説明

ジャム類の製造方法

【課題】 原料果実の固形感の維持の効果をより向上させ、かつ原料果実の異臭除去、特に冷凍した原料果実を解凍した場合の異臭を除去することができるようにする。
【解決手段】 原料果実及び糖類、必要に応じてゲル化剤以外の添加剤を添加して混合した混合物を予め35℃〜70℃に加温しておく予備加温工程(1)と、該混合物を減圧することにより該混合物中の原料果実を脱気処理する脱気工程(2)と、脱気工程後の混合物を常圧下で加熱撹拌し、該加熱撹拌しながら混合物にゲル化剤を添加し、その後、95〜100℃となるまで加熱撹拌する常圧加熱工程(3)と、該加熱撹拌した混合物を、そのまま加熱しながら、又は、加熱を終了した後、再び減圧する減圧工程(4)とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャム類の製造方法に係り、特に、原料果実の固形感(苺の粒感、りんごのシャキシャキ感など)が維持され、かつ原料果実の異臭が除去されるジャム類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ジャム類の製造方法としては、生の原料果実又は冷凍の原料果実を解凍したものを、カット、破砕などし、種や皮を取り除いたものに、糖類、ゲル化剤などを添加し、釜で煮沸濃縮した後、容器に入れて密封し、ジャム類とする方法が知られている。
この釜による煮沸濃縮としては、糖類を果実に浸透させ、また、ゲル化剤を全体的に平均して分散させるために撹拌しながら行う、撹拌加熱が一般的である。
【0003】
ところで、糖類の果実への浸透を十分に行い、ゲル化剤をより平均的に分散させるためには、この撹拌加熱を長時間行う必要があるが、逆に、撹拌加熱の時間を長くすれば長くするほど、果実が本来有する固形感が損なわれる弊害が生じる問題がある。
そこで、この問題を軽減するため、従来から真空釜により釜内部を減圧させる煮沸濃縮を行うことで、比較的低い温度で混合撹拌加熱を行い、高温での加熱時間を短くする工夫がなされたり(例えば、特開2001−145469号公報掲載)、あるいは、先ず糖類を加えないで加熱処理を行い、次いで、糖類を加えて加熱処理を行うことが提案されている(例えば、特開2002−45127号公報掲載)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−145469号
【特許文献2】特開2002−45127号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来の方法においても、上述の撹拌加熱による弊害を必ずしも充分には除去することができないのが実情であった。
また、上述のような単に混合撹拌加熱の時間を短くする製造方法によるジャムにおいては、原料果実特有の異臭が残りやすく、特に冷凍した原料果実を解凍した場合の異臭がより残りやすいという問題があった。
なお、特許文献1の発明は、短時間で高温まで昇温できる通電加熱(ジュール加熱)を行うことを必須の構成としているため、確かに、通電加熱により加熱時間を短縮化する点では有効であるが、反面、急激な加熱により原料果実の果肉へ負担をかけてしまうことから、原料果実の固形感を損なうおそれもある。また、特許文献1で開示されているのは、単に原料果実への高温での加熱時間を短縮できる果実類の加熱方法の発明であり、ジャム類の製造方法としてのそれ以外の重要な技術事項、例えば、いかに原料果実への糖類の浸透を十分かつ均一に行うか、また、ジャム類特有の食感や口溶けを得るための粘度調整をどのように行うかについては、ほとんど開示がない。
【0006】
本発明は、上述の従来技術の問題を解決するものであり、原料果実の固形感(苺の粒感、りんごのシャキシャキ感など)が維持され、かつ原料果実の異臭除去、特に冷凍した原料果実を解凍した場合の異臭を除去することができるジャム類の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するため、本発明のジャム類の製造方法は、原料果実、糖類及びゲル化剤、必要に応じてその他の添加剤などを添加してジャム類を製造するジャム類の製造方法において、
原料果実及び糖類、必要に応じてゲル化剤以外の添加剤などを添加して混合した混合物を減圧することにより該混合物中の原料果実を脱気処理する脱気工程と、
