説明

スギ花粉アレルゲンへの結合能を有するペプチド

【課題】スギ花粉アレルゲンCryJ1に対して再現性よく、また安定した結合能を有し、抗体よりも低コストで短時間に作成でき、さらに、環境による影響も受けにくいペプチドを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、配列表1 〜 10 に示すアミノ酸配列のいずれかを有することを特徴とする、スギ花粉アレルゲンCryJ1に対して結合能を有するペプチドである。本発明のペプチドは、スギ花粉アレルゲンCryJ1に対して再現性よく結合する。また、抗体よりも低コストで短時間に作成できるほか、抗体のように乾燥や熱によって変性することも少ないため、環境による影響を受けにくく、より安定したスギ花粉アレルゲンCryJ1の捕集が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人にアレルギー疾患をもたらすスギ花粉アレルゲンCryJ1に対して、結合能を有するペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スギ花粉やダニの死骸、カビの胞子、或いはハウスダストなどの浮遊性物質による様々なアレルギー疾患が社会的な大きな問題になってきている。疾患を引き起こすアレルギー物質すなわちアレルゲンに対し、これを捕集、不活化する薬剤や、繊維加工方法が開発されている。
【0003】
しかし、環境中にはアレルギー疾患を引き起こすアレルゲンだけでなく、様々な浮遊性物質が浮遊しており、これらと反応してしまうことでアレルゲンを捕集、不活化する従来の機能性製品では、実際には高い効果を発揮することはできず、また、寿命も短くなってしまっていた。これらの浮遊物質の中からアレルゲンだけを検出、捕集、不活化するには、他の物質とは反応せず、タンパク質と特異的に反応する物質が有効であると考えられる。タンパク質と反応しこれを分解するにはタンパク質酵素が有効であり、これを担持したフィルターが開発されている(特許文献1)。
【0004】
さらに、タンパク質の中でもアレルゲンと特異的に反応する物質を用いることがさらに有効である。このような物質の一例として抗体が挙げられる。例えば、抗アレルゲン性のあるフィルターを開発するために、抗アレルゲン抗体を固定したフィルター(特許文献2)などがある。
【特許文献1】特許第3790479号公報
【特許文献2】特開2006−321791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、例えばスギ花粉のように、実際のアレルゲンとなるCryJ1は全花粉タンパク質の1%にも満たないことや、実環境下にはアレルゲン以外のタンパク質が無数に存在していることを考慮すると、タンパク質のみを分解する酵素を用いたとしても、アレルゲン以外のタンパク質を分解する割合の方が高くなり、非常に効率が悪い。
【0006】
また、特許文献2のように、アレルゲンと特異的に反応する抗体を用いてアレルゲンを不活化させる方法が提示されているが、抗体および抗体産生細胞株の樹立には多大な時間と労力とコストが必要である。すなわち、動物に抗体を作らせるだけで最低1ヶ月は必要であり、さらに抗体産生細胞の単離、株化のための細胞融合等を行う必要があるため、多大な手間がかかってしまう。また抗体は、抗原に対し結合能を示すための立体構造を維持しなければならないので保存や使用できる条件が限られる。より具体的には、乾燥や高温下などの状況で保存、使用すると、容易に不可逆的に変性してしまい、使用できなくなる。
【0007】
そこで本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、スギ花粉アレルゲンCryJ1に対して結合能を有するペプチドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、第1の発明は、配列表1 〜 10 に示すアミノ酸配列のいずれかを有することを特徴とする、スギ花粉アレルゲンCryJ1に対して結合能を有するペプチドである。
【0009】
また、第2の発明は、第1の発明のペプチドが固定されたことを特徴とする繊維構造体である。
【0010】
