説明

スクラップからのInとSnの分離法

【課題】 インジウムとスズ酸化物からスズのみを選択的分離することは難しく、分離の際一部のインジウムが沈殿してしまうという問題や最終工程においてインジウムを電解精製する際に液中に塩素イオンが残存していると有害な塩素ガスが発生する為、塩素イオンとインジウムイオンを分離する工程が必要でありコスト高になるという問題を解消するインジウム回収方法を提供する。
【解決手段】 インジウムとスズの両酸化物を主成分とするスクラップからインジウムを回収する際に、前記スクラップを予め粉砕し、硫酸1〜3mol/Lに前記粉砕後のスクラップを60℃以上において加熱溶解し、pH=0.9〜1.3にカルシウム系中和剤により調整し石膏を形成させ、スズの酸化物も共沈するので、これを除去し、インジウムを液中に残すことを特徴とするスクラップ材からのインジウムの回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はターゲット材として広く使用されているインジウムとスズの酸化物廃材からインジウムを効率良く回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インジウムとスズ酸化物からスズ成分を除去する場合、粉砕により60メッシュ以下とした後、塩酸で60℃で8時間浸出後、ろ過し、未溶解物を除去し、該溶解液にアンモニア水を添加し、pH=2.8に調整し、珪藻土をプレコーとしたろ過機によりろ過し、インジウム溶液を得ている例がある。(特開2001−40436号:特許文献1)
【0003】
また特開2002−69684号(特許文献2)には、インジウムとスズの酸化物であるリサイクルスクラップを濃塩酸に、110℃4時間加熱溶解し、pH=2.0に中和し、錫を沈殿除去後、濾過する方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−40436号
【特許文献2】特開2002−69684号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、塩酸での溶解は、廃液処理等を考えると好ましくなく、インジウムとスズ酸化物からスズのみの選択的分離は難しく、分離の際一部のインジウムも沈殿してしまうという問題がある。
【0006】
更に、最終工程においてインジウムは電解精製されるがこの時液中に塩素イオンが残存していると有害な塩素ガスが発生する為、塩素イオンとインジウムイオンを分離する工程が必要でありコスト高になるという問題がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、インジウムとスズ酸化物からスズ成分を分離する工程において塩素イオンを混入することなく、しかも効率良くスズ成分を分離し純度の高いインジウム溶液を供給する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(1)インジウムとスズの両酸化物を主成分とするスクラップからインジウムを回収するに際して、前記スクラップを予め粉砕し、硫酸1〜3mol/Lに前記粉砕後のスクラップを60℃以上において加熱溶解し、pH=0.9〜1.3にカルシウム系中和剤により調整し石膏の殿物を形成させ、スズを共沈により除去し、インジウムを液中に回収するスクラップ材からのInの回収方法。
に関する。
【発明の効果】
【0009】
以上に示したように本発明は、
(1)インジウムとスズ、両酸化物を主成分とするスクラップからインジウム成分とスズ成分を分離する工程において、塩酸を使用せずに効率良くインジウムを効率良く回収できる。
(2)石膏と共にスズを除去することにより効率良くろ過が出来る。(3)簡便な方法により高純度のインジウム回収が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明に関して、詳細に述べる。
本発明の処理対象物は、インジウムとスズの両酸化物を主成分とするスクラップである。
このスクラップ中には、インジウムが70〜75mass%、スズを7〜9mass%含有する酸化物である。
【0011】
上記のスクラップは、ターゲット材等であることから直ちに、溶解できる物ではない。このため予め粉砕機により粉砕をする。粉砕機は、振動ミル、スタンプミルを使用する。
粉砕後の粒形は、50〜250μm程度である。
これは、溶解時に、インジウム酸化物が完全に溶解する粒度であることが望ましいからである。
【0012】
上記粉砕後、硫酸に溶解する。硫酸は、1〜3mol/Lであることが望ましい。
これは、溶解時に、インジウム酸化物が完全に溶解する粒度であることが望ましいからである。
溶解時の温度は60℃以上、より好ましくは80℃以上が好ましい。
これは、溶解時に、インジウム酸化物が完全に溶解する粒度であることが望ましいからである。
【0013】
又溶解時には、適度な攪拌を行うことが望ましい。
100〜150rpm程度で行うことが望ましい。これは、対象処理物が、沈降しない程度が望ましいからである。
【0014】
溶解後、カルシウム系中和剤を添加する。カルシウム系中和剤としては、例えば炭酸カルシウム、消石灰等を使用する。これは、石膏を形成させるため、カルシウムを必要とするからである。
【0015】
調整するpHは、0.9〜1.3が望ましい。pH=0.9より低くては錫とインジウムの分離効率が悪く、pH=1.3より高くては、インジウムが沈降して回収率が下がるからである。
【0016】
上記のpH調整により、石膏が形成され、スズの酸化物が効率良く石膏と共沈し、除去される。
該沈殿物をろ過し、高純度なインジウムを含む液を得ることが出来る。
該インジウム含有液からは、電解採取、或いは、溶媒抽出により金属インジウムを容易に得ることが出来る。
【0017】
次に本発明を実施例および比較例に基づいて更に詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
(実施例1)
処理対象物のインジウムとスズの酸化物の品位は、In71mass%、Sn7.2mass%であった。これを振動ミルで粉砕し、およそ粒径150μmの粉末にした。粉末XRDの結果より主成分はIn2O3であった。
【0019】
インジウムとスズ酸化物の粉末を5gと1〜3 mol/Lの硫酸を浸出液として65ml注ぎ、加熱して90℃とした。そのまま8時間撹拌、溶解した。
【0020】
比較として溶解を各種の酸で試みた。1 mol/L塩酸、1 mol/L硝酸、5 mol/L苛性ソーダ液で溶解した。
【0021】
実施例1及び比較例1〜3について浸出後液の上澄みのインジウム濃度とスズ濃度をICP発光分光装置で測定しその浸出率を求めた。浸出率を表1に示す。
【0022】
【表1】

硫酸1mol/L以上の濃度であれば、Inの浸出率が極めてよいことが把握される。
【0023】
(実施例2)
インジウムとスズ酸化物の硫酸浸出後液はスズ酸化物を主成分とする微粒子で白濁しているためこれに塩基性カルシウム塩として炭酸カルシウムを添加して液のpHを1.2程度に調整した後、5Cの濾紙を用いて吸引濾過した。
【0024】
比較例4及び5としてカルシウム塩の添加を行わずに5Cの濾紙で吸引濾過した(比較例4)、または0.2μmの孔径のメンブランフィルターで吸引濾過した(比較例5)。
実施例2及び比較例4〜5について濾過試験を行い濾過性の確認と濾液の分析を行った。濾液の分析結果を表2に示す。
【表2】

濃度単位:g/L

この結果、カルシウム塩を添加して濾過した場合は、添加しない場合と比べて極めて分離効率が高く(実施例2)、この効果は孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いた場合と比べて同等以上の結果を得ることができることがわかった。石膏が生成する際スズ酸化物を主成分とする微粒子が結晶核となり得るため表2のように良好な分離効果を発揮し、また生成した石膏が濾過砂のように働きさらに細かい粒子の濾別も可能にするためと考えられる。
【0025】
比較として3 mol/L の硫酸で加熱溶解した後、炭酸カルシウムで中和した時のpHを変化させて5Cの濾紙で吸引濾過した濾液を分析した。濾液の分析結果を表3に示す。
【表3】

pH=0.5では分離効率が低くpH=1.5ではインジウムの回収率が不良となる。ことが判った。また溶解に供する硫酸濃度が低い場合はpH=0.8では生成する石膏の量が不十分になる場合があり調整するpHは0.9〜1.3が望ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウムとスズの両酸化物を主成分とするスクラップからインジウムを回収するに際して、前記スクラップを予め粉砕し、硫酸1〜3mol/Lに前記粉砕後のスクラップを60℃以上において加熱溶解し、pH=0.9〜1.3にカルシウム系中和剤により調整し石膏の殿物を形成させ、スズを共沈により除去し、インジウムを液中に回収することを特徴とするスクラップ材からのInの回収方法。