該脱気工程後の混合物を常圧下(大気圧下)で加熱撹拌し、該加熱撹拌しながら混合物にゲル化剤を添加し、その後、95〜100℃となるまで加熱撹拌する常圧加熱工程と、
該加熱撹拌した混合物を、そのまま加熱しながら、又は、加熱を終了した後、再び減圧する減圧工程とを備える構成としている。
【0008】
これにより、脱気工程において、原料果実及び糖類、必要に応じてゲル化剤以外の添加剤などを添加して混合した混合物が減圧され、該混合物の原料果実の果肉中の空気を除去するので、後の常圧加熱工程における加熱により、原料果実の果肉中に含まれる空気が膨張して果実が崩壊することを防止することができる。
また、該脱気により混合物中の原料果実から果肉中の空気を除去することに伴い、該空気に含まれる臭気成分も除去され、原料果実特有の異臭が除去される。
この場合、混合物は、原料果実の果肉部分[水分も含む半固形]と、糖類が溶解した原料果実の果汁部分[液体]とからなり、この混合物を減圧した場合、糖度がかなり高い果汁部分は沸騰しにくく、これと比較すると糖度がかなり低い果肉部分に含まれる水分は沸騰しやすい状態となっているため、原料果実の果肉部分に含まれる水分だけが沸騰し、その結果、この部分に含まれていた空気を排出・除去することができるようになる。
また、この工程において混合物中にはゲル化剤が添加されないので、ゲル化剤の作用を弱めることをなくするとともに、予めゲル化剤を添加する副作用として生じる、部分的に不均一に固まってしまう所謂「プリセットする」事態を防止することができる。詳述すると、一般的にゲル化剤は熱により変質しやすいものであるから、例えば、仮に、この工程で、砂糖や他の原料と一緒に添加してしまうと、常圧加熱工程に至るまでの加熱により変質してしまいゲル化剤の作用が弱められ、その効果が不十分となってしまうおそれがあり、また、混合物中の果実には微量のカルシウムを含むものがあることから、該微量のカルシウムとゲル化剤が反応してしまうことにより部分的に、不均一に固まってしまう所謂「プリセットする」事態が生じるおそれもある。このことから、本発明においては、後の常圧加熱工程における常圧加熱撹拌中にゲル化剤を添加する。
【0009】
次に、常圧加熱工程において、混合物を加熱撹拌しながら、この過程でゲル化剤を添加し、その後、95〜100℃となるまで加熱撹拌する。
この工程においては、混合物を加熱撹拌しながらゲル化剤が添加されるので、加熱により原料果実の果肉への糖類の浸透が行なわれるとともに、ゲル化剤の作用により最終的にジャム類特有の食感や口溶け感が得られるようになる。
本工程における加熱温度が高すぎると、原料果実が崩れ、その固形感が損なわれるおそれがあり、該温度が低すぎると加熱不十分となり原料果実への糖類の浸透が不十分となる等のおそれがあることから、脱気処理後の混合物が95〜100℃となるまで加温する。時間は、5〜15分間程度加熱することが望ましく、8〜12分間がより望ましい。加熱時間が短かすぎると、原料果実への糖類の浸透が不十分となるおそれがあり、逆に加熱時間が長すぎると、過加熱となって原料果実が崩れ、本来の固形感が損なわれるおそれがある。
【0010】
その後、減圧工程において、混合物が再び減圧処理される。
これにより、混合物中の原料果実への糖類の浸透をより確実に行いうるとともに、混合物の粘度を上げて、全体的に均一に適切な物性とすることができる。
減圧工程では、加熱を停止して加熱後の高温の混合物を減圧してもよいし、任意の時点まで加熱を継続しながら減圧してもよい。加熱の継続を長くすればする程、より原料果実へ糖類が浸透することを考慮に入れ、加熱の継続時間は、原料果実の大きさ・種類、目的とする完成製品如何により適宜調整する。
【0011】
そして、必要に応じ、上記脱気工程前に、上記混合物を予め35℃〜70℃に加温しておく予備加温工程を備える構成とすることが望ましい。
これにより、糖類の溶解も確実かつ全体的に均一になされるだけでなく、次の脱気工程で急激に加熱する必要がなくなり、特に、工業的な大量生産において効率的かつ安定的にジャム類を製造しうる。
