説明

ジカルコゲナイド熱電材料

【課題】ジカルコゲナイド熱電材料を提供する。
【解決手段】下記化学式1:


式中で、Rは、希土類または遷移金属磁性元素を表し、X及びYは、相異なる元素であって、S、Se、Te、P、As、Sb、Bi、C、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga及びInからなる群から選択される一つ以上の元素を表し、aは、0≦a<2の範囲を有する、
で示される化合物を有する熱電材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存の金属や半導体と比較して熱伝導度の非常に低いジカルコゲナイド熱電材料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、熱電材料は、ペルティエ効果及びゼーベック効果を利用して能動冷却及び廃熱発電などに応用できる材料である。前記ペルティエ効果は、図1に示したように、外部からDC電圧を加えたとき、p型材料の正孔とn型材料の電子とが移動することによって材料の両端に発熱及び吸熱を起こす現象である。前記ゼーベック効果は、図2に示したように、外部熱源から熱を供給されるとき、電子と正孔とが移動しつつ材料に電流のフローが生じて発電を起こす現象をいう。
【0003】
かかる熱電材料を利用した能動冷却は、素子の熱的安定性を改善させ、振動及びノイズがなく、別途の凝縮器と冷媒とを使用せずに体積が小さく、環境親和的な方法として認識されている。かかる熱電材料を利用した能動冷却の応用分野としては、無冷媒冷蔵庫、エアコン、各種のマイクロ冷却システムなどに使用でき、特に各種のメモリ素子に熱電素子を付着させれば、既存の冷却方式に比べて体積は減らし、素子を均一かつ安定した温度に維持させることができるので、素子の性能を改善できる。
【0004】
一方、ゼーベック効果を利用して熱電材料を熱電発電に活用すれば、廃熱をエネルギー源として活用できるので、自動車エンジン及び排気装置、ゴミ焼却場、製鉄所廃熱、人体熱を利用した人体内の医療機器の電源などエネルギーの効率を高めるか、または廃熱を回収して使用する多様な分野に応用できる。
【0005】
かかる熱電材料の性能を測定する因子としては、下記数式1のように定義される無次元性能指数ZT値を使用する。
【0006】
【数1】

【0007】
式中で、Sはゼーベック係数、σは電気伝導度、Tは絶対温度、κは熱伝導度である。
前記無次元性能指数ZT値を増加させるためには、ゼーベック係数及び電気伝導度が高く、熱伝導度が低い材料を探さねばならない。
【0008】
これまで多くの種類の熱電材料が開発されたが、ほとんど常温以上の高温で特性が発現される物質が多く、常温(300ないし400K)で優秀な性能を表す物質は、BiTe及びその固溶体化合物として知られている。
【0009】
しかし、前記BiTeの性能を改善できる多様な熱電材料の開発が要求されており、このためにジカルコゲナイド構造を有する熱電材料に対する関心が増大している。
【0010】
例えば、既存に2次元層状構造を有するジカルコゲナイド熱電材料の開発に関する特許文献としては、日本NECで出願した特許文献1及び2が知られている。前記熱電材料は、ABC2−y(0≦x≦2、0≦y<1)という化学式で表現され、Aには、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Ir、Pt、Au、Sc、Y及び希土類元素のうち少なくとも一つの元素で構成され、Bには、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Ir、Snのうち少なくとも一つの元素で構成され、Cには、S、Se、Teのうち一つの元素で構成される。前記特許文献の実施例では、ATiS材料の熱電特性が記載されており、報告されたZT値が常温では2.9、700Kでは3.9に達するなど非常に高いZT値を報告したが、以後に報告されたいかなる文献においてもかかる値が検証されたことがなく、実際にATiSの場合、ZT値が常温で0.2を超えないと報告されている(非特許文献1及び2を参照)。したがって、前記特許文献1および2に記載された熱電材料は実用化されにくいという問題がある。
【0011】
一方、2007年にCatalin Chiritescuらは、熱伝導度の非常に低いWSe薄膜を製作した(非特許文献3を参照)。2次元の層状構造を有しているWSeをインプレイン方向に不規則であり、c軸に沿って整列するように薄膜を積むと、約0.05Wm−1−1という非常に低い熱伝導度を有することが確認された。これは、インプレインに対しては方向性を有さないが、c軸に沿って整列された2次元の層状構造を有する物質は熱伝導度が非常に低いということを意味する。しかし、かかる物質は不導体であって、電気伝導度が非常に低いため、熱電材料への応用は適していない。また、インプレイン方向にランダムに整列する材料をバルク化しがたいという問題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国公開特許US2003/0056819号公報
【特許文献2】特開2002−270907号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Phys.Rev.B vol.64、241104、2001
【非特許文献2】J.Appl.Phys.vol.102、073703、2007
【非特許文献3】Science vol.315、p.351、2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、従来の金属や半導体と比較して熱伝導度の非常に低く、パワーファクタの大きい熱電材料を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するために、本発明は、下記化学式1:
【0016】
【化1】

【0017】
上記化学式1中で、前記Rは、希土類または遷移金属磁性元素を表し、前記X及びYは、相異なる元素であって、S、Se、Te、P、As、Sb、Bi、C、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga及びInからなる群から選択される一つ以上の元素を表し、前記aは、0≦a<2の範囲を有する、
で示される化合物を有する熱電材料を提供する。
本発明の一具現例によれば、前記Rは、ランタン族希土類元素、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn及びAgからなる群から選択される一つ以上の元素を表す。
本発明の一具現例によれば、前記Xは、S、SeまたはTeを表す。
本発明の一具現例によれば、本発明に係る熱電材料は、常温で2Wm−1K−1以下の熱伝導度を表す。
【0018】
前記課題を解決するための他の方法として、本発明は、インプレイン不規則配列を有する2次元の層状構造を表し、下記化学式1の構造を有する熱電材料を提供する。
【0019】
【化2】

【0020】
式中で、前記Rは、希土類または遷移金属磁性元素を表し、前記X及びYは、相異なる元素であって、S、Se、Te、P、As、Sb、Bi、C、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga及びInからなる群から選択される一つ以上の元素を表し、前記aは、0≦a<2の範囲を有する。
【0021】
本発明の一具現例によれば、前記熱電材料の層状構造は、単一層の構造を有するXからなる層間にX及びRが交互に配列され、必要時に前記Xの少なくとも一部がYに置換された構造を有する。
【0022】
本発明の一具現例によれば、前記熱電材料は、インプレイン方向には共有結合を形成し、層間結合は、イオン結合及び/またはファンデルワールス結合を形成する。
また、本発明は、下記化学式1の化合物を提供する。
【0023】
【化3】

【0024】
式中で、前記Rは、希土類または遷移金属磁性元素を表し、前記X及びYは、相異なる元素であって、S、Se、Te、P、As、Sb、Bi、C、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga及びInからなる群から選択される一つ以上の元素を表し、前記aは、0≦a<2の範囲を有する。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、パワーファクタが大きく、熱伝導度が非常に低い熱電材料を提供するので、前記熱電材料は、無冷媒冷蔵庫、エアコン、廃熱発電、軍事及び航空宇宙用の熱電核発電、マイクロ冷却システムなどに有効に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ペルティエ効果による熱電冷却を示す概略図である。
【図2】ゼーベック効果による熱電発電を示す概略図である。
【図3】本発明によるRX2−a化合物の2次元の層状構造を示す図面である。
【図4】本発明によるCeSe化合物の2次元の層状構造を示す図面である。
【図5】本発明の実施例1で得られたCeTe2−xSn(x≦1.0)の熱伝導度を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例2で得られたCeSe2−xSn(x≦0.5)の熱伝導度を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例1で得られたCeTe2−xSn(x≦1.0)のゼーベック係数の値を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例2で得られたCeSe2−xSn(x≦0.5)のゼーベック係数の値を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例1で得られたCeTe2−xSn(x≦1.0)の電気抵抗値を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例2で得られたCeSe2−xSn(x≦0.5)の電気抵抗値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る熱電材料は、下記化学式1の構造を有する。
【0028】
【化4】

【0029】
上記化学式1中で、前記Rは、希土類または遷移金属磁性元素を表し、前記X及びYは、それ独立して異なる元素であって、S、Se、Te、P、As、Sb、Bi、C、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga及びInからなる群から選択される一つ以上の元素を表し、前記aは、0≦a<2の範囲を有する。
【0030】
本発明による前記化学式1を含む熱電材料は、2次元の層状構造を有し、インプレイン(面内)方向には不規則な結晶構造であり、c軸には結晶性を有し、その結果、低い熱伝導度を表し、特に基本成分であるRX[a]2にドーピング元素であるY成分が選択的に添加されて電気伝導度が改善されることによって、下記数式1のZT値が増加する。
【0031】
【数2】

【0032】
式中で、Sはゼーベック係数、σは電気伝導度、Tは絶対温度、κは熱伝導度である。
【0033】
本発明に係る熱電材料に含まれる化学式1において、Rは、希土類または遷移金属磁性元素を表し、例えばランタン族希土類元素、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn及びAgからなる群から選択される一つ以上の元素を使用でき、前記ランタン族希土類元素としてはCeが望ましい。
【0034】
本発明に係る熱電材料に含まれる化学式1において、Rと共に基本構造である2次元層状構造を形成するXとしては、S、Se、Te、P、As、Sb、Bi、C、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga及びInからなる群から選択される一つ以上の元素を使用でき、特にS、SeまたはTeが望ましい。
【0035】
前記R及びXは、互いに共有結合を形成してRX2−aの基本構造を表し、ここで、aは、0以上であって2より小さい範囲を有する実数であり、前記Yは、ドーピング元素であって、選択的に添加されて前記熱電材料の電流密度を最適化させる。
【0036】
前記RX2−aの基本構造を有する化合物は、2次元の層状構造を表し、かかる2次元の層状構造は、図3に示したように、Xからなる層間にRとXとが交互に配列された構造を有する。前記構造において、インプレイン方向には結晶構造が不規則な構造であり、c軸には結晶性を有する。
【0037】
また、化学式1において、aは、0以上であって2未満が好ましく、0以上であって1未満がより好ましい。
【0038】
また、かかる構造において、インプレイン方向のXからなる層は、共有結合を行って強い結合を形成し、c軸方向にはイオン結合またはファンデルワールス結合を行って弱い結合を形成しているので、c軸にはフォノンの伝達が困難であるため、c軸方向に熱伝導度が低くなる。特に、インプレインに垂直な方向に対して不規則的な配列を表して熱伝導度の低い最適の条件を備えている。
【0039】
一般的に、熱伝導度ktotは、ktot=kLatt+kelのように格子による熱伝導度kLattと電子による熱伝導度kelとに区別でき、電子熱伝導度は、下記の数式2のようにヴィーダマン−フランツ法則によって決定されるため、人為的に小さくする因子ではない。したがって、良好な熱電材料は、低い格子熱伝導度を有さねばならず、これは、格子構造の制御を通じて得られる。
【0040】
【数3】

【0041】
上記数式2中で、Tは絶対温度であり、σは電気伝導度を表す。
前述したRX[a]2の化学式を有する熱電材料の合成方法は、多結晶合成方法と単結晶成長方法とに分けられる。以下、多結晶合成方法と単結晶成長方法とを説明する。
【0042】
1.多結晶合成方法
(1)アンプル(ampoule)を利用した方法:原料元素を石英管または、タングステンまたはタンタルなどの金属で作ったアンプルに入れ、真空で密封して溶融点以上またはその付近の温度で数時間ないし数十時間熱処理するステップを含む方法である。
【0043】
(2)アーク溶融法:原料元素をチャンバーに入れ、不活性気体雰囲気内でアークを放電させて原料元素を溶かして試料を作るステップを含む方法である。
【0044】
(3)固相反応法:粉末をよく混ぜて固く加工した後、溶融点の70ないし90%の温度で数時間ないし数十時間熱処理するか、または混合粉末を溶融点以上の温度で数時間ないし数十時間熱処理した後で常温で粉砕加工し、それを再び溶融点の70ないし90%の温度で数時間ないし数十時間焼結するステップを含む方法である。
【0045】
2.単結晶成長方法
(1)金属フラックス法:原料元素と、該原料元素が高温で結晶によく成長できるように雰囲気にする、例えば調和溶融でき、所望の結晶の溶融点より溶融点が低い金属元素とをるつぼに入れ、前記金属元素が調和溶融する温度から結晶が生成される温度まで徐冷しつつ、例えば1ないし10℃/hourの速度で熱処理して結晶を成長させるステップを含む方法である。
【0046】
(2)ブリッジマン法:原料元素をるつぼに入れ、原料元素が溶解されるまで高温、例えば原料元素の溶融点以上の温度で数時間ないし数十時間加熱した後、るつぼの両端に温度差を数ないし数十℃発生させて高温領域を徐々に移動させて、例えば1ないし10℃/hourの速度で試料を局部的に溶解させつつ、試料の全体を結晶成長領域に通過させて結晶を成長させるステップを含む方法である。
【0047】
(3)光学流動領域法:原料元素を棒状にシードロッド及びフィードロッドに形成した後、フィードロッドを、ランプの光を一つの焦点に集めて局部的に溶解させつつ、溶解部分を上側に徐々に引き上げて結晶を成長させるステップを含む方法である。
【0048】
(4)蒸気伝送法:原料元素を石英管の下方に入れ、原料元素部分を気化温度で数時間ないし数十時間加熱し、石英管の上方は低い温度にして、原料元素が気化されつつ低い温度で固相反応を起こして結晶を成長させるステップを含む方法である。
【0049】
本発明は、前述した多様な方法いずれも制限なしに使用して熱電材料を製造でき、特別な制限はない。
【0050】
前記のような多結晶合成方法や単結晶成長方法により得られる熱電材料は、追加的な元素ドーピングを通じて電流密度を最適化させることによって、電子とホールとが共存する2バンド伝導が起こる場合、電子またはホールのうち一つのみが伝導特性を起こすことによって、パワーファクタが大きく、熱伝導度が非常に低い熱電材料を生成する。
【0051】
このように元素ドーピングが行われる場合、前記熱電材料は、ドーピング元素であるYを必須に含み、これによって、電流密度が最適化されて改善された電気伝導度を有する。これは、前記数式1でパワーファクタSσを増加させ、その結果、ZT値を増加させる。すなわち、ドーピング元素であるYをX位置に置換させることによって、ホールまたは電子のうちいずれか一つの電流密度が大きくなり、その結果として電子とホールとによる相殺効果を抑制できるので、c軸への伝導特性をさらに改善することが可能になる。かかる改善された伝導特性により、パワーファクタSσが増加してゼーベック係数を増加させる。
【0052】
このようにドーピングされる本発明の化学式1のY成分としては、S、Se、Te、P、As、Sb、Bi、C、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga及びInのうち一つ以上を使用でき、P、As、Sb、Bi、C、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga及びInのうち一つ以上が望ましい。前記Y成分の含量は、前記化学式1のR成分1モルに対して2モル未満が望ましく、1モル未満がより好ましい。
【0053】
ドーピング元素である前記Y成分は、1成分系、2成分系あるいは3成分系の形態に添加され、前記2成分系の場合、上記本発明の化学式1のY成分の例示の中から任意の2つの成分のモル比は、1:9ないし9:1の割合で添加され、3成分系の場合、上記本発明の化学式1のY成分の例示の中から任意の3つの成分のモル比は、1:(0.1〜9.0):(0.1〜9.0)の割合で添加されるが、それらに特別に限定されるものではない。かかるY成分は、ドーピング過程で前記基本構造であるRX2−aの成分のうちX成分の一部を置換し、その結果、電流密度を最適化させる。かかるドーピング工程は、前記多結晶成長方法あるいは単結晶成長方法のうち原料元素の一部として添加して行われる。
前述したような本発明の熱電材料は、低い熱伝導度を表すと共に、さらにドーピング処理により電子及びホールを注入して電子−ホールのゼーベック係数の相殺現象を改善させてゼーベック係数を増大させ、電流密度を最適化して電気伝導性が改善されるので、高い熱電性能を期待することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明がこれに限定されるものではない。
【0055】
実施例1
多結晶成長方法であるアンプルを利用した方法を用いて、原料元素であるCe、Te及びSnを所定の割合で定量して石英管で形成したアンプルに入れ、真空で密封して850℃で24時間熱処理することによって、希土類カルコゲナイドであるCeTe、CeTe1.95Sn0.05、CeTe1.9Sn0.1、CeTe1.7Sn0.3、CeTe1.5Sn0.5及びCeTeSnをそれぞれ合成した。前記化合物のモル比は、誘導結合プラズマスペクトロスコピーを通じて確認した。
【0056】
前記CeTeは、2次元の層状構造を有しており、Te層とCe−Teブロックとの間には、弱いイオン結合を形成しており、CeTe2−xSnは、前記CeTeでSnがドーピングされてTeの一部位置を置換した構造を有している。
【0057】
実施例2
多結晶成長方法であるアンプルを利用した方法を用いて、原料元素であるCe、Se及びSnを所定の割合で定量して石英管で形成したアンプルに入れ、真空で密封して850℃で24時間熱処理することによって、希土類カルコゲナイドであるCeSe、CeSe1.9Sn0.1、CeSe1.8Sn0.2及びCeSe1.5Sn0.5をそれぞれ合成した。前記化合物のモル比は、誘導結合プラズマスペクトロスコピーを通じて確認した。
【0058】
前記CeSeは、図4のようにb軸方向に平らな斜方晶系の構造であって、2次元の層状構造を有しており、Se層とCe−Seブロックとの間には、弱いイオン結合を形成しており、CeSe2−xSnは、前記CeSeでSnがドーピングされてSeの一部位置を置換した構造を有している。
【0059】
実験例1:熱伝導度の測定
実施例1で得られたCeTe、CeTe1.95Sn0.05、CeTe1.9Sn0.1、CeTe1.5Sn0.5及びCeTeSn化合物の熱伝導度の測定結果を図5に示す。当該熱伝導の測定方法は、レーザフラッシュ法で熱的弛緩度を測定して計算した。図5から分かるように、それらは、非常に低い熱伝導度を表し、特にCeTe及びCeTe1.95Sn0.05は、300Kで約1.50ないし1.58W/mKの非常に低い熱伝導度を有し、これは、一般に市販されているSb‐ドーピングされたBiTeと比較しても約55%低い値に該当し、他の熱電材料と比較しても非常に低い値に該当する。CeTe2−xSnでSnのモル比xが1.0以上となれば、熱伝導度が大きくなって性能が多少低下する現象が発生した。前記CeTe及びCeTe1.5Sn0.5の熱伝導度を市販されている熱電材料と比較した結果を下記表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示したように、本発明のCeTe及びCeTe1.5Sn0.5の格子による熱伝導度は、市販されている熱電材料と類似しているが、電子による熱伝導度が低くて、結果的に熱伝導度が2.0以下の非常に低い値を有するということが分かる。
【0062】
実施例2で得られたCeSe、CeSe1.9Sn0.1、CeSe1.8Sn0.2及びCeSe1.5Sn0.5化合物の熱伝導度の測定結果を図6に示す。当該熱伝導の測定方法は、レーザフラッシュ法で熱弛緩度を測定して計算した。図6から分かるように、それらは、非常に低い熱伝導度を表し、特にドーピング成分であるSnの含量が多くなるにつれて熱伝導度がさらに低くなって、CeSe1.5Sn0.5は0.2W/mKに達する。
【0063】
実験例2:ゼーベック係数の測定
実施例1で得られたCeTe、CeTe1.95Sn0.05、CeTe1.9Sn0.1、CeTe1.5Sn0.5及びCeTeSn化合物のゼーベック係数の測定結果を図7に示す。当該ゼーベック係数の測定は、4−ターミナル法を使用した。図7から分かるように、CeTeでTeをSnに置換すれば、ゼーベック係数の絶対値が大きくなる。前記CeTeの場合、電子とホールとが共存するスモールギャップ半導体構造を有し、Te層にはホールが、Ce−Teブロックには電子が動くので、c軸への伝導特性が低下して電子とホールとによる相殺効果によりゼーベック係数の低下を誘発しうる。したがって、それを補完してゼーベック係数を強化させる必要があり、これによってTe層にSnを置換させたCeTe1.95Sn0.05、CeTe1.9Sn0.1、CeTe1.5Sn0.5及びCeTeSn化合物の場合、Te層のキャリアを調節してゼーベック係数をさらに向上させる。これは、SnをTe位置に置換させることによって、電子とホールとの電流密度を調節でき、これによってゼーベック係数が増加すると考えられる。実施例2で得られたCeSe1.9Sn0.1及びCeSe1.8Sn0.2化合物のゼーベック係数を図8に示す。図8から分かるように、SeをSnに置換させた場合、Se層のキャリアを調節してゼーベック係数が改善されることによって、それらは、比較的高いゼーベック係数を有する。
【0064】
実験例3:電気抵抗値の測定
実施例1で得られたCeTe、CeTe1.95Sn0.05、CeTe1.9Sn0.1、CeTe1.7Sn0.3、CeTe1.5Sn0.5及びCeTeSn化合物に対して電気抵抗を測定して図9に示した。当該電気抵抗は、4−ターミナル法で測定した。図9に示したように、ドーピング処理により約10mΩ−cmの電気抵抗を有するCeTeが2mΩW−cmのCeTe1.5Sn0.5の電気抵抗値を有するということが分かる。
これは、ドーピング処理により温度による電気抵抗値も変わり、これは、ドーピング元素であるSnをTe位置に置換させることによってホールの個数が多くなるため、電気抵抗も低くなると考えられる。
【0065】
実施例2で得られたCeSe、CeSe1.9Sn0.1及びCeSe1.8Sn0.2化合物に対して電気抵抗を測定した結果を図10に示す。当該電気抵抗は、4−ターミナル法で測定した。図10から分かるように、前記CeSe、CeSe1.9Sn0.1及びCeSe1.8Sn0.2化合物の場合、非常に高い電気抵抗を有する。
したがって、物質によってドーピング処理により電気抵抗を低めることによって、電気伝導度を改善することが可能であり、その結果、パワーファクタが増加してゼーベック係数の値を改善することが可能になるということが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、能動冷却関連の技術分野に適用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1:
【化1】

上記化学式1中で、前記Rは、希土類または遷移金属磁性元素を表し、
前記X及びYは、それぞれ独立して異なり、S、Se、Te、P、As、Sb、Bi、C、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga及びInからなる群から選択される一つ以上の元素を表し、
前記aは、0≦a<2の範囲を有する、
に示される化合物を有する熱電材料。
【請求項2】
前記Rは、ランタン族希土類元素、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn及びAgからなる群から選択される一つ以上の元素であることを特徴とする請求項1に記載の熱電材料。
【請求項3】
前記Xは、S、SeまたはTeであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱電材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱電材料は、常温で2W/mK以下の熱伝導度を表すことを特徴とする熱電材料。
【請求項5】
インプレイン不規則配列を有する2次元の層状構造を表し、
かつ下記化学式1:
【化2】

上記化学式1中で、
前記Rは、希土類または遷移金属磁性元素を表し、
前記X及びYは、相異なり、S、Se、Te、P、As、Sb、Bi、C、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga及びInからなる群から選択される一つ以上の元素を表し、
前記aは、0≦a<2の範囲を有する、
に示される化合物を有する熱電材料。
【請求項6】
前記熱電材料の層状構造は、単一層の構造を有するXからなる層間にX及びRが交互に配列されたことを特徴とする請求項5に記載の熱電材料。
【請求項7】
前記Xの少なくとも一部が、Yに置換された構造を有することを特徴とする請求項5または6に記載の熱電材料。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の熱電材料は、インプレイン方向には共有結合を形成し、層間結合は、イオン結合及び/またはファンデルワールス結合を形成したことを特徴とする熱電材料。
【請求項9】
下記化学式1:
【化3】

上記化学式1中で、
前記Rは、希土類または遷移金属磁性元素を表し、
前記X及びYは、相異なり、S、Se、Te、P、As、Sb、Bi、C、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga及びInからなる群から選択される一つ以上の元素を表し、
前記aは、0≦a<2の範囲を有する、
で示される化合物。
【請求項10】
多結晶合成法または単結晶成長法により、請求項1〜4のいずれか1項に記載のジカルコゲナイド熱電材料を合成する工程を含むことを特徴とするジカルコゲナイド熱電材料の製造方法。
【請求項11】
前記多結晶合成法は、アンプル法、アーク溶融法及び固相反応法からなる群から選択された一つの方法であることを特徴とする請求項10に記載のジカルコゲナイド熱電材料の製造方法。
【請求項12】
前記単結晶成長法は、金属フラックス法、ブリッジマン法、光学流動領域法及び蒸気伝送法からなる群から選択された一つの方法であることを特徴とする請求項10または11に記載のジカルコゲナイド熱電材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−253301(P2009−253301A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91508(P2009−91508)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG ELECTRONICS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do 442−742(KR)