説明

ジョー式破砕装置

【課題】 ジョー式破砕装置に関し、簡素な構成で多様な被破砕物を良好に破砕するともに、金属塊等の固い異物の除去を容易に行なうことができるようにする。
【解決手段】 装置本体をなすフレーム31に固定された固定歯35と、揺動可能に固定歯35に対向配置された可動歯34との間に投入される被破砕物を揺動によって圧砕するジョー式破砕装置において、その一端部Qを可動歯34の下部34bに係合させて揺動の支点とし、可動歯34を支持するトグルプレート41と、トグルプレート41の他端部Pにその一端部が係合されるとともに、その中間部がフレーム31に対しピン44を介して軸支され、ピン44を中心軸として回動可能に構成されたアームブロック43と、アームブロック43の他端部にその一端部が連結され、アームブロック43を回動させうる第1油圧シリンダ45とをそなえた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動歯先端の揺動軌跡を調整して多様な被破砕物に対応できるジョー式破砕装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、土木工事で発生する岩石等や、建設工事で発生する土砂,コンクリートガラ及びアスファルトガラ等の建設廃材を処理及びリサイクルする作業機械として、ジョー式破砕装置(ジョークラッシャ)を搭載した自走式破砕機が知られている。
この自走式破砕機1は、図5に示すように、岩石等や建設廃材(以下、被破砕物という)を細かく破砕するジョー式破砕装置10と、ジョー式破砕装置10の下方に配設されたクローラ式の走行装置2と、被破砕物をジョー式破砕装置10の内部へ供給する供給装置3と、ジョー式破砕装置10により破砕された被破砕物を機外に排出する排出装置4とを備えている。
【0003】
ジョー式破砕装置10とは、図6にその詳細を示すように、可動歯11と固定歯12との二枚の押圧板部材を上方へ拡開するように向かい合わせに設けた、圧縮タイプの破砕装置であって、固定歯12がフレーム13に固定される一方、固定歯12に相対して設けられる可動歯11は、その上部が回転軸14を介してフレーム13に軸支され、さらにその下部がトグルブロック15及びトグルプレート16を介してフレーム13に連結されるようになっている。
【0004】
そして、図示しない油圧モータによりベルトを介してフライホイール17が駆動され、回転軸14に偏心して取り付けられた可動歯11の上部が偏心回転し、可動歯11の下部がトグルプレート16で支持されているので、可動歯11の下端(先端)が固定歯12に対して接離する方向に楕円形状の軌跡を描いて揺動(移動)して、可動歯11と固定歯12との間の破砕室10aに挟まれた被破砕物に圧縮力を作用させて破砕することができるようになっている。
【0005】
可動歯11と固定歯12とは、各下端において最も接近しており、この破砕室10aの間隙に挟み込まれて圧砕される被破砕物の破砕後の最大寸法(つまり、破砕後の粒度)は、可動歯11と固定歯12との下端における間隙の最小寸法(以下、出口寸法という)Wに応じて決定される。このため、破砕後に所望の粒度が得られるように、出口寸法Wを任意に設定できるようになっている。
【0006】
出口寸法Wの設定は、可動歯11の下部のフレーム13に対する位置調整によって行なわれるようになっており、例えば、可動歯11の背面下部に連結されたトグルブロック15とフレーム13との間に板状のシム22を挿入することによって行なわれる。詳しくは、トグルブロック15に連結された油圧シリンダ18を伸ばしてトグルブロック15を可動歯11側に移動させて、挿入するシム22の枚数を調整し、トグルプレート16を受けるシート19の位置を決め、出口寸法Wを設定する。なお、シム22の着脱時におけるトグルプレート16の脱落を防止するために、ロッド21が、一端部をバネ20を介してフレーム13に固定されるとともに、他端部を可動歯11の下部に固定されて、可動歯11をシート19側に引き寄せている。
【0007】
ところで、ジョー式破砕装置10は、アスファルトガラ等の軟質被破砕物(以下、軟質物という)と岩石やコンクリートガラ等の硬質被破砕物(以下、硬質物という)との軟・硬両タイプの被破砕物の破砕処理を一台で行なうことには適していない。これは、ジョー式破砕装置10は、主に硬質物を破砕するために開発されてきたものであり、このようなジョー式破砕装置10で軟質物を破砕しようとすると、軟質物が適切に破砕されずに潰れたり粘着化したりして可動歯11や固定歯12の歯の間に付着し、破砕室10aから排出口10cに向かって落下しないためである。
【0008】