常温やそれ以下の低温では、後の脱気工程及び常圧加熱工程で急激な加熱と撹拌を多く必要とするが、35℃以上とすることにより、その必要がなくなり、特に、工業的な大量生産をする場合でも製造効率が悪くなりにくく、かつ混合物中の原料果実の物性維持を安定的に行うことができる。また、70℃以下とするため、原料果実の果肉に煮崩れが生じたり、後の脱気工程で原料果実の果肉が崩壊することが防止され、結果として原料果実本来の固形感を維持できる。
上記混合物の加温の仕方としては、具体的には、原料果実及び糖類、必要に応じてゲル化剤以外の添加剤などを添加し、これらを混合する前(すなわち個々の原料が均一に混合されずに個別に存在する時点)から加温開始してもよいし、混合開始後に加温し始めてもよく、また、前記原料を混合して全体的に均一化した後で加温開始してもよい。
【0012】
また、必要に応じ、上記原料果実が冷凍果実を解凍したものである構成とすることができる。
本発明において、ジャム類の原料果実としては、特に限定はなく、生の原料果実を用いることができるだけでなく、冷凍した原料果実を解凍して用いることもできる。冷凍保存した後に解凍した果実の場合には、生の果実よりも異臭が問題となるため、本発明の異臭除去の効果がより顕著に表れる。
【0013】
更に、必要に応じ、上記脱気工程における混合物の温度を40〜70℃にする構成とすることが望ましい。
これにより、減圧による原料果実の脱気の効果をより十分に発揮して、本発明の効果をより確実に奏することができる。
40℃より低いと低温となりすぎて(かなり強力な減圧をしないと)十分に沸騰させにくいために脱気が不十分となり、原料果実の異臭が残ってしまう等のおそれがあり、70℃より高いと原料果実の果肉が崩壊してしまうおそれもあり、結果として原料果実本来の固形感が損なわれるおそれがある。
【0014】
更にまた、必要に応じ、上記脱気工程における脱気処理を−700hPa〜−950hPa(235.0mmHg〜47.4mmHg)で、6〜15分間行う構成とすることが望ましい。
これにより、減圧による原料果実の脱気の効果を十分に発揮し、原料果実の固形感維持および異臭除去の効果をより確実に奏することができる。
0hPa(=大気圧)〜−700hPa(760.0mmHg〜235.0mmHg)までの弱い減圧では、沸点が高く温度が高温となりやすいため、色、味等の品質が劣化するおそれがあり、−950hPa(47.4mmHg)より強く減圧すると(沸点が下がり)低温となりすぎるおそれがあり、工業的な大量生産をする場合には後の加熱工程で加熱と撹拌を多く要することになるため、製造効率が悪くなり、かつ混合物中の原料果実の固形感維持が困難となるおそれがある。−750hPa〜−920hPa(197.5mmHg〜99.9mmHg)とすることがより望ましく、−800〜−900hPa(160.0mmHg〜84.9mmHg)とすることが最も望ましい。
また、脱気処理時間が、6分間より短いと効果が不十分となり、原料果実の異臭が残ってしまう等のおそれがあり、15分間より長いと、異臭とともに苺本来の香りまで失われるおそれがある。
【0015】
更にまた、必要に応じ、上記常圧加熱工程におけるゲル化剤の添加を、加熱撹拌中の混合物の温度が75℃〜85℃のときに行う構成とすることが望ましい。
これにより、ゲル化剤を混合物中に均一に分散させ、安定的に有効に作用させることができることから、より確実に全体的に均一な物性のジャム類とすることができるのであり、上記数値範囲より低い温度で添加すると均一に分散しにくく、逆に上記数値範囲よりも高い温度となってから添加する場合は、すぐに95℃〜100℃に達してしまい撹拌時間が短くなり、やはり均一に分散させにくいからである。
【0016】
また、必要に応じ、上記ゲル化剤として、DEが30〜45のLMペクチンを使用する構成とすることが望ましい。
LMペクチンを用いるので、ジャム類特有の食感や口溶けを得やすくなる。この場合、
LMペクチンはカルシウムイオンと反応してゲル化し、ゲル化の調整はカルシウムイオンの量で容易に調整でき、ゲル化の調整がしやすい。LMペクチンとしては、DEが30より小さいとゲル化しすぎて硬くなりやすいため、製造工程中の非加熱混合物又は加熱混合物の粘度が高くなりすぎて製造上の作業性、機械耐性が悪くなるという不都合を生じるおそれがあり、また、DEが45より大きいと逆にゲル化しにくくなり、製造効率や安定的な製造に支障を来すおそれがある。
