ジャカード織物の製造方法

【課題】色まとめの手法では表現することが困難であった微妙な陰影の階調表現を実現し、また、フルカラーの写真調の織物では実現が困難であった薄物の生地にも適用可能であり、さらに、通常の被服、インテリアなどの素材にも適用しうるデザイン性を備え、かつ豊かな陰影や色調の表現が可能な織物を製造することができるジャカード織物の製造方法を得る。
【解決手段】元画像の陰影を反映した画像を織物生地上に織り込むためのジャカード織物の製造方法であって、織物生地上に表現したい元画像のデータを読み込む入力手段と、元画像のデータに対して織物に適した特徴を備えるようにあらかじめ作成された閾値サブマトリクスを使用して組織的ディザ法により二値化処理を行い、元画像の持つ陰影が反映された織物用データに変換するデータ変換手段とを備える。
【解決手段】元画像の陰影を反映した画像を織物生地上に織り込むためのジャカード織物の製造方法であって、織物生地上に表現したい元画像のデータを読み込む入力手段と、元画像のデータに対して織物に適した特徴を備えるようにあらかじめ作成された閾値サブマトリクスを使用して組織的ディザ法により二値化処理を行い、元画像の持つ陰影が反映された織物用データに変換するデータ変換手段とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルカメラやイメージスキャナ等の画像入力手段により読み取った風景、絵画、図案等の画像データに対し、あらかじめ織物用に作成した閾値サブマトリクスを活用して組織的ディザ法による二値化処理をコンピュータによって行い、元の画像データに備わった微妙な陰影や色彩を生地上に表出するジャカード織物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生地上に微妙な陰影を表現した織物を作成しようとする場合、ジャカード織物の伝統的な作成方法においては、元絵となる画像やイラストを、同等の濃淡や色調を持つと認められる幾つかの領域に分割し、その領域ごとに塗りわけて色まとめ作業を行う。さらに、塗り分けた領域ごとに、経糸と緯糸の見え方の比率が異なる織物組織を適用し、それぞれ異なる色で染められた経糸と緯糸を用いて製織を行う。その結果、元絵の持つ濃淡や色調が織物として再現される。なお、ここで行われる通常のジャカード織物の製織手法については、公知のものであるため、説明を省略する。
【0003】
このように、生地上に微妙な陰影を表現した織物を作成する場合には、生地上に表出される陰影や色調のグラデーションの細かさは、元絵を幾つかの領域に分割する工程における分割数に依存する。従って、元絵が持つ陰影や色調の変化を、より高精細に表現しようとする場合には、より多くの細かい領域に元絵を分割する必要がある。
【0004】
フルカラーの画像データに対して画像処理を行い、それを元にして生地上にカラー写真のようなフルカラーの柄を表出する手法としては、概ね経糸4色以上、緯糸3色以上の異なる色に染めた糸を用い、その組み合わせによって多くの色を生地上に表現する伝統的な手法であるゴブラン織の技術を応用したものがある(例えば、特許文献1参照)。また、別の手法としては、カラー印刷で用いられる色分解の技術を応用し、フルカラー画像をCMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)分解やRGB分解する画像処理を経て、特定の色糸が生地表面に可視化するような織物組織に変換するものがある(例えば、特許文献2、3参照)。
【0005】
これらの手法では、数色〜十数色の限られた色の糸を経糸、緯糸に用いて、カラー写真のようなフルカラーの絵柄を、元画像に近似させた色合いで生地上に表出することが可能である。
【0006】
【特許文献1】特開2005−146504号公報
【特許文献2】特開2006−219810号公報
【特許文献3】特表2004−509244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術には次のような課題がある。上述したジャカード織物の伝統的な色まとめに基づく前者の手法においては、元となる画像を陰影や色調の濃淡を表現するために、同等程度の濃度や色合いの領域で画像を細分化する。そして、それぞれの領域ごとに、濃度や色合いに応じた織物組織を適用することで、陰影や色調を織物に表現している。
【0008】
しかしながら、陰影や色調の変化を高精細に表現する必要から、領域の分割を細かくする手法が考えられる。しかしながら、細分化するにつれて作業量が増大し、効率を悪化させるため、細分化には限界がある。また、隣接する領域に異なる系統の織物組織を適用した場合には、領域同士の境界線上の組織がノイズ状となることに対処しなければならない。その結果、陰影や色調の変化の精細さがかえって損なわれてしまう。このため、従来からの色まとめの手法によって、高精細な陰影や色調を表現するには限界があった。
【0009】
また、フルカラーの写真調の絵柄を織物に表現するため、CMYK分解などの画像処理によって、複数色に染めた糸を使用し、減法混色によって色彩表現を行う、後者の手法においては、次のような課題がある。生地上のある一点で特定の色を表現するときに、必要のない色の糸は、表面から不可視となるように、生地の裏面に配置させる必要がある。この結果、目に見えない部分にも糸を使用しなくてはならないという制約がある。
【0010】
また、4〜十数色の色に染めた糸をあらかじめ準備しておく必要があるうえに、生地表面で多く使用されている色の糸も、生地表面にはごくわずかしか現れず裏面に配置されて不可視化される色の糸も、生産上は同様に消耗される。このため、生産コストが高くなってしまうという欠点があり、さらに、使用する糸の色数が多いほど裏面に配置される色糸が多くなり、生地が厚手になってしまうという課題がある。
【0011】
また、フルカラーの写真調の織物は、このようなコスト面や生産面における短所だけでなく、織物知識の乏しい消費者から見た場合には、カラー写真の見え方に近いものほど、カラープリントされた低コストの生地と違いが判別しにくくなる。このため、手間とコストをかけた分相応の付加価値が伝わりにくいという、商品訴求力の面での欠点も併せ持っている。
【0012】
写真調の織物としての商品の魅力や価値を消費者に訴求するためには、「写真織り」などのキャッチフレーズを前面に出すことなどが手法として考えられる。しかしながら、通常の被服やインテリア用の生地素材として用いる場合には、「写真織り」などの呼称を前面に出す手法は、不適当な場合が多いと考えられる。
【0013】
また、通常の被服やインテリアの素材として用いられるもののうち、大半を占めるのは2〜3色、あるいはモノトーンの生地であり、カラフルなものでも数色以内の色使いである。このことを考慮すると、フルカラーの写真調の生地を受け入れることが可能な商品分野は、あまり多くなり得ないという課題もある。
【0014】
本発明は上述のような課題を解決するためになされたもので、色まとめの手法では表現することが困難であった微妙な陰影の階調表現を実現し、また、フルカラーの写真調の織物では実現が困難であった薄物の生地にも適用可能であり、さらに、通常の被服、インテリアなどの素材にも適用しうるデザイン性を備え、かつ豊かな陰影や色調の表現が可能な織物を製造することができるジャカード織物の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るジャカード織物の製造方法は、元画像の陰影を反映した画像を織物生地上に織り込むためのジャカード織物の製造方法であって、織物生地上に表現したい元画像のデータを読み込む入力手段と、元画像のデータに対して織物に適した特徴を備えるようにあらかじめ作成された閾値サブマトリクスを使用して組織的ディザ法により二値化処理を行い、元画像の持つ陰影が反映された織物用データに変換するデータ変換手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、元画像のデータに対して織物に適した特徴を備えるようにあらかじめ作成された閾値サブマトリクスを使用して組織的ディザ法により二値化処理を行い、元画像の持つ陰影が反映された織物用データに変換する手段を用いることにより、色まとめの手法では表現することが困難であった微妙な陰影の階調表現を実現し、また、フルカラーの写真調の織物では実現が困難であった薄物の生地にも適用可能であり、さらに、通常の被服、インテリアなどの素材にも適用しうるデザイン性を備え、かつ豊かな陰影や色調の表現が可能な織物を製造することができるジャカード織物の製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のジャカード織物の製造方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0018】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1におけるジャカード織物の製造方法に関する一連の処理工程のフローチャートである。本発明のジャカード織物の製造方法は、ハードウェアとして演算処理手段であるCPU、データの記憶部であるメモリ、およびデータの入出力手段を備えたコンピュータによる一連の処理方法に関するものである。そこで、図1のフローチャートを用いて、元画像の陰影を反映した画像を織物生地上に織り込むためにコンピュータで行われるデータ変換処理について詳細に説明する。
【0019】
まず初めのステップS101における第1の準備工程は、所望する大きさの柄が生地上に表出されるよう、画像の縦、横方向の画素数を、使用する経糸、緯糸の本数に一致させ、画像データのサイズ調整等を行う工程である。なお、この第1の準備工程は、従来からあるジャカード織の準備工程と同様のものであるため、詳細な説明を省略する。