これに対し、可動歯11先端の楕円形状の揺動軌跡を変えることで、硬質物の破砕能力が増大したり、軟質物の破砕能力が増大したりすることが知られている。こうした技術は、例えば特許文献1に開示されている。
特許文献1では、水平面に対するトグルプレートの取付角度を変更して可動歯先端の揺動軌跡を変え、一台のジョークラッシャで軟・硬両タイプの被破砕物の破砕処理に対応できるようになっている。
【特許文献1】特開平9−187668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1記載の技術によれば、揺動軌跡を変更することが可能となり、多様な被破砕物の破砕に対応できて、生産性が向上するものであるが、水平面に対するトグルプレートの取付角度を変更するための構造が複雑であるという課題がある。
また、特許文献1記載の技術や背景技術で説明した機構等のジョー式破砕装置によれば、金属塊等の固い異物が可動歯と固定歯との間隙に挟まった場合に、機構的に可動歯を開放することが困難であるため、異物の除去が難しく、長時間の異物除去作業のため生産性が低下してしまうという課題がある。
【0010】
この課題について、図6に示したジョー式破砕装置10により説明する。
ジョー式破砕装置10は、トグルブロック15の配設位置に対し、可動歯11と固定歯12との間隙を拡大させたときに、トグルブロック15が移動する方向側にフレーム13を配設して、フレーム13とトグルブロック15との間にシム22を挟み込むようになっている。つまり、被破砕物を押し潰そうとする圧縮力に対する反力は、可動歯11と固定歯12との間隙(出口寸法W)を拡大させようとする方向に作用することになるため、その反力をトグルブロック15及びシム22を介してフレーム13で受けることができるように各要素が配置されて、被破砕物を効果的に圧砕できるようになっている。
【0011】
被破砕物の圧砕時に与えられる反力をフレーム13で受ける構造の場合、可動歯11と固定歯12との出口寸法Wを調整するためには、その寸法Wを一旦狭める必要がある。つまり、出口寸法Wを調整するには、挿入されたシム22を交換,着脱すべくフレーム13とトグルブロック15との間を広げることが必要であり、そのためには、可動歯11を固定歯12側へ移動させなければならない。したがって、可動歯11と固定歯12との間隙に被破砕物がある状態では、シム22の取り外しや交換を行なうことが難しい。
【0012】
ところが、コンクリートガラを破砕する場合、コンクリートガラ中に金属塊が混入していることがある。そして、コンクリートガラ中の金属塊は、ジョー式破砕装置10の圧縮力によって破砕されないため、可動歯11と固定歯12との間隙に挟まったまま食い込んで、可動歯11の揺動往復運動を停止(ロック)させてしまい、ジョー式破砕装置10が停止してしまうことがある。したがって、この場合、可動歯11と固定歯12との出口寸法Wを広げることも狭めることもできない状態となるため、挟まった金属塊を取り除くことが困難な状況に陥ってしまう。
【0013】
図6に示した一般的な機構のジョー式破砕装置10と同様に、特許文献1記載の技術によっても、可動歯11と固定歯12との出口寸法Wを広げることも狭めることもできない状態が発生し、挟まった金属塊を取り除くことが困難な状況に陥ってしまうと考えられる。
【0014】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、簡素な構成で多様な被破砕物を良好に破砕するともに、金属塊等の固い異物の除去を容易に行なうことができるようにした、ジョー式破砕装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、請求項1記載の本発明のジョー式破砕装置は、装置本体をなすフレームに固定された固定歯と、前記固定歯に対して接離する方向へ揺動可能に対向配置された可動歯とを有し、前記固定歯と前記可動歯との間に投入される被破砕物を前記揺動によって圧砕するジョー式破砕装置であって、その一端部を前記可動歯の下部に係合させて前記揺動の支点とし、前記可動歯を支持するトグルプレートと、前記トグルプレートの他端部にその一端部が係合されるとともに、その中間部が前記フレームに対しピンを介して軸支され、前記ピンを中心軸として回動可能に構成されたアームブロックと、前記アームブロックの他端部にその一端部が連結され、前記アームブロックを前記回動させうる第1油圧シリンダとをそなえたことを特徴としている。
【0016】
請求項2記載の本発明のジョー式破砕装置は、請求項1記載のジョー式破砕装置において、前記アームブロックの前記一端部に形成された凹部と、前記凹部の底面と前記トグルプレートとの間に着脱可能に挿入され、前記可動歯と前記固定歯との下端の間隙を調整可能な複数のシムプレートとをそなえたことを特徴としている。