【0017】
更に、必要に応じ、上記減圧工程において、−300hPa〜−500hPa(535.0mmHg〜385.0mmHg)で、3〜12分間減圧する構成とすることが望ましい。
このような減圧条件とすることにより、混合物中の原料果実への糖類の浸透をより確実に行いうるとともに、混合物の粘度を上げて、全体的に均一に適切な物性とする、という減圧の効果をより安定的に奏することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のジャム類の製造方法によれば、原料果実の固形感(苺の粒感、りんごのシャキシャキ感など)が維持され、かつ、原料果実の異臭除去、特に冷凍した原料果実を解凍した場合の異臭を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施の形態に係るジャム類の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明の技術的範囲は、本発明を実施するための最良の形態を説明する以下の記載において例示したものに限定されるものではない。
本発明の実施の形態に係るジャム類の製造方法は、原料果実、糖類及びゲル化剤、必要に応じてその他の添加剤などを添加してジャム類を製造するジャム類の製造方法であって、図1に示すように、予備加温工程(1)と、脱気工程(2)と、常圧加熱工程(3)と、減圧工程(4)とを備えてなる。
【0020】
本ジャム類の製造方法に用いられる原料果実としては、特に限定はなく、具体的には、例えば、苺、リンゴ、なし、杏、桃、サクランボ、ぶどう、ブルーベリー、ラズベリー、カリン、スグリ、梅などが挙げられる。これらの中では、ジャム類としたときに原料果実の固形感を維持させやすいことから、苺、ブルーベリー、ラズベリー及びスグリを果皮のあるままカットせずに用いることが望ましい。本発明における非加熱状態の原料果実としては、もちろん生の原料果実を用いることができるだけでなく、冷凍した原料果実を解凍して用いることもできる。
【0021】
本ジャム類の製造方法に用いられる糖類としては、砂糖、ブドウ糖、蜂蜜、水飴、麦芽糖、果糖、ソルビトールなどが挙げられ、必要に応じて、これらのうち2種以上を併用してもよい。
【0022】
本ジャム類の製造方法に用いられる添加剤としては、ペクチンその他のゲル化剤などが挙げられる。
ゲル化剤としては、容易にジャム類特有の食感や口溶けを得ることができることから、主としてペクチンを用いることが一般的であるが、それ以外に、ジェランガム(ジュランガム、ゲランガム)、キサンタンガム、カラギーナン、グアガム、ローカストビーンガム、タラガム、アルギン酸ナトリウム、寒天、ゼラチン、澱粉類、セルロース類などを用いてもよく、必要に応じて、これらのうち2種以上を併用してもよい。
【0023】
ペクチンは、DE(エステル化度[Degree of Esterification]、DE値。ペクチンを構成する全てのD-ガラクチュロン酸のうち、そのカルボキシル基が部分的にメチルエステル化されたD-ガラクチュロン酸メチルエステルの存在する割合)により分類され、LMペクチン(ローメトキシルペクチン)とHMペクチン(ハイメトキシルペクチン)とがある。LMペクチンは通常これとともに添加されるカルシウムイオンと反応してゲル化し、ゲル化の調整はカルシウムイオンの量で容易に調整できるのに対して、HMペクチンの場合は、ゲル化させるためにpHやブリックス(brix degree。可溶性固形分の量)を調整する必要があり、しかも、ゲル化に適するpH値やブリックスの範囲がかなり狭く、その調整は容易ではない。従って、ゲル化の調整がしやすいという点で、LMペクチンが望ましい。LMペクチンとしては、DEが30より小さいとゲル化しすぎて硬くなりやすいため、製造工程中の非加熱混合物又は加熱混合物の粘度が高くなりすぎて製造上の作業性、機械耐性が悪くなるという不都合があり、DEが45より大きいとゲル化しにくいことから、DEが30〜45のLMペクチンを使用することが望ましく、DEが36〜40のものがより望ましい。添加するLMペクチンの量は、原料全体に対して0.5〜1.5質量%程度で適宜調整する。
【0024】
