説明

ジエン系ゴム組成物

【課題】従来の廃タイヤリサイクル粉末ゴムに比べて、高い強度および補強性を有する粉砕加硫ゴムを一成分(リサイクルゴム成分)として配合したシリカ配合ジエン系ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100重量部当り、粉砕加硫ゴムにニトロキシドフリーラジカルを有する化合物およびアルコキシシリル基またはアリールオキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを順次反応させて得られた変性粉砕加硫ゴム3〜30重量部、シリカ20重量部以上およびシリカに対して3〜15重量%の量となる硫黄含有シランカップリング剤を配合したジエン系ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジエン系ゴム組成物に関する。さらに詳しくは、廃タイヤリサイクル粉末ゴムを一成分として配合したジエン系ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
環境負荷低減という観点からは、廃タイヤの有効利用はタイヤ製造業において重要な課題の一つである。加硫ゴムをマテリアルリサイクル(タイヤのゴム片またはゴム粉末をそのまま再使用)するためには、加硫ゴムの可塑化が必要とされており、可塑化方法としては、炭化水素の分解や硫黄架橋の分解が挙げられる。
【0003】
炭化水素分解の例としては、パーオキサイド/レドックス系による自動酸化促進が挙げられ、また硫黄架橋分解の例としては、酸化、熱、せん断、求核剤使用、再配置、置換反応による促進機構などが、一般的に知られている。しかしながら、このような方法による可塑化だけでは、それを新ゴムに配合した場合、ゴムの強度や補強性が不足する。特に、天然ゴムが主体と考えられる加硫粉末ゴムを、SBRを主体とする新ゴムに配合すると、その補強効果が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4046734号公報
【特許文献2】特許第4101242号公報
【特許文献3】特許第4243320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来の廃タイヤリサイクル粉末ゴムに比べて、高い強度および補強性を有する粉砕加硫ゴムを一成分(リサイクルゴム成分)として配合したシリカ配合ジエン系ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる本発明の目的は、ジエン系ゴム100重量部当り、粉砕加硫ゴムにニトロキシドフリーラジカルを有する化合物およびアルコキシシリル基またはアリールオキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを順次反応させて得られた変性粉砕加硫ゴム3〜30重量部、シリカ20重量部以上およびシリカに対して3〜15重量%の量となる硫黄含有シランカップリング剤を配合したジエン系ゴム組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るジエン系ゴム組成物において用いられる変性粉砕加硫ゴムは、一般に廃タイヤリサイクル粉末が用いられる粉砕加硫ゴムを、ニトロキシドフリーラジカルを有する化合物、好ましくは2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル〔TEMPO〕またはその誘導体およびアルコキシシリル基またはアリールオキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーと順次反応させて変性したものであり、シリカとの親和性の高いシラノール基を粉砕加硫ゴムに付与することにより、シリカとの親和性を向上せしめるので、従来の廃タイヤリサイクル粉末と比べて、高い硬度および補強性を有する粉砕加硫ゴムを提供することができる。この変性粉砕加硫ゴムは、空気入りタイヤ製造などに用いられるシリカ配合ジエン系ゴム組成物、特にシリカ配合SBR組成物の一成分(リサイクルゴム成分)として配合されて用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム等の空気入りタイヤの各部を構成するジエン系ゴムが用いられ、特にスチレンブタジエンゴムまたはそのブレンドゴムに好適に用いられる。なお、スチレンブタジエンゴムとしては、乳化重合SBR(E-SBR)、溶液重合SBR(S-SBR)のいずれをも用いることができる。
【0009】
