説明

ジオポリマーセメント及びその使用

【課題】ジオポリマーセメント及びその使用。
【解決手段】本発明は、メタカオリン、又は、メタカオリン及び非熱活性型アルミノケイ酸塩の重量比の範囲が約40:60〜約80:20の混合物と、MO:SiO(MはNa又はK)のモル比の範囲が0.51〜0.60のケイ酸アルカリ溶液とを含む新規な非腐食性ジオポリマーセメント、並びに、ジオポリマーセメント製造における架橋アクリル酸ポリマーを含む流動化剤(superplasticizer)の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建築・建設分野に関する。より具体的には、本発明は新規な非腐食性ジオポリマーセメントに関する。
【背景技術】
【0002】
セメントには、ポルトランドセメント等の「水硬」型セメントと「ジオポリマー(geopolymer)」型セメントの2種類が存在する。後者は、ポリケイ酸アルカリ等のアルカリ活性剤の存在下、アルミノケイ酸塩酸化物を重合して形成される無機ジオポリマーに基づくものであるため、ジオポリマーセメントとして知られている。こうして得られたジオポリマーは、Si−O−Al結合を含む3次元構造を有する。
【0003】
1メトリックトンの水硬セメントを製造するのに約1メトリックトンのCOが生じるのに対し、1メトリックトンのジオポリマーセメントを製造するのには約0.1メトリックトンのCOしか生じないことを考えると、ジオポリマーセメントは、水硬セメントに比べ著しく環境に配慮して製造できる。更に、ジオポリマーセメントの製造にかかる総エネルギー消費量は、水硬セメントを製造するのに必要なエネルギー消費量のおよそ1/3でしかない。これは、水硬セメントの製造においては石灰石及び粘土を非常に高い温度(1450℃程度)で燃焼させる必要があるのに対し、ジオポリマーセメントの製造で通常使用されるカオリンは約750℃の温度で燃焼すればよいからである。
【0004】
アルミノケイ酸塩混合物の重合を活性化するのにアルカリ性物質を使用する必要があるため、活性剤溶液のケイ酸アルカリのMO:SiO(Mは、通常、ナトリウム(M=Na)又はカリウム(M=K)等のアルカリ金属)のモル比が0.625より大きくなることから、EU指令67/548/EEC(危険物質)及び91/155/EEC(危険な調剤)によれば、ジオポリマーセメントは一般的に「腐食性」物質に分類される。
【0005】
一方、上記EU指令によれば、水硬セメントは一般的に「刺激性」物質、すなわち、MO:SiOのモル比が0.625未満の物質に分類される。
【0006】
先行技術のジオポリマーセメントは、通常、MO:SiOのモル比がEU指令により設定された上限の0.625を超えるケイ酸アルカリ溶液で活性化されるものであり、従って腐食性であるとみなされる。例えば、特許文献1(MO:SiOのモル比が3.0)、特許文献2(MO:SiOのモル比が1より大きい)、及び、特許文献3(MO:SiOのモル比が0.83〜1.25)、さらには特許文献4(MO:SiOのモル比が3.22)が挙げられる。特許文献5では、MO:SiOのモル比が0.5〜0.8のケイ酸塩溶液に言及しているが、この特許文献の各実施例では、KO:SiOのモル比が0.78である同じケイ酸カリウム溶液を使用している。また、非特許文献1に、NaO:SiOのモル比が0.625より大きい(従って腐食性である)ケイ酸アルカリ溶液を用いたジオポリマーセメントの調製が記載されていることも注目されよう。このように値が高くなるのは、本質的に、重合反応を十分に活性化させるのに必要な無水NaOHを添加したことによってNaO量が増したためである。
【0007】
従って、ジオポリマーセメント調製時の取り扱いにおける事故や吸入による事故を防ぐためには、当業者が、「刺激性」であって「腐食性」ではない物質を扱うことが好ましい。
【0008】
また、建築工事で使用するのに好適な機械的特性(養生前のプラスティシティやワーカビリティ、及び、養生後の機械的強度)を示すコンクリート又はモルタルの提供を可能とする「非腐食性」ジオポリマーセメントが使用できることも望まれている。なお、建物を建築する際のモルタルの圧縮強さは25MPa以上であることが好適である。
【0009】
ジオポリマーセメントの製造に使用されるアルカリ活性剤溶液は水溶液である。結果として、これらの溶液を加えることによってジオポリマーセメント中に存在する水分量が増加し、得られたセメントの機械的強度が減少することとなる。また、使用する活性剤溶液量、すなわち混合物中の水分量を極端に減らし過ぎると、プラスティシティ、従ってワーカビリティが失われ、セメントの硬化時間が極めて短くなってしまい、通常は所望の用途に適合しない。よって、ジオポリマーセメントから得られるセメント、モルタル又はコンクリートの機械的特性に影響を与えることなく、該ジオポリマーセメント中で使用するケイ酸アルカリ溶液量を調整できることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4,640,715号明細書
【特許文献2】米国特許第4,642,137号明細書
【特許文献3】米国特許第5,084,102号明細書
【特許文献4】国際公開第2005/019130号
【特許文献5】国際公開第03/099738号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Puyam S.Singhら,「Material Science and Engineering A」,第396巻,2005年,392〜402頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、建築・建設分野で使用するのに好適な機械的特性を保持したセメント、モルタル又はコンクリートの製造において使用するための「非腐食性」ジオポリマーセメントに関する。
【0013】
第一の態様によれば、本発明は、
a)メタカオリン、又は、メタカオリン及び非熱活性型(non−thermally activated)アルミノケイ酸塩の混合物と、
b)MO:SiO(MはNa又はK)のモル比が0.51〜0.60のケイ酸アルカリ溶液と
を含むジオポリマーセメントに関する。
【0014】
a)成分は、メタカオリン及び非熱活性型アルミノケイ酸塩の重量比が約40:60〜約80:20、好ましくは約50:50〜約80:20の混合物であることが有利である。
【0015】
「非熱活性型アルミノケイ酸塩」とは、カオリン、ベントナイト、フライアッシュ、高炉スラグ、及び、これらの混合物からなる群より選択されるアルミノケイ酸塩を意味すると理解される。上記アルミノケイ酸塩は、カオリン又はベントナイトであることが好ましい。
【0016】
上記ケイ酸アルカリ溶液のMO:SiOのモル比は、好ましくは0.51〜0.57、より好ましくは0.53〜0.57である。本発明の好ましい実施形態によれば、ケイ酸ナトリウム(M=Na)溶液が使用される。
【0017】
本発明に係るジオポリマーセメントは、当業者に周知の方法によりa)及びb)成分を混合して得られる。
【0018】
本発明におけるケイ酸アルカリ溶液は、MO:SiOのモル比が0.51〜0.60である限り、市販の溶液であってもよく、それをそのまま用いてもよい。
【0019】
また、本発明におけるケイ酸アルカリ溶液は、MO:SiOの初期モル比は上記範囲内の値ではないが、後から適量の水酸化アルカリMOH(無水物又は溶液)で調整することで、MO:SiOのモル比が本発明の範囲内の値のケイ酸アルカリ溶液にすることができる前駆体溶液(市販品であってもそうでなくてもよい)から得てもよい。
【0020】
水酸化アルカリを添加するのは、ケイ酸アルカリ溶液とメタカオリン(又はメタカオリン及び非熱活性型アルミノケイ酸塩の混合物)とを混合する前でも後でもよい。
【0021】
これらの条件下、本発明におけるMO:SiOのモル比を計算するのに用いられるMOのモル量は、メタカオリン(又はメタカオリン及び非熱活性型アルミノケイ酸塩の混合物)と混合される前の前駆体ケイ酸塩溶液に由来する量、及び、添加された水酸化アルカリMOHに由来する量である。
【0022】
なお、「ケイ酸アルカリ溶液」とは、1以上の反応物質(例えば、水酸化アルカリMOH)を添加してMO:SiOのモル比を任意に調整する前に又はその後で、メタカオリン又はメタカオリン及び非熱活性型アルミノケイ酸塩の混合物の重合反応を活性化することが可能な溶液を意味すると理解される。上記反応物質を添加するのは、ケイ酸アルカリ溶液と、メタカオリン又はメタカオリン及び非熱活性型アルミノケイ酸塩の混合物とを混合する前でも後でもよい。
【0023】
ケイ酸アルカリ溶液の水分量は、通常、55〜63重量%である。
【0024】
本発明において使用されるメタカオリン(又は焼成カオリン)は、一般組成がAl.2Siの脱水酸化アルミノケイ酸塩である。これは非晶質の人工ポゾランであり、その粒子は層状である。d50値が1〜2μm(BET比表面積:約19m/g)の反応性の極めて高い生成物が得られるように、カオリナイト粘土をフラッシュか焼炉で焼成し、粉砕することで得られる。まず、温度を900〜1000℃にできるチャンバに粒子を極短時間入れると、熱交換によって粒子が約750〜850℃の適度な温度となる。
