説明

スクラッチ印刷用白色インキ

【課題】 酸化チタンの含有量を高めても剥離などの印刷落ちの発生しにくい白色インキの提供。
【解決手段】 印刷部分を金属片で擦過すると着色されて画像を現出するスクラッチ印刷物の該印刷部分を与える白色インキである。顔料分、樹脂分及び油分の主剤と、光沢調整用のマット剤と、補助剤と、からなり、顔料分として酸化チタンを主剤の50質量%以上を与えるとともに、マット剤として有機フィラーを顔料分に対して10質量%以上与えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙媒体上に印刷された印刷部分を金属片で擦過すると着色されて画像を現出させるスクラッチ印刷物の該印刷部分を与える白色インキに関し、特に、高精細な画像を現出可能な高いコントラストの着色を与えることのできるスクラッチ印刷物の白色インキに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、比較的厚手の紙媒体のような被印刷物の表面に文字や画像などを裏面に向けて透けて見えないように印刷し、この印刷表面に光を透過させず、またコインで擦過すると剥離可能なアルミニウムペーストの如き隠蔽膜を重ねて印刷したスクラッチ印刷物が知られている。印刷された画像は、隠蔽膜によってこのままでは目視できないが、コインで隠蔽膜を削り取って剥離させることで、印刷した画像が露出して目視可能となる。かかるスクラッチ印刷物では、剥離した隠蔽膜が削りカスとなり周囲を汚したり、隠蔽膜の厚さの分だけ印刷物の厚さも増し、配布時の収容に不利であるなどの指摘があった。
【0003】
これに対し、削りカスを発生させない薄手のスクラッチ印刷物も知られている。例えば特許文献1乃至4では、コインに使用されている金属材料よりも高い硬さの材料からなる粉体、例えば、酸化チタンなどの無機材料粉末を白色インキに含有させ、これにより文字や画像を被印刷物の上に印刷したスクラッチ印刷物を開示している。白い被印刷物の上に白色インキで印刷された文字や画像はこのままでは目視できないが、コインでこの印刷部分を擦過すると、白色インキに含有された無機材料粉末によってコインが削られ、生じた金属粉により白色インキが着色し、印刷された文字や画像を認識できるようになるのである。上述したスクラッチ印刷物と異なり、隠蔽膜を有さないため、コインの擦過により削りカスを生じて周囲を汚したり、印刷物の厚さが増してしまうこともない。また、印刷時に裏面に向けて透けて見えることもないから、比較的薄手の紙媒体でもスクラッチ印刷物を得られる。
【0004】
ところで、このようなスクラッチ印刷物において、写真画像や二次元バーコードのような高精細な画像を現出させるためには、コインによる擦過の前後で白黒の大きなコントラスト差を与え得るよう、白色インキ及び印刷方法が調整される。白色インキの着色は、コインが削られることで生じる金属粉によるため、金属粉をより多く生じるように白色インキの酸化チタンの含有量を増加させることが考慮される。
【0005】
例えば、特許文献5では、コインによる擦過で写真様の濃淡画像を現出し得るスクラッチ印刷物を開示している。ここでは、白色インキに含まれる酸化チタンの含有量を従来の同様のスクラッチ印刷物に使用される白色インキよりも増加させ、この白色インキで網点密度を変化させた網点印刷を行って、コインによる擦過で現出した後に、看者によって認識される画像の濃淡を表現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−034384号公報
【特許文献2】特開2007−168416号公報
【特許文献3】特開2008−073977号公報
【特許文献4】特許第4577909号公報
【特許文献5】実登3165651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に、白色インキ中の酸化チタンの含有量が高すぎると、印刷後のチョーキングが顕著になって、剥離などの印刷落ちが生じやすくなる。また、特許文献5でも述べられているように、パイリングを生じて印刷ムラが生じやすくなったり、印刷自体が困難になることもある。
【0008】
本発明は、上記したような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、高精細な画像を現出可能な高いコントラストの着色を与えることのできるスクラッチ印刷物を与え得る白色インキの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による白色インキは、印刷部分を金属片で擦過すると着色されて画像を現出するスクラッチ印刷物の該印刷部分を与える白色インキであって、顔料分、樹脂分及び油分の主剤と、光沢調整用のマット剤と、補助剤と、からなり、前記顔料分として酸化チタンを前記主剤の50質量%以上を与えるとともに、前記マット剤として有機フィラーを前記顔料分に対して10質量%以上与えたことを特徴とする。
【0010】
かかる発明によれば、高精細な画像を現出可能な高いコントラストの着色を得られるよう、主剤の50質量%以上の酸化チタンを与えても、有機フィラーからなるマット剤が所定量以上与えられることで印刷後の剥離等を防止できる。また、酸化チタンの含有量の増加とともに印刷部分の白み自体がマット調になるから、光沢調整用としてのマット剤の含有量を増やしても光沢に影響が少ない。すなわち、被印刷媒体の白みに合わせて酸化チタンの含有量を高めても、健全な印刷部分を有するスクラッチ印刷物を与え得るのである。
【0011】
上記した発明において、前記酸化チタンを前記主剤の65質量%以下とすることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、印刷時のその流動性を確保できて、パイリングを抑制できて、健全な印刷部分を有するスクラッチ印刷物を与え得るのである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による白色インキの成分表である。
【図2】本発明による白色インキを用いたスクラッチ印刷物を示す図である。
【図3】本発明による白色インキを用いたスクラッチ印刷物を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の1つの実施例による白色インキについて図1を用いて説明する。
【0014】
図1に示すように、白色インキに含有される各成分の含有量は、顔料分として酸化チタン:45〜58質量%と、樹脂分として合成樹脂:5〜16質量%と、油分として鉱油:5〜16質量%、及び、植物油:5〜10質量%と、を含み、光沢調整用のマット剤:5〜10質量%を含む。さらに、乾燥剤及び被膜強化剤の合計:1質量%未満、乾燥被膜形成防止剤:1質量%未満を適宜含んでもよい。
【0015】
つまり、顔料分、樹脂分及び油分からなる主剤のうち、顔料分である酸化チタンの含有量は約50質量%以上である。また、マット剤は顔料分に対して約10質量%以上与えられている。
【0016】
以下において、上記した各成分の具体例とその含有量を定める指針について説明する。
【0017】
顔料分として、酸化チタンは、例えば、平均粒径0.3μm程度の粒子からなる。酸化チタンは、上記したように得られた印刷物をコイン等の金属片で擦過した際に、コインを削って金属粉を発生させ、この発生した金属粉をその場に付着させ、印刷部分を看者に黒く認識させる。よって、白色インクの着色を濃くするためには、酸化チタンの含有量を多くして、金属粉の発生量を多くさせるとともに、その付着をよりし易くさせることが好ましい。
【0018】
そこで、酸化チタンは、一般的な白色インキの白色剤としての含有量よりも多く、主剤に対して50%以上の含有量とすることが好ましい。一般的に、酸化チタンを過剰に含有させると印刷時の流動性が損なわれてパイリングが発生したり、印刷自体が困難になったり問題を生じやすくなる。また、印刷後の剥離などによる印刷落ちを生じ得ることもあるため、後述する油分及び樹脂分との関係において上限を定める。好ましくは、主剤に対して約65質量%以下である。なお、印刷面における印刷部分とその周囲との色差や光沢差を小さくし得る観点からも、白色インク中の酸化チタンの含有量等が適宜調整される。
【0019】
樹脂分は、主に顔料分を印刷面に固着させるために配合される。樹脂分は、印刷時の白色インキの流動性や転移性にも関係を有するため、後述する油分への溶解性も考慮してその種類及び含有量を調整される。また、印刷後のチョーキングを適度に発生させつつ、剥離などの印刷落ちを防止するよう、顔料との関係に基づいて、その種類及び含有量を定められる。典型的にはロジン変性フェノール樹脂を用いることができる。
【0020】
油分は、印刷時において、白色インキに適度な流動性や転移性を与えるよう、その種類と含有量を定められる。このうち、鉱油は、典型的には、石油系炭化水素からなるアロマフリーのインキ用溶剤を使用できる。植物油は大豆油を主体として配合されている。また、油分は、印刷後のインキの乾燥時間に影響を与えるので、その種類としては、ドライダウンによる色味の変化を早く確認するために速乾性であることが好ましく、また、印刷後の経時による色変化の少ないものが好ましい。
【0021】
光沢調整用のマット剤には、例えば、平均粒子径0.01〜1μmのビニル系架橋重合体の集合体である平均粒径2〜200μmの球状体粒子を含む有機フィラーなどを用いることができる。有機フィラーはその形状などによって顔料分である酸化チタンの粒子を絡め固着すると考えられ、つまり、酸化チタンを印刷面に固着させるために有効であると考えられる。有機フィラーの含有量は顔料分に対する量で規定され、顔料分に対して10質量%以上とすることが好ましい。
【0022】
特に、酸化チタンが主剤の50質量%以上と高い割合で含有された場合、白色インキにより得られるスクラッチ印刷物の印刷部分はマット調になり、光沢においてマット剤の影響をほとんど受けなくなる。これにより、光沢に影響を与えずにマット剤である有機フィラーを所定量以上添加できる。また、酸化チタン粒子をよりよく絡め固着するため、さらにはスクラッチ印刷物として金属粉の付着を促進させるためにも、有機フィラーがその形状に例えば凹部をより多く有するよう、嵩比重を小さくすることが好ましいと考えられる。その上で、印刷時の白色インキの流動性を確保できるようその含有量の上限が酸化チタンの含有量に伴い定められる。
【0023】
白色インキには補助剤として、さらに、乾燥剤、被膜強化剤、被膜形成防止剤などを適宜含むことが好ましい。乾燥剤には、マンガン、コバルトなどの硼酸塩や有機酸塩を油脂に溶解又は分散させた金属ドライヤーを用い、これを触媒として合成樹脂の酸化重合乾燥を促進させることができる。被膜強化剤には、ポリエチレン系ワックスを植物油ワニスに分散混合させた耐摩ワックスコンパウンドなどを使用できる。印刷後の擦過などによる白色インキの脱落等を抑制できるので、被膜強化剤は添加されていることが好ましい。
【0024】
被膜形成防止剤には、2,6−ジ−ターシャリ−ブチル−4−クレゾール(ジブチルヒドロキシトルエン)を用いることができる。保管中のインキ表面の乾燥被膜の形成を防止し、印刷時のインキの流動性や転移性などの変化を抑制できる。
【0025】
以上により、得られるスクラッチ印刷物において、金属片での擦過により高いコントラストの着色を得られるよう、主剤の50質量%以上の酸化チタンを与えても、白色インキには有機フィラーからなるマット剤が所定量以上与えられているので印刷後の剥離を防止でき、健全な印刷部分を与えることができる。つまり、かかる白色インキにより得られるスクラッチ印刷物は、高精細な画像を現出可能なのである。
【0026】
次に、上記した白色インキにより得られるスクラッチ印刷物について、図2及び3を用いて説明する。
【0027】
図2に示すように、スクラッチ印刷物1は白色の紙葉2に上記した白色インキにより印刷部分3を印刷することで得られる。
【0028】
図3(a)に示すように、印刷部分3は白色の紙葉2に対して同色の白色インキにより印刷されているため、このままでの視認が困難な秘匿画像となる。
【0029】
図3(b)に示すように、印刷部分3及びその周辺をコインなどの金属片で擦過すると、金属片が印刷部分3を形成する白色インキに含まれる酸化チタンの粒子により削られて、その金属粉が印刷部分3に付着し着色する。これにより、周囲の着色していない部分との色差を現出させて秘匿画像が認識可能となるのである。
【0030】
特に、白色インキに含まれる酸化チタンの量が多いため、印刷部分3に含まれる酸化チタンの量を多くできる。よって、金属片から削られて発生する金属粉の量も多くし得て、印刷部分3に付着する金属粉の量も多くし得る。これによって着色した部分の発色がより濃くなるのである。このため、着色した部分と周囲の着色していない部分とのコントラストを高くすることができて、細部においても高いコントラストを表現することができる。よって、印刷部分3に高精細な秘匿画像を印刷すると、これを高精細に現出させることができる。かかる大きなコントラストにより、写真様の画像や、二次元コードなどを実用的に現出できるのである。
【0031】
以上、本発明による代表的実施例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した請求項の範囲を逸脱することなく種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0032】
1 スクラッチ印刷物
2 紙葉
3 印刷部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷部分を金属片で擦過すると着色されて画像を現出するスクラッチ印刷物の該印刷部分を与える白色インキであって、
顔料分、樹脂分及び油分の主剤と、光沢調整用のマット剤と、補助剤と、からなり、前記顔料分として酸化チタンを前記主剤の50質量%以上を与えるとともに、
前記マット剤として有機フィラーを前記顔料分に対して10質量%以上与えたことを特徴とするスクラッチ印刷物用白色インキ。
【請求項2】
前記酸化チタンを前記主剤の65質量%以下とすることを特徴とする請求項1記載のスクラッチ印刷物用白色インキ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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