説明

スイッチング素子の駆動装置

【課題】定電流回路をドライブIC20によって構成することでドライブIC20の発熱量が大きくなること。
【解決手段】ドライブIC20は、スイッチング素子Sw#をオン状態に切り替えるための電荷をスイッチング素子Sw#のゲートに充電する直流電圧源DC1,DC2,DC3を備える。これら直流電圧源DC1,DC2,DC3の出力電圧V1,V2,V3の間には、「V1<V2<V3」の関係がある。直流電圧源DC1の出力電流を定電流回路SC1によって一定値に制御しつつゲートを充電した後、直流電圧源DC2の出力電流を定電流回路SC2によって一定値に制御しつつゲートを充電し、最後に、直流電圧源DC3の出力電流を定電流回路SC3によって一定値に制御しつつゲートを充電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧制御形のスイッチング素子を駆動するスイッチング素子の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の駆動装置としては、たとえば下記特許文献1に見られるように、IGBTをオンさせるべく、IGBTのゲートに電流を出力する定電流電源を2種類備えるものも提案されている。この装置は、ゲート電圧が閾値電圧以上となることでゲートに供給する電流量を増加させ、ミラー期間の短縮を図るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−29059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ただし、上記のように、定電流電源を用いる場合、ゲート電圧にかかわらず電流量を一定値とするために用いられて且つ電流の絞り機能を有する手段の発熱量等が大きくなり、ひいては駆動装置の損失が増大するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決する過程でなされたものであり、その目的は、電圧制御形のスイッチング素子を駆動する新たなスイッチング素子の駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、およびその作用効果について記載する。
【0007】
請求項1記載の発明は、電圧制御形のスイッチング素子を駆動するスイッチング素子の駆動装置において、前記スイッチング素子の開閉制御端子に該スイッチング素子のスイッチング状態を切り替えるための正の電荷を供給する直流電圧源と、前記直流電圧源から前記開閉制御端子へと前記電荷を供給するための電流の流通経路における電流量を制限する制限手段と、前記開閉制御端子の充電の進行に伴い前記直流電圧源の出力電圧を上昇させる上昇手段とを備え、前記制限手段は、前記直流電圧源から前記開閉制御端子へと流入する電流を一定値に制御する定電流制御手段を備えることを特徴とする。
【0008】
上記発明では、上昇手段を備えることで、はじめから出力電圧を高くする場合と比較して、開閉制御端子の充電に際しての直流電圧源から出力される電気エネルギ量を低減することができ、ひいては制限手段によって消費される電気エネルギ量を低減することができる。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記上昇手段は、前記開閉制御端子の充電電圧の上昇速度が低下する期間であるミラー期間を回避して前記出力電圧を上昇させることを特徴とする。
【0010】
開閉制御端子への電荷の供給速度をミラー期間において大きくすることで、スイッチング素子の入力端子および出力端子間の電圧が高い期間を短縮することができ、ひいてはスイッチング損失を低減することができる。一方、開閉制御端子への充電に際して直流電圧源が供給するエネルギ量を低減する上では、開閉制御端子の電圧に対する直流電圧源の出力電圧の上回り度合いが小さいほどよい。これは、開閉制御端子の電圧に対する直流電圧源の出力電圧の上回り度合いが最小となる時点で出力電圧を上昇させるに際し、上回り度合いの最小値を極力小さくすることで実現することができる。ただし、ミラー期間において直流電圧源の出力電圧の上回り度合いが過度に小さくなる場合には、ミラー期間における電荷の供給速度が低下するおそれがある。この点、上記発明では、ミラー期間を避けて出力電圧を上昇させる設定とすることで、ミラー期間において上記上回り度合いが最小となる事態を回避することと、直流電圧源の供給エネルギ量を低減することとの好適な両立を図ることができる。