【0025】
本発明において使用されるカオリンは、d50値が1μm未満の粉砕及び乾燥したアルミノケイ酸塩類の粘土である。そのBET比表面積は約22m/gである。
【0026】
本発明において使用されるベントナイトは、水に対する膨潤能が高いスメクタイト類の粘土である。その比表面積は、約80〜150m/gである。
【0027】
本発明において使用される高炉スラグは、鋳鉄製造の副産物であり、塊状の鉄鉱石及びコークスを高温処理することで生じる。粉砕スラグのブレーン比表面積は約4350〜4380cm/gである。
【0028】
本発明において使用されるフライアッシュは、クラスFのフライアッシュであり、化石燃料発電所にて約1400℃の温度で微粉炭を燃焼させることで生じる。上記フライアッシュは、ブレーン粉末度が約1900〜2500cm/gであり、ガラス質の中実又は中空球体を含む灰色粉末として提供される。
【0029】
本発明に係るジオポリマーセメントを用いて調製されるモルタル及びコンクリートの流動性を改善する目的で、当業者に周知の各種混和剤を添加することができる。
【0030】
これまでのところ、「流動化剤(又は超可塑剤又は高性能減水剤)(superplasticizer)」型混和剤についての研究では、そのような「流動化剤」を組み込んだジオポリマー結合剤から調製されたセメント、モルタル又はコンクリートの機械的特性を改善できていない(特に、Puertasら,「Advances in Cement Research」,2003,15,No.1,January,23−28;Palacios及びPuertas,「Cement and Concrete Research」,2005,35,1358−1367;並びにChindaprasirtら,「Cement and Concrete Composites」,2007,29,224−229を参照)。
【0031】
予想されなかったことであり、極めて驚くべきことだが、架橋アクリル酸ポリマーを流動化剤として用いると、ジオポリマーセメントから得られるセメント、モルタル又はコンクリートの機械的強度を改善しつつ、使用するケイ酸アルカリ溶液量、従ってジオポリマーセメント中の水分量を減らすことができることが見出された。
【0032】
よって、別の態様によれば、本発明は、
a)メタカオリン、又は、メタカオリン及び非熱活性型アルミノケイ酸塩の混合物と、
b)MO:SiO(MはNa又はK)のモル比が0.51〜0.60のケイ酸アルカリ溶液と、
c)架橋アクリル酸ポリマーを含む流動化剤と
を含むジオポリマーセメントに関する。
【0033】
a)及びb)成分は上述の通りである。上記流動化剤は、架橋アクリル酸ホモポリマーであることが有利であり、好ましくは、上記流動化剤は、ポリアルケニルエーテル又はジビニルグリコールで架橋されたアクリル酸ホモポリマーである。そのようなホモポリマー(カルボマーとしても知られている)は、CARBOPOL(登録商標)という名称でLubrizol社から販売されている。特に好ましいホモポリマーは、CARBOPOL(登録商標)Ultrez 10という名称で販売されているカルボマーである。
【0034】
上記流動化剤は、水溶液の形態で使用することが有利であり、該水溶液は、a)カルボマーを蒸留水に溶解させる工程、及び、b)得られた溶液を無機又は有機塩基で部分的に中和してゲルを得る工程を含む方法で得られたものであることが好ましい。流動化剤水溶液の固形分は約0.5〜約2重量%である。
【0035】
架橋アクリル酸ポリマーを用いる利点の一つとして、少量を用いるだけで上述の特性が得られることが挙げられる。これにより、ジオポリマーセメントを製造するコストを低減できる。従って、使用する流動化剤量は、ジオポリマーセメント総量における固形分に対して約0.01〜約0.04重量%、好ましくは約0.016〜0.027重量%であることが有利である。
【0036】
別の態様によれば、本発明は、ジオポリマーセメント、モルタル又はコンクリートの製造における、上述の架橋カルボン酸ポリマーを含む流動化剤の使用に関する。
【0037】
本発明に係るジオポリマーセメントは、SiO:Alのモル比が約4.0〜約5.2であり、NaO:SiOのモル比が約0.2〜約0.3であり、NaO:Alのモル比が約0.85〜約1.4であり、HO:NaOのモル比が約14.5〜約16.5である。
