説明

ジャカード経編地とその用途

【課題】編成作業が容易で能率的に行なえ、得られたジャカード経編地が薄くて軽量になり、しかも、ジャカード経編地が有する多彩な柄組織、特性や機能の変化を良好に発揮させる。
【解決手段】ジャカード編成組織を含む、支持組織が不要な経編地であって、ジャカード編成組織が一定の繰り返し単位を有する基本組織と、前記基本組織から変化させてなる変化組織を含み、前記変化組織を含むジャカード編成組織の全ての編目位置においてループが配置されてなる、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャカード経編地とその用途に関し、詳しくは、ジャカード編成装置を用いて編成されるジャカード経編地とその用途を対象にしている。
【背景技術】
【0002】
ジャカード編成装置は、通常のトリコット編機やラッシェル編機では編成することが困難な複雑で多彩な経編地が編成できる装置である。
ジャカード編成装置の構造上の特徴は、ジャカード筬を備えていることにある。通常の筬は、基本的に1枚の筬が全てのゲージ位置で同じ動きで編成動作を行なうのに対して、ジャカード筬は、通常の筬と同じ基本動作に加えて、個々のゲージ位置毎に異なる編成動作を行なわせることができる。
通常の経編地では、一つのコースでは全てのウェールで同じ編成組織になるので、コース毎に編成組織を変えて、単純な縞模様などが編成できるだけなのに対して、ジャカード経編地では、コース毎およびウェール毎に異なる編成組織を編成させることができ、スポット状の柄組織を配置したり、文字や図形さらには絵画のような複雑な柄組織を編成したり、経編地の編方向だけでなく幅方向あるいは斜め方向で機能や特性の異なる領域を配置したりすることも可能になる。なお、ここでいう機能とは、例えば、伸縮性などの機能のことであり、特性とは、例えば、引き裂き強度や破裂強度などの特性のことである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
経編地は、基本的に全ての編目位置にループが形成されていなければ、機能や特性が安定した編地にはならない。複数の筬を用いて編成される経編地の場合は、何れか一つの筬が、全ての編目位置でループを形成する編成組織を編成する必要がある。
しかし、変化組織はコース毎に編目の位置を任意に変更する。そのため、このような変化組織を含むジャカード編成組織は、その編目位置によっては、ループが存在しない個所が生じてしまう。
そこで、従来のジャカード経編地では、ジャカード編成組織とは別に、ジャカード編成組織のループが存在しない個所でもループを形成する支持組織が必要になる。支持組織は、ジャカード機構を備えていない通常の筬である地筬で編成され、全ての編目位置にループを有している。
【0004】
そのため、従来のジャカード経編地は、ジャカード筬で編成されるジャカード編成組織と、地筬で編成される支持組織との2種類の編成組織を組み合わせなければならなかった。
上記2種類の編成組織を組み合わせるためには、2種類の編成糸を準備して、各筬に別の編成糸を供給する作業が必要であり、編成作業に手間と時間を要することになる。
2種類の編成組織が表裏で2重に重なることになるので、ジャカード経編地は生地が分厚くなり、重い生地になり易い。
特に、複数の地筬で伸縮性糸を挿入して伸縮機能を向上させようとする場合には、余計に筬の枚数が増えて、生地の厚み、重量も増大してしまうことになる。
【0005】
本発明の課題は、前記した従来のジャカード経編地が有する問題点を解消して、編成作業が容易で能率的に行なえ、得られたジャカード経編地が薄くて軽量になり、しかも、ジャカード経編地が有する多彩な柄組織、特性や機能の変化を良好に発揮させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかるジャカード経編地は、ジャカード編成装置で編成される、支持組織が不要な経編地であって、ジャカード編成組織が一定の繰り返し単位を有する基本組織と、前記基本組織から変化させてなる変化組織を含み、前記変化組織を含むジャカード編成組織の全ての編目位置において、ジャカード筬によるループが配置されてなる、ことを特徴とする。
本発明の上記各構成について以下に具体的に説明する。
〔ジャカード編成装置〕
本発明において、ジャカード編成装置は、基本的には、通常のジャカード編成装置がそのまま使用できる。
【0007】
ジャカード編成装置は、ジャカード機構を備えた筬(ジャカード筬)を備えている。
