説明

ジンバルのマスアンバランス測定装置および方法

【課題】 サーボ動作による雑音成分の影響を受けず、かつ、供試体のジンバルにデザー波形を印加しても、正確で定量的な測定手段を持ったジンバルのマスアンバランス測定装置を提供する。
【解決手段】 ジンバルを備えたシーカを搭載する回転テーブルを備えた測定装置で行われ、前記シーカの機軸に対する前記ジンバルの角度を、デザー振動波形を重畳した状態で一定角方向に向けた状態とし、前記回転テーブルを旋回させることにより得られるジンバル駆動トルク指令値を取得し、これをフーリエ級数解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誘導飛翔体シーカの組立を完了したジンバル部に、最終的に生じたマスアンバランスを定量的に測定し、評価する装置に関するもので、マスアンバランスの総合調整実施段階においても使用される測定装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
誘導飛翔体シーカのジンバル部のマスアンバランスを測定する装置として、特許文献1(特開平4−76431号公報)に記載されるものがある。特許文献1に記載される装置は、供試体のジンバルを機軸方向に向けるコマンドを与えたとき、ジンバルの角度制御動作において発生しているジンバルトルクモータに与えるトルクコマンドの電圧、又は、電流波形を、供試体を取り付けた旋回台を360度旋回させて取得し、得られた正弦波を直接観測し、その振幅と位相関係から、マスアンバランス量と重心位置ズレの方向を得ていた。
【0003】
上記のような、マスアンバランス測定装置について図6を参照して説明する。
【0004】
図6において、供試体であるシーカ601は、ジンバル601aの方向が機軸に対する角度が「0」となるように制御されている。シーカ601からは、トルカ出力610が出力される。この時、トルカ出力610にはマスアンバランスによって発生するトルクを打ち消すための成分が含まれている。
【0005】
旋回台602は測定において、ゆっくりと回転テーブル612を回転させる。トルカ電圧検出部604では、トルカ出力610を、トルク値TCに変換する。一方、旋回台602からは、回転テーブル612の旋回角度を示す旋回角出力611が出力され、回転角検出部603で旋回角θに変換される。
【0006】
トルク値TCは、その時の旋回角θに対する値として、RAM605に書き込まれ、回転テーブル612が一回転した時点で、計算機キーボード606の操作により、計算機入出力バス606を経由して計算機607に取り込まれて、旋回角θに対するトルク値TCがグラフとして計算機デスプレイ608に表示される。
【0007】
図7は、計算機デスプレイ608に表示された波形の一例を示す図である。
【0008】
図7に示されるように、計算機デスプレイ608には、マスアンバランスによって発生するトルクを打ち消すマスアンバランストルク成分振幅Aを持つ正弦波の成分とシーカ601のサーボ回路動作に起因するオフセット電圧Bが重畳されたトルカ出力波形701が表示される。
【0009】
計算機607は、プログラムにより、トルカ出力波形701のマスアンバランストルク成分振幅Aと、その振幅が最大となる発生角θPを探索する。
【0010】
図8は、図7に示したマスアンバランストルク成分振幅Aが最大となる点における、ジンバル601aの重心位置の関係を示している。図8において、供試体機軸方向704が重力方向と逆方向に一致させた旋回台604の基準方向703に対して回転角がθPとなった場合、重心位置の方向αと、回転角θPの和は、必ず旋回台604の基準方向703から、(3/2)πの角度となり、このことから、重心位置の方向αは、波形より得られたθPにより、
【0011】
【数1】

【0012】
となり、マスアンバランストルク成分振幅Aは、mgLの値に一致し、従って、マスアンバランストルク成分振幅Aと、振幅が最大となる発生角θPにより、マスアンバランスの発生状態を定量的に得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平4−76431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
供試体となる製品の能力向上に伴い、マスアンバランスの発生量を低減することの要求が高いものとなっている。また、サーボ帯域の拡大により、測定すべき波形が雑音レベルと同程度となっている。これらにより、図7に示したトルカ出力波形701に含まれるアンバランスによる成分の測定を、サーボ動作による雑音成分に埋もれた状態で測定を行わなければならない。
【0015】
また、マスアンバランスの検出において、ジンバルフリクションの影響を排除するため、従来の方法では測定に支障を来たすデザー波形をジンバル駆動に印加しなければならない。これらにより、以下のような課題が発生する。
【0016】
第1の課題は、トルク量を測定するために観測するトルカ出力波形701に含まれるサーボ動作雑音のため、得られた波形から、マスアンバランストルク成分振幅Aの値、及び、振幅が最大となる発生角θPの読み取りが困難であり、結果として、正確な測定ができないということである。
【0017】
第2の課題は、より正確なマスアンバランスの測定のため、フリクションの影響を取り除くため、供試体のジンバルにデザー波形による振動を加える動作をしようとすると、トルカ出力波形701にアンバランス成分に比べて、遥かに大きなデザー波形による成分が重畳されるため、マスアンバランス成分であるマスアンバランストルク成分振幅Aと振幅が最大となる発生角θPの読み取りが事実上、不可能になるということである。
【0018】
本発明は、サーボ動作による雑音成分の影響を受けず、かつ、供試体のジンバルにデザー波形を印加しても、正確で定量的な測定手段を持ったジンバルのマスアンバランス測定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のジンバルのマスアンバランス測定装置は、ジンバルを備えたシーカを搭載する回転テーブルと、
測定開始タイミングを示す測定制御信号を出力する測定制御部と、
前記測定制御信号に示されるタイミングにより、一定の周期と振幅を示すデザー波形を前記シーカに対する角度指令に重畳させる首ふり角度指令値を生成する角度コマンド発生部と、
前記首ふり角度指令値および前記測定制御信号に応じて、前記デザー波形の周期の整数倍で前記回転テーブルが1回転する時間となるように旋回角を逐次更新し指定する旋回指令出力、および旋回動作の開始および1回転したことをそれぞれ示す旋回開始信号および旋回完了信号を生成する旋回コマンド発生部と、
前記旋回指令出力に応じて前記回転テーブルを回転させるとともに該回転テーブルの旋回角度を示す角度センサ出力を生成する旋回台と、
前記シーカが出力する前記ジンバルを駆動するトルクを示すジンバル駆動トルクモニタ出力をスケール変換して数値化することによりジンバル駆動トルク指令値TCとするトルク信号検出部と、
前記角度センサ出力を数値化して旋回角θとする旋回角度検出部と、
前記旋回完了信号が入力されるまで、前記ジンバル駆動トルク指令値TCと旋回角θとを対応させて、
【0020】
【数2】

【0021】
の積分演算を行い、フーリエ係数a1、b1を求めるフーリエ係数解析部と、
前記フーリエ係数a1、b1について、
【0022】
【数3】

【0023】
の計算を行い、マスアンバランストルク最大値|Tc|とジンバルの重心位置のズレ方向の角度を示すαを求めるマスアンバランスベクトル演算部とを備える。
【0024】
本発明の他の形態によるジンバルのマスアンバランス測定装置は、
ジンバルを備えたシーカを搭載する回転テーブルと、
測定開始タイミングを示す測定制御信号を出力する測定制御部と、
前記測定制御信号に示されるタイミングにより、一定の周期と振幅を示すデザー波形を前記シーカに対する角度指令に重畳させる首ふり角度指令値を生成する角度コマンド発生部と、
前記首ふり角度指令値および前記測定制御信号に応じて、前記デザー波形の周期の整数倍で前記回転テーブルが1回転する時間となるように旋回角を逐次更新し指定する旋回指令出力、および旋回動作の開始および1回転したことをそれぞれ示す旋回開始信号および旋回完了信号を生成する旋回コマンド発生部と、
前記旋回指令出力に応じて前記回転テーブルを回転させるとともに該回転テーブルの旋回角度を示す角度センサ出力を生成する旋回台と、
前記シーカが出力する前記ジンバルを駆動するトルクを示すジンバル駆動トルクモニタ出力をスケール変換して数値化することによりジンバル駆動トルク指令値TCとするトルク信号検出部と、
前記角度センサ出力を数値化して旋回角θとする旋回角度検出部と、
前記旋回完了信号が入力されるまで、前記ジンバル駆動トルク指令値TCと旋回角θとを対応させて、
【0025】
【数4】

【0026】
の積分演算を行い、フーリエ係数a1、b1を求め、
前記フーリエ係数a1、b1について、
【0027】
【数5】

【0028】
の計算を行い、マスアンバランストルク最大値|Tc|とジンバルの重心位置のズレ方向の角度を示すαを求める計算機とを備える。
【0029】
本発明のジンバルのマスアンバランス測定方法は、ジンバルを備えたシーカを搭載する回転テーブルを備えた測定装置で行われるジンバルのマスアンバランス測定方法であって、
前記シーカの機軸に対する前記ジンバルの角度を、デザー振動波形を重畳した状態で一定角方向に向けた状態とし、前記回転テーブルを旋回させることにより得られるジンバル駆動トルク指令値を取得し、これをフーリエ級数解析することを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
第1の効果は、フーリエ級数の基本波成分のみを抽出するための積分演算により、供試体のサーボ動作で発生する雑音成分を平均化抑圧できることである。
【0031】
第2の効果は、フーリエ級数の基本波成分のみを抽出するため、サーボ動作で避けがたい供試体のジンバル駆動トルク波形に含まれるオフセット成分を完全に除去できことである。
【0032】
第3の効果は、ジンバル駆動トルク波形に基本波に対して整数分の一の周期を持っていた場合は、フーリエ係数算出演算により、完全に除去できることから、マスアンバランス測定の誤差の原因となるジンバルのフリクションの影響を少なくするために充分な振幅による振動のデザー波形をジンバルに加えることができることである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明によるマスアンバランス測定装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示した実施形態における供試体のジンバルにおけるとジンバル重心ズレ位置とマスアンバランストルク発生量との関係を示す図である。
【図3】供試体のマスアンバランスを測定する測定系の構成を示すブロック図である。
【図4】本実施形態の動作を示す波形図である。
【図5】本発明の他の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図6】マスアンバランス測定装置を説明するための図である。
【図7】図6中の計算機デスプレイ608に表示された波形の一例を示す図である。
【図8】図7に示したマスアンバランストルク成分振幅Aが最大となる点における、ジンバル601aの重心位置の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に、本発明による実施形態について図面を参照して説明する。
【0035】
図1は本発明によるマスアンバランス測定装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。図2は、図1に示した実施形態における供試体のジンバルにおけるとジンバル重心ズレ位置とマスアンバランストルク発生量との関係を示す図である。図3は、供試体のマスアンバランスを測定する測定系の構成を示すブロック図である。図4は、本実施形態の動作を示す波形図である。
【0036】
図1において、角度コマンド発生部100は、測定制御部118で発生した測定制御信号112中の測定開始タイミング信号により、フリクションの影響を抑えるために必要となる一定の周期と振幅を持つデザー波形を生成し、供試体機軸に対する角度指令「0」の指令値に重畳して首振角度指令値
【0037】
【数6】

【0038】
として、供試体であるシーカ101へ出力すると同時に旋回コマンド発生部103に出力する。
【0039】
旋回コマンド発生部103は、首振角度指令値
【0040】
【数7】

【0041】
と測定制御信号112に基づきデザー波形の周期の整数倍で回転テーブル113が1回転する時間となるように旋回角を逐次更新し指定する旋回指令出力110を旋回台104へ出力する。
【0042】
また、旋回コマンド発生部103は旋回台104が旋回を開始するときに、旋回開始信号117を発生し、また、1回転した点の旋回角を発生した時点では、旋回完了信号116を発生して、フーリエ係数解析部106及び、マスアンバランスベクトル演算部107に出力する。
【0043】
旋回台104は、この旋回指令出力110に従って、供試体を固定した回転テーブル113を旋回させる動作をする。供試体であるシーカ101は、ジンバル101aを駆動するトルクを示すジンバル駆動トルクモニタ出力109を生成し、該ジンバル駆動トルクモニタ出力109は、トルカ信号検出部109でジンバル駆動トルク指令値TCにスケール変換され数値化されて、フーリエ係数解析部106に出力される。
【0044】
旋回台104は、回転テーブル113の旋回角度を検出する機能を備えるもので、該旋回角度を示す角度センサ出力111は、旋回角度検出部105において数値化されて、旋回角θとしてフーリエ係数解析部106の入力端に出力される。
【0045】
フーリエ係数解析部106では、旋回完了信号116が入力される時点まで、旋回角θと、この時に入力されたジンバル駆動トルク指令値TCを対応表の形式で蓄えて、
【0046】
【数8】

【0047】
の積分演算を行い、旋回完了信号116が入力された時点でフーリエ係数a1、b1としてマスアンバランスベクトル演算部107に出力する。
【0048】
旋回開始信号117が入力された時点で、フーリエ係数解析部106の積分演算結果はクリアされる。
【0049】
マスアンバランスベクトル演算部107では、旋回完了信号116が入力された時点で、フーリエ係数a1、b1を入力し、これらの値により、
【0050】
【数9】

【0051】
の計算を行い、マスアンバランストルク最大値|Tc|とジンバルの重心位置のズレ方向の角度を示すαを表示部108に出力する。
【0052】
表示部108では、入力された|Tc|とαにより、表示部108の画面上に、これらの値の数値を表示する。また、測定指令115に基づき、測定者の便宜のため、必要に応じて、測定によって得られた旋回台104の旋回角θを横軸にしたマスアンバランストルクTuの抽出波形に相当する
【0053】
【数10】

【0054】
の式による波形と、トルカ信号検出部102から出力されるジンバル駆動トルク指令値TCをグラフ化して表示する。
【0055】
操作者は、操作部114を操作することにより、表示部108及び、測定制御部118に対し、測定指令115を出力する。測定制御部118は、測定指令115に基づき、測定開始タイミングを示す測定制御信号112を角度コマンド発生部100及び旋回コマンド発生部103に出力する。
【0056】
次に、図1に示したマスアンバランス測定装置の動作を説明する。
【0057】
図1に示すマスアンバランス測定装置は、角度コマンド発生部100が、供試体であるシーカ101に対して、供試体内のジンバル部101aのフリクションの影響を抑えるために必要となる一定の周期と振幅を持つデザー波形を生成し、供試体機軸に対して角度指令「0」の指令値に重畳して首振角度指令値
【0058】
【数11】

【0059】
として出力する。一方、この首振角度指令値
【0060】
【数12】

【0061】
は、同時に旋回コマンド発生部103に供給される。旋回コマンド発生部103では旋回台104をデザー波形の周期の整数倍の時間で1回転するための旋回角速度ωで旋回台104が旋回するように旋回指令出力110を出力する。
【0062】
図2において、旋回角、つまり、重力方向に一致する旋回台104の基準方向である旋回台基準方向203から、旋回台104が旋回して、供試体機軸方向204との角度がθとなった場合、仮に、ジンバル101aの重心位置201が、ジンバル回転軸202からの距離がLで、その方向が供試体機軸方向204からαであるとすると、ジンバル回転部分の全質量がmである場合には、重力加速度gにより、
【0063】
【数13】

【0064】
のマスアンバランストルクTUが発生する。この式が示す通り、旋回角θに対するマスアンバランストルクTUは、位相がαだけ進んだ、振幅がmgLの値を持つ正弦波である。
【0065】
供試体であるシーカ101の角度制御を行うための制御ブロック図の一例を図3に示している。
【0066】
図3において、首振角度指令値
【0067】
【数14】

【0068】
に対するジンバル首振角θGとの差分を得る加算機能301と、その差分に基づいてジンバルを首振角度指令値
【0069】
【数15】

【0070】
に一致させるためにジンバルを動かすために適切なジンバル角速度指令
【0071】
【数16】

【0072】
を得る
角度制御利得要素307と、ジンバル角速度指令
【0073】
【数17】

【0074】
に対する機軸に対するジンバルの角速度との差分を得る加算機能302と、その差分に基づいてジンバルをジンバル角速度指令
【0075】
【数18】

【0076】
に一致させ、動かすために適切なトルクモータへのジンバル駆動トルク指令TCを得るための角速度制御利得要素303と、ジンバル駆動トルク指令TCにより、ジンバルを回転させるためのトルクを発生するトルクモータ311により構成され、ジンバルは、マスアンバランストルク加算要素304で表現されている通り、トルクモータ311で発生したトルクに、マスアンバランストルクTuが加わりジンバルに加わる。
【0077】
このトルクによって、ジンバルはジンバル系伝達関数305に従った応答により、ジンバル角速度
【0078】
【数19】

【0079】
を生じ、その結果として、ジンバル角速度
【0080】
【数20】

【0081】
の積分値として、ジンバル首振角度θGが変化することになる。ジンバル角速度
【0082】
【数21】

【0083】
はタコメータ309により検出され、電気信号に変換され加算要素302に帰還される。ジンバル首振角度θGは、角度センサ310により検出され、電気信号に変換されて加算要素301に帰還される。
【0084】
上記の構成により、供試体のジンバル系308は、首振角度指令値
【0085】
【数22】

【0086】
に追従するようにジンバル首振角θGが変化することになる。このようにして、供試体であるシーカ101のジンバルの首振り角は、首振角度指令値
【0087】
【数23】

【0088】
に従う動作をするが、シーカ101からは、この追従動作において発生するジンバル駆動トルク指令をジンバル駆動トルクモニタ出力109として出力する。
【0089】
図3のブロック図から分かるとおり、
【0090】
【数24】

【0091】
は、
【0092】
【数25】

【0093】
の関係があることから、ジンバル駆動トルク指令TCは、
【0094】
【数26】

【0095】
で表すことができる。
【0096】
ここで、首振角度指令値
【0097】
【数27】

【0098】
を「0」に固定したことを考えると、マスアンバランストルクTuに対してのジンバル角速度
【0099】
【数28】

【0100】
への応答についての伝達関数
【0101】
【数29】

【0102】
は、
【0103】
【数30】

【0104】
となるため、旋回台104の旋回速度を遅くすることによって、正弦波形である、マスアンバランストルクTuの周期が充分に長大きくなり、ジンバル角速度
【0105】
【数31】

【0106】
を「0」に近づけることができることになり、(数式3)は、
【0107】
【数32】

【0108】
の関係となって、ジンバル駆動トルクモニタ出力109には、マスアンバランストルクTuの逆相の波形を得ることができる。実際は、フリクションの影響を除去するためのデザー波形を、首振角度指令値
【0109】
【数33】

【0110】
とするため、この波形によるジンバル角速度
【0111】
【数34】

【0112】
の変化が重畳され、更に、サーボ回路動作によるオフセット成分を含む雑音成分が加算された波形がジンバル駆動トルクモニタ出力109に出力されることになる。
【0113】
上記のようにして、ジンバル駆動トルクモニタ出力109にはマスアンバランスによって発生する重力によるジンバルの回転軸周りに、旋回角θに対応するマスアンバランストルクを打ち消すためのトルク指令分が加算したものとして供試体から出力されることになる。
【0114】
トルカ信号検出部102は、ジンバル駆動トルクモニタ出力109の信号をジンバル駆動トルク指令値TCにスケール変換してフーリエ係数解析部106に出力する。一方、旋回角度検出部105は、旋回台104から出力される角度センサ出力111を角度データに変換し、旋回台104の旋回角θとしてフーリエ係数解析部106のもう一方の入力端に出力する。
【0115】
フーリエ係数解析部106では、得られた旋回台104の旋回角θと、その時に発生しているジンバル駆動トルク指令値TCを元に、
【0116】
【数35】

【0117】
の積分演算を行い、もともとのマスアンバランストルクTuによって発生した(数式1)の成分に対応する正弦波のフーリエ係数a1、b1を求める。
【0118】
ここで、オフセット等の直流成分と、連続した周期性を持つ波形は、kを整数とした場合、フーリエ級数により、
【0119】
【数36】

【0120】
で表すことができる。従って、一般的には、ジンバル駆動トルク指令値TCは、周期性の無いサーボ動作雑音等の成分N(t)が、(数式7)に示す周期性を持った成分に加わった波形として考えることができるため、
【0121】
【数37】

【0122】
で表すことができる。
【0123】
ここで、フリクションの影響を抑えるために一定の周期と振幅を持つデザー波形を生成し、供試体機軸に対して角度指令「0」の指令値に重畳した、首振角度指令値
【0124】
【数38】

【0125】
によるジンバル駆動トルク指令値TCに含まれる成分は、マスアンバランストルクTuによって発生した波形の周波数の整数倍に選ばれており、デザー波形の歪みによる高調波成分を含んでマスアンバランストルクTuの周波数成分への重なりの無い周期性のある波形として扱え、(数式8)右辺の第2項の成分に含まれ、かつ、マスアンバランストルクTuの成分に対応するフーリエ係数a1、b1には含まれないことになる。
【0126】
従って、前記の(数式6a)及び、(数式6b)の演算結果は、それぞれ、
【0127】
【数39】

【0128】
となり、マスアンバランストルクTuの成分に対応するフーリエ係数a1、b1と、サーボ動作雑音等の雑音成分N(t)による、成分na、nbが加算された結果となる。
【0129】
ここで、na、nbは、(数式9a)、(数式9b)から分かる通り、旋回台104の1回転する時間に相当する時間Tを充分に大きくすることにより、平均化され無視できる程度に小さくすることができ、周期関数成分のフーリエ係数a1、b1として扱える。つまり、旋回台104の1回転する時間を、実用上na、nbを無視できる程度に大きくした場合、(数式9a)、(数式9b)の結果は、デザー波形の成分を含まないマスアンバランストルクTuにより発生したジンバル駆動トルク指令値TCのフーリエ係数a1、b1として扱うことができ、また、(数式1)と(数式5)の関係から、
【0130】
【数40】

【0131】
の関係を持つことを意味している。この(数式10)の左辺側は、
【0132】
【数41】

【0133】
で表すことができるため、
【0134】
【数42】

【0135】
の関係があることが分かる。
【0136】
このようにして、フーリエ係数解析部106で得られたフーリエ係数a1、b1は、マスアンバランスベクトル演算部107に出力される。
【0137】
マスアンバランスベクトル演算部107では、(数式11b)、(数式11c)の関係を用いて、フーリエ係数a1、b1の値から、
【0138】
【数43】

【0139】
の計算を用いて、マスアンバランストルク最大値|TC|とジンバルの重心位置のズレ方向を示す供試体機軸方向204からの角度αを得る。
【0140】
ここで、角度αの値域はジンバルの重心位置方向を示す角度であることから(−π)から(π)の範囲でなければならないが、通常、(数式12b)により得られる計算結果の値域は、通常(−π/2)から(π/2)の範囲に限定されているため、この場合は、
b1が正の場合、
【0141】
【数44】

【0142】
1が正でb1が負の場合、
【0143】
【数45】

【0144】
1とb1が共に負の場合、
【0145】
【数46】

【0146】
の計算により値域を(−π)から(π)の範囲に拡張する。
【0147】
このようにして得られた、マスアンバランストルク最大値|TC|とジンバルの重心位置のズレ方向を示す供試体機軸方向204からの角度αは、マスアンバランスベクトル量|TC|<αとして表示部108に出力される。
【0148】
表示部108ではマスアンバランスベクトル量を操作者に測定結果として表示することにより、供試体ジンバル部101aに生じているマスアンバランス量を操作者が定量的に知ることができる。
【0149】
以上の動作を、図4を用いてさらに詳細に説明する。
【0150】
図4において、図1に示した旋回台104の旋回角θが変化した時、シーカ101のジンバル部101aのマスアンバランス成分は、図4の401に示すように重心位置方向角αだけ位相が進んだ振幅がmgLの値を持つ正弦波となる。
【0151】
この場合、シーカ101から出力されるジンバル駆動トルクモニタ出力109の波形は、サーボ動作により、マスアンバランス成分を打ち消すことにより生じる図4の401と等しい逆相の波形に、首振角度指令値
【0152】
【数47】

【0153】
として、供試体であるシーカ101に入力されているデザー波形による駆動トルクおよび、サーボ動作におけるオフセット成分と雑音が加わり、図4の402に示す波形となる。この波形402は、フーリエ係数解析部106における演算で、フーリエ係数a1、b1が得られ、マスアンバランスベクトル演算部107において、
【0154】
【数48】

【0155】
とαの値が得られる。この
【0156】
【数49】

【0157】
とαは、ジンバル駆動トルクモニタ出力109の波形の基本波成分の振幅と位相に相当するため、旋回角θに対する三角関数
【0158】
【数50】

【0159】
で表すことができ、この波形は、図4の403で示すものとなる。
【0160】
このようにして、供試体に発生している図4の波形401に示されるマスアンバランストルク成分は、ジンバル駆動トルクモニタ出力109の波形である図4の402に示す波形から、デザーの波形とオフセット及び、雑音成分が除去されて、図4の403の波形として抽出されたことになり、前記の式(数式5)の関係から、この、図4の403の波形の逆相が、図4の401のマスアンバランス成分に一致していることになる。
【0161】
以上説明したように、本実施形態においては、フーリエ係数解析部106において、得られた旋回台104の旋回角θと、その時に発生しているジンバル駆動トルク指令値TCを元にフーリエ係数解析部106でマスアンバランストルクTuの成分に対応するフーリエ級数の基本波成分のみを抽出している。
【0162】
また、マスアンバランス測定の誤差の原因となるジンバルのフリクションの影響を少なくするために必要となる充分な振幅による振動を基本波周期、つまり、回転テーブル113を1回転させる時間に対して整数分の一の周期でデザー波形としてジンバルに加えることができる角度コマンド発生部100と旋回コマンド発生部103を備えているので、以下に記載するような正確にマスアンバランスの測定を行うための以下の効果を奏する。
【0163】
本発明の他の実施形態として、その基本的構成は上記の通りであるが、図1に示したフーリエ係数解析部106、マスアンバランスベクトル演算部107、操作部114及び、表示部108の持つ機能は、プログラムによる処理への置き換えが可能であるため、この部分を計算機に構成を置き換えて、図5に示す構成とすることができる。
【0164】
図5において、トルカ信号検出部102からのジンバル駆動トルク指令TC、旋回角度検出部105からの旋回角θ、旋回コマンド発生部103からの旋回完了信号116及び、旋回開始信号117は、計算機インターフェース505に入力され、計算機入出力バス504を経由して計算機501に取り込まれる。
【0165】
これらの信号を基に、計算機501では、プログラム処理により、図1に示したフーリエ係数解析部106、マスアンバランスベクトル演算部107及び、表示部108で行っている演算処理及び、表示処理を行って、計算機デスプレイ503に出力する。計算機デスプレイ503は、計算機501におけるプログラム処理により得られた
|TC|とαを画面上に表示する。
【0166】
本構成の操作者による測定指示は、計算機キーボード502により、計算機501に取り込まれ処理に反映されると同時に、計算機入出力バス504と計算機インターフェース505を経由して測定指令115を測定制御部118に出力する。
【0167】
図5におけるその他の部分の構成は図1と同じであり、また、動作も図1におけるフーリエ係数解析部106、マスアンバランスベクトル演算部107、操作部114及び、表示部108の持つ機能は、プログラムによる処理への置き換えを行う構成であるため、置き換えた部分以外の構成の説明及び、図5の構成の動作説明は省略する。
【0168】
上記のように構成される本発明は、供試体である誘導飛翔体シーカのジンバルに生じているマスアンバランスを、供試体を回転テーブルに固定し、供試体の機軸に対するジンバル角を、デザー振動波形を重畳した状態で一定角方向に向ける角度制御動作を行わせた状態とし、回転テーブルを旋回させることにより得られるジンバルトルク指令値を取得し、これをフーリエ級数解析する。
【0169】
回転テーブルが1周する周期と同一の周期をもつ重力によるマスアンバランストルクを打ち消すトルクコマンドの波形に相当する基本波成分のみを抽出することにより、フリクションの影響をなくすために加えることによって生じた不要なデザー振動波形成分除去しつつ、サーボ動作雑音成分を抑制してジンバルに発生しているマスアンバランス量を評価軸周りのジンバル重心位置の方向角度とマスアンバランスを定量的、且、正確に得ることを特徴としている。
【符号の説明】
【0170】
100 角度コマンド発生部
101 シーカ
101a ジンバル
102 トルカ信号検出部
103 旋回コマンド発生部
104 旋回台
105 旋回角度検出部
106 フーリエ係数解析部
107 マスアンバランスベクトル演算部
108 表示部
109 ジンバル駆動トルクモニタ出力
110 旋回指令出力
111 角度センサ出力
112 測定制御信号
113 回転テーブル
114 操作部
115 測定指令
116 旋回完了信号
117 旋回開始信号
118 測定制御部
201 重心位置
202 ジンバル回転軸
203 旋回台基準方向
204 供試体機軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジンバルを備えたシーカを搭載する回転テーブルと、
測定開始タイミングを示す測定制御信号を出力する測定制御部と、
前記測定制御信号に示されるタイミングにより、一定の周期と振幅を示すデザー波形を前記シーカに対する角度指令に重畳させる首ふり角度指令値を生成する角度コマンド発生部と、
前記首ふり角度指令値および前記測定制御信号に応じて、前記デザー波形の周期の整数倍で前記回転テーブルが1回転する時間となるように旋回角を逐次更新し指定する旋回指令出力、および旋回動作の開始および1回転したことをそれぞれ示す旋回開始信号および旋回完了信号を生成する旋回コマンド発生部と、
前記旋回指令出力に応じて前記回転テーブルを回転させるとともに該回転テーブルの旋回角度を示す角度センサ出力を生成する旋回台と、
前記シーカが出力する前記ジンバルを駆動するトルクを示すジンバル駆動トルクモニタ出力をスケール変換して数値化することによりジンバル駆動トルク指令値TCとするトルク信号検出部と、
前記角度センサ出力を数値化して旋回角θとする旋回角度検出部と、
前記旋回完了信号が入力されるまで、前記ジンバル駆動トルク指令値TCと旋回角θとを対応させて、
【数1】

の積分演算を行い、フーリエ係数a1、b1を求めるフーリエ係数解析部と、
前記フーリエ係数a1、b1について、
【数2】

の計算を行い、マスアンバランストルク最大値|Tc|とジンバルの重心位置のズレ方向の角度を示すαを求めるマスアンバランスベクトル演算部とを備える、ジンバルのマスアンバランス測定装置。
【請求項2】
ジンバルを備えたシーカを搭載する回転テーブルと、
測定開始タイミングを示す測定制御信号を出力する測定制御部と、
前記測定制御信号に示されるタイミングにより、一定の周期と振幅を示すデザー波形を前記シーカに対する角度指令に重畳させる首ふり角度指令値を生成する角度コマンド発生部と、
前記首ふり角度指令値および前記測定制御信号に応じて、前記デザー波形の周期の整数倍で前記回転テーブルが1回転する時間となるように旋回角を逐次更新し指定する旋回指令出力、および旋回動作の開始および1回転したことをそれぞれ示す旋回開始信号および旋回完了信号を生成する旋回コマンド発生部と、
前記旋回指令出力に応じて前記回転テーブルを回転させるとともに該回転テーブルの旋回角度を示す角度センサ出力を生成する旋回台と、
前記シーカが出力する前記ジンバルを駆動するトルクを示すジンバル駆動トルクモニタ出力をスケール変換して数値化することによりジンバル駆動トルク指令値TCとするトルク信号検出部と、
前記角度センサ出力を数値化して旋回角θとする旋回角度検出部と、
前記旋回完了信号が入力されるまで、前記ジンバル駆動トルク指令値TCと旋回角θとを対応させて、
【数3】

の積分演算を行い、フーリエ係数a1、b1を求め、
前記フーリエ係数a1、b1について、
【数4】

の計算を行い、マスアンバランストルク最大値|Tc|とジンバルの重心位置のズレ方向の角度を示すαを求める計算機とを備える、ジンバルのマスアンバランス測定装置。
【請求項3】
ジンバルを備えたシーカを搭載する回転テーブルを備えた測定装置で行われるジンバルのマスアンバランス測定方法であって、
前記シーカの機軸に対する前記ジンバルの角度を、デザー振動波形を重畳した状態で一定角方向に向けた状態とし、前記回転テーブルを旋回させることにより得られるジンバル駆動トルク指令値を取得し、これをフーリエ級数解析することを特徴とするジンバルのマスアンバランス測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−169421(P2010−169421A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9841(P2009−9841)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】