粉砕加硫ゴムとしては、一般に廃タイヤリサイクル粉末が用いられる。廃タイヤリサイクル粉末は、例えば廃タイヤを破砕(粗破砕→細砕)し、繊維、スチール、ワイヤ等ゴム成分以外のものを除去した後、再生剤(有機ジサルファイド、エステル酸など)とオイル(アロマテック油など)を混合、加熱し、ロールでシート状にして製品としており、それは市販品であってよい。
【0010】
その原料は、主に廃タイヤであり、他にタイヤ製造時に発生する未加硫スクラップ、タイヤ加硫時に発生するスピュー片などであるので、天然ゴム、合成イソプレンゴム、SBR、ブタジエンゴム等のジエン系ゴムの加硫物であり、そこにはカーボンブラック等の充填剤を始め、各種配合剤が含有されている。その平均粒子径は、約500μm以下、好ましくは約200μm以下程度であり、外観および触感は小麦粉状に近い。平均粒子径がこれよりも大きいものは、ゴムの強度および補強性の点からみて好ましくない。
【0011】
ニトロキシドフリーラジカル(-N-O・)を有する化合物については、特許文献1〜4に詳細に記載されており、好ましくは2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル〔TEMPO〕

またはその誘導体が用いられる。
【0012】
TEMPOの誘導体として、4-位が置換された誘導体、例えばオキソ、メチル、エチル、メトキシ、エトキシ、クロロ、アミノ、ヒドロキシ、カルボキシル、イソシアネート、グリシジルエーテル、チオグリシジルエーテル、フェニル、フェノキシ、メチルカルボニル、エチルカルボニル、ベンゾイル、ベンゾイルオキシ、アセトキシ、エトキシカルボニル、N-メチルカルバモイルオキシ、N-エチルカルバモイルオキシ、N-フェニルカルバモイルオキシ等が挙げられ、またメチル(4-TEMPO)サルフェイト、エチル(4-TEMPO)サルフェイト、フェニル(4-TEMPO)サルフェイト等も挙げられる。
【0013】
TEMPOまたはその誘導体を変性剤とする変性反応に用いられるラジカル開始剤としては、一般に有機過酸化物が用いられ、例えばベンゾイルパーオキサイド、第3ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、第3ブチルクミルパーオキサイド、ジ第3ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ第3ブチルパーオキシヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ第3ブチルヘキシン-3、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ第3ブチルパーオキシジイソプロピルベンゼン、1,1-ビス(第3ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(第3ブチルパーオキシ)バレレート、2,2-ビス(第3ブチルパーオキシ)ブタン等が挙げられる。
【0014】
これらのラジカル開始剤は、ニトロキシドラジカルを有する化合物およびγ-(メタ)アクリロキシプロピルトリアルコキシシランとの反応系に添加することによって、ポリマーに炭素ラジカルを発生させることができる。
【0015】
以上の各成分は、粉砕加硫ゴム100重量部に対して、ニトロキシドラジカルを有する化合物が2重量部以上、好ましくは5〜20重量部の割合で、ラジカル開始剤が0.1〜15重量部、好ましくは0.2〜10重量部の割合で、かつラジカル開始剤に対するニトロキシドラジカルを有する化合物のモル比が1以上、好ましくは1.5以上、さらに好ましくは1.7〜2.0の割合で用いられる。
【0016】
ニトロキシドラジカルを有する化合物の使用割合がこれよりも少ないと、所望の粉砕加硫ゴムの変性が得られず、一方これよりも多い割合で用いられると、未反応のニトロキシドラジカルを有する化合物が系内に多量の残存するため、配合物の物性を低下させる可能性がある。ラジカル開始剤の使用割合がこれより少ないと、所望の粉砕加硫ゴムの変性を達成させることができず、一方これよりも多い割合で用いられると、粉末ゴムの分解もしくは劣化が促進されてしまい、配合物の物性を低下させる原因となる。また、ラジカル開始剤に対するニトロキシドラジカルを有する化合物のモル比がこれよりも少ないと、変性さるべき粉砕加硫ゴムのポリマー鎖の分解もしくは劣化が抑えられず、分子量が低下するおそれがある。
【0017】
このような割合で用いられる以上の各成分は、加熱混合機を用いて160〜190℃の温度で混合し、反応させることによって、粉砕加硫ゴムの変性が行われる。加熱混合機としては、ゴムの加熱混合機として一般に用いられているニーダ、バンバリーミキサ、2軸混練機、ヘンシェルミキサ等が用いられる。
【0018】