請求項3記載の本発明のジョー式破砕装置は、請求項1又は2記載のジョー式破砕装置において、前記第1油圧シリンダ内部の油圧が予め設定された所定圧以上である場合に、前記第1油圧シリンダ内部の作動油を放出するリリーフ弁を設けたことを特徴としている。
【0017】
請求項4記載の本発明のジョー式破砕装置は、請求項1〜3の何れか1項に記載のジョー式破砕装置において、前記可動歯の下部にその一端部が連結され、前記アームブロックの他端部にその他端部が連結された第2油圧シリンダをそなえ、前記第2油圧シリンダには、そのストロークを縮める方向に付勢するバネが内蔵されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の本発明のジョー式破砕装置によれば、第1油圧シリンダのストロークを伸縮させることで、アームブロックを揺動させ、トグルプレートとアームブロックとの連結位置を変更させることができる。この連結位置は、トグルプレートの一揺動支点であるので、トグルプレートの取付角度が変更されることとなり、トグルプレートの一端部に係合されてトグルプレートに支持される可動歯の先端の揺動軌跡が変更されることになる。したがって、可動歯先端の揺動軌跡を変更することができるので、多様な被破砕物を良好に破砕することができて、生産性を向上させることができる。
【0019】
また、トグルプレートの一揺動支点は、第1油圧シリンダのストロークの伸縮によって調整することができるので、可動歯先端の揺動軌跡を簡素な構成で容易に変更することができる。
さらに、第1油圧シリンダのストロークを伸縮させ、アームブロックの一端部を固定歯から離隔する方向に回動させて、可動歯と固定歯との間隙を拡大させることができる。したがって、破砕が困難で装置を停止させる要因となる金属塊等の固い異物を容易に除去することができる。
【0020】
請求項2記載の本発明のジョー式破砕装置によれば、アームブロックの凹部に挿入するシムプレートの枚数や厚みを変更して、可動歯と固定歯との間隙の大きさを調整することができる。したがって、被破砕物の破砕粒度を変更することができる。また、同時に、シムプレートの挿入によってトグルプレートの固定歯に対する位置を前後方向に変更することができるので、トグルプレートの一揺動支点を前記前後方向に変更することができて、可動歯の下部の揺動軌跡の変更の自由度を容易に増大させることができる。
【0021】
請求項3記載の本発明のジョー式破砕装置によれば、リリーフ弁が設けられているので、第1油圧シリンダに作用する負荷圧が所定圧以上の場合には、第1油圧シリンダが伸縮し、アームブロックが固定歯から離隔する方向に回動して、より簡素な構成で容易に可動歯と固定歯との間隙を拡大させることができて、破砕が困難で装置を停止させる要因となる金属塊等の固い異物を容易に除去することができる。例えば、リリーフ弁をヘッド側油室に対して設けて、ヘッド側油室の作動油を開放し、第1油圧シリンダのストロークを縮ませ、より簡素な構成で容易に可動歯と固定歯との間隙を拡大させることができる。
【0022】
請求項4記載の本発明のジョー式破砕装置によれば、第2油圧シリンダのストロークを、トグルプレートを第2油圧シリンダの他端部側へ引き寄せる付勢力が働くように適切に調整し、そのストロークを保持させて、トグルプレートの脱落を防止することができる。同時に、第2油圧シリンダに内蔵されたバネの付勢力によって、トグルプレートの脱落をより効果的に防止することができる。
【0023】
また、第2油圧シリンダは、アームブロックに連結されているので、可動歯と固定歯との間隙を拡大させる際に、アームブロックの固定歯から離隔する方向への後退に伴い、可動歯の下部を固定歯から離隔する方向に引っ張るので、可動歯と固定歯との間隙をより容易に拡大させることができる。したがって、破砕が困難で装置を停止させる要因となる金属塊等の固い異物をより容易に除去することができる。
【0024】
さらに、第2油圧シリンダのストロークを伸ばして、可動歯を固定歯に接近する方向へ動かし、シムプレートの着脱を容易に行なうことができる。
そして、第2油圧シリンダという一つの油圧シリンダにシムの調整の機能とシムプレートの脱落防止の機能とを兼用させるので、部品点数を抑えて簡素な構成にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図4は本発明の一実施形態に係るジョー式破砕装置を示すもので、図1は側断面図、図2は図1のA矢視図、図3は図1の油圧シリンダの油圧回路図、図4はその可動歯先端の揺動軌跡を示すグラフである。なお、背景技術での説明に用いたものと同様の部材には同じ符号を付して説明し、また、図5を適宜流用して説明する。