LMペクチンとともに添加するカルシウムイオンは、乳酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、などのカルシウム塩を添加して溶解させることにより、供給される。添加するカルシウム塩の量は、LMペクチンに対して0.5〜7質量%とすることが望ましい。
【0025】
また、ジャム類完成品の耐熱性、耐酸性などを安定・向上させるため、補助的にジェランガムを用いることが望ましい。ジェランガムの添加量が少ないと効果が不十分となり、逆に、多すぎると製造工程中の非加熱混合物又は加熱混合物の粘度が高くなりすぎて製造上の作業性が悪くなるだけでなく、完成後のジャム類の口溶けが悪くなるおそれがあるため、ジェランガムの添加量は全原料に対して0.05〜0.5質量%とすることが望ましく、0.1〜0.2質量%とすることがより望ましい。
【0026】
なお、添加剤などを、上記ペクチンその他のゲル化剤以外に、必要に応じて用いてよく、具体的には、例えば、クエン酸、リンゴ酸、リン酸、乳酸などの酸味料や、マーガリン、ショートニングなどの油脂類、着色料、保存料、乳化剤、香料、酸化防止剤などを適宜用いることができる。
【0027】
次に、本発明の実施の形態に係るジャム類の製造方法において、図1に示す各工程について説明する。
(1)予備加温工程
本ジャム類の製造方法においては、まず、原料果実及び糖類、必要に応じてその他の添加剤などの副原料を添加して混合させるが、このときには、ペクチン等のゲル化剤を添加しない。
原料果実としては、生の果実をそのまま用いてもよいが、予め、皮をむいたり、種など不要な部分を除去したり、カットしておいてもよく、あるいは冷凍保存した果実を解凍して用いても良い。冷凍保存した後に解凍した果実の場合には、生の果実よりも異臭が問題となるため、本発明の異臭除去の効果がより顕著に表れる。
この予備加温工程では、混合物を予め35℃〜70℃に加温しておく。これにより、糖類の溶解も確実かつ全体的に均一になされるだけでなく、次の脱気工程で急激に加熱する必要がなくなり、特に、工業的な大量生産において効率的かつ安定的にジャム類を製造しうる。常温やそれ以下の低温では、後の脱気工程及び常圧加熱工程で急激な加熱と撹拌を多く要するが、35℃以上とするため、その必要がなくなるため、特に、工業的な大量生産をする場合でも製造効率が悪くなることがなく、かつ混合物中の原料果実の物性維持を安定的に行うことができる。また、70℃以下とするため、原料果実の果肉に煮崩れが生じたり、後の脱気工程で原料果実の果肉が崩壊することが防止され、結果として原料果実本来の固形感を維持できる。尚、本工程は省略することができる。
【0028】
(2)脱気工程
そして、上記(1)の予備加温行程後の混合物を滅圧することにより、混合物中の原料果実を脱気処理する。また、上記(1)の予備加温工程を採用しない場合は、本工程においてまず原料果実及び糖類、必要に応じてゲル化剤以外の添加剤などを混合し、このように混合したものを減圧することにより混合物中の原料果実を脱気処理する。これにより、該混合物の原料果実の果肉中の空気を除去するので、後の常圧加熱工程における加熱により、果実の果肉中に含まれる空気が膨張して果実が崩壊することを防止することができる。また、該脱気により混合物中の原料果実の果肉中の空気を除去することに伴い、該空気に含まれる臭気成分も除去され、そのため、原料果実特有の異臭が除去される。
詳しくは、該脱気処理は−700hPa〜−950hPa(235.0mmHg〜47.4mmHg)で6〜15分間行うことが望ましく、これにより、減圧による原料果実の脱気の効果を十分に発揮し、原料果実の固形感維持および異臭除去の効果をより確実に奏することができる。0hPa(=大気圧)〜−700hPa(760.0mmHg〜235.0mmHg)までの弱い減圧では、沸点が高く温度が高温となりやすいため、色、味等の品質が劣化するおそれがあり、−950hPa(47.4mmHg)より強く減圧すると(沸点が下がり)低温となりすぎるおそれがあり、工業的な大量生産をする場合には後の加熱工程で加熱と撹拌を多く要することになるため、製造効率が悪くなり、かつ混合物中の原料果実の固形感維持が困難となるおそれがある。−750hPa〜−920hPa(197.5mmHg〜99.9mmHg)とすることがより望ましく、−800〜−900hPa(160.0mmHg〜84.9mmHg)とすることが最も望ましい。
