説明

ジェミニウイルス持続耐性を特徴とする形質転換植物の作製方法

本発明は、導入遺伝子が病原体に由来する適切に修飾されたポリヌクレオチド配列からなる、Geminivirusesに対する永続的耐性を持つ形質転換植物を作製する方法に関係する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェミニウイルスに対して持続的耐性を持つ形質転換植物の作製方法に関係する。
【0002】
特に本発明は、導入遺伝子がジェミニウイルス(gemini viruses)により誘発される転写後遺伝子抑制(post−transcriptional gene silencing)の無効な標的を生じるように適切に修飾された病原体に由来するポリヌクレオチド配列を含む、ジェミニウイルスに対して持続的耐性を持つ形質転換植物の作製方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ジェミニウイルスは、広範囲のそして多様なクラスの植物ウイルスであり、種々の農産物として価値のある植物に感染して重大な収穫減少を生じさせることが知られている。このウイルスは双球状の二十面体の二つの粒子からなるビリオンを特徴とする。1個又は2個の環状・一本鎖DNA分子(ssDNA)からなるそのゲノムは、感染した細胞の核の中で二本鎖中間体を介して複製する(Hanley−Bowdoin et al.,1999)。
【0004】
ジェミニウイルス科は、媒介昆虫、宿主範囲及びゲノムの構造に基づいて、Mastrevirus, Begomovirus, Curtovirus及びTopocuvirusと命名された4つの属に分類されている(Briddon et al.,1985; Fauquet et al.,2003)。
【0005】
コナジラミ Bemisia tabaciにより伝達されるトマト植物の重大な病気は以前から「トマト黄化葉巻病(tomato yellow leave curl)」として中東、東南アジア及びアフリカの地域で知られていた(Czosnek et al., 1997)。100%の収穫喪失を生じることがある(Pico et al., 1996; Czosnek et al., 1997)この病気は、続いて西地中海に広がり、サルジニア、シシリー及びスペインに達し(Czosnek et al., 1997)、そしてアメリカ(Polston et al.,1997)にも広がった。
【0006】
最近この病気の病原体が同定及び単離され、ジェミニウイルス科、Begomovirus属に属するウイルスであった。系統研究により、Begomovirusの地理的起源:アジア、アフリカ及びアメリカの違いによって異なるウイルス種の存在が明らかにされた(Czosnek et al.,1997)。
【0007】
トマト黄化葉巻病サルジニアウイルス(TYLCSV)種のゲノムは単一分節(monopartite)である(Kheyr−Pour et al.,1991)。DNAは二方向に転写され、図1に示すようにウイルス鎖(V)の上に2個、V1及びV2、及び相補鎖(C)の上に4個、C1,C2,C3及びC4の6個のオープンリードフレーム(ORF)を含んでいる。C1とV2のORFの間に、全てのジェミニウイルス科のゲノムに存在するものに類似した遺伝子間領域(IR)と言われる非コード領域がある。TYLCSVのゲノム構成は、トマトゴールデンモザイクウイルス(TGMV)及びアフリカキャッサバウイルス(ACMV)のような二分節(bipartite)Begomovirusの構成成分Aのものに構造的に類似している。二分節(bipartite)Begomovirusの場合には、構成成分Aの相補鎖上に存在するORFの名称は:AL1又はAC1、AL2又はAC2、AL3又はAC3、AL4又はAC4であり、一方ウイルス鎖上はAR1又はAV1、AR2又はAV2であり;成分Bの相補鎖上は:BL1又はBC1であり、ウイルス鎖上はBR1又はBV1である。
【0008】
Bemisia tabaciにより伝達されるジェミニウイルス感染の制御のために今日まで使用された方法は、高価な微細メッシュの網の使用(生鮮販売トマトの栽培用)及び特に反復殺虫剤処理(生鮮販売及び加工用トマトの栽培)に基づいている。そのような方法は生産費用の増加と農業従事者及び消費者の健康に重大な危険を生じる。さらに殺虫剤イミダクロプリドに耐性のBemisia tabaci集団の発生が既に報告されている(Cahill et al., 1996;Williams et al.,1996)。
【0009】
耐性の栽培種の開発は、ウイルス感染を制御するために最も実用的でしかも経済的な方法である。トマト黄化葉巻病の原因となるジェミニウイルスに対する耐性を導入するための古典的な育種計画は、Lycopersiconの野生種の耐性遺伝子をトマトの栽培種に導入することに基づいていた。これによって種々のレベルのTYLCSV耐性の系統が得られ、そして市販され、最も良好な系統は症状の減少及びウイルス複製の低下を示した。しかし、低い平均的な耐性レベルの植物は、さらに感染を広げる潜在的貯蔵所である。
【0010】
考慮すべきその他の重要な点は、得られた系統の農学的特徴は、必ずしも最適ではないが、育種計画に使用した栽培用トマトの遺伝子型の特徴を反映していることである。
【0011】
トマト黄化葉巻病を生じるウイルスに免疫を持つ、すなわち症状もウイルスのDNA複製もないトマトの系統はまだ発表されていない。
【0012】
遺伝子工学の出現により、植物ウイルスに対する耐性特性の導入に関する新しい展望が開けた。殆どの方法は、目的の植物における病原体由来配列の導入及び発現、病原体由来耐性(PDR)に基づいている(Sanford & Johnson,1985; Abel et al.,1986; Tavazza and Lucioli,1993)。
【0013】
そのような方法はRNAゲノムを持つ植物ウイルスに対する耐性特性の導入については応用に成功したが(Beachy,1997)、DNAゲノムを持つジェミニウイルスの場合には、病原体由来配列の発現により持続的抵抗力及び/又は耐性を持つ植物は作製されていない。
【0014】
病原体由来配列の発現により達成されるウイルス耐性の導入の機序は二つの大きなクラスに分類することができる:
a)例えば、ドミナントネガティブ突然変異体のような病原体タンパク質の発現により仲介される耐性;
b)転写後遺伝子抑制により仲介される耐性(Baulcombe,1996; Beachy,1997; Zaitlin and Palukaitis,2000)。
【0015】
転写後遺伝子抑制は、標的RNAに相同的な配列を持つ二本鎖RNA(dsRNA)の形成に続く特異的RNAの分解を伴う、真核生物においていたるところで存在する過程(ubiquitary process)である。
【0016】
導入遺伝子に相同的なdsRNAの生成を誘発することができる様々な状況があり得るが(異常なトランスジェニックRNAの転写、トランスジェニックRNAにおける充分な長さの反転及び反復配列の存在、反転及び反復した多重コピーとして植物ゲノムにおける導入遺伝子の取り込み)、dsRNAが作られた後は、後者は認識されそしてsiRNAと呼ばれる約21〜26ヌクレオチドのdsRNAの短い分子に分解される。
【0017】
次いでこのsiRNAは、RISCと命名された多重タンパク質複合体に取り込まれ、このRISCはsiRNAと相同の配列を持つ全てのRNAを分解することができる。したがって、siRNAはRNA抑制特異性を決定する因子であり、そして指定された配列に関連するその存在は、そのRNA配列が転写後に抑制されることを一義的に確立する。
【0018】
したがって、ウイルスRNAゲノムに由来する配列の転写後抑制を生じる形質転換植物は、相同的ウイルス及び導入遺伝子と密接に関連するヌクレオチド配列を持つウイルスに対して耐性である。
【0019】
導入遺伝子抑制はウイルス感染によっても誘発することができる。
【0020】
事実、導入遺伝子のヌクレオチド配列が感染ウイルスゲノムの部分に相同である場合には、ウイルス複製は、初期は抑制されない導入遺伝子の抑制を誘発することができる。抑制機構の活性化は、誘発RNAに相同な配列を持つRNA分子の特異的分解を伴う。
【0021】
直接的結果として、ウイルスによる抑制の活性化はウイルス及びウイルスゲノムに対し相同であるトランスジェニックmRNA配列の両者の分解に関連している。これにより初期の感染段階の後宿主が回復し、新しく成長した部分にはウイルスがないことが証明される。回復現象に続いて成長する植物組織の特別な性質は、同じウイルスによる次の感染に対して高度の耐性を持っていることである。
【0022】
この転写後遺伝子抑制に仲介される耐性は、ヌクレオチドレベルにおける認識に基づいているので、導入遺伝子が由来したウイルスゲノムに高い相同性を持つウイルス単離株にのみ耐性を示す。しかし、病原体タンパク質の発現に基づく方法では、通常ヌクレオチドの観点からは密接に関係しないウイルス株または単離株に対しても耐性の植物が作られる。
【0023】
導入遺伝子抑制は温度により影響され、15℃未満の温度において不活性になることも示されている(Szittya et al.,2003)。したがって、15℃未満の温度範囲の屋外条件に暴露される植物は抑制仲介耐性を失うことがある。
【0024】
RNAゲノムウイルスに対する耐性を持つ形質転換植物は、数年前に導入遺伝子抑制に基づいた機序により達成されたが、これまでそのような方法をジェミニウイルス(DNAゲノム−ウイルス)に応用して成功できたという報告はない、ということを忘れてはならない。
【0025】
広範囲のジェミニウイルスに対して耐性を持つ植物を得るための最も良い方法は、干渉する生成物がタンパク質である方法であることは明らかである。耐性の範囲が広いことは作製される植物の農学的及び商業的価値を増加させることは明らかである。
【0026】
それに関係して、ジェミニウイルスに対する耐性又は免疫の高いレベルを持つ植物を得るために、ジェミニウイルスが複製するRepタンパク質の機能喪失変異体の形質転換植物における発現が使用されている。
【0027】
TYLCSVの切断した複製Repタンパク質(Rep−210)の発現はウイルス感染に対する耐性を付与することができるが、ウイルスは経時的にそれに打ち勝つことができるのでそのような耐性は持続しないことが、文献において知られている。
【0028】
Tomato 47x wt(Brunetti et al.1997)及びN.benthamiana line 102.22(Noris et al.1996)のTYLCSV−アグロ接種(agroinoculated)Rep−210発現形質転換植物の耐性分析の結果を表1及び2にそれぞれ示す。



【0029】
表1及び2に報告された結果から、病原体由来配列の導入遺伝子発現により仲介されたTYLCSVに対する耐性が経時的に消失することが明らかに推測される。
【0030】
同様に、二分節ジェミニウイルス「アフリカキャッサバモザイクウイルス」のRepのドミナントネガティブ突然変異の導入遺伝子発現により誘発される耐性も、経時的に消失する(Sangare et al.,1999)。
【0031】
その他の例は、種間交配トマト(Lycopersicon esculentum X L. pennellii)におけるTYLCVキャプシドタンパク質の導入遺伝子発現によって示され、これはウイルス感染に対して部分的耐性を付与する(Kunik et al.,1994)。この場合においてでも、キャプシドタンパク質の発現により仲介された耐性は永く持続せず、農学的観点からは有用性がなかった。
【0032】
上記に照らして、ジェミニウイルスに対して長期間持続する耐性を得るために、ジェミニウイルスに由来するポリヌクレオチド配列を上手に使用する新しい方法に対する要求があることは明らかである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
本発明の著者らは今回、ウイルス誘発転写後遺伝子抑制の無効な標的としてジェミニウイルスに対する耐性レベルを持続する形質転換植物を得られるように適当に修飾された、病原体由来ウイルスタンパク質をコードし、宿主にウイルス耐性を付与することができるポリヌクレオチド配列を作製した。
【0034】
実験による事実で著者らは、耐性の消失そしてそれによるジェミニウイルスに対する持続的耐性を達成する困難さは、転写後に導入遺伝子を抑制し、そして感染ウイルスに相同の配列を持つ導入遺伝子が転写後抑制される植物内で分散する、ジェミニウイルスの予期せざる能力によるものであることを示す。
【0035】
図2及び3にそれぞれ示すように、N.benthamiana 系統 102.22の形質転換植物及びTomato 47x wtの植物の両者において、耐性を消失させるウイルスの能力は同じウイルスによる導入遺伝子抑制及び抑制された植物中に分散するウイルスの予期せざる能力により生じる。
【0036】
導入遺伝子Rep−210が転写後抑制される植物の中において分散するTYLCSVの能力は、図4における記述によりさらに詳しく説明されている。
結果は、Rep−210タンパク質の不在、及び導入遺伝子相同siRNAの同時発生によって示されるように、アグロ接種(agroinoculation)以前に転写後抑制されている形質転換トマト植物47 x 10D(Brunetti et al.,1997)は、対照と同様にTYLCSV感染に感受性であることを示している。
【0037】
上記より、RNAウイルスとは異なり、ジェミニウイルスはウイルス遺伝子配列の能動的抑制によって阻止されないことになる。このことは使用される形質転換植物の種類又はアグロ感染又はBemisia tabaciによるウイルスの接種方法に制限されない。事実、表3に示すように、対照植物の90%から100%が感染する程度に植物当たりのウイルス保有Bemisiaの数を減らすと、導入遺伝子が転写後抑制された形質転換植物(系統201)の約40%は感染しないか又は遅れて感染するが、一方より高い接種濃度においては、ウイルス保有昆虫によりチャレンジされた植物は、アグロ接種を使用して行った実験と同様にすべて感染した。


a 植物当たり7匹のウイルス保有昆虫で2日間
b 植物当たり35匹のウイルス保有昆虫で5日間
c 接種後の週
【0038】
したがって、耐性を試験し、そして(図2,3及び4及び表1及び2に示すような)経時的持続を評価するために使用したウイルスのアグロ接種条件が、高い又は非常に高いウイルス圧力条件に対応することを、考慮することが重要である。この実験的方法が、ウイルス感染に対する非常に高い耐性レベル又は免疫を持ち、したがって非常に高い商業的価値のある形質転換植物の同定を可能にする。
【0039】
かくして、病原体由来配列の発現によるジェミニウイルスに対する耐性特性の導入は、導入遺伝子を転写後抑制し、そして抑制植物中において分散するジェミニウイルスの予期せざる能力により限定される。
【0040】
さらに著者らは、図5に示すように、TYLCSVのプラス鎖(V1及びV2)及びマイナス鎖(C1,C2,C3,及びC4)のいずれの転写物も、野生型植物の正常な感染の際に、ウイルスの転写後抑制を受けることを示す。このことから、これらがウイルス誘発転写後遺伝子抑制の標的にならないか又は無効の標的になるように適切に修飾されなければ、同じ病原体に由来する配列の発現により長期間の耐性を達成することは不可能となる。しかし、本発明により適切に突然変異した配列又は選抜された配列を植物ゲノム中に導入することにより、既知方法によっては達成されない、ジェミニウイルスに対して長期間持続する耐性を得ることが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0041】
したがって、本発明の目的は、ジェミニウイルスに由来するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列であって、該ポリヌクレオチド配列は、ウイルスの転写後抑制の標的で無いか又は無効の標的であることを特徴とし、そして、
a)それに対し耐性が要求されるジェミニウイルスの対応する遺伝子配列に対して90%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下のヌクレオチド相同性;
b)それに対し耐性が要求されるジェミニウイルスの対応する遺伝子配列に対して17ヌクレオチド以下、好ましくは8ヌクレオチド以下、より好ましくは5ヌクレオチド以下のRNA転写物の連続相同性;
c)ジェミニウイルスの対応する遺伝子配列に対して30ヌクレオチド以下、好ましくは20ヌクレオチド以下、より好ましくは9ヌクレオチド以下の1置換を含む配列の最大長;
を有し、
該ポリヌクレオチド配列は、それによって形質転換された植物、組織又は植物細胞全体に、ジェミニウイルスに対する持続的耐性を付与することができる前記ポリヌクレオチド配列である。
【0042】
本発明によるポリヌクレオチド配列は、野生型又は合成又は突然変異誘起により作製され、そしてそれによってコードされたジェミニウイルス由来アミノ酸配列はウイルス感染を妨害する野生型又は突然変異配列である。
【0043】
したがって、本発明は、上記のa)、b)及びc)において定義し、特定した原理に従ってそれに対する耐性を導入することを要求される、ジェミニウイルスの対応するゲノム配列に対してヌクレオチドレベルで異なるように、適切に変更されているか又は野生型のジェミニウイルスのポリヌクレオチド配列を含む。
【0044】
本発明のその他の目的は、ジェミニウイルス由来アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列であって、該ポリヌクレオチド配列は、転写後抑制の標的で無いか又無効の標的であることを特徴とし、そしてそれに対する耐性が要求されるジェミニウイルスの配列に対して殆ど100%に等しい相同性を有し、そして同様の妨害能力を維持していたとしても、元の配列に対してsiRNA群が過小になるように短縮化されている。
【0045】
本発明によるポリヌクレオチド配列を構築する遺伝子配列は、Mastrevirus, Curtovirus, Begomovirus, Topocuvirusのようなジェミニウイルスから導くことができ、特に表4に示した種及びその単離株、より特異的にはトマト黄化葉巻病ウイルスの種及び表5に示したその単離株から導くことができる。









【0046】
Begomovirusの種は、好ましくはTYLCCNV, TYLCGV, TYLCMalV, TYLCSV, TYLCTHV, TYLCV, ACMV, BGMV, CaLCuV, ToCMoV, TGMV, ToGMoV, ToMHV, ToMoTV, ToMoV, ToRMV, ToSLCV, ToSRV, ワタ葉巻(CLCrV, CLCuAV, ClCuGV, CLCuKV, CLCuMV, CLCuRV),東アフリカキャッサバモザイク(EACMCV, EACMMV, EACMV, EACMZV),ジャガイモ黄化モザイク(PYMPV, PYMTV, PYMV), カボチャ葉巻(SLCCNV, SLCV, SLCYV),サツマイモ葉巻(SPLCGV, SPLCV), タバコ葉巻(TbLCJV, TbLCKoV, TbLCYNV, TbLCZV)、トマト葉巻(ToLCBV, ToLCBDV, ToLCGV, ToLCKV, ToLCLV, ToLCMV, ToLCNDV, ToLCSLV, ToLCTWV, ToLCVV, ToLCV),及びそれらの単離株である。
【0047】
他の属、Mastrevirus, Curtovirus, Topocuvirusに属するジェミニウイルスのその他の好ましい種は、WDV, MSV, SSV, BYDV, TYDV, BCTV及びその単離株である。
【0048】
ジェミニウイルスのゲノムに属する遺伝子配列は、配列C1/AL1/AC1, C2/AL2/AC2, C3/AL3/AC3, C4/AL4/AC4, V1/AR1/AV1, V2/AR2/AV2, BC1/BL1及びBV1/BR1、特に既に記述されたジェミニウイルスの配列C1/AL1/AC1及びその単離株であり得る。
【0049】
本発明の目的のポリヌクレオチド配列によってコードされたアミノ酸配列は、それを発現する植物にジェミニウイルスに対する耐性を付与することができる病原体由来タンパク質である。したがって、本発明の該妨害タンパク質は安定的に発現し、タンパク質産物が耐性を誘発できる分子機構とは別の持続的耐性を付与する。
【0050】
病原体由来タンパク質は、キャプシドタンパク質、複製関連ウイルスタンパク質(Rep)、遺伝子C2/AL2/AC2, C3/AL3/AC3, C4/AL4/AC4, V2/AR2/AV2, BC1/BL1及びBV1/BR1によりコードされているタンパク質であり得る。
【0051】
上記の条件を満たす可能性のあるポリヌクレオチド配列の例は図16A及び16Bに記述されており、これらの図はいずれのヌクレオチド配列も同じウイルスタンパク質をコードしている、TYLCSVのRep−210タンパク質をコードしている野生型ヌクレオチド配列と感染ウイルスにより誘発される転写後分解の標的とならないように修飾された合成ヌクレオチド配列との整列を示す。
【0052】
このポリヌクレオチド配列により形質転換することができる植物、組織又は植物細胞は、トマト、コショウ、タバコ、サツマイモ、ワタ、メロン、カボチャ、マニオック、ジャガイモ、マメ、ダイズ、ムングマメ、ビート、サトウキビ、トウモロコシ、コムギであり得る。
【0053】
本発明のその他の目的は、5’−3’方向に下記を含む異種ポリヌクレオチド配列を含む構築体である:
a)該植物又は組織又は形質転換細胞においてプロモーターとして作用するポリヌクレオチド配列;
b)ジェミニウイルスの遺伝子間領域に属するか又は属さない、コード領域の5’位置に存在する非翻訳ポリヌクレオチド配列;
c)本発明によるポリヌクレオチド配列又はそのフラグメント又は変異体;
d)該ポリヌクレオチド配列の3’の位置に存在する、転写のターミネーターとして作用する配列。
【0054】
既に記述した構築を含む発現ベクターは本発明の別の目的である。
【0055】
更に、本発明の目的は、そのゲノムに本発明のポリヌクレオチド配列を含む植物、組織又は形質転換植物細胞、その子孫並びに種子である。
【0056】
最後に、本発明の目的は、ジェミニウイルスに対する持続的耐性を持つ形質転換植物、組織又はその植物細胞を作製する方法であって、
a)ジェミニウイルスに対する耐性を付与することができるアミノ酸配列をコードするウイルス遺伝子配列を「同定」又は「選択」し;
b)感染するジェミニウイルスによって誘発される転写後抑制の影響を受けない標的とするように該ウイルス遺伝子配列の突然変異誘起又は「選抜」を行い;
c)既に記述した構築体を介して、ステップb)において得られた、変異され若しくは選抜されたジェミニウイルスの遺伝子配列を、植物、組織又はその植物細胞に挿入する;
ステップを含む、前記方法である。
【0057】
本発明の方法のステップa)に関して、用語「同定」はジェミニウイルスに対する耐性を付与することができる該ウイルス遺伝子配列の実験的認定を意味し、一方、用語「選択」はジェミニウイルスに対する持続性のない耐性を付与することができる既に使用し得るウイルス遺伝子配列の認定を意味する。したがって、本発明による方法はさらに、既知配列を使用することにより生じるジェミニウイルスに対する耐性の消失の問題に対する解決策を提供する。
【0058】
特に、ステップb)において予想される突然変異誘起は、それに対する耐性を獲得することが要求されるジェミニウイルスの対応する遺伝子配列に対して、90%以下の、好ましくは80%以下の、より好ましくは70%以下のヌクレオチド相同性を維持して行われ、ジェミニウイルスの対応する配列に関して転写されたRNAにおける連続相同性が17ヌクレオチド以下、好ましくは8ヌクレオチド以下、より好ましくは5ヌクレオチド以下であり、そして元来の遺伝子配列に関して1置換を含む配列の最大の長さが30ヌクレオチドを超えない、好ましくは20ヌクレオチドを超えない、より好ましくは9ヌクレオチド以下であるように分布している。
【0059】
本発明によりステップa)において同定又は選択されたポリヌクレオチド配列によりコードされているアミノ酸配列は、野生型ウイルスタンパクに対して100%の相同性を有するタンパク質である可能性がある。
【0060】
この突然変異誘起は、ジェミニウイルスに対する耐性を付与するタンパク質の能力を減少させないヌクレオチド配列上の全ての突然変異を含んでいる。可能性のある突然変異は、サイレント点突然変異及び類似の生化学的性質を持つアミノ酸との置換を生じる突然変異の両者又は欠失及び/又は挿入及び/又は置換である。
【0061】
その他には、本発明の方法のステップb)における突然変異誘起は、感染ウイルスにより作られたsiRNAの天然の集団において、該配列が類似の妨害能力を保持したまま元来の配列に関して少なく表現されるような、末端のポリヌクレオチド配列の欠失からなる。
【0062】
その他には、本発明の方法のステップb)における「選抜」の本質は、転写後抑制の標的とならないように、又は無効の標的であるように、求められている耐性の対象となるジェミニウイルスとはヌクレオチドのレベルにおいて異なるジェミニウイルスの野生型配列の認定にある。
【0063】
特に、本発明の方法のステップb)における突然変異誘起作用は、siRNAの集団において野生型タンパク質をコードする配列に対して過小であり、そして該短縮化されたタンパク質はジェミニウイルスに対する耐性を付与する能力を維持している該遺伝子配列の最小領域が同定されるまで、ステップa)のウイルス遺伝子配列3’又は5’領域を欠失することからなることができる。
【0064】
さらに、本発明の方法のステップa)のウイルス遺伝子配列は、TYLCSV C1/AL1/AC1遺伝子の配列であり得、そのアミノ酸配列は、例えばRep−130のような野生型ウイルスタンパク質に比較して短縮化されたタンパク質であり得る。
【0065】
本発明による合成的ポリヌクレオチド配列の種々の農学的応用の中で、特に興味のあるものはTYLCSVに対する耐性を持つトマト植物を得るためにそれを使用することである。
【0066】
この特別な態様において、短縮化されたウイルスRepタンパク質(Rep−210)をコードする形質転換用ポリヌクレオチド配列は、3’欠失により修飾され、耐性を付与する能力を保持しつつ、TYLCSV−誘発転写後遺伝子抑制の無効な標的を生じた。
【0067】
特に、放射性RNAプローブとのストリンジェントハイブリダイゼーションを使用して、図6及び7に示されるように、野生型植物におけるTYLCSVの感染の際に作られるウイルス由来siRNAの集団において少ないTYLCSVゲノムの転写領域が同定された。この領域は、TYLCSV Repをコードする遺伝子の最初の390ヌクレオチドに相当する。その転写物はウイルス誘発転写後遺伝子抑制の無効な標的であり、安定的に発現し、持続的耐性を生じるRep−130タンパク質をコードしている。
【0068】
したがって、本発明の特別な態様において、TYLCSVのような、本発明のポリヌクレオチド配列によりコードされているジェミニウイルスのアミノ酸配列は、短縮されたRep−130タンパク質(配列番号9)であり得る。この場合に、転写後抑制の無効な標的とされ又は標的にならないようにされたウイルス遺伝子配列は配列番号8である。
【0069】
本発明のその他の目的は、ステップb)における突然変異誘起が、ジェミニウイルスに対する耐性を付与し、且つ転写後抑制の無効な標的又は非標的にする、コードアミノ酸配列の能力を維持しているステップa)のウイルス遺伝子配列のサイレント点突然変異からなる上記の方法である。
【0070】
特に、ステップa)のウイルス遺伝子配列はTYLCSV(配列番号12)の場合にはV1/AR1/AV1(CP)遺伝子であり得、特別な態様において、転写後抑制の無効な標的又は非標的にするウイルス遺伝子配列は配列番号6である。
【0071】
さらに、ステップa)のウイルス遺伝子配列はTYLCSV C1/AL1/AC1遺伝子であり得、この場合に転写後抑制の無効な標的又は非標的にするウイルス遺伝子配列は配列番号2又は配列番号4であり得る。
【0072】
ここで、添付した個々の図を参照しつつ、好ましい態様に従って、非限定的な説明により本発明を記述する。
【0073】
図1は、トマト黄化葉巻病ウイルスSardinia種(TYLCSV)のゲノムを示す。DNAは双方向性に転写されており、部分的に又は完全にオーバーラップする6個のオープンリーディングフレーム(ORF)(ウイルス鎖(V)上の2個、V1及びV2、及び相補鎖(C)上の4個、C1,C2,C3及びC4)を含んでいる。
【0074】
図2は、TYLCSV−アグロ接種形質転換N.benthamiana植物(系統102.22)におけるRep−210タンパク質の発現を示す。記号(−)、(+)及びNIは、健康、感染及び非接種植物をそれぞれ意味する。分析は、TYLCSVのアグロ接種前(0 wpi)及びその後4及び8週間後(それぞれ4及び8 wpi)に行った。
【0075】
図3は、TYLCSVでのアグロ接種前(0 wpi)及びその22週間後(22 wpi)のトマト植物(系統 47 X wt)におけるRep−210タンパク質及び形質転換mRNAの発現を示す。記号(+)及び(−)はそれぞれ特定した時期において植物が感染しているか又は健康であるかを意味する。
【0076】
図4は、TYLCSVアグロ接種前の形質転換トマト植物(47 X 10D系統)における相対的転写に相当するRep−210タンパク質及びsiRNAの発現の分析を示す。パネルの記号(+)及び(−)は、それぞれC1のセンス及びアンチセンスの導入遺伝子の存在及び非存在を意味し;wtは対照の野生型植物を意味し;siRNAのパネル下側の記号(+)、(−)及びNIは、ウイルスの存在(+)及び非存在(−)をそれぞれ、そして対照としての非アグロ接種を意味する。
【0077】
図5は、TYLCSV−感染野生型トマト植物(検体1〜4)及び対照としての非感染植物(検体C)から抽出した小型RNAのノーザンブロットを示す。Mは分子量マーカーを意味する。
【0078】
図6は、TYLCSVのゲノムに対する小型妨害RNAの分布分析を示す。最上段は、TYLCSVゲノムの直線的地図;転写物は矢印により示されている(V1及びV2はウイルスゲノムと同方向、そしてC1,C2,C3及びC4は相補的方向);ウイルスゲノム地図の下の9個の空ボックスは9個のPCRフラグメント(それぞれ約300ヌクレオチド長)を表し、その中にゲノムが分割され、そしてその臭化エチジュウム染色及びTYLCSV感染トマト植物から抽出したsiRNAとのハイブリダイゼーションが示されている。IRは10番目のPCRフラグメントを示し、TYLCSVゲノムの非転写遺伝子間領域に相当する。パネルの下の数字は、各PCRフラグメントに関するハイブリダイゼーションシグナルのパーセンテージを意味する。
【0079】
図7は、非アグロ接種(検体C)又はTYLCSV−アグロ接種(検体1及び2)野生型トマト植物における接種4週間後におけるsiRNAの存在の分析を示す;特に、Rep−210(プローブA)及びRep−130(プローブB)の転写物に対応するsiRNAを分析した;左パネルの列100及び50はそれぞれ、プローブA及びBの両者に相同なオリゴヌクレオチドの100及び50pgに対応する。
【0080】
図8は、pTOM130プラスミドのRep−130(配列番号9)をコードするヌクレオチド配列(配列番号8)を示す。大文字は、TYLCSVに属するものでなく、クローニングに由来するヌクレオチド;下線の付いた配列はクローニングに使用したBamHI及びEcoRI制限部位に対応する。開始及び終結コドンは太文字で記述されており、一方C4タンパク質発現を除去するために導入された突然変異はイタリックの太文字である。
【0081】
図9は、上の各列に示されている突然変異Repタンパク質を発現するプラスミドと共に、TYLCSV感染性クローン(pTOM6)で共遺伝子導入された野生型N.benthamianaプロトプラストからの総核酸抽出物のサザンブロットを示す。
【0082】
図10は、突然変異Repタンパク質を発現するプラスミドと共にpTOM6プラスミドで共遺伝子導入された野生型N.benthamianaプロトプラストにおけるTYLCSV複製の定量的分析を示す。
【0083】
図11は、Rep−130−発現形質転換植物を得るために使用されたpTOM130プラスミドの模式図を示す。LB及びRBは左及び右境界をそれぞれ意味する;pE35Sは複製されたCauliflower Mosaic Virus 35Sプロモーターを表す;Rep−130(配列番号8)はRep−130タンパク質(配列番号9)をコードする配列である;t35SはCauliflower Mosaic Virus 35Sのターミネーター;tNOSはノパリン合成酵素をコードする遺伝子のターミネーターである;nptIIはネオマイシンホスフォトランスフェラーゼをコードする配列である;pNOSはノパリン合成酵素の遺伝子のプロモーターである;Kanはカナマイシン耐性の遺伝子である。
【0084】
図12は、pTOM130で形質転換した形質転換N.benthamiana植物(系統300〜309)におけるRep−130タンパク質(配列番号9)発現の分析を示す。
【0085】
図13は、Rep−130タンパク質(配列番号9)(系統300, 301, 303)又はRep−210タンパク質(102.22)のいずれかを発現する野生型(wt)及び形質転換N.benthamianaプロトプラストにおけるTYLCSV複製の分析を示す。
【0086】
図14は、pTOM130(系統402, 403, 406, 411, 413, 416, 417)で形質転換された形質転換L.esculentum植物におけるRep−130タンパク質(配列番号9)発現の分析を示す。形質転換Rep−130発現N.benthamiana(系統303)から抽出されたタンパク質が陽性対照として使用された。
【0087】
図15は、Rep−130を発現するpTOM130(系統406)で形質転換されたL.esculentum形質転換植物と非形質転換野生型植物の間の比較を示す。
【0088】
図16A及びBは、Rep−210をコードする合成配列の二つの例(配列番号2,配列番号4)を示す。TYLCSV Rep−210タンパク質をコードする野生型ヌクレオチド配列(Seq_cod_Rep210_wild_type,上側;配列番号1)及びウイルス誘発転写後抑制の無効な標的となるように修飾された合成ヌクレオチド配列(Seq_cod_Rep210_silencing_minus、下側;配列番号2、配列番号4)の間の整列が示されている。合成配列において、野生型配列に対して突然変異を生じているヌクレオチドは網掛け文字で示されている。
【0089】
図17は、プラスミド野生型遺伝子pTOM102(C4−)及び合成遺伝子Rep−210抑制マイナスB(配列番号4),(プラスミドpTOM102Syn)によりコードされているRep−210タンパク質のN.benthamiana葉の中へのアグロ浸潤による一過性発現の分析を示す。
【0090】
図18は、a)Rep−210 配列番号1の野生型遺伝子を発現するpTOM102(C4−)プラスミド(Brunetti et al., 2001)、系統1〜3;b)Rep−210の合成遺伝子を発現するpTOM102Synプラスミド(Rep−210抑制マイナスB;配列番号4)系統4〜6;c)空のクローニングプラスミドpBIN19 系統7〜9、を含むA.tumefaciens株と共にTYLCSV感染性クローンを含むA.tumefaciens株の共アグロ浸潤によるウイルス複製の一過性阻害のアッセイを示す。
【0091】
図19は、Rep−210の合成遺伝子、Rep−210−抑制マイナスB、配列番号4(系統 506,508A及び508B)を含むpTOM102Synプラスミドで形質転換された形質転換N.benthamiana植物におけるRep−210タンパク質の発現の分析を示す。Rep−210発現形質転換トマト植物から抽出されたタンパク質を陽性対照として使用した。
【0092】
図20は、pTOM 102(系統102.22,Noris et al.,1996)又はpTOM 102Syn(系統506)で形質転換された形質転換N.benthamiana植物における、TYLCSVアグロ接種後のRep−210タンパク質の発現の分析を示す。分析は、TYLCSVアグロ接種前(0wpi)及び5週間後(5wpi)に実施した。
【0093】
図21は、N.benthamiana野生型(WT)又はpTOM 102(系統102.22,Noris et al.,1996)又はpTOM 102Syn(系統506)のいずれかで形質転換された形質転換植物の2,3,4,5 wpi(このwpiはアグロ接種後の週の数を意味する)における「ドット−ブロット」による感染の分析を示す。
【0094】
図22は、CPをコードする合成配列の例を示す。TYLCSV CP(TYLCSV CP,上側;配列番号12)をコードする野生型ヌクレオチド配列及びウイルス誘発転写後分解の極めて無効な標的または非標的となるように修飾された合成ヌクレオチド配列(TYLCSV CP抑制マイナス、下側;配列番号6)の間の整列が示されている。合成配列において、野生型配列に対して突然変異を生じているヌクレオチドは網掛け文字で示されている。
【0095】
実施例1:siRNA集団において過度に少ない(under−represented)TYLCSVゲノムの領域の同定。
野生型植物のTYLCSVによる自然の感染において、TYLCSVゲノムの両鎖により転写されたウイルス配列は、ゲノムの種々な部分に相同的なsiRNAの存在によって示されるように、転写後遺伝子抑制の標的である(図5)。図5には、TYLCSVに感染した野生型トマト植物(検体1〜4)及び非感染対照(検体C)から抽出された総RNAのノーザンブロットが示されている。使用されたプローブ及び制限部位は各パネルの横に示されている。またsiRNAの推定分子量が記述されている。
【0096】
TYLCSVゲノムの一部の領域が他の領域よりも転写後遺伝子抑制の効果が少ない標的であるか否かを評価するために、ウイルスゲノムの位置に関してsiRNAの分布を系統的に調べた。したがって、特異的オリゴヌクレオチドを使用するPCRにより得られるそれぞれ約300塩基対である9個の連続するフラグメントにTYLCSVゲノムを分割した(図6に示されている)。アガロースゲル電気泳動の後、該フラグメントの同量をナイロンフィルターに移した。アガロースゲルに負荷したPCRフラグメントの定量はソフトウエアAidaにより行った。TYLCSV感染トマト植物により作られたsiRNAを総RNAから開始して精製し、末端を標識して、TYLCSVゲノムの数領域を含むフィルター上でプローブとして使用した(Szittya et al.,2002)。負荷したフラグメントの同量に対して、異なる強度のハイブリダイゼーションシグナルを生じ、これをTYPHOON装置(Amersham−Pharmacia)により評価した。その結果、ウイルスゲノムの数領域についてsiRNAの異なる分布が検出された(図6)。
【0097】
実施例2:siRNA集団において過度に少ないTYLCSV C1遺伝子の領域の同定。
siRNA集団において過度に少ないTYLCSV C1遺伝子の領域を同定するために、健康及びTYLCSV感染の両トマト植物から総RNA(Brunetti et al.,1997)を抽出した。
【0098】
該RNAの30マイクログラムを8%変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、ノーザンブロットを介して毛管現象によりナイロンフィルターに移した。二つの同一のレプリカを作り、図7に示すように、それぞれについてC1遺伝子の5’領域の異なる部分に相当するプローブとのハイブリダイゼーションを行った。一つのフィルターは、42ntの非翻訳リーダー配列及びC1遺伝子の最初の630ヌクレオチド(C1遺伝子の約3/5)からなるC1遺伝子の5’部分に由来するプローブ(プローブA)とハイブリダイズし、他のフィルターは42ntの非翻訳リーダー配列及びC1遺伝子の最初の390ヌクレオチドからなるC1遺伝子の5’部分に由来するプローブ(プローブB)とハイブリダイズした。
【0099】
(二つの独立した標識に由来する)二つの異なるプローブにより得られた結果を定量的に比較するために、両プローブに相補的な40オリゴヌクレオチドの同スカラー量を両レプリカに負荷した。列100及び50は、それぞれ該オリゴヌクレオチドの100及び50ピコグラムに対応する。オリゴヌクレオチドの泳動を示すパネルは、siRNAを含むそれぞれのパネルと並べてあるが、オリゴヌクレオチドとsiRNAは異なる分子量を有するので、図の位置はゲル上の位置に対応しない。
【0100】
平均長75ヌクレオチドのフラグメントを得るために、インビトロ転写の後の両プローブにアルカリ加水分解を行った(Cox et al.,1984)。
【0101】
ハイブリダイゼーションは、Dalmay et al.,2000により記述されている緩衝液中において16時間39℃で行った。ハイブリダイゼーションの後、フィルターを2X SSC,0.2% SDS中で2回40℃において10分間、2回45℃において10分間、そして1回50℃において10分間洗った。
【0102】
siRNA集団においてC1遺伝子の近位5’領域が過度に少ないことが明らかである。特に、TYPHOON装置(Amersham−Pharmacia)により行われた結果の定量的分析により、この5’領域に対応するsiRNAは210アミノ酸をコードするヌクレオチドまで続いている領域に対応するsiRNA(プローブA)に比較して約25%(プローブB)であることが明らかにされた。したがって、該5’領域はウイルス誘発転写後遺伝子抑制の無効な標的である。
【0103】
これらの結果は、実施例1に記述した方法を使用して、すなわち、C1遺伝子の二つの異なる領域に対応するPCRフラグメントをTYLCSVに感染したトマト植物から抽出したsiRNAの集団とハイブリダイゼーションを行うことにより確認された。
【0104】
実施例3:短縮RepをコードするC1遺伝子5’部分のポリヌクレオチド配列の構築体。
以前に示されたように(Brunetti et al.,1997)、Rep−210形質転換植物は長期に持続しない耐性及び変化した表現型を示す。
【0105】
図1において知ることが出来るように、C4遺伝子は短縮されたC1遺伝子の中に異なるリーディングフレームとして組み込まれている。
【0106】
ジェミニウイルスC4遺伝子の導入遺伝子発現は表現型の変換を誘発する(Krake et al.,1998)。
【0107】
従って、C4 ORFを発現できない短縮化C1構築体がいくつか設計された。
【0108】
C4(−)突然変異株を得るために、二点突然変異の導入によりC4配列中に終結コドンが導入された。特に、図8に記述されたpTOM130配列(配列番号8)に関して、ヌクレオチド233における突然変異は、C4をコードするリーディングフレームのTCAコドン(セリンをコードする)をTGA(opal)に変換するCからGへの変換を含む。さらに、ヌクレオチド231の突然変異は、C1をコードするリーディングフレーム中でロイシンコドンを復活させるCからTへの変換からなる(CTCがTTGになる、植物では良く現れる)。
【0109】
そのためC4タンパク質の翻訳はわずか10アミノ酸で中断され、一方C1タンパク質のアミノ酸配列は変化しない。二つの導入された突然変異は、C1リーディングフレーム中ではロイシンコドンを植物におけるコドン使用に適合するように維持しつつ、C4リーディングフレーム中に「強力な」終結コドンを発生させる条件に基づく多数の可能性のある突然変異の中から選択された。
【0110】
突然変異誘起は以下の突然変異オリゴヌクレオチドを使用してPCRにより行われた。
【0111】
C4プラスプライマー(配列番号10):5’−CT CAT CTC CAT ATT ATC CAA TTC GAA G−3’
【0112】
C4マイナスプライマー(配列番号11):5'−C TTC GAA TTG GAT AAT ATG GAG ATG AG−3’(TYLCSVの2419−2448,Kheyr−Pour et al., 1991)
【0113】
二つの突然変異プライマーのそれぞれは、鋳型としてpGEM102を使用する二つの別々のPCR反応において外部プライマーと共に使用される(Brunetti et al.,2001)。
【0114】
特に、外部オリゴヌクレオチドはRev及びUniv(M13/pUC配列分析プライマー n.1233及び1224)である。Univ/C4プラスにより行われる反応により537bpフラグメントが得られ、一方Rev/C4マイナスによる反応からは351bpフラグメントが得られた。
【0115】
得られた生成物は、二つの外部プライマーを使用して行われた続く増幅反応に鋳型として使用された。
【0116】
得られたPCR生成物はEcoRI及びBamHI制限酵素で消化され、pJIT60の対応する部位にクローニングされ、こうしてpJITR210を得た。いずれの場合も、クローンを検証するために配列分析を行った。
【0117】
実施例4:植物細胞の中に発現したときにウイルス複製を阻害できるTYLCSV C1遺伝子の最小5’領域の同定。
TYLCSVに対する耐性を付与することが出来るC1遺伝子の最小5’末端領域を明確にするために、C1遺伝子の3’−末端欠失突然変異株のシリーズをpJIT60発現ベクター中にクローニングし、pJTRシリーズを得た。
【0118】
ウイルス配列を、末端に制限部位を含む特異的プライマーを使用して、Pfu DNAポリメラーゼ(Stratagene)によるPCRにより増幅した。
【0119】
Rep−210をコードし、内部のC4タンパク質の終結コドンを含む、以前に記述したpJITR210プラスミドを鋳型として使用した。増幅反応により得られたフラグメントをBamHI及びEcoRI酵素で消化し、pJIT60の対応する部位にクローニングして、pJTRシリーズを得た。
【0120】
増幅忠実度及びベクター挿入ジャンクションを確認するために、全ての最終クローンを配列分析した。全ての増幅配列の長さと正確な位置を表6に記述した。
【0121】
TYLCSVに対する耐性を付与する各Rep欠失突然変異株の能力は、各突然変異株と共にTYLCSV感染性クローン(pTOM6)によるN.benthamiana野生型プロトプラストの共遺伝子導入アッセイにより評価し、次いでサザンブロットによりウイルスゲノムの複製レベルを分析した。得られた結果を図9及び10に示した。


(1)TYLCSVゲノムのヌクレオチド番号はKheyr−Pour et al.1991に従う。
【0122】
プロトプラスト共遺伝子導入、総核酸抽出及びサザン分析は既に記述した方法(Brunetti et al.2001)に従って行った。
【0123】
各プロトプラスト検体からの総核酸抽出物を、Rep−210をコードする配列及び対照として使用したpGEM−Pプラスミドに対応するジゴキシゲニン−標識RNAプローブでサザンブロットすることにより分析した。特に、図9は総核酸のサザンブロットを表しているが、その中のscDNA及びssDNAはそれぞれTYLCSVの超らせん(supercoiled)及び1本鎖(single strand)DNAを意味する。
【0124】
TYLCSVゲノムの複製に対するいくつかのRepの短縮型の発現の影響を正確に定量的に分析するために、Repの最初の54 N−末端アミノ酸をコードする領域に対応する32P−標識DNAプローブでサザン分析を行い、フィルター上で検出された各バンドに対応する放射能レベルを、Instant Imager装置(Canberra, Packard)での分析により評価した。
【0125】
各突然変異構築を重複して、独立した3回の実験においてアッセイした。図10に記述される値は3回の独立した実験の2又は3回の共遺伝子導入の平均を示す。
【0126】
pGEM−P対照プラスミドと共にpTOM6で行った共遺伝子導入実験におけるTYLCSV複製のレベルは100%に等しいと考えられた。
【0127】
特に、図10は定量的分析を示し、ヒストグラムの白及び黒のバーはそれぞれ超らせん及び1本鎖DNAの量を表し;エラーバーは平均標準偏差を示す。
【0128】
図9及び10を観察することにより示されるように、Repタンパク質の最初の130 N−末端アミノ酸は殆ど完全にウイルス複製を阻害するのに充分であるが、一方最初の120 N−末端アミノ酸の発現は影響を及ぼさない。
【0129】
実施例5.Rep−130を発現するN.benthamiana形質転換植物の作製。
プロトプラストにおける一過性発現により評価されたRep突然変異株によるTYLCSV複製を阻害する能力の分析により、前の実施例で記述された最小の突然変異株はそれでもなお有効にRep−130(配列番号9)をコードしていることが示された。
【0130】
また、Rep−130をコードするC1遺伝子の近位5’部分はRep−210をコードする配列に比較して転写後遺伝子抑制の効果の少ない標的であることが、既に他の実施例において明らかにされている。
【0131】
従って、Rep−130を発現するN.benthamiana形質転換植物が得られた。この目的のために、pJTR130のKpnI−BgIIIフラグメントをpBIN19のKpnI−BamHI部位にクローニングすることにより図11に示されたpTOM130プラスミドが得られた。
【0132】
N.benthamianaをpTOM130プラスミドを含むA.tumefaciens pGV2260 C58株で形質転換し、そしてカナマイシン耐性植物を記述されているように再生した(Noris et al.,1996)。
【0133】
図12に示すように、導入遺伝子の存在についてPCR分析により、Rep−130タンパク質の発現についてウエスタンブロットにより、一次形質転換体を分析した。
【0134】
形質転換(300〜309)植物又は野生型対照(wt)植物から得られたタンパク質抽出物を、記述されているように抗−TYLCSV Repウサギポリクロナール一次抗体を使用するウエスタンブロットにより分析した(Noris et al.,1996)。
【0135】
実施例6:pTOM130構築で安定的に形質転換され、Rep−130を発現する植物細胞はTYLCSV複製を阻害する。
Rep−130により付与された耐性を早期に評価するために、いくつかの一次形質転換Rep−130発現N.benthamiana植物から単離したプロトプラストをTYLCSV感染性クローン(pTOM6)で感染させた。
【0136】
形質転換系統は、ウエスタンブロット分析により明らかであるように(図12)、高いRep−130発現により選択された。
該形質転換プロトプラストにおけるTYLCSV複製のレベルは、N.benthamiana野生型及びRep−210発現形質転換プロトプラスト(系統102.22)において観察されたレベルと比較した。
【0137】
特に、図13は野生型(wt)及びRep−130(配列番号9)(系統300,301,303)又はRep−210(系統102.22)のいずれかを発現する形質転換N.benthamianaプロトプラストにおけるTYLCSV複製の分析を示す。Rep−210転写物に対応するジゴキシゲニン−標識RNAプローブを使用するサザンブロットにより、いくつかのプロトプラスト検体からの総核酸抽出物を分析した。
【0138】
Rep−130形質転換プロトプラストにおけるTYLCSV複製のレベルを野生型プロトプラストにおいて観察されるレベルと比較するために、野生型プロトプラストから抽出された総核酸も、図13に示すように、1:10及び1:50希釈の後に負荷した。
【0139】
実施例7:Rep−130を発現するトマト形質転換植物の作製。
前記実施例に記述されているように、プロトプラスト中の一過性発現により評価した、Rep変異株によるTYLCSV複製阻害の能力の分析により、最小変異株はなお有効にRep−130をコードしていることが示された。
【0140】
既に示したように、Rep−130をコードするC1遺伝子の近位5’部分は、Rep−210をコードする配列に比較して転写後遺伝子抑制の無効な標的である。
【0141】
したがって、Rep−130を発現する形質転換トマト植物(Lycopersicon esculentum cv. Moneymaker)の作製を行った。
【0142】
pTOM130プラスミド(図11)を含むA.tumefaciens pGV2260 C58株を使用してトマトを形質転換し、カナマイシン耐性植物を記述のように再生した(Brunetti et al.1997)。
【0143】
PCR分析により導入遺伝子の存在について、そしてウエスタンブロットによりRep−130タンパク質の発現について一次形質転換体を分析した(図14)。
【0144】
抗−TYLCSV Repポリクロナールウサギ一次抗体を記述(Noris et al.1996)のように使用するウエスタンブロットにより、形質転換植物(系統400)又は野生型対照植物(wt)から得たタンパク質抽出物を分析した。
【0145】
Rep−130タンパク質を発現する形質転換トマト植物は全て、表現型からは野生型植物と区別することはできない(図15)。
【0146】
実施例8:Rep−130を発現するpTOM130構築により形質転換された植物におけるTYLCSVに対する持続的耐性の実証。
Rep−130発現により付与されたTYLCSVに対する耐性の持続を評価するために、Rep−130を発現するN.benthamiana R1形質転換植物にTYLCSV感染性クローンを含むA.tumefaciens LBA4404株をアグロ接種した。
【0147】
以前に報告したように、耐性をアッセイし、経時的な安定性を評価するために使用されるアグロ接種によるウイルス投与は、高い又は非常に高いウイルス圧力条件(high or very high viral pressure conditions)に相当する。
【0148】
植物の感染は、コートタンパク質遺伝子に特異的なジゴキシゲニン−標識プローブを使用する“tissue printing”アッセイにより1週間間隔で評価した。
【0149】
表7の結果は、Rep−210を発現する形質転換植物に関する表2に記述した結果と異なり、Rep−130タンパク質を発現する形質転換N.benthamiana植物は、TYLCSVをアグロ接種した場合に長期間持続する耐性を示すことを示している。このことは、接種後2及び6週間における耐性植物の比較により推測することができる。

【0150】
さらに、形質転換R2トマト植物において、Rep−130発現により付与されたTYLCSVに対する耐性の安定性が評価された。
【0151】
TYLCSV感染性クローンを含むA.tumefaciens C58C1+pCH32株を植物にアグロ接種した。耐性の評価及びその経時的安定性の評価のために使用したアグロ接種条件は、高い又は非常に高いウイルス圧力条件に相当する。
【0152】
コートタンパク質遺伝子に特異的な放射能標識プローブを使用するドット−ブロットアッセイにより1又は2週間ごとに感染を評価した。
【0153】
TYLCSV感染性クローンでアグロ接種した場合に、Rep−130を発現するトマト形質転換植物は長期間持続する耐性を示すことを、表8の結果は示している。このことは接種後3及び12週間後における耐性植物の比較から推測することができる。

【0154】
したがって、それをコードする配列はウイルス−誘発転写後遺伝子抑制の無効な標的であり、そしてRepは、さらに変異していたとしても、ウイルス耐性を付与する能力を維持している故に、耐性はRep−130タンパク質(配列番号9)の存在及びTYLCSVを接種された形質転換植物の安定的にRep−130を発現する能力に関連している。
【0155】
実施例9:感染性ウイルスによって誘発される転写後遺伝子抑制の標的にならないか又は極めて無効な標的となるように修飾され、TYLCSV Rep−210タンパク質をコードする合成ポリヌクレオチド配列の構築。
形質転換植物においてTYLCSV Rep−210タンパク質の長期間持続する発現を達成するために、本発明の方法を使用して、感染性ウイルスによって誘発される転写後遺伝子抑制の標的にならないか又は極めて無効な標的であるRep−210タンパク質をコードすることができる合成ポリヌクレオチド配列が作製された。
【0156】
さらに、以下の条件が続く:
- 合成ポリヌクレオチド配列は、C4タンパク質をコードすることはできず、Rep−130(配列番号8;配列番号9)について記述したように、位置231及び233に図8に示されたのと同じ突然変異を持つ;
- 導入された突然変異は全てサイレントである、すなわち、合成ポリヌクレオチド配列によりコードされたタンパク質生成物は、野生型ウイルス配列によりコードされているタンパク質生成物と一致する;
- 突然変異はトマト遺伝子におけるコドン使用頻度にしたがって導入された;特に、可能な限り、トマトにおいてより高頻度に使用されているコドンを選択した;
- 導入した突然変異は、ポリアデニル化又はスプライシングシグナル、潜在変異などのような特別な機能を持つ配列の形成の可能性を排除するために全てチェックした。
【0157】
上記基準に従って、Rep−210をコードする二つの合成配列が設計された(図16A及びB,配列番号2,配列番号3,配列番号4,配列番号5)。
【0158】
合成Rep−210サイレンシングマイナスB遺伝子(配列番号4)の配列に5’の非翻訳リーダー配列及び3’の終結コドンを加えた。
【0159】
特に、5’−3’方向に非翻訳リーダー配列、Rep−210をコードする合成配列(図16B;配列番号4,配列番号5)及び終結コドンを含むポリヌクレオチド配列は、“proof reading”修正作用を有する熱安定性DNAポリメラーゼ(Pfu DNA Polymerase, Stratagene and/or Pfx DNA Polymerase, Invitrogen)を使用して、オリゴヌクレオチド(Prodromou and Laurence, 1992; Stemmer et al., 1995)から始まるPCRにより組み立てられた。
【0160】
合成遺伝子を次いでCauliflower mosaic virus(CaMV)の35Sプロモーター及びCaMV 35Sの転写終結配列の転写制御の下にpJIT60プラスミド中にクローニングし、pJT60Synを作製した。次いで、pJT60SynプラスミドからKpnI−BgIIIによる制限により、5’−3’方向に;35Sプロモーター、Rep−210合成遺伝子、35Sターミネーターを含むカセットを取り出し、バイナリープラスミドpBIN19発生pTOM102SynのKpnI−BamHI部位へクローニングした。
【0161】
実施例10:Rep−210合成遺伝子によるウイルス複製の阻害の評価。
pTOM102Synで形質転換されたA.tumefaciens C58C1/pCH32を使用するN.benthamiana葉のアグロ浸潤により、合成遺伝子によりコードされたRep−210タンパク質の正しい発現をチェックした。pTOM102(C4−)で形質転換された株C58C1/pCH32を陽性対照として使用し、一方陰性対照としてバイナリープラスミドpBIN19で形質転換された株C58C1/pCH32を使用した。ウエスタンブロット分析(図17)は合成遺伝子によりコードされたRep−210タンパク質の発現を示す。
【0162】
pTOM102SynによってコードされたRep−210タンパク質のTYLCSV複製を阻害する能力を評価するために、一過性の共アグロ浸潤アッセイを行った。a)pTOM102Synプラスミド;b)pTOM102(C4−)プラスミド;c)pBIN19バイナリープラスミドを含むA.tumefaciens C58C1/pCH32株と共にTYLCSV感染性クローン(pTOM6)を含むA.tumefaciens C58C1/pCH32株で、N.benthamiana葉を共アグロ浸潤した。浸潤後72時間の共アグロ浸潤組織から抽出した総核酸のサザン分析によりTYLCSV複製を評価した。この分析により、合成遺伝子(pTOM102Syn)及び野生型遺伝子pTOM102(C4−)により発現されるRep−210タンパク質は、同様にTYLCSV複製を阻害することが示された(図18)。
【0163】
実施例11:Rep−210の合成遺伝子を発現する形質転換N.benthamiana植物の作製。
Rep−210の合成遺伝子を発現する形質転換N.benthamiana植物を得るために、N.benthamianaの円盤状に切った葉を、pTOM102Synプラスミドを含むA.tumefaciens LBA 4404株を使用して形質転換し、そして記述(Noris et al.1996)のようにカナマイシン耐性植物を再生した。
【0164】
一次形質転換体を、ウエスタンブロット分析によりRep−210タンパク質の発現について分析した。中程度のレベルのRep−210を蓄積した4つの一次形質転換体、506,508,517及び537系統をその他の試験のために選択した。図19は506,508A及び508B植物から抽出したタンパク質のウエスタン分析を示す。
【0165】
実施例12:Rep−210合成遺伝子のために形質転換されたN.benthamiana植物における耐性の安定性。
形質転換植物により生産されるRep−210の量とTYLCSVに対する耐性の間に正相関があることを、著者らは既に示した(Noris et al.1996;Brunetti et al.1997)。Rep−210タンパク質を中程度のレベルに蓄積するpTOM102構築で形質転換した形質転換植物は、非形質転換植物と同様にウイルス感染に対して感受性である(Noris et al.1996及び未発表データ)。これらの植物において低レベルのRep−210タンパク質はウイルスの複製を完全に阻害するには不十分であるので、早期にウイルス誘発転写後抑制が確立して耐性喪失の原因となるRep−210タンパク質蓄積の劇的減少を生じてしまう。
【0166】
合成遺伝子によりコードされるRep−210タンパク質がウイルス誘発転写後遺伝子抑制の標的でないか又は無効の標的であり、したがってウイルス感染を経時的に制御するか否かを評価するために、Rep−210の類似する量を発現する系統102.22形質転換植物(R3)及び系統506形質転換植物(R0)(図20、0 wpi)をTYLCSVでアグロ接種し、TYLCSVの蓄積を1週間隔でドットブロットにより分析した。予想されるように(Noris et al.,1996)、中程度のレベルのRep−210タンパク質を蓄積する形質転換R3系統102.22植物(図21、5〜8)は、非形質転換植物(図21、1〜4)と同様に感受性である。ドットブロット分析により示されるように(図12、9〜12)、合成構築(R0系統506)による形質転換植物はウイルス感染に対して抵抗性であり、限定された量のウイルスを蓄積したのみである。興味あることに、ウイルスが有効に転写後抑制を行えないために、合成遺伝子、Rep−210は接種後5週間でもまだ蓄積し(図20、5 wpi)、経時的にTYLCSV複製を阻害した(図21、9〜12)。
【0167】
この実施例に記述した結果は、病原体由来ポリペプチド配列が感染するウイルスによる転写後遺伝子抑制の標的とならないか又は無効の標的になるように適切に選択されるか又は修飾され場合には、病原体由来ポリヌクレオチド配列からなる導入遺伝子を植物中に発現させることにより、ジェミニウイルスに対する長期間持続する耐性を得ることが可能であることを示している。
【0168】
実施例13:TYLCSVキャプシドタンパク質をコードし、感染するウイルスにより誘発される転写後分解の標的とならないか又は極めて無効な標的となるように修飾された合成ポリヌクレオチド配列の構築。
上に報告したように、種間交配トマト(Lycopersicon esculentum X L.pennellii)におけるTYLCSVキャプシドタンパク質の形質転換発現はウイルス感染に対する部分耐性を付与する(Kunik et al.,1994)。またこの場合に、キャプシドタンパク質の発現に仲介される耐性は長期間持続しない。
【0169】
形質転換植物によるTYLCSVキャプシドタンパク質(CP)の安定した発現を得るために、CPをコードすることができ、ウイルス誘発転写後遺伝子抑制の無効な標的を生じる合成ポリヌクレオチド配列が作製された。
【0170】
本発明の方法を使用して、ウイルス誘発転写後遺伝子抑制の標的とならないか又は極めて無効な標的となる必要条件を充たすように、合成ポリヌクレオチド配列は設計された。
【0171】
さらに、以下の条件が続く:
- 導入された突然変異は全てサイレントである、すなわち、合成ポリヌクレオチド配列によりコードされたタンパク質生成物は、野生型ウイルス配列によりコードされているタンパク質生成物と全く一致する;
- 導入された突然変異はトマト遺伝子におけるコドン使用頻度を考慮する;特に、可能な限り、トマトにおいてより高頻度に使用されているコドンを選択した;
- 導入した突然変異は、ポリアデニル化シグナル又はスプライシングシグナル、潜在変異などのような特別な機能を持つ配列の形成の可能性を排除するために全てチェックした。
【0172】
上記の条件にしたがって、CPをコードする合成配列は設計された(配列番号12)(図22、TYLCSV CP サイレンシングマイナス、配列番号6,配列番号7)。
参考文献







【図面の簡単な説明】
【0173】
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16A】

【図16B】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
該ポリヌクレオチド配列はウイルスの転写後抑制の標的でないか又は無効の標的であること、及び
a)それに対する耐性が要求されているジェミニウイルスの対応する遺伝子配列に関して90%以下のヌクレオチドレベルの相同性;
b)ジェミニウイルスの対応する遺伝子配列に関して、17ヌクレオチド以下の転写されたRNAにおける連続相同性;
c)ジェミニウイルスの対応する遺伝子配列に関して、30ヌクレオチドを超えない1置換を含む配列の最大長
を有することが特徴であり、
該ポリヌクレオチド配列はそれにより形質転換された植物、組織又は植物細胞にジェミニウイルスに対する耐性を付与することができるジェミニウイルス由来アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列。
【請求項2】
ジェミニウイルスの対応する遺伝子配列に関してヌクレオチドレベルにおける相同性が80%以下である請求項1に記載の配列。
【請求項3】
ジェミニウイルスの対応する遺伝子配列に関してヌクレオチドレベルにおける相同性が70%以下である請求項1に記載の配列。
【請求項4】
ジェミニウイルスの遺伝子配列に関して転写されたRNAにおける連続相同性が8ヌクレオチド以下である先行する請求項のそれぞれに記載の配列。
【請求項5】
ジェミニウイルスの遺伝子配列に関して転写されたRNAにおける連続相同性が5ヌクレオチド以下である先行する請求項のそれぞれに記載の配列。
【請求項6】
ジェミニウイルスの対応する遺伝子配列に関して1置換を含む配列の最大長が20ヌクレオチドを超えない先行する請求項のそれぞれに記載の配列。
【請求項7】
ジェミニウイルスの対応する遺伝子配列に関して1置換を含む配列の最大長が9ヌクレオチドを超えない先行する請求項のそれぞれに記載の配列。
【請求項8】
先行する請求項にそれぞれ記載され、それに対する耐性が要求されているジェミニウイルスの対応するゲノム配列に関してヌクレオチドレベルで異なるようにポリヌクレオチド配列が突然変異しているか又はジェミニウイルスから選択された野生型配列である先行する請求項のそれぞれに記載の配列。
【請求項9】
ジェミニウイルスがMastrevirus, Curtovirus, Begomovirus及びTopocuvirus及びその単離株の種からなる群から選択される先行する請求項のそれぞれに記載の配列。
【請求項10】
Begomovirus種がTYLCCNV, TYLCGV, TYLCMalV, TYLCSV, TYLCTHV, TYLCV, ACMV, BGMV, CaLCuV, ToCMoV, TGMV, ToGMoV, ToMHV, ToMoTV, ToMoV, ToRMV, ToSLCV, ToSRV, ワタ葉巻(CLCrV, CLCuAV, ClCuGV, CLCuKV, CLCuMV, CLCuRV),東アフリカキャッサバモザイク(EACMCV, EACMMV, EACMV, EACMZV),ジャガイモ黄化モザイク(PYMPV, PYMTV, PYMV), カボチャ葉巻(SLCCNV, SLCV, SLCYV),サツマイモ葉巻(SPLCGV, SPLCV), タバコ葉巻(TbLCJV, TbLCKoV, TbLCYNV, TbLCZV)、トマト葉巻(ToLCBV, ToLCBDV, ToLCGV, ToLCKV, ToLCLV, ToLCMV, ToLCNDV, ToLCSLV, ToLCTWV, ToLCVV, ToLCV),及びそれらの単離株からなる群から選択される請求項9に記載の配列。
【請求項11】
Mastrevirus, Curtovirus, Topocuvirus属に属す種がWDV, MSV, SSV, BYDV, TYDV, BCTV及びその単離株からなる群から選択される請求項9に記載の配列。
【請求項12】
遺伝子配列がジェミニウイルスに属すC1/AL1/AC1, C2/AL2/AC2, C3/AL3/AC3, C4/AL4/AC4, V1/AR1/AV1, V2/AR2/AV2, BC1/BL1及びBV1/BR1からなる群から選択される請求項1に記載の配列。
【請求項13】
C1/AL1/AC1遺伝子配列が請求項10及び11により定義されたジェミニウイルス由来である請求項12に記載の配列。
【請求項14】
ジェミニウイルスアミノ酸配列がそのタンパク質を発現した植物にジェミニウイルスに対する耐性を付与することができる病原体由来タンパク質である請求項1に記載の配列。
【請求項15】
タンパク質がキャプシドタンパク質、複製関連ウイルスタンパク質(Rep)、遺伝子C2/AL2/AC2, C3/AL3/AC3, C4/AL4/AC4, V2/AR2/AV2, BC1/BL1及びBV1/BR1によりコードされるタンパク質からなる群から選択される請求項14に記載の配列。
【請求項16】
植物、組織又はその細胞がトマト、コショウ、タバコ、カボチャ、マニオック、サツマイモ、ワタ、メロン、ジャガイモ、ダイズ、ワイン、トウモロコシ、コムギ、サトウキビ、マメ、ビートからなる群に属す請求項1に記載の配列。
【請求項17】
該ポリヌクレオチド配列はウイルスの転写後抑制の標的でないか又は無効の標的であり、それに対して耐性が要求されているジェミニウイルスの配列に関して100%に等しい相同性を有し、元の配列に関してsiRNA集団中に少なく表現されるように適切に短縮されていることが特徴であるジェミニウイルス由来アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列。
【請求項18】
5’−3’方向に:
a)該植物又は組織又は形質転換細胞においてプロモーターとして作用するポリヌクレオチド配列;
b)コード領域の5’位に存在する非翻訳ポリヌクレオチド配列;
c)請求項1から17によって定義されるようなポリヌクレオチド配列、そのフラグメント又は変異体;
d)該ポリヌクレオチド配列に関して3’に存在し、転写ターミネーターとして作用する配列
を含む異種ポリヌクレオチド配列からなる構築。
【請求項19】
請求項18により定義されるような構築からなる発現ベクター。
【請求項20】
請求項1から17により定義されるようなポリヌクレオチド配列をそのゲノム中に含む形質転換植物、組織又はその植物細胞。
【請求項21】
請求項20に記載の植物及び植物組織の子孫。
【請求項22】
請求項1から17により定義されるようなポリヌクレオチド配列をそのゲノム中に含む種子。
【請求項23】
以下の方法:
a)ジェミニウイルスに対する耐性を付与することができるアミノ酸配列をコードするウイルス遺伝子配列の同定又は選択;
b)ジェミニウイルスに感染することにより誘発される転写後抑制の無効な標的になるようにウイルス遺伝子配列を突然変異誘起又は選抜;
c)請求項18により定義された構築を使用してステップb)において突然変異した又は選抜されたジェミニウイルス遺伝子配列を植物、植物組織又はその細胞内に挿入、
を含むジェミニウイルスに対する長期間持続する耐性を持つ形質転換植物、植物組織又はその細胞を作製する方法。
【請求項24】
突然変異誘起によりそれに対する耐性が要求されているジェミニウイルスの遺伝子配列に関してヌクレオチドレベルにおける相同性が90%以下に維持され、ジェミニウイルスの対応する遺伝子配列に関して転写RNAにおける連続相同性が17ヌクレオチド以下であるように分布し、そしてジェミニウイルスの対応する遺伝子配列に関して1置換を含む配列の最大長が30ヌクレオチドを超えない請求項23に記載の方法。
【請求項25】
突然変異誘起によりジェミニウイルスの遺伝子配列に関してヌクレオチドレベルにおける相同性が80%以下に維持されている請求項23及び24のいずれか一つに記載の方法。
【請求項26】
突然変異誘起によりジェミニウイルスの遺伝子配列に関してヌクレオチドレベルにおける相同性が70%以下に維持されている請求項23及び24のいずれか一つに記載の方法。
【請求項27】
突然変異誘起によりジェミニウイルスの遺伝子配列に関してヌクレオチドレベルにおける連続相同性が8ヌクレオチド以下に維持されている請求項23から26のいずれか一つに記載の方法。
【請求項28】
突然変異誘起によりジェミニウイルスの遺伝子配列に関してヌクレオチドレベルにおける連続相同性が5ヌクレオチド以下に維持されている請求項23から27のいずれか一つに記載の方法。
【請求項29】
ジェミニウイルスの対応する遺伝子配列に関して1置換を含む配列の最大長が20ヌクレオチドを超えない請求項23から28のいずれか一つに記載の方法。
【請求項30】
ジェミニウイルスの対応する遺伝子配列に関して1置換を含む配列の最大長が9ヌクレオチドを超えない請求項23から29のいずれか一つに記載の方法。
【請求項31】
突然変異誘起がサイレント点突然変異又は欠失及び/又は挿入及び/または置換からなる請求項23から30のいずれか一つに記載の方法。
【請求項32】
干渉siRNAの集団において野生型タンパク質をコードする配列に関して少なく表現されそして該短縮タンパク質がジェミニウイルスに対する耐性を付与する能力を維持している該遺伝子配列の最小領域が同定されるまではステップb)における突然変異誘起がステップa)のウイルス遺伝子配列の5’又は3’領域の欠失からなる請求項23から31のいずれか一つに記載の方法。
【請求項33】
ステップa)のウイルス遺伝子配列がC1/AL1/AC1遺伝子である請求項32に記載の方法。
【請求項34】
C1/AL1/AC1遺伝子がTYLCSV遺伝子である請求項32に記載の方法。
【請求項35】
アミノ酸配列がウイルスの野生型タンパク質に関して短縮タンパク質である請求項32に記載の方法。
【請求項36】
転写後抑制の標的にされないか又は無効な標的にされるウイルス遺伝子配列が配列番号8の配列である請求項32から35のいずれか一つに記載の方法。
【請求項37】
短縮タンパク質がRep−130(配列番号9の配列)である請求項32から36のいずれか一つに記載の方法。
【請求項38】
ジェミニウイルスに対する耐性を付与し、そして転写後抑制の標的とならないか又は無効な標的になる同一物によりコードされるアミノ酸配列の能力を維持するためにステップb)の突然変異誘起がステップa)のウイルス遺伝子配列のサイレント点突然変異からなる請求項23から31のいずれか一つに記載の方法。
【請求項39】
ステップa)のウイルス遺伝子配列がV1/AR1/AV1(CP)遺伝子である請求項38に記載の方法。
【請求項40】
V1/AR1/AV1(CP)遺伝子がTYLCSV遺伝子である請求項39に記載の方法。
【請求項41】
転写後抑制の標的にされないか又は無効な標的にされるウイルス遺伝子配列が配列番号8の配列である請求項38から40のいずれか一つに記載の方法。
【請求項42】
ステップa)のウイルス遺伝子配列がTYLCSVのC1/AL1/AC1である請求項38に記載の方法。
【請求項43】
転写後抑制の標的にされないか又は無効な標的にされるウイルス遺伝子配列が配列番号2の配列又は配列番号4の配列である請求項42に記載の方法。

【公表番号】特表2007−529198(P2007−529198A)
【公表日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−531026(P2006−531026)
【出願日】平成16年5月19日(2004.5.19)
【国際出願番号】PCT/IT2004/000287
【国際公開番号】WO2004/101798
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(505428732)エネア − エンテ ペル レ ヌオヴェ テクノロジー、 レネルジア エ ラムビエンテ (1)
【出願人】(591095362)コンシグリオ・ナツィオナーレ・デレ・リチェルケ (7)
【氏名又は名称原語表記】CONSIGLIO NAZIONALE DELLE RICERCHE
【Fターム(参考)】