説明

ジチオカーボネート構造及び含硫黄アリルカーボネートを有するラジカル重合性化合物

【課題】高屈折率で透明性に優れ、かつ熱硬化反応時に安定で着色の少ない光学材料を提供する。
【解決手段】
一般式(1)
【化1】


(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、X及びYはそれぞれ独立して炭素数1〜10の、分岐していてもよいアルキレン基、アリーレン基及びシクロアルキレン基よりなる群から選ばれる2価の基を表す。)で示されるジチオカーボネート構造及び含硫黄アリルカーボネート基を有するラジカル重合性化合物、その製造方法、その化合物の(共)重合体、その化合物を含有する光学材料用重合性組成物及びその硬化物、並びにその硬化物を含む光学材料用成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のジチオカーボネート構造及び含硫黄アリルカーボネート基を有するラジカル重合性化合物、並びに当該ラジカル重合性化合物を用いた高屈折率の光学材料に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ガラスは無機ガラスと比較して軽量で、耐衝撃性に優れ、熱可塑形成及び着色が容易なことから、無機ガラスの代用品として建築物や乗物の窓材、照明機具、看板、日用品等に利用されている。このような有機ガラスとしては、CR−39(商品名:PPG社製)に代表されるジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)重合体や、メタクリル酸メチル重合体などが代表的である。
【0003】
ガラスで眼鏡用レンズを作製する場合には、ガラスの屈折率が高くなるほどレンズの薄肉化が可能となるが、有機ガラスの屈折率は1.49〜1.50であり、無機ガラス(ホワイトクラウンガラスの場合は1.523)に比較して低い。そのため、有機ガラスを使用してレンズを作製した場合、無機ガラスを使用してレンズを作製した場合よりも縁(コバ)が厚くなり、軽量化のメリットが損なわれる。更に、有機ガラスで視力矯正用レンズを作製した場合、度が強くなると見かけが悪くなるという欠点があった。このような事情により、高屈折率の重合体を与える光学材料用樹脂が望まれていた。
【0004】
有機ガラスの屈折率を高くするため、これまで様々な試みがなされている。
例えば、特開昭63−46213号公報(特許文献1)には、高屈折率の光学用樹脂として、イソシアネート化合物とメルカプト化合物とを反応させて得られるチオウレタン系の樹脂が記載されている。しかし、チオウレタン系樹脂は、原料であるイソシアネート化合物に毒性があること、また、原料のチオール化合物に特有の極めて不快な臭気が問題となっている。
【0005】
更には、特開平3−217412号公報(特許文献2)には、高屈折率の光学用樹脂材料として、硫黄原子を含有する(メタ)アクリレート化合物が記載されている。しかし、これらの材料は高粘度となるものが多く、かつ反応性が高すぎるため、レンズ原料としての保存方法に多くのノウハウを必要とし、必ずしも扱いやすいものではなかった。
【0006】
また、特開平2−261808号公報(特許文献3)、特開平10−175947号公報(特許文献4)及び特開平11−49744号公報(特許文献5)には、高屈折率を与える光学用樹脂材料として、含硫黄アリルカーボネート基を有するラジカル重合性化合物が記載されている。これらの化合物は屈折率が高く、また光による硬化性が良好である反面、熱硬化反応の重合開始剤としてパーオキサイドを使用した場合に分子内のスルフィド構造部分に酸化が起こりやすく、着色等の問題が発生することがある。また、重合のコントロールも困難である。
【0007】
【特許文献1】特開昭63−46213号公報
【特許文献2】特開平3−217412号公報
【特許文献3】特開平2−261808号公報
【特許文献4】特開平10−175947号公報
【特許文献5】特開平11−49744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安定的に熱硬化反応をさせることが可能であり、着色の少ないラジカル重合性化合物及びその化合物を用いた高屈折率で透明性に優れた光学材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定のジチオカーボネート構造及び含硫黄アリルカーボネート基を有するラジカル重合性化合物が、熱硬化反応時に安定で着色が少なく、高屈折率で透明性に優れた光学材料を与えることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[16]に関する。
[1]一般式(1)
【化1】

(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、X及びYはそれぞれ独立して炭素数1〜10の分岐していてもよいアルキレン基、アリーレン基及びシクロアルキレン基よりなる群から選ばれる2価の基を表す。)で示されるラジカル重合性化合物。
[2]前記一般式(1)中のX及びYがメチレン基、エチレン基、1,2−プロピレン基または1,3−プロピレン基である前記1記載のラジカル重合性化合物。
[3]前記一般式(1)中のR1及びR2が水素原子である前記1または2に記載のラジカル重合性化合物。
[4]一般式(2)
【化2】

(式中、Lは炭素数1〜10の分岐していてもよいアルキレン基、アリーレン基及びシクロアルキレン基よりなる群から選ばれる2価の基を表す。)で示されるジチオールを塩基存在下、一般式(3)
【化3】

(式中、R4は水素原子またはメチル基を表し、Zは塩素原子または臭素原子を表す。)で示されるハロゲン化ギ酸(メタ)アリルと反応させて、一般式(4)
【化4】

(式中の記号は前記と同じ意味を表す。)で示されるチオール化合物を得た後、更にN,N'−カルボニルジイミダゾールと反応させることを特徴とする一般式(1)
【化5】

(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、X及びYはそれぞれ独立して炭素数1〜10の分岐していてもよいアルキレン基、アリーレン基及びシクロアルキレン基よりなる群から選ばれる2価の基を表す。)で示されるラジカル重合性化合物の製造方法。
[5]前記一般式(1)中のX及びYがメチレン基、エチレン基、1,2−プロピレン基または1,3−プロピレン基である前記4記載のラジカル重合性化合物の製造方法。
[6]前記一般式(1)中のR1及びR2が水素原子である前記4または5に記載のラジカル重合性化合物の製造方法。
[7]前記1〜3のいずれかに記載のラジカル重合性化合物を原料モノマーの一種とする重合体または共重合体。
[8]前記1〜3のいずれかに記載のラジカル重合性化合物と他のラジカル重合性化合物との共重合体である前記7に記載の共重合体。
[9]前記1〜3のいずれかに記載のラジカル重合性化合物とメタクリル酸アリル及び/またはマレイン酸ジアリルとの共重合体である前記8に記載の共重合体。
[10]前記1〜3のいずれかに記載のラジカル重合性化合物を含有する光学材料用重合性組成物。
[11]さらに他のラジカル重合性化合物を含有する前記10に記載の光学材料用重合性組成物。
[12]他のラジカル重合性化合物が少なくともメタクリル酸アリル及び/またはマレイン酸ジアリルである前記11に記載の光学材料用重合性組成物。
[13]前記10〜12のいずれかに記載の光学材料用重合性組成物の硬化物。
[14]前記13に記載の硬化物を含む光学材料用成形体。
[15]レンズ、光導波路、フィルム、プリズム、平板またはファイバーからなる群より選択される前記14に記載の光学材料用成形体。
[16]前記10〜12のいずれかに記載の光学材料用重合性組成物を硬化してなるレンズ。
【発明の効果】
【0011】
本発明のラジカル重合性化合物を用いた光学材料用組成物は、その硬化物の屈折率が高く、透明性に優れ、かつ熱硬化反応時の着色が少ない。このため、眼鏡レンズ、カメラレンズなどの光学レンズ、光導波路、光学用封止剤、光学用接着剤、光学フィルム、プリズム、液晶パネル用導光板、光ファイバー等の光学材料に特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
[ジチオカーボネート構造及び含硫黄アリルカーボネート基を有するラジカル重合性化合物]
本発明のジチオカーボネート構造及び含硫黄アリルカーボネート基を有するラジカル重合性化合物は、下記一般式(1)
【化6】

で示される化合物である。以下、「本発明のラジカル重合性化合物」ということがある。
なお、本明細書においては、化学式と化合物名が一致しない場合は化学式を優先するものとする。
【0013】
一般式(1)において、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す。このうち、屈折率を上げる観点から水素原子がより好ましい。
【0014】
一般式(1)において、X及びYはそれぞれ独立して炭素数1〜10の分岐していてもよいアルキレン基、アリーレン基及びシクロアルキレン基よりなる群から選ばれる2価の基を表す。
【0015】
アルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、1,2−プロピレン基、1,3−プロピレン基、ブチレン基、アミレン基、ヘキシレン基などが挙げられる。
アリーレン基としては、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、トルイレン基、ナフタレニレン基、ビフェニレン基などが挙げられる。
シクロアルキレン基としては、1,3−シクロぺンチレン基、1,2−シクロぺンチレン基、1,1−シクロぺンチレン基、1,4−シクロヘキシレン基、1,3−シクロヘキシレン基、1,2−シクロヘキシレン基、1,1−シクロヘキシレン基などが挙げられる。
【0016】
これらの中でもX及びYとしては、炭素数1〜4のアルキレン基、炭素数6〜10のシクロアルキレン基がより好ましく、屈折率とアッベ数を両立させる観点において、メチレン基、エチレン基、1,2−プロピレン基、1,3−プロピレン基が特に好ましい。
【0017】
一般式(1)で示されるラジカル重合性化合物としては、S,S'−ビス[2−(アリロキシカルボニルチオ)エチル]ジチオカーボネートが特に好ましい。
【0018】
前記した従来技術の項に記載されている光学材料用ラジカル重合性化合物は、屈折率の向上のために硫黄原子を含むスルフィド骨格(−CH2−S−CH2−)を含有している。しかし、この構造は硫黄原子が酸化されやすいため、重合時や硬化反応時に着色が起こったり、重合開始剤の失活により硬化が不完全になるなど、硬化させる際の安定性に問題があった。
一方、本発明のラジカル重合性化合物は、含硫黄基としてジチオカーボネート構造(−S−(C=O)−S−)及び含硫黄アリルカーボネート構造(CH2=CR3−CH2−O−(C=O)−S−(R3は前記R1またはR2を表す。))を含んでいる。この構造は、硫黄原子の隣に電子吸引性を有するカルボニルを配置することにより硫黄原子が酸化されにくくなるため、重合時や硬化反応時に着色が起こることがなく、安定である。
【0019】
[製造方法]
次に、本発明の一般式(1)で示されるジチオカーボネート構造及び含硫黄アリルカーボネート基を有するラジカル重合性化合物の製造方法について説明する。
一般式(1)で示されるジチオカーボネート構造及び含硫黄アリルカーボネート基を有するラジカル重合性化合物は、1.ジチオールを塩基存在下、ハロゲン化ギ酸(メタ)アリルと反応させた後、更に2.N,N'−カルボニルジイミダゾールと反応させることにより製造することができる。
なお、本明細書においては「(メタ)アリル」は「メタリル及び/またはアリル」を、「(メタ)アクリレート」は「メタクリレート及び/またはアクリレート」を意味する。
【0020】
1.塩基存在下でのジチオールとハロゲン化ギ酸(メタ)アリルとの反応
本発明で使用するジチオールとは、一般式(2)
【化7】

(式中、Lは炭素数1〜10の分岐していてもよいアルキレン基、アリーレン基及びシクロアルキレン基よりなる群から選ばれる2価の基を表す。)で示される化合物であり、ハロゲン化ギ酸(メタ)アリルとは、一般式(3)
【化8】

(式中、R4は水素原子またはメチル基を表し、Zは塩素原子または臭素原子を表す。)で示される化合物である。
【0021】
これら両化合物を塩基存在下で反応させ、一般式(4)
【化9】

(式中の記号は前記と同じ意味を表す。)で示されるチオール化合物(以下「チオール化合物(4)」ということがある。)を得る。
一般式(3)中のZは、反応性と経済性を両立させる観点から塩素原子であることが好ましく、一般式(4)中のLは、目的とする一般式(1)で示される化合物中のX、Yに対応して選択する。
【0022】
一般式(2)で示されるジチオールと一般式(3)で示されるハロゲン化ギ酸(メタ)アリルの使用量は特に制限されるものではないが、通常はジチオール1モルに対してハロゲン化ギ酸(メタ)アリルを0.1〜1.5モル用いるのが好ましく、0.5〜1.1モルが特に好ましい。ハロゲン化ギ酸(メタ)アリルが0.1モル未満の場合はジチオールに対する反応収率が低くなり、また、1.5モルを超えると副生物の生成量が増える。
【0023】
この反応は、無触媒下、副生するハロゲン化水素を反応系外に除去しながら行う方法と、ハロゲン化水素捕集剤を加えて行う方法のどちらも利用できる。
ハロゲン化水素捕集剤としては、例えば、ピリジン、トリエチルアミン、ピコリン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等の有機塩基、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基が挙げられる。
ハロゲン化水素捕集剤の使用量としては特に制限はないが、上記ジチオール1モルに対して0.1〜1.5モルが好ましく、0.5〜1.1モルが特に好ましい。
【0024】
また、反応は無溶媒で行ってもよいし、基質と反応しない溶媒を使用して行ってもよい。また、水共存下でも問題なく実施できる。溶媒としては、n−ヘキサン、トルエン、キシレン、ベンゼン等の炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドのような極性溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0025】
反応温度に特に制限はないが、通常は−30〜100℃の範囲が好ましく、0〜50℃が特に好ましい。−30℃未満では極端に反応が遅くなり、100℃を超えると、中間体のチオール化合物がエン−チオール反応により重合するなどの副反応が起きやすくなる。
【0026】
また、反応に関しては、重合を抑制するために重合禁止剤を加えることもできる。
重合禁止剤としては、p−ベンソキノン、ナフトキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン等のキノン類、ハイドロキノン、p−t−ブチルカテコール、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン等の多価フェノール類、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジ−t−ブチルパラクレゾール、α−ナフトールなどのフェノール類が挙げられる。
このようにして得られたチオール化合物(4)は、蒸留や分液、再結晶、クロマトグラフィーや活性炭、活性白土、合成吸着剤等を用いる処理により精製することができる。
【0027】
2.前記1.の反応で生成したチオール化合物(4)とN,N'−カルボニルジイミダゾールとの反応
次に、1.で生成したチオール化合物(4)をN,N'−カルボニルジイミダゾールと反応させて、本発明の一般式(1)で示されるラジカル重合性化合物を製造する方法について詳しく述べる。
【0028】
チオール化合物(4)とN,N'−カルボニルジイミダゾールの使用量は特に制限されるものではないが、通常はチオール化合物1モルに対してN,N'−カルボニルジイミダゾールを0.1〜0.7モル用いるのが好ましく、0.3〜0.5モルが特に好ましい。N,N'−カルボニルジイミダゾールが0.1モル未満の場合はチオール化合物(4)に対する反応収率が低くなり、また、0.7モルを超えると副生物の生成量が増える。
【0029】
この反応は塩基存在下、塩基非存在下のどちらの条件でも行うことができる。
この反応を塩基存在下で行う場合、用いる塩基としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、アニリン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、トルイジン、アニシジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)等の有機塩基、あるいは、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の無機塩基が挙げられる。
【0030】
このような塩基の使用量としては特に制限はないが、チオール化合物(4)1モルに対して0.1〜5モルが好ましく、0.5〜3モルが更に好ましく、0.8〜1.2モルが特に好ましい。
【0031】
反応は無溶媒、あるいは不活性溶媒中で行うことができる。
このような溶媒としては、反応に対して不活性であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンまたはメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチルまたは酢酸ブチル等のエステル系溶媒、ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランまたはジオキサン等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の極性溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は単独で使用してもよく、あるいは2種類以上を併用してもよい。
【0032】
反応温度には特に制限はなく、通常−78〜150℃の範囲が好ましく、−20〜120℃の範囲が更に好ましく、0〜100℃の範囲が特に好ましい。
【0033】
上述したチオール化合物(4)とN,N'−カルボニルジイミダゾールとの反応は、一段階目のジチオールとハロゲン化ギ酸(メタ)アリルとの反応により生成した中間体であるチオール化合物(4)を一旦取り出した後、二段階目のカルボニル化反応を行う段階的な方法で行ってもよく、あるいは、チオール化合物(4)を途中で取り出すことなく、一段階で次のカルボニル化反応を行ってもよい。
【0034】
段階的な方法を採用する場合、一段階目の反応の中間体であるチオール化合物(4)は、更に必要に応じて公知の方法(例えば、蒸留、再結晶、クロマトグラフィーあるいは活性炭処理など)により分離、精製して、より高純度の化合物として単離してもよい。
【0035】
本発明のラジカル重合性化合物を製造中、中間体であるチオール化合物(4)がエン−チオール反応を起こして重合してしまうのを防止するために、重合禁止剤を使用してもよい。
使用することができる重合禁止剤としては、例えば、4−メトキシフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルクレゾール、ハイドロキノン、フェノチアジン等の公知の各種化合物を挙げることができる。
【0036】
これら重合禁止剤の使用量に特に制限はないが、反応系中の原料混合物あるいは反応生成物100質量部に対して、通常0.001〜5質量部が好ましく、0.05〜3質量部が更に好ましく、0.01〜1質量部が特に好ましい。
【0037】
反応終了後、生成物である本発明の一般式(1)で示されるラジカル重合性化合物は、公知の操作、処理方法(例えば、中和、溶媒抽出、水洗、分液、溶媒留去など)により後処理して単離される。
【0038】
[一般式(1)のラジカル重合性化合物の重合体]
本発明の一般式(1)で示されるラジカル重合性化合物は、熱や紫外線、電子線等により容易にラジカル重合する。また、他のラジカル重合性化合物との共重合体とすることもできる。
一般式(1)で示されるラジカル重合性化合物は重合性二重結合が2個あるという意味で二官能性であり、単独重合(硬化反応)でも架橋構造を形成するが、単独重合体の物性、例えば、屈折率とアッベ数のバランスを改良する目的等で、他のラジカル重合性化合物と共重合させることもできる。共重合させるラジカル重合性化合物が多官能のラジカル重合性を有している場合には、より架橋密度の高い硬化物とすることも可能である。
また、重合体の粘度を下げ、成形性を改良する目的で単官能のラジカル重合性モノマーを用いてもよい。
【0039】
本発明のラジカル重合性化合物と共重合させるラジカル重合性化合物は、一般式(1)のラジカル重合性化合物と共重合する化合物であれば特に制限はない。その具体例としては、ジ(メタ)アリルフタレート、ジ(メタ)アリルイソフタレート、ジ(メタ)アリルテレフタレート、(メタ)アリルベンゾエート、α−ナフトエ酸(メタ)アリル、β−ナフトエ酸(メタ)アリル、2−フェニル安息香酸(メタ)アリル、3−フェニル安息香酸(メタ)アリル、4−フェニル安息香酸(メタ)アリル、o−クロロ安息香酸(メタ)アリル、m−クロロ安息香酸(メタ)アリル、p−クロロ安息香酸(メタ)アリル、o−ブロモ安息香酸(メタ)アリル、m−ブロモ安息香酸(メタ)アリル、p−ブロモ安息香酸(メタ)アリル、2,6−ジクロロ安息香酸(メタ)アリル、2,4−ジクロロ安息香酸(メタ)アリル、2,4,6−トリブロモ安息香酸(メタ)アリル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(メタ)アリル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(メタ)アリル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(メタ)アリル、1−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジ(メタ)アリル、3−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(メタ)アリル、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(メタ)アリル、エンディック酸ジ(メタ)アリル、クロレンド酸ジ(メタ)アリル、3,6−メチレン−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(メタ)アリル、トリメリット酸トリ(メタ)アリル、ピロメリット酸テトラ(メタ)アリル、ジフェン酸ジ(メタ)アリル、コハク酸ジ(メタ)アリル、アジピン酸ジ(メタ)アリル等のアリルエステル類;ジベンジルマレート、ジベンジルフマレート、ジフェニルマレート、ジフェニルフマレート、ジブチルマレート、ジブチルフマレート、ジメトキエチルマレート、ジメトキシエチルフマレート等のマレイン酸ジエステル/フマル酸ジエステル;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジメタクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、α−メチルスチレン、メトキシスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、カプロン酸ビニル等の脂肪族カルボン酸のビニルエステル;シクロヘキサンカルボン酸ビニルエステル等の脂環式ビニルエステル;安息香酸ビニルエステル、t−ブチル安息香酸ビニルエステル等の芳香族ビニルエステル;ジアリルカーボネート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、PPG社製商品名CR−39に代表されるポリエチレングリコールビス(アリル)カーボネート等のアリルカーボネート化合物;末端に(メタ)アリルエステル基を有し、内部が多価カルボン酸と多価アルコールから誘導されたエステル構造からなるオリゴマー;分子内に反応性の異なる重合性二重結合を有する(メタ)アクリル酸(メタ)アリル、(メタ)アクリル酸ビニルやマレイン酸ジ(メタ)アリル等の化合物;イソシアヌル酸トリアリルやシアヌル酸トリアリル等の窒素含有多官能アリル化合物等が挙げられる。
【0040】
但し、これらのラジカル重合性化合物はあくまで例示であり、上記に限定されるわけではない。また、これらのラジカル重合性化合物は、目的の物性を得るために2種以上併用してもよい。
【0041】
これらのラジカル重合性化合物の中では、屈折率とアッベ数を両立する観点から、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(メタ)アリル、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アリルイソフタレート、ジ(メタ)アリルテレフタレート、トリメリット酸トリ(メタ)アリル、ピロメリット酸テトラ(メタ)アリル、末端に(メタ)アリルエステル基を有し、内部が多価カルボン酸と多価アルコールから誘導されたエステル構造からなるオリゴマーが好ましい。
【0042】
また、(メタ)アクリル酸(メタ)アリル、(メタ)アクリル酸ビニルやマレイン酸ジ(メタ)アリルなどの反応性の異なるラジカル重合性二重結合を分子内に有する化合物も好ましい。これらの化合物は、その反応性の差からラジカル重合による硬化成形の際の硬化度をコントロールする上で有用である。
【0043】
本発明のラジカル重合性化合物を重合させる際には開始剤を使用せずに熱重合させてもよいが、ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、熱、紫外線、電子線、放射線等によってラジカルを生成するものであれば使用できる。熱ラジカル重合開始剤と放射線等による重合開始剤を併用してもよい。
【0044】
熱ラジカル重合開始剤としては、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビスイソバレロニトリル、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート等のアゾ系化合物;メチルエチルケトンパーオキシド、メチルイソブチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド等のケトンパーオキシド類;ベンゾイルパーオキシド、デカノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類;ジクミルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド等のジアルキルパーオキシド類;1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類;t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、ジ−t−ブチルパーオキシアゼレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシトリメチルアジペート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート等のアルキルパーオキシエステル類;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシカーボネート類等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。また、これらの熱ラジカル重合開始剤は2種以上併用してもよい。
【0045】
紫外線、電子線、放射線によるラジカル重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパノン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン等のアセトフェノン誘導体;ベンゾフェノン、4,4'−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4−トリメチルシリルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4'−メチル−ジフェニルスルフィド等のベンゾフェノン誘導体;ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾイン誘導体;メチルフェニルグリオキシレート、ベンゾインジメチルケタール、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。また、これらの紫外線、電子線、放射線ラジカル重合開始剤は2種以上併用してもよい。
【0046】
これらの重合開始剤の添加量は、硬化温度やラジカル重合性組成物の組成比、添加剤の種類、量によって異なるため一概に限定することはできないが、本発明の一般式(1)のラジカル重合性化合物と、必要に応じて共重合させる他のラジカル重合性化合物との総量100質量部に対して0.01〜15質量部が好ましく、0.1〜10質量部が特に好ましい。ラジカル重合開始剤の添加量が0.01質量部未満の場合は重合、硬化が不十分になる恐れがある。また、15質量部を超えて添加することは経済上好ましくない。
【0047】
重合温度(硬化温度)は重合開始剤の種類に応じて適宜選択すればよい。紫外線等による重合であれば室温でも可能である。熱重合の場合は開始剤の分解温度に対応して適宜決めることが望ましく、一般的には30〜130℃である。また、段階的に温度を変えて重合(硬化)させてもよい。重合の際には不活性溶媒を使用することもできる。
本発明の一般式(1)で示されるラジカル重合性化合物の重合により得られる樹脂は透明性が高く、高屈折率の光学材料用樹脂として有用である。
【0048】
[光学材料用組成物]
本発明の光学材料用組成物及びその硬化物は、前述した一般式(1)で示されるラジカル重合性化合物を含むものであり、一般式(1)の化合物を単独重合、あるいは他のラジカル重合性化合物と共重合した組成物を硬化させて硬化物とする。また、必要に応じてラジカル重合開始剤等を含んでもよい。
共重合させるラジカル重合性化合物が多官能の場合には、架橋密度を調整することもできる。
共重合させるラジカル重合性化合物、ラジカル重合開始剤、重合(硬化)方法については前述の通りである。但し、硬化物からの除去の問題があるので溶媒は用いない方が好ましい。
【0049】
本発明のラジカル重合性化合物とその他のラジカル重合性化合物を共重合させる場合の組成物中の配合量は特に限定されないが、本発明のラジカル重合性化合物を60質量%以上含むことが好ましく、75質量%以上がより好ましい。
【0050】
また、単独重合あるいは共重合のどちらの場合においても硬化方法が注型硬化の場合には、粘度を下げて型に注入し易くするために、適宜単官能のラジカル重合性モノマーを反応性希釈剤として配合し粘度調整をすることができる。粘度は、型に流し込む時の温度において、600mPa・s以下であることが好ましく、300mPa・s以下がより好ましく、200mPa・s以下が特に好ましい。なお、粘度はJIS Z8803に準拠して測定した値である。単官能のラジカル重合性モノマーとしては、先に本発明のラジカル重合性化合物と共重合させるラジカル重合性化合物として例示した化合物のうち単官能のものが挙げられる。
【0051】
また、本発明の光学材料用組成物は紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、着色剤(顔料、染料)、流動調節剤、レベリング剤、無機充填剤などの公知の各種添加剤を使用することも可能である。
【0052】
紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2'−ヒドロキシ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどのトリアゾール類、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、4−tert−ブチルフェニルサリシラート等のサリシラート類、ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバシートなどのヒンダートアミン類が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0053】
紫外線吸収剤の配合量としては、他の配合物の種類、量等により変わるが、一般的には、光学材料用組成物中の全ラジカル重合性成分100質量部に対して0.01〜2質量部が好ましく、0.03〜1.7質量部がより好ましく、0.05〜1.4質量部が最も好ましい。紫外線吸収剤が0.01質量部未満では十分な効果が期待できず、2質量部を超えると経済的に好ましくない。
【0054】
酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス−[メチレン−3−(3',5'−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート]メタン等のフェノール系、ジラウリル−3,3'−チオジプロピオナート等の硫黄系、トリスノニルフェニルホスファイト等のリン系の酸化防止剤などが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
酸化防止剤の配合量は、他の配合物の種類、量等により変わるが、一般的には、光学材料用組成物中の全ラジカル重合性成分100質量部に対して、0.01〜5質量部が好ましく、0.05〜4質量部がより好ましく、1〜3質量部が最も好ましい。酸化防止剤が0.01質量部未満では十分な効果が期待できず、5質量部を超えると経済的に好ましくない。
【0056】
離型剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アミド、フッ素系化合物類、シリコン化合物類などが例示できるが、これらに限定されるわけではない。
離型剤の配合量は、他の配合物の種類、量等により変わるが、一般的には、光学材料用組成物中の全ラジカル重合性成分100質量部に対して、0.01〜2質量部が好ましく、0.03〜1.7質量部がより好ましく、0.05〜1.4質量部が最も好ましい。離型剤が0.01質量部未満では十分な効果が期待できず、2質量部を超えると経済的に好ましくなく、硬化物表面のベタツキ等の問題を生じることがある。
【0057】
着色剤としては、アントラキノン系、アゾ系、カルボニウム系、キノリン系、キノンイミン系、インジゴイド系、フタロシアニン系などの有機顔料、アゾイック染料、硫化染料などの有機染料、チタンイエロー、黄色酸化鉄、亜鉛黄、クロムオレンジ、モリブデンレッド、コバルト紫、コバルトブルー、コバルトグリーン、酸化クロム、酸化チタン、硫化亜鉛、カーボンブラックなどの無機顔料などが例示できるが、これらに限定されるものではない。また、その配合量は特に限定されない。
【0058】
本発明の光学材料用組成物をプラスチックレンズなどの光学材料に成形する場合には注型成形が適している。具体的には、組成物中にラジカル重合開始剤を添加し、チューブまたはパイプを通してエラストマーガスケットやスペーサーで固定化している型へ注入して、オーブン中で熱により硬化する方法などが挙げられる。
【0059】
使用する型としては金属や無機ガラス製のものが好ましい。一般に、プラスチックレンズを注型成形した後の型は強酸または強アルカリ液による洗浄が必要である。そのため、洗浄により変質せず、また容易に研磨され平坦面が得やすいという理由から、無機ガラス製の型が特に好ましく用いられる。
【0060】
本発明の光学材料用組成物をプラスチックレンズ等に成形する際の硬化温度は、組成物の組成比、添加剤の種類、量によって異なるが、一般的には約20〜150℃、好ましくは30〜120℃である。
また、硬化温度の操作については、硬化時の収縮やひずみを考慮すると、昇温しながら徐々に硬化する方法が好ましい。一般的には0.5〜100時間、好ましくは3〜50時間、更に好ましくは10〜30時間かけて硬化するのがよい。
【0061】
また、本発明の光学材料用組成物を硬化させてなる光学材料用成形体は、必要に応じて各種コート処理を行うことができる。例えば耐擦傷性向上のため有機ケイ素化合物、酸化スズ、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどの微粒子状無機物を含むコーティング液を用いて、高硬度皮膜を成形体上に形成することができる。また、耐衝撃性を向上させるため、ポリウレタンやポリエステルを主成分とするプライマー層を設けることができる。また、反射防止の性能を付与させるため、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル等を用いて反射防止膜を施すこともできる。また、撥水性向上のため、フッ素原子を有する有機ケイ素化合物などを用いて撥水膜を反射防止膜上に施すことができる。
【0062】
[光学材料]
本発明の光学材料用組成物の硬化物は眼鏡レンズ、カメラレンズなどの光学レンズ、光導波路、光学用封止剤、光学用接着剤、光学フィルム、プリズム、液晶パネル用導光板、光ファイバー、透明パネル、透明フィルム、透明板等の光学材料として使用することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載により何らの限定を受けるものではない。
【0064】
実施例及び比較例で合成した物質の諸物性は、以下の通り測定した。
1.屈折率(nD)及びアッベ数(νD
使用機種:アッベ屈折率計1T型(アタゴ社製)、
測定方法:9mm×16mm×4mmの試験片を作製し、「アッベ屈折率計1T」を用いて、25℃における屈折率(nD)及びアッベ数(νD)を測定した。接触液はジヨードメタンを使用した。
【0065】
2.1H−NMR,13C−NMR
使用機種:JEOL EX−400(400MHz,日本電子社製)、
測定方法:重水素化クロロホルムに溶解し、内部標準物質にテトラメチルシランを使用して測定した。
【0066】
3.FT−IR
使用機種:Spectrum GX(パーキンエルマー社製)、
測定方法:KBr板を用いて、液膜法で測定した。
【0067】
4.バーコル硬度
JIS K6911に準拠し、バーバー・コールマン社製GYZJ934−1型を用いて測定した。
【0068】
実施例1:S,S'−ビス[2−(アリロキシカルボニルチオ)エチル]ジチオカーボネート(BADTCと略す。)の合成
【化10】

【0069】
温度計、滴下漏斗、撹拌子を備えた三ツ口フラスコに水酸化ナトリウム(8.07g,0.20mol)を加え、純水80.7gで完全に溶解し、更にトルエン24.0mlを加えた。このフラスコを氷浴に浸し、系内の温度を10℃以下とし、撹拌しながらエタンジチオール(化学式(6),東京化成工業社製,19.00g,0.20mol)をゆっくり加えた。20分間撹拌後、クロロギ酸アリル(化学式(5),東京化成工業社製,24.36g,0.20mol)をトルエン24.0mlで希釈した溶液を滴下漏斗に仕込み、先程のエタンジチオール溶液にこれを1時間かけて滴下した。滴下終了後、系内の温度を10℃以下に保ち1時間撹拌した。この反応液を分液漏斗に移し、分液操作を行い、更に水層のpHが7になるまでトルエン層の水洗を繰り返した。得られたトルエン層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過操作で硫酸ナトリウムを除去し、脱水されたO−アリル−S−(2−メルカプトエチル)チオカーボネート(化学式(7)の化合物)のトルエン溶液を得た。
【0070】
別途、温度計、滴下漏斗、ジムロート冷却管、撹拌子を備えた三ツ口フラスコを窒素置換し、これに、先に得られたトルエン溶液を仕込んだ。その後、フラスコを氷浴に浸け、内容物の温度を10℃以下にし、N,N’−カルボニルジイミダゾール(化学式(8),保土谷化学工業社製,16.4g,0.10mol)をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)115.0mlに溶解させた溶液を滴下漏斗より1時間かけて滴下した。
【0071】
その後、系内の温度を10℃以下に保ち3時間撹拌し、反応液に純水50mlを加え、分液漏斗に移し、分液した。得られた有機層を更に5%水酸化ナトリウム水溶液15ml、純水50ml、5%塩酸15mlの順で処理し、最後に水層が中性となるまで純水での洗浄を繰り返し行った。回収した有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過して硫酸ナトリウムを除去した。低沸点物を減圧下に留去して、粗生成物37.6gを得た。更に、この粗生成物を、展開溶媒としてヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒を用いたカラムクロマトグラフィーにより精製し、無色透明液体を得た(収量:21.4g,収率:56.0%)。
【0072】
この液体の1H−NMR、13C−NMR及びIRを測定し、目的化合物であるS,S’−ビス[2−(アリロキシカルボニルチオ)エチル]ジチオカーボネート(化学式(9))であることを確認した。1H−NMR、13C−NMR及びIRの結果をそれぞれ図1〜3に示す。
【0073】
実施例2:BADTCの硬化反応
実施例1で得られたBADTC(2.500g)に、ラジカル重合開始剤である1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(日本油脂社製,商品名:パーヘキサTMH,0.010g)を加え、2枚のガラス板とスペーサーとしてのシリコンチューブからなる厚さ4mmの型に流し込んだ。これをオーブンに入れ、70℃で7時間加熱し、次いで10時間かけて90℃に昇温し、更に3時間かけて120℃まで昇温し、そのまま120℃で2時間加熱するという硬化温度プログラムで熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性(屈折率、アッベ数及びバーコル硬度)を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0074】
実施例3:BADTCとトリメチロールプロパントリメタクリレートとの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(2.375g)とトリメチロールプロパントリメタクリレート(東京化成工業社製,0.125g)との混合物に、ラジカル重合開始剤であるt−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日本油脂社製,商品名:パーヘキシルO,0.075g)とパーヘキサTMH(0.025g)を加え、実施例1と同様の型及び硬化温度プログラムで熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0075】
実施例4:BADTCとイソフタル酸ジアリルとの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(1.803g)とイソフタル酸ジアリル(0.203g)との混合物に、ラジカル重合開始剤である1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日本油脂社製,商品名:パーオクタO,0.061g)とパーヘキサTMH(0.020g)を加え、2枚のガラス板とスペーサーとしてのシリコンチューブからなる厚さ4mmの型に流し込んだ。これをオーブンに入れ、60℃から120℃まで16時間かけて昇温し、そのまま2時間加熱するという硬化温度プログラムで熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0076】
実施例5:BADTCと1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリルとの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(1.807g)と1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル(0.202g)との混合物に、パーオクタO(0.066g)とパーヘキサTMH(0.020g)を加え、実施例4と同じ型及び硬化温度プログラムを用いて熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0077】
実施例6:BADTCとイソボルニルメタクリレートとの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(1.907g)とイソボルニルメタクリレート(共栄社化学社製 商品名:ライトエステルIB−X,0.105g)との混合物に、パーオクタO(0.065g)とパーヘキサTMH(0.023g)を加え、実施例4と同じ型及び硬化温度プログラムを用いて熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0078】
実施例7:BADTCとジシクロペンタニルメタクリレートとの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(1.900g)とジシクロペンタニルメタクリレート(日立化成工業社製 商品名:FA−513M,0.101g)との混合物に、パーオクタO(0.064g)とパーヘキサTMH(0.023g)を加え、実施例4と同じ型及び硬化温度プログラムを用いて熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0079】
実施例8:BADTCとアリルエステルオリゴマー−1との共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(1.801g)とアリルエステルオリゴマー−1{下記化学式(10)の混合物、n=0(モノマー)が40質量%、n=1以上が60質量%}(0.206g)との混合物に、パーオクタO(0.064g)とパーヘキサTMH(0.029g)を加え、実施例4と同じ型及び硬化温度プログラムを用いて熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【化11】

【0080】
なお、アリルエステルオリゴマー−1は以下のようにして製造した。
蒸留装置のついた3リットル三ツ口フラスコにイソフタル酸ジアリル1500.0g(6.09mol)、プロピレングリコール154.5g(2.03mol)、ジブチル錫オキシド1.50gを仕込んで窒素気流下、180℃で加熱して生成してくるアリルアルコールを留去した。アリルアルコールが140g程度留出したところで、反応系内を1.33kPaまで減圧にし、アリルアルコール留出速度を速めた。理論量(235.9g)のアリルアルコールが留去した後、更に180℃/0.13kPaで1時間保持した後、反応器を冷却して、アリルエステルオリゴマー−1を1420.1g得た。
【0081】
実施例9:BADTCとアリルエステルオリゴマー−2との共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(1.802g)とアリルエステルオリゴマー−2{下記化学式(11)の混合物、n=0(モノマー)が45質量%、n=1以上が55質量%}(0.203g)との混合物に、パーオクタO(0.064g)とパーヘキサTMH(0.021g)を加え、実施例4と同じ型及び硬化温度プログラムを用いて熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【化12】

【0082】
なお、アリルエステルオリゴマー−2は以下のようにして製造した。
蒸留装置のついた3リットル三ツ口フラスコに1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル1500.0g(5.95mol)、トリメチロールプロパン177.3g(1.32mol)、ジブチル錫オキシド1.50gを仕込んで窒素気流下、180℃で加熱して生成してくるアリルアルコールを留去した。アリルアルコールが138g程度留出したところで、反応系内を1.33kPaまで減圧にし、アリルアルコール留出速度を速めた。理論量(230.2g)のアリルアルコールが留去した後、更に180℃/0.13kPaで1時間保持した後、反応器を冷却して、アリルエステルオリゴマー−2を1448.5g得た。
【0083】
実施例10:BADTCとアリルエステルオリゴマー−3との共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(1.808g)とアリルエステルオリゴマー−3{下記化学式(12)で示される混合物n=0(モノマー)が40質量%、n=1以上が60質量%}(0.212g)との混合物に、パーオクタO(0.061g)とパーヘキサTMH(0.022g)を加え、実施例4と同じ型及び硬化温度プログラムを用いて熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【化13】

【0084】
なお、アリルエステルオリゴマー−3は以下のようにして製造した。
蒸留装置のついた3リットル三ツ口フラスコにイソフタル酸ジアリル1500g(6.09mol)、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジブロモフェニル]プロパン554.7g(0.88mol)、ジブチル錫オキシド1.50gを仕込んで窒素気流下、180℃で加熱して生成してくるアリルアルコールを留去した。アリルアルコールが61g程度留去したところで、反応系内を1.33kPaまで減圧にし、アリルアルコール留出速度を速めた。理論量(102.0g)のアリルアルコールが留去した後、更に180℃/0.13kPaで1時間保持した後、反応器を冷却して、アリルエステルオリゴマー−3を1954.2g得た。
【0085】
実施例11:BADTCとトリメリット酸トリアリルとの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(1.907g)とトリメリット酸トリアリル(和光純薬工業社製,0.103g)との混合物に、パーオクタO(0.061g)とパーヘキサTMH(0.022g)を加え、実施例4と同じ型及び硬化温度プログラムを用いて熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0086】
実施例12:BADTCとイソシアヌル酸トリアリルとの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(1.803g)とイソシアヌル酸トリアリル(和光純薬工業社製,0.201g)との混合物に、パーオクタO(0.061g)とパーヘキサTMH(0.025g)を加え、実施例4と同じ型及び硬化温度プログラムを用いて熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0087】
実施例13:BADTCとマレイン酸ジアリルとの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(1.806g)とマレイン酸ジアリル(0.202g)との混合物に、パーオクタO(0.062g)とパーヘキサTMH(0.023g)を加え、実施例4と同じ型及び硬化温度プログラムを用いて熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0088】
実施例14:BADTCとメタクリル酸アリルとの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(4.759g)とメタクリル酸アリル(和光純薬工業社製、0.256g)との混合物に、パーオクタO(0.150g)とパーヘキサTMH(0.053g)を加え、実施例4と同じ型及び硬化温度プログラムを用いて熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0089】
実施例15:BADTC、アリルエステルオリゴマー−2、メタクリル酸アリルの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(4.251g)とアリルエステルオリゴマー−2(0.509g)、メタクリル酸アリル(0.251g)との混合物に、パーオクタO(0.151g)とパーヘキサTMH(0.060g)を加え、実施例4と同じ型及び硬化温度プログラムを用いて熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0090】
実施例16:BADTC、アリルエステルオリゴマー−1、メタクリル酸アリルの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(4.251g)とアリルエステルオリゴマー−1(0.501g)、メタクリル酸アリル(0.257g)との混合物に、パーオクタO(0.154g)とパーヘキサTMH(0.053g)を加え、実施例4と同じ型及び硬化温度プログラムを用いて熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0091】
実施例17:BADTC、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、メタクリル酸アリルの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(4.259g)と1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル(0.252g)、メタクリル酸アリル(0.264g)との混合物に、パーオクタO(0.155g)とパーヘキサTMH(0.057g)を加え、実施例4と同じ型及び硬化温度プログラムを用いて熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0092】
実施例18:BADTC、アリルエステルオリゴマー−2、マレイン酸ジアリルの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(4.504g)とアリルエステルオリゴマー−2(0.256g)、マレイン酸ジアリル(0.251g)との混合物に、パーオクタO(0.151g)とパーヘキサTMH(0.053g)を加え、実施例4と同じ型及び硬化温度プログラムを用いて熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0093】
実施例19:BADTC、CR−39の共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(1.810g)とCR−39(PPG社製、0.201g)との混合物に、パーオクタO(0.065g)とパーヘキサTMH(0.022g)を加え、実施例4と同じ型及び硬化温度プログラムを用いて熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0094】
実施例20:BADTC、イソフタル酸ジアリル、メタクリル酸ベンジルの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(1.802g)とイソフタル酸ジアリル(0.104g)、メタクリル酸ベンジル(和光純薬工業社製,0.102g)との混合物に、パーオクタO(0.062g)とパーヘキサTMH(0.020g)を加え、実施例4と同じ型及び硬化温度プログラムを用いて熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0095】
実施例21:BADTC、アリルエステルオリゴマー−2、メタクリル酸ベンジルの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(1.906g)とアリルエステルオリゴマー−2(0.093g)、メタクリル酸ベンジル(0.018g)との混合物に、パーオクタO(0.062g)とパーヘキサTMH(0.026g)を加え、実施例4と同じ型及び硬化温度プログラムを用いて熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0096】
実施例22:BADTC、アリルエステルオリゴマー−4、メタクリル酸アリルの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(2.250g)とアリルエステルオリゴマー−4{下記化学式(13)で示される化合物、ただし、n=0(モノマー)が40質量%、n=1以上が60質量%}(0.600g)、メタクリル酸アリル(0.150g)との混合物に、パーオクタO(0.090g)とパーヘキサTMH(0.030g)を加え、実施例4と同じ型に入れ、45℃から120℃まで16時間かけて昇温し、そのまま2時間加熱するという硬化温度プログラムで熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【化14】

【0097】
なお、アリルエステルオリゴマー−4は以下のようにして製造した。
蒸留装置のついた1リットル三ツ口フラスコにテレフタル酸ジアリル400.04g(1.624mol)、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジブロモフェニル]プロパン146.68g(0.23mol)、ジブチル錫オキシド0.127gを仕込んで窒素気流下、180℃で加熱して生成してくるアリルアルコールを留去した。アリルアルコールが13.7g程度留去したところで、反応系内を1.33kPaまで減圧にし、アリルアルコール留出速度を速めた。理論量(27.0g)のアリルアルコールが留去した後、更に180℃/0.13kPaで1時間保持した後、反応器を冷却して、アリルエステルオリゴマー−4を519.0g得た。
【0098】
実施例23:BADTC、シアヌル酸トリアリルの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(2.550g)とシアヌル酸トリアリル(和光純薬工業社製、0.450g)の混合物に、パーオクタO(0.090g)とパーヘキサTMH(0.030g)を加え、実施例22と同様にして熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0099】
実施例24:BADTC、シアヌル酸トリアリル、メタクリル酸アリルの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(2.550g)とシアヌル酸トリアリル(0.300g)とメタクリル酸アリル(0.150g)の混合物に、パーオクタO(0.091g)とパーヘキサTMH(0.030g)を加え、実施例22と同様にして熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0100】
実施例25:BADTC、ジビニルベンゼン、マレイン酸ジアリルの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(1.500g)とジビニルベンゼン(和光純薬工業社製,0.100g)とマレイン酸ジアリル(0.399g)の混合物に、パーオクタO(0.060g)とパーヘキサTMH(0.020g)を加え、実施例22と同様にして熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0101】
実施例26:BADTC、ジビニルベンゼン、メタクリル酸アリルの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(1.700g)とジビニルベンゼン(0.100g)とメタクリル酸アリル(0.201g)の混合物に、パーオクタO(0.060g)とパーヘキサTMH(0.019g)を加え、実施例22と同様にして熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0102】
実施例27:BADTC、メタクリル酸アリル、マレイン酸ジアリルの共重合組成物の硬化
実施例1で得られたBADTC(2.549g)とメタクリル酸アリル(0.015g)、マレイン酸ジアリル(0.301g)の混合物に、パーオクタO(0.090g)とパーヘキサTMH(0.030g)を加え、実施例22と同様にして熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0103】
実施例28:BADTCの硬化
実施例1で得られたBADTC(2.000g)に、パーオクタO(0.060g)パーヘキサTMH(0.020g)を加え、実施例4と同じ型および硬化温度プログラムを用いて熱硬化させた。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0104】
実施例29:BADTC、アリルエステルオリゴマー−2、メタクリル酸アリルの共重合組成物のレンズ成形
実施例1で得られたBADTC(21.20g)とアリルエステルオリゴマー−2(2.550g)、メタクリル酸アリル(1.250g)との混合物に、パーオクタO(0.750g)とパーヘキサTMH(0.250g)を加え、均一となるまで撹拌した。得られた組成物をガラス製のモールド、樹脂製ガスケットからなる度数−2.00のレンズ型に注入し、実施例15と同じ硬化温度プログラムを用いて熱硬化させた。硬化後、レンズ型をはずし、レンズ状成形体を得た。
【0105】
比較例1:ビス(アリロキシカルボニルチオエチル)スルフィドの硬化
特開平10−175947号公報(特許文献4)の[0025]段落の実施例1に基づき、化学式(14)で示される化合物:ビス(アリロキシカルボニルチオエチル)スルフィドを合成した。
【化15】

【0106】
このビス(アリロキシカルボニルチオエチル)スルフィド(2.500g)に、パーヘキサTMH(0.100g)を加え、加温しながら2枚のガラス板とスペーサーとしてのシリコンチューブからなる厚さ4mmの型に流し込んだ。これをオーブンに入れ、70℃で7時間加熱し、次いで10時間かけて90℃に昇温し、更に3時間かけて120℃まで昇温し、そのまま120℃で2時間加熱するという硬化温度プログラムで熱硬化させた。
この結果得られた黄色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0107】
比較例2:ビス(アリロキシカルボニルチオエチル)スルフィドの硬化
比較例1のビス(アリロキシカルボニルチオエチル)スルフィド(2.000g)に、パーオクタO(0.060g)パーヘキサTMH(0.020g)を加え、実施例4と同じ型および硬化温度プログラムを用いて熱硬化させた。得られた硬化物はゴム状であった。
この結果得られた無色透明な硬化物の物性を測定した。樹脂組成を表1に、物性の測定結果を表2に示す。
【0108】
【表1】

【表2】

【0109】
表1及び表2中で使用した略語は以下の通りである。
BADTC:S,S'−ビス[2−(アリロキシカルボニルチオ)エチル]ジチオカーボネート
TMPTMA:トリメチロールプロパントリメタクリレート
DAIP:イソフタル酸ジアリル
H−DATP:1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル
IBMA:イソボルニルメタクリレート
DCPMA:ジシクロペンタニルメタクリレート
AEO−1〜4:アリルエステルオリゴマー−1〜4
TAT:トリメリット酸トリアリル
TAIC:イソシアヌル酸トリアリル
DAM:マレイン酸ジアリル
AMA:メタクリル酸アリル
CR−39:ジエチレングリコールビスアリルカーボネート
BzMA:メタクリル酸ベンジル
TAC:シアヌル酸トリアリル
DVB:ジビニルベンゼン
ACS:ビス(アリロキシカルボニルチオエチル)スルフィド
HO:パーへキシルO
OO:パーオクタO
TMH:パーヘキサTMH
【0110】
結果の通り、本発明のラジカル重合性化合物及び光学材料用組成物から得られた硬化物はすべて無色透明であり、屈折率も高く、光学材料として有用である。一方、比較例1の硬化物は屈折率とアッベ数とのバランスが悪く、しかも着色も見られた。比較例2の硬化物は硬質ゴム状であった。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のジチオカーボネート構造及び含硫黄アリルカーボネート基を有するラジカル重合性化合物は熱硬化反応時に安定で着色が少なく、高屈折率で透明性に優れた光学材料を与える。
本発明の光学材料用組成物の硬化物は眼鏡レンズ、カメラレンズなどの光学レンズ、光導波路、光学用封止剤、光学用接着剤、光学フィルム、プリズム、液晶パネル用導光板、光ファイバー、透明パネル、透明フィルム、透明板等の光学材料として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】実施例1で得られたS,S'−ビス[2−(アリロキシカルボニルチオ)エチル]ジチオカーボネートの1H−NMRスペクトルである。
【図2】実施例1で得られたS,S'−ビス[2−(アリロキシカルボニルチオ)エチル]ジチオカーボネートの13C−NMRスペクトルである。
【図3】実施例1で得られたS,S'−ビス[2−(アリロキシカルボニルチオ)エチル]ジチオカーボネートのIRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、X及びYはそれぞれ独立して炭素数1〜10の分岐していてもよいアルキレン基、アリーレン基及びシクロアルキレン基よりなる群から選ばれる2価の基を表す。)で示されるラジカル重合性化合物。
【請求項2】
前記一般式(1)中のX及びYがメチレン基、エチレン基、1,2−プロピレン基または1,3−プロピレン基である請求項1記載のラジカル重合性化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)中のR1及びR2が水素原子である請求項1または2に記載のラジカル重合性化合物。
【請求項4】
一般式(2)
【化2】

(式中、Lは炭素数1〜10の分岐していてもよいアルキレン基、アリーレン基及びシクロアルキレン基よりなる群から選ばれる2価の基を表す。)で示されるジチオールを塩基存在下、一般式(3)
【化3】

(式中、R4は水素原子またはメチル基を表し、Zは塩素原子または臭素原子を表す。)で示されるハロゲン化ギ酸(メタ)アリルと反応させて、一般式(4)
【化4】

(式中の記号は前記と同じ意味を表す。)で示されるチオール化合物を得た後、更にN,N'−カルボニルジイミダゾールと反応させることを特徴とする一般式(1)
【化5】

(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、X及びYはそれぞれ独立して炭素数1〜10の分岐していてもよいアルキレン基、アリーレン基及びシクロアルキレン基よりなる群から選ばれる2価の基を表す。)で示されるラジカル重合性化合物の製造方法。
【請求項5】
前記一般式(1)中のX及びYがメチレン基、エチレン基、1,2−プロピレン基または1,3−プロピレン基である請求項4記載のラジカル重合性化合物の製造方法。
【請求項6】
前記一般式(1)中のR1及びR2が水素原子である請求項4または5に記載のラジカル重合性化合物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載のラジカル重合性化合物を原料モノマーの一種とする重合体または共重合体。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載のラジカル重合性化合物と他のラジカル重合性化合物との共重合体である請求項7に記載の共重合体。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載のラジカル重合性化合物とメタクリル酸アリル及び/またはマレイン酸ジアリルとの共重合体である請求項8に記載の共重合体。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれかに記載のラジカル重合性化合物を含有する光学材料用重合性組成物。
【請求項11】
さらに他のラジカル重合性化合物を含有する請求項10に記載の光学材料用重合性組成物。
【請求項12】
他のラジカル重合性化合物が少なくともメタクリル酸アリル及び/またはマレイン酸ジアリルである請求項11に記載の光学材料用重合性組成物。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれかに記載の光学材料用重合性組成物の硬化物。
【請求項14】
請求項13に記載の硬化物を含む光学材料用成形体。
【請求項15】
レンズ、光導波路、フィルム、プリズム、平板またはファイバーからなる群より選択される請求項14に記載の光学材料用成形体。
【請求項16】
請求項10〜12のいずれかに記載の光学材料用重合性組成物を硬化してなるレンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−285644(P2008−285644A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301448(P2007−301448)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】