【0026】
本発明のジョー式破砕装置30は、図5に示す自走式破砕機1に、背景技術で説明した符号10で示すジョー式破砕装置に代わって搭載されるものである。
自走式破砕機1は、クローラ式の走行装置2と、走行装置2上に架台フレーム(図示略)を介して、機体前後方向略中央部に配設され、被破砕物を細かく破砕するジョー式破砕装置30と、ジョー式破砕装置30に被破砕物を供給する供給装置3と、ジョー式破砕装置30で破砕された被破砕物を機外に排出する排出装置4とを備えて構成されている。
【0027】
ジョー式破砕装置30は、図1及び図2に示すように、装置本体をなす骨組みとしてのフレーム31と、フレーム31に支持される回転軸32と、後述する油圧ポンプ61(図3参照)から吐出される圧油が供給され回動する破砕用油圧モータ(図示略)と、回転軸32の両端に設けられ、回転軸32を中心として破砕用油圧モータで発生した駆動力に基づいて回転するフライホイール33と、回転軸32に対してその上部が偏心して取付支持され、フライホイール33の回転に伴って揺動する可動歯34と、可動歯34に対向配置されフレーム31に固定された固定歯35とを備えている。なお、図1及び図2中において、フレーム31の各部分(及びその断面形状等)が各所に図示されているが、これらは各々が堅固に固定されて一体形成されたフレーム31の各部分を示しているものであり、全て同一の符号を以て図示している。
【0028】
そして、可動歯34と固定歯35との間のくさび状の間隙は、破砕室30aとして構成され、被破砕物は、破砕室30a上方の投入口30bから供給装置3を介して投入されて、破砕室30a内で可動歯34の揺動によって圧砕された後、下方の排出口30cから排出装置4に向かって排出されるようになっている。
ここで、可動歯34の排出口30c近傍の背面下部には、円弧状に窪んだ溝34bを備えた嵌合部34aが形成されている。さらに、嵌合部34a近傍には、一対のブラケット34cが形成されている。
【0029】
また、可動歯34先端の(即ち、可動歯34の排出口30cにおける)揺動軌跡を調整する可動歯先端軌跡調整装置として、トグルプレート41とトグルシート42とアームブロック43とアームブロック用油圧シリンダ(以下、アームシリンダという)45とを備えている。
さらに、可動歯34と固定歯35との排出口30cの間隙(出口寸法)Wの大きさを調整する間隙調整装置として、トグルプレート41の位置を調整するために挿入自在に取り付けられた複数枚のシム51と、挿入されるシム51の枚数を調整をするためのシム用油圧シリンダ(以下、シムシリンダという)52とを備えている。なお、シムシリンダ52は、後述するように、トグルプレート41の脱落を防止する機能も兼ねている。
【0030】
各部材について詳述すると、トグルプレート41は、その両端部41a,41bが側面視において円弧状に突起して形成されている板状の部材である。そして、この円弧状の一端部(可動歯34側端部)41aが可動歯34の嵌合部34aの溝34bに枢着されて、可動歯34の下部を支持するようになっている。
トグルシート42は、一端部(可動歯34側端部)に円弧状の溝42aが形成された板状の部材であって、この溝42aとトグルプレート41の他端部41bとが枢着されて、トグルプレート41の他端部41bを受けるようになっている。
【0031】
つまり、トグルプレート41の両端部41a,41bがそれぞれ、可動歯34の溝34b又はトグルシート42の溝42aと当接し、溝34b,42aは共に曲面に形成されているため、これらの当接点(又は当接線)は、可動歯34の溝34b又はトグルシート42の溝42aの曲面内で、摺動自在に構成されている。ここで、トグルプレート41の他端部41bとトグルシート42の溝42aとの当接部を第1揺動支点Pとも呼び、トグルプレート41の一端部41aと可動歯34の溝34bとの当接部を第2揺動支点Qとも呼ぶ。また、当接部は係合部とも呼ぶ。
【0032】
アームブロック43は、平板状の部材であって、その中間部をフレーム31に形成された第1ブラケット31a,31aに第1ピン44で回動自在に取り付けられている。また、アームブロック43は、一端部(可動歯34側端部)に凹部43aが形成されており、この凹部43aに、トグルシート42が収納されている。つまり、第1揺動支点Pが、凹部43a内に配置されて、アームブロック43が回動した際に、第1ピン44の中心点O44を軸として図1に一点鎖線で示すように弧を描いて揺動するようになっている。
【0033】