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記上昇手段による前記直流電圧源の出力電圧の上昇タイミングには、前記スイッチング素子がオン状態となるタイミングよりも前のタイミングが含まれることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記上昇手段による前記直流電圧源の出力電圧の上昇タイミングには、前記開閉制御端子の充電電圧の上昇速度が低下する期間であるミラー期間よりも後のタイミングが含まれることを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の発明は、電圧制御形のスイッチング素子を駆動するスイッチング素子の駆動装置において、前記スイッチング素子の開閉制御端子に該スイッチング素子のスイッチング状態を切り替えるための正の電荷を供給する直流電圧源と、前記直流電圧源から前記開閉制御端子へと前記電荷を供給するための電流の流通経路における電流量を制限する制限手段と、前記開閉制御端子の充電の進行に伴い前記直流電圧源の出力電圧を上昇させる上昇手段とを備え、前記上昇手段による前記直流電圧源の出力電圧の上昇タイミングには、前記スイッチング素子がオン状態となるタイミングよりも前のタイミングが含まれることを特徴とする。
【0014】
上記発明では、上昇手段を備えることで、はじめから出力電圧を高くする場合と比較して、開閉制御端子の充電に際しての直流電圧源から出力される電気エネルギ量を低減することができ、ひいては制限手段によって消費される電気エネルギ量を低減することができる。
【0015】
請求項6記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、前記直流電圧源は、互いに出力電圧が相違する複数の電源からなり、前記定電流制御手段は、前記複数の電源のそれぞれから前記開閉制御端子へと流入する電流を一定値に制御する各別の手段であることを特徴とする。
【0016】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、前記定電流制御手段の出力側には、該定電流制御手段側から前記開閉制御端子側へと進む方向を順方向とする整流手段が設けられていることを特徴とする。
【0017】
上記発明では、開閉制御端子側から定電流制御手段側への電流の逆流を回避することができる。
【0018】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記上昇手段は、前記開閉制御端子に前記電荷の供給を開始してからの経過時間を計時する計時手段と、該計時された経過時間に基づき前記出力電圧を上昇させる処理を行う手段とを備えることを特徴とする。
【0019】
上記発明では、開閉制御端子の電圧の検出に頼ることなく、出力電圧を上昇させる処理を適切に行うことができる。
【0020】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記上昇手段は、前記出力電圧を上昇させる処理を行うための前記計時された経過時間の閾値を記憶する手段であって且つ、外部端子によってアクセス可能な記憶手段を備えることを特徴とする。
【0021】
上記発明では、閾値を各別に設定可能なため、スイッチング素子の個体差等に応じて出力電圧を上昇させるタイミングを適切に設定することができる。
【0022】
請求項10記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記上昇手段は、前記開閉制御端子の電圧を検出する電圧検出手段と、該検出された電圧に基づき前記出力電圧を上昇させる処理を行う手段とを備えることを特徴とする。
【0023】
開閉制御端子を充電するために適切な直流電圧源の出力電圧は、開閉制御端子の電圧に応じて定まる。この点、上記発明では、開閉制御端子の電圧の検出値に基づき出力電圧を上昇させることで、出力電圧を適切に上昇させることができる。
【0024】
請求項11記載の発明は、請求項1〜10のいずれか1項に記載の発明において、前記上昇手段は、前記出力電圧を段階的に上昇させるものであり、前記上昇手段は、前記スイッチング素子に流れる電流量に基づき、前記出力電圧の上昇タイミングに対応する前記開閉制御端子の電圧を可変とする可変手段を備えることを特徴とする。
【0025】
開閉制御端子への電荷の供給速度をミラー期間において大きくすることで、スイッチング素子の入力端子および出力端子間の電圧が高い期間を短縮することができ、ひいてはスイッチング損失を低減することができる。一方、開閉制御端子への充電に際して直流電圧源が供給するエネルギ量を低減する上では、開閉制御端子の電圧に対する直流電圧源の出力電圧の上回り度合いが小さいほどよい。これは、開閉制御端子の電圧に対する直流電圧源の出力電圧の上回り度合いが最小となることで出力電圧を上昇させるに際し、上回り度合いの最小値を極力小さくすることで実現することができる。ただし、ミラー期間において直流電圧源の出力電圧の上回り度合いが過度に小さくなる場合には、ミラー期間における電荷の供給速度が低下するおそれがある。さらに、ミラー期間は、スイッチング素子を流れる電流量によって変化する。上記発明では、この点に鑑み、出力電圧の上昇タイミングに対応する開閉制御端子の電圧を可変とすることで、ミラー期間において上記上回り度合いが最小となることを回避しつつも出力電圧を適切に上昇させることができる。