ジャカード筬の基本構造は、1枚のジャカード筬を全体として一体的に運動させる、通常の筬と同様の作動機構に加えて、1枚のジャカード筬において個々のゲージ位置毎に別々に、編成位置を一定方向に変位させるか変位させないかを、任意に選択して作動制御する機構をも備えている。ジャカード筬に特有のこのような作動機構をジャカード機構と呼ぶ。
ジャカード筬の全体作動は、パターンホイールや電子制御装置(EL機)などを用いて、一定数のコース毎に繰り返すパターン制御を行なうことができる。
【0008】
ジャカード筬のゲージ位置毎の作動制御は、予め作製された紋紙(ジャカードカード)を用いることができる。ジャカードカードには、コース毎に、各ゲージ位置での作動、すなわち、ジャカード機構の作用・非作用あるいは編成位置の変位・非変位の違いを、穿孔などによって物理的に記録されている。
ジャカードカードを使用せずに、電子的な記憶情報に基づく電子制御で、ジャカード筬の作動制御を行なうこともできる。この場合、コンピュータに入力された編成組織あるいは柄組織に関するデータから、ジャカード筬の各ゲージ位置における作動条件を演算し、その結果をジャカード筬の作動制御命令として出力することができる。
【0009】
本発明のジャカード経編地では、ジャカード筬を、常に一定の条件を満足させるように確実に作動制御させる必要があり、コンピュータに組み込まれた演算プログラムによって、ジャカード筬の作動制御を適切かつ迅速に行なうことが望ましい。
ジャカード編成装置に備えられたジャカード筬は、それぞれが通常のジャカード筬と同様のジャカード機構を備えていて、前記したゲージ位置毎の作用・非作用を制御できる。このようなジャカード筬を用いることで、本発明のジャカード経編地が編成可能になる。
なお、ジャカード筬は、フルセットで糸通しされるものであってもよいが、例えば、1イン1アウトのハーフセットで糸通しされるというように、2枚以上のジャカード筬を組み合わせることでフルセット分のジャカード編成組織が構成されるものとすれば、複数枚のジャカード筬を使用しても1枚分の生地の厚みで編成することができるため、好ましい。
【0010】
また、全てのジャカード筬が、支持組織を不要とするために用いられるものである必要はなく、本願発明のこのような主たる目的とは別の目的、例えば、複雑な柄組織を形成するために用いられるものが含まれていても良い。具体的には、例えば、3枚のジャカード筬を用いる場合に、全ての編目位置において2枚のジャカード筬によるループが配置され、残りの1枚は専ら複雑な柄組織を形成するために使用されるという場合も本願発明に含まれるということである。全ての編目位置において3枚のジャカード筬によるループが配置される場合も本願発明に含まれることは勿論である。
ジャカード編成装置には、ジャカード筬以外に、通常の筬を備えておくことができる。通常の筬とは、ジャカード機構を備えておらず、基本的に、筬の全体を一体的に作動制御させるものである。但し、通常の筬であっても、筬のうち、複数のゲージ位置を含む一部分を他の部分とは別個に機械的に変位できる機構、例えば、カットプレッサ機構などを備えたものを使用することはできる。この場合も、ジャカード筬のように、個々のゲージ位置毎に任意に変位させることはできない。
【0011】
通常の筬の枚数は、1枚以上の任意の枚数に設定できる。通常は4枚程度までである。ジャカード経編地に弾性糸編成組織を加える場合には、少なくとも1枚以上、通常の筬を備えておく。但し、従来のジャカード経編地で必須であった支持組織は不要であるから、支持組織に占有されていた筬は省け、その分だけ必要な筬の数は少なくなる。
〔ジャカード編成組織〕
ジャカード編成組織は、上述のジャカード筬によって編成される。
ジャカード筬のそれぞれで編成される組織を互いに関連させるよう適切に設計することで、目的とするジャカード経編地を編成することが可能になる。
【0012】
ジャカード編成組織は、柄を構成しない無地部分であって機能や特性が一定である基本組織と、柄を構成したり機能や特性が基本組織とは異なっていたりする変化組織を含む。
基本組織は、例えば6コース毎など、一定数コース毎に同じパターンを繰り返す比較的に単純な編成組織であって、その例としては鎖編、デンビ編、アトラス編などがある。繰り返し単位としては、具体的には、10/12//などが挙げられる。この基本組織だけでは、ジャカード編成組織における柄組織や機能、特性の違いを自由に変化させることができない。
