説明

スクラロース及び他の塩素化炭水化物の生分解のための微生物共同体

塩素化炭水化物を分解することが可能な単離微生物共同体、並びに微生物を特定の温度及び塩条件下で塩素化炭水化物を分解するように順化させる方法が記載される。廃棄物流中の塩素化炭水化物を分解するために微生物共同体を使用する方法も記載される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
スクロースから作られる高甘味度甘味料であるスクラロース(4,1’,6’−トリクロロ−4,1’,6’−トリデオキシガラクトスクロース)は、多くの食品用途及び飲料用途で使用することができる。
【0002】
【化1】

【0003】
スクラロース調製のための多数の異なる合成経路が開発されているが、これらの経路では、6位の反応性ヒドロキシルが初めにアシル基でブロックされ、スクロース−6−アシレートが形成される。次いで、スクロース−6−アシレートが塩素化され、4位、1’位、及び6’位のヒドロキシルが置換されて、4,1’,6’−トリクロロ−4,1’,6’−トリデオキシガラクトスクロース−6−アシレート(スクラロース−6−アシレート)が生じ、続いて加水分解によってアシル置換基が除去され、それによりスクラロースが生じる。スクロース−6−アシレート形成のための幾つかの合成経路は、スズ媒介アシル化反応を伴い、その具体例は特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、及び特許文献5(全て参照により本明細書中に援用される)に開示されている。
【0004】
様々な塩素化剤をスクロース−6−アシレートを塩素化するために使用することができるが、最も一般的にはアーノルド試薬等のビルスマイヤー型の塩が使用される。好適な塩素化プロセスの一つがWalkupら(特許文献6)によって開示されているが、このプロセスでは、第三級アミド、典型的にはN,N−ジメチルホルムアミド(「DMF」)が塩素化反応溶媒として使用される。塩素化が完了した後、反応混合物はアルカリ水溶液で中和され、スクラロース−6−アシレートの2位、3位、3’位、及び4’位のヒドロキシル基が再生され、これにより塩素化試薬の反応による第三級アミド溶媒及び塩とともに、水溶液中にスクラロース−6−アシレートが生じる。次いで、スクラロース−6−アシレートが脱アシル化され、スクラロースが生じる。好適なプロセスの一つは、Naviaら(特許文献7(その開示全体が参照により本明細書中に援用される))によって教示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,950,746号明細書
【特許文献2】米国特許第5,023,329号明細書
【特許文献3】米国特許第5,089,608号明細書
【特許文献4】米国特許第5,034,551号明細書
【特許文献5】米国特許第5,470,969号明細書
【特許文献6】米国特許第4,980,463号明細書
【特許文献7】米国特許第5,498,709号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スクラロース合成時には通常、様々な塩素化炭水化物化合物が形成される。これらの化合物を化学的に脱塩素化して、容易に生分解される廃棄物を得ることができる。しかしながら、化学的脱塩素化は典型的には、続く廃棄物の生分解に悪影響を及ぼす可能性がある高温及び苛性溶液の使用を必要とする。塩素化炭水化物を分解するための、より費用効率が高く且つ環境に優しい方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、塩素化炭水化物を分解することが可能な単離微生物共同体であって、塩素化炭水化物を含む培地中で増殖又は生存し、且つ塩素化炭水化物を分解する、単離微生物共同体を提供する。
【0008】
本発明は、単離微生物共同体であって、スクラロースの製造において生じる廃棄物流中の塩素化炭水化物を分解することが可能である、単離微生物共同体をさらに提供する。
【0009】
塩素化炭水化物を分解する方法であって、a)塩素化炭水化物を含有する培地に、塩素化炭水化物を分解することが可能な単離微生物共同体を接種する工程、及びb)微生物共同体を培地において培養する工程を含む、方法も提供される。
【0010】
塩素化炭水化物を分解することが可能な微生物共同体を開発する方法であって、a)微生物を含有する環境試料を準備する工程、b)試料中の微生物を、1つ又は複数の有機溶媒を含む規定培地において培養する工程であって、インキュベーションの温度が約15℃〜約55℃であり、且つ培地の塩化物塩濃度が約4.5%以下である工程、c)工程b)後に培地中に存在する、有機溶媒の1つ又は複数を分解する微生物共同体を選択する工程、d)続いて、選択された共同体の培地を、塩素化炭水化物を含む培地と交換する工程、及びe)培地を塩素化炭水化物の分解に関してモニタリングすることによって、塩素化炭水化物を分解する共同体を選択する工程を含む、方法がさらに提供される。
【0011】
スクラロースを製造する方法であって、a)水性溶媒中のスクラロース−6−アシレートを含む溶液を、スクラロース−6−アシレートの実質的に全てを脱アシル化するのに十分な条件下で維持する工程、b)続いて、スクラロースを回収する工程、並びにc)脱アシル化後に存在する塩素化炭水化物を、i)塩素化炭水化物を含む溶液に、塩素化炭水化物を分解する単離微生物共同体を接種する工程、及びii)微生物共同体を溶液において培養する工程を含む方法によって分解する工程を含む、方法がさらに提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】45℃及び4.5%の塩を含む培養条件への共同体P−4の順化に関する、塩及び温度の傾斜(ramping)曲線を示す図である。
【図2A】スクラロース製造プロセスの異なる段階で生じる2つの廃棄物流における、全塩素化炭水化物の生分解を示す図である。廃棄物流1における共同体P−3及びP−4による全塩素化炭水化物の生分解を示す。
【図2B】スクラロース製造プロセスの異なる段階で生じる2つの廃棄物流における、全塩素化炭水化物の生分解を示す図である。廃棄物流2における共同体P−5、P−6及びP−7による全塩素化炭水化物の生分解を示す。
【図3】合成培地における共同体P−4及びP−6による4−クロロ−ガラクトースの生分解を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
微生物を廃棄物流中に見られ得る塩素化炭水化物を分解するように順化させる方法が記載される。この方法は、塩素化炭水化物を分解するために使用することのできる微生物共同体を作製するために利用されてきた。これらの共同体は、2008年1月11日にTate & LyleのDr. Chi-Li Liuによって、アクセッション番号NRRL B−50091、NRRL B−50092、NRRL B−50093、NRRL B−50094、NRRL B−50095、NRRL B−50096、NRRL B−50097、及びNRRL B−50098として米国立農業利用研究センター北部地域研究所(Peoria,IL)に寄託されており、実施例3に記載されている。これらの微生物共同体は、食物成分(複数可)、温度、塩濃度等の或る特定のパラメータ、又はこれらのパラメータの組み合わせが生存及び生分解に関する選択圧をもたらす環境において、共存するように適応した微生物種の群を含有する。微生物共同体を生分解に用いることによって、塩素化炭水化物を化学的に脱塩素化する必要性を減少させるか、又はさらには完全に回避することができる。
【0014】
本明細書中において、「微生物」は、細菌及び単細胞真核生物等の顕微鏡でしか見えない生物(微生物(microbes, microorganisms))を包含する。微生物の「増殖」とは、微生物の生存又は任意の再生と規定される。「共同体」は、単一の培養物中に存在する2つ以上の微生物種の群である。「培養物」は、増殖培地及び2つ以上の微生物の群を含有する単一のバイオリアクターを指す。「廃棄物流」とは、製造プロセスにおいて生じる、製造プロセスへと再循環するか、又は有用な産物として回収することができない化合物を含有する培地である。
【0015】
順化のための微生物を含有する環境試料は、塩素化炭水化物が存在する可能性のある産生箇所、例えば廃液、スラッジ及びセジメント等の廃堆積物(waste deposits)、並びに産生箇所付近の土壌から得ることができる。微生物を含有する環境試料は、廃棄物流の組成及び温度を再現した合成培地において培養することによって、所望の性能に関して強化及び順化されている。これらの条件は概して、0重量%〜4.5重量%、より典型的には1%〜4.5%の塩化物塩、及び15℃〜55℃の温度を含む。合成培地は、酵母エキス(窒素、アミノ酸及びビタミン源)及び糖(炭素源)等の微生物の食物源、並びに微生物の増殖に重要な無機塩(例えばカルシウム、ナトリウム、リン酸塩、硫酸塩等)及び微量元素(例えばFe、Mn、Ni、Mo、Co、Se等)を含有する。試料中に存在する種々の微生物の生存及び増殖は、初期の食物源、塩化物塩濃度、及び温度条件に依存する。一実施形態では、微生物の培養物は約27℃〜約50℃の温度で培養され、培地の最終的な塩化物塩濃度は約4.5%以下である。塩分はアルカリ金属、アルカリ土類金属、及び遷移金属を含む、任意の塩化物塩、例えばNaCl、CaCl、MgCl、MnCl等、及び塩化アンモニウム又は塩化物塩の組み合わせから構成され得る。培地のpHを調整して、廃棄物流の生分解に関して条件を最適化することができる。
【0016】
実施例1及び実施例2では、特定の温度及び塩濃度で増殖するように順化させた微生物共同体を開発及び選択する方法の一つを説明する。概して、塩素化炭水化物を分解する可能性を有する微生物を含有する環境試料は、バイオリアクターにおいて、塩素化炭水化物源である廃棄物流中に通常見られる有機成分、溶媒、及び酸を含有する合成培地中で培養される。例えば、一実施形態では、塩素化炭水化物源はメタノール、エタノール、リン酸、ジメチルアミンHCl(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、及びジメチルアセトアミド(DMAc)の1つ又は複数も含有する、スクラロース製造プロセスからの廃棄物流である。培地の温度及び塩濃度は、段階的に徐々に上昇させる。概して、微生物は初めに特定の温度に順化させ、次に所望の温度に維持しながら特定の塩濃度に順化させる。温度又は塩濃度の上昇の各工程で、培養培地を有機成分の分解に関してモニタリングする。培養物が所与の温度又は塩濃度で培地中の全ての有機成分を分解することが可能である場合、温度又は塩濃度をさらに上昇させる。このプロセスを最終的な所望の温度及び塩濃度に達するまで繰り返す。順化プロセスの長さは温度、塩濃度、及び培地中の有機化合物を分解することが可能な微生物の濃度に依存する。
【0017】
次いで、合成培地中の全ての有機成分を分解することが可能な培養物を、塩素化炭水化物、例えば廃棄物流を含有する培地に導入し、実施例3に記載されるように塩素化炭水化物を分解する能力に関してモニタリングする。塩素化炭水化物を含有する培地は、直接添加してもよく、又は合成培地と組み合わせて漸増濃度で徐々に導入してもよい。各々の培養物について、選択された温度及び塩条件を維持する。特定の温度及び塩条件下で1つ又は複数の塩素化炭水化物化合物を分解することが可能な培養物は、各々共同体を形成する。共同体中に存在する微生物の正確な同定は任意である。実施例1〜実施例3に記載される方法を用いて、塩素化炭水化物を分解することが可能な8つの微生物共同体を選択し、NRRLに寄託した。各々の共同体に対するアクセッション番号、並びに温度及び塩条件を表1に挙げる。
【0018】
【表1】

【0019】
塩素化炭水化物の生分解に関しては、これらの化合物を含有する培地(例えば廃棄物流)に、その培地において見られる温度及び塩条件下で塩素化炭水化物を消化することが可能な微生物共同体を接種する。塩素化炭水化物としては、塩素化単糖類、二糖類、三糖類、多糖類又はオリゴ糖類が挙げられるが、これらに限定されない。使用される共同体は、それが分解する塩素化炭水化物の種類に関して選択され得るか、又は特定の温度又は塩条件下での生分解を最適化するように選択され得る。インキュベーション条件は、特定の種類の培地における塩素化炭水化物の分解を最適化するように選択され得る。
【0020】
微生物共同体は塩素化炭水化物を分解し、好ましくは1つ又は複数の塩素化炭水化物を分解するように順化されている。好ましくは、微生物共同体は、スクラロース及び/又はスクラロース以外の少なくとも1つ若しくは少なくとも2つの塩素化炭水化物を分解する。スクラロース以外の塩素化炭水化物としては、ジ塩素化二糖類(好ましくは4,1’−ジクロロガラクトスクロース、4,1’−ジクロロ−3’,6’−アンヒドロガラクトスクロース、4,6’−ジクロロガラクトスクロース、1’,6’−ジクロロスクロース、及び6,6’−ジクロロスクロースから選択される)、トリ塩素化二糖類(好ましくは4,1’,6’−トリクロロスクロース、4,6,6’−トリクロロガラクトスクロース、及び6,1’,6’−トリクロロスクロースから選択される)、及びテトラ塩素化二糖類(好ましくは4,1’,4’,6’−テトラクロロタガトガラクトスクロース及び4,6,1’,6’−テトラクロロガラクトスクロースから選択される)が挙げられる。