これらの加熱混合機を用いての加熱混合は、粉砕加硫ゴム、ニトロキシドフリーラジカルを有する化合物およびラジカル開始剤を加熱混合機に投入し、室温乃至約100℃で約5分間程度攪拌した後、加熱混合による可塑化を容易にするためアロマ系オイル等を添加し、この温度で約1〜5分間程度加熱攪拌した後、混合物温度を上昇させて160〜190℃、好ましくは170〜190℃に達したら、その温度で約5〜20分間程度反応させることによって行われ、粉砕加硫ゴムが変性される。
【0019】
粉砕加硫ゴムの変性の度合いを、JIS K6316に準拠して嵩比重を測定し、粉砕加硫ゴムにアロマ系オイルのみを混合した未変性粉砕加硫ゴムの嵩比重を100としたときの指数で示すと、ニトロキシドフリーラジカルを有する化合物で変性したものは105〜108程度であり、混合、反応温度を150℃としたときの変性粉砕加硫ゴムでは、嵩比重に増加はみられなかった。
【0020】
得られた変性粉砕加硫ゴムは、さらにアルコキシシリル基またはアリールオキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを添加し、160〜190℃の温度で約5〜20分間程度反応させて、さらに変性させる。これらの第2段の変性に用いられるアルコキシシリル基またはアリールオキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーは、第1段の変性に用いられたTEMPO(誘導体)に対してその当量比が0.01〜3で、かつ粉砕加硫ゴム100重量部に対し0.1重量部以上、好ましくは0.5〜7重量部用いると有効である。この第2段の変性反応と同様に、加熱混合機を用いて行われる。
【0021】
アルコキシシリル基またはアリールオキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーは、一般式
Si(OR1)4-n(R-A)n
(ここで、Rは炭化水素基またはSiとの直接結合基であり、R1は炭化水素基であって、エーテル結合を有していてもよく、Aはラジカル重合性基であり、nは1〜3の整数であり、nが2または3のとき、R同士、R1同士およびA同士はそれぞれ異なる基であってもよい)で表わされる化合物である。
【0022】
炭化水素基Rの炭化水素基としては、具体的には、例えば、メチル、エチル、プロピル、ヘキシル、ドデシル、オクタデシル等のアルキル基、シクロプロピル、シクロヘキシル等のシクロアルキル基、フェニル、ベンジル等のアリール基などを挙げることができる。また、RはSiとの直接結合基でもあり、その場合アルコキシシリル基またはアリールオキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーは、一般式 Si(OR1)4-n(A)nで表わされる。
【0023】
エーテル結合を有し得る炭化水素基であるR1としては、具体的には、例えば、メチル、エチル、プロピル、ヘキシル、ドデシル、オクタデシル等のアルキル基、シクロプロピル、シクロヘキシル等のシクロアルキル基、フェニル、ベンジル等のアリール基、また、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリオキシアルキレン基などを挙げることができる。
【0024】
ラジカル重合性基Aとしては、ビニル基、アリル基、スチリル基、(メタ)アクリロキシ基、(メタ)アクリルアミド基、ハロゲン化ビニル基、アクリロニトリル基などを挙げることができるが、その中でも電子吸引基(カルボニル基、ハロゲン、シアノ基など)を含むものが好ましい。さらに、その中でも、(メタ)アクリロキシ基を有するものが特に好ましい。ここで、(メタ)アクリロキシ基はアクリロキシ基またはメタクリロキシ基を指し、(メタ)アクリルアミド基はアクリルアミド基またはメタクリルアミド基を指している。
【0025】
本発明で使用できる上記のアルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーとしては、特に制限はないが、好ましいものとしては、例えばビニルメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-(プロピルトリエトキシシラン)マレイミド等を挙げることができる。
【0026】
本発明で使用できる上記のアリールオキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーとしては、特に制限はないが、好ましいものとしては、例えばビニルフェノキシシラン、ビニルトリフェノシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリフェノキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジフェノキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルジメチルフェノキシシラン、γ-アクリロキシプロピルメチルジフェノキシシラン、γ-アクリロキシプロピルジメチルフェノキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリフェノキシシラン、N-(プロピルトリフェノキシシラン)マレイミド等を挙げることができる。