ジャカード編成組織が変化組織を含むことで、目的とするジャカード柄組織や場所による機能などの違いを与えることが可能になる。例えば、変化組織において、基本組織とは振り幅や振り方向が異なる個所を設けることができる。振り幅の違いは、その部分の糸密度あるいは生地厚さの違いとして表れたり、緊迫力や伸びの違いになったりする。隣接する編成糸が逆方向に振られて互いに交差する個所は、編成糸の重なりで厚みが生じたり拘束作用が生じたりする。また、このような編成組織の違いが複数コースあるいは複数ウェールにわたって任意に組み合わせられることで、経編地の一定領域における柄組織として現出したり、機能や特性の違う領域が生じたりする。このような変化組織による柄組織あるいは機能・特性の変化自体は、通常のジャカード編成組織においても達成されていたことである。
【0013】
本発明のジャカード編成組織においては、前記変化組織を含むジャカード編成組織の全ての編目位置において、ジャカード筬によるループが配置されてなることを特徴としている。したがって、基本組織の全ての編目位置において、ジャカード筬によるループが配置されてなることは言うまでもないが、本発明におけるジャカード筬で編成される変化組織も、前記変化組織を含むジャカード編成組織の全ての編目位置において、ジャカード筬によるループが配置されるようにする。
具体的には、ジャカード編成組織を編成するそれぞれのジャカード筬の変位を、全ての編目位置において、ジャカード筬がループを形成するように互いに関連させて制御するのである。
【0014】
例えば、特定のゲージ位置で、1枚のジャカード筬がジャカード機構を作用させて変位させた場合、別のジャカード筬はジャカード機構を作用させず変位させない、というような関連制御を行なう。
それぞれのジャカード筬を、全く同じように変位させるか変位させないかを決めるのではなく、常に、他のジャカード筬の変位・非変位に合わせて、適切に変位・非変位を設定することになる。
ジャカード筬では、個々のゲージ位置毎に変位・非変位が選択できるので、特定のゲージ位置に存在するジャカード筬同士の関連だけでなく、その隣りのゲージ位置に存在する別のジャカード筬の作動にも関連させるようにする。そのため、ジャカード編成組織の全体で、それぞれのジャカード筬における全てのゲージ位置における変位・非変位の作動を統一的に制御することが必要になる。
【0015】
従来は、パターンホイールなどで設定される基本動作がそのまま基本組織として編地に反映されるので、2枚のジャカード筬を使用しても、同じ編目位置には互いのループが重ならないように基本動作が設定されている。
本願発明においても、上記従来の方法のような基本動作を設定しても良いが、例えば、それぞれのジャカード筬に1イン1アウトのハーフセットで糸通しされた2枚のジャカード筬を用いる場合に、2枚のジャカード筬によるループ同士が、同じ編目位置(ゲージ位置)に配置される基本動作を採用しても良い。ただし、この基本動作を採用する場合、2枚のジャカード筬の基本動作をそのまま用いて本発明の条件を満たす基本組織を編成することはできない(全ての編目位置でループを配置することができない)ので、基本組織と変化組織のいずれにおいても、すなわち、編地全体について、各ゲージ位置で少なくともいずれかのジャカード筬を変位させて、全ての編目位置でループを配置するよう関連制御を行なうようにする。
【0016】
〔ジャカード経編地〕
ジャカード経編地は、ジャカード筬によって編成されるジャカード編成組織だけで構成することもできるし、ジャカード編成組織に別の編成組織を組み合わせて構成することもできる。
別の編成組織として、ジャカード筬とは異なる筬によって弾性糸が挿入または編み込まれてなる弾性糸編成組織を備えることができる。弾性糸編成組織を備えることで、ジャカード経編地に優れた伸縮性を付与することができる。弾性糸編成組織が挿入組織であれば、伸縮性はより高まる。
【0017】
ジャカード編成組織における部分的な組織変化だけでは、領域毎の緊迫力や伸びなどの特性に大きな差を付けることには限界があるが、弾性糸編成組織が加わると、領域毎の特性の差を格段に大きくすることができる。
別の編成組織として、非弾性糸による編成組織も勿論加えることができる。非弾性糸による編成組織で、ジャカード経編地の表面特性や機能性などを向上させることができる。
ジャカード経編地に要求される機能や特性に合わせて、さまざまな別の編成組織の採用、組み合わせを変更することができる。