アームシリンダ45は、図3に示すように、アームシリンダ45の内周面に摺動自在に内嵌するピストン45aと、ピストン45aに一体的に固定されるロッド45bと、シリンダ45内部のピストン45aの軸方向両側にピストン45aを境にして形成されるヘッド側油室45c及びロッド側油室45dとを有している。また、図1に示すように、ロッド45bを下方に向けて、フレーム31に形成された第2ブラケット31bに第2ピン46で軸支されている。そして、ロッド45bの先端が、アームブロック43の他端部に軸着されている。これにより、ロッド45bを伸縮させると、アームブロック43が第1ピン44の中心点O44を軸として回動するようになっている。例えば、アームシリンダ45を伸ばせば、アームブロック43が図1中時計回り方向(P1方向)へ回動して、前述の第1揺動支点Pが上方に移動し、逆に、アームシリンダ45を縮めれば、アームブロック43が図1中反時計回り方向(P2方向)へ回動して、第1揺動支点Pが下方に移動するようになっている。
【0034】
したがって、可動歯先端軌跡調整装置は、第1揺動支点Pと第2揺動支点Qと回転軸32の中心点O32と可動歯34の偏心点O34とからなる四節リンク機構を有するようになっている。そして、中心点O32は装置本体に対して位置が固定され、第1揺動支点Pはアームブロック43の回動に伴い移動可能なので、この四節リンク機構上、第1揺動支点Pをわずかに動かすだけで、可動歯34下端の揺動軌跡が大きく変化するようになっている。なお、可動歯先端軌跡調整装置による調整は、破砕作業開始前に予め行なっておき、アームシリンダ45でアームブロック43の角度を設定し、シム51で出口寸法Wを調整する。その後は、第1揺動支点Pは固定され、第2揺動支点Qは可動歯34の動きを規制しつつ、可動歯34の動きに追従して微小動する。
【0035】
次に、間隙調整装置について詳述する。シム51は、所定の厚みを持った板状の部材であり、アームブロック43の凹部43aにおいて、アームブロック43の凹部43aの底面とトグルシート42との間に複数枚を出し入れ自在に取り付けられている。つまり、凹部43aには、可動歯34側から、トグルシート42,シム51の順に配設されている。そして、挿入するシム51の枚数を調整することにより、トグルシート42がトグルプレート41を受ける位置が決定されるようになっている。したがって、出口寸法Wの調整は、複数枚のシム51を出し入れすることにより行なわれ、出口寸法Wの大きさによって、被破砕物の処理粒度が決定されるようになっている。
【0036】
シムシリンダ52は、図3に示すように、シムシリンダ52の内周面に摺動自在に内嵌するピストン52aと、ピストン52aに一体的に固定されるロッド52bと、シムシリンダ52内部のピストン52aの軸方向両側にピストン52aを境にして形成されるヘッド側油室52c及びロッド側油室52dと、さらに、ロッド側油室52d内部にシリンダ軸方向に延在して取り付けられ、常時ピストン52aをヘッド側油室52cへ向かって付勢するバネ52eとを有している。即ち、バネ52eは、シムシリンダ52のストロークを縮小するようになっている。そして、ロッド52b[シムシリンダ52の一端部(可動歯34側端部)]が可動歯34の嵌合部34aのブラケット34cにピンで軸支され、ヘッド側の他端部がアームブロック43に形成されたブラケット43bに固定されている。
【0037】
なお、アームシリンダ45及びシムシリンダ52を油圧により駆動するためのジョー式破砕装置30の油圧回路は、図3に示すように構成される。この油圧回路上には、油圧源である油圧ポンプ61と、油圧ポンプから供給された作動油が流通する第1供給ラインA,第2供給ラインBと、還流された作動油を貯留する油圧タンク62とが配設されている。
【0038】
第1供給ラインAと第2供給ラインBとは分岐しており、第1供給ラインAには、シムシリンダ52が介装され、シムシリンダ52と油圧ポンプ61との間には、作動油流路上流側から第1パイロットチェック弁63,アキュムレータ64,第1電磁切換弁65がこの順に介装されている。
第1パイロットチェック弁63は逆流防止のための弁であり、アキュムレータ64はシムシリンダ52に供給される油圧を一定に保持するための蓄圧器である。そして、第1電磁切換弁65は、t1位置とt2位置との2位置を有する電磁式の2位置切換弁であって、t1位置ではシムシリンダ52のヘッド側油室52cに作動油が供給され、t2位置ではロッド側油室52dに作動油が供給されるようになっており、この位置の切換で、シムシリンダ52のストロークが調整されるようになっている。なお、第1電磁切換弁65は、非励磁の場合にはt2位置になるように設定されている。
【0039】
また、第2供給ラインBには、アームシリンダ45が介装され、アームシリンダ45と油圧ポンプ61との間には、第2電磁切換弁66と一対の第2パイロットチェック弁67,68とオーバーロードリリーフ弁70とが介装されている。
第2電磁切換弁66は、s1位置とs2位置とs3位置との3位置を有する電磁式の3位置切換弁であり、s1位置ではヘッド側油室45cに作動油が供給され、s2位置(中立位置)ではアームシリンダ45自体への作動油の供給が遮断され、s3位置では、ロッド側油室45dに作動油が供給されるようになっている。なお、第2電磁切換弁66は、非励磁の場合にはs2位置になるように設定されている。
【0040】
オーバーロードリリーフ弁70は、アームシリンダ45のヘッド側油室45cの油圧が所定圧以上の場合に、ヘッド側油室45cの作動油を放出して油圧タンク62に戻すための弁である。ここで、所定圧とは、可動歯34と固定歯35との間に噛み込みが生じた時にアームシリンダ45に作用する負荷圧であって、当然ながら、通常の破砕作業時の圧力よりも高く設定され、通常の破砕作業に支障を来たさない程度の支持圧力が確保されている。一対の第2パイロットチェック弁67,68は、アームシリンダ45の各油室45c,45dからの逆流防止のための弁である。
【0041】
本発明の一実施形態に係るジョー式破砕装置は上述のように構成されているので、以下のような作用・効果がある。
まず、被破砕物を破砕するために、オペレータ(作業者)は、破砕用油圧モータを駆動させ、回転軸32を中心としてフライホイール33を回転させる。すると、フライホイール33の回転に伴い、可動歯34が揺動する。この際、可動歯34は、上部に備えられた回転軸32の回転によって上下動しながら揺動され、下部はトグルプレート41の支持によって振動が抑制されているので、上部の投入口30b側ほど正円に近い円運動をし、下部の排出口30c付近では横長の楕円運動をするので、破砕室30aにおいてすりつぶしの作用が働く。
【0042】
本実施形態では、アームブロック43と、アームブロック43を揺動させるアームシリンダ45とを備えているので、可動歯34先端の揺動軌跡を変えることができ、このすりつぶし作用を変化させ、多様な被破砕物の破砕に対応することができる。したがって、作業効率を向上することができる。
図4に、可動歯34先端の揺動軌跡を示して、この揺動軌跡の調整方法を説明する。なお、図4のX−Y軸は図1のX−Y軸に対応する。
【0043】
まず、初期設定として、第1揺動支点Pは、図1に描かれる位置に配置されている。この際、アームシリンダ45のピストン45aはシリンダ軸方向略中間部に位置し、トグルプレート41は、水平面に対して取付角度θ0(図示略)で支持されている。
ここで、第2電磁切換弁66に通電してs1位置にし、アームシリンダ45のヘッド側油室45cに作動油を供給して、アームシリンダ45のストロークを伸ばす。すると、アームブロック43の他端部がアームシリンダ45のロッド45bによって押されて下方に移動し、アームブロック43の一端部が上方に移動する。つまり、トグルプレート41の他端部41bは、アームブロック43の一端部に位置するトグルシート42の溝42aに揺動可能に支持されているので、第1揺動支点Pが上方(図1のP1方向)に移動して取付角度θ1がθ0よりも増大し(θ1>θ0)、可動歯34先端は、図4のcのような、より直線的な長楕円形状の軌跡を描いて揺動する。これは、一般に硬質物の破砕に適している。
【0044】
逆に、第2電磁切換弁66に通電してs3位置にし、アームシリンダ45のロッド側油室45dに作動油を供給して、アームシリンダ45のストロークを縮める。すると、アームブロック43の他端部がロッド45bを介して引きずられて上方に移動し、アームブロック43の一端部が下方に移動する。つまり、第1揺動支点Pが下方(図1のP2方向)に移動して取付角度θ2はθ0よりも減少し(θ2<θ0)、可動歯34先端は、図4のeのような、より円的な短楕円形状の軌跡を描いて揺動する。これは、一般に軟質物の破砕に適している。
【0045】
つまり、アームシリンダ45のストロークを調整することにより可動歯34先端の揺動軌跡の楕円形状を変化させることができて、多様な被破砕物の破砕に対応することができる。したがって、作業効率を向上させることができる。
さらに、揺動軌跡は、アームシリンダ45のストロークで調整するので、その変更が容易であり、且つ、微細な変更にも対応することができる。
【0046】
なお、アームシリンダ45のストロークの設定後は、第2電磁切換弁66を非励磁にして中立位置s2に戻し、一対の第2パイロットチェック弁67,68でそのストロークが保持される。
また、本実施形態では、シム51とシムシリンダ52とを備えているので、出口寸法Wを調整して、被破砕物の粒度を変更することができる。
【0047】