第2の発明によれば、スギ花粉アレルゲンCryJ1が表面に固定された第1の発明のペプチドと結合するため、当該CryJ1を捕集することができる。したがって、スギ花粉アレルゲンCryJ1を捕集できる物品、例えばフィルター、網戸、および衣類を提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スギ花粉アレルゲンCryJ1に対して結合能を有するペプチドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の1つの実施形態であるスギ花粉アレルゲンCryJ1に対して結合能を有するペプチドと、当該ペプチドが固定された部材について詳述する。
【0013】
ここで、スギ花粉アレルゲンCryJ1は、分子量が45〜50 kDa、等電点が約9.0のタンパク質であり、スギ(Cryptomeria japonica)花粉の主要なアレルゲンタンパク質の1つとして知られている(Yasueda, H. et al.:J. Allergy Clin. Immunol. 71:77-86, 1983)。本明細書中ではスギ花粉アレルゲンCryJ1または単にCryJ1と称す。
【0014】
本実施形態のスギ花粉アレルゲンCryJ1に対して結合能を有するペプチドとしては、配列表1 〜 10のいずれかに示されるアミノ酸配列を含むペプチド( 以下、これらペプチドを「本件ペプチド」という)が挙げられる。配列表1〜10のいずれかのアミノ酸配列を有する本件ペプチドの中でも、特にCryJ1に対し、より高い結合能を示すという点で、配列表1〜3、及び6〜8のいずれかの配列を含む本件ペプチドが好ましく、さらには配列表1〜3の配列を含む本件ペプチドが一層好適である。
【0015】
なお本件ペプチドは、配列表1から10のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドに限定されない。すなわち、配列表1から10のいずれかのアミノ酸配列を有し、スギ花粉アレルゲンCryJ1に結合する限り、任意のアミノ酸が付加されたペプチドであってもよい。このとき、ペプチドを構成するアミノ酸の数等は特に限定されない。
【0016】
本件ペプチドが有するアミノ酸配列を決定する方法の一例としては、ファージディスプレイ法が挙げられる。これは、一定長の無作為なペプチド配列をファージ上に提示したファージ集団を、固定したCryJ1に接触させ、ペプチド配列を介して結合したファージ以外を洗浄し、結合しているファージを再遊離、増殖させるという、所謂パニング操作を繰り返すことで、CryJ1に対し、より強く結合するファージを選抜するという方法である。この方法により選抜されたファージを解析することにより結合能の高いアミノ酸配列を得ることができる。これにより、本件ペプチドのアミノ酸配列を決定することができる。
【0017】
当該ファージディスプレイ法は、例えばBioLabs社のPh.D.TM-7 Phage Display Peptide Library Kitを用い、公知のプロトコルに従って実施することができる。Ph.D.TM-7 Phage Display Peptide Library Kitは、任意の7個のアミノ酸残基からなるペプチドをファージ表面に提示する。
【0018】
また本件ペプチドは、化学合成により調製したものでも、または遺伝子組み換え技術により産生されたものでもよい。
【0019】
例えば、化学合成法では、「固相法」又は「液相法」として知られる慣用のペプチド合成法により、容易に調製することができる。固相合成法の一例としては、合成する各ペプチドのC 末端に相当するアミノ酸が導入されている Fmoc-L-アミノ酸固定化樹脂から、アミノ酸配列の合成を行うFmoc法がよく用いられており、容易に本件ペプチドを得ることができる。
【0020】
これら化学合成法に利用できる溶媒もまた、一般的に使用されるものを適宜利用することができる。その例としては、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等及びこれらの混合溶媒等を挙げることができる。なお、上記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸およびペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第三級ブチルエステル等の低級アルキルエステル、例えばベンジルエステル、P−メトキシベンジルエステル、P−ニトロベンジルエステルアラルキルエステル等として保護することができる。また、側鎖に官能基を有するアミノ酸、例えばTyrの水酸基は、アセチル基、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基、第三級ブチル基等で保護されるようにしてもよい。また、例えば、Argのグアニジノ基は、ニトロ基、トシル基、2−メトキシベンゼンスルホニル基、メチシレン−2−スルホニル基、ベンジルオキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基等の適当な保護基により保護することができる。
【0021】
上記のようにして得ることが可能な本件ペプチドは、通常の方法に従って、例えばイオン交換クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、向流分配法等のペプチド化学の分野で汎用されている方法に従って、適宜、精製を行うことができる。
【0022】
次に、遺伝子組み換え技術により産生させる手法としては、例えば、本件ペプチドをコードするD N A を調製し、これを自律複製可能なベクターに挿入して組換えD N A とし、これを大腸菌、枯草菌、放線菌、酵母などの適宜宿主に導入して形質転換体とし、その培養物からこの本件ペプチドを精製する手法などが挙げられる。
【0023】
さらに、本実施形態の1つの態様として、本件ペプチドを任意の基体に固定することで、スギ花粉アレルゲンCryJ1を捕集する部材を提供できる。空気中を浮遊しているCryJ1が、基体に固定された本件ペプチドと接触、結合、捕集されることにより、空気中のCryJ1濃度が減少し、アレルゲン症状を緩和することができる。捕集されたCryJ1は、時間の経過と共に、乾燥や温度などの環境の影響を受け、CryJ1タンパク質の3次元構造が破壊され、アレルゲンとしての機能を失うという効果が期待できる。
【0024】
本件ペプチドが固定される基体は、有機系固形物でも、無機系固形物でもよい。また、形状も、繊維状や平板状でもよく、膜状やシートとすることもでき、本件ペプチドを保持することが可能であれば滑らかなものであっても、凹凸のついたものであってもよく、形状等について限定されない。具体的な基体としては、例えば繊維構造体が挙げられる。また、繊維構造体には、例えばフィルター、網戸、衣類が含まれる。
【0025】
固定する方法は、基体の素材及び加工方法により、適宜、選択される。例えば、有機系固形物であれば、高分子の側鎖の官能基や、コロナ処理、プラズマ処理等により導入される官能基と、本件ペプチドとの共有結合により、本件ペプチドを基体に固定することができる。また、無機系固形物であれば、無機固形物表面の酸化皮膜に対して、アミノ基やチオール基、エポキシ基を有したシランモノマーを結合させる、等の手段により基体に導入された官能基と本件ペプチドを共有結合させることにより、基体に本件ペプチドを固定することができる。
【0026】
さらに本件ペプチドを、水やアルコール類などの揮発性溶媒に溶解させ、抗アレルゲン性を付与できる加工剤とし、基体に塗布することもできる。該加工剤は、例えば、スプレー法や、浸漬法、キャスト法、バーコート法、グラビアコート法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法などの様々な方法により、塗布される。
【0027】
さらにまた、本件ペプチドを基体上に長期間留めるため、バインダー成分を加工剤に添加しても良い。バインダー成分としては、例えば、ビニル系ポリマーや、エポキシ系ポリマー、ウレタン系ポリマー、メタクリル系ポリマー、アクリル系ポリマー、シランモノマーなどが用いられる。
【0028】
以上のような方法で本件ペプチドを例えば網戸に固定することにより、網戸に捕集されたスギ花粉中のスギ花粉アレルゲンCryJ1を不活化できる。また本件ペプチドを固定したフィルターを、エアコンや空気清浄機、換気システムのフィルターなどに用いると、室内のスギ花粉並びにスギ花粉アレルゲンCryJ1を従来よりも効率よく捕集、不活化することができる。さらに本件ペプチドを衣類に固定すると、外出時に付着したスギ花粉アレルゲンCryJ1をペプチドが捕集するので、室内でのスギ花粉アレルゲンの飛散を抑制することができる。以上の効果により、個人差はあるが、スギ花粉アレルゲンによる症状を抑えることができる。なお、これら網戸、フィルター、衣類は、例えば本件ペプチドを固定した繊維構造体を用いて構成することにより、本件ペプチドを固定することができる。
【実施例】
【0029】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0030】
(ファージディスプレイ法による、スギ花粉アレルゲンCryj1に対して結合能を有するペプチドの選別)
精製スギ花粉抗原Cryj1(10 mg/ml、生化学バイオビジネス株式会社製)を96穴タイタープレートのウェルへ加え、4℃で、16時間静置し、固定化を行った。上清を取り除いた後、ブロッキングバッファー(0.1 M NaHCO3, 5 mg/ml BSA, pH 8.6) 200 mlを添加し、1時間静置した。TBST (50 mM Tris-HCl (pH 7.5), 150 mM NaCl, 0.5 % Tween-20)で6回洗浄後、7個のアミノ酸残基からなるランダムペプチドを提示しているファージ、Ph.D.TM-7 Phage Display Peptide Library Kit (BioLabs社)を、2.0×1011pfu/wellとなるようにTBSTに分散させてこれを100 ml添加し、1時間、室温(25℃)にて静置した。上清を除去した後、TBST200μlを加えたのち、再度上清を除いて未結合のファージを除去する洗浄を行った。当該洗浄を10回行った後、結合しているファージを溶出バッファー(0.2 M Glycin-HCl, 1 mg/ml BSA, pH 2.2)100 mlを用いて溶出した。溶出させたファージ溶液を大腸菌(ER2738)に感染させ、37℃で5時間振盪培養後、溶菌ファージを得るため、遠心分離(9,100 g, 4℃, 10分間)を行い、上清を回収した。さらに、1/6 (v/v) PEG/NaCl溶液 (20 % (w/v) polyethylene glycol-8000, 2.5 M NaCl)を加えて4℃で一晩静置した。沈殿したファージを遠心(9100g、4℃、10分間)回収後、TBS (50 mM Tris-HCl (pH 7.5), 150 mM NaCl) 1 mlに再懸濁し、遠心(9,100 g, 4℃, 5 分間)した。上清に1/6 (v/v) PEG/NaClを加え1時間氷上で静置後、沈殿を回収しTBS (含0.02 % NaN3) 200 mlに再懸濁して、再度、遠心分離を行い、上清液を増殖ファージ液とした。この1連の操作を1回のサイクルとし、5サイクルの操作を行った。
【0031】
5サイクルの操作後の溶出ファージを大腸菌の混釈培地上で培養し、プラークを得た。このプラークを任意に選択し、それぞれ大腸菌に感染させ、37℃、5時間の振盪培養により増殖後、ファージを含む上清(500 μl)を遠心回収 (9,100 g, 30秒間)した。このファージを100 μlのIodide buffer (10 mM Tris-HCl (pH 8.0), 1 mM EDTA, 4 M NaI)に懸濁し、250 μlのエタノールを加え10分反応させることでファージゲノムを抽出した。精製後のファージゲノムを、ペプチドライブラリーキットに付属のプライマーを用いてDNA配列を解読した。DNA配列の解読はABI-3100(Applied Biosystems社)を用い、蛍光物質及びポリマーは同装置のプロトコールに従って用いた。DNA配列を解析することで配列表1から10に示すペプチド配列を決定した。
【0032】
(ペプチドの合成)
ペプチドの合成はFmoc固相合成法にて行った。Fmoc固相合成法はペプチドシンセサイザー、PSSM−8((株)島津製作所社製)を用い、同装置のプロトコールに従って合成した。合成終了後、反応容器内の樹脂をジクロロメタンにて5回洗浄した後、合成されたペプチドレジンを減圧乾燥した。乾燥後、脱保護、切り出し液(m-クレゾール:エタンジチオール:チオアニソール:TFA=2:6.5:6.5:85)を1ml注入し、室温で約1時間反応させ、ペプチドを樹脂から切り離すと共に、残ったFmoc基をペプチドから脱離させた。濾液を遠沈管に回収し、冷却したジエチルエーテルを加え、ペプチドを析出させ、遠心分離(1500 rpm、4℃、5 min)により沈殿物を回収した。これを減圧乾燥して、粗ペプチドを得た。この粗ペプチドをTSKgelOctadecyl-4PWカラム(21.5mm×15cm、東ソー(株))を装着した逆相系液体クロマトグラフィー(溶出液0.1%TFA水溶液と0.1%TFA+80%アセトニトリル水溶液のグラジエント溶出)により単離し、減圧乾燥して、配列番号1のペプチドを得た。合成したペプチドはエレクトロスプレーイオン質量分析機LCQ Deca XP(Thermo Fisher 社製)を用いてアミノ酸配列を確認した。
【0033】
(実施例1)
配列表1のペプチドを上記の方法で合成し、ポリプロピレン織物上に固定化した。まず、ポリプロピレン繊維からなる織物(縦糸、横糸ともに、糸径80μm、モノフィラメント、織り糸数80本/インチ)にコロナ放電処理(400W、両面)を行い、表面に水酸基を生じさせた。コロナ処理を行った織物を1% 3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メタノール 50%水溶液に30分浸漬し、その後110℃で1時間乾燥させることで、繊維表面にメルカプト基を導入した。このメルカプト基にアミノ基との架橋試薬である、N−(4−マレイミドブチルオキシ)コハク酸イミド(以下、GMBS)を反応させた。より具体的には、メルカプト基導入繊維に2mM GMBSのDMSO溶液をのせ、一時間反応させた。その後、純水にて洗浄、乾燥した後、合成した配列表1のペプチドをTBST中で10mMとなるように調製し、これを50μlスポットし、一時間反応させた。反応後TBSTによって洗浄し、反応していないGMBSを反応させるため、1%BSAのPBS溶液中に浸漬したのち、TBSTによって洗浄した。これにより配列表1のペプチドを固定したポリプロピレン織物を得た。
【0034】
(実施例2)
実施例1と同じ方法にて合成した配列表2のペプチドを、実施例1と同じ方法にてポリプロピレン織物に固定した。
【0035】
(実施例3)
実施例1と同じ方法にて合成した配列表3のペプチドを、実施例1と同じ方法にてポリプロピレン織物に固定した。
【0036】
(実施例4)
実施例1と同じ方法にて合成した配列表4のペプチドを、実施例1と同じ方法にてポリプロピレン織物に固定した。
【0037】
(実施例5)
実施例1と同じ方法にて合成した配列表5のペプチドを、実施例1と同じ方法にてポリプロピレン織物に固定した。
【0038】
(実施例6)
実施例1と同じ方法にて合成した配列表6のペプチドを、実施例1と同じ方法にてポリプロピレン織物に固定した。
【0039】
(実施例7)
実施例1と同じ方法にて合成した配列表7のペプチドを、実施例1と同じ方法にてポリプロピレン織物に固定した。
【0040】
(実施例8)
実施例1と同じ方法にて合成した配列表8のペプチドを、実施例1と同じ方法にてポリプロピレン織物に固定した。
【0041】
(実施例9)
実施例1と同じ方法にて合成した配列表9のペプチドを、実施例1と同じ方法にてポリプロピレン織物に固定した。
【0042】
(実施例10)
実施例1と同じ方法にて合成した配列表10のペプチドを、実施例1と同じ方法にてポリプロピレン織物に固定した。
【0043】
(比較例1)
ファージディスプレイ法において、1回目の洗浄操作により遊離したファージのもつペプチド配列を、スギ花粉アレルゲンCryJ1への結合能が見られなかったものとした。この配列表11のペプチドを、実施例1と同じ方法にてポリプロピレン織物に固定した。
【0044】
(比較例2)
実施例1のうち、ペプチドを用いないものを比較例2とした。
【0045】
(スギ花粉アレルゲンCryJ1に対する結合能評価)
スギ花粉アレルゲンCryJ1溶液(1mM、PBS)中に、ペプチドを固定化したポリプロピレン織物を浸漬し、一時間室温(25℃)で振盪した。その後、上清中のCryJ1の濃度をELISA法によって測定を行った。ELISA法によるCryJ1量の測定について、以下に詳細に説明する。ELISA法によるCryJ1量の測定は生化学バイオビジネス社の技術資料に従い行った。すなわち、抗CryJ1抗体(クローン番号013、生化学バイオビジネス株式会社製)をPBS(20 mM Na2HPO4,0.8% NaCl, pH7.4)で10μg/mLとなるように希釈し、96穴タイタープレートに1ウェルにつき100μLずつ加え、室温で1時間静置した。溶液を除去し、ペーパータオル上で数回叩いて水分を除去した後、0.1% BSA含有PBSを1ウェルにつき200μLずつ加え、室温で1時間静置した。プレートから0.1% BSA含有PBSを除去し、ペーパータオル上で数回叩いて水分を除去した後、検液、標準溶液をそれぞれ1ウェルにつき100μLずつ加え、室温で1時間静置した。検液、標準溶液をプレートから除去し、Tween 20含有PBSを1ウェルにつき250μL加えて、捨てる洗浄操作を3回繰り返した。ペーパータオル上で数回叩いて水分を除去した後、ペルオキシダーゼ標識抗CryJ1抗体(クローン番号053、生化学バイオビジネス株式会社製)を0.1% BSA含有PBSで1,000倍に濃度に希釈し、プレートに1ウェルにつき100μLずつ加え、室温で1時間静置した。ペルオキシダーゼ標識抗CryJ1抗体をプレートから除去し、Tween 20含有PBSで洗浄操作を3回繰り返した。呈色溶液基質溶液1-StepTM Turbo TMB-ELISA(ピアス社製)を、1ウェルにつき100μLずつ加え、3分間静置し、次いで、2N硫酸を1ウェルにつき100μLずつ加え、酵素反応を停止させた。硫酸添加後、各ウェルの450nmの吸光度を測定した。検量線より上清中のCryJ1濃度を求め、初期濃度からの減少率を求めた。CruJ1の減少率の測定結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例1から実施例10において、比較例よりも溶液中のCryJ1量を減少させており、配列表1から10の配列のペプチドがCryJ1に対して優れた結合能を示し、また、基体上に固定してもCryJ1に対する結合能を失わないことが示された。特に実施例1から実施例3、および実施例6から8においてより高い結合能が示されており、実施例1から3においてより一層高い結合能が示されている。
【0048】
すなわち、配列番号1から10のアミノ酸配列からなる実施例1から10のペプチドは、スギ花粉アレルゲンCryJ1に対して再現性よく結合する。さらに抗体よりも低コストで短時間に作成できる。加えて、7個のアミノ酸残基からなるため、抗体よりも乾燥や熱によって変性することが少なく、環境による影響を受けにくい。
【0049】
以上より、本発明の配列表1〜10のいずれかの配列を有するペプチドが、CryJ1に対して結合能を有していること、および、当該アミノ酸配列を有したペプチドを含み、CryJ1を捕集することができる製品を提供することができることが理解される。具体的な製品としては、フィルター、網戸、衣類等が挙げられ、さらにアレルゲンを捕集する部材等を提供することが可能である。これら本発明のペプチドが固定された製品により、浮遊しているCryJ1が捕集され、空気中のCryJ1量が低減されるため、個人差はあるが、スギ花粉アレルゲンによる症状を抑えることができる。
【0050】
なお、本実施例においては、基体に固定されてもCryJ1に対する結合能を有するという、本発明のペプチドの特性を説明するために、ポリプロピレン織物に固定化してCryJ1に対する結合能を検討している。したがって、本発明のペプチドには基体に固定化されたものだけでなく遊離状態にあるペプチドも含まれることが当然に理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表1 〜 10 に示すアミノ酸配列のいずれかを有することを特徴とする、スギ花粉アレルゲンCryJ1に対して結合能を有するペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のペプチドが固定されたことを特徴とする繊維構造体。

【公開番号】特開2010−70477(P2010−70477A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238511(P2008−238511)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(391018341)株式会社NBCメッシュテック (59)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】