【0020】
次に、ステップS102における色分解工程は、フルカラーの元画像データをフルカラーの織物として再現するのではなく、3色を用いて擬似的なカラー写真風の織物を生成するために行われる前処理である。元画像データの持つ特徴的な色相であるターゲット色1色と、ターゲット色の背景となる他の領域を明−暗に分ける第1の背景色および第2の背景色の合計3色が、オペレータにより選択され、入力手段を介してコンピュータに読み込まれる。
【0021】
例えば、第1の背景色および第2の背景色をそれぞれ白と黒、ターゲット色を赤とした3つの色がオペレータにより選択されて本発明の方法で織物を作成した場合、白と黒の対比による明度、および赤と(白および黒)の対比による彩度の表現が可能である。すなわち、色彩の3要素である明度、彩度、色相のうち、明度と彩度の2つの要素を表現できることとなる。
【0022】
このことは、白黒画像が明度のみの1要素を表現可能であり、カラー画像が明度、彩度、色相の3要素を表現可能であることと比較すると、本発明では、白黒画像とカラー画像の中間の表現能力を保持することが可能となる。
【0023】
このように、本発明における擬似的なカラー表示では、3色の糸のみによって明暗や色調を表現するため、表現可能な色彩の幅は、非常に限られ、多くの色が入り混じったような表現は困難となる。しかしながら、被服やインテリア用の素材として用いられる生地に対して一般的に求められる色彩としては、単色や数色の組み合わせが大半である。
【0024】
従って、このことを考慮すれば、3つの色の組み合わせが少なすぎるとは考えられない。逆に、使用する色が少ないことによって、準備しなくてはならない色の糸が少なくて済むこと、薄手の生地の製造が可能となること、ターゲット色や背景色を別の色と交換することによって、織物製品の開発には欠かすことのできない配色展開を容易に行うことができることといったメリットが生まれる。
【0025】
ステップS102の色分解工程の具体的な処理としては、まず、オペレータにより選択されたターゲット色、第1の背景色、および第2の背景色の3色を、入力手段を介して読み込む。オペレータによる3色の選択基準は、元となる画像のモチーフによって異なるが、基本的には、画像データの中に特徴的に含まれる色相をターゲット色として選択し、ターゲット色以外のうち、淡い色成分の主たるものを第1の背景色、濃い色成分の主たるものを第2の背景色として選択する。
【0026】
例えば、元の画像が、ぼんやりとした背景の前にある、人物の顔のような写真の場合には、ターゲット色を人物の肌や唇の色とし、第1の背景色を白、第2の背景色を人物の瞳や髪の色が黒であれば黒とする。このようにして、オペレータは、デザイン上の理由から最も強調したいモチーフが最も効果的に表現できる色を基準として、ターゲット色を選択する。
【0027】
3色が選択された後の色分解工程において、コンピュータは、画像レタッチソフトやDTPで用いられる色分解ソフトとして一般的に使用されているソフトの機能を用いて、CMYK色分解やRGB色分解を行う。次に、オペレータは、色分解された画像チャンネル(上記のCMYK色分解およびRGB色分解を行った場合には、C、M、Y、K、R、G、Bの7チャンネル分のデータに相当)の中から、ターゲット色および第2の背景色が強い信号として表われ、その他の色が弱い信号となって表われることによって陰と陽の対比となってグレースケール化される第1のグレー画像を抽出する。図2は、本発明の実施の形態1において第1のグレー画像として抽出された画像の一例を示した図である。
【0028】
同様に、オペレータは、第2の背景色とそのほか全ての色が陰と陽の対比としてグレースケール化される第2のグレー画像を抽出する。図3は、本発明の実施の形態1において第2のグレー画像として抽出された画像の一例を示した図である。
【0029】
ここで、ターゲット色がCMYおよびRGBのいずれかの色相と一致しない場合など、第1のグレー画像を抽出することとが困難な場合があることが考えられる。このような場合には、オペレータは、画像レタッチソフトの機能などを用いて色相をシフトし、ターゲット色がCMYおよびRGBのいずれかに一致させるなど、元となる画像を編集してから、この色分解工程を行うことができる。
【0030】
ここで、色分解工程そのもの、および画像の色相をシフトさせる方法については、画像レタッチソフトなどで容易に行うことができる公知の技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0031】
次に、ステップS103における第2の準備工程について説明する。画像の陰影の濃度を適正なレベルに補正するこの第2の準備工程の目的は、次のステップS104における二値化処理工程で、より良好な結果を得るための調整を行うことである。本発明では、二値化処理工程によって第1のグレー画像および第2のグレー画像は二値化され、白か黒の2色からなる第1の二値画像および第2の二値画像に変換される。その結果、最終的に画像内の空間周波数がほぼ一定に近い値となって、画像内のどの部分にも白と黒が交互に現出する繰り返しパターンが生じるように二値化処理を行うことによって、画像を製織可能な織物組織に変換することを主たる目的としている。
【0032】
ここで、「白と黒が交互に現出する繰り返しパターン」とは、例えば、後述する図5に示すような織物組織の8枚繻子に見られるように、どの部分をとっても必ず8マスの間には白と黒の両方が入っていること、あるいは後述する図9のシマウマ模様でいえば、画像内がシマウマの模様状の縞模様で埋め尽くされて、無地の場所がないようにすることを意味している。
【0033】
しかしながら、二値化処理工程によって二値化された画像中に空間周波数の低い領域(言い換えれば、黒のみ、あるいは白のみで構成された無地の領域)の面積が多くあればあるほど、二値化処理工程で行う画像処理の効果の及ばない領域が増えることとなる。そして、このような場合には、本発明の目的である陰影や色調の微妙な変化の表現の精度が損なわれる結果を招くこととなる。
【0034】
そこで、ステップS103の第2の準備工程において、コンピュータは、ステップS104の二値化処理工程の結果として、画像内の空間周波数をほぼ一定に近づけるために、0〜255の値を持つグレースケール画像の信号を、必要に応じて最小値が1以上、最大値が255未満となるようなレベル補正を行う。
【0035】
このようなレベル補正を行う分量については、元画像や二値化処理工程で用いる閾値サブマトリクスの量によって変化する。また、図1のフローチャートに示されているように、この第2の準備工程は、二値化処理工程の結果によっては、トライアンドエラーを繰り返し、または、二値化処理工程の結果をフィードバックして繰り返し処理を行うこととなる。
【0036】
次に、ステップS104の二値化処理工程において、コンピュータは、すでにオペレータにより抽出されたグレースケール画像である第1のグレー画像および第2のグレー画像に対して、あらかじめ作成した閾値サブマトリクスを用いて組織的ディザ法により二値化処理を行う。
【0037】
本発明で使用する閾値サブマトリクスには、大きく分類して2種類がある。第1の閾値サブマトリクスは、二値化処理の結果が織物組織の変化組織となるようなマトリクスで表されるものである。また、第2の閾値サブマトリクスは、規則的な空間周波数を備えた、繰り返しパターン状のものである。まず初めに、第1の閾値サブマトリクスを適用する場合について説明する。
【0038】
図4は、本発明の実施の形態1における第1の閾値サブマトリクスの一例を示した図である。また、図5は、本発明の実施の形態1における図4に示した第1の閾値サブマトリクスでグレー画像を二値化処理した結果の二値画像と、通常の織物製造で用いられる織物組織の代表的なものである繻子組織とその変化組織を比較した図である。
【0039】
より具体的には、図4に示した第1の閾値サブマトリクスは、8×8の計64個のマス目のそれぞれに対して、0〜255のうちの50種類の閾値のいずれかを当てはめて構成されている。そして、この第1の閾値サブマトリクスで、グレー画像を二値化処理した結果の二値画像(図5の上段参照)と、通常の織物製造で用いられる織物組織の代表的なものである繻子組織とその変化組織(図5の下段参照)とは、同じパターンとなっている。
【0040】
このことは、この第1の閾値サブマトリクスを用いて画像の二値化処理を行うだけで、元画像は、画像の陰影に応じた織物組織の変化組織と同じパターンによって構成される二値画像となり、製織可能な織物用データに変換できることを示している。また、基本的な織物組織とその変化組織を、図4に示したような第1の閾値サブマトリクスに変換して二値化処理を行った場合、生地上には、通常用いられる織物組織とその変化組織で製織された柄が表出することとなる。
【0041】
また、図5に示した8枚繻子組織を元にした第1の閾値サブマトリクス(図4参照)では、8×8のマトリクスの中に0の値を持つ点が8マス、255の値を持つ点が8マスあり、残りの48マスには5〜240までの値のうち重複しない48の数値が配置されている。このため、この第1の閾値サブマトリクスを使用して組織的ディザ法による二値化処理を行った場合、8×8ピクセルの領域内に最大で50段階の濃度が表現可能となり、そのすべての段階が8枚繻子組織を基本とした変化組織となる。
【0042】
なお、0の値および255の値を持つマスがそれぞれ8マスずつあるのは、二値化処理の結果、8×8のマトリクスの各列に最低1マスは組織点となるマスが発生することが必要であるという、織物組織の必要条件を保持するためである。これによって、陰影の階調の最も淡い領域は、軽口繻子となり、最も暗い領域は、重口繻子となり、その中間の領域は、全て繻子の変化組織となって、全体として織物組織としての破綻が生じないようにすることが可能となる。図6は、本発明の実施の形態1における図4の閾値サブマトリクスを用いてグラデーション状の画像を二値化処理した結果を示した図である。
