説明

ジョセフソン素子

【課題】本発明は、このような実情に鑑み、超伝導膜と絶縁性膜とを同じ材質で構成したジョセフソン結合を提供することを目的とする。
【解決手段】上記課題を解決するために、ジョセフソン素子は、超伝導膜と絶縁性膜とが、ホウ素ドープのダイヤモンド膜よりなり、前記超伝導膜のホウ素濃度が金属絶縁体転移濃度(ダイヤモンド膜固有の濃度)より大きく、前記絶縁性膜のホウ素濃度が金属絶縁体転移濃度より小さいことを特徴とし、その超伝導膜と絶縁性膜が、ホモエピタキシャルのダイヤモンド膜により構成されてなることを特徴とする。
また、上記ジョセフソン素子において、その超伝導膜のホウ素濃度が3x1020cm−3以上で、絶縁性膜のホウ素濃度が3x1020cm−3未満であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一、第二超伝導膜間に絶縁性膜が配されてなるジョセフソン結合を有するジョセフソン素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ジョセフソン接合は、二つの超伝導体の間に非常に薄い絶縁体がサンドイッチされた構造を持つ、超伝導デバイスの応用上、極めて大切な素子である。一般に、超伝導体と絶縁体は別の物質を積層するため、格子のマッチングや整合性、相性など、素子作製には、多くの問題が発生していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような実情に鑑み、超伝導膜と絶縁性膜とを同じ材質で構成したジョセフソン結合を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明1のジョセフソン素子は、超伝導膜と絶縁性膜とが、ホウ素ドープのダイヤモンド膜よりなり、前記超伝導膜のホウ素濃度が金属絶縁体転移濃度(ダイヤモンド膜固有の濃度)より大きく、前記絶縁性膜のホウ素濃度が金属絶縁体転移濃度より小さいことを特徴とする。
発明2は、発明1のジョセフソン素子において、その超伝導膜と絶縁性膜が、ホモエピタキシャルのダイヤモンド膜により構成されてなることを特徴とする。
発明3は、発明1又は2のジョセフソン素子において、その超伝導膜のホウ素濃度が3x1020cm−3以上で、絶縁性膜のホウ素濃度が3x1020cm−3未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、ダイヤモンド薄膜が、ホウ素のドーピングレベルをコントロールすることにより、絶縁体、超伝導と物性が変化するとの発見を利用して、上記課題を達成したものである。さらに、絶縁体と超伝導との境が金属絶縁体転移濃度(非特許文献2参照)にあるとの知見によるものである。
これにより単一の材料によりジョセフソン結合を実現したものである。
特に、ホモエピタキシャルなダイヤモンド薄膜のみで、超伝導ダイヤモンドと絶縁体ダイヤモンド薄膜を積層して、ジョセフソン接合を作製することにより、非常に硬く丈夫であり、物理的にも化学的にも安定である。単一材料であるのでプロセスがシンプルである。ホモエピタキシャル薄膜なので接合界面が原子レベルで整合している。単一材料であるのでケミカルポテンシャルが等しいためショットキーバリアが生じない。ダイヤモンド半導体デバイスとの相性がよい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】ジョセフソン素子の概略図
【図2】SIMSによるホウ素濃度の深さ依存性の分析結果を示すグラフ。
【図3】素子の電流電圧特性を示すグラフ。
【図4】シャピロステップの観測結果を示すグラフ。
【図5】フラウンホーファーパターンの観測結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、ダイヤモンド膜のホウ素含有濃度が金属絶縁体転移濃度(非特許文献2で明らかにした3×1020cm−3)を境にして、超伝導と絶縁体に特性変化することを利用したものである。
【0008】
超伝導特性を発揮させるには、前記3×1020cm−3以上の高濃度でホウ素をダイヤモンド膜にドープする必要があり、好ましくは2×1021cm−3以上、より好ましくは8×1021cm−3以上とするのが望ましい。
濃度を上げると超伝導転移温度が高くなるので、できれば、理論的なドープ限界近くまで高濃度とするのが望ましい。
【0009】
また、絶縁性(ジョセフソン結合における)を発揮させるのは、ホウ素の含有量は、3×1020 cm−3未満、好ましくは1×1019 cm−3以下、より好ましくは1×1017 cm−3以下、さらにより好ましくは1×1010 cm−3以下とするのが望ましい。
濃度を下げると絶縁体膜の絶縁性が高まる、バンドギャップが大きくなる。
下記実施例では、SNS接合の例を示したが、絶縁体膜のホウ素の含有量が小さくなればなるほど、SIS接合となる可能性がある。
また、ホウ素によるキャリアドープを打ち消す効果のある、例えば窒素や燐をドープすることにより、絶縁性を高めることも可能である。
なお、ホウ素以外の元素を含有することで超伝導が得られるとの知見は未だ確認していない。
【実施例1】
【0010】
単結晶ダイヤモンド基板の一部に、ホウ素ドープしたホモエピタキシャルダイヤモンド超伝導薄膜をマイクロ波プラズマCVD法で成膜した。次に、先に成膜した超伝導膜に一部が重なるように、常伝導層となるダイヤモンド薄膜を成膜した。この常伝導層は、ホウ素濃度が金属絶縁体転移より少なくなるよう設定したホモエピタキシャルダイヤモンド薄膜である。続けてその上に、ホモエピタキシャルダイヤモンド超伝導薄膜を成膜した。得られた素子の略図を図1に示す。
マイクロ波プラズマCVD法は、最初に水素ガスをチャンバーに満たし一定圧力に維持し、プラズマを立てる。次に、原料ガスである、メタンH2/CH4比が約3%になるように供給する。ドープするホウ素の原料としてトリメチルボロンTMBガスをマスフローコントローラを用いて制御し、超伝導膜を得るためにはB/C比が6000ppm程度になるように設定し、絶縁体膜を得るためには、B/C比が0になるように設定した。B/C比が0であっても残留ガスがあるため、通常得られるダイヤモンドのホウ素濃度はゼロにはならない。
【0011】
ホウ素濃度の深さ方向の分布をSIMSにより評価した。これまでの研究で明らかなように、ダイヤモンドの金属絶縁体転移は、ホウ素濃度にして3x1020cm−3である。図2に示すように、上下のダイヤモンド超伝導層は明確に金属絶縁体転移より多くのホウ素がドープされていて、その間に、厚さおよそ30nmの非常に薄い領域に、ホウ素濃度が金属絶縁体転移濃度より低い絶縁体層の形成に成功した。
作製した素子の電流電圧(IV)特性を図3に示す。ジョセフソン接合特有の非線形なIV特性が得られた。臨界電流密度は、おおよそ60A/cm2と求まった。
得られたジョセフソン素子の特性を評価するために、マイクロ波を照射し、シャピロステップの観測を試みた。図に4示すように、10GHzの照射に対し2.07x10-5Vの電圧の飛びが観測され、明瞭なシャピロステップが観測された。これは、この素子がジョセフソン接合である証拠の一つである。

さらに、この素子がジョセフソン素子であるもう一つの証拠として、フラウンホーファーパターンを観測した。フラウンホーファーパターンは、ジョセフソン接合に平行に磁場を印加したとき、ジョセフソン素子に磁束が挿入されるに伴い、臨界電流密度が増減する現象である。図5に示す通り、フラウンホーファーパターンが観測され、このことから得られた素子がジョセフソン接合であることが重ねて確認された。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明の素子は、SQUID磁束センサー、マイクロ波デバイス、電圧標準、超伝導コンピュータなどに利用可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】APL85(2004)2851
【非特許文献2】NATURE V.438, p.647, December 2005
【非特許文献3】JPhysCondensMatter21(2009)253201

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一、第二超伝導膜間に絶縁性膜が配されてなるジョセフソン結合を有するジョセフソン素子であって、前記両超伝導膜と絶縁性膜とが、ホウ素ドープのダイヤモンド膜よりなり、前記両超伝導膜のホウ素濃度が金属絶縁体転移濃度(ダイヤモンド膜固有の濃度)より大きく、前記絶縁性膜のホウ素濃度が金属絶縁体転移濃度以下であることを特徴とするジョセフソン素子。
【請求項2】
請求項1に記載のジョセフソン素子において、その超伝導膜と絶縁性膜が、ホモエピタキシャルのダイヤモンド膜により構成されてなることを特徴とするジョセフソン素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のジョセフソン素子において、その超伝導膜のホウ素濃度が3x1020cm−3以上で、絶縁性膜のホウ素濃度が 3x1020cm−3未満であることを特徴とするジョセフソン素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−54893(P2011−54893A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204864(P2009−204864)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】