出口寸法Wの調整方法を説明すると、まず、第1電磁切換弁65に通電してt1位置にし、シムシリンダ52のヘッド側油室52cに作動油を供給してシムシリンダ52のストロークを伸ばす。すると、アームブロック43とトグルシート42との間に若干の余裕ができて、アームブロック43とトグルシート42との間に挿入されたシム51の枚数を調整することができる。そして、挿入されたシム51の枚数に応じて、トグルプレート41を受けるトグルシート42の位置が決定されて、出口寸法Wを調整することができる。
【0048】
なお、出口寸法Wの設定後は、第1電磁切換弁65を非励磁にしてt2位置に戻し、シムシリンダ52を縮めるとともにアキュムレータ64でシムシリンダ52のロッド側油室52bに圧力を立てる。これにより、ピストン52aがヘッド側油室52c方向に押されて、シムシリンダ52が縮み、可動歯34先端がシムシリンダ52方向に引き込まれて、トグルプレート41が脱落しないように保持することができる。
【0049】
また、シムシリンダ52のロッド側油室52d内部にはバネ52eが内蔵されているので、バネ52eがシムシリンダ52のピストン52aをヘッド側に向かって押してシムシリンダ52を縮め、トグルプレート41をより効果的に保持することができる。
そして、トグルプレート41の脱落防止のために、シム調整用の油圧シリンダとは別にバネやバネに取り付けるロッドが配設されていた従来技術に比べて、シムシリンダ52という一つの油圧シリンダに、シム51の調整機能とトグルプレート41の脱落防止機能とを兼用させることができて、部品点数を少なくして、簡素な構成にすることができる。
【0050】
また、同時に、トグルシート42の可動歯34に対する前後位置を変更することができるので、トグルプレート41の第1揺動支点Pを前後方向に変更することができ、可動歯34先端の揺動軌跡の変更の自由度を容易に増大させることができる。
さらに、アームシリンダ45に対してオーバーロードリリーフ弁70が設けられているので、所定圧以上の場合にはヘッド側油室52cの作動油が開放され、アームシリンダ45のストロークが縮み、簡素な構成で容易に出口寸法Wを拡大させることができて、排出口30cに破砕装置30を停止させる要因となる金属塊等の固い異物が噛み込まれてしまっても、その異物を容易に除去することができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
例えば、上記実施形態では、アームシリンダ45を2本備えた構成を図示したが、可動歯34の揺動軌跡を調整可能にアームブロック43を回動可能であれば、その本数はこれに限らず、例えば1本であっても良いし、3本であっても良い。
【0052】
また、上記実施形態では、オーバーロードリリーフ弁70はヘッド側油室45cに対して設けたが、例えば、アームブロック43に対するアームシリンダ45の取付角度が90度未満の場合には、ロッド側油室45dに対して設けると良い。つまり、少なくとも被破砕物の圧縮反力による大きな負荷がかかる側の油室にオーバーロードリリーフ弁70が取り付けられていれば良い。
【0053】
これは、上記実施形態のように、アームブロック43に対するアームシリンダ45の取付角度が90度を超えている場合には、排出口30cに被破砕物が詰まった際に、出口寸法Wを拡大させようとアームブロック43が固定歯35から離隔する方向、つまりは、アームシリンダ45のストロークを縮める方向に負荷が働くためである。したがって、この負荷によって高まった油圧を逃がすように、オーバーロードリリーフ弁70がヘッド側油室45cに対して設置される構造となっている。ところが、上記取付角度が90度未満の場合、逆に、アームシリンダ45を引っ張るように、つまり、アームシリンダ45のストロークを伸ばす方向に負荷が働き、アームシリンダ45のロッド側油室45dの圧力が高まる一方、ヘッド側油室45cは負圧となるので、オーバーロードリリーフ弁70をロッド側油室45dに対して設けると良い。
【0054】
また、上記実施形態では、シムシリンダ52のバネ52eは、ロッド側油室52d内部に装着されて、ピストン52aをヘッド側油室52cへ向かって付勢するようになっているが、ヘッド側油室52c内部にシリンダ軸方向に延在するようにバネ52eを設けて、ピストン52aをヘッド側に引き込むように付勢する構成でも良い。つまり、シムシリンダ52のストロークを縮める方向にバネ52eの力が付勢されていれば良い。また、シムシリンダ52にバネ52eを内蔵せずに、シムシリンダ52とは別の位置にバネを配設して、バネの一端を可動歯34下部に連結させて、可動歯34下部をアームブロック43の他端部側に引き寄せて、トグルプレート41の脱落を防止するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態に係るジョー式破砕装置の側断面図である。
【図2】図1のA矢視図である。
【図3】図1の油圧シリンダの油圧回路図である。
【図4】図1の可動歯先端の揺動軌跡を示すグラフである。
【図5】一般的な自走式破砕機の側面図である。
【図6】背景技術に係るジョー式破砕装置の側断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 自走式破砕機
2 走行装置
3 供給装置
4 排出装置
10 ジョー式破砕装置
10a 破砕室
10c 排出口
11 可動歯
12 固定歯
13 フレーム
14 回転軸
15 トグルブロック
16 トグルプレート
17 フライホイール
18 油圧シリンダ
19 シート
20 バネ
21 ロッド
22 シム
30 ジョー式破砕装置
30a 破砕室
30b 投入口
30c 排出口
31 フレーム
31a,31b ブラケット
32 回転軸
33 フライホイール
34 可動歯
34a 嵌合部
34b 溝
34c ブラケット
35 固定歯
41 トグルプレート
41a 一端部
41b 他端部
42 トグルシート
42a 溝
43 アームブロック
43a 凹部
43b ブラケット
44 第1ピン(ピン)
45 アームシリンダ(アーム用油圧シリンダ,第1油圧シリンダ)
45a ピストン
45b ロッド
45c ヘッド側油室
45d ロッド側油室
46 第2ピン
51 シム(シムプレート)
52 シムシリンダ(シム用油圧シリンダ,第2油圧シリンダ)
52a ピストン
52b ロッド
52c ヘッド側油室
52d ロッド側油室
52e バネ
61 油圧ポンプ
62 油圧タンク
63 第1パイロットチェック弁
64 アキュムレータ
65 第1電磁切換弁
66 第2電磁切換弁
67,68 第2パイロットチェック弁
70 オーバーロードリリーフ弁(リリーフ弁)
A 第1供給ライン
B 第2供給ライン
c,d,e 揺動軌跡
32,O44 回転軸の中心点
34 可動歯の偏心点
P,Q 揺動支点(当接部)
1,s2,s3,t1,t2 切換位置
X,Y 軸
W 出口寸法(間隙)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置本体をなすフレームに固定された固定歯と、前記固定歯に対して接離する方向へ揺動可能に対向配置された可動歯とを有し、前記固定歯と前記可動歯との間に投入される被破砕物を前記揺動によって圧砕するジョー式破砕装置であって、
その一端部を前記可動歯の下部に係合させて前記揺動の支点とし、前記可動歯を支持するトグルプレートと、
前記トグルプレートの他端部にその一端部が係合されるとともに、その中間部が前記フレームに対しピンを介して軸支され、前記ピンを中心軸として回動可能に構成されたアームブロックと、
前記アームブロックの他端部にその一端部が連結され、前記アームブロックを前記回動させうる第1油圧シリンダとをそなえた
ことを特徴とする、ジョー式破砕装置。
【請求項2】
前記アームブロックの前記一端部に形成された凹部と、
前記凹部の底面と前記トグルプレートとの間に着脱可能に挿入され、前記可動歯と前記固定歯との下端の間隙を調整可能な複数のシムプレートとをそなえた
ことを特徴とする、請求項1記載のジョー式破砕装置。
【請求項3】
前記第1油圧シリンダ内部の油圧が予め設定された所定圧以上である場合に、前記第1油圧シリンダ内部の作動油を放出するリリーフ弁を設けた
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のジョー式破砕装置。
【請求項4】
前記可動歯の下部にその一端部が連結され、前記アームブロックの他端部にその他端部が連結された第2油圧シリンダをそなえ、
前記第2油圧シリンダには、そのストロークを縮める方向に付勢するバネが内蔵されている
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のジョー式破砕装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−38146(P2007−38146A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225745(P2005−225745)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000190297)新キャタピラー三菱株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】