【0043】
なお、二値化処理の結果が織物組織の変化組織となるような第1の閾値サブマトリクスは、先の図4に示したような8枚繻子組織を元にしたものには限定されない。たとえば、8枚繻子と同様の手法によって5枚繻子、10枚繻子、16枚繻子などの他の繻子組織の変化組織となるような第1の閾値サブマトリクスを適用することが可能である。
【0044】
また、図7は、本発明の実施の形態1における織物組織の綾織を元にした第1の閾値サブマトリクスを示した図であり、図8は、本発明の実施の形態1における織物組織の変化組織を元にした第1の閾値サブマトリクスを示した図である。このように、図7に示すような綾織の組織、あるいは、図8に示すような変化組織を元にした第1の閾値サブマトリクスを作成することも可能である。
【0045】
次に、閾値サブマトリクスとして、規則的な空間周波数を備えた、繰り返しパターン状のものである第2の閾値サブマトリクスを適用する場合について説明する。図9は、本発明の実施の形態1における第2の閾値サブマトリクスを例示した図であり、シマウマの模様を模したパターンの例を示している。
【0046】
この図9は、本来あるパターンに従って段階的に変化する数値を配置したマトリクスである閾値サブマトリクスを、その各マスの値に従ってグレースケールの画像で表したものである。第2の閾値サブマトリクスを使用した組織的ディザ法による二値化処理を行うことによっては、先の実施の形態1で説明したような第1の閾値サブマトリクスのように、直接的に画像を織物組織に変換することはできない。
【0047】
しかしながら、例えば、図9に示したような第2の閾値サブマトリクスを適用することにより、元となる画像の濃淡を、シマウマの縞模様のようなパターンの太さの違いで表現できる織物用データに変換することが可能となる。
【0048】
図10は、本発明の実施の形態1における図9の第2の閾値サブマトリクスを用いてグラデーション状の画像を二値化処理した結果を示した図である。図9に示した第2の閾値サブマトリクスは、白と黒の階調をそれぞれ0、255とした場合、閾値サブマトリクスにあるシマウマの模様状の陰影の一本一本が、それぞれ濃度0から255へ、そして255から0へと推移するグラデーションとなっており、その繰り返しによるパターンによって閾値サブマトリクス全体が構成されている。第2の閾値サブマトリクスは、このような繰り返しによるパターンを備えている点が特徴である。
【0049】
このため、図9に示した第2の閾値サブマトリクスを用いて組織的ディザ法による二値化処理を行った場合、濃淡の淡い領域では縞模様が細くなり、濃い領域では縞模様が太くなって、元画像の陰影を二値画像上で表現する効果を生じさせている。この手法を用いることによって、図10に示したように、元の画像の濃淡と、シマウマの縞模様のようなパターンの両方を同時に表現することが可能となる。
【0050】
織物を製織するジャカード織機の口数が経糸総本数に満たない場合には、織物の柄は、口数に等しいか口数を整数で割った経糸本数分の繰り返し柄として作成される必要がある。この手法で織物の柄を作成しようとする場合、第2の閾値サブマトリクス自体も前後左右に展開したときに連続性を保ったパターンとなっている必要がある。
【0051】
ただし、繰り返し柄を表出するのに必要な経糸本数と、閾値サブマトリクスの幅とが等しい数値である必要はなく、閾値サブマトリクスのサイズは、作成しようとする柄サイズの縦横ともに整数分の1のサイズであればよい。なお、図9に示した第2の閾値サブマトリクスは、前後左右への繰り返しを行っても連続性を保ったパターンとなっている。より具体的には、この図9に示した第2の閾値サブマトリクスを前後左右へ繰り返し並べた際に、隣接する2つの第2の閾値サブマトリクスの境界面でパターンの太さ、およびパターンの濃淡レベルが連続性を有している。
【0052】
次に、先の図1のフローチャートのステップS105における画像の合成工程について説明する。この画像の合成工程では、二値化処理をした第1の二値画像と第2の二値画像とを合成して、ターゲット色、第1の背景色、第2の背景色の3色からなる画像に変換する。
【0053】
合成をする際には、まず白と黒で示されている第1の二値画像の黒を、ターゲット色のような有彩色に変換し、そして、この第1の二値画像の上に、第2の二値画像を重ね合わせて乗算処理を行うことによって、ターゲット色と、白で示された第1の背景色、黒で示された第2の背景色の、3色からなる合成画像が作成される。画像の乗算処理による重ね合わせは、通常使用されている画像レタッチソフトの機能を使うことで容易に行うことのできる公知の技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0054】
また、この画像の合成工程で、第2の二値画像の黒を、黒と白以外の色、例えば灰色に変換してから乗算による合成を行った場合、作成される合成後の画像は、ターゲット色、白で示された第1の背景色、灰色、灰色とターゲット色が乗算された色、の4色の画像を作成することができる。こうして新たに追加された、灰色とターゲット色とが乗算された色があることによって、第2の2値画像の黒色をそのままで合成した場合と比較して、次のステップS106における調整工程で織物組織への補正を行う際に、より細かい織物組織上の処理を行うことができる。
【0055】
ステップS106における調整工程では、先のステップS105の画像の合成工程の結果得られた合成画像の中で、経糸や緯糸が必要以上に長い区間で浮くことのないように組織点を追加することによって、織物組織として適した形に調整を行う。織物は、経糸と緯糸が連続的に上下関係を交互に入れ替えられて配列された構造物である。そこで、経糸がある本数以上連続して緯糸の上、あるいは下に配置されているような箇所があった場合には、織物の品質上の瑕疵であるピリングや目寄りを生じさせる原因となる。このため、過剰に連続して糸が浮いた状態を避ける必要がある。
【0056】
そこで、この調整工程では、このような理由から、先の画像の合成工程の結果得られた合成画像の中で、縦方向ないし横方向に、ある本数以上の糸の浮きが発生するような場合に、組織点を追加する処理を行う。この組織点を追加する調整工程の具体的な手順については、通常のジャカード織物のデータ作成で行われている作業と同等の内容であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0057】
その後、この調整工程を経て得られた画像を元にジャカード織機を稼動させるCGSデータを作成し、CGSデータを織機に転送して製織工程に入る。しかしながら、この工程は、本発明に限らず、通常のジャカード織物の製造で行われている作業と同等の内容であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0058】
上述の説明では、元となる画像がフルカラーの画像であり、これをターゲット色と第1の背景色と第2の背景色の3色で擬似的なカラー画像に変換することを前提とした。これに対して、3色を使用するのではなく、2色のみの色調でモノトーンの織物を表現することも可能である。この際には、先の図1に示したステップS102の色分解工程、およびステップS105の画像の合成工程を省略することで、モノトーン調の織物を作成することができる。
【0059】
最後に、本発明における一連の処理を施した結果得られる画像について、いくつかの例を示す。図11は、本発明の実施の形態1における元画像の一例である。これに対して、図12は、本発明の実施の形態1における図11の元画像に対して、色分解工程、第2の準備工程、そして先の図4に示したような8枚繻子を元とした第1の閾値サブマトリクスを用いて二値化処理工程を行った結果得られた第1の二値画像および第2の二値画像を示した図である。
【0060】
また、図13は、本発明の実施の形態1における図11の元画像に対して、色分解工程、第2の準備工程、そして先の図9に示したようなシマウマ状の第2の閾値サブマトリクスを用いて二値化処理工程を行った結果得られた第1の二値画像および第2の二値画像を示した図である。
【0061】
また、図14は、本発明の実施の形態1における図12および図13のそれぞれで得られた第1の二値画像および第2の二値画像に対して、画像の合成工程を行った結果得られた合成画像を示した図である。図14の上段が第1の閾値サブマトリクスを用いた場合の合成画像であり、図14の下段が第2の閾値サブマトリクスを用いた場合の合成画像である。
【0062】
さらに、図15は、本発明の実施の形態1における図14で得られた合成画像に対して調整工程を行った結果得られた画像を示した図である。図15の上段が第1の閾値サブマトリクスを用いた場合の調整工程後の画像であり、図15の下段が第2の閾値サブマトリクスを用いた場合の調整工程後の画像である。
【0063】
これらの結果を元に、緯糸2丁の織物を製織する場合には、経糸に黒い糸を用いて第2の背景色を表し、緯糸にターゲット色および第1の背景色の色を持つ糸を使用する。そして、画像中の第2の背景色のエリアでは黒い経糸を表面に現し、ターゲット色のエリアではターゲット色の緯糸、第1の背景色のエリアでは第1の背景色の緯糸が表面に現れるようメートルデータを作成し、ジャカード織機を駆動するCGSデータを作成して製織を行う。これにより、元画像の陰影や色調を生地上で表現した織物を作成することが可能となる。
【0064】