【0026】
請求項12記載の発明は、請求項1〜11のいずれか1項に記載の発明において、前記制限手段は、集積回路によって構成されていることを特徴とする。
【0027】
集積回路は、熱の放散効果が必ずしも十分とはいえないため、制限手段による発熱を低減することが特に望まれる。このため、上記発明では、上昇手段を備えるメリットが特に大きい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかるドライブユニットの構成を示す図。
【図3】同実施形態における損失低減の原理を説明する図。
【図4】同実施形態にかかる出力電圧の上昇処理を示すタイムチャート。
【図5】同実施形態にかかる出力電圧の上昇処理の手順を示す流れ図。
【図6】第2の実施形態にかかるドライブユニットの構成を示す図。
【図7】同実施形態にかかる出力電圧の上昇処理を示すタイムチャート。
【図8】第3の実施形態にかかるドライブユニットの構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<第1の実施形態>
以下、本発明にかかるスイッチング素子の駆動装置をハイブリッド車に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0030】
図1に、本実施形態のシステム構成を示す。図示されるように、車載主機としてのモータジェネレータ10は、インバータINVおよびコンバータCNVを介してたとえば百V以上の端子電圧を有する高電圧バッテリ12に接続されている。インバータINVは、高電位側のスイッチング素子Swpおよび低電位側のスイッチング素子Swnの直列接続体が3つ並列接続されて構成されている。そして、これら各スイッチング素子Swpおよびスイッチング素子Swnの接続点が、モータジェネレータ10の各相にそれぞれ接続されている。また、コンバータCNVは、コンデンサCcvと、高電位側のスイッチング素子Swpおよび低電位側のスイッチング素子Swnの直列接続体と、スイッチング素子Swpおよびスイッチング素子Swnの接続点と高電圧バッテリ12とを接続するリアクトルLとを備えている。
【0031】
上記高電位側のスイッチング素子Swpおよび低電位側のスイッチング素子Swnのそれぞれの入出力端子間(コレクタおよびエミッタ間)には、高電位側のフリーホイールダイオードFDpおよび低電位側のフリーホイールダイオードFDnのカソードおよびアノードが接続されている。
【0032】
上記インバータINVを構成するスイッチング素子Swp,Swnの開閉制御端子(ゲート)には、いずれもドライブユニットDUが接続されている。これにより、スイッチング素子Swp,Swnは、ドライブユニットDUを介して、低電圧バッテリ14を電源とする制御装置16によって駆動される。ここで、低電圧バッテリ14は、高電圧バッテリ12よりも端子電圧が低い。制御装置16は、図示しない各種センサの検出値等に基づき、インバータINVのU相、V相、およびW相のそれぞれについてのスイッチング素子Swpを操作する操作信号gup,gvp,gwpと、スイッチング素子Swnを操作する操作信号gun,gvn,gwnとを生成し出力する。また、コンバータCNVのスイッチング素子Swp、Swnを操作する操作信号gcp,gcnを生成し出力する。これにより、スイッチング素子Swp,Swnは、ドライブユニットDUを介して制御装置16により操作される。
【0033】
なお、インバータINVやコンバータCNVを備える高電圧システムと、制御装置16を備える低電圧システムとは、図示しないフォトカプラ等の絶縁手段によって絶縁されており、上記操作信号は、絶縁手段を介して高電圧システムに出力される。
【0034】
上記スイッチング素子Sw#(#=p,n)は、いずれも絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)にて構成されている。また、スイッチング素子Sw#は、その入力端子および出力端子間に流れる電流と相関を有する微少電流を出力するセンス端子Stを備えている。
【0035】
図2(a)に、本実施形態にかかるドライブユニットDUの回路構成を示す。
【0036】
図示されるように、ドライブユニットDUは、半導体集積回路(ドライブIC20)を備えている。ドライブICは、出力電圧V1,V2,V3の直流電圧源DC1,DC2,DC3を有する。ここで、これら出力電圧V1、V2,V3の間には、「V1<V2<V3」の関係がある。直流電圧源DC1の出力端子(正極端子)には、定電流回路SC1が接続され、定電流回路SC1には、ダイオード22および端子T1を介して、スイッチング素子Sw#のゲートが接続されている。また、直流電圧源DC2の出力端子(正極端子)には、定電流回路SC2が接続され、定電流回路SC2には、ダイオード24および端子T1を介して、スイッチング素子Sw#のゲートが接続されている。さらに、直流電圧源DC3の出力端子(正極端子)には、定電流回路SC3が接続され、定電流回路SC3には、ダイオード26および端子T1を介して、スイッチング素子Sw#のゲートが接続されている。
【0037】
ここで、定電流回路SCj(j=1,2,3)の構成を図2(b)に示す。図示されるように、定電流回路SCjは、直流電圧源DCjの正極に接続される抵抗体48とPチャネルMOS電界効果トランジスタ(スイッチング素子40)との直列接続体を備え、スイッチング素子40の他方の端子は、スイッチング素子Sw#のゲートに接続されている。また、定電流回路SCjは、オペアンプ42を備え、そのマイナス入力端子には、直流電圧源DCjの電圧を抵抗体44,46によって分圧することで得られた基準電圧が印加されている。また、オペアンプ42の出力端子は、抵抗体50を介して直流電圧源DCjにプルアップされている。また、オペアンプ42の出力端子は、スイッチング素子52を介してスイッチング素子40のゲートに接続され、プラス入力端子は、抵抗体48およびスイッチング素子40の接続点に接続されている。
【0038】
こうした構成によれば、スイッチング素子52をオン状態とすることで、抵抗体48の電圧降下量と抵抗体44の電圧降下量とが等しくなるように、スイッチング素子40のゲート電圧が操作される。そして、これにより、抵抗体48を流れる電流が一定値となり、ひいてはスイッチング素子40を介してスイッチング素子Sw#のゲートに出力される電流が一定値に制御される。なお、図2(a)においては、定電流回路SCjと端子T2を介したスイッチング素子Sw#のエミッタとの接続等を省略して記載している。また、本実施形態では、定電流回路SC1,SC1,SC3の出力電流を等しく設定している。
【0039】
切替制御回路28は、定電流回路SCjのそれぞれのスイッチング素子52を開閉する切替信号S1〜S3を出力するデジタル処理回路である。詳しくは、ドライブIC20の外部から端子T3を介して取り込まれる操作信号g*#(*=u,v,w;#=p,n)がオン操作指令信号に切り替わると、スイッチング素子Sw#のゲートを充電する手段を、定電流回路SC1、SC2、SC3の順に切り替える処理を行う。ここで、切り替えタイミングは、オン操作指令信号への切り替わりタイミングから計時動作を開始するタイマ32の値と、メモリ30の値との比較に基づき行なわれる。ここで、メモリ30は、電気的書き換え可能な読み出し専用メモリ等の不揮発性メモリであり、ドライブIC20の端子T4を介してアクセスが可能なメモリである。
【0040】
ここで、本実施形態においてスイッチング素子Sw#のゲートを定電流にて充電するのは、スイッチング素子Sw#の損失を低減することを狙いとするものである。すなわち、直流電圧源DCjとスイッチング素子Sw#のゲートとを抵抗体を介して接続する場合、ゲートの充電電流量は、ゲート電圧の上昇に伴って減少するため、ミラー期間におけるゲートの充電電流量を多くしてミラー期間を短縮することが困難となる。これに対し、定電流にて充電するなら、ミラー期間の充電電流量を十分な値とすることができ、ひいてはミラー期間を短縮してスイッチング損失を低減することができる。
【0041】
一方、上記定電流回路SCjの切り替え処理は、ドライブIC20の発熱量を低減するために行うものである。以下、図3に基づきこれについて説明する。
【0042】
ここでは、図3(a)に示すように、出力電圧V3/2の直流電圧源と出力電圧V3の直流電圧源とを順次用いつつコンデンサCを充電する例を用いて説明する。ここで、コンデンサCは、スイッチング素子Sw#のゲート容量に見立てたものであり、ゲートの充電完了時を、コンデンサCの充電電圧が出力電圧V3に一致することとする。
【0043】
この場合、出力電圧V3の直流電圧源のみを用いた定電流制御によってコンデンサCを充電しても、出力電圧V3/2の直流電圧源と出力電圧V3の直流電圧源とを順次用いてコンデンサCを充電しても、コンデンサCの充電エネルギは、「(1/2)C(V3)^2」となり同一である。ただし、充電時間Tの間に、出力電圧V3の直流電圧源のみを用いて一定電流Iで充電した場合の直流電圧源の出力エネルギ量は、「V3・I・T」となるのに対し、上記双方を用いた場合の直流電圧源の出力エネルギ量は「3・V3・I・T/4」となる。このため、図3(b)および図3(c)に示すように、上記双方を用いた場合の方が単一の直流電圧源を用いた場合と比較して損失が少なくなる。
【0044】
