、イメージ品質を改善することができる。あるいは、胴に塗布されるゲート剤の電荷と反対の極性を有する静電気電荷を胴に印加することも可能である。これにより得られる静電気引力によって、強制ウェッティングが抑制されるか、又は、解消される。
【0054】
ゲート剤は、主物質の塗布をブロックもしくは補助するために用いられるが、具体的には、イメージ領域内もしくは非イメージ領域内の主物質を除去もしくはブロックするか又はイメージ領域内もしくは非イメージ領域内に主物質を塗布すること、非イメージ領域内の補助剤を除去すること、特定の領域もしくは全領域における主物質の塗布を防止すること、ゲート剤もしくは主物質の塗布に影響を及ぼすようにゲート剤もしくは主物質の物理的特性もしくは化学的特性(例えば、ゲート剤もしくは主物質の粘度もしくは表面張力)を変化させること、上述のあらゆる組み合わせ、又は、あらゆる他の適切な方法によって、主物質の塗布をブロックもしくは補助する。
【0055】
更に他の実施形態では、基材に塗布される主物質の塗布量が、障壁性を有するバリア剤又はブロック剤の形でゲート剤を用いることにより変化する。この実施形態では、主物質の基材への塗布が、完全に又は部分的にブロックされ、この結果、主物質は、障壁性を有するバリア剤又はブロック剤の及ぶ範囲で、中間レベルで基材に塗布され、この結果、所望の中間レベルでの主物質塗布に従って、基材上における主物質の密度勾配がもたらされる。
【0056】
さらに実施形態は、表面への主物質の塗布前又は塗布後に、表面又は他の基材上の主物質に選択的に加えられるブロック剤を含む。例えば、ブロック剤には、その中に分散する物質であって、特定の実施形態において使用される主物質との反親和性を有するものが含まれる。そして、ブロック剤は、非イメージ領域における表面に塗布されて、ブロック剤内に分散した物質が、表面に吸収又は表面上に付着、保持される。それから、その表面は、移動して主物質の塗布された別の表面に近接する。ブロック剤中に分散される物質は、非イメージ領域への主物質の付着を妨げるため、主物質は、ブロック剤を含まない領域においてのみ前者の表面に転写される。
【0057】
ゲート剤及び印刷媒体の特性を変えること(例えば、ボンド紙、光沢紙を用いたり、様々なコーティング技術を使用したりすること)により、水溶液ジェットシステムを用いてプリントされる保護ネガイメージと、印刷媒体と、の間に、所望の相互作用を生じさせることが可能である。例えば、イメージの鮮明さが求められる場合には、印刷媒体に全く吸収されないようなゲート剤を選択するとよい。一方、水溶液ジェットシステムからの水溶液で覆われた部分であっても、ある程度のインキ転写が求められる場合には、水溶液を急速に吸収する印刷媒体を用いるとよく、これにより、その覆われた部分からもある程度のインキを転写することが可能となる。また、非イメージ領域とイメージ領域との間の境界が保持されるように、ゲート剤の粘度及び/又はゲート剤の表面張力を高めたり、非イメージ領域とイメージ領域のそれぞれに対するサポート剤(supporting agent)及び/又はシステムを用いたりすることによって、拡散を抑制することができ、これにより、品質を改善することができる。特に、ゲート剤の粘度を1〜14mPa・sに制御することにより、エッジ及び線をギザギザにするなどのイメージを喪失する強制ウエッティングであるフラッディングを防止するとともに、ゴーストの発生を最小限にする。ゴーストは、胴の非イメージ領域にインキが移動する場合、又は前回の印刷から胴にインキ若しくはゲート剤が残留している場合に発生する。ゲート剤の粘度は、14mPa・s未満の値で維持されて、これによりサーマルジェットヘッドからゲート剤を噴射可能にすることが重要である。この影響を抑制又は解消するためには、他の化学的特性及び材料科学的特性の少なくとも1つを用いることが可能である。ゲート剤には、加圧又は撹拌によって粘度が変わるチキソトロピー液も含まれる。ゲート剤の表面張力を制御することによって、拡散を抑制することもできる。
【0058】
様々な特性を有するブロックコポリマー界面活性剤を様々な物性のイメージング胴に用いることにより、イメージング胴に親油性表面と親水性表面とを選択的に形成することが可能である。界面活性剤とイメージング胴の表面との間に生じる物理的結合によってイメージング胴を同じイメージで何度も繰り返し使用することができ、又は、イメージング胴の任意の回転ごとにイメージを選択的に変えることもできる。イメージング胴及びブロックコポリマー界面活性剤の物性を利用することにより、耐久性があり、しかも可変で、既知の平版印刷技術の品質を有するイメージシステムを実現することができる。
【0059】
他の可変処理としては、基材自体の処理がある。紙基材の場合には、適切なサイズ、重量、明るさ(白色度)等を有する、従来のコート紙が用いられる。これには、1つ以上のコーティング剤(例えば、クレー)が塗布され、これにより、主物質及び/又はゲート剤の吸収を遅らすか、又は、抑制する。他の基材(例えば、印刷ブランケット、印刷プレート、印刷胴、回路基板、プラスチックシート、フィルム、布地もしくは他のシート、壁の平面もしくは曲面、又は、他の部材等)の場合には、この基材のうち主物質が塗布される部分の表面が、必要に応じて、又は、要望通りに、適切に事前準備され、物理的もしくは化学的に処理され、機械加工され、粗面加工され、又は、別の方法で修正加工されてもよく、これにより、主物質の一部における転写を、要望通りに補助するか、又は、ブロックする。
【0060】
インキ又は他の主物質については、所望の効果が得られるように、その種類、物理的特性、及び/又は、化学組成物を選択又は変更することが可能である。例えば、インキの表面張力を管理することにより、色相互のにじみと、紙裏の透き通しとを抑制することができる。また他の例では、ウォーターレス印刷に用いられる1つ以上のインキが、噴射されるゲート剤と共に用いられ(後者は、水溶性又は非水溶性)、これにより、プレートから紙へのインキ転写がブロック又は促進され得る。水溶性ゲート剤と共にウォーターレス印刷用インキを用いる場合には、このインキの親油性を考慮して、ゲート剤の組成が調整される。この結果、ゲート剤は、必要に応じて又は要望通りに、インキを引き付ける分子構造、及び/又は、インキをはじく分子構造を有する。あるいは、噴射されて、親水性のプレートに最初に塗布されるゲート剤には、プレートに結合する1つ以上の親水性組成物と、インキ分子に結合又は反発する1つ以上の他の組成物と、が含まれる。
【0061】
また、更なる例では、ゲート剤及び主物質の少なくとも一方の相変化を用いて、物質のブロック、又は、転写もしくは回収を抑制するか、又は促進する。例えば、ゲート剤がプレート等の表面に選択的に噴射され、この塗布されたゲート剤を有する表面に主物質が塗布されると、主物質のうち、噴射されたゲート剤と接触する部分は、ゲル又は固体に変化する。あるいは、主物質が、区別なく(換言すれば、非選択的に)プレートに塗布され、この後、プレートのうちイメージ化されない部分(換言すれば、非イメージ領域)にゲート剤が選択的に塗布(噴射)されると、噴射領域内の主物質は、ゲル又は固体に変化する。また更に、2つ(又はそれ以上)の成分で構成されるゲート剤を用いることが可能である。この場合に、これらの成分は、個別かつ選択的に、連続して塗布され(個別に噴射され)、これらの成分が同じ位置に塗布されると、エポキシ結合、及び、例えば、共有結合、イオン結合などの他の化学結合、並びに、例えば、水素結合、ファンデルワールス力などの物理的相互作用と同一又は類似の反応をして、有益なゲート特性が向上させることができる。ゲート剤の1つ以上の成分が塗布される前又は後に、主物質(インキ等)が塗布され得る。前述の例のいずれにおいても、基材(紙ウェブ等)は、プレートによりイメージ化される。
【0062】
図3は、別の実施形態を示している。図3は、当該技術分野で知られている平版印刷装置1000(例えば、インキシステム1002、版胴1006、ブランケット胴1008、及び圧胴1010)を示している。但し、平版印刷装置1000の上流側には、コーティングシステム1016及び水溶液ジェットシステム1014が設けられている。図3に示すような実施形態では、標準の平版プレートに、所与のジョブの固定情報をエッチング、又はインキを完全に付着させる。一実施形態において、プレートの一部は可変情報のために確保しておく(例えば、図4に示すように、プレート1100は、可変イメージボックス1102や1104などの1つ以上の可変イメージボックスを含む)。可変イメージボックスに対応する平版プレートの部分は、可変イメージボックスの全面にインキが付着するように形成される(すなわち、平版プレートの可変イメージボックス部分がインキシステムを通過すると、その四角い部分の全体にインキが付着する)。他の実施形態では、プレート全体にインキの付着が可能であるとともに、水溶液ジェットシステムは、ウェブ1012の全体にわたってブロック液の供給が可能である。
【0063】
可変イメージを生成するために、可変イメージのネガイメージが水溶液ジェットシステム1014によって直接ウェブ1012上に印刷される。ある実施形態において、ウェブ1012が水溶液ジェットシステム1014に到達するより前に、ウェブ1012には、ゲート剤の吸収を防止するためのコーティングが施される。他の実施形態においては、ウェブ1012はコーティングが施されないままであり、これにより水溶液ジェットシステム1014により塗布されるゲート剤が、ウェブ1012全体にイメージを与えることができる。このため、ウェブ1012の可変イメージがプリントされる部分が、可変イメージのためのインキを転写するブランケット胴1008の部分に接触すると、ウェブ1012は、水溶液ジェットシステム1014によってプリントされていない部分のみにインキが選択的に付着することになる。標準的な平版印刷装置では、同じイメージ(例えば、四角いベタ塗り(a solid rectangle))を繰り返しプリントする。しかしながら、ウェブ1012には、まず水溶液ジェットシステム1014によってネガイメージがプリントされ、次にブランケット胴1008の四角いベタ塗りインキが選択的に付着されることで、可変イメージがウェブ1012に生成される。コーティングシステム1016は、コーティングを施すために印刷装置のあらゆる箇所に配置され得る。また、コーティングシステム1016は、ウェブ1012にコーティングを施してゲート剤の吸収能力を低下させるための好適な代替手段となり得る。例えば、コーティングシステム1016は、適切な溶液をウェブ1012に噴霧する噴霧器を含む。この溶液によってウェブ1012によるゲート剤の全部又は一部の吸収が防止される。
【0064】
前述の実施形態のいずれにおいても、ブランケット胴及び版胴の組み合わせを、単一のイメージング胴に置換することが可能であり、またその逆の置換も可能である。さらに、実施形態における水溶液ジェットシステム、クリーニングシステム、剥がしシステム(stripping systems)、及び真空又は加熱システムのうち1つ以上は、データシステムによって電子制御され得る。
【0065】
また更に、主物質が基材に塗布される位置におけるローラーのニップ圧及びローラーの圧縮特性が変更されることにより、ニップローラーの圧縮特性と同様に、イメージ品質が制御される。また、粗面を有するロール又は胴を用いて、要望通りに、主物質の基材への塗布が制御される。またさらに、又は追加的に、ゲート剤の液滴体積は、各セルに転写されるインキ量を制御するために調整され、これによりグレイスケールに影響を与えることが可能となる。
【0066】
更なる追加事項としては、1つ以上のプロセスパラメータのうち温度を調節又は制御することが挙げられる。例えば、表面にゲート剤を塗布する際に、ゲート剤の温度を上昇させることにより、粘着性を改善して、塗布を容易にすることができる。その代わりに、又は、追加的に、ゲート剤塗布の間で最初に表面を加熱することにより、粘着性、液滴の形状もしくはサイズ等を制御してもよい。また、ゲート剤塗布後の工程中におけるある時点で、表面を冷却し、これにより、ゲート剤の粘度を高めて、非ウェット領域へのゲート剤拡散を抑制するようにしてもよい。
【0067】
個別の噴射装置によって各別に塗布される複数の異なった液体を更に用いることが可能である。これらの液体が一緒に塗布される場合には、このインクジェット装置は、粘着性、粘度、又は、他の所望の特性の少なくとも1つを向上させたゲート剤を生成する。この液体は、異なるか又は同一の温度、圧力、流量等で塗布され得る。
【0068】
また別の実施形態には、2つ以上の配列(アレイ)又はインクジェットヘッドを用いて、ゲート剤のみを選択的に塗布すること、又は、表面における1つ以上の領域にゲート溶液を選択的に塗布すること、そして、追加的に、表面における1つ以上の残りの領域にインキを塗布することが含まれる。この場合に、1つ以上の配列は、それぞれ、印刷装置の運転中に取り外し可能か、もしくは、切り替え可能であり、又は、次に続くジョブ(例えば、局所的なカスタマイズが要求される場合)のために(位置決めという点で)再構成可能である。
【0069】
印刷ユニットごとにインキタック(ink tack)が変化するため、ユニットごとにゲート剤特性を連続的に変更して、各ユニットによるインキ転写を効果的に最適化することができる。また別の変更点として、物質の相変化を用いることにより印刷面を強化することが含まれる。
【0070】
更に他の実施形態では、主物質の基材への塗布を制御するために用いられるゲート剤は、ブロック剤と補助剤との組み合わせである。一例では、主物質は、表面に配置され、そして、非イメージ領域では、主物質の基材への塗布を阻止するブロック剤によって覆われている。イメージ領域では、主物質は、補助剤によって覆われる。この補助剤は、主物質と結合する傾向があり、これによって、基材上への塗布が補助される。あるいは、ゲート剤が、表面に配置され、かつ、主物質によって覆われてもよい。一例では、親油性のブロック剤が、表面の非イメージ領域に選択的に配置され、そして、親水性の補助剤が、表面のイメージ領域に選択的に配置される。そして、主物質は、両方のゲート剤により形成された層の上面に配置される。最初の表面上に均一な高さで形成された両方のゲート剤の層により、主物質と補助剤との間の移動が妨げられる。表面が基材の近傍に移動すると、ブロック剤は、主物質が基材に塗布されるのを防止する一方、補助剤は、主物質が基材に塗布されるのを可能にする。
【0071】
別の実施形態では、表面は、平版プレートや版胴等であり、これらの一部を用いて、可変形状の主物質を基材に塗布することによって、主物質の基材への塗布を制御する。この実施形態では、可変記号論、符号化、アドレス指定、番号付け、又は、あらゆる他のタギング技術が、主物質塗布の制御用に確保された最初の表面の一部分で用いられる。主物質は、まず、区別なく最初の表面上に配置される。主物質の塗布のために基材が最初の表面の近傍を通過する前に、ブロック剤が、ある領域内の基材に、選択的に塗布される。この塗布領域は、基材の近傍を後に移動する最初の表面の上記確保部分に対応する領域であり、主物質が所望の形状又はイメージで塗布されるように、ブロック剤が塗布される。より一般的な実施形態では、同様か又は異なる主物質が配置された1つ以上の表面の近傍に、基材が移動し、そこで、ブロック剤及び/又は補助剤が、上記確保部分内の表面から基材に選択的に転写される。ある実施形態では、磁性インキが、これらの表面のうちの1つから基材(例えば紙ウェブ)に転写される。また、1つ以上の非磁性インキが、同じ表面から転写されるか、又は、1つ以上の追加の表面から転写されてもよい。上記確保部分にて所望の形状で紙ウェブに磁性インキを塗布する際に、この塗布をブロックするか、又は、補助するために、ゲート剤を用いることが可能であり、これには、上述のブロック剤及び補助剤を使用するためのいかなる技術も用いることができる。この結果、1刷りごとに変更された磁性インキマーキング(例えば、MICRマーキング、又は、他のコード化された情報)を有する紙ウェブが印刷される。別の例では、導電性インキの使用による可変プリントプロセスの一部として、符号化されたRFIDの回路を適用している。これにより、印刷後のプログラミングの必要性を省くことができる。
【0072】
更に別の実施形態では、ゲート剤が、1つ以上のジェットヘッドによって、受容面に選択的に塗布され、そして、中間液(例えば、従来の湿し溶液(fountation solution))を引き付けるか、又は、ブロックする。この湿し溶液は、受容面に区別なく塗布されるが、しかし、ゲート剤によってゲートされる。このため、湿し溶液は、インキの塗布に先立って、受容面に選択的に付着する。この実施形態では、ゲート溶液が、湿し溶液と相互作用するように、そして、湿し溶液を制御可能なように調合されており、この点で、インキを制御するものと対照的になっている。別の実施形態では、湿し溶液を中和もしくは機能低下させるか、又は、湿し溶液を受容面から選択的に除去可能としている。より一般的に言うと、これらの実施形態では、区別なく塗布される湿し溶液及びインキと共に選択的に塗布されるゲート剤を用いることを含み、この場合に、湿し溶液が保持される領域を、ゲート剤によって制御する。
【0073】
前述のように、ゲート剤は、1つ以上の界面活性剤を含むことが可能であり、また、高品質なイメージを生成するのに有利な液滴サイズ及び粘度特性が得られるように、温度制御又は真空制御が行われる。しかしながら、イメージ品質は、連続イメージが異なる場合には特に重大な問題であるゴーストの発生として、当業者に周知の現象によっても影響を受ける。
【0074】
ゴーストの発生は、連続する印刷間において、イメージ領域及び非イメージ領域のインキ及び/又はゲート剤を確実に洗浄することにより低減することができる。前記のいかなるクリーニングシステムに関しても、前述のように、インキの毎塗布後に胴を洗浄することが、胴を清浄に保つ一つの方法である。クリーニングシステムが一層完全な洗浄を促進することにより、ゴーストの発生を低減するように、ゲート剤の組成が操作されてもよい。
【0075】
ゴーストの発生を低減する別のアプローチには、胴上のイメージ領域から非イメージ領域へのインキの移動を抑制することがある。親油性溶液をイメージ領域へ正確に塗布することにより、インキをイメージ領域へ引き付けるとともに、イメージ領域からのインキの移動を抑制することができる。個々に、又は親油性溶液と組み合わせて、疎油性溶液を胴の非イメージ領域へ正確に塗布することにより、非イメージ領域へのインキの移動を抑制することができる。
【0076】
本開示のように、可変印刷のジョブ処理と固定印刷のジョブ処理とを行うというコンセプトを用いる場合には、その利点の1つとして、従来の平版印刷装置に関連する固有速度を挙げることができる。しかし、実際には、従来の平版印刷装置と比較すると、印刷速度は、イメージ領域が形成可能な速度によって制限されており、つまり、イメージ領域を形成する方法によって左右されている。この種の方法は、本明細書で説明されており、また、イメージ領域の形成のためのゲート剤塗布を含んでいる。ゲート剤は、親油性溶液もしくは親水性溶液、又は、静電気電荷が印加された他の溶液であり得る。また、ゲート剤自体が、胴の一部に印加される静電気電荷であってもよい。印刷装置の運転速度は、前述のあらゆるゲート剤が、印刷装置の1つ以上の胴に塗布可能な最高速度によって、制限される。
【0077】
インクジェットカートリッジが最も使用される運転状態に対応するように、カートリッジからの液滴が瞬間噴射され、この瞬間噴射によって、対象基材上に所定サイズのインキスポットが形成される。しかし、実際には、インクジェットカートリッジからの液滴噴射は、瞬間的な事象ではなく、現実には、初期、中期、及び終期を有する過渡的な事象である。対象基材が、高速で移動している場合には、インキ液滴が基材に衝突し、そして、基材の移動方向とは反対方向に延びる尾部(テール)を有するインキスポットが形成される。この現象は、テーリング(tailing)として知られており、液滴形成における過渡的性質によって生じる直接的な結果である。高速印刷時に発生するテーリングにより、印刷品質に懸念が生じるので、印刷装置の実効速度が制限され得る。しかし、あるゲート剤が、特定のジェットカートリッジと共に用いられる場合には、噴射液滴のテーリングを抑制又は緩和することが可能であり、これにより、最高印刷速度を制限するファクターであるこの現象が解消される。
【0078】
別の実施形態では、水溶液ジェットシステムは、パターン基材上へ、水溶液、又は潜在的な多官能性を有する他の組成物をプリント又は噴射することができる。一実施形態では、例えば、その組成物は、潜在的な二官能性を有するが、本明細書において官能基の数はいくつであってもよい。例えば、多官能性組成物には、1つ以上の化合物がそれぞれ潜在的な多官能性を有する、又は複数の化合物がそれぞれ潜在的な単官能性を有することが含まれる。潜在的な官能性には、例えば、親水性領域、親油性領域、レセプター又は認識部位(例えば、抗原結合部位)、イオン性領域、当該技術分野における既知の他のもの等の、化合物に対して付着性及び反発性を与える、化合物の特定の化学的部分及び/又は構造領域に起因する官能的な化合物部分が含まれる。本実施形態では、第1の官能基はパターン基材に対する付着力を与え、第2の官能基は、パターン基材に塗布される1つ以上の主物質に付着性を与える。
【0079】
別の実施形態では、多官能組成物は、2つ以上の多官能基化合物を含んでもよく、この場合に、各種多官能基化合物は、他の多官能基化合物と共通する少なくとも1つの官能基、及び、他の多官能基化合物と異なる少なくとも1つの官能基を有する。この例では、第1の多官能基化合物及び第2の多官能基化合物は、それぞれ同様のパターン基材上へプリントされるが、第1の多官能基化合物と第2の多官能基化合物の第2の官能基は、主物質が第1又は第2の多官能基化合物のいずれに付着可能であるかに関して異なる特性を有し、これは主物質が1種類の官能基のみと反応するからと考えられる。別の実施形態では、潜在的な単官能性を有する化合物は、単一の多官能基化合物の多官能基に類似する多官能基を有する錯体を形成するように相互作用する。この実施形態では、単官能基化合物は、1回でパターン基材上に塗布される単一の組成物に含められてもよく、もしくは同時に付着される分離した組成物に含められてもよく、あるいは、パターン基材上へ連続して付着される分離した組成物に含まれてもよい。
【0080】
本開示で意図される多官能基化合物の一例には、親水性である第1の官能基及び親油性である第2の官能基を有する化合物が含まれる。多官能組成物は、親水性か又は親油性の表面を有する基材上へ所望のパターンを形成するように噴射される。これにより、表面と組成物との間で同種の官能基が結び付いて、表面に組成物が付着されると共に、組成物の反対の官能基が表面にはじかれて、表面に付着した組成物のパターンが形成される。
【0081】
同種の官能基(例えば、親水性又は親油性)を有するか、あるいは、表面には引き付けられずに、多官能組成物の第2の官能基に選択的に引き付けられ、そして、基材の露出表面にはじかれるか、あるいは、基材の露出表面に付着不可能である、第2の組成物(例えば、主物質)は、噴射、浸漬、噴霧、ブラッシング、ローリング、又は、当業者に既知のあらゆる他の方法を用いて表面に塗布することができる。主物質の添加により、多官能組成物のパターンに対応する主物質のパターンが形成され、この結果、主物質のみが、多官能組成物の第2の官能基によって表面に付着される。更に、主物質の塗布後、1つ以上の追加的なステップ(例えば、クリーニングステップ)が実行され、これにより、主物質が多官能組成物の第2の官能基のみに部位特異的に確実に付着する。クリーニングステップと同様に考えられる別のステップには、殺菌ステップが含まれる。この後、主物質は、第2の基材(例えば、イメージを印刷媒体に転写する中間(媒介)ローラー)、又は、印刷媒体に直接転写され、これにより、高精度かつクリーンな所望のプリントイメージを形成することができる。このようにして、主物質が後に付着する多官能組成物を用いて、選択されたパターンが基材上に噴射され、この後、転写され、そして、印刷媒体上で永続的又は一時的に固定される。
【0082】
本明細書で意図される多官能基化合物の例には、例えば、前述したポロキサマー、エトキシ化アセチレンジオールなどの少なくとも1つの親水性部分と少なくとも1つの親油性部分を有する高分子化合物が含まれる。追加的な例には、例えば、アルキルシロキサン、酸化物材料上の脂肪酸、アルカンチオレート、アルキルカルボキシレートなどのような自己組織化単分子膜の形成に関する物質が含まれる。本開示では、当業者に既知の他の多官能基化合物が意図される。
【0083】
本開示の装置及び方法は、他の産業及び他の技術(例えば、繊維、製薬、生物医学、及び、特に電子工学)にも関連する。可変でカスタマイズ可能なグラフィックもしくはテキスト、又は、シール性が強化された主物質や耐水性もしくは耐火性を有する主物質は、繊維ウェブに選択的に塗布されて、例えば、衣類又は敷物の製造に用いられる。製薬業界では、主物質は、製剤原料、治療用物質、診断用物質、もしくはインキ以外のマーキング用物質であり得、又は、他のあらゆる種類の物質用のキャリアであり得る。生物医学用途では、例えば、主物質は、生物由来材料又は生体適合性ポリマーである。電子工学用途では、主物質は、基材の1つ以上の層に塗布される導電性材料又は電気絶縁性材料であり得る。他の電子工学用途には、製品に取り付けられる無線自動識別(「RFID」)タグの製造が含まれる。主物質の基材への選択的塗布は、他の産業にとっても有益となり得る。例えば、主物質は、製品(例えば、熱交換器、料理用鍋、又は、断熱性の高いコーヒー用マグカップ)の構成部品に選択的に塗布される熱伝導性材料又は断熱性材料である。また、主物質は、吸収性、反射性、又は放射性が強化された材料であってもよく、これらの性質の一部又は全部が他の製品にとって有用となり得る。これは、例えば、主物質を、オーブン、ランプ、又はサングラスの構成部品に選択的に塗布する場合である。また更に、主物質は、カスタマイズ可能な包装フィルム又はホログラムに使用可能である(イメージ生成の前に屈曲くぼみの選択的充填を経る)。更に、この技術は、燃料電池の製造に適用可能であり、この場合に、主物質は、官能性ポリマー、接着剤、及び、三次元(3−D)相互接続構造を含み得る。マイクロ光学素子の製造用途では、主物質は、光学接着剤又は紫外線硬化性ポリマー(UV−curing polymer)であり得る。更なる用途としては、ディスプレイ製造があり、この場合に、主物質は、ポリマー発光ダイオード用材料である。さらに、特定の用途としては、本開示の装置及び高速可変印刷方法が、数多くの平版印刷の用途で利用され得る。例えば、本開示の装置及び方法は、ダイレクトメール、広告、明細書、請求書等の高品質なワン・ツー・ワン・マーケティングの用途に理想的である。本開示のシステム及び方法に適した他の用途としては、パーソナライズされた書籍、定期刊行物、出版物、ポスター、ディスプレイ等の印刷が挙げられる。本開示における高速可変印刷システム及び高速可変印刷方法は、前述の製品の後処理(例えば、製本や仕上げ)も迅速化することができる。
【0084】
図5及び6に関して、ゲート剤は、装置1200を用いて噴射されてもよい。装置1200は、表面1204を備えたハウジング1202を有する。表面1204は、複数の噴射ノズル1206及び1208を有する。図5及び6において、2列のノズル1206及び1208が示されているが、装置は、必要な解像度により1列以上のノズルを備えることができる。ハウジング1202には、ノズルと連通するとともに、チューブ又は他の連通部材1212を介して噴射剤の供給源1210とも連通するチャンバー(図示せず)が含まれる。装置1200は、当業者に周知の適切なプリントコントローラである制御装置1214により制御される。
【0085】
さらに、以下の実施例は、本開示を更に示すものであるが、当然ながら、本開示の範囲を決して制限するように解釈されるものではない。
【0086】
(実施例1)
本開示に有用なナノ粒子ベースのブロックゲート製剤は、以下のように準備された。
7.11重量% Huntsman社製 B−60
7.11重量% 日産化学工業社製 Snowtex−O(登録商標)
0.43重量% JT Baker(登録商標)社製 塩酸
85.35重量% 純水
【0087】
(実施例2)
本開示に有用な第2のブロックゲート製剤は、以下のように準備された。
3.8重量% ポリビニルピロリドン(K−12)
4.8重量% ポリオキシエチレン(12)トリデシルエーテル
91.3重量% 純水
【0088】
(実施例3)
本開示に有用な第3のブロックゲート製剤は、以下のように準備された。
10重量% ポリオキシエチレン(12)トリデシルエーテル
90重量% 純水
【0089】
(実施例4)
本発明に有用な第4のブロックゲート剤は、以下のように準備された。
72.5重量% 純水
10 重量% GP217(Genesee Polymer社−シリコン変性ポリマー)
2.5重量% BYK333
15 重量% N−メチル−2−ピロリドン
【0090】
(実施例5)
本発明に有用な第5のブロックゲート剤は、以下のように準備された。
92.42重量% 純水
4.74重量% quaterium8(SilSense(登録商標) Q−plus)
0.94重量% Surfynol(登録商標)485
0.2 重量% Surfynol(登録商標)440
【0091】
(実施例6)
本開示に有用な第6のナノ粒子ベースのブロックゲート製剤は、以下のように準備された。
3.55重量% Huntsman社製 B−60
7.11重量% 日産化学工業社製 Snowtex−O(登録商標)
0.43重量% JT Baker(登録商標)社製 塩酸
88.91重量% 純水
【0092】
(実施例7)
本開示に有用な第7のナノ粒子ベースのブロックゲート製剤は、以下のように準備された。
7.11重量% Huntsman社製 B−60
14.22重量% 日産化学工業社製 Snowtex−O(登録商標)
0.43重量% JT Baker(登録商標)社製 塩酸
78.24重量% 純水
【0093】
実施例1〜7の製剤の全ては、ブロック剤又はゲート剤として有用であり、ゴースト発生、テーリング、フラッディング、又は背景色を最小にして、有益なプリントを作り出した。
【0094】
以上は、本開示の装置及び方法の原理を例示するためのものに過ぎず、当業者によって本開示の装置及び方法の範囲及び理念から逸脱することなく様々な改変が可能であることは明らかであろう。例えば、記載された手順におけるいくつかのステップの順序は、決定的なものではなく、必要に応じて変更が可能である。また、様々なステップは、様々な技術によって実行され得る。さらに、記載された組成物及び方法の1つの利点は、標準的な平版インキに使用して可変なイメージを作り出すことにある。これらのインキは、通常、インクジェット用のインキを用いて作り出される出版物より、一層高品質のものを作り出す。この技術に達するまでに、真の可変平版印刷を実現することは非常に困難であった。
【0095】
本開示の好ましい実施形態は、本明細書に記載されており、発明者が最もよく知る、本開示を実施するための最良の形態を含む。それら好ましい実施形態の変形例は、前述の記載を読めば、当業者に明白となり得る。本発明者は、当業者がこのような変形例を必要に応じて採用することを予期しており、本発明者は、特に本明細書に記載された形態とは別の形態で、本開示が実施されることを意図している。したがって、本開示は、適用可能法の許可通りに本明細書に添付した特許請求の範囲に列挙される主題の全ての変形例及び全ての均等物を含む。さらに、全ての可能な変形例における前述要素のいかなる組み合わせも、本明細書に示されていない、又は文脈によって明確に否定されていない限り、本開示によって示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に塗布されるように適合されるナノ粒子ベースのゲート剤であって、
前記ゲート剤は、
約5%から約20%までの水分散性成分と、
約5%から約15%までのアミンであって、アミン・エトキシレート、アミン・プロポキシレート、ポリエーテルアミン、及びその混合物、で構成される群から選択されるアミンと、
約75%から約95%までの水と、
を含んで構成される、ナノ粒子ベースのゲート剤。
【請求項2】
前記水分散性成分が、石英、アルミナ、ジルコニア、酸化亜鉛、コロイダルセリア、酸化アンチモン、及びこれらの組み合わせ、のうち1つを含む請求項1に記載のナノ粒子ベースのゲート剤。
【請求項3】
前記水分散性成分が、約20nm未満のサイズ特性を有する請求項2に記載のナノ粒子ベースのゲート剤。
【請求項4】
HLBが約2と約18との間である請求項1に記載のナノ粒子ベースのゲート剤。
【請求項5】
前記ナノ粒子ベースのゲート剤が、約4と約6との間のpHを有する請求項1に記載のナノ粒子ベースのゲート剤。
【請求項6】
前記オプション成分はpH調整剤である請求項1に記載のナノ粒子ベースのゲート剤。
【請求項7】
高速可変印刷運転に使用する装置であって、
少なくとも1つの表面を有するハウジングと、
前記1つの表面上に備えられる一連の噴射ノズルであって、各噴射ノズルが要求に応じて液滴を噴射可能な噴射ノズルと、
前記ノズルに連通するゲート剤の供給源と、
を含んで構成され、
前記ゲート剤は、
約8%から約10%までの界面活性剤、及び、
水を含んで構成される前記ゲート剤組成物の残り、
を含んで構成される、
装置。
【請求項8】
前記界面活性剤は非イオン性界面活性剤を含んで構成される請求項7に記載のゲート剤。
【請求項9】
高速可変印刷のための方法であって、
パターンを形成するように基材上へゲート剤組成物を噴射するステップと、
前記基材に印刷物質を塗布することにより、前記ゲート剤の前記パターンによって覆われない領域にプリントイメージを形成するステップと、
を含んで構成され、
前記ゲート剤組成物は、
約0.05重量%から約10重量%までのブロック剤、
最大約3重量%の表面張力調整化合物、
前記ゲート剤組成物が約1mPa・sから約14mPa・sまでの範囲内の粘度を有するような最大約8重量%の粘度調整剤、及び
溶媒を含んで構成される前記ゲート剤組成物の残り、
を含んで構成され、
前記ゲート剤が約60dyn/cm未満の動的表面張力を有する、
方法。
【請求項10】
前記ゲート剤組成物は、前記印刷物質の前記塗布の前に前記基材上へ噴射され、そして前記ゲート剤組成物は、すでに前記ゲート剤が噴射されている領域において、前記印刷物質が前記基材へ付着するのを防止する請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記基材は、前記プリントイメージが形成される媒体である請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記基材は、最終的な印刷媒体に前記プリントイメージを転写する中間物の表面である請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記ゲート剤組成物は、前記印刷物質の前記塗布の後に前記基材上へ噴射され、そして前記ゲート剤組成物は、すでに前記ゲート剤が噴射されている領域において、最終的な印刷媒体への前記印刷物質の転写をブロックする請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記基材は印刷胴である請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記ゲート剤組成物は約1mPa・sから約3mPa・sまでの範囲の粘度を有する請求項9に記載の方法。
【請求項16】
高速可変印刷運転に使用する装置であって、
少なくとも1つの表面を有するハウジングと、
前記1つの表面上に備えられる一連の噴射ノズルであって、各噴射ノズルが要求に応じて液滴を噴射可能な噴射ノズルと、
前記噴射ノズルに連通するゲート剤の供給源と、
を含んで構成され、
前記ゲート剤が、
約0.05重量%から約10重量%までのブロック剤、
最大約3重量%の表面調整化合物、
前記ゲート剤組成物が約1mPa・sから約14mPa・sまでの範囲内の粘度を有するような最大約8重量%の粘度調整剤、及び、
溶媒を含んで構成される前記ゲート剤組成物の残り、
を含んで構成され、
前記ゲート剤が約60dyn/cm未満の動的表面張力を有する、
装置。
【請求項17】
前記表面調整化合物は、約11から30までの親水性・親油性バランスを有する非イオン性界面活性剤である請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記ゲート剤組成物は、約1mPa・sから約3mPa・sまでの範囲の粘度を有する請求項16に記載の装置。

【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−536614(P2010−536614A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521868(P2010−521868)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【国際出願番号】PCT/US2008/009893
【国際公開番号】WO2009/025809
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(509002327)ムーア ウォリス ノース アメリカ、 インコーポレーテッド (11)
【Fターム(参考)】