【0027】
また、上記アルコキシシリル基またはアリールオキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを加水分解縮合したものを用いてもよく、シロキサン結合の繰り返し単位を2個以上有し、かつアルコキシシリル基を有するシリコーンオイル型カップリング剤でラジカル重合性基を有するオリゴマーなどを用いてもよい。
【0028】
TEMPO(誘導体)およびアルコキシシリル基またはアリールオキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーで順次変性された粉砕加硫ゴムは、ジエン系ゴム100重量部当り3〜30重量部、好ましくは3〜25重量部の割合で用いられる。これよりも少ない配合割合では、本発明の目的とする諸特性の改善が達成されず、一方これよりも多い割合で配合して用いられると、それは単に異物として存在することになる。
【0029】
かかる変性粉砕加硫ゴムが配合されたジエン系ゴム組成物中には、20重量部以上、好ましくは25〜100重量部のシリカおよびシリカに対して3〜15重量%、好ましくは4〜10重量%の量となる硫黄含有シランカップリング剤が配合されて用いられる。シリカの配合割合については、変性粉砕加硫ゴムに付加したγ-(メタ)アクリロキシプロピルトリアルコキシシラン由来のシラノール基と相互作用する上で必要な量が、少なくとも20重量部とされる。
【0030】
シリカとしては、湿式および乾式のシリカのいずれをも用いることができるが、好ましくはコストおよび性能の面から湿式シリカが一般には用いられる。湿式シリカとしては、水ガラスに硫酸を加え、シリカを沈降させる合成法がとられる沈降シリカが一般に用いられる。また、その性状については、CTABが80〜200g/m2の値を有するものが好んで用いられる。
【0031】
硫黄含有シランカップリング剤としては、シリカ表面のシラノール基と反応するアルコキシシリル基とポリマーと反応する硫黄連鎖とを有するビス(トリアルコキシシリルプロピル)サルファイド
(RO)3Si(CH2)3-(S)n-(CH2)3Si(OR)3
R:炭素数1〜2のアルキル基
n:1〜4の整数
【0032】
例えばビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(トリメトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、ビス(トリメトキシプロピル)ジサルファイド等が用いられる。
【0033】
本出願人は、構成単位中にイソモノオレフィン単位を有するポリマーあるいはジエン系ゴムをニトロキシドフリーラジカルを有する化合物で変性した変性ポリマーについての種々の提案を行っている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0034】
特許文献1には、(A)イソモノオレフィン単位を有するポリマー、(B)特定のニトロキシドフリーラジカルを有する化合物および(C)有機過酸化物ラジカル開始剤を混練機中で混合反応させ、次いで(D)アクリル系モノマーまたは芳香族ビニルモノマーをグラフトさせて、ポリマーを変性させる方法が記載されている。
【0035】
特許文献2には、(A)イソモノオレフィン単位を有するポリマー、(B)ニトロキシドフリーラジカルを有する化合物および(C)有機過酸化物ラジカル開始剤を(B)/(C)モル比を1より大きい比率で用い、ポリマー(A)の分子量の低下を抑制しつつ変性させることによって、ポリマー(A)中にニトロキシドフリーラジカルを有する化合物に由来する有機基を導入するポリマーの変性方法が記載されている。
【0036】
以上の特許文献1〜2では、(A)成分のイソモノオレフィン単位を有するポリマーとして、ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体、臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン3元共重合体、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS、SEPS)、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリプロピレン、プロピレン共重合体、フッ素ゴム、水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム等が挙げられている。