ここで、損失の低減効果は、直流電圧源の出力電圧の切り替え直前における値とコンデンサCの充電電圧との差が小さいほど大きくなる。このため、上記差が同一の場合、損失の低減効果は、直流電圧源の出力電圧の上昇回数を多くするほど大きくなる。ただし、定電流回路SCjは、直流電圧源の出力電圧とゲート電圧との差が過度に小さくなることで定電流の制御性が低下する。このため、ミラー期間に対応するゲート電圧と直流電圧源の出力電圧とが一致すると、ミラー期間におけるゲートの充電電流が少なくなり、ミラー期間を短縮する効果が低下するおそれがある。
【0045】
そこで本実施形態では、図4(a)に示すように、出力電圧V1をスイッチング素子Sw#の閾値電圧Vthよりも低くして且つ、出力電圧V2をミラー期間の電圧の最大値Vhよりも大きくする。ここで、ミラー期間の電圧の最大値Vhは、正常時におけるスイッチング素子Sw#を流れる電流(コレクタ電流Ic)の最大値を飽和電流とするゲート電圧Vgeとする。これは、図4(b)に示すように、コレクタ電流Iを飽和電流とするゲート電圧Vgeがミラー期間の電圧となることに鑑みたものである。
【0046】
なお、直流電圧源とゲート電圧Vgeとの電圧差の大きい状態における充電期間が短いほどドライブIC20の損失が小さくなることに鑑み、出力電圧V1,V2は、出力電圧V3を3等分した各電圧に極力近似させることが望ましい。
【0047】
図5に、切替制御回路28による切替処理の手順を示す。この処理は、たとえば所定周期で繰り返し実行される。
【0048】
この一連の処理では、まずステップS10において、オン状態切替フラグFが「1」であるか否かを判断する。そして、ステップS10において否定判断される場合、ステップS12において、操作信号g*#(*=u,v,w;#=p,n)がオン操作指令に切り替わったか否かを判断する。そしてステップS12において肯定判断される場合、ステップS14において、オン状態切替フラグFを「1」とし、切替信号S1をオン指令とし、オン状態に切り替わったタイミングからの時間を計時する計時動作を開始する。
【0049】
一方、ステップS10において肯定判断される場合、ステップS16において、オン操作指令への切り替わりからの経過時間が第1時間Tth1以上であるか否かを判断する。この処理は、ゲート電圧Vgeが上記出力電圧V1となったか否かを判断するためのものである。第1時間Tth1は、先の図2(a)に示すメモリ30に記憶されている。そしてステップS16において肯定判断される場合、ステップS18において、経過時間が第2時間Tth2以上であるか否かを判断する。この処理は、ゲート電圧Vgeが上記出力電圧V2となったか否かを判断するためのものである。第2時間Tth2は、先の図2(a)に示すメモリ30に記憶されている。
【0050】
そして上記ステップS18において否定判断される場合、ステップS20において、切替信号S1をオフ指令として且つ切替信号S2をオン指令とする。一方、ステップS18において肯定判断される場合、ステップS22において、切替信号S2をオン指令として且つ切替信号S3をオフ指令とする。
【0051】
なお、上記ステップS14,S20,S22の処理が完了する場合や、ステップS12において否定判断される場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0052】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0053】
(1)スイッチング素子Sw#の充電の進行に伴い直流電圧源の出力電圧を上昇させた。これにより、はじめから出力電圧を高くする場合と比較して、直流電圧源から出力される電気エネルギ量を低減することができ、ひいては定電流回路SCjによって消費される電気エネルギ量を低減することができる。
【0054】
(2)ゲートの充電電圧の上昇速度が低下する期間であるミラー期間を回避して出力電圧を上昇させた。これにより、ミラー期間において定電流回路SCjから出力される電流の制御性が低下する事態を回避することと、定電流回路SCjによる損失を低減することとの両立を図ることができる。
【0055】
(3)定電流回路SC1,SC2とゲートとの間にダイオード22,24を備えた。これにより、定電流回路SC3からの電流が定電流回路SC1,SC2を構成するスイッチング素子40の寄生ダイオードを介して逆流する事態等を回避することができる。
【0056】
(4)スイッチング素子Sw#のゲートの充電を開始してからの経過時間に基づき、直流電圧源の出力電圧を上昇させる処理を行った。これにより、スイッチング素子Sw#のゲートの電圧の検出に頼ることなく、出力電圧を上昇させる処理を適切に行うことができる。また、この処理をデジタル処理とすることで、経過時間の閾値を変更する簡易な処理によって、出力電圧を上昇させるゲート電圧Vgeを変更することもできる。
【0057】