但し、ジャカード経編地として、薄くて軽量であるものを要求される場合は、出来るだけ、ジャカード編成組織以外の別の編成組織は少なくしておくほうが良い。ジャカード経編地に要求される機能や特性は、出来るだけ、ジャカード編成組織を最適に設定することが達成されるようにしておくことが望ましい。
【0018】
ジャカード経編地として、分割可能な構造を設けることができる。ジャカード経編地の一部に、抜き糸、抜き糸の左右に配置される耳部など、通常の分割可能な経編地と同様の編成組織を付加することができる。このような分割可能な構造を構成するための編成組織を、ジャカード編成組織の一部に組み込むことができる。ジャカード筬で編成する変化組織の一部を、抜き糸や耳部になるように変化させれば、分割構造を構成するために余分の筬を使う必要がなくなる。
〔編成糸〕
ジャカード経編地の編成に用いる編成糸としては、通常の経編地に使用されている糸種および糸条件の範囲で、目的に合わせて設定できる。
【0019】
非弾性糸としては、ナイロン、ポリエステルなどの合成繊維、レーヨン、アセテートなどの再生繊維、木綿、絹などの天然繊維などからなるものを、ジャカード経編地の用途や要求性能に合わせて適宜に選択して使用することができる。複数の繊維材料を組み合わせた複合糸も使用できる。
弾性糸としては、ポリウレタン繊維などの弾性繊維からなるものが使用できる。
弾性糸に非弾性糸を被覆した被覆弾性糸や、非弾性繊維と弾性繊維とを組み合わせた複合糸なども使用できる。
非弾性糸と弾性糸とは、伸び率によって区別することができる。通常、非弾性糸は伸び率100%未満であり、弾性糸は伸び率150%以上、好ましくは200%以上である。
【0020】
<ジャカード編成組織用の糸>
ジャカード編成組織は、基本的に、非弾性糸で編成するが、弾性糸を用いることもできる。
ジャカード編成組織の編成糸としては、太さ16〜470dtexの範囲に設定できる。より好ましくは、22〜235dtexである。
ジャカード編成組織を編成する各ジャカード筬には、全ての針位置に同じ編成糸を糸通しするのが一般的であるが、太さや種類が異なる編成糸を組み合わせることもできる。
<弾性糸編成組織用の糸>
弾性糸編成組織は、もちろん、弾性糸で編成する。弾性糸を単独で使用してもよいし、同種あるいは異種の弾性糸を複数本組み合わせて編成することもできる。
【0021】
編成糸としては、太さ11〜3730dtexの範囲に設定できる。より好ましくは、22〜1240dtexである。
弾性糸編成組織として、弾性糸を複数本揃えて編成すると、前記したジャカード編成組織の部分的な組織変化による領域毎の緊迫力や伸びの違いを、さらに増大させることができる。弾性糸編成組織に、弾性糸が単独で編成される個所と、弾性糸を複数本揃えて編成する個所とを含んでいると、弾性糸が単独の個所と、弾性糸が複数本の個所とで、特性の違いをより大きくできる。
〔ジャカード経編地の製造〕
前記したジャカード編成装置で特定条件を備えるジャカード編成組織を編成すること以外は、基本的に、通常のジャカード経編地と共通する製造技術がそのまま適用できる。
【0022】
編成糸の準備、ジャカード編成装置への糸通し、糸の供給条件、編成条件、編成後の加工処理、染色加工など、通常のジャカード経編地と同様の処理工程が行なわれる。弾性糸編成組織を含むジャカード経編地では、熱セット加工やモールド加工などで、弾性糸の固定を行なうことができる。
〔ジャカード経編地の用途〕
本発明で得られるジャカード経編地は、従来のジャカード経編地が使用されていた各種の用途分野に好適に利用できる。特に、ジャカード編成による多彩な柄組織や機能、特性の変化に加えて、生地の薄さや軽量さが要求される用途分野に適している。
【0023】
具体的には、ファンデーションやインナーウェア、スポーツウェア、アウターウェアなどの衣料分野およびカーテンなどの資材分野に使用できる。ファッション性が高く、高品質・高機能な衣料品・資材が提供できる。
ジャカード編成組織を利用して、分離構造の経編地を編成することができる。経編地の端辺にヘム構造を設けることもできる。
【発明の効果】
【0024】
本発明にかかるジャカード経編地は、ジャカード筬によって編成されるジャカード編成組織のみで経編地を構成することができる。従来のジャカード経編地のように、ジャカード筬に加えて、地筬による支持組織を組み合わせる必要がない。支持組織のための地筬を削減できることで、編成作業の能率化を図ると同時に、使用する編成糸も少なくて済み、編成される経編地の厚さを薄く軽量化することが可能になる。