【0038】
本発明に係るジオポリマーセメントは、モルタル又はコンクリートの製造に使用でき、その場合、上記セメントは、砂、砂/砂利混合物、又は、砂利などの骨材と混合される。例えば、モルタル調合の場合、その組成は、メタカオリンを約10重量%、非熱活性型アルミノケイ酸塩を約10重量%、ケイ酸アルカリ溶液を最大で約20重量%、本発明における流動化剤を約0.5重量%含み、残りは骨材からなることが好ましい。
【0039】
言うまでもなく、本発明に係るジオポリマーセメントから製造されるモルタル及びコンクリートは、本発明の分野で通常使用される空気連行剤等の添加剤を1以上含んでいてもよい。
【0040】
参考までに、ジオポリマーセメントから得られるモルタルは、NF EN196−1規格に従って測定される28日圧縮強さが少なくとも28MPa、通常約30〜約56MPa、好ましくは約30〜約45MPaである。
【0041】
モルタル及びコンクリートを製造する際は、本発明に係るジオポリマーセメントとともに補強繊維を用いることが有利である。この繊維は、金属、有機物由来のもの(合成物又は天然物(麻、亜麻、竹等))、又は、無機物由来のものであってもよく、好ましくは合成有機物由来のものである。
【0042】
従って、本発明に係るジオポリマーセメントを含むモルタル又はコンクリートは、繊維、好ましくは有機繊維、より好ましくは、アラミドポリマー系合成有機繊維、好ましくは、ポリアクリロニトリル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、及び、ポリプロピレン繊維から選択されるアラミドポリマー系合成有機繊維を更に含んでいてもよい。
【0043】
単に参考までに、こうして得られたモルタル又はコンクリートは、通常、当業者から「繊維補強モルタル」又は「繊維補強コンクリート」と呼ばれるものである。
【0044】
また、本発明に係るジオポリマーセメント、並びに、該セメントから調製されるコンクリート及びモルタルを構成する各成分、すなわち、例えば、メタカオリン、又は、メタカオリンと非熱活性型アルミノケイ酸塩の混合物、ケイ酸アルカリ溶液、架橋アクリル酸ポリマーを含む流動化剤、有機繊維、及び、当業者に公知の他の添加剤などを加える順番は重要ではないが、好ましくは、最初に、メタカオリン及び場合によっては非熱活性型アルミノケイ酸塩を混合してジオポリマーセメントを調製し、そこへ補強繊維、次いでケイ酸アルカリ溶液、更に骨材等の他の添加剤、最後に、空気連行剤とともに又は空気連行剤無しで流動化剤を加えてもよい。
【0045】
言うまでもなく、本発明に係るジオポリマーセメントは、セメントペースト及びグラウトの製造においても、1以上の上記添加剤/混和剤と組み合わせて使用できる。
【0046】
セメントペーストはセメントの水性懸濁液である。すなわち、本発明では、アルミノケイ酸塩とケイ酸アルカリ溶液の混合物である。なお実用上は、純粋なセメントペーストは、通常あまり使用されず、「グラウト」と言われる混合流体の形態で使用されるのが通常である。「グラウト」とは、1以上の混和剤(可塑剤、流動化剤、硬化促進剤、硬化遅延剤等)及び場合によってはある種の添加剤(粘土、フライアッシュ、石灰石充填剤、スラグ、シリカヒューム、極細粒砂(0/1mm)等)を組み合わせたセメントペーストである。
【0047】
上記グラウトは、
・接合部及び割れ目の充填;
・プレストレストコンクリート用シースへの注入;
・岩塩層に掘られた穴に保存される危険廃棄物(化学廃棄物又は放射性廃棄物)の隔離;
・タイロッドの封止;
・半剛床の施工;
・油井建設への使用
等の多種多様な用途に使用できる。
【0048】
本発明はまた、グラウト製造における、上述の架橋カルボン酸ポリマーを含む流動化剤の使用に関する。
【0049】
本発明に関する利点としては、特に以下の利点が挙げられる。
・施行中のEU指令において腐食性セメントではなく刺激性セメントに分類されるジオポリマーセメントを製造できること;
・使用するメタカオリン量を減らせるため、ジオポリマーセメントを製造するコストを削減できること;
・使用するケイ酸アルカリ溶液量を減らせるため、ジオポリマーセメントを製造するコストを削減できること;
・ジオポリマーセメントを周囲温度で硬化できること;
・特にジオポリマーセメントを製造するのに使用するエネルギー量を減らせるため、環境に対する有害な影響を減らすことができること;
・ジオポリマーセメントのプラスティシティ及びワーカビリティが良好となり、該セメントから得られるモルタル又はコンクリートの機械的特性を維持又は改善できること。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0050】
以下の実施例によって本発明の理解が更に深まることとなろうが、これらは単なる例示に過ぎない。
【0051】
実施例では、以下の成分を使用した。
・メタカオリン:AGS Mineraux社よりArgical−M1200Sという名称で販売されている製品(粉末);
・フライアッシュ:Surschiste社よりSilicoline(登録商標)という名称で販売されている製品(粉末);
・カオリン:AGS Mineraux社よりArgirec B24という名称で販売されている製品(粉末);
・高炉スラグ:SLAG社よりスラグ砕石0/4という名称で販売されている製品(粉末);
・ベントナイト:Societe Francaise des Bentonites et Derives社よりImpersolという名称で販売されている製品(粉末);
・アラミド繊維:Teijin社よりテクノーラ(Technora)(登録商標)T321という名称で販売されている合成有機繊維;
・ケイ酸ナトリウム水溶液:VWR社よりケイ酸ナトリウム溶液TECHNICAL(SiO:NaOの重量比:3.25)という名称で販売されている製品及び固体水酸化ナトリウム(97%)より得られる以下の溶液:
・溶液1 NaO:SiOのモル比が0.54で、水を62.4重量%含む溶液
・溶液2 NaO:SiOのモル比が0.53で、水を62.8重量%含む溶液
・溶液3 NaO:SiOのモル比が0.57で、水を62.1重量%含む溶液
・溶液4 NaO:SiOのモル比が0.51で、水を63重量%含む溶液
・溶液5 NaO:SiOのモル比が0.53で、水を62.7重量%含む溶液
・溶液6 NaO:SiOのモル比が0.57で、水を62.1重量%含む溶液;
・流動化剤:Lubrizol社よりCARBOPOL(登録商標)Ultrez 10という名称で販売されている製品
【0052】
工程1:本発明に係るジオポリマーセメントを用いたモルタルの調合
表1に示した組成の調合物を調製した(量は全てgで表す)。
【0053】
【表1】

【0054】
工程2:モルタルの調製及び機械的強度の測定
当業者に周知の方法でモルタルを調製した。すなわち、まず、工程1で調製したジオポリマーセメントの粉末成分を、対応するケイ酸ナトリウム水溶液と30秒間ゆっくり混合した後、メタカオリン、又は、メタカオリンと非熱活性型アルミノケイ酸塩の混合物の1重量部あたり3重量部の割合でCEN標準砂(EN196−1)を30秒間かけて投入し、高速で更に30秒間混合して、混合機を90秒間停止した。混合機を停止している間に流動化剤を任意で添加した後、混合物をこそぎ取り、その後、高速混合を再開し、60秒間継続した。
【0055】
なお、補強繊維を用いる場合、対応するケイ酸ナトリウム水溶液を添加する前に、それをセメントの粉末成分と混合しておくことが好ましい。
【0056】
混合後、得られたモルタルを型枠に注ぎ、周囲温度で放置して養生させ、4×4×16cmの寸法の角柱を得た。24時間後に供試体を型枠から取り出し、NF EN196−1規格に従って、7日目及び28日目に曲げ試験及び単純圧縮試験を行った。
【0057】
本発明に従って調合したモルタルについて得られた機械的強度の結果を下記表2にまとめた。
【0058】
【表2】

【0059】
上記実施例より、メタカオリンを、経済的に有利な非熱活性型アルミノケイ酸塩に部分的に置き換えたとしても、特に本発明における流動化剤の存在下では、28日目の曲げ強度及び圧縮強さに影響しないか、又は影響してもごくわずかであることが明らかとなった。
【0060】
なお、当業者ならば、メタカオリンの量を減らすと、ケイ酸アルカリ溶液の量を増やすか、又は「腐食性」アルカリ溶液を使用する必要があると予想するであろう。従って、メタカオリン含量を減らしたにもかかわらず「刺激性」材料に分類されるジオポリマーセメントに基づくモルタルが得られることは、非常に驚くべきことである。
【0061】