以上のように、本発明に係るジャカード織物の製造方法は、デジタルカメラやイメージスキャナ等の画像入力手段により読み取った絵画、図案、風景等の画像データを、デザイン上の意図に沿って図案化などの加工を施し、繰り返し柄となる場合には、前後左右に繰り返し配置した場合に継ぎ目を目に付かないようにするリピート処理を行う。画像データの中に特徴的に含まれる色相をターゲット色として選択し、また、それ以外のうち淡い色成分の主たるものを第1の背景色、濃い色成分の主たるものを第2の背景色として選択する。
【0065】
そして、CMYK色分解、またはRGB色分解によって、色分解した画像チャンネルの中から、ターゲット色および第2の背景色とそのほかの色が陰と陽の対比となってグレースケール化された第1のグレー画像を抽出する。さらに、第2の背景色とそのほか全ての色が陰と陽の対比としてグレースケール化された第2のグレー画像を抽出する。
【0066】
そして、2つのグレー画像のそれぞれに対して、後続の二値化処理工程で効果的な結果が得られるように、陰影の濃度を適正なレベルに補正する。そして、補正後の2つのグレー画像に対して、あらかじめ作成した閾値サブマトリクスを使用して組織的ディザ法による二値化処理を行う。
【0067】
さらに、二値化処理をした2つの画像を合成して、ターゲット色、第1の背景色、第2の背景色の3色からなる画像に変換するとともに、二値化処理で得られた画像に対して、経糸や緯糸が必要以上に長い区間で浮かないよう組織点を追加する織物組織としての調整処理を施す。
【0068】
ここで、二値化処理工程において使用する閾値サブマトリクスは、元となる画像を組織的ディザ法によって二値化する際に用いるものである。そして、本発明で使用する閾値サブマトリクスのうち、第1の閾値サブマトリクスを用いて二値化処理を行うことで、元の画像の陰影を、織物組織に直接的に変換する作用を有する。また、第2の閾値サブマトリクスを用いて二値化処理を行うことで、元の画像の陰影を、例えばシマウマの模様状の縞の太さによって表すように変換する作用を有する。
【0069】
第1の閾値サブマトリクスを用いた二値化処理によって、元の画像の陰影を織物組織に変換することにより、規則性をもったパターンを有する織物用データを生成することができる。従って、写真織と一般に呼ばれている従来技術が通常の織物組織のパターンではなく、ノイズ状のパターンとなっていることと比較して、糸の光沢が損なわれることが少ない点、および糸が規則的に配列された織物となる点から、通常の織物が持っている織物の風合いに近い織物が製織可能となる。
【0070】
また、第2の閾値サブマトリクスを用いた二値化処理によって、元の画像の陰影の濃淡と、閾値サブマトリクスが持つ陰影パターンの形状を同時に表現する織物用データを生成することができる。その結果を織物にした場合には、例えば、写真を元にした絵柄を写真そっくりに表現したときと比べて、次のような利点を有する。
【0071】
まず第1点として、第2の閾値サブマトリクスのパターンによって図案としての装飾性を増すことができる。また、第2点として、同じ元画像を使用して図案を作成しても、様々な第2の閾値サブマトリクスを使い分けることによって、デザインのテイストを変化させることができ、バリエーションの自由度が増す。
【0072】
また、第3点として、デザイン上の理由から、元画像の陰影と第2の閾値サブマトリクスのパターンのどちらか一方を意図的に目立たせ、他方を目立たなくさせる操作を行うことが可能である。また、第4点として、元の画像が、ある角度に長く伸びたモチーフの繰り返しのような柄である場合に、第2の閾値サブマトリクスのパターンが元の画像のモチーフの繰り返しが持つ角度に対して直角に交わるような角度の繰り返し柄のものを使用した場合、織物を見る角度によって第2の閾値サブマトリクスのパターンだけが目立つ場合と、逆に元の画像の陰影が目立つ場合が生じるという視覚的な効果をもたらすことが可能である。
【0073】
さらに、第5点として、経糸と緯糸にほとんど同じ色調の糸を用いてモノトーン調の織物とした場合に、縦方向あるいは横方向から見たときに、経糸ないし緯糸のどちらかの糸の光沢が勝ることによって、元の画像の陰影、第2の閾値サブマトリクスが持つ陰影パターンの、どちらか一方が目立ち、見る角度を変えたときに他方が目立つような効果をもたらすことが可能である。
【0074】
なお、第3点として挙げた、一方のみを目立たせるような操作は、具体的には、例えば、写実的な柄をあえて目立たなくさせたい場合には、第2の閾値サブマトリクスの濃淡の空間周波数を大きくすることや複雑なパターンにすることによって、元画像の陰影を目立たなくさせることが可能となる。
【0075】
本発明は、ジャカード織物の製造に適用した場合、特殊な装置やソフトを使用することなく、また織機に仕掛ける糸の色数も通常の織物製造を行う場合とほぼ同じ条件で、つまり、通常の織物と同等のコストで、これまでにない表現の織物製造を行うことが可能である。このため、産業上の実現可能性は高く、またデザインの可能性の幅も広がるために、産業上の価値は高く、利用可能性は十分認められる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施の形態1におけるジャカード織物の製造方法に関する一連の処理工程のフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態1において第1のグレー画像として抽出された画像の一例を示した図である。
【図3】本発明の実施の形態1において第2のグレー画像として抽出された画像の一例を示した図である。
【図4】本発明の実施の形態1における第1の閾値サブマトリクスの一例を示した図である。
【図5】本発明の実施の形態1における図4に示した第1の閾値サブマトリクスでグレー画像を二値化処理した結果の二値画像と、通常の織物製造で用いられる織物組織の代表的なものである繻子組織とその変化組織を比較した図である。
【図6】本発明の実施の形態1における図4の閾値サブマトリクスを用いてグラデーション状の画像を二値化処理した結果を示した図である。
【図7】本発明の実施の形態1における織物組織の綾織を元にした第1の閾値サブマトリクスを示した図である。
【図8】本発明の実施の形態1における織物組織の変化組織を元にした第1の閾値サブマトリクスを示した図である。
【図9】本発明の実施の形態1における第2の閾値サブマトリクスを例示した図である。
【図10】本発明の実施の形態1における図9の第2の閾値サブマトリクスを用いてグラデーション状の画像を二値化処理した結果を示した図である。
【図11】本発明の実施の形態1における元画像の一例である。
【図12】本発明の実施の形態1における図11の元画像に対して、色分解工程、第2の準備工程、そして先の図4に示したような8枚繻子を元とした第1の閾値サブマトリクスを用いて二値化処理工程を行った結果得られた第1の二値画像および第2の二値画像を示した図である。
【図13】本発明の実施の形態1における図11の元画像に対して、色分解工程、第2の準備工程、そして先の図9に示したようなシマウマ状の第2の閾値サブマトリクスを用いて二値化処理工程を行った結果得られた第1の二値画像および第2の二値画像を示した図である。
【図14】本発明の実施の形態1における図12および図13のそれぞれで得られた第1の二値画像および第2の二値画像に対して、画像の合成工程を行った結果得られた合成画像を示した図である。
【図15】本発明の実施の形態1における図14で得られた合成画像に対して調整工程を行った結果得られた画像を示した図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルカメラやイメージスキャナ等の画像入力手段により読み取った風景、絵画、図案等の画像データに対し、あらかじめ織物用に作成した閾値サブマトリクスを活用して組織的ディザ法による二値化処理をコンピュータによって行い、元の画像データに備わった微妙な陰影や色彩を生地上に表出するジャカード織物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生地上に微妙な陰影を表現した織物を作成しようとする場合、ジャカード織物の伝統的な作成方法においては、元絵となる画像やイラストを、同等の濃淡や色調を持つと認められる幾つかの領域に分割し、その領域ごとに塗りわけて色まとめ作業を行う。さらに、塗り分けた領域ごとに、経糸と緯糸の見え方の比率が異なる織物組織を適用し、それぞれ異なる色で染められた経糸と緯糸を用いて製織を行う。その結果、元絵の持つ濃淡や色調が織物として再現される。なお、ここで行われる通常のジャカード織物の製織手法については、公知のものであるため、説明を省略する。
【0003】
このように、生地上に微妙な陰影を表現した織物を作成する場合には、生地上に表出される陰影や色調のグラデーションの細かさは、元絵を幾つかの領域に分割する工程における分割数に依存する。従って、元絵が持つ陰影や色調の変化を、より高精細に表現しようとする場合には、より多くの細かい領域に元絵を分割する必要がある。
【0004】
フルカラーの画像データに対して画像処理を行い、それを元にして生地上にカラー写真のようなフルカラーの柄を表出する手法としては、概ね経糸4色以上、緯糸3色以上の異なる色に染めた糸を用い、その組み合わせによって多くの色を生地上に表現する伝統的な手法であるゴブラン織の技術を応用したものがある(例えば、特許文献1参照)。また、別の手法としては、カラー印刷で用いられる色分解の技術を応用し、フルカラー画像をCMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)分解やRGB分解する画像処理を経て、特定の色糸が生地表面に可視化するような織物組織に変換するものがある(例えば、特許文献2、3参照)。
【0005】
これらの手法では、数色〜十数色の限られた色の糸を経糸、緯糸に用いて、カラー写真のようなフルカラーの絵柄を、元画像に近似させた色合いで生地上に表出することが可能である。
【0006】
【特許文献1】特開2005−146504号公報
【特許文献2】特開2006−219810号公報
【特許文献3】特表2004−509244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術には次のような課題がある。上述したジャカード織物の伝統的な色まとめに基づく前者の手法においては、元となる画像を陰影や色調の濃淡を表現するために、同等程度の濃度や色合いの領域で画像を細分化する。そして、それぞれの領域ごとに、濃度や色合いに応じた織物組織を適用することで、陰影や色調を織物に表現している。
【0008】
しかしながら、陰影や色調の変化を高精細に表現する必要から、領域の分割を細かくする手法が考えられる。しかしながら、細分化するにつれて作業量が増大し、効率を悪化させるため、細分化には限界がある。また、隣接する領域に異なる系統の織物組織を適用した場合には、領域同士の境界線上の組織がノイズ状となることに対処しなければならない。その結果、陰影や色調の変化の精細さがかえって損なわれてしまう。このため、従来からの色まとめの手法によって、高精細な陰影や色調を表現するには限界があった。
【0009】
また、フルカラーの写真調の絵柄を織物に表現するため、CMYK分解などの画像処理によって、複数色に染めた糸を使用し、減法混色によって色彩表現を行う、後者の手法においては、次のような課題がある。生地上のある一点で特定の色を表現するときに、必要のない色の糸は、表面から不可視となるように、生地の裏面に配置させる必要がある。この結果、目に見えない部分にも糸を使用しなくてはならないという制約がある。
【0010】
また、4〜十数色の色に染めた糸をあらかじめ準備しておく必要があるうえに、生地表面で多く使用されている色の糸も、生地表面にはごくわずかしか現れず裏面に配置されて不可視化される色の糸も、生産上は同様に消耗される。このため、生産コストが高くなってしまうという欠点があり、さらに、使用する糸の色数が多いほど裏面に配置される色糸が多くなり、生地が厚手になってしまうという課題がある。
【0011】
また、フルカラーの写真調の織物は、このようなコスト面や生産面における短所だけでなく、織物知識の乏しい消費者から見た場合には、カラー写真の見え方に近いものほど、カラープリントされた低コストの生地と違いが判別しにくくなる。このため、手間とコストをかけた分相応の付加価値が伝わりにくいという、商品訴求力の面での欠点も併せ持っている。
【0012】
写真調の織物としての商品の魅力や価値を消費者に訴求するためには、「写真織り」などのキャッチフレーズを前面に出すことなどが手法として考えられる。しかしながら、通常の被服やインテリア用の生地素材として用いる場合には、「写真織り」などの呼称を前面に出す手法は、不適当な場合が多いと考えられる。
【0013】
また、通常の被服やインテリアの素材として用いられるもののうち、大半を占めるのは2〜3色、あるいはモノトーンの生地であり、カラフルなものでも数色以内の色使いである。このことを考慮すると、フルカラーの写真調の生地を受け入れることが可能な商品分野は、あまり多くなり得ないという課題もある。
【0014】
本発明は上述のような課題を解決するためになされたもので、色まとめの手法では表現することが困難であった微妙な陰影の階調表現を実現し、また、フルカラーの写真調の織物では実現が困難であった薄物の生地にも適用可能であり、さらに、通常の被服、インテリアなどの素材にも適用しうるデザイン性を備え、かつ豊かな陰影や色調の表現が可能な織物を製造することができるジャカード織物の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るジャカード織物の製造方法は、元画像の陰影を反映した画像を織物生地上に織り込むためのジャカード織物の製造方法であって、織物生地上に表現したい元画像のデータを読み込む入力手段と、元画像のデータに対して織物に適した特徴を備えるようにあらかじめ作成された閾値サブマトリクスを使用して組織的ディザ法により二値化処理を行い、元画像の持つ陰影が反映された織物用データに変換するデータ変換手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、元画像のデータに対して織物に適した特徴を備えるようにあらかじめ作成された閾値サブマトリクスを使用して組織的ディザ法により二値化処理を行い、元画像の持つ陰影が反映された織物用データに変換する手段を用いることにより、色まとめの手法では表現することが困難であった微妙な陰影の階調表現を実現し、また、フルカラーの写真調の織物では実現が困難であった薄物の生地にも適用可能であり、さらに、通常の被服、インテリアなどの素材にも適用しうるデザイン性を備え、かつ豊かな陰影や色調の表現が可能な織物を製造することができるジャカード織物の製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のジャカード織物の製造方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0018】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1におけるジャカード織物の製造方法に関する一連の処理工程のフローチャートである。本発明のジャカード織物の製造方法は、ハードウェアとして演算処理手段であるCPU、データの記憶部であるメモリ、およびデータの入出力手段を備えたコンピュータによる一連の処理方法に関するものである。そこで、図1のフローチャートを用いて、元画像の陰影を反映した画像を織物生地上に織り込むためにコンピュータで行われるデータ変換処理について詳細に説明する。
【0019】
まず初めのステップS101における第1の準備工程は、所望する大きさの柄が生地上に表出されるよう、画像の縦、横方向の画素数を、使用する経糸、緯糸の本数に一致させ、画像データのサイズ調整等を行う工程である。なお、この第1の準備工程は、従来からあるジャカード織の準備工程と同様のものであるため、詳細な説明を省略する。
【0020】
次に、ステップS102における色分解工程は、フルカラーの元画像データをフルカラーの織物として再現するのではなく、3色を用いて擬似的なカラー写真風の織物を生成するために行われる前処理である。元画像データの持つ特徴的な色相であるターゲット色1色と、ターゲット色の背景となる他の領域を明−暗に分ける第1の背景色および第2の背景色の合計3色が、オペレータにより選択され、入力手段を介してコンピュータに読み込まれる。
【0021】
例えば、第1の背景色および第2の背景色をそれぞれ白と黒、ターゲット色を赤とした3つの色がオペレータにより選択されて本発明の方法で織物を作成した場合、白と黒の対比による明度、および赤と(白および黒)の対比による彩度の表現が可能である。すなわち、色彩の3要素である明度、彩度、色相のうち、明度と彩度の2つの要素を表現できることとなる。
【0022】
このことは、白黒画像が明度のみの1要素を表現可能であり、カラー画像が明度、彩度、色相の3要素を表現可能であることと比較すると、本発明では、白黒画像とカラー画像の中間の表現能力を保持することが可能となる。
【0023】
このように、本発明における擬似的なカラー表示では、3色の糸のみによって明暗や色調を表現するため、表現可能な色彩の幅は、非常に限られ、多くの色が入り混じったような表現は困難となる。しかしながら、被服やインテリア用の素材として用いられる生地に対して一般的に求められる色彩としては、単色や数色の組み合わせが大半である。
【0024】
従って、このことを考慮すれば、3つの色の組み合わせが少なすぎるとは考えられない。逆に、使用する色が少ないことによって、準備しなくてはならない色の糸が少なくて済むこと、薄手の生地の製造が可能となること、ターゲット色や背景色を別の色と交換することによって、織物製品の開発には欠かすことのできない配色展開を容易に行うことができることといったメリットが生まれる。
【0025】
ステップS102の色分解工程の具体的な処理としては、まず、オペレータにより選択されたターゲット色、第1の背景色、および第2の背景色の3色を、入力手段を介して読み込む。オペレータによる3色の選択基準は、元となる画像のモチーフによって異なるが、基本的には、画像データの中に特徴的に含まれる色相をターゲット色として選択し、ターゲット色以外のうち、淡い色成分の主たるものを第1の背景色、濃い色成分の主たるものを第2の背景色として選択する。
【0026】
例えば、元の画像が、ぼんやりとした背景の前にある、人物の顔のような写真の場合には、ターゲット色を人物の肌や唇の色とし、第1の背景色を白、第2の背景色を人物の瞳や髪の色が黒であれば黒とする。このようにして、オペレータは、デザイン上の理由から最も強調したいモチーフが最も効果的に表現できる色を基準として、ターゲット色を選択する。
【0027】
3色が選択された後の色分解工程において、コンピュータは、画像レタッチソフトやDTPで用いられる色分解ソフトとして一般的に使用されているソフトの機能を用いて、CMYK色分解やRGB色分解を行う。次に、オペレータは、色分解された画像チャンネル(上記のCMYK色分解およびRGB色分解を行った場合には、C、M、Y、K、R、G、Bの7チャンネル分のデータに相当)の中から、ターゲット色および第2の背景色が強い信号として表われ、その他の色が弱い信号となって表われることによって陰と陽の対比となってグレースケール化される第1のグレー画像を抽出する。図2は、本発明の実施の形態1において第1のグレー画像として抽出された画像の一例を示した図である。
【0028】
同様に、オペレータは、第2の背景色とそのほか全ての色が陰と陽の対比としてグレースケール化される第2のグレー画像を抽出する。図3は、本発明の実施の形態1において第2のグレー画像として抽出された画像の一例を示した図である。
【0029】
ここで、ターゲット色がCMYおよびRGBのいずれかの色相と一致しない場合など、第1のグレー画像を抽出することとが困難な場合があることが考えられる。このような場合には、オペレータは、画像レタッチソフトの機能などを用いて色相をシフトし、ターゲット色がCMYおよびRGBのいずれかに一致させるなど、元となる画像を編集してから、この色分解工程を行うことができる。
【0030】
ここで、色分解工程そのもの、および画像の色相をシフトさせる方法については、画像レタッチソフトなどで容易に行うことができる公知の技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0031】
次に、ステップS103における第2の準備工程について説明する。画像の陰影の濃度を適正なレベルに補正するこの第2の準備工程の目的は、次のステップS104における二値化処理工程で、より良好な結果を得るための調整を行うことである。本発明では、二値化処理工程によって第1のグレー画像および第2のグレー画像は二値化され、白か黒の2色からなる第1の二値画像および第2の二値画像に変換される。その結果、最終的に画像内の空間周波数がほぼ一定に近い値となって、画像内のどの部分にも白と黒が交互に現出する繰り返しパターンが生じるように二値化処理を行うことによって、画像を製織可能な織物組織に変換することを主たる目的としている。
【0032】
ここで、「白と黒が交互に現出する繰り返しパターン」とは、例えば、後述する図5に示すような織物組織の8枚繻子に見られるように、どの部分をとっても必ず8マスの間には白と黒の両方が入っていること、あるいは後述する図9のシマウマ模様でいえば、画像内がシマウマの模様状の縞模様で埋め尽くされて、無地の場所がないようにすることを意味している。
【0033】
しかしながら、二値化処理工程によって二値化された画像中に空間周波数の低い領域(言い換えれば、黒のみ、あるいは白のみで構成された無地の領域)の面積が多くあればあるほど、二値化処理工程で行う画像処理の効果の及ばない領域が増えることとなる。そして、このような場合には、本発明の目的である陰影や色調の微妙な変化の表現の精度が損なわれる結果を招くこととなる。
【0034】
そこで、ステップS103の第2の準備工程において、コンピュータは、ステップS104の二値化処理工程の結果として、画像内の空間周波数をほぼ一定に近づけるために、0〜255の値を持つグレースケール画像の信号を、必要に応じて最小値が1以上、最大値が255未満となるようなレベル補正を行う。
【0035】
このようなレベル補正を行う分量については、元画像や二値化処理工程で用いる閾値サブマトリクスの量によって変化する。また、図1のフローチャートに示されているように、この第2の準備工程は、二値化処理工程の結果によっては、トライアンドエラーを繰り返し、または、二値化処理工程の結果をフィードバックして繰り返し処理を行うこととなる。
【0036】
次に、ステップS104の二値化処理工程において、コンピュータは、すでにオペレータにより抽出されたグレースケール画像である第1のグレー画像および第2のグレー画像に対して、あらかじめ作成した閾値サブマトリクスを用いて組織的ディザ法により二値化処理を行う。
【0037】
本発明で使用する閾値サブマトリクスには、大きく分類して2種類がある。第1の閾値サブマトリクスは、二値化処理の結果が織物組織の変化組織となるようなマトリクスで表されるものである。また、第2の閾値サブマトリクスは、規則的な空間周波数を備えた、繰り返しパターン状のものである。まず初めに、第1の閾値サブマトリクスを適用する場合について説明する。
【0038】
図4は、本発明の実施の形態1における第1の閾値サブマトリクスの一例を示した図である。また、図5は、本発明の実施の形態1における図4に示した第1の閾値サブマトリクスでグレー画像を二値化処理した結果の二値画像と、通常の織物製造で用いられる織物組織の代表的なものである繻子組織とその変化組織を比較した図である。
【0039】
より具体的には、図4に示した第1の閾値サブマトリクスは、8×8の計64個のマス目のそれぞれに対して、0〜255のうちの50種類の閾値のいずれかを当てはめて構成されている。そして、この第1の閾値サブマトリクスで、グレー画像を二値化処理した結果の二値画像(図5の上段参照)と、通常の織物製造で用いられる織物組織の代表的なものである繻子組織とその変化組織(図5の下段参照)とは、同じパターンとなっている。
【0040】
このことは、この第1の閾値サブマトリクスを用いて画像の二値化処理を行うだけで、元画像は、画像の陰影に応じた織物組織の変化組織と同じパターンによって構成される二値画像となり、製織可能な織物用データに変換できることを示している。また、基本的な織物組織とその変化組織を、図4に示したような第1の閾値サブマトリクスに変換して二値化処理を行った場合、生地上には、通常用いられる織物組織とその変化組織で製織された柄が表出することとなる。
【0041】
また、図5に示した8枚繻子組織を元にした第1の閾値サブマトリクス(図4参照)では、8×8のマトリクスの中に0の値を持つ点が8マス、255の値を持つ点が8マスあり、残りの48マスには5〜240までの値のうち重複しない48の数値が配置されている。このため、この第1の閾値サブマトリクスを使用して組織的ディザ法による二値化処理を行った場合、8×8ピクセルの領域内に最大で50段階の濃度が表現可能となり、そのすべての段階が8枚繻子組織を基本とした変化組織となる。
【0042】
なお、0の値および255の値を持つマスがそれぞれ8マスずつあるのは、二値化処理の結果、8×8のマトリクスの各列に最低1マスは組織点となるマスが発生することが必要であるという、織物組織の必要条件を保持するためである。これによって、陰影の階調の最も淡い領域は、軽口繻子となり、最も暗い領域は、重口繻子となり、その中間の領域は、全て繻子の変化組織となって、全体として織物組織としての破綻が生じないようにすることが可能となる。図6は、本発明の実施の形態1における図4の閾値サブマトリクスを用いてグラデーション状の画像を二値化処理した結果を示した図である。
【0043】
なお、二値化処理の結果が織物組織の変化組織となるような第1の閾値サブマトリクスは、先の図4に示したような8枚繻子組織を元にしたものには限定されない。たとえば、8枚繻子と同様の手法によって5枚繻子、10枚繻子、16枚繻子などの他の繻子組織の変化組織となるような第1の閾値サブマトリクスを適用することが可能である。
【0044】
また、図7は、本発明の実施の形態1における織物組織の綾織を元にした第1の閾値サブマトリクスを示した図であり、図8は、本発明の実施の形態1における織物組織の変化組織を元にした第1の閾値サブマトリクスを示した図である。このように、図7に示すような綾織の組織、あるいは、図8に示すような変化組織を元にした第1の閾値サブマトリクスを作成することも可能である。
【0045】
次に、閾値サブマトリクスとして、規則的な空間周波数を備えた、繰り返しパターン状のものである第2の閾値サブマトリクスを適用する場合について説明する。図9は、本発明の実施の形態1における第2の閾値サブマトリクスを例示した図であり、シマウマの模様を模したパターンの例を示している。
【0046】
この図9は、本来あるパターンに従って段階的に変化する数値を配置したマトリクスである閾値サブマトリクスを、その各マスの値に従ってグレースケールの画像で表したものである。第2の閾値サブマトリクスを使用した組織的ディザ法による二値化処理を行うことによっては、先の実施の形態1で説明したような第1の閾値サブマトリクスのように、直接的に画像を織物組織に変換することはできない。
【0047】
しかしながら、例えば、図9に示したような第2の閾値サブマトリクスを適用することにより、元となる画像の濃淡を、シマウマの縞模様のようなパターンの太さの違いで表現できる織物用データに変換することが可能となる。
【0048】
図10は、本発明の実施の形態1における図9の第2の閾値サブマトリクスを用いてグラデーション状の画像を二値化処理した結果を示した図である。図9に示した第2の閾値サブマトリクスは、白と黒の階調をそれぞれ0、255とした場合、閾値サブマトリクスにあるシマウマの模様状の陰影の一本一本が、それぞれ濃度0から255へ、そして255から0へと推移するグラデーションとなっており、その繰り返しによるパターンによって閾値サブマトリクス全体が構成されている。第2の閾値サブマトリクスは、このような繰り返しによるパターンを備えている点が特徴である。
【0049】
このため、図9に示した第2の閾値サブマトリクスを用いて組織的ディザ法による二値化処理を行った場合、濃淡の淡い領域では縞模様が細くなり、濃い領域では縞模様が太くなって、元画像の陰影を二値画像上で表現する効果を生じさせている。この手法を用いることによって、図10に示したように、元の画像の濃淡と、シマウマの縞模様のようなパターンの両方を同時に表現することが可能となる。
【0050】
織物を製織するジャカード織機の口数が経糸総本数に満たない場合には、織物の柄は、口数に等しいか口数を整数で割った経糸本数分の繰り返し柄として作成される必要がある。この手法で織物の柄を作成しようとする場合、第2の閾値サブマトリクス自体も前後左右に展開したときに連続性を保ったパターンとなっている必要がある。
【0051】
ただし、繰り返し柄を表出するのに必要な経糸本数と、閾値サブマトリクスの幅とが等しい数値である必要はなく、閾値サブマトリクスのサイズは、作成しようとする柄サイズの縦横ともに整数分の1のサイズであればよい。なお、図9に示した第2の閾値サブマトリクスは、前後左右への繰り返しを行っても連続性を保ったパターンとなっている。より具体的には、この図9に示した第2の閾値サブマトリクスを前後左右へ繰り返し並べた際に、隣接する2つの第2の閾値サブマトリクスの境界面でパターンの太さ、およびパターンの濃淡レベルが連続性を有している。
【0052】
次に、先の図1のフローチャートのステップS105における画像の合成工程について説明する。この画像の合成工程では、二値化処理をした第1の二値画像と第2の二値画像とを合成して、ターゲット色、第1の背景色、第2の背景色の3色からなる画像に変換する。
【0053】
合成をする際には、まず白と黒で示されている第1の二値画像の黒を、ターゲット色のような有彩色に変換し、そして、この第1の二値画像の上に、第2の二値画像を重ね合わせて乗算処理を行うことによって、ターゲット色と、白で示された第1の背景色、黒で示された第2の背景色の、3色からなる合成画像が作成される。画像の乗算処理による重ね合わせは、通常使用されている画像レタッチソフトの機能を使うことで容易に行うことのできる公知の技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0054】
また、この画像の合成工程で、第2の二値画像の黒を、黒と白以外の色、例えば灰色に変換してから乗算による合成を行った場合、作成される合成後の画像は、ターゲット色、白で示された第1の背景色、灰色、灰色とターゲット色が乗算された色、の4色の画像を作成することができる。こうして新たに追加された、灰色とターゲット色とが乗算された色があることによって、第2の2値画像の黒色をそのままで合成した場合と比較して、次のステップS106における調整工程で織物組織への補正を行う際に、より細かい織物組織上の処理を行うことができる。
【0055】
ステップS106における調整工程では、先のステップS105の画像の合成工程の結果得られた合成画像の中で、経糸や緯糸が必要以上に長い区間で浮くことのないように組織点を追加することによって、織物組織として適した形に調整を行う。織物は、経糸と緯糸が連続的に上下関係を交互に入れ替えられて配列された構造物である。そこで、経糸がある本数以上連続して緯糸の上、あるいは下に配置されているような箇所があった場合には、織物の品質上の瑕疵であるピリングや目寄りを生じさせる原因となる。このため、過剰に連続して糸が浮いた状態を避ける必要がある。
【0056】
そこで、この調整工程では、このような理由から、先の画像の合成工程の結果得られた合成画像の中で、縦方向ないし横方向に、ある本数以上の糸の浮きが発生するような場合に、組織点を追加する処理を行う。この組織点を追加する調整工程の具体的な手順については、通常のジャカード織物のデータ作成で行われている作業と同等の内容であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0057】
その後、この調整工程を経て得られた画像を元にジャカード織機を稼動させるCGSデータを作成し、CGSデータを織機に転送して製織工程に入る。しかしながら、この工程は、本発明に限らず、通常のジャカード織物の製造で行われている作業と同等の内容であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0058】
上述の説明では、元となる画像がフルカラーの画像であり、これをターゲット色と第1の背景色と第2の背景色の3色で擬似的なカラー画像に変換することを前提とした。これに対して、3色を使用するのではなく、2色のみの色調でモノトーンの織物を表現することも可能である。この際には、先の図1に示したステップS102の色分解工程、およびステップS105の画像の合成工程を省略することで、モノトーン調の織物を作成することができる。
【0059】
最後に、本発明における一連の処理を施した結果得られる画像について、いくつかの例を示す。図11は、本発明の実施の形態1における元画像の一例である。これに対して、図12は、本発明の実施の形態1における図11の元画像に対して、色分解工程、第2の準備工程、そして先の図4に示したような8枚繻子を元とした第1の閾値サブマトリクスを用いて二値化処理工程を行った結果得られた第1の二値画像および第2の二値画像を示した図である。
【0060】
また、図13は、本発明の実施の形態1における図11の元画像に対して、色分解工程、第2の準備工程、そして先の図9に示したようなシマウマ状の第2の閾値サブマトリクスを用いて二値化処理工程を行った結果得られた第1の二値画像および第2の二値画像を示した図である。
【0061】
また、図14は、本発明の実施の形態1における図12および図13のそれぞれで得られた第1の二値画像および第2の二値画像に対して、画像の合成工程を行った結果得られた合成画像を示した図である。図14の上段が第1の閾値サブマトリクスを用いた場合の合成画像であり、図14の下段が第2の閾値サブマトリクスを用いた場合の合成画像である。
【0062】
さらに、図15は、本発明の実施の形態1における図14で得られた合成画像に対して調整工程を行った結果得られた画像を示した図である。図15の上段が第1の閾値サブマトリクスを用いた場合の調整工程後の画像であり、図15の下段が第2の閾値サブマトリクスを用いた場合の調整工程後の画像である。
【0063】
これらの結果を元に、緯糸2丁の織物を製織する場合には、経糸に黒い糸を用いて第2の背景色を表し、緯糸にターゲット色および第1の背景色の色を持つ糸を使用する。そして、画像中の第2の背景色のエリアでは黒い経糸を表面に現し、ターゲット色のエリアではターゲット色の緯糸、第1の背景色のエリアでは第1の背景色の緯糸が表面に現れるようメートルデータを作成し、ジャカード織機を駆動するCGSデータを作成して製織を行う。これにより、元画像の陰影や色調を生地上で表現した織物を作成することが可能となる。
【0064】
以上のように、本発明に係るジャカード織物の製造方法は、デジタルカメラやイメージスキャナ等の画像入力手段により読み取った絵画、図案、風景等の画像データを、デザイン上の意図に沿って図案化などの加工を施し、繰り返し柄となる場合には、前後左右に繰り返し配置した場合に継ぎ目を目に付かないようにするリピート処理を行う。画像データの中に特徴的に含まれる色相をターゲット色として選択し、また、それ以外のうち淡い色成分の主たるものを第1の背景色、濃い色成分の主たるものを第2の背景色として選択する。
【0065】
そして、CMYK色分解、またはRGB色分解によって、色分解した画像チャンネルの中から、ターゲット色および第2の背景色とそのほかの色が陰と陽の対比となってグレースケール化された第1のグレー画像を抽出する。さらに、第2の背景色とそのほか全ての色が陰と陽の対比としてグレースケール化された第2のグレー画像を抽出する。
【0066】
そして、2つのグレー画像のそれぞれに対して、後続の二値化処理工程で効果的な結果が得られるように、陰影の濃度を適正なレベルに補正する。そして、補正後の2つのグレー画像に対して、あらかじめ作成した閾値サブマトリクスを使用して組織的ディザ法による二値化処理を行う。
【0067】
さらに、二値化処理をした2つの画像を合成して、ターゲット色、第1の背景色、第2の背景色の3色からなる画像に変換するとともに、二値化処理で得られた画像に対して、経糸や緯糸が必要以上に長い区間で浮かないよう組織点を追加する織物組織としての調整処理を施す。
【0068】
ここで、二値化処理工程において使用する閾値サブマトリクスは、元となる画像を組織的ディザ法によって二値化する際に用いるものである。そして、本発明で使用する閾値サブマトリクスのうち、第1の閾値サブマトリクスを用いて二値化処理を行うことで、元の画像の陰影を、織物組織に直接的に変換する作用を有する。また、第2の閾値サブマトリクスを用いて二値化処理を行うことで、元の画像の陰影を、例えばシマウマの模様状の縞の太さによって表すように変換する作用を有する。
【0069】
第1の閾値サブマトリクスを用いた二値化処理によって、元の画像の陰影を織物組織に変換することにより、規則性をもったパターンを有する織物用データを生成することができる。従って、写真織と一般に呼ばれている従来技術が通常の織物組織のパターンではなく、ノイズ状のパターンとなっていることと比較して、糸の光沢が損なわれることが少ない点、および糸が規則的に配列された織物となる点から、通常の織物が持っている織物の風合いに近い織物が製織可能となる。
【0070】
また、第2の閾値サブマトリクスを用いた二値化処理によって、元の画像の陰影の濃淡と、閾値サブマトリクスが持つ陰影パターンの形状を同時に表現する織物用データを生成することができる。その結果を織物にした場合には、例えば、写真を元にした絵柄を写真そっくりに表現したときと比べて、次のような利点を有する。
【0071】
まず第1点として、第2の閾値サブマトリクスのパターンによって図案としての装飾性を増すことができる。また、第2点として、同じ元画像を使用して図案を作成しても、様々な第2の閾値サブマトリクスを使い分けることによって、デザインのテイストを変化させることができ、バリエーションの自由度が増す。
【0072】
また、第3点として、デザイン上の理由から、元画像の陰影と第2の閾値サブマトリクスのパターンのどちらか一方を意図的に目立たせ、他方を目立たなくさせる操作を行うことが可能である。また、第4点として、元の画像が、ある角度に長く伸びたモチーフの繰り返しのような柄である場合に、第2の閾値サブマトリクスのパターンが元の画像のモチーフの繰り返しが持つ角度に対して直角に交わるような角度の繰り返し柄のものを使用した場合、織物を見る角度によって第2の閾値サブマトリクスのパターンだけが目立つ場合と、逆に元の画像の陰影が目立つ場合が生じるという視覚的な効果をもたらすことが可能である。
【0073】
さらに、第5点として、経糸と緯糸にほとんど同じ色調の糸を用いてモノトーン調の織物とした場合に、縦方向あるいは横方向から見たときに、経糸ないし緯糸のどちらかの糸の光沢が勝ることによって、元の画像の陰影、第2の閾値サブマトリクスが持つ陰影パターンの、どちらか一方が目立ち、見る角度を変えたときに他方が目立つような効果をもたらすことが可能である。
【0074】
なお、第3点として挙げた、一方のみを目立たせるような操作は、具体的には、例えば、写実的な柄をあえて目立たなくさせたい場合には、第2の閾値サブマトリクスの濃淡の空間周波数を大きくすることや複雑なパターンにすることによって、元画像の陰影を目立たなくさせることが可能となる。
【0075】
本発明は、ジャカード織物の製造に適用した場合、特殊な装置やソフトを使用することなく、また織機に仕掛ける糸の色数も通常の織物製造を行う場合とほぼ同じ条件で、つまり、通常の織物と同等のコストで、これまでにない表現の織物製造を行うことが可能である。このため、産業上の実現可能性は高く、またデザインの可能性の幅も広がるために、産業上の価値は高く、利用可能性は十分認められる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施の形態1におけるジャカード織物の製造方法に関する一連の処理工程のフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態1において第1のグレー画像として抽出された画像の一例を示した図である。
【図3】本発明の実施の形態1において第2のグレー画像として抽出された画像の一例を示した図である。
【図4】本発明の実施の形態1における第1の閾値サブマトリクスの一例を示した図である。
【図5】本発明の実施の形態1における図4に示した第1の閾値サブマトリクスでグレー画像を二値化処理した結果の二値画像と、通常の織物製造で用いられる織物組織の代表的なものである繻子組織とその変化組織を比較した図である。
【図6】本発明の実施の形態1における図4の閾値サブマトリクスを用いてグラデーション状の画像を二値化処理した結果を示した図である。
【図7】本発明の実施の形態1における織物組織の綾織を元にした第1の閾値サブマトリクスを示した図である。
【図8】本発明の実施の形態1における織物組織の変化組織を元にした第1の閾値サブマトリクスを示した図である。
【図9】本発明の実施の形態1における第2の閾値サブマトリクスを例示した図である。
【図10】本発明の実施の形態1における図9の第2の閾値サブマトリクスを用いてグラデーション状の画像を二値化処理した結果を示した図である。
【図11】本発明の実施の形態1における元画像の一例である。
【図12】本発明の実施の形態1における図11の元画像に対して、色分解工程、第2の準備工程、そして先の図4に示したような8枚繻子を元とした第1の閾値サブマトリクスを用いて二値化処理工程を行った結果得られた第1の二値画像および第2の二値画像を示した図である。
【図13】本発明の実施の形態1における図11の元画像に対して、色分解工程、第2の準備工程、そして先の図9に示したようなシマウマ状の第2の閾値サブマトリクスを用いて二値化処理工程を行った結果得られた第1の二値画像および第2の二値画像を示した図である。
【図14】本発明の実施の形態1における図12および図13のそれぞれで得られた第1の二値画像および第2の二値画像に対して、画像の合成工程を行った結果得られた合成画像を示した図である。
【図15】本発明の実施の形態1における図14で得られた合成画像に対して調整工程を行った結果得られた画像を示した図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
元画像の陰影を反映した画像を織物生地上に織り込むためのジャカード織物の製造方法であって、
前記織物生地上に表現したい前記元画像のデータを読み込む入力手段と、
前記元画像のデータに対して織物に適した特徴を備えるようにあらかじめ作成された閾値サブマトリクスを使用して組織的ディザ法により二値化処理を行い、前記元画像の持つ陰影が反映された織物用データに変換するデータ変換手段と
を備えたことを特徴とするジャカード織物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のジャカード織物の製造方法において、
前記データ変換手段は、前記元画像のデータに対し、織物組織の形状を元にあらかじめ作成された第1の閾値サブマトリクスを使用して前記二値化処理を行い、前記元画像の持つ陰影を織物組織に直接変換することで前記織物用データを生成することを特徴とするジャカード織物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のジャカード織物の製造方法において、
前記データ変換手段は、前記元画像のデータに対し、文様状のパターンを持つようにあらかじめ作成された第2の閾値サブマトリクスを使用して前記二値化処理を行い、前記元画像の持つ陰影を前記織物生地上に織り込むパターンの線の太さの違いとして変換することで前記織物用データを生成することを特徴とするジャカード織物の製造方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載のジャカード織物の製造方法において、
前記入力手段は、前記元画像の陰影を反映した画像として3色の糸で擬似的なカラー写真風の柄を前記織物生地上に織り込むために、前記元画像のデータに対し、図案として強調したい特徴的な色彩をターゲット色、前記ターゲット色以外の淡い色の代表を第1の背景色、前記ターゲット色以外の濃い色の代表を第2の背景色として選択された3つの色彩を前記元画像のデータとともにさらに読み込み、
前記データ変換手段は、前記入力手段で読み込まれた前記3つの色彩が効果的に現れるように前記元画像のデータを色分解し、色分解後の画像データに対して前記二値化処理を行って前記織物用データを生成することを特徴とするジャカード織物の製造方法。
【請求項1】
元画像の陰影を反映した画像を織物生地上に織り込むためのジャカード織物の製造方法であって、
前記織物生地上に表現したい前記元画像のデータを読み込む入力手段と、
前記元画像のデータに対して織物に適した特徴を備えるようにあらかじめ作成された閾値サブマトリクスを使用して組織的ディザ法により二値化処理を行い、前記元画像の持つ陰影が反映された織物用データに変換するデータ変換手段と
を備えたことを特徴とするジャカード織物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のジャカード織物の製造方法において、
前記データ変換手段は、前記元画像のデータに対し、織物組織の形状を元にあらかじめ作成された第1の閾値サブマトリクスを使用して前記二値化処理を行い、前記元画像の持つ陰影を織物組織に直接変換することで前記織物用データを生成することを特徴とするジャカード織物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のジャカード織物の製造方法において、
前記データ変換手段は、前記元画像のデータに対し、文様状のパターンを持つようにあらかじめ作成された第2の閾値サブマトリクスを使用して前記二値化処理を行い、前記元画像の持つ陰影を前記織物生地上に織り込むパターンの線の太さの違いとして変換することで前記織物用データを生成することを特徴とするジャカード織物の製造方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載のジャカード織物の製造方法において、
前記入力手段は、前記元画像の陰影を反映した画像として3色の糸で擬似的なカラー写真風の柄を前記織物生地上に織り込むために、前記元画像のデータに対し、図案として強調したい特徴的な色彩をターゲット色、前記ターゲット色以外の淡い色の代表を第1の背景色、前記ターゲット色以外の濃い色の代表を第2の背景色として選択された3つの色彩を前記元画像のデータとともにさらに読み込み、
前記データ変換手段は、前記入力手段で読み込まれた前記3つの色彩が効果的に現れるように前記元画像のデータを色分解し、色分解後の画像データに対して前記二値化処理を行って前記織物用データを生成することを特徴とするジャカード織物の製造方法。
【図1】


【図2】


【図3】


【図4】


【図5】


【図6】


【図7】


【図8】


【図9】


【図10】


【図11】


【図12】


【図13】


【図14】


【図15】




【図2】


【図3】


【図4】


【図5】


【図6】


【図7】


【図8】


【図9】


【図10】


【図11】


【図12】


【図13】


【図14】


【図15】


【公開番号】特開2009−174065(P2009−174065A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10855(P2008−10855)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(391017849)山梨県 (19)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(391017849)山梨県 (19)
【Fターム(参考)】
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