なお、本明細書における減圧の値については、常圧(大気圧。760.0mmHg)を0hPaとして数値を設定している。
【0029】
原料果実を脱気処理する時の混合物の温度は、40℃〜70℃までが望ましく、これにより、減圧による原料果実の脱気の効果を十分に発揮して、本発明の効果をより確実に奏することができる。40℃より低いと低温となりすぎて(かなり強力な減圧をしないと)十分に沸騰させにくいために脱気が不十分となり、原料果実の異臭が残ってしまう等のおそれがあり、70℃より高いと原料果実の果肉が崩壊してしまうおそれもあり、結果として原料果実本来の固形感が損なわれるおそれがある。
脱気処理は、6〜15分間行うことが望ましい。脱気処理時間が、6分間より短いと効果が不十分となり、原料果実の異臭が残ってしまう等のおそれがあり、15分間より長いと、異臭とともに苺本来の香りまで失われるおそれがある。
【0030】
脱気処理は、気密性のある空間を有し、空間内に対象物がある状態で空間内を減圧する能力を有する装置を用いて行うが、具体的には、例えば、そのような構造と機能を有する、減圧ニーダー装置、ジャケット付減圧タンク装置、回転式加熱減圧装置、真空冷却機などが挙げられる。
なお、本脱気工程においては、果実の粒を保持させるために撹拌しない方が望ましい。ただ、脱気した気泡を逃がすために、果実の粒に物理的衝撃を与えない程度の速度であれば撹拌してもよい。
【0031】
(3)常圧加熱工程
脱気工程後、脱気処理後の混合物を常圧下で、95〜100℃となるまで加熱撹拌する。これにより、混合物中の原料果実へ糖類を浸透させる。加熱温度が高すぎると、原料果実が崩れ、その固形感が損なわれるおそれがあり、該温度が低すぎると加熱不十分となり原料果実への糖類の浸透が不十分となる等のおそれがあることから、予め35℃〜70℃に加温した脱気処理後の混合物を95〜100℃とするためには、例えば、具体的には、蒸気釜により110〜150℃程度の蒸気で加熱する場合では、5〜15分間程度加熱することが望ましく、8〜12分間がより望ましい。加熱時間が短かすぎると、原料果実への糖類の浸透が不十分となるおそれがあり、逆に加熱時間が長すぎると、過加熱となって原料果実本来の固形感が損なわれるおそれがある。
【0032】
そして、この常圧加熱工程において混合物を加熱撹拌しながらゲル化剤を添加する。一般的にゲル化剤は熱により変質しやすいものであり、この本工程よりも前の工程で、例えば、砂糖や他の原料と一緒に添加してしまうと、前工程までの加熱により変質してしまいゲル化剤の作用が弱められ、その効果が不十分となってしまうことから、本発明においては、常圧加熱工程において混合物を加熱撹拌しながらゲル化剤を添加する。
より具体的には、ゲル化剤の添加は該加熱撹拌中の混合物の温度が75℃〜85℃のときに行うことが望ましい。低い温度で添加すると、均一に分散しにくく、逆に上記数値範囲よりも高い温度となってから添加する場合は、すぐに95℃〜100℃に達してしまい撹拌時間が短くなり、やはり均一に分散させにくいからである。
【0033】
(4)減圧工程
常圧加熱工程後、加熱撹拌した混合物を再び減圧する。これにより、混合物中の原料果実の果肉への糖類の浸透を促進するとともに、混合物の粘度を上げて、全体的に均一に適切な物性とすることができる。
減圧工程では、加熱を停止して加熱後の高温の混合物を減圧してもよいし、任意の時点まで加熱を継続しながら減圧してもよい。加熱の継続を長くすればする程、より原料果実へ糖類が浸透することを考慮して、加熱の継続時間の調整は、原料果実の大きさ・種類、目的とする完成製品如何により適宜おこなう。混合物中の原料果実の果肉とそれ以外の部分の糖度の差がブリックスで3度以内とすることが望ましく、ほぼ同じとなるようにすることが最も望ましい。なお、混合物の粘度は混合物中の原料果実の果肉が均一に分散する程度とすることが望ましい。それは、粘度が低いと果肉が沈み、粘度が高すぎると食感に劣るようになるからである。