また、極めて注目すべきことだが、「カルボマー」系流動化剤をジオポリマーセメントに加えることで、該セメントから得られるモルタルの機械的特性を保持又は改善しつつ、使用するケイ酸アルカリ溶液量を大幅に減らすことができる。事実、実施例8〜12で得られた結果を比較すると、架橋アクリル酸ホモポリマーを用いることでケイ酸アルカリ溶液量を約40%も減らすことができた。従って、モルタルを製造する際の総コスト及びその環境への影響が著しく抑えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)メタカオリンと、
b)MO:SiO(MはNa又はK)のモル比が0.51〜0.60、好ましくは0.51〜0.57、より好ましくは0.53〜0.57のケイ酸アルカリ溶液と
を含むジオポリマーセメント。
【請求項2】
非熱活性型アルミノケイ酸塩を更に含み、メタカオリン:アルミノケイ酸塩の重量比が約40:60〜約80:20、好ましくは約50:50〜約80:20である、
請求項1に記載のジオポリマーセメント。
【請求項3】
前記非熱活性型アルミノケイ酸塩は、カオリン、ベントナイト、フライアッシュ、高炉スラグ、及び、これらの混合物からなる群より選択される、
請求項2に記載のジオポリマーセメント。
【請求項4】
前記非熱活性型アルミノケイ酸塩は、カオリン又はベントナイトである、
請求項2又は3に記載のジオポリマーセメント。
【請求項5】
c)架橋アクリル酸ポリマーを含む流動化剤を更に含む、
請求項1〜4のいずれか一項に記載のジオポリマーセメント。
【請求項6】
前記流動化剤は、架橋アクリル酸ホモポリマー、好ましくは、ポリアルケニルエーテル又はジビニルグリコールで架橋されたアクリル酸ホモポリマーである、
請求項5に記載のジオポリマーセメント。
【請求項7】
前記流動化剤は、CARBOPOL(登録商標)という名称で販売されている、
請求項5又は6に記載のジオポリマーセメント。
【請求項8】
前記流動化剤は、固形分が約0.5〜約2重量%の水溶液の形態で提供される、
請求項5〜7のいずれか一項に記載のジオポリマーセメント。
【請求項9】
前記流動化剤は、前記セメントにおける固形分に対して約0.01〜約0.04%の割合で存在する、
請求項8に記載のジオポリマーセメント。
【請求項10】
MはNaである、
請求項1〜9のいずれか一項に記載のジオポリマーセメント。
【請求項11】
・SiO:Alのモル比が約4.0〜約5.2であり、
・NaO:SiOのモル比が約0.2〜約0.3であり、
・NaO:Alのモル比が約0.85〜約1.4であり、
・HO:NaOのモル比が約14.5〜約16.5である、
請求項1〜10のいずれか一項に記載のジオポリマーセメント。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のジオポリマーセメントと、骨材とを含むモルタル又はコンクリート。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のジオポリマーセメントを含むグラウト又はセメントペースト。
【請求項14】
繊維、好ましくは有機繊維、より好ましくは、ポリアクリロニトリル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、及び、ポリプロピレン繊維からなる群より選択されるアラミドポリマー系合成有機繊維を更に含む、
請求項12に記載のモルタル又はコンクリート。
【請求項15】
ジオポリマーセメント、モルタル、コンクリート又はグラウトの製造における、架橋カルボン酸ポリマーの使用。
【請求項16】
前記流動化剤は、架橋アクリル酸ホモポリマー、好ましくは、ポリアルケニルエーテル又はジビニルグリコールで架橋されたアクリル酸ホモポリマーである、
請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記流動化剤は、CARBOPOL(登録商標)という名称で販売されている、
請求項15又は16に記載の使用。

【公表番号】特表2013−502367(P2013−502367A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525194(P2012−525194)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051746
【国際公開番号】WO2011/020975
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(512042329)アンスティテュ フランセ デ シアンス エ テクノロジ デ トランスポール, ドゥ ラメナジュマン エ デ レゾ (2)
【Fターム(参考)】