【0037】
また、特許文献3には、(A)特定のジエン系ゴムに、(B)ニトロキシドフリーラジカルを分子中に有する化合物、(C)ラジカル開始剤および(D)分子中にアルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマー(アルコキシシリル基を有するアクリレートまたはメタクリレート、ビニルトリアルコキシシラン等)を添加し、グラフト反応させることによって得られる変性ジエン系ゴムを5重量%以上含むゴム成分に、シリカを10〜100重量%含む補強性充填剤を含有させたゴム組成物が記載されている。
【0038】
特許文献3では、(A)成分のジエン系ゴムとして、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、ポリブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム、クロロプレンゴムが用いられている。
【0039】
しかしながら、これらの特許文献1〜3に記載された変性ポリマーは、構成単位中にイソモノオレフィン単位を有するポリマーあるいはジエン系ゴムである新ゴムのニトロキシドフリーラジカルを有する化合物(および分子中にアルコキシシリル基を有する重合性モノマー)による変性に向けられており、粉砕加硫ゴムに関するものではない。
【0040】
以上の各成分を必須成分とするジエン系ゴム組成物中には、加硫剤としての硫黄およびチアゾール系(MBT、MBTS、ZnMBT等)、スルフェンアミド系(CBS、DCBS、BBS等)、グアニジン系(DPG、DOTG、OTBG等)、チウラム系(TMTD、TMTM、TBzTD、TETD、TBTD等)、ジチオカルバミン酸塩系(ZTC、NaBDC等)、キサントゲン酸塩系(ZnBX等)等の加硫促進剤のいずれか一種類以上が配合されて用いられる。さらに、ゴムの配合剤として一般的に用いられている他の配合剤、例えばカーボンブラック、タルク、クレー、グラファイト、珪酸カルシウム等の補強剤または充填剤、ステアリン酸等の加工助剤、酸化亜鉛、軟化剤、可塑剤、老化防止剤などが必要に応じて適宜配合されて用いられる。
【0041】
組成物の調製は、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機または混合機およびオープンロール等を用いる一般的な方法で混練することによって行われ、得られた組成物は、所定形状に成形された後、用いられたジエン系ゴム、加硫剤、加硫促進剤の種類およびその配合割合に応じた加硫温度で加硫され、空気入りタイヤの所定部位、好ましくはトレッド等を形成させる。
【実施例】
【0042】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0043】
参考例
(1) 市販粉砕加硫ゴム(LEHIGH TECHNOLOGY社製品GF-80 REPROCESSED GROUND RUBBER;平均粒子径180μm)450g、有機過酸化物(AKZO NOBEL社製品カヤヘキサAD)1.87gおよび4−ヒドロキシ-2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル〔OH-TEMPO〕(旭電化工業製品)9.0gをヘンシェルミキサに投入し、70℃で5分間攪拌した後、さらにアロマ系オイル(昭和シェル石油製品エキストラクト4号S)50gを添加し、3分間加熱攪拌した。混合物温度を上昇させて180℃に達したら、その温度で15分間反応させ、変性粉砕加硫ゴムA 500gを得た。
【0044】
変性後の粉砕加硫ゴムAについて、JIS K6316に準拠して嵩比重を測定し、上記粉砕加硫ゴム450gにアロマ系オイル50gのみを混合した未変性粉砕加硫ゴムの嵩比重を100としたときの指数で示すと、その値は108であった。この値が大きい程、変性剤OH-TEMPOによる変性が多く行われていることを示している。
【0045】
(2) 上記(1)で得られた変性粉砕加硫ゴムA 100gにγ-メタクリロキシプロピルトリアルコキシシラン(信越化学製品KBM-503)4.0gを添加した後、ヘンシェルミキサを用いて180℃で15分間反応させ、変性粉砕加硫ゴムBを得た。この変性粉砕加硫ゴムBの嵩比重は、110であった。
【0046】
標準例1
SBR(日本ゼオン製品Nipol 1502) 75重量部
ブタジエンゴム(日本ゼオン製品Nipol 1220) 25 〃
シリカ(ローディア社製品Zeosil 1165MP) 80 〃
シランカップリング剤(デグッサ社製品Si69) 6.4 〃
HAFカーボンブラック(キャボットジャパン製品昭和ブラックN330T) 10 〃
ステアリン酸(日本油脂ビーズステアリン酸YR) 2 〃
亜鉛華(正同化学工業製品酸化亜鉛3種) 2 〃
老化防止剤(フレキシス社製品SANTOFLEX 6PPD) 1 〃
パラフィンワックス(大内新興化学工業製品サンノック) 1 〃
硫黄(鶴見化学工業製品金華印油入微粉硫黄) 1.4 〃
加硫促進剤(大内新興化学工業製品ノクセラーCZ-G) 1.4 〃
以上の各成分中、硫黄および加硫促進剤を除く各成分を、1.7Lのバンバリーミキサで5分間混練し、得られた混合物に硫黄および加硫促進剤を加えて、8インチの試験用練りロール機で4分間混練し、ゴム組成物を調製した。このゴム組成物を、150℃で30分間加熱加硫して目的とする試験片を作製し、次の各項目のゴム物性を測定した。
バウンドラバー量:未加硫のゴム組成物約0.5gを金網かごに入れ、室温で300mlの
トルエン中に72時間浸漬した後取り出して乾燥し、サンプルの
質量を測定して、下記式から算出した
バウンドラバー量=(Wfg−Wf)/Wp
Wfg:トルエン浸漬、乾燥後のサンプル質量
Wf:フィラー質量
Wp:ゴム成分質量
ペイン効果:α-テクノロジー社製RPA2000を用いて歪せん断応力G′を測定した
未加硫のゴム組成物を用いて、160℃、20分間の加硫を行い、歪0.2
8%でのG′と歪30.0%のG′を測定し、その差を求めた
G′=(G′0.28MPa−G′30.0MPa)
硬度:JIS K6253準拠(20℃)
100%モジュラス、破断強度:JIS K6301準拠
【0047】
比較例1
標準例1において、さらに市販粉ゴム(Lehigh Technology社製品GF-80 Processed Ground Rubber;平均粒子径180μm)10重量部を配合したゴム組成物が用いられた。
【0048】
実施例1
標準例1において、さらに参考例で得られた変性粉砕加硫ゴムB 10重量部を配合したゴム組成物が用いられた。
【0049】
実施例2
標準例1において、さらに参考例で得られた変性粉砕加硫ゴムB 20重量部を配合したゴム組成物が用いられた。
【0050】
実施例3
標準例1において、さらに参考例で得られた変性粉砕加硫ゴムB 30重量部を配合したゴム組成物が用いられた。
【0051】
比較例2
実施例1において、HAFカーボンブラック量が75重量部に、シリカ量が15重量部に、シランカップリング剤量が1.2重量部に、それぞれ変更されたゴム組成物が用いられた。
【0052】
比較例3
実施例1において、シランカップリング剤量が16重量部に変更されたゴム組成物が用いられた。
【0053】
比較例4
実施例1において、シランカップリング剤量が1.6重量部に変更されたゴム組成物が用いられた。
【0054】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、組成物成分として用いられたカーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、変性粉砕加硫ゴムB(変性粉ゴム)および市販粉ゴムの配合量(単位:重量部)と共に、次の表1に示される。なお、測定値は、標準例1を100とする指数で示され、バウンドラバー量(Bラバー量)、硬度、100%モジュラス(M100)、破断強度にあっては、指数の値が大きい程良いとされ、ペイン効果については、指数の値が小さい程シリカの分散性が良好であることを示している。
表1
標準例1 比-1 実-1 実-2 実-3 比-2 比-3 比-4
〔ゴム組成物〕
HAF CB 10 10 10 10 10 75 10 10
シリカ 80 80 80 80 80 15 80 80
Siカップリング剤 6.4 6.4 6.4 6.4 6.4 1.2 16 1.6
変性粉ゴム − − 10 20 30 10 10 10
市販粉ゴム − 10 − − − − − −
〔測定結果〕
Bラバー量 100 101 102 105 104 103 104 96
ペイン効果 100 102 98 97 95 97 96 107
硬度 100 101 101 101 103 100 98 103
M100 100 101 101 103 103 96 102 102
破断強度 100 96 102 101 100 97 96 95
【0055】
以上の結果から、次のようなことがいえる。
(1) 未変性の市販粉ゴムを配合したゴム組成物を用いると、シリカの分散性および破断強度が低下する(比較例1)。
(2) シリカの配合量を少なくし、カーボンブラックでその量を補うと、変性粉砕加硫ゴムとの結合性が低下し、強度が低下する(比較例2)。
(3) シランカップリング剤が多すぎると、硬度、破断強度が低下する(比較例3)。
(4) シランカップリング剤が少なすぎると、シリカ・ポリマー間の相互作用が低下してペイン効果が大幅に悪化し、バウンドラバー量、破断強度が低下する(比較例4)。
(5) 各実施例のゴム組成物を用いると、殆どすべての測定項目で指数の改善がみられる。
【0056】
標準例2、実施例4〜6、比較例5〜8
標準例1、実施例1〜3、比較例1〜4において、ブタジエン系ゴムにブレンドして用いられるジエン系ゴムとして天然ゴム(RSS#3)が用いられ、HAFカーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤の配合量(単位:重量部)がそれぞれ変更されて用いられた。なお、ステアリン酸、亜鉛華、老化防止剤、パラフィンワックス、硫黄、加硫促進剤の配合量については変更がない。
【0057】
得られた結果は、次の表2に示される。
表2
標準例2 比-5 実-4 実-5 実-6 比-6 比-7 比-8
〔ゴム組成物〕
天然ゴム 70 70 70 70 70 70 70 70
ブタジエンゴム 30 30 30 30 30 30 30 30
HAF CB 30 30 30 30 30 30 30 30
シリカ 20 20 20 20 20 20 20 20
Siカップリング剤 1.6 1.6 1.6 1.6 1.6 1.6 4 0.4
変性粉ゴム − − 10 20 30 10 10 10
市販粉ゴム − 10 − − − − − −
〔測定結果〕
Bラバー量 100 102 102 105 104 103 104 96
ペイン効果 100 102 98 97 95 97 96 107
硬度 100 101 101 101 103 100 98 103
M100 100 101 101 103 103 96 102 102
破断強度 100 97 102 101 100 97 96 95
【0058】
以上の結果から、比較例5〜8については比較例1〜4と同様のことがいえ、また各実施例のゴム組成物を用いると、殆どすべての測定項目で指数の改善がみられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部当り、粉砕加硫ゴムにニトロキシドフリーラジカルを有する化合物およびをアルコキシシリル基またはアリールオキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーを順次反応させて得られた変性粉砕加硫ゴム3〜30重量部、シリカ20重量部以上およびシリカに対して3〜15重量%の量となる硫黄含有シランカップリング剤を配合してなるジエン系ゴム組成物。
【請求項2】
粉砕加硫ゴムとして、廃タイヤリサイクル粉末が用いられた請求項1記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項3】
ニトロキシドフリーラジカルを有する化合物として、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルまたはその誘導体が用いられた請求項1または2記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項4】
アルコキシシリル基含有ラジカル重合性モノマーがγ-(メタ)アクリロキシプロピルトリアルコキシシランである請求項1記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項5】
20〜120重量部のシリカが配合された請求項1記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項6】
硫黄含有シランカップリング剤として、一般式
(RO)3Si(CH2)3-(S)n-(CH2)3Si(OR)3
(ここで、Rは炭素数1〜2のアルキル基であり、nは1〜4の整数である)で表わされるビス(トリアルコキシシリルプロピル)サルファイドが用いられた請求項1記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項7】
空気入りタイヤ成形用として用いられる請求項1、2、3、4、5または6記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項8】
請求項7記載のジエン系ゴム組成物から成形された空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2011−148894(P2011−148894A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10696(P2010−10696)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】