本減圧工程においては、例えば、具体的には、−300hPa〜−500hPa(535.0mmHg〜385.0mmHg)で、3〜12分間減圧することが望ましく、この場合、加熱混合物の温度は70〜100℃程度となる。このような減圧条件とすることにより、より安定的に上述の減圧の効果を奏することができる。−500hPa(385.0mmHg)より減圧を強くして温度を低くしすぎたり、減圧の時間が短すぎると混合物中の原料果実への糖類の浸透が不十分となるおそれがあり、逆に、−300hPa(535.0mmHg)より減圧を弱くして温度を高くしすぎたり、減圧時間が長すぎると、加熱混合物の糖度及び粘度が高くなりすぎ作業性、機械耐性が悪くなるだけでなく、原料果実の果肉が崩れて果実本来の固形感が損なわれるおそれがある。
【0034】
なお、本減圧工程においては、全体的に均一に糖類を浸透させ、粘度の高い部分が偏在しすぎないようにする目的で、この目的を達する程度の撹拌をしてもよい。ただ、撹拌の速度を、原料果実の果肉が崩れて果実本来の固形感が損なわれないような程度とする必要がある。もちろん、場合によっては本減圧工程中全く撹拌しなくてもよく、畢竟、本工程における撹拌の有無・程度は、使用する原料果実の種類やその状態、どのような完成製品としたいか、等を考慮して任意に調整する。
減圧工程後、容器に所定量ずつ充填して、ジャム類とする。
【実施例】
【0035】
次に、本発明の実施例について、比較例とともに説明する。
[実施例]
実施例においては、原料及び添加剤は、図2に示す配合のものを用いた。その内容は、図3に示す工程図に従って説明すると以下の通りである。
【0036】
(1)予備加温工程
20Kgの冷凍苺を解凍したものを、「レオニーダーKQV−1」(株式会社カジワラ製)に投入して、砂糖12Kgを添加し、加温しながら混合する。混合物が50℃になるまで行う。
なお、「レオニーダーKQV−1」(株式会社カジワラ製)は、脱気機能(気密性のある釜で真空ポンプが設けられている)、混合撹拌機能(混合撹拌用の羽根が2枚設けられている)、加熱機能(2重釜。蒸気加熱)を有する。なお、本工程における撹拌は、6回転/分で行う。
【0037】
(2)脱気工程
撹拌を停止して、上記混合物を−800hPa〜−900hPa(160.0mmHg〜84.9mmHg)の減圧下で混合物中の苺を脱気する。本工程での該混合物の温度は、64〜66℃となるように調整した。
【0038】
(3)常圧加熱工程
脱気終了後の混合物を常圧に戻して95℃になるまで加熱撹拌する。
加熱撹拌中に混合物が80℃になったときに、水3Kgと、ゲル化剤としてDEが38のLMペクチン0.3Kg、第三リン酸カルシウム0.01Kg、ジェランガム0.09Kg及びローカストビーンガム0.03Kgを添加し、その後、95℃となるまで加熱撹拌する。なお、本工程における撹拌も、6回転/分で行う。
【0039】
(4)減圧工程
混合物が95℃に達したときに、加熱を停止して酸味料、香料0.03g添加し、さらに減圧して−350hPa〜−450hPa(497.5mmHg〜492.5mmHg)で10分間、減圧下で混合物を撹拌する。混合物の温度は85℃程度まで低下する。
この減圧工程後、撹拌を停止して混合物を容器に充填して容器入り苺ジャムとし、冷却して保管する。なお、本工程における撹拌も、6回転/分で行う。
【0040】
次に、比較例について説明する。
[比較例](従来方法)
原料及び添加剤は、図2に示す実施例と同様の配合のものを用いた。本比較例では、実施例のような予備加温工程及び脱気工程はない。
原料として20Kgの冷凍苺を解凍したものを使用する。この解凍した苺20Kgと砂糖12Kg、水3Kg、ゲル化剤としてLMペクチン(DEは38)0.3Kg、第三リン酸カルシウム0.01Kg、ジェランガム0.09Kg及びローカストビーンガム0.03Kgを加熱混合用釜「レオニーダーKQV−1」に投入して、温度75〜85℃で、−600hPa(310.0mmHg)の減圧下で30分間加熱混合撹拌した。
酸味料、香料0.03gを添加・混合して容器に充填して容器入り苺ジャムとし、冷却して保管する。
【0041】
次に、実施例及び比較例について、官能評価試験を行なうとともに、果実粒の含有量と硬さを測定した。結果を下記に示す。
【0042】
(1)官能評価
パネラー23名。7段階評価で苺ジャムの粒感などの固形感(1:ほとんど感じない、2:感じない、3:あまり感じない、4:どちらとも言えない、5:やや感じる、6:感じる、7:非常に感じる)と異味・異臭(同じく7段階評価で、1:非常に感じる〜7:全く感じない)の2点を評価したところ、図4に示すような結果となった。
【0043】
実施例については、「苺の粒残りが良い」「苺の粒感があり好ましい」など、苺の固形感が維持されているという意見があり、それに対して比較例については、「甘さが強すぎて苺の香りが抑えられている」「べちゃべちゃして食感が悪い」という意見があった。また、比較例に対しては、「苺が腐敗したような酸味を感じる」「変な臭いがする」等の意見もあった。
【0044】
(2)果実粒の含有割合と硬さ
実施例と比較例による苺ジャムを、目が2mmのざるに入れて、軽くお湯で洗い流し、残った固形分から苺の果実粒を選別し、その重量を測定し、これを元の苺ジャムの重量で割ってその含有割合を算出した。果実粒の硬さは、実施例と比較例による各苺ジャムの中から残存している果実粒の大きめのものを取りだし、「レオナー」(株式会社山電製)で計測する。具体的には、幅が25mm以下の果実粒に楔形プランジャーを2.5mm/秒で押し込み荷重を測定する(クリアランスは0.5mm)。なお、これらの含有割合・硬さの値は無作為に500gのサンプルを5個抽出したものの平均値である。
結果を図5に示す。この結果から、両者を比較すると、実施例の苺ジャムは、苺の粒残りがよく、かつ、果実粒の硬さが維持されていることから苺本来の粒感が保たれているのに対して、引用例の苺ジャムの方は、果実粒が崩壊して粒残りに劣り、かつ、果実粒の硬さが失われていることから苺本来の粒感や噛み応えの点でも劣るものであるということが言える。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態に係るジャム類の製造方法を示す工程図である。
【図2】本発明の実施例に係るジャム類の原料及び添加剤の配合を示す表図である。
【図3】本発明の実施例に係るジャム類の製造方法を示す工程図である。
【図4】本発明の実施例及び比較例についての官能評価試験結果を示す表図である。
【図5】本発明の実施例及び比較例についての果実粒の含有割合と硬さを測定した結果を示す表図である。
【符号の説明】
【0046】
(1)予備加温工程
(2)脱気工程
(3)常圧加熱工程
(4)減圧工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料果実、糖類及びゲル化剤、必要に応じてその他の添加剤などを添加してジャム類を製造するジャム類の製造方法において、
原料果実及び糖類、必要に応じてゲル化剤以外の添加剤などを添加して混合した混合物を減圧することにより該混合物中の原料果実を脱気処理する脱気工程と、
該脱気工程後の混合物を常圧下で加熱撹拌し、該加熱撹拌しながら混合物にゲル化剤を添加し、その後、95〜100℃となるまで加熱撹拌する常圧加熱工程と、
該加熱撹拌した混合物を、そのまま加熱しながら、又は、加熱を終了した後、再び減圧する減圧工程とを備えることを特徴とするジャム類の製造方法。
【請求項2】
上記脱気工程前に、上記混合物を予め35℃〜70℃に加温しておく予備加温工程を備えることを特徴とする請求項1記載のジャム類の製造方法。
【請求項3】
上記原料果実が冷凍果実を解凍したものであることを特徴とする請求項1または2記載のジャム類の製造方法。
【請求項4】
上記脱気工程における混合物の温度を40〜70℃にすることを特徴とする請求項1乃至3何れかに記載のジャム類の製造方法。
【請求項5】
上記脱気工程における脱気処理を−700hPa〜−950hPaで、6〜15分間行うことを特徴とする請求項1乃至4何れかに記載のジャム類の製造方法。
【請求項6】
上記常圧加熱工程におけるゲル化剤の添加を、加熱撹拌中の混合物の温度が75℃〜85℃のときに行うことを特徴とする請求項1乃至5何れかに記載のジャム類の製造方法。
【請求項7】
上記ゲル化剤として、DEが30〜45のLMペクチンを使用することを特徴とする請求項1乃至6何れかに記載のジャム類の製造方法。
【請求項8】
上記減圧工程において、−300hPa〜−500hPaで、3〜12分間減圧することを特徴とする請求項1乃至7何れかに記載のジャム類の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate