説明

ジエン系ゴム組成物

【課題】高温時の弾性率に優れ、かつ弾性率の温度依存性にも優れたジエン系ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100重量部、シルク粉末0.1〜30重量部及びカーボンブラック10〜100重量部を含んでなるゴム組成物並びにそれを用いた空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジエン系ゴム組成物に関し、更に詳しくは、ジエン系ゴム、カーボンブラック及びシルク粉末を含む、モジュラス及び貯蔵弾性率、更には高温時の弾性率に優れ、かつその弾性率の耐温度依存性に優れたシルク粉末含有ジエン系ゴム組成物並びにそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム工業において、補強性フィラーとしてカーボンブラックを配合しゴムを補強する手段が採られていたが、カーボンブラックを含むゴム組成物は発熱が高く、転がり抵抗が大きいという問題があった。かかる問題を解決するために、近年、カーボンブラックの一部に代わるフィラーとしてシリカを配合することが行われている。しかしながら、シリカは、シリカ表面の特性上シリカ同士で凝集し易いため、混合性が悪化することが分かっている。そのため、一般には、特許文献1に示されるように、シランカップリング剤を併用することによってシリカの分散性を高めることが行われてきたが、更なるゴム物性の改善のための新規なフィラーの探索が求められている。
【0003】
特許文献2には、所定粒径のシルク粉末を樹脂やゴムに所定量配合することで、生産効率が高く、天然品に匹敵する透湿性、吸放湿性及び外観を有する成形品が得られることが開示され、また、特許文献3には、伝動用ベルトの接着ゴム層にシルク短繊維などを所定量配合することで、耐久性を高めた伝動用ベルトが得られることが開示されている。しかしながら、ジエン系ゴム組成物の物性を改善するためにシルク粉末を配合する技術は、未だ提案されていない。
【0004】
【特許文献1】特開平7−48476号公報
【特許文献2】特許第2832010号公報
【特許文献3】特開平9−144815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来からジエン系ゴムにカーボンブラックやシリカ以外の充填剤を配合すると弾性率やモジュラスが低下するという問題があった。従って、本発明は、ジエン系ゴム組成物に対する補強性能に優れ、モジュラス及び貯蔵弾性率、更には高温時の弾性率に優れ、かつ弾性率の温度依存性にも優れたジエン系ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、ジエン系ゴム100重量部、シルク粉末0.1〜30重量部及びカーボンブラック10〜100重量部を含んでなるゴム組成物並びにそれを用いた空気入りタイヤが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明者等は、ジエン系ゴム組成物に、カーボンブラックと共に、シルク粉末を配合することにより、モジュラス及び貯蔵弾性率、更には高温時の弾性率に優れ、かつ弾性率の温度依存性にも優れたゴム組成物が得られることを見出した。
【0008】
本発明のゴム組成物に用いられるジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、各種ブタジエンゴム(BR)、各種スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリイソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられる。また、前記ジエン系ゴムは、それぞれがエポキシ基、アルコキシシラン基、水酸基含有基などで変性されたものであってもよい。これらのジエン系ゴムは、単独で又は二種以上のブレンドゴムとして、使用することができる。
【0009】
本発明のゴム組成物に用いるシルク粉末は、所定量のカーボンブラックと共にジエン系ゴム100重量部に対して、0.1〜30重量部、好ましくは1〜15重量部の量で配合する。この配合量が0.1重量部未満であると所期の効果がなく、逆に30重量部を超えるとゴム組成物の耐摩耗性能が著しく低下するので好ましくない。
【0010】
本発明のゴム組成物に用いるシルク粉末としては、例えば、タイラー篩基準による250メッシュの篩を用いて、最大粒径が63μmより小さいものが好ましく、50μm以下であるのが更に好ましく、35μm以下のものが特に好ましく、有効に使用される。シルク粉末としては、粒度の小さいものほど、補強性能が向上するので好ましい。
【0011】
本発明の好ましい第一の態様で用いる乾熱処理されたシルク粉末は、例えば、熱風乾燥機の各段に200gずつ、計6段にシルク原料を敷き並べ、210℃、60分間熱風乾燥を行うことで脆化が可能になる。粉砕は、ボールミル粉砕法で3時間粉砕することで粉末状にすることができる。なお、前記乾熱処理条件は温度が180℃以下では時間効率の面で好ましくなく、温度が300℃を超えるとシルクが燃えてしまう可能性が高くなる。よって、温度は、180〜300℃であることが好ましく、より好ましくは200〜220℃である。また乾熱処理時間は30〜480分間であるのが好ましく、より好ましくは30〜300分間である。
【0012】
本発明の好ましい第二の態様で用いるアルカリ処理したシルク粉末としては、例えば、シルクを水酸化ナトリウムなどのアルカリで脆化処理後、塩酸で中和し、次いで、洗浄、乾燥を行い、ボールミルにて粉砕し、50μmの篩を通すことによって、容易に得ることができる。
【0013】
本発明のゴム組成物には、前記シルク粉末に加えて、補強充填剤としてカーボンブラックを使用することができる。かかるカーボンブラックとしては、ゴム組成物、特に空気入りタイヤ用ゴム組成物として使用することができる任意のカーボンブラックを用いることができ、その配合量としては、前記ジエン系ゴム100重量部に対して、10〜100重量部、好ましくは20〜70重量部配合する。この配合量が10重量部未満では補強効果が十分でなく、逆に100重量部を超えると、加工成形性に劣るようになるので好ましくない。
【0014】
本発明に係るゴム組成物には、更に、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種ワックス、オイル、老化防止剤、充填材、可塑剤などのタイヤ用、その他のゴム組成物用に配合されている各種配合剤を配合することができ、かかる配合剤は、一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫または架橋することができる。これら配合剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に説明するが、本発明の技術的範囲をこれらの実施例に限定するものでないことは言うまでもない。
【0016】
実施例1〜3及び比較例1
試験サンプルの調製
表Iに示す配合(重量部)に従って、硫黄及び加硫促進剤を除くゴム、シリカ、乾熱処理されたシルク粉末などの各配合成分を1.7Lの密閉式バンバリーミキサーに装填して5分間混合し、混合機外に放出して室温まで冷却したマスターバッチを、再度同バンバリーミキサーに投入し、これに硫黄と加硫促進剤を配合、混合してゴム組成物を得た。次いで、このゴム組成物を15cm×15cm×0.2cmの金型中で、160℃、20分間プレス加硫して試験サンプル(ゴムシート)を作製し、以下の方法で100%モジュラス(M100)及び貯蔵弾性率を評価した。結果は表Iに示す。
【0017】
試験方法
M100:JIS K 6251によって、100%伸長時のモジュラスを測定した。
貯蔵弾性率:東洋精機製作所製粘弾性スペクトロメータを用い、静的歪み10%、動的歪み±2%、周波数20Hzの条件下で測定した。測定温度は20℃である。
【0018】
【表1】

