説明

スクラロースへのスクラロース−6−エステルの変換

本開示は、三級アミドを含む反応媒質中の、(a)6−O−アシル−4,1’,6’−トリクロロ−4,1’,6’−トリデオキシガラクトスクロースなどのスクラロース−6−エステル、(b)アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物を含めた塩、(c)水、および(d)他の塩素化されたスクロース副産物の供給混合物からスクラロースを生成するためのプロセスを提供する。ここで、このプロセスは、三級アミドの除去の前または後に、能動的冷却下で、スクラロース−6−エステルを脱アシル化して、スクラロース、アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物を含めた塩、および他の塩素化されたスクロース副産物を含む水溶液を生成することを含む。さらに、スクラロースは、例えば、抽出およびそれに続く結晶化によって、あるいは抽出技術単独によって、水溶液から回収され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(引用)
本願は、2005年6月1日に出願された米国仮出願第60/686,654号、および2005年9月27日に出願された「スクラロースへのスクラロース−6−エステルの変換(CONVERSION OF SUCRALOSE−6−ESTER TO SUCRALOSE)」に関する米国特許出願第 号(これらの内容を、あらゆる目的のために、その内容全体を参考として本明細書に援用する)に対する利益を主張する。
【0002】
(分野)
本出願は、スクラロースの産生のための方法およびシステムに関する。より詳細には、本出願は、スクラロース−6−エステルをスクラロースに変換する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
人工甘味料4,1’,6’−トリクロロ−4,1’,6’−トリデオキシ−ガラクトスクロース(「スクラロース」)は、4位、1’位、および6’位のヒドロキシルを塩素で置き換えることによってスクロースから誘導される。この化合物を作製するプロセスでは、4位の立体配置が逆転される。それゆえ、スクラロースは、以下の分子構造を有するガラクトスクロースである:
【0004】
【化1】

置き換えられるヒドロキシルが種々の反応性のものである(すなわち、2つは一級であり、1つは二級である)ので、所望の位置のみに塩素原子を導くことが、主な合成課題である。6位の一級ヒドロキシルが、最終生成物において未置換であるという事実によって、合成はさらに難しくなる。
【0005】
例えばエステル基によって6位の反応性ヒドロキシルをブロックし、その後、4位、1’位、および6’位のヒドロキシルを塩素化し、それに続いて加水分解を行ってエステル置換基を除去し、スクラロースを産生する、スクラロースの調製のための多数の異なる合成経路が開発されている。これらの合成経路のいくつかは、スクロース−6−エステルのスズ媒介合成を含む。その実例は、Navia(特許文献1)、Neiditchら(特許文献2)、Walkupら(特許文献3−「Walkup−I」)、Vernonら(特許文献4)、およびSankeyら(特許文献5)(これらをそれぞれ、あらゆる目的のためにその内容全体を参考として本明細書に援用する)によって開示されているスズ媒介経路である。
【0006】
上で引用された合成経路によって産生されるスクロース−6−エステルは一般的に、Walkupら(特許文献6−「Walkup−II」)(これを、あらゆる目的のために、その内容全体を参考として本明細書に援用する)のプロセスによって塩素化される。他の塩素化プロセスも、スクロース−6−エステルを塩素化するために有効であり、利用可能である。これらの塩素化プロセスによって、三級アミド(一般的にN,N−ジメチルホルムアミド(「DMF」))の溶液中で、生成物として、スクラロース−6−エステル(4,1’,6’−トリクロロ−4,1’,6’−トリデオキシガラクトスクロース−6−アセテートなど)、それに加えて塩(塩素化反応物の完了後に塩素化剤を中和することの結果として生成される)、塩素化反応副産物、および他の不純物が生成される。例示的な塩素化反応副産物は、一塩素化スクロースおよび二塩素化スクロース、ならびに他の形態の塩素化されたスクロースなどの、スクラロース以外の塩素化された糖質を含む。
【0007】
Walkup−IIに開示されているプロセス、およびNaviaら(特許文献7−「Navia’106」)に開示されているプロセス(これらもまた、あらゆる目的のためにその内容全体を参考として本明細書に援用する)などの以前のプロセスでは、スクラロースは、Walkup−IIの塩素化反応混合物から、以下の手順によって生成される:
a.中和工程の後、例えば、(Navia’106に開示されている)水蒸気蒸留によって、塩素化反応のための三級アミド反応ビヒクルを除去し、塩、スクラロース−6−エステル、塩素化副産物、および他の不純物を含有する水性混合物を形成させる(「三級アミド除去工程」とまとめられる);
b.続いて、その水性混合物から、適切な有機溶媒(例えば酢酸エチル)を使用する抽出によって、スクラロース−6−エステルが回収される(「スクラロース−6−エステル回収工程」とまとめられる);
c.続いて、粗製スクラロース−6−エステルを脱アシル化し、スクラロースおよび脱アシル化副産物を形成させる(「脱アシル化工程」とまとめられる);および
d.スクラロースを向流抽出によって回収し、結晶化によって精製する(「スクラロース回収工程」とまとめられる)。
【0008】
Naviaら(特許文献8(以下「Navia’709」))(これを、あらゆる目的のためにその内容全体を参考として本明細書に援用する)では、スクラロース−6−エステルが、直接的に脱アシル化され(すなわちスクラロース−6−エステル回収工程を含まず)、スクラロース、塩、塩素化副産物、脱アシル化副産物、および不純物の水溶液が生成され、例えば有機溶媒を用いる抽出によってその水溶液からスクラロースが回収され、続いて、スクラロースが、向流抽出、結晶化、またはその両方の技術の組み合わせによって精製されるプロセスが開示されている。Navia’709は、スクラロース−6−エステルを脱アシル化し、得られたスクラロースを回収するための2つのプロセスを開示している。第1のプロセスでは、スクラロース−6−エステルが、三級アミド溶液中で脱アシル化され、その溶液から、スクラロースが分離または回収される。より好ましいプロセスであるとして開示された第2のプロセスでは、Navia’709は、脱アシル化の前に三級アミドを除去し、水性混合物中でスクラロース−6−エステルを脱アシル化することを記載した。Navia’709の開示は、スクラロース−6−エステル回収工程を効果的に排除し、三級アミド除去工程、脱アシル化工程、およびスクラロース回収工程のみを必要としていた。
【0009】
塩素化副産物および脱アシル化副産物は、上で簡単に論じられている。一般的に言って、塩素化副産物は、塩素が4位、1’位、および6’位のヒドロキシルを置き換えないか、あるいはさらなる位置のヒドロキシルを置き換えている、一塩素化スクロースおよび二塩素化スクロース、ならびに他のバリエーションのスクロース分子などの、所望のスクラロース−6−エステル以外の塩素化反応の生成物を含む。同様に、脱アシル化副産物には、スクラロース以外の脱アシル化反応の生成物が含まれる。本明細書で用いられる場合、用語「スクラロース」とは、上で紹介した4,1’,6’−トリクロロ−4,1’,6’−トリデオキシガラクトスクロース分子をいう。例示的であるが限定的でない脱アシル化副産物としては、スクラロースの分解生成物(3’,6’無水スクラロースなど)および他の塩素化された糖質が挙げられる。
【0010】
Navia’709は、スクラロース−6−エステルが、三級アミド溶液中にあるままで、あるいは三級アミドの除去の後に脱アシル化されるプロセスを記載している。どちらのプロセスでも、Navia’709は、塩素化生成物(または三級アミドの除去の後の塩素化生成物)に十分なアルカリ水溶液を加えてpHを11(±1)とし、6−アシル基を除去してスクラロースを生成するのに十分な時間、そのpHを維持することを開示している。Navia’709に記載されている通り、脱アシル化工程は一般に、30分〜2時間を必要していた。Navia’709は、脱アシル化反応の開始時の温度と、この反応が、脱アシル化反応中は温度制御をされずに周囲温度で進行することを記載し、脱アシル化反応温度について表面的に論じているだけである。アルカリ材料の付加の際に放出される熱に起因して、Navia’709の脱アシル化工程の反応温度は、15℃から35℃までの範囲であると考えられる。さらに、反応温度は、塩基を追加すると速やかに上昇し、より冷たい周囲空気と相互作用することによって徐々に冷却されると考えられる。
【0011】
上記で簡単に述べた通り、Navia’709は、三級アミドの除去より前の脱アシル化は、非常に不都合であることを開示している。Navia’709は、三級アミドが存在する場合には、さらには11±1のpHでは、直接的な脱アシル化は、一部の三級アミド(これは、ジメチルアミンおよびギ酸ナトリウムへの苛性加水分解によって失われた)を犠牲にして行われることを開示している。三級アミドの喪失によって、三級アミドのリサイクル効率が低下した。さらに、溶液中の三級アミド加水分解生成物およびスクラロースの存在は、スクラロース回収プロセスを難しくするものとして開示されていた。
【特許文献1】米国特許第4,950,746号明細書
【特許文献2】米国特許第5,023,329号明細書
【特許文献3】米国特許第5,089,608号明細書
【特許文献4】米国特許第5,034,551号明細書
【特許文献5】米国特許第5,470,969号明細書
【特許文献6】米国特許第4,980,463号明細書
【特許文献7】米国特許第5,530,106号明細書
【特許文献8】米国特許第5,498,709号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
(要旨)
本開示は、スクラロース−6−エステルを脱アシル化して、反応媒質中の、(a)6−O−アシル−4,1’,6’−トリクロロ−4,1’,6’−トリデオキシガラクトスクロースなどのスクラロース−6−エステル、(b)アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物を含めた塩、(c)水、および(d)他の塩素化副産物の供給混合物からスクラロースを生成するための方法を提供する。この方法は、反応媒質の温度を所定の温度範囲内に維持するために反応媒質を能動的に冷却しながら、脱アシル化反応媒質のpHを少なくとも約11というpHに上昇させることによって、三級アミドの除去の前または後に、スクラロース−6−エステルの脱アシル化を行うことを含む。能動的に冷却しながら、pHを少なくとも約11に上昇させると、反応媒質は、脱アシル化反応を開始して、スクラロース、塩、水、塩素化副産物、および脱アシル化副産物を含む溶液を生成する。この方法は、反応媒質のpHを中和することをさらに含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(詳細な説明)
スクラロース−6−エステルを脱アシル化させて、反応媒質中の、(a)6−O−アシル−4,1’,6’−トリクロロ−4,1’,6’−トリデオキシガラクトスクロースなどのスクラロース−6−エステル、(b)アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物を含めた塩、(c)水、および(d)他の塩素化副産物の供給混合物からスクラロースを生成するための方法は、この脱アシル化をもたらすに十分な時間にわたって溶液を所定の温度範囲(例えば約0℃から約25℃まで)まで能動的に冷却しながら、(a)、(b)、(c)、および(d)の反応媒質のpHを少なくとも約11に上昇させて、反応媒質中にスクラロース、塩、塩素化副産物、および脱アシル化副産物を含む水溶液を生成することを含み得る。反応媒質をその後中和し、スクラロースを溶液から回収し得る。
【0014】
供給混合物は、様々な適切な手順を介して生成され得る。通常、供給混合物は、スクロースをエステル化させてスクロース−6−エステルを生成し、スクロース−6−エステルを塩素化してスクラロース−6−エステルを生成し、この塩素化反応物を急冷して、三級アミド反応媒質中のスクラロース−6−エステルの供給組成物を生成することによって生成され得る。塩素化反応生成物を急冷すると、一般には、pHが約5から約7までの範囲である溶液が生じる。急冷工程で水酸化ナトリウムが使用され、かつ三級アミドがDMFである場合、急冷工程で形成される塩は、塩化ナトリウム、塩酸ジメチルアミン、および少量のギ酸ナトリウムを含み得る。Walkup−IIおよびNavia’106の方法を含めた、スクラロース−6−エステルを生成する例示的であるが限定的ではない方法は、上で述べられている。
【0015】
本発明の開示の方法は、三級アミド(好ましくはDMF)反応媒質中の、例えば上で述べたWalkup−IIに記載された、塩素化反応の中和された(急冷された)生成物などの、6−O−アシル−4,1’6’−トリクロロ4,1’6’−トリデオキシガラクトスクロース(スクラロース−6−エステル)を含む組成物を供給混合物として用いることができる。6−O−アシル−4,1’6’−トリクロロ−4,1’6’−トリデオキシガラクトスクロースエステルの例としては、6−O−アセチル−4,1’6’−トリクロロ4,1’6’−トリデオキシガラクトスクロース(スクラロース−6−アセテート)、および6−O−ベンゾイル−4,1’6’−トリクロロ−4,1’6’−トリデオキシガラクトスクロース(スクラロース−6−ベンゾエート)を挙げられ得る。他の適切なスクラロース−6−エステルも使用され得る。
【0016】
上で述べた通り、供給混合物の反応媒質としては一般に、スクラロース−6−エステルの産生における従来の工程からの、DMFなどの三級アミドが挙げられる。本開示の方法は、三級アミドの存在下でスクラロース−6−エステルを脱アシル化することを含み得る。その後、三級アミドを、例えば水蒸気蒸留によって、あるいは抽出によって除去し、スクラロースを、例えば抽出とそれに続く結晶化によって、あるいは抽出技術単独によって回収し得る。あるいは、三級アミドまたはその大部分は、本開示の脱アシル化反応を開始する前に除去され得る。三級アミドは、任意の適切なプロセスによって、例えば水蒸気蒸留によって除去され得る。本開示の方法は、三級アミド加水分解生成物を有意な程度まで生成しない制御された温度下での脱アシル化反応をもたらす。したがって、三級アミドのリサイクル効率が、三級アミドの除去の前に脱アシル化を行うことによって低下させられることはない。さらに、スクラロースの回収が、三級アミド加水分解生成物の存在によってさらに複雑化することはない。
【0017】
三級アミドが脱アシル化反応の前に除去されるかまたはその後に除去されるかに関係なく、三級アミドまたは少なくともその主な部分は、急冷された供給混合物、または脱アシル化された反応媒質から、水蒸気蒸留操作または他の分離手順を介して除去され得る。本開示のいくつかの態様では、少なくとも95%、好ましくは約98〜99.9%の三級アミドが除去され得る。水蒸気蒸留またはそれ以外の方法によってDMF(または他の三級アミド)を除去すると、DMFは、このプロセスのながれにおいて効率的に水と置き換えられ、蒸留によって水性のオーバーヘッドから回収され得、そして再利用され得る。
【0018】
急冷された供給混合物からであるかまたは脱アシル化されたスクラロース組成物からであるかに関係なく、多くの産業規模および実験室規模のプロセスを使用して、反応媒質から三級アミドを除去し得る。例えば、この例に限られないが、実験室規模の例、すなわち、供給混合物である急冷されたスクラロース−6−エステル塩素化生成物からDMFを留去するために設計された、流下薄膜型の充填カラムの水蒸気蒸留装置は、5mmのラシヒリングまたは他の適切な充填物を詰められた直径5.0cm、長さ90cmの真空ジャケット付き蒸留塔である。さらに、あるいは代わりに、15−プレートのジャケット付きOldershawカラムを使用し得る。急冷された生成物(一般的に予熱される)は、約5.0〜5.5グラム/分の速度でカラムの上部に導入される。蒸気は、カラムの底に位置するサイドアームを介してカラムに導入される。凝縮物を含まない蒸気が必要とされるので、蒸気を「事前ボイラー(preboiler)」を通過させて、残ったあらゆる凝縮物をトラップする。実験室では、この事前ボイラーは一般的に、加熱マントルが備え付けられた小さな複数首フラスコである。典型的な蒸気供給速度は、毎分38〜47グラムの範囲内にあり(オーバーヘッド生成物の重量と底生成物の重量とを合計し、続いて塩素化供給物の重量を減算することによって算出される)、これは、4:1から12:1までの範囲の蒸気−供給物比に相当する。充填カラムアセンブリについては、7.5:1と9:1との間の蒸気−供給物比が典型的である。典型的な実施形態は、より低い蒸気/供給物比を有する、より多くのプレート、例えば、蒸気/供給物比が約4:1である15枚のプレートを使用する。
【0019】
蒸留操作の効率を増大させるために、急冷された塩素化供給物を、カラムの上部に導入する前に予熱する。実験室では、予熱は一般的に、蒸気の二次供給源(secondary source)を用いて加熱された密閉ガラスコイル装置に供給物を通過させることによって行われる。供給物は通常、約90℃〜95℃に加熱される。DMF除去の効率はまた、「再沸器(reboiler)」を用いることによって(すなわち、ボトム生成物を、それが蒸留カラムに還流されるように加熱することによって)向上され得る。
【0020】
温度は、熱電対デバイスまたは他の技術を使用して、装置上の少なくとも2つの場所で測定され得る。上述した急冷された塩素化供給物の温度に加えて、蒸留塔ヘッドを通過する蒸気の温度も測定され得る。ヘッド蒸気温度は一般的に、約99℃から約104℃までの範囲内にある。
【0021】
スクロース−6−アセテートの典型的な急冷された塩素化生成物または供給混合物は、約1.5〜5重量%のスクラロース−6−エステル、約35〜45重量%のDMF、約35〜45重量%の水、および約12〜18重量%の塩を含有する。実験室規模の蒸気除去装置を介してこうした供給混合物を通過させた後、ボトム生成物は一般的に、約1〜3重量%のスクラロース−6−エステル、約0.1〜0.5重量%のDMF、約80〜90重量%の水、および約8〜12重量%の塩(NaClとして表される、ナトリウムおよび塩化物アッセイに基づく)からなる。典型的な実験室条件下では、これは、7〜10分のカラム滞在時間を必要とし、急冷された塩素化供給物のpHが、中性ないし弱酸性(pH5.0〜7.0)であるならば、スクラロース−6−エステルの分解は、検出可能ではない。
【0022】
類似の条件は、急冷および脱アシル化された反応媒質からDMFを水蒸気蒸留するために使用し得る。他の三級アミド除去技術を使用し得ることも、本開示の範囲内である。上述した水蒸気蒸留および特定の装置および手順は、例示に過ぎず、限定ではない。
【0023】
脱アシル化方法のための供給混合物が三級アミド反応媒質中にあるかまたは三級アミドがこの溶液から除去されているかどうかにかかわらず、本発明の脱アシル化方法は、制御された条件下でスクラロース−6−エステルを脱アシル化して、従来の脱アシル化技術と比較して、スクラロース収率が増大され、かつ/またはスクラロース収率を低下させる分解反応の開始が遅く、かつ/または脱アシル化副産物の産生が低下されてスクラロースを生成する。上で示した通り、従来の脱アシル化手順は、約11±1のpHに限定され、室温で行われた。塩基性材料の付加によって引き起こされる、脱アシル化反応の開始時の迅速な温度上昇に起因して、温度制御が行われない反応では、反応温度は、少なくとも約35℃まで上昇すると考えられている。室温での周囲空気との相互作用に起因して、反応温度は、その後時間が経つにつれて低下し、反応の間の推定平均温度は少なくとも25℃となる。図1は、pHが11.5であり温度が25℃である制御された条件下での脱アシル化反応について、時間の関数としてスクラロース収率を図示する。それに対して、図2は、pHが13.5であり温度が25℃である制御された条件下での脱アシル化反応のスクラロース収率を図示する。
【0024】
図1〜5はそれぞれ、pHおよび温度が制御された条件下で実施される脱アシル化反応でのスクラロース収率を表す。各反応の詳細は、実施例として下記に提供される。pHおよび温度制御の詳細も同様に下記に提供される。pHおよび温度を許容される程度に制御するために、任意の適切なプロセスを使用し得る。理解されるように、pHと温度との間には均衡が存在し、その結果、温度をより大きく制御すると、pHがより小さく制御され得る。同様に、温度をより小さく制御すると、脱アシル化反応のpHのより大きい制御が必要とされ得る。後述の、そして図1〜5中に示される実施例などの、本発明の方法のいくつかの態様では、pHは、pH設定値から0.05以内に制御され、温度は、温度設定値から0.1℃以内に制御される。
【0025】
本発明の方法の産業用途では、異なるレベルの制御を実行し得る。例えば、バッチ反応における反応容器の平均温度、または、反応器中(例えば連続流反応器中)の特定の位置での温度は、温度設定値の1.0℃以内に制御され得る。同様に、pHは、pH設定値の0.5以内に制御され得る。理解され得るように、反応媒質のpHの正確な測定は、測定される組成物が、水および三級アミドDMFなどの、混合型の水性/非水性溶媒を含む場合、複雑になり得る。本明細書で使用される場合、そして本明細書に記載されている方法では、測定されるpHは、厳密には以下である:
【0026】
【数1】

。したがって、pHは、通常通り測定用セルの較正を水性の緩衝液中で行い、混合された溶媒のpHを測定し、さらなる調整も較正も行うことなくpHの読取りを記録することによって測定され得る。
【0027】
図1および図2から分かり得るように、脱アシル化反応のpHを上昇させることによって、より低いpHでの16時間以上と比較して、反応速度は著しく増大し、約1時間後に最大収率となる。産業プロセスでは一般に、運転経費を低下させるために、反応速度を増大させることが望ましいが、図2は、反応が過度に進行する場合、スクラロース収率が実際に低下することを図示する。理論に束縛されないが、ピーク収率時間を超えたスクラロース収率の低下は、高いpHでのスクラロースの様々な脱アシル化副産物(3’,6’無水スクラロースを含めた)への分解に起因すると考えられている。最大収率またはピーク収率時間の位置は、図2では比較的短く、これは、スクラロースの収率を最大にするように設計された産業プロセスまたは実験室プロセスを複雑にする。通常、反応の進行は、定期的なサンプリング、また、反応のピーク収率の時点を決定する分析によってモニタリングされる。分析手順単独でも、完了するまでに、数十分から最高1時間、またはそれ以上を費やす可能性がある。したがって、最大収率の時点を特定し、収率が低下する前に反応を停止させることが困難であるので、30分程度よりもピーク収率時間が短い脱アシル化反応は、不都合に短い。
【0028】
このように、図1と図2との比較によって、所望のスクラロースの所望でない脱アシル化副産物への変換を低下させるために、pHは慎重に制御されるべきであることが示唆される。したがって、例えばVernonら(米国特許第6,890,581号)によって開示されるものなど、脱アシル化反応を緩衝するための、急冷された塩素化反応媒質への緩衝剤の添加を含めて、脱アシル化反応のpHを、8.0〜12.0のpH範囲に安定化させる様々な方法が開示されている。しかし、脱アシル化反応物への緩衝剤の添加は、スクラロースをさらに希釈し、スクラロースの回収をさらに複雑にする。
【0029】
本発明の開示によるスクラロース−6−エステルのスクラロースへの変換は、緩衝剤を必要とすることなく、脱アシル化反応溶液を能動的に冷却することによって、より大きなpH範囲で実施し得る。脱アシル化反応中に能動的に冷却することは、より高いpH範囲を含めた、より広いpH範囲にわたる脱アシル化、および、スクラロース−6−エステルのスクラロースへのより多くの変換を可能にする一方で、他の望ましくない塩素化された糖(脱アシル化副産物など)への変換を制限し、三級アミドの分解も制限する。
【0030】
供給混合物(三級アミドの除去の前または後の急冷された塩素化生成物など)は、脱アシル化およびスクラロースの産生をもたらすために、温度制御された環境で、pHが少なくとも約11に上げら得る。本発明の開示の方法は、反応媒質のpHと反応媒質の温度の両方によって反応速度が制御された脱アシル化反応を提供する。後述するように、高いpHは、脱アシル化反応の速度、およびスクラロースが様々な脱アシル化副産物に変換される速度を増大する。さらに、以下では、能動的冷却は、スクラロースの脱アシル化副産物への変換を遅らせることによって、脱アシル化反応速度を制限すること、さらに、ピーク収率時間を延長することが示されている。
【0031】
実験室環境では、温度は、いくつかの方法で能動的に冷却することによって、例えば氷浴または他の従来の冷却技術を介して制御され得る。同様に、より大規模な適用では、脱アシル化反応中の能動的冷却は、並流もしくは向流システムまたは他の従来の熱交換もしくは温度制御システムによって提供され得る。ある例示的な構造では、ジャケット付き反応容器は、反応腔を少なくとも部分的に取り囲むジャケットを有する。ジャケットの温度は、反応媒質を所定の温度範囲まで能動的に冷却するために制御され得る。ジャケットの温度は、ジャケットを通して伝熱流体を循環させることによって制御され得る。さらに、あるいは代わりに、他の熱交換または温度制御の構成要素または特徴を用いることも可能である。いずれのシナリオでも、能動的冷却装置は、所定の温度範囲で脱アシル化反応を維持するように設定され得る。能動的冷却装置がない場合、脱アシル化反応溶液の温度は、周囲環境を含めたいくつかの要因(すなわち反応溶液とその周辺の室温空気との相互作用)、および/または反応溶液内に発生する1つまたは複数の化学反応(酸/塩基反応など)の反応の熱によって上昇し得る。供給混合物の組成およびpHを上げるために使用される塩基の組成などの反応条件に応じて、多かれ少なかれ冷却効果を提供し、反応媒質の温度を所定の範囲以内に維持するために、能動的冷却システムが必要とされ得る。
【0032】
特定の脱アシル化反応中に提供される冷却の実際の量は、反応の開始条件;溶液中の1つまたは複数の反応に対する反応物の推定されるかまたは実際の熱;反応前または反応中の反応物の、推定される、平均の、または実際のpH;周囲温度;反応の完了のために所望される時間量;ならびに/あるいはスクラロースの変換および/または純度の所望のレベルに、少なくともある程度基づき得る。本発明の開示の方法によって必要とされる能動的冷却の量には、他の要因も影響を与え得る。適切な熱交換システムまたは能動的冷却システムは、脱アシル化が、バッチ反応として実施されるかまたは連続反応として実施されるかにかかわらず、反応の過程中の所望の反応温度を維持するように設定され得る。
【0033】
脱アシル化反応を開始させると、(周囲環境から、1つまたは複数の反応から、あるいは他の供給源から)反応溶液に加えられる熱量は、反応の進行につれて経時的に変化し得る。したがって、本開示のいくつかの態様では、提供される能動的冷却の量は、脱アシル化反応の溶液のpHおよび/または進行に関連し得る。他の実施形態では、脱アシル化反応溶液に提供される能動的冷却の量は、所定のパターンまたはモデルに従って経時的に変化し得る。さらに他の実施形態では、提供される能動的冷却の量は、脱アシル化反応全体を通して一定であり得る。脱アシル化反応の様式(すなわちバッチプロセスまたは連続流プロセス)に応じて、能動的冷却システムは、例えば、所望の反応温度を維持するために、1つまたは複数のストリームの流速を増減することによって、あるいは、さらなる冷却剤を提供することによって反応媒質に提供される能動的冷却の量に対して、手動または自動の制御を実現するように適宜に改変され得る。
【0034】
溶液のpHと溶液の能動的冷却との均衡をとって最適な反応条件を提供し得ることは、本開示の範囲内にある。溶液のpHおよび/または溶液に提供される能動的冷却の量を測定および/または制御するための様々なシステムおよび方法は、本開示の範囲内にある。例示的であるが限定的でないシステムは、本明細書に記載されている。
【0035】
例えば、脱アシル化反応媒質の、または、反応媒質を冷却するために使用される熱交換流体の温度は測定され得る。反応媒質および/または熱交換流体の温度の変化がモニタリングおよび相関づけされて、反応の速度、反応溶液のpH、および/または必要とされる冷却の量が決定され得る。さらに、あるいは代わりに、反応溶液のpHが連続的または定期的に測定され得、これは、反応システムの能動的冷却の必要性および/または必要とされるpH調整を決定するために、少なくともある程度使用され得る。さらに、pHおよび温度を直接的にモニタリングし、その結果を用いて、提供される能動的冷却の量を制御し、そして反応媒質に加えられる酸および/または塩基の量を制御して、反応媒質の温度およびpH設定値をそれぞれ所定の範囲内に維持し得る。
【0036】
さらに、あるいは代わりに、温度は、測定された温度のみに基づいて制御されて、反応の標的pHによって定められ得る所定の範囲内に維持され得る。例えば、脱アシル化反応を所定の温度範囲内(例えば約0℃から約25℃)で行い得、そして能動的冷却を適用して反応媒質の温度を所定の範囲に保ち得る。さらに、能動的冷却を適用して、反応媒質の温度を温度設定値から所定の範囲内に保ち得る。本明細書に述べる通り、所望の所定の温度範囲および/または温度設定値は、反応の所望の速度、ピーク収率時間の所望の期間、所望の純度、および反応の計画されたpHまたは標的pHなどの、いくつかの要因に依存し得る。
【0037】
能動的冷却によって、いくつかの反応pH条件に対しても、単一の標的反応温度または温度範囲を維持できることは、本発明の開示の範囲内である。例えば、約12から約14までの範囲のpHでの反応に対しては、約17.5℃に維持される能動的冷却反応が適切であり得る。しかし、比較的低い反応温度が、比較的低いpHと組み合わせられると、反応が長くかかりすぎて実質的または商業的に妥当でない点まで、脱アシル化反応が減速され得る。同様に、比較的高い反応温度が、比較的高いpHと組み合わせられると、ピーク収率時間が短くなり、回収可能なスクラロース収率が低下し得る。反応温度と反応pHとの間の均衡は、本明細書に述べる通りの多くの状況に応じて変化し得、適切な均衡の選択は、本開示の範囲内にある。pHと温度との例示的な組み合わせは、本明細書に記載されており、そして他の適切な組み合わせも実行可能である。
【0038】
例示的な例として、約13.5と約14.0との間などの、より高いpH範囲で起こる脱アシル化反応については、約5℃と約10℃との間などの、より低い温度範囲が選択され得る。同様に、単なる非限定的な例として、約12.0と約13.5との間などの、比較的低いpH範囲で起こる脱アシル化反応については、約17.5℃と約25℃との間などの比較的高い温度範囲が選択され得る。
【0039】
図3は、以下に詳細に論じる実施例2および実施例3の反応を図示する。概して、図3は、pHが約13.5の反応媒質中で、様々な温度で行われる脱アシル化反応の、時間の関数としてのスクラロース収率を図示する。図3は、能動的冷却によって、反応がより制御可能になることを図示する。反応温度を低下させると反応は遅くなり、その結果、より長い時間をかけて最大収率に到達する。したがって、ピーク収率時間は延長され、これによって、最大収率の特定および反応の制御が容易になり、最大収量より少ない何らかの量ではなく最大収量が回収される。
【0040】
図3はまた、10℃への能動的冷却が、他の温度での収率よりも、そして(図1に図示される)25℃、pH11.5での収率よりもスクラロースの収率を増大させることを図示する。理論に束縛されないが、分解反応が低温条件によって所望の脱アシル化反応よりもより大きく阻害されるので、収率が増大し、これにより、より多くのスクラロースが生成され、そして所望でない脱アシル化副産物をもたらすことなく、完全なままで残り得ると現在考えられている。5℃での反応は、10℃での収率よりもさらに高い収率を提供することが可能である。図3に示される10時間よりも長く反応を延長することも可能であり得るが、こうした長時間の反応時間は、遅いスループットおよび/または延長された反応時間に適応するために必要な増大された能力を提供するために必要とされる余分な設備支出に起因して、産業規模に対しては概して望ましくない。
【0041】
しかし、高いpHと能動的冷却との組み合わせは、最大収率に到達する反応時間に対してかなりの程度の制御を可能にすることは明らかである。さらに、ピーク収率時間を延長させて、反応がスクラロースの最大収率である時点の特定を容易にし得る。したがって、より低い反応温度により、反応が可能である最大収率を達成することと、より低い反応温度に必要とされる必要な機器および反応時間を提供するための費用との間の経済的な均衡を考慮して、任意の特定の目的のための最適条件の選択を行い得る。例えば17.5℃で得られる収率などの、最大収率よりもわずかに低い収率が、経済的に、10℃または5℃のより長い反応時間よりも好ましいかもしれない。しかし、スクラロースの市場価格に応じて、あるいは、可能な中で最も高いスクラロース収率を得るために、5℃またはさらに低温に反応温度を下げることによって反応時間を延長することが、経済的に好ましいかもしれない。
【0042】
脱アシル化反応をまた、約13.0のpHにおいて様々な温度で行った。結果を図4に示す。図示するように、反応のpHを下げることによって、予想通り、反応が減速した。しかし、反応を25℃で行う場合、ピーク収率時間は、収率が3時間の時点の直後に低下を開始することによって示されるように、相対的に見てさらに短い。したがって、能動的冷却の適用は、反応が最大収率の近くに維持されるピーク収率時間を延長するために好ましい。本明細書で用いられる場合、ピーク収率時間とは、その反応のスクラロース収率が、収率が低下し始める前に得られ得る最大収率のかなり近くに、例えば最大収率の5%以内にある時間量をいう。産業規模では、ピーク収率時間を延長することにより、最適の時間で反応を停止する、より良い可能性が与えられるだろう。図4に示す通り、反応物を17.5℃に冷却することにより、25℃での反応と比較して、ピーク収率時間が延長される。さらに図4に図示する通り、約13.0の反応pHにて反応物を約10℃まで能動的に冷却することにより、約13.5のpHにて5℃で反応を行うのと同様、反応は著しく減速する。上で述べた通り、反応温度およびpH条件は、経済的に所望の反応時間中に経済的に所望の収率を得るために、適合またはカスタマイズされ得る。
【0043】
脱アシル化反応における温度とpHとの間の関係をさらに図示するために、約12.5pHにて2つの異なる温度で脱アシル化反応を実施した。結果を図5に図示する。見てわかり得るように、反応時間が遅くなり、ピーク収率時間が延長されるという傾向が継続される。しかし、より高いpHでも、より低い温度でそうであるように、pH12.5での脱アシル化反応は、17.5℃および25℃の温度で、ゆっくりと進行した。
【0044】
図3、図4および図5は、一緒になって、脱アシル化反応の経過、特に、最大収率までの時間、ならびにピーク収率時間の持続時間にわたる細かい制御を可能とするpHと温度との間の相互作用が存在することを例示している。この相互作用は、pH13.5で5℃、pH13.0で10℃、およびpH12.5で17.5℃といった様々な条件下での反応によって示される、ほぼ同一の経過によって例示される。
【0045】
したがって、様々なpHおよび温度の条件を選択して、最大収率までの好都合な時間を達成することが可能である。しかし、スクラロースの収率を最大にし、最適の瞬間で反応を停止するのを容易にするためにピーク収率時間を延長し、そして過度に遅延させずに完了させ得る程度に十分に反応が迅速であることを確実にすることを同時におこなう条件に対する優先度が存在する。pHおよび温度の例示的であるが限定的でない組み合わせは、13.5pHで10℃、または13.0pHで17.5℃などの反応条件について例示される。
【0046】
さらに、あるいは代わりに、本開示の範囲内の方法は、反応の過程において反応条件を変えることを含み得る。例えば、反応の最初の段階で、比較的高いpHが、比較的高い温度と組み合わせられ、それに続いて、ピーク収率時間を延長するために、温度および/またはpHが変えられ得る。例えば、反応の最初の2〜3時間にわたって17.5℃の温度かつpH13.5で反応を開始し、その後10℃への能動的冷却を介して温度を低下させ得る。反応条件のこうした変化は、スクラロースを生成するために、(より高い温度で)脱アシル化を上手く加速させる一方、最大収率を低下させ、かつピーク収率時間を短くする分解反応を上手く遅らせ得る。経済的に実現可能である反応時間中に最大の収率を達成するために、様々な時間量に対する温度とpHとの様々な組み合わせを実行し得る。
【0047】
上記の能動的冷却システムおよび方法は、例えば上述の明細書本文中に示唆されるように、スクラロース−6−エステルが、反応pHを上昇させることによって脱アシル化されること以外は標準的な脱アシル化反応に適用され得る。三級アミドの除去の前であるか後であるかに関係なく、スクラロース−6−エステルは、脱アシル化を遂行するのに十分な時間にわたって上で述べた通りに反応媒質を能動的に冷却しながら、反応媒質のpHを少なくとも約11というpHに上昇させることによって脱アシル化され得るが、この工程は一般的に、pHを所望のレベルに上昇させるために、十分なアルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム)を撹拌しながら加えることによって行われる。ある種の用途では、pHは、約12と約14との間の範囲にわたり得る。さらに、あるいは代わりに、pHは、約12.5と約13.5との間の範囲にわたり得る。
【0048】
約0℃と約25℃との間の反応温度が有用であり、約5℃と約17.5℃との間の温度がより有用であり、約10℃と約17.5℃との間の温度がより有用であることが判明している。上記においてより詳細に述べた通り、より有用な反応温度は、反応pHに応じて変化し得る。反応時間は、反応pHおよび反応温度によって変化する。しかし、本発明の開示の範囲内の、温度とpHとの均衡がとれた脱アシル化反応では、反応時間は、30分程度の短時間および48時間程度の長時間であり得る。約30分と約24時間との間の反応時間であれば、所望のスクラロース収率、およびピーク収率時間の所望の期間に応じて、約5℃と約25℃との間の反応温度、かつ約12.5と約13.5との間のpHが有用であることが判明している。
【0049】
脱アシル化の終わりに、通常、存在する塩基を塩酸の添加によって約5〜7のpHに中和する。中和後、水性反応媒体は、スクラロース、塩(上述の通り、それに加えてすぐ上に記述した中和工程によって生成される塩)、および他の塩素化されたスクロース副産物(塩素化副産物および脱アシル化副産物など)を含有している。
【0050】
脱アシル化反応および中和に続いて、スクラロースは、様々な有機溶媒を用いたブライン水溶液の抽出によって単離され得る。これらの溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、塩化メチレン、クロロホルム、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテルなどが挙げられる。抽出選択性、リサイクルの容易さ、および毒物的な安全性の理由により、好ましい溶媒は、酢酸エチルである。
【0051】
実験室では、スクラロース単離は一般的に、中和された粗製の脱アシル化反応生成物を、最初に部分的に蒸発させることによって行われる。場合によっては存在する水の約半分を除去し得、約2〜5重量%の糖質および約15〜25重量%の塩を含有する溶液を生じ得る。単離は通常、酢酸エチルまたは他の適切な溶媒を用いた3回の連続した抽出を行うことによって実施される。抽出物を合わせ、場合によっては水で洗浄する(残留する任意のDMFおよびジクロロジデオキシスクロース誘導体を部分的に除去し、これを、ある程度まで有機相に分配させる)ことが可能である。
【0052】
上記で概説したバッチ抽出技術に加えて、抽出は、向流ミキサー/沈降機抽出システム中で、希釈した(蒸発によって濃縮されたのではない)ストリームに対して連続的に実行され得る。この利点は、従来の蒸発−濃縮工程が必要とされないことである。様々な適切な向流抽出技術は、他の適切な抽出技術と同様、当該技術分野で知られている。
【0053】
一旦、粗製スクラロースを適切な有機溶媒中の溶液としてブライン水溶液から回収したら、これを濃縮し、その生成物を、必要とされる純度に達するまで、結晶化および同じ溶媒からの再結晶によって精製し得る。あるいは、スクラロースを、メタノール−酢酸エチルなどの溶媒混合物から、あるいは水から結晶化させて、所望の純度レベルを達成し得る。向流方式で溶媒−水混合物間でスクラロースを連続的に分配することも、精製を実現し得、同様に、直接的な液体充填プロセスの可能性を広げる(すなわち、材料の単離は必要ではなく、必要な規格を有する最終のプロセスストリームが、使用のために直接的に包装される)。
【0054】
上述の精製/回収プロセス(すなわち、抽出とそれに続く結晶化)の別の注目すべき態様は、抽出工程と精製工程のために、同じ溶媒を使用できることである。一般的に(すなわち、他の化学材料を用いた場合に)、精製されるべき化学生成物が、それを抽出するために使用されるのと同じ溶媒から結晶化されることは稀である。しかし、本発明の場合は、希釈剤と比較的低レベルの不純物との組み合わせにより、スクラロースが抽出中に溶液に残ることが可能になり、その後、抽出されたスクラロースを含有する溶液を濃縮した後、スクラロース生成物を同じ溶媒から結晶化させ得る。
【0055】
能動的冷却下での脱アシル化反応によって生じるスクラロースは、いくつかのプロセスで単離され得る。さらに、収率の増大、高い純度、および他の塩素化された糖質の濃度の低下に起因して、スクラロースの単離のために、新規のプロセスが開発され得る。さらに、あるいは代わりに、本明細書に述べる通りに能動的に冷却することを伴う脱アシル化反応によって生じるスクラロースの単離のために、他の状況で使用される既知のプロセスも有効であることが判明し得る。本発明の開示に従って、スクラロース−6−エステルから変換されたスクラロースを単離するために、1つまたは複数の任意のこうした様々な単離技術が使用され得ることは、本開示の範囲内にある。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
200mgのスクラロース−6−アセテートを、9gの50%w/w DMF/水に溶解し、これに、クロマトグラフィの内部標準である安息香酸ナトリウムを50%w/w DMF/水に溶解したストック溶液1g(正確に秤量された)を加えた。この溶液を、精度±0.1℃の自動温度制御コントローラを介して閉鎖循環中にポンプ輸送される伝熱流体を循環させたガラスジャケットで壁を囲った容器に入れた。容器の内容物を終始撹拌し、内部の溶液温度およびpHをモニタリングした。溶液温度を25±0.1℃に調節し、粗い調整用の、1モル水酸化ナトリウムを50%w/w DMF/水に溶解したものと、微調整用の、0.1モル水酸化ナトリウムを50%w/w DMF/水に溶解したものを使用して、pHを11.5±0.05に調節した。反応全体を通してpHをモニタリングし、0.1モル水酸化ナトリウムを50%w/w DMF/水に溶解したものを少量加えて、pHを11.5±0.05に一定に保持した。
【0057】
サンプルを定期的に取り出し、10%v/v酢酸水溶液を用いて溶液を中和することによって、反応を停止させた。放出されたスクラロースの量を決定するためにHPLCによって分析されるまで、中和されたサンプルを0〜5℃で保管した。HPLC分析の結果を、理論上の最大モル収率に対する割合として表される、放出されたスクラロースの量として、時間の関数として図1に示す。
【0058】
(実施例2)
実施例1の手順を、pH13.5で繰り返し、スクラロースの収率およびスクラロース−6−アセテートの残留量を、HPLCによって様々な時点で決定した。結果を図2に示す。図2から、脱アシル化が、pH11.5よりもpH13.5で、より速やかに起こることがわかり得る。スクラロースに完全に変換されないにもかかわらず、スクラロース−6−アセテートが速やかに消耗されること、および、すべてのスクラロース−6−アセテートが消費されるのとほぼ同時にスクラロース収率が最大に到達することも明白である。この最大の収率点の後、スクラロースの収率は低下する。スクラロース収率の低下は、スクラロースが高いpHで、3’,6’無水スクラロースを含めた様々な脱アシル化副産物に分解することに起因すると考えられている。HPLCによって分析すると、この脱アシル化の反応生成物は、3’,6’無水スクラロースの標品と同じ保持時間をもつ物質を含むことが示された。
【0059】
(実施例3)
冷却された熱伝達液体を反応容器のジャケットを通して循環させることによって反応の温度を17.5±0.1℃に保持すること以外は、実施例2の手順を繰り返した。スクラロースの収率を、HPLCによって様々な時間で決定した。実施例3の手順を、10±0.1℃および5±0.1℃の温度でさらに繰り返した。実施例2および3の手順の結果を、図3に共にプロットして示す。
【0060】
(実施例4)
pHを13.0±0.05に調節し、反応の温度を、それぞれ25、17.5、および10℃(各±0.1℃)に維持して、実施例2の手順を3回繰り返した。スクラロースの収率を、HPLCによって様々な時間で決定した。結果を図4に示す。
【0061】
(実施例5)
pHを12.5±0.05に調節し、反応の温度を、それぞれ25および17.5℃(各±0.1℃)に維持して、実施例2の手順を2回繰り返した。スクラロースの収率を、HPLCによって様々な時間で決定した。結果を図5に示す。
【0062】
上記で述べた開示は、独立した有用性をもつ複数の異なる発明を包含すると考えられる。これらの発明をそれぞれ、その好ましい形態で開示しているが、本明細書で開示および例示するものとしての本発明の特定の実施形態は、非常に多くの変形が可能であり、限定的に考えられるべきものではない。発明の対象には、本明細書で開示される様々な要素、特徴、機能、および/または特性のすべての新規かつ非自明の組み合わせおよび部分的組合せが含まれる。同様に、請求項が、「1つの(a)」または「第1の(a first)」要素またはその同等物を列挙する場合、こうした請求項は、1つまたは複数のこうした要素の組み込みを含み、2つ以上のこうした要素を必要としないし、除外もしないと理解されるべきである。
【0063】
請求項は、特に、開示される発明のうちの1つを対象とし、かつ新規かつ非自明であるある種の組み合わせおよび部分的組合せを示すと考えられる。特徴、機能、要素および/または特性の、他の組み合わせおよび部分的組合せに包含される発明は、存在する請求項の補正または本出願または関連出願における新規の請求項の提示を通して主張され得る。こうした補正された請求項または新規の請求項はまた、それが、異なる発明を対象とするか、同じ発明を対象とするかどうかに関係なく、もともとの請求項と範囲が異なるか、より広いか、より狭いか、または等しいかどうかに関係なく、本開示の発明の主題に含まれると考えられる。
【0064】
本発明を、前述の作動原理および好ましい実施形態を参照して示し、説明してきたが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な形態および細部の変更が行われ得ることは、当業者には明白である。本発明は、添付の特許請求の範囲に含まれるすべての代替形態、修正形態、および変形形態を包含するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、pHおよび温度が制御された条件下で実施される脱アシル化反応でのスクラロース収率を表す。
【図2】図2は、pHおよび温度が制御された条件下で実施される脱アシル化反応でのスクラロース収率を表す。
【図3】図3は、pHおよび温度が制御された条件下で実施される脱アシル化反応でのスクラロース収率を表す。
【図4】図4は、pHおよび温度が制御された条件下で実施される脱アシル化反応でのスクラロース収率を表す。
【図5】図5は、pHおよび温度が制御された条件下で実施される脱アシル化反応でのスクラロース収率を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三級アミドを含む反応物媒質中の、(a)スクラロース−6−エステル、(b)アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物を含めた塩、(c)水、および(d)他の塩素化されたスクロース副産物の供給混合物中のスクラロース−6−エステルを脱アシル化する方法であって、
該反応媒質を所定の温度範囲まで能動的に冷却する工程;
該反応媒質を能動的に冷却し続けて該反応媒質の温度を所定の温度範囲に維持しながら該反応媒質のpHを少なくとも約11というpHまで上昇させて、脱アシル化反応を開始して、スクラロース、アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物を含めた塩、水、および他の塩素化されたスクロース副産物を含む溶液を生成する工程;ならびに
該反応媒質のpHを中和する工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記反応媒質が、約0℃から約25℃までの温度範囲まで能動的に冷却される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応媒質が、約5℃から約17.5℃までの温度範囲まで能動的に冷却される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応媒質が、約10℃から約17.5℃までの温度範囲まで能動的に冷却される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記反応媒質が、約0℃から約25℃までの温度範囲内の温度設定値まで能動的に冷却され、前記脱アシル化反応全体を通して該温度設定値から1℃以内に維持される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記反応媒質が反応容器に配置され、前記反応媒質が該反応容器を冷却することによって能動的に冷却される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記反応媒質のpHを少なくとも約11というpHまで上げると、前記脱アシル化反応によってスクラロース−6−エステルがスクラロースに変換されて、経時的に変化するスクラロース収率がもたらされ、該脱アシル化反応によって、ピーク収率時間中に最大スクラロース収率がもたらされ、この時間中のスクラロース収率は、最大スクラロース収率の少なくとも実質的に近くにあり、反応が続くにつれて、スクラロース収率の減少が続き、該反応媒質の所定の温度および該反応媒質のpHが、ピーク収率時間を延長するように選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ピーク収率時間が、約1時間と約3時間との間まで延長される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記反応媒質のpHを中和する工程が、前記ピーク収率時間中に行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記反応媒質のpHが、約12.5と約13.5との間のpHに上げられ、該反応媒質の温度が、約5℃と約25℃との間の温度に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記反応媒質の温度が、約10℃と約17.5℃との間の温度に維持される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記スクラロース−6−エステルが、1種類または複数種類のスクラロース−6−アセテートおよびスクラロース−6−ベンゾエートから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記反応媒質のpHを中和した後に、該反応媒質から前記三級アミドを除去する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
スクラロース−6−エステルを脱アシル化する方法であって、
三級アミドを含む反応媒質中にスクラロース−6−エステル、アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物を含めた塩、水、および他の塩素化されたスクラロース副産物の供給混合物を含有する反応容器を提供する工程;
該反応容器に熱的に接続された熱交換システムを提供する工程;
該熱交換システムを制御して、該反応媒質を所定の温度範囲まで能動的に冷却することを達成する工程;
該反応媒質を能動的に冷却し続けて温度を所定の温度範囲に維持しながら該反応媒質に塩基を加えて該反応媒質のpHを少なくとも約11というpHまで上昇させて、脱アシル化反応を開始して、スクラロース、アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物を含めた塩、水、および他の塩素化されたスクロース副産物を含む溶液を生成する工程;ならびに
該反応媒質のpHを中和する工程
を包含する、方法。
【請求項15】
前記反応媒質を能動的に冷却する工程が、熱交換システムを介して伝熱流体を循環させることを包含する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記反応媒質が、約0℃から約25℃までの温度範囲まで能動的に冷却される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記反応媒質が、約5℃から約17.5℃までの温度範囲まで能動的に冷却される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記反応媒質が、約10℃から約17.5℃までの温度範囲まで能動的に冷却される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記反応媒質が、約0℃から約25℃までの温度範囲内の温度設定値に能動的に冷却され、前記脱アシル化反応全体を通して該温度設定値から1℃以内に維持される、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記反応媒質のpHを少なくとも約11というpHまで上げると、前記脱アシル化反応によってスクラロース−6−エステルがスクラロースに変換されて、経時的に変化するスクラロース収率がもたらされ、該脱アシル化反応によって、ピーク収率時間中に最大スクラロース収率がもたらされ、この時間中のスクラロース収率は、最大スクラロース収率の少なくとも実質的に近くにあり、反応が続くにつれて、スクラロース収率の減少が続き、該反応媒質の所定の温度および該反応媒質のpHが、ピーク収率時間を延長するように選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記ピーク収率時間が、約1時間と約3時間との間まで延長される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記反応媒質のpHを中和する工程が、ピーク収率時間中に行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記反応媒質のpHが、約12.5と約13.5との間のpHまで上げられ、前記反応媒質の温度が、約5℃と約25℃との間の温度に維持される、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
前記反応媒質の温度が、約10℃と約17.5℃との間の温度に維持される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記スクラロース−6−エステルが、1種類または複数種類のスクラロース−6−アセテートおよびスクラロース−6−ベンゾエートから選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項26】
前記反応媒質のpHを中和した後に、該反応媒質から前記三級アミドを除去する工程をさらに包含する、請求項14に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2008−542370(P2008−542370A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−514615(P2008−514615)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【国際出願番号】PCT/US2005/034871
【国際公開番号】WO2006/130169
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(507395061)ヘルシー ブランズ, エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】