その結果、生地の薄さや軽量性が要求されると同時に、バラエティに富んだ柄組織を備えることなど意匠性にも強い要求があるインナーウェアなどのファッション性の高い衣料品の製造において、生産性の改善および品質性能の向上、商品価値の増大に、大きく貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
〔ジャカード経編地〕
図1は、ジャカード経編地の外観を示している。
ジャカード編成組織は、何れも1イン1アウトで交互に配置された2枚のジャカード筬により編成された編成糸で構成されている。
前記編成糸は何れも、全てのコースでループを形成するとともに、適宜に交差して編地組織を構成している。ジャカード編成組織の全体において、全ての編目位置に、何れか一方の編成糸によるループが配置されている。ジャカード経編地は、このような編成糸によるジャカード編成組織だけで構成されている。
【0026】
前記編成糸同士の交差や重なりによって、ジャカード柄組織が形成される。具体的には、図1に示すように、概略菱形のジャカード柄部Pを、ジャカード経編地Sの全体に千鳥状に間隔をあけて配置することができる。
〔ジャカード経編地の編成〕
本発明にかかるジャカード経編地の好適な実施形態では、前記ジャカード編成組織は、2つのハーフセット編みからなり、一方のハーフセット編みの変位あるいは非変位ではループが形成されない編目位置を、他方のハーフセット編みの変位あるいは非変位によってループ形成して補うように、前記2つのハーフセット編みが対になって編成されている。以下では、本発明に好適なこの実施形態を例にして説明を行なう。
【0027】
図2は、ジャカード編成組織を編成する際に、ジャカード筬のパターンホイールに設定される基本動作を示している。
2枚のジャカード筬Jb1,Jb2のうち、一方のジャカード筬Jb1に編成糸10が糸通しされる。他方のジャカード筬Jb2に編成糸20が糸通しされる。それぞれの基本動作は、図2(a)に示され、以下の繰り返し単位を有する。
Jb1:10/12//
Jb2:12/10//
ジャカード筬Jb1とジャカード筬Jb2とで、左右対称の基本動作になっている。何れのジャカード筬Jb1、Jb2でも、図2(a)に矢印で示すように、個々のコース毎に、編目位置を変位させるか変位させないかを、全ての編目位置において、何れか一方のジャカード筬がループを形成するように互いに関連させるという条件の下で、任意に設定することができる。
【0028】
図2(b)に示すように、Jb1とJb2とが、1ゲージずれており、互いにループが重なる部分があるため、この基本動作だけで経編地を編成することはできない。
従って、前記図1において、ジャカード柄組織を形成しない地の部分(基本組織)、ジャカード柄組織の部分(変化組織)、のいずれについても、少なくともいずれかのジャカード筬の基本動作にジャカード機構による変位制御を加えることで、所定の変化を与えたものとなっている。
図3は、ジャカード編成組織を構成する編成糸10、20における基本動作に変化を与えて編成された組織の具体例を示している。図3(a)に示す編成糸10−1と編成糸20−1との組み合わせ、図3(b)に示す編成糸10−2と編成糸20−2との組み合わせはそれぞれ、図1に示すジャカード柄組織を構成している編成組織から、対になる1組のジャカード筬Jb1、Jb2で編成される編成組織を取り出したものである。
【0029】
ジャカード柄組織を形成しない地の部分である上下の一定の領域Aも、上下の途中にあってジャカード柄組織を形成する領域Bも、少なくともいずれかのジャカード筬の基本動作に変位を加えて編成されている。変化組織では、一方の編成糸10−1、10−2を基本動作から変化させると、それに合わせて他方の編成糸20−1、20−2の編成動作を適切に調整している。同じ組の編成糸10−2と編成糸20−2とでも、領域Aと領域Bとの配置割合が異なっている。
このような編成糸10、20による基本動作からの変化の組が多数集まって、図1における、概略菱形のジャカード柄組織が形成されている。
【0030】
〔変化動作の態様〕
図4は、ジャカード編成組織を編成するための基本動作からの変化態様を、模式的に具体例で示している。
図4(a)は基本動作である。基本動作は、ジャカード筬Jb1,Jb2とも、10/12//の繰り返し単位を有し、同じゲージ位置からスタートしている。それぞれの筬に糸通しされたそれぞれの編成糸(実線および点線で区別して表示)が、全く同じ編成で互いに重なった状態になって、1ウェールおきに配置される。この基本動作のままでは経編地は編成できない。
【0031】
「1C」「2C」はコース番号を表す。編成は下から上に進むので、コース1Cからコース2Cへと編成される。
「1a〜3a」はジャカード筬Jb1の各ゲージ位置に対応し、「1b〜3b」はジャカード筬Jb2の各ゲージ位置に対応する。図4(a)に示す基本動作では、何れのジャカード筬Jb1,Jb2も、全てのゲージ位置で、ジャカード機構を作用させない「H」状態である。コース2Cについても同様である。
図4(b)は、基本動作に変化を加えて編成される組織である。この編成組織では、コース2C、コース1Cの何れでも、ジャカード筬Jb2の各ゲージ位置1b〜3bでジャカード機構を作用させる「T」状態(矢印で示す)にする。その結果、ジャカード筬Jb1とジャカード筬Jb2とで、同じ編成組織が、1ウェール毎に交互に配置されて、全ての編目位置にループが形成されることになる。
【0032】
なお、図4(b)とは逆に、ジャカード筬Jb2の各ゲージ位置1b〜3bはH状態で、ジャカード筬Jb1の各ゲージ位置1a〜3aでジャカード機構を作用させる「T」状態にしても、同様の編成組織が構成される。実線で表示された編成糸と、点線で表示された編成糸とが、入れ替わった組織になる。
以下に説明する各編成組織においても、Jb1とJb2との各ゲージ位置1a〜3a、1b〜3bにおける作用・非作用の状態を逆にすれば、上記と同様にして、実線で表示された編成糸と、点線で表示された編成糸とが、入れ替わった対称構造の編成組織が編成できる。説明が重複するので以下では説明を省略する。
【0033】
図4(c)は、図4(b)の状態からさらに変化させた組織である。コース2Cは、図4(b)と同様に、Jb1の1a〜3aがH状態、Jb2の1b〜3bがT状態である。コース1Cでは、Jb1の1a、3aをH状態、2aだけをT状態にする。それに対応させて、Jb2の1b、3bをT状態、2bをH状態にする。2a、2bの部分で編成糸が交差する部分が生じている。
図4(d)も、図4(b)の状態からさらに変化させた組織である。コース2Cで、Jb1の1a、3aはH状態、2aはT状態にする。Jb2の1b、3bはT状態、2bはH状態である。コース1Cも、コース2Cと同じ作用・非作用状態に設定する。図4(b)と類似する編成組織であるが、実線の編成糸と点線の編成糸とが交互に3組配置されている図4(b)に対して、図4(d)では、中央の組で、実線の編成糸と点線の編成糸とが入れ替わっている。図4(d)の編成組織を応用すれば、右側の組あるいは左側の組で、実線の編成糸と点線の編成糸とを入れ替えることもできる。
【0034】
実線の編成糸と点線の編成糸とは異なる糸であっても同じ糸であっても良いが、同じ糸を使っていれば、図4(b)と図4(d)とで実質的な違いはない。しかし、コース1Cの前のコース、あるいは、コース2Cの次のコースとの関係によって編成組織が変化する。例えば、図4(d)の編成組織の前のコースに、図4(b)の編成組織を組み合わせるか、図4(c)の編成組織を組み合わせるかで、全体の編成組織に違いが生じる。
図4(c)(d)のように、コース1Cにおける各ゲージ位置1a〜3a、1b〜3bの作用・非作用の状態は同じであっても、その次のコース2C、さらにその次のコースにおける状態が違うと、編成される編成組織の態様が違ってくることが判る。
【0035】
以上に説明した様々な変化の態様を、コース毎に任意に組み合わせることで、より複雑で変化に富んだ編成組織を構成することができる。
【実施例】
【0036】
本発明にかかるジャカード経編地として、下記実施例1、実施例2にかかるジャカード経編地を製造した。実施例2のジャカード経編地についてはその性能の評価も行った。
編成装置としては、カールマイヤー社製のRSJ4/1を用いた。
〔実施例1〕
実施例1にかかるジャカード経編地は、ジャカード編成組織が、同一ウェール上に編成された抜き糸部と、前記抜き糸部の左右に配置される耳部を有し、前記抜き糸部の両側にて分割可能な経編地である。
<糸使いと編成組織>
図5に示すジャカード編成組織を、下記の糸使いで編成した。図5中、変化組織Xは抜き糸部、変化組織Yは耳部、変化組織Zはその他の領域の編成組織を構成している。
【0037】
Jb1 (変化組織X):Nylon56/2dt−ブライト糸(東レ社製)
Jb1,Jb2(変化組織Y):WoolyNylon22dt−ブライト糸(東レ 社製)
Jb1,Jb2(変化組織Z):Nylon44dt−セミダル糸(東レ社製)
なお、パターンホイールなどで設定される基本動作を示す、2枚のジャカード筬Jb1、Jb2に対応する図については、図2に示す基本動作と共通するため省略する。Jb1,Jb2は、1イン1アウトのハーフセットで糸通しした。
また、実施例1の編地は、通常の筬GB2、GB3、GB4で編成される弾性糸編成組織も有するが、図示を省略する。各弾性糸編成組織は、下記の糸使いで編成した。
【0038】
GB2、GB3、GB4:Lycra310dt−クリヤー糸(オペロンテックス社 製)
通常の筬GB2、GB3で編成される弾性糸は、変化組織Y(耳部)が形成される領域以外の領域に挿入され、編地にとって好ましい伸縮性を付与するための挿入組織である。GB2,GB3は、1イン1アウトのハーフセットで糸通しした。通常の筬GB4で編成される弾性糸は、変化組織Y(耳部)が形成される領域に挿入され、編地に伸縮性を付与し、変化組織Xからなる抜き糸を抜いた際に編地が両側へと分割するのを補助するためのものである。いずれの弾性糸編成組織も挿入組織であって、従来のジャカード経編地に必須であった、支持組織を構成するものではない。
【0039】
各編成組織は、具体的には、以下の繰り返し単位からなる。
(基本動作)
Jb1:10/12//
Jb2:12/10//
GB2:00/11//
GB3:11/00//
GB4:11/22/00/22/11/33//
(変化組織X:抜き糸部)
Jb1:10/01//
(変化組織Y:耳部)
Jb1:10/12/21/23/21/12//
Jb2(図5において抜き糸左側):23/21/12/21/12/21//
Jb2(図5において抜き糸右側):12/21/12/10/12/21//
(変化組織Z)
Jb1:10/12/21/23/21/12//
Jb2:23/21/12/10/12/21//
〔実施例2〕
実施例2にかかるジャカード経編地は、ジャカード編成組織を部分的に変化させることにより、緊迫力の異なる複数の領域を有するものである。
【0040】
<糸使いと編成組織>
図6に示すジャカード編成組織を、下記の糸使いで編成した。
Jb1,Jb2:Nylon44dt−ブライト糸(東レ社製)
パターンホイールなどで設定される2枚のジャカード筬Jb1、Jb2の基本動作を示す図については、実施例1と同様、図示を省略する。Jb1,Jb2は、1イン1アウトのハーフセットで糸通しした。
また、実施例2の編地は、通常の筬GB2、GB3で編成される弾性糸編成組織も有するが、図示を省略する。各弾性糸編成組織は、下記の糸使いで編成した。GB2,GB3は、1イン1アウトのハーフセットで糸通しした。
【0041】
GB2、GB3:Lycra310dt−クリヤー糸(オペロンテックス社製)
これらの弾性糸編成組織も、実施例1と同様、編地に好ましい伸縮性を付与するための挿入組織であり、従来のジャカード経編地に必須であった、支持組織を構成するものではない。
各編成組織は、具体的には、以下の繰り返し単位からなる。低緊迫領域の編組織は図6(a)、高緊迫領域の編組織は図6(b)に対応する。
(基本動作)
Jb1:10/12//
Jb2:12/10//
GB2:00/11//
GB3:11/00//
(低緊迫領域の編組織)
Jb1:10/12/21/23/21/12//
Jb2:23/21/12/10/12/21//
(高緊迫領域の編組織)
Jb1:10/23//
Jb2:23/10//
<性能評価>
上記実施例2にかかるジャカード経編地について性能を評価した。なお、編地全体としては、図1におけるジャカード柄部Pで示す領域にジャカード柄に代えて高緊迫領域を配置し、それ以外の領域に低緊迫領域を配置させるようにした。
【0042】
性能評価は、高緊迫領域と低緊迫領域との両方から試験片を切り取って、それぞれの特性を測定して行った。
(試験装置)
試験装置として、定速試験伸張形引張試験機「オートグラフAGS−H」(島津製作所製)を用いた。
(試験片の作成)
経編地の経方向(ウェール方向)が試験片の長さ方向になるようにして、幅2.5cm×長さ10cmの試験片を作成した。試験片の長さ方向を上下方向に向けて、その両端をクリップで掴み、試験装置に取り付けた。試験片の上部掴み長さを3.0cm、下部掴み長さを3.0cm、したがって、掴み間隔を4.0cmに設定した。
【0043】
(伸度の測定)
試験片に所定の引張力を加えて、そのときの伸度を測定した。伸度(%)は、伸ばす前の試験片の長さ(掴み間隔)eと、伸ばした状態における試験片の伸び方向の長さdとから、(d−e)/e×100で求める。
(緊迫力の測定)
試験片に引張力を加えて、30±2cm/分の速度で縦伸度40%、横伸度20%まで伸ばした。その後、同じ速度で引張力を取り去った。試験の間、試験片に生じる応力を自動的に測定し記録した。
【0044】
試験片に生じた応力の大きさ(cN)を、負荷時の縦伸度30%、横伸度15%における値、伸びピーク時あるいは負荷から除荷に移行する時の縦伸度40%、横伸度20%における値、除荷時の縦伸度30%、横伸度15%における値とで評価した。同じ縦伸度30%、横伸度15%でも、負荷時と除荷時とでは、緊迫力の大きさが異なる。
なお、当該技術分野では、緊迫力を除荷時の縦伸度30%、横伸度15%における値で規定し、負荷時の縦伸度30%、横伸度15%あるいは伸びピーク時の縦伸度40%、横伸度20%における値については、伸長力と呼ぶこともある。本明細書では、いずれの場合もまとめて緊迫力と表現し、必要に応じてその測定条件を規定することで区別する。
【0045】
(結果)
上記試験に基づき測定した伸度および緊迫力の結果を、表1、表2にそれぞれ示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
(考察)
実施例2の伸縮性経編地は、高緊迫領域と低緊迫領域との間で、伸度および緊迫力のいずれについても、大きな差が生じている。
高緊迫領域は、低緊迫領域に比べて伸びにくく、伸ばしたときには大きな緊迫力が生じる。例えば、衣料を製造したときに、着用に対して、高緊迫領域と当接する身体部位に大きな緊迫力あるいは体型補正の機能を及ぼすことができる。これとは逆に、低緊迫領域では容易に伸びて過剰な締め付け力を生じないので、着用感は良好となる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のジャカード経編地は、例えば、ファンデーションやインナーウェア、スポーツウェア、アウターウェアやカーテンなどの、薄く軽いことと多彩な柄組織を必要としたり、部分的に特性や機能に変化を付けたりすることが望ましいとされる各種衣料や資材の製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】ジャカード経編地の外観図
【図2】ジャカード編成組織の基礎組織を示す編成組織図
【図3】ジャカード編成組織の個別糸の編成組織図
【図4】ジャカード編成組織の変化態様を示す編成組織図
【図5】実施例1にかかるジャカード経編地の編成組織図
【図6】実施例2にかかるジャカード経編地の編成組織図
【符号の説明】
【0051】
10、20 編成糸
P ジャカード柄
S ジャカード経編地
A、B、X、Y、Z 変化組織
1C、2C コース番号
Jb1、Jb2 ジャカード筬
1a〜3a、1b〜3b ゲージ位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャカード編成組織を含む、支持組織が不要な経編地であって、
ジャカード編成組織が一定の繰り返し単位を有する基本組織と、前記基本組織から変化させてなる変化組織を含み、
前記変化組織を含むジャカード編成組織の全ての編目位置においてループが配置されてなる、
ことを特徴とする、ジャカード経編地。
【請求項2】
前記ジャカード編成組織は、2つのハーフセット編みからなり、一方のハーフセット編みの変位あるいは非変位ではループが形成されない編目位置を、他方のハーフセット編みの変位あるいは非変位によってループ形成して補うように、前記2つのハーフセット編みが対になって編成されている、請求項1に記載のジャカード経編地。
【請求項3】
前記ジャカード編成組織に加えて、弾性糸が挿入または編み込まれてなる弾性糸編成組織をも備える、請求項1または2に記載のジャカード経編地。
【請求項4】
前記ジャカード編成組織が、同一ウェール上に編成された抜き糸部と、前記抜き糸部の左右に配置される耳部を有し、前記抜き糸部の両側において分割可能である、請求項1から3までのいずれかに記載のジャカード経編地。
【請求項5】
前記ジャカード編成組織が、部分的な組織変化により緊迫力の異なる複数の領域を有する、請求項1から4までのいずれかに記載のジャカード経編地。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれかに記載のジャカード経編地からなる、衣類。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate