説明

ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートの製造

ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンおよびテトラフルオロエチレンカーボネートが、元素フッ素と、より低いフッ素化度を有するエチレンカーボネートまたはフッ素化エチレンカーボネートとの間の反応によって製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
2009年9月28日に出願された欧州特許出願第09171491.5号(その内容を参照によって本願明細書に組み入れるものとする)の利益を請求する本発明は、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、シスまたはトランス4,5−ジフルオロエチレンカーボネートまたは4,4−ジフルオロエチレンカーボネートを元素フッ素と反応させることによるジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートの製造方法、そして同様に、トリフルオロエチレンカーボネートを元素フッ素と反応させることによるテトラフルオロエチレンカーボネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートは、リチウムイオンバッテリのための溶剤および添加剤として、およびキャパシタのための誘電体として有用である。(特許文献1)には、ジフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートはキャパシタのための誘電体として適しており、フッ素化によってエチレンカーボネートから製造されうることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−222485号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよび/またはテトラフルオロエチレンカーボネートの本発明による製造方法は、
a)エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、シス−4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、トランス−4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、またはそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される、より低いフッ素化度を有する出発原料が元素フッ素(F)と液相中で反応させられてトリフルオロエチレンカーボネートを形成する工程、
b)エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、シス−4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、トランス−4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートまたはそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される、より低いフッ素化度を有する出発原料が元素フッ素(F)と液相中で反応させられてテトラフルオロエチレンカーボネートを形成する工程、または
c)エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、またはそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される、より低いフッ素化度を有する出発原料が元素フッ素(F)と液相中で反応させられてジフルオロエチレンカーボネートを形成する工程を含む。
【0005】
元素フッ素による指定された出発原料のフッ素化は、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートを製造する適した方法であることが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0006】
好ましい実施形態において、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートの製造は、
d)エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、シス−4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、トランス−4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、またはそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される、より低いフッ素化度を有する出発原料が元素フッ素(F)と液相中で反応させられてトリフルオロエチレンカーボネートを形成する工程、
e)エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、シス−4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、トランス−4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートまたはそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される、より低いフッ素化度を有する出発原料が元素フッ素(F)と液相中で反応させられてテトラフルオロエチレンカーボネートを形成する工程、
f)エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、またはそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される、より低いフッ素化度を有する出発原料が元素フッ素(F)と液相中で反応させられてジフルオロエチレンカーボネートを形成する工程を含み、反応は、
I)周囲圧力よりも高い圧力においておよび/または
II)凝縮器または冷却トラップもしくは両方をオフガスライン内で用いて行なわれる。
【0007】
この好ましい実施形態によって行なわれる場合、収率がすぐれている。
【0008】
もちろん、この方法がジフルオロエチレンカーボネートまたはトリフルオロエチレンカーボネートの製造を目的としている場合、常に、トリ−またはテトラフルオロエチレンカーボネートなどのいくつかのより高フッ素化生成物が後続のフッ素化工程において製造される。
【0009】
1つの実施形態によって、反応は、周囲圧力よりも高い圧力において行なわれる。これは、好ましい実施形態であり、後で詳細に説明される。
【0010】
別の実施形態によって、凝縮器はオフガスライン内に配置される。この凝縮器によって、オフガス中に同伴される三−または四フッ素化カーボネートのかなりの部分または全てを回収することができる。しばしば、通常においても、元素フッ素は、希釈された形態で反応混合物中に導入される。好ましい希釈剤は窒素であるが、他の不活性ガス、例えば貴ガスも同様に希釈剤として使用することができる。フッ素が反応混合物中のカーボネート化合物と反応する間、窒素(またはいずれかの他の不活性ガス)はオフラインで反応器を出る。主に窒素からなるガス流が、若干の有機物、特にかなり揮発物性のジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネート(2つの鏡像異性体)およびテトラフルオロエチレンカーボネートを同伴することを本願発明者は見出した。オフガスは通常は、水または酸性もしくは塩基性水溶液と共に運転される洗浄器またはスクラバー内で処理されるので、そしてジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートは加水分解を受けやすいことが明らかになったので、本発明の1つの実施形態によって、凝縮器は、廃ガスのためにオフライン内に配置される。凝縮されたガス成分が反応混合物中に戻るように凝縮器を反応器の上部にまたは上部付近に配置することが好ましい。凝縮器を冷却水または冷却液と一緒に運転することができる。本質的に全てのジ−、トリ−およびテトラフルオロエチレンカーボネートが凝縮されて反応器に戻るように温度が調節される。凝縮器の温度は技術的に可能な限り低くできる。例えば、クリオマート(cryomates)は、約−100℃まで低い温度の冷却液を提供することができる。冷却液の温度は好ましくは−80℃〜5℃の範囲である。
【0011】
あるいは、1つまたは複数の冷却トラップがオフガスライン内に配置される。トラップの内容物は、主にジ−、トリ−およびテトラフルオロエチレンカーボネートおよび若干のフッ化水素を含有する。内容物を、蒸留によって分離し、それぞれの高純度有機カーボネートを回収することができる。液体窒素で冷却された1つまたは複数のトラップを用いることができる。トラップの内容物を昇温するとき、トラップ内で凝縮された窒素によってシステムに過剰に圧力をかけることを避けるように注意しなければならない。トラップの温度は好ましくは−80℃〜+5℃の範囲である。もちろん、必要ならば、いくつかのトラップ、2、3またはさらに4個以上をオフガスライン内に連続的に配置することができる。好ましくは、下流のトラップは、上流のトラップよりも低い温度に維持される。例えば、トラップを+5℃、−30℃および−80℃に冷却されたオフガスライン内に連続的に配置することができる。
【0012】
高圧において反応を行なう特徴と凝縮器を使用および/またはトラップを使用する特徴とを組み合わせることもできる。凝縮器と冷却トラップとを使用する特徴を組み合わせることもできる。
【0013】
好ましい実施形態において、反応は、周囲圧力よりも高い圧力においておこなわれる。
【0014】
もちろん、トリフルオロエチレンカーボネートの製造のために、出発原料はまた、トリフルオロエチレンカーボネートも含有してよい。より低いフッ素化度を有する出発原料が、前記非フッ素化またはフッ素化カーボネートからなる群から選択されることは、もちろん、フッ素と反応しない化合物、例えば以下に記載された不活性溶剤が、必要ならば反応混合物中に存在することを除外しない。
【0015】
反応を回分式でまたは連続的に行なうことができる。トリフルオロエチレンカーボネートの選択的な製造のために、反応を反応器のカスケード中で行なうことができる。これはプロセスの選択性を改良する。
【0016】
好ましくは、反応が1バール(abs.)よりも高い圧力において行なわれる。より好ましくは、反応が2バール(abs.)以上の圧力において行なわれる。特に好ましくは、反応が3バール(abs.)以上の圧力において行なわれる。
【0017】
好ましくは、反応が20バール(abs.)以下の圧力において行なわれる。より好ましくは、反応が15バール(abs.)以下の圧力において行なわれる。特に好ましくは、反応が12バール(abs.)以下の圧力において行なわれる。好ましい圧力の範囲は4〜8バール(abs.)であり、より好ましい圧力の範囲は5〜7バール(abs.)である。
【0018】
C−H結合とFとの反応の間に形成される各C−F結合のために1個のHF分子が形成されることに留意しなければならない。したがって、エチレンカーボネートとフッ素(F)との間の化学量論反応を仮定すると、4のF/H比が必要とされ、すなわち1モルのエチレンカーボネートが出発原料として使用される場合、4モルのFが、エチレンカーボネートの完全なフッ素化を達成するために化学量論的に必要とされる。したがって、本発明において、F/Hの比は、C−F結合を形成するために置換されるカーボネート出発原料のH原子1個に対するFの分子数を示す。
【0019】
概して、反応は、出発原料の融点以上の温度〜80℃以下の温度において行なわれてもよい。好ましい反応温度は以下に示される。
【0020】
1つの実施形態によって、エチレンカーボネートが元素フッ素と反応させられ、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートまたはテトラフルオロエチレンカーボネートを生じる。反応の開始時の温度は、40℃以上でありうる。所望の生成物の選択性および量を改良するために、反応混合物の温度は反応の進行中に低下されうる。反応は好ましくは0℃以上の温度において行なわれる。より好ましくは、それは10℃以上の温度において行なわれる。好ましくは、反応は50℃以下の温度において行なわれる。より好ましくは、それは45℃以下の温度において行なわれ、さらにより好ましくは、35℃以下の温度において行なわれる。
【0021】
/H比は、エチレンカーボネートからトリフルオロエチレンカーボネートを製造することが意図される場合、好ましくは3以上である。それは好ましくは4以下である。
【0022】
テトラフルオロエチレンカーボネートがエチレンカーボネートとFとの間の反応によって製造される場合、F/H比は好ましくは4以上である。それは好ましくは6以下である。
【0023】
第2の実施形態によって、フルオロエチレンカーボネートが元素フッ素と反応させられ、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートまたはテトラフルオロエチレンカーボネートを形成する。反応の開始時の温度は25℃以上でありうる。所望の生成物の選択性および量を改良するために、反応混合物の温度は反応の進行中に低下されうる。反応は好ましくは0℃以上の温度において行なわれる。より好ましくは、それは10℃以上の温度において行なわれる。好ましくは、それは50℃以下の温度において行なわれる。より好ましくは、それは45℃以下、さらにより好ましくは、35℃以下の温度において行なわれる。
【0024】
/H比は、フルオロエチレンカーボネートからトリフルオロエチレンカーボネートを製造することが意図される場合、好ましくは2以上である。それは好ましくは4以下である。この実施形態において、テトラフルオロエチレンカーボネートが製造される場合、F/H比は好ましくは3以上である。それは好ましくは5以下である。
【0025】
第3の実施形態によって、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート(シス異性体、トランス異性体またはシスおよびトランス異性体)またはそれらの混合物が元素フッ素と反応させられる。反応は好ましくは、混合物の融点以上の温度において行なわれる。より好ましくは、それは0℃以上の温度において行なわれる。好ましくは、それは50℃以下の温度において行なわれる。より好ましくは、それは45℃以下の温度、さらにより好ましくは35℃以下において行なわれる。
【0026】
/H比は、トリフルオロエチレンカーボネートがジフルオロエチレンカーボネートのいずれかから製造される場合、好ましくは1以上である。それは好ましくは3以下である。テトラフルオロエチレンカーボネートが製造される場合、F/H比は好ましくは2以上である。それは好ましくは4以下である。
【0027】
第4の実施形態によって、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、シス−4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、トランス−4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、およびトリフルオロエチレンカーボネートの2つ以上を含有する出発原料混合物が使用される。トリフルオロエチレンカーボネートが製造される場合、トリフルオロエチレンカーボネートが存在してもよいが、テトラフルオロエチレンカーボネートへのさらなる反応の程度を低減するためにこの化合物が存在しないかまたは少量においてだけ存在する場合、好ましい。C−F結合によって置換される各々のC−H結合のために、好ましくは、Fの1〜1.5分子が用いられる。
【0028】
エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、およびジフルオロエチレンカーボネートの異性体を含有する混合物は、出発原料として使用可能であり、例えば、より低いフッ素化エチレンカーボネートの製造プロセスにおいて得られたボイラー低留分、ボイラー高留分またはボイラー高留分残渣であるそれらの混合物である。元素フッ素(F)は、必要ならば、ニートの形態で適用されうる。この場合、反応温度は好ましくは、フッ素化反応による高い発熱のために、上に与えられた範囲の低い側の領域に維持される。
【0029】
好ましくは、反応にフッ素が希釈された形態で導入される。好ましい希釈ガスは窒素であるが、必要ならば、貴ガス、例えばヘリウムおよび/またはアルゴンを希釈ガスまたは付加的な希釈ガスとして用いることができる。1:99〜99:1の範囲のFと不活性ガスとのいずれの体積比も適しているが、フッ素と不活性ガスとの混合物中フッ素の2〜50体積%の濃度が非常に適している。元素フッ素と窒素との混合物が好ましい。フッ素の濃度は0体積%より大きい。それは好ましくは5体積%以上である。それはより好ましくは12体積%以上である。フッ素の濃度は好ましくは25体積%以下である。好ましくは、それは18体積%以下である。
【0030】
上に与えられた反応温度および圧力は、反応の間、変化されうる。例えば、エチレンカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネートまたはそれらの混合物が出発原料として使用されるとき、反応温度は、より低いフッ素化度を有するカーボネートの反応性が高めなので、与えられた範囲の低い側の領域において選択されるのが好ましい。
【0031】
トリフルオロエチレンカーボネートの製造が促進されるように、フッ素と出発原料との間の反応を制御することができる。ここで、フッ素と出発原料との間のモル比は、全てのエチレンカーボネートまたはフルオロ置換エチレンカーボネートをトリフルオロエチレンカーボネートに変換するために必要とされた化学量論量を超えないように選択される。さらに、圧力は、低い側の範囲、例えば1より大きく約6バール(abs)までの範囲に維持されてもよい。これは、トリフルオロエチレンカーボネートの一部を反応混合物から蒸発させ、したがって、さらにフッ素化されるのを避けることができる。
【0032】
主にテトラフルオロエチレンカーボネートを製造することが意図される場合、フッ素と出発原料との間のモル比は、全てのC−H結合をC−F結合によって置換することができるようなモル比である。さらに、圧力は高い側の範囲、例えば5〜12バール(abs.)の範囲に維持されてもよく、これは、トリフルオロエチレンカーボネートを過剰にならないように蒸発させ、したがって、過フッ素化されるのを避けるためである。
【0033】
必要ならば、出発原料とフッ素との間の反応は、溶剤の存在下で行なわれる。適した溶剤は、フッ素と反応して望ましくない副産物を形成しない溶剤である。直鎖または環状ペルフルオロカーボン、例えば、商標Galden(登録商標)およびFomblin(登録商標)としてSolvay Solexisによって販売されたフッ素化エーテルの他、テトラフルオロエチレンカーボネートまたはフッ化水素を溶剤として適用することができる。
【0034】
好ましい実施形態において、反応は、溶剤を用いずに行なわれる。したがって、反応は好ましくは、ニートの、希釈されていないカーボネートを用いて行なわれる。
【0035】
出発原料と、フッ素ガスまたはフッ素ガスと不活性ガスとの混合物とを十分に混合することが有利である。例えば、好ましいF/N混合物がフリットで反応混合物中に導入され、液体出発原料または反応混合物中に小さな気泡を十分に分散させるのを可能にする。あるいは、米国特許第7,268,238号明細書に記載されているようにフッ素ガスまたはフッ素ガス含有ガス混合物を出発原料または反応混合物と接触させることができる。反応混合物は循環させられ、液体と気体反応体との間の接触は、反応器内のパッキングによって改良される。
【0036】
反応混合物と水とを接触させて一切のHFおよび他の水溶性不純物を除去することによってワークアップを行なうことができる。次いで、得られた予備精製された反応混合物を、場合により、例えばこの目的のために用いられた塩上で、例えば硫酸マグネシウム上で乾燥後に、次いで蒸留して所望の高純度ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートまたはテトラフルオロエチレンカーボネートを得る。ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートは加水分解を受けやすいことに留意しなければならない。
【0037】
あるいは、反応混合物は蒸留される。場合により、例えば反応混合物を不活性ガスでストリッピングすることによって蒸留前にHFを除去する。窒素はストリッピングガスとして非常に適しているが、アルゴンまたはヘリウムもしくは窒素とそれらの混合物も同様に使用することができる。少量のHFをNaFまたはKFで吸収することによって除去することができる。
【0038】
ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートの製造方法は、形成されたジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートがガラスおよびルイス酸、特に、ガラス中に存在するかまたはHFと接触するガラスの成分から形成されるルイス酸と接触しないように行なわれるのが好ましい。
【0039】
ガラスまたはセラミックはSi−O結合を含有する。ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートは加水分解を受けやすい。Si−O結合を有するガラスおよびセラミックは、HFが水およびSiFの形成下で反応するので、しばしばフッ化水素に感受性がある。上述のように、水は、トリ−およびテトラフルオロエチレンカーボネートの加水分解を引き起こす。おそらく、ガラス物品に付着するかまたはフッ素化カーボネート中の非常に微量の水またはHFを排除することができないので、上に記載されたような反応が起こる場合がある。ガラス中に含有されたルイス酸またはルイス酸前駆物質は遊離しており、HFと反応する。例えば、酸化アルミニウムは多くのガラス中に含有され、HFと接触する時にAl−F結合を形成する。得られた成分はルイス酸であり、トリ−およびテトラフルオロエチレンカーボネートの分解を促進すると考えられる。また、トリ−およびテトラフルオロエチレンカーボネートと、ルイス酸前駆物質を含有する金属との接触は避けられるべきであると考えられる。
【0040】
したがって、ルイス酸前駆物質を含有するガラス部品、セラミック部品または金属または金属合金部品(例えば、アルミニウムまたはアルミニウム含有合金)を含有し、HFに耐性でなく、トリ−またはテトラフルオロエチレンカーボネートと接触しうるかまたは予想される装置中では本発明の方法を行なわないのが好ましい。HF耐性金属またはポリマー材料から製造された部品だけを含有する装置内で本発明の方法を行なうことが好ましい。ステンレス鋼や、インコネルまたはハステロイのようなHF耐性合金から製造された部品が好ましく、適したポリマーは、例えば、部分的にフッ素化されるかまたは過フッ素化されたポリマー、ならびにポリアルキレンポリマーおよび他のタイプのポリマーである。例えば、PFA(ペルフルオロアルコキシアルカンコポリマー)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PE(ポリエチレン)、またはPVDF(ポリビニリデンジフルオリド)が非常に適している。他のポリマーの適性を容易に検査することができる。好ましくは、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートと接触する反応器、パイプ、ストリッピング装置、蒸留塔、貯蔵タンク、および他の物品は、ステンレス鋼、インコネル、ハステロイまたは他の耐性材料、もしくは前記ポリマー材料から製造されるか、またはそれで内側を覆われる。用語「耐性(resistant)」は、望ましくない方法でジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートと反応しない材料を意味する。
【0041】
上に記載されたように、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートは、それらの製造中に好ましくは、これらの化合物の分解を引き起こさない部品とだけ接触させる。別の実施形態において、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートは、それらの製造中にだけでなく、それらの製造時点から例えばバッテリ溶剤としてそれらが用いられるまで、貯蔵、パッケージング、輸送、付加的な精製工程、電解質混合物または電解質溶液の他の成分との混合、例えば、場合によりLi塩、例えばLiPFなども含めて、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートとのそれらの混合を含めて、この方法で取り扱われる。
【0042】
用語「取り扱い(handling)」は、化合物が製造によって存在する時から始まりそれらが一切の技術的な使用目的を失う時まで、すなわちもはや用いられず、すぐに破壊、投棄できるかまたは別の方法で技術的に役に立たなくなる時までの化合物のライフサイクルの一切の工程を意味する。用語「取り扱い」は特に、化合物の製造、化合物の貯蔵、およびそれらが使用される一切の工程を包含する。用語「取り扱い」は、カーボネートをそれらの製造または使用中にパイプ、弁、混合装置中に送り、それらまたはそれらを含有する混合物をバッテリ筐体に充填する等々を包含する。
【0043】
本発明の方法は、容易かつ信頼できる方法でジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートの製造を可能にする。好ましい実施形態において、ジフルオロエチレンカーボネートの選択的な製造、トリフルオロエチレンカーボネートの選択的な製造およびテトラフルオロエチレンカーボネートの選択的な製造が可能である。
【0044】
ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートをリチウムイオンバッテリのための添加剤として適用することができる。それらは半導体、フラットパネルディスプレイおよびソーラーパネルの製造のためのエッチングガスとしても有用であることが見出された。それらは、オゾン層に影響を与えず、水の存在下で加水分解する傾向があるので、それらのGWPは非常に低いと推定される。それらを例えば未公開PCT特許出願PCT/EP2009/058996号(その内容を本願に完全に組み込む)に記載されているのと類似した方法で適用することができる。それらは通常、比較的低圧においてプラズマ装置内で適用される。場合により、それらは、窒素、ヘリウム、アルゴン、キセノンまたは他の添加ガスまたは希釈ガスで希釈される)。ヘリウムおよび特に窒素が主希釈ガスである。アルゴンおよびキセノンは、フッ素化不飽和C4化合物を希釈するがエッチングプロセスの選択性に影響を与えることもありうる添加ガスである。
【0045】
しばしば、プラズマチャンバ内の圧力は、150Pa以下である。好ましくは、圧力は1〜120Paである。
【0046】
半導体、フラットパネルディスプレイおよびTFTの製造時に物品のエッチングのプロセスにおいてこれらの化合物を使用することは、本発明の別の目的である。
【0047】
また、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートは、溶剤または合成においてのビルディングブロック、冷媒、もしくは難燃剤としても適している。
【0048】
参照によって本願に組み込まれる一切の特許、特許出願、および刊行物の開示内容が、用語を不明確にする程度まで本出願の説明と対立する場合、本願の説明が優先されるものとする。
【実施例】
【0049】
ここで本発明を実施例において説明するが、本発明をそれに限定する意図はない。
【0050】
一般的手順
ガス入口およびガス出口を有する反応器を利用した。出発原料はエチレンカーボネートであった。フッ素を、10体積%のフッ素および90体積%の窒素からなる混合物の形態で金属拡散体を通して導入した。さらに、窒素を別個に反応器に導入した。反応混合物の温度は、最低温度が20.7℃であった実施例4の場合を除いて、示された平均温度から±約7℃の範囲に維持された。反応混合物の組成は、ガスクロマトグラフィーによって定期的に定量された。データを以下の表1にまとめた。
【0051】
【表1】

【0052】
定期的に、添加されたF/Nの比体積の後、反応器中の液相(反応混合物)の組成をガスクロマトグラフィーによって分析した。
【0053】
選択された結果を表2〜7に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
【表6】

【0059】
【表7】

【0060】
次に、それぞれの粗生成物を蒸留によって分離することができる。
【0061】
表1、6および7は、反応が加圧下で行なわれる場合に収率がもっと大きくなることを示す。それぞれ、反応器圧力が0.02バールおよび2.5バールである実施例5および6の結果によって示されるように、実施例5のトリフルオロエチレン(F3EC)の量(すなわち、4.7%)は、実施例6のトリフルオロエチレン(F3EC)の量(すなわち、13.6%)よりもはるかに少ない。さらに、実施例5のトランス−FEC、4,4−FEC、およびシス−FECの全量(すなわち、67.8%)は、実施例6のトランス−FEC、4,4−FEC、およびシス−FECの全量(すなわち、74.9%)よりも少ない。それらの結果は明らかに、周囲圧力よりも高い圧力の使用がジ−、トリ−またはテトラフルオロエチレンに対する収率を高めることにつながり、また、上記の生成物の損失と同様に揮発性生成物の損失を回避できることを示す。
【0062】
実施例7:ガラス壜内のトリフルオロエチレンカーボネートの貯蔵
トリフルオロエチレンカーボネートをガラス壜内に貯蔵した。圧力増大するのが観察された。これは化合物の分解を示す。ガス空間内で、SiFを定量した。これは、壜のガラスからのSiOとHFとが反応して水およびSiFを形成することを示す。
【0063】
実施例8:アルミニウム容器内のトリフルオロエチレンカーボネートの貯蔵
トリフルオロエチレンカーボネートをアルミニウム容器内に貯蔵した。圧力形成が観察され、貯蔵された生成物の分解を示す。
【0064】
実施例9:耐圧性ガラス壜内のテトラフルオロエチレンカーボネートの貯蔵
トリフルオロエチレンカーボネートを耐圧性ガラス壜内に貯蔵する。圧力が増大するのが観察される。これは化合物の分解を示す。ガス空間内で、SiFを定量した。これは、壜のガラスからのSiOとHFとが反応して水およびSiFを形成することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよび/またはテトラフルオロエチレンカーボネートの製造方法であって、
a)エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、シス−4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、トランス−ジフルオロエチレンカーボネート、またはそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される、より低いフッ素化度を有する出発原料が元素フッ素(F)と液相中で反応させられてトリフルオロエチレンカーボネートを形成する工程、または
b)エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、シス−4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、トランス−ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートまたはそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される、より低いフッ素化度を有する出発原料が元素フッ素(F)と液相中で反応させられてテトラフルオロエチレンカーボネートを形成する工程、または
c)エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、またはそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される、より低いフッ素化度を有する出発原料が元素フッ素(F)と液相中で反応させられてジフルオロエチレンカーボネートを形成する工程を含む、方法。
【請求項2】
I)周囲圧力よりも高い圧力においておよび/または
II)凝縮器または冷却トラップもしくは両方をオフガスライン内で用いて行なわれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記出発原料と元素フッ素との間の反応が、3バール(abs.)以上の圧力において行なわれる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記出発原料と元素フッ素との間の前記反応が、12バール(abs.)以下の圧力において行なわれる、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
エチレンカーボネートまたはフルオロエチレンカーボネートが出発原料として使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、シス−4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、トランス−4,5−ジフルオロエチレンカーボネートまたはそれらのいずれかの混合物から選択されたジフルオロエチレンカーボネートが出発原料として使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、シス−4,5−ジフルオロエチレンカーボネートおよびトランス−4,5−ジフルオロエチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも2つの化合物を含有する混合物が出発原料として使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
形成されたジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートが単離され、貯蔵される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
形成されたジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートを耐性材料とだけ接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記耐性材料がステンレス鋼または有機ポリマー材料である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
半導体、フラットパネルディスプレイおよびTFTの製造のためのエッチング剤として、溶剤または合成においてのビルディングブロックとして、冷媒として、難燃剤としてまたは半導体、フラットパネルディスプレイおよびソーラーパネルの製造のためのエッチングガスとしてのジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートの使用。
【請求項12】
ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートをルイス酸またはルイス酸前駆物質と接触させない、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートを取り扱う方法。
【請求項13】
ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートをガラス、セラミック、アルミニウム部品、アルミニウム合金を含有する部品と接触させない、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートをステンレス鋼、インコネル、ハステロイまたはポリマー材料と接触させる、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリマー材料が過フッ素化される、請求項14に記載の方法。

【公表番号】特表2013−505919(P2013−505919A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530285(P2012−530285)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064221
【国際公開番号】WO2011/036283
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(592165314)ゾルファイ フルーオル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (55)
【氏名又は名称原語表記】Solvay Fluor GmbH
【住所又は居所原語表記】Hans−Boeckler−Allee 20,D−30173 Hannover,Germany