(5)経過時間の閾値(第1時間Tth1、第2時間Tth2)を記憶するメモリ30を、ドライブIC20の端子T4を介してアクセス可能な記憶手段とした。これにより、上記閾値を各別に設定可能なため、スイッチング素子Sw#の個体差等に応じて出力電圧を上昇させるタイミングを適切に設定することができる。
【0058】
(6)定電流回路SCjをドライブIC20によって構成した。この場合、ドライブユニットDUの小型化等が容易となる反面、熱の放散効果が必ずしも十分とはいえないため、定電流回路SCjによる発熱を低減することが特に望まれる。このため、直流電圧源の出力電圧を上昇させる処理の利用価値が特に大きい。
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0059】
図6に、本実施形態にかかるドライブユニットDUの回路構成を示す。なお、図6において、先の図2に示した部材に対応する部材については便宜上同一の符号を付している。
【0060】
図示されるように、本実施形態では、端子T5を介して切替制御回路28にモータジェネレータ10の3相のうち該当する相の電流情報(相電流情報)が入力される。ここで、相電流情報は、モータジェネレータ10の相電流の検出値や、モータジェネレータ10に対する相電流の指令値とすればよい。ここで、相電流情報は、ミラー期間におけるスイッチング素子Sw#のゲート電圧Vgeを把握し、直流電圧源の出力電圧の切替態様を変更するために用いられる。これは、ドライブIC20の損失を極力低減することを狙いとする。
【0061】
すなわち、上述したように、直流電圧源DCjの出力電圧Vjとゲート電圧Vgeとの差の大きい期間が短いほど損失を低減することができることに鑑みれば、出力電圧V1,V2は、出力電圧V3を均等分割した値とすることが望ましい。ただし、この場合、ミラー期間におけるゲート電圧Vgeの変動量によっては不都合が生じる。たとえば、出力電圧V3を「15V」として且つミラー期間におけるゲート電圧Vgeが「7〜12V」であるとすると、出力電圧V2がミラー期間におけるゲート電圧Vgeとなるおそれがある。そこで本実施形態では、出力電圧V1,V2を出力電圧V3を均等分割した値として且つ、出力電圧V2とミラー期間のゲート電圧Vgeとの差が規定値以下となる場合には、図7に示すように、直流電圧源DC2を用いない。これにより、出力電圧V2とミラー期間のゲート電圧Vgeとの差が規定値以下とならない場合には、直流電圧源DC1,DC2,DC3を順次用いてゲートの充電処理を行うことで、ドライブIC20の損失を最小とすることができる。
【0062】
以上詳述した本実施形態によれば、上記第1の実施形態の上記各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0063】
(7)スイッチング素子Sw#に流れる電流量に基づき、直流電圧源の出力電圧の上昇タイミングに対応するゲート電圧Vgeを可変とした(「Vge=V2」を上昇タイミングに含めるか含めないかを可変とした)。これにより、出力電圧V1,V2を出力電圧V3の均等分割したものとしつつも、ミラー期間において出力電圧が変更される事態を回避することができる。
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0064】
図8に、本実施形態にかかるドライブユニットDUの回路構成を示す。なお、図8において、先の図2に示した部材に対応する部材については便宜上同一の符号を付している。
【0065】
図示されるように、本実施形態では、ゲート電圧の検出値に基づき直流電圧源の出力電圧を変更する。すなわち、ゲート電圧Vgeは、ドライブIC20の端子T6を介してコンパレータ60,64のそれぞれのプラス入力端子に印加される。ここで、コンパレータ60のマイナス入力端子には、電源62の電圧「V1−Δ」が印加され、コンパレータ64のマイナス入力端子には、電源66の電圧「V2−Δ」が印加される。そして、切替制御回路28では、コンパレータ60によってゲート電圧Vgeが電圧「V1−Δ」以上となったことが検出されることで、直流電圧源DC1および定電流回路SC1を用いた充電処理から直流電圧源DC2および定電流回路SC2を用いた充電処理に切り替える。また、コンパレータ64によってゲート電圧Vgeが電圧「V2−Δ」以上となったことが検出されることで、直流電圧源DC2および定電流回路SC2を用いた充電処理から直流電圧源DC3および定電流回路SC3を用いた充電処理に切り替える。
【0066】
以上詳述した本実施形態によれば、上記第1の実施形態の上記(1)〜(3),(6)の各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0067】
(8)ゲート電圧Vgeの検出値に基づき直流電圧源の出力電圧を上昇させることで、ゲート電圧Vgeが実際にミラー期間における値ではないことを確認しつつ出力電圧を上昇させることができる。
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0068】
「直流電圧源について」
直流電圧源としては、先の図2(b)において例示したようにコンデンサからなるものに限らない。たとえば2次電池であってもよい。この場合であっても、出力電圧が最高値となるもの以外の各電源電圧が、最高値を均等分割した電圧となるものにも限らないが、均等分割した電圧であることが望ましい。
【0069】
また、出力電圧が互いに相違する電源を複数備えるものに限らない。たとえば、フライバック電源等の電圧を変換することのできるコンバータであってもよい。この場合、上昇手段を、スイッチング素子Sw#のゲートの充電の進行に伴ってコンバータの出力電圧を上昇させる手段とすればよい。
【0070】
「上昇手段について」
上昇手段としては、複数の直流電圧源の中から利用するものを切り替える手段に限らないことについては、「直流電圧源について」の欄に記載したとおりである。
【0071】
上昇手段としては、出力電圧を2段階で上昇させるものに限らず、1段階または3段階以上で上昇させるものであってもよい。また、段階的に上昇させるものに限らず、ゲート電圧に応じて連続的に上昇させるものであってもよい。なお、直流電圧源がコンバータである等、電源を切り替える場合の上述した不都合が生じない場合には、ミラー期間において出力電圧を上昇させてもよい。
【0072】
「制限手段について」
制限手段としては、定電流回路SCjに限らない。たとえば抵抗体であってもよい。すなわち、たとえば先の図2(a)に示した構成において、定電流回路SCjを、線形素子としての抵抗体に変更してもよい。この場合であっても、ゲートの充電の進行に伴い電源電圧を上昇させることで、出力電圧V3のみを用いる場合と比較して、制限手段(抵抗体)による損失を低減することができる。
【0073】
また、制限手段としては、直流電圧源の正極およびゲート間に接続されるものに限らない。たとえば先の図2(b)において、スイッチング素子40を、直流電圧源DCjの負極およびスイッチング素子Sw#のエミッタ間に接続する場合のように、直流電圧源の負極側に接続されるものであってもよい。
【0074】
「定電流制御手段について」
定電流制御手段としては、直流電圧源の出力電圧の切り替えにかかわらず電流量を変化させないものに限らない。たとえばミラー期間に対応するもの(定電流回路SC2)の電流を他よりも大きくしてもよい。
【0075】
定電流制御手段としては、先の図2(b)に例示したものに限らない。たとえば、スイッチング素子40としてバイポーラトランジスタを用いた定電流回路であってもよい。もっとも、複数の素子からなるものにも限らず、たとえば定電流ダイオードであってもよい。
【0076】
また、スイッチング素子Sw#のゲートにおいて合流する複数の電流経路のそれぞれに、定電流回路や定電流ダイオードを備える構成にも限らない。たとえば、出力電圧V1,V2,V3のいずれかを、1の抵抗体48およびスイッチング素子40に選択的に接続するスイッチング素子を備える構成であってもよい。
【0077】
「整流手段について」
定電流制御手段の出力側に接続される整流手段としては、ダイオード22〜26に限らず、たとえばサイリスタ等であってもよい。なお、たとえばスイッチング素子40の寄生ダイオード等によって直流電圧源側に電流が逆流することが無い場合等にあっては、整流手段を備えなくてもよい。
【0078】
「可変手段について」
可変手段としては、上記第2の実施形態において例示したものに限らない。たとえば、上記第2の実施形態において、4つの出力電圧V1<V2a<V2b<V3を用意し、相電流に応じて、出力電圧V2aと出力電圧V2bとのいずれを用いるかを選択するものであってもよい。
【0079】
なお、可変手段の利用対象としては、定電流制御手段を備えるものに限らない。
【0080】
「スイッチング素子Sw#について」
駆動対象となるスイッチング素子としては、IGBTに限らず、たとえばパワーMOS型電界効果トランジスタ等の電界効果トランジスタであってもよい。この際、Nチャネルにも限らず、Pチャネルであってもよい。Pチャネルを用いる場合、開閉制御端子(ゲート)に正の電荷を充電するのは、オフ状態への切り替え時となる。
【0081】
・スイッチング素子としては、車載主機に接続されるインバータやコンバータを構成するものに限らず、たとえば高電圧バッテリ12に接続されるインバータであって且つ車載空調装置のコンプレッサに接続されるものであってもよい。もっとも、高電圧バッテリに接続される電力変換回路にも限らない。
【0082】
「そのほか」
・ドライブユニットDUとしては、集積回路を備える構成に限らない。
【符号の説明】
【0083】
22,24,26…ダイオード(整流手段の一実施形態)、28…切替制御回路、30…メモリ、32…タイマ、SC1,SC2,SC3…定電流回路(定電流制御手段の一実施形態)、DC1,DC2,DC3…直流電圧源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧制御形のスイッチング素子を駆動するスイッチング素子の駆動装置において、
前記スイッチング素子の開閉制御端子に該スイッチング素子のスイッチング状態を切り替えるための正の電荷を供給する直流電圧源と、
前記直流電圧源から前記開閉制御端子へと前記電荷を供給するための電流の流通経路における電流量を制限する制限手段と、
前記開閉制御端子の充電の進行に伴い前記直流電圧源の出力電圧を上昇させる上昇手段とを備え、
前記制限手段は、前記直流電圧源から前記開閉制御端子へと流入する電流を一定値に制御する定電流制御手段を備えることを特徴とするスイッチング素子の駆動装置。
【請求項2】
前記上昇手段は、前記開閉制御端子の充電電圧の上昇速度が低下する期間であるミラー期間を回避して前記出力電圧を上昇させることを特徴とする請求項1記載のスイッチング素子の駆動装置。
【請求項3】
前記上昇手段による前記直流電圧源の出力電圧の上昇タイミングには、前記スイッチング素子がオン状態となるタイミングよりも前のタイミングが含まれることを特徴とする請求項1または2記載のスイッチング素子の駆動装置。
【請求項4】
前記上昇手段による前記直流電圧源の出力電圧の上昇タイミングには、前記開閉制御端子の充電電圧の上昇速度が低下する期間であるミラー期間よりも後のタイミングが含まれることを特徴とする請求項1または2記載のスイッチング素子の駆動装置。
【請求項5】
電圧制御形のスイッチング素子を駆動するスイッチング素子の駆動装置において、
前記スイッチング素子の開閉制御端子に該スイッチング素子のスイッチング状態を切り替えるための正の電荷を供給する直流電圧源と、
前記直流電圧源から前記開閉制御端子へと前記電荷を供給するための電流の流通経路における電流量を制限する制限手段と、
前記開閉制御端子の充電の進行に伴い前記直流電圧源の出力電圧を上昇させる上昇手段とを備え、
前記上昇手段による前記直流電圧源の出力電圧の上昇タイミングには、前記スイッチング素子がオン状態となるタイミングよりも前のタイミングが含まれることを特徴とするスイッチング素子の駆動装置。
【請求項6】
前記直流電圧源は、互いに出力電圧が相違する複数の電源からなり、
前記定電流制御手段は、前記複数の電源のそれぞれから前記開閉制御端子へと流入する電流を一定値に制御する各別の手段であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のスイッチング素子の駆動装置。
【請求項7】
前記定電流制御手段の出力側には、該定電流制御手段側から前記開閉制御端子側へと進む方向を順方向とする整流手段が設けられていることを特徴とする請求項6記載のスイッチング素子の駆動装置。
【請求項8】
前記上昇手段は、前記開閉制御端子に前記電荷の供給を開始してからの経過時間を計時する計時手段と、該計時された経過時間に基づき前記出力電圧を上昇させる処理を行う手段とを備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のスイッチング素子の駆動装置。
【請求項9】
前記上昇手段は、前記出力電圧を上昇させる処理を行うための前記計時された経過時間の閾値を記憶する手段であって且つ、外部端子によってアクセス可能な記憶手段を備えることを特徴とする請求項8記載のスイッチング素子の駆動装置。
【請求項10】
前記上昇手段は、前記開閉制御端子の電圧を検出する電圧検出手段と、該検出された電圧に基づき前記出力電圧を上昇させる処理を行う手段とを備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のスイッチング素子の駆動装置。
【請求項11】
前記上昇手段は、前記出力電圧を段階的に上昇させるものであり、
前記上昇手段は、前記スイッチング素子に流れる電流量に基づき、前記出力電圧の上昇タイミングに対応する前記開閉制御端子の電圧を可変とする可変手段を備えることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のスイッチング素子の駆動装置。
【請求項12】
前記制限手段は、集積回路によって構成されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のスイッチング素子の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−130132(P2012−130132A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278341(P2010−278341)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】