【0019】
表I脚注
天然ゴム:RSS#3
カーボンブラック:東海カーボン(株)製 シーストM
SP−1:シナノケンシ(株)製 乾熱処理シルクパウダー
SP−2:シナノケンシ(株)製 乾熱処理シルクパウダー
SP−3:シナノケンシ(株)製 乾熱処理シルクパウダー
ステアリン酸:日本油脂(株)製ビーズステアリン酸
亜鉛華:正同化学(株)製 酸化亜鉛3種
オイル:(株)ジャパンエナジー製 プロセスX−140
加硫促進剤:大内新興化学(株)製 ノクセラーNS−P
硫黄:細井化学工業(株)製 油処理イオウ
【0020】
表Iに示した通り、カーボンブラック配合系の比較例1(この値を100として指数表示した)に比較してカーボンブラック配合系ジエン系ゴム組成物に所定量の乾熱処理されたシルク粉末を配合した実施例1〜3では、100%モジュラス(M100)及び/又は貯蔵弾性率に優れたゴム組成物が得られる。
【0021】
実施例4〜7及び比較例2〜3
試験サンプルの調製
表IIに示す配合(重量部)に従って、硫黄及び加硫促進剤を除くゴム、シリカ、乾熱処理されたシルク粉末などの各配合成分を1.7Lの密閉式バンバリーミキサーに装填して5分間混合し、混合機外に放出して室温まで冷却したマスターバッチを、再度同バンバリーミキサーに投入し、これに硫黄と加硫促進剤を配合、混合してゴム組成物を得た。次いで、このゴム組成物を15cm×15cm×0.2cmの金型中で、160℃、20分間プレス加硫して試験サンプル(ゴムシート)を作製し、以下のE´(高温貯蔵弾性率)及びその温度依存性を評価した。結果は表Iに示す。
【0022】
試験方法
1)高温貯蔵弾性率E´(60℃): JIS K6394に準拠して、(株)東洋精機製作所製の粘弾性スペクトロメーターを用いて、静的歪=10%、動的歪=±2%、周波数=20Hzの条件下でE´(60℃)を測定した。結果は比較例2の値を100として指数で示した。この指数が大きい程、高温時の弾性率が高く、優れていることを示す。
2)弾性率の温度依存性:E´の測定法を用いて、[(20℃の時のE´)−(100℃の時のE´)]を計算した。結果は比較例2の値を100として指数で表示した。この指数が小さい程、温度依存性に優れることを示す。
【0023】
【表2】

【0024】
表II脚注
天然ゴム:RSS#3
カーボンブラック:東海カーボン(株)製 シーストM
SP−4:シナノケンシ(株)製 乾熱処理シルクパウダー
SP−5:シナノケンシ(株)製 乾熱処理シルクパウダー
SP−6:シナノケンシ(株)製 乾熱処理シルクパウダー
ステアリン酸:日本油脂(株)製ビーズステアリン酸
亜鉛華:正同化学(株)製 酸化亜鉛3種
オイル:(株)ジャパンエナジー製 プロセスX−140
加硫促進剤:大内新興化学(株)製 ノクセラーNS−P
硫黄:細井化学工業(株)製 油処理イオウ
【0025】
表IIに示した通り、比較例2及び3のカーボンブラック配合系ジエン系ゴム組成物に、所定量の乾熱処理されたシルク粉末を配合した実施例4〜7では、高温時での弾性率に優れ、その温度依存性にも優れたゴム組成物が得られる。
【0026】
実施例8〜10及び比較例4
試験サンプルの調製
表IIIに示す配合(重量部)に従って、硫黄及び加硫促進剤を除くゴム、シリカ、アルカリ処理したシルク粉末などの各配合成分を1.7Lの密閉式バンバリーミキサーに装填して5分間混合し、混合機外に放出して室温まで冷却したマスターバッチを、再度同バンバリーミキサーに投入し、これに硫黄と加硫促進剤を配合、混合してゴム組成物を得た。このゴム組成物を15cm×15cm×0.2cmの金型中で、160℃、20分間プレス加硫して試験サンプル(ゴムシート)を作製し、得られた加硫物の高温貯蔵弾性率及びその温度依存性を前述の方法で評価し、結果を表IIIに示した。
【0027】
【表3】

【0028】
表III脚注
天然ゴム:RSS#3
カーボンブラック:東海カーボン(株)製 シーストM
SP−7:シナノケンシ(株)製 アルカリ処理シルクパウダー
SP−8:シナノケンシ(株)製 アルカリ処理シルクパウダー
ステアリン酸:日本油脂(株)製ビーズステアリン酸
亜鉛華:正同化学(株)製 酸化亜鉛3種
オイル:(株)ジャパンエナジー製 プロセスX−140
促進剤:大内新興化学(株)製 ノクセラーNS−P
硫黄:細井化学工業(株)製 油処理イオウ
【0029】
表IIIの結果から、比較例4のカーボンブラック配合ジエン系ゴム組成物に、所定配合量のアルカリ処理したシルク粉末を配合した実施例8〜10では、高温貯蔵弾性率に優れ、その温度依存性にも優れたゴム組成物が得られることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上の通り、本発明のゴム組成物は、前述の如く、高温弾性率及びその温度依存性に優れるので、空気入りタイヤ、特にそのアンダートレッド、ビードフィラー、ベルトコートゴム、サイドトレッド、リムクッションなどに利用すれば極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部、シルク粉末0.1〜30重量部及びカーボンブラック10〜100重量部を含んでなるゴム組成物。
【請求項2】
前記シルク粉末が50μm以下の粒径を有する乾熱処理されたものである請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記乾熱処理されたシルク粉末の乾熱処理条件が180〜300℃で30〜480分間である請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム組成物をタイヤ部材に用いた空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2008−291068(P2008−291068A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135803(P2007−135803)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【Fターム(参考)】