【実施例】
【0021】
1.規定の塩及び温度条件で増殖する微生物共同体の選択
バケツ型バイオリアクターを、7.5ガロン容NALGENE(登録商標)プラスチック目盛り付き円筒形タンクから作製した。水槽用エアーストーンによって培地に空気を供給した。空気流量(L/分)をロータメーターによって制御した。温度調節器によってデジタル制御されたPro−Heat 200ワットICチタン水槽用ヒーターを用いて、バイオリアクターを加熱した。酸ポンプを制御するよう直接接続したMettler TOLEDO(登録商標)pH2100e調節計によって、培地のpHをHSOを用いて7.0に維持した。培地の浸透は、バイオリアクターの両側に取り付けられた2つのL字型ステンレス鋼管(一方が培養液の入口であり、一方がバイオマスの出口である)によって達成された。ポンプに接続された、XM−50膜又はPM−100膜のいずれかを含有する中空糸カートリッジによってバイオマスと浸透物とを分離した。
【0022】
各々のバイオリアクターを秤量し、重量をモニタリングし、蒸発分を補うように脱イオン水を添加することによって維持した。
【0023】
初期環境試料を、McIntosh(Alabama)のスクラロース製造廃水処理設備からの溜めます(basin)のセジメントから採取した。試料を、酢酸ナトリウム(7.05g/L)、ギ酸ナトリウム(3.16g/L)、スクロース(7.6g/L)、酵母エキス(0.01g/L)、ジメチルアミンHCl(0.272g/L)、ジメチルホルムアミド、99%(0.25ml/L)、ジメチルアセトアミド、99%(0.125g/L)、メタノール、99%(0.165ml/L)、エタノール、99%(0.04ml/L)、リン酸、85%(0.165ml/L)、及び水酸化アンモニウム、29%(0.225ml/L)から成る合成培地において培養した。培地のpHをNaOHを用いて7.0に調整した。10L容バイオリアクターに対して、この合成培地5Lを4LのHOで希釈し、1Lの環境試料(溜めますのセジメント及び溜めますの水)をバイオリアクターに添加した。バイオリアクターを初めは27℃の温度に維持した。
【0024】
培地における有機塩、溶媒、及びスクロースの分解を24時間毎にモニタリングした。3日間連続して約24時間以内に全ての培地成分が消費された(分解された)場合に、微生物は順化されたと見なした。その後、温度を時間とともに27℃から、32℃、37℃、45℃、50℃へと段階的に上昇させた。各々の段階で、微生物を新たな温度で24時間以内に全ての培地成分を分解するよう再度「順化させた」。この手順を所望の温度に達するまで継続した。45℃より高い温度については、生分解を維持するために、温度上昇をさらに時間をかけて(温度上昇間を6週間以上空ける)生じさせることが必要であった。
【0025】
共同体を所望の温度に順化させた後、合成培地の濃度を50%から100%へと10%刻みで徐々に上昇させた。塩(塩化物)濃度は合成培地の濃度の上昇とともに上昇し、100%の合成培地はおよそ4.5%の塩化物塩を含有していた。培地の各バッチにおける塩化物レベルを測定して、NaClを用いて調整し、1%、2%、3%、又は4.5%の塩化物塩を含有する培地を作製した。培地における有機成分の分解を下記に記載されるようにモニタリングし、微生物を新たな塩化物塩及び合成培地濃度の各々に対して順化させた。共同体P−4に関する塩及び温度の傾斜曲線の一例を図1に示す。
【0026】
最終的な所望の温度及び塩濃度に対する共同体の完全な順化には、約1ヶ月(低温又は低塩濃度)〜約6ヶ月(高温且つ高塩濃度)が必要であった。
【0027】
2.培地中の有機物を分解する微生物共同体の選択
実施例1に記載されるプロセス全体を通して、バイオリアクター培養物を培地における有機成分の分解に関して、概して液体クロマトグラフィー又はガスクロマトグラフィーによってモニタリングした。所望の温度及び塩濃度で一貫して、7日〜10日間合成培地中の全ての有機成分を分解することが可能なバイオリアクター培養物を、スクラロース廃棄物流への順化のために選択した。
【0028】
3.塩素化炭水化物を分解する微生物共同体の選択
実施例2に記載されるプロセスによって選択されたバイオリアクターを、初めに塩素化炭水化物を化学的に脱塩素化したスクラロース廃棄物流に曝露したが、この工程は順化手順に必須ではない。脱塩素化は、廃棄物流試料のpHをNaOHを用いて12まで上昇させること、溶液を1時間沸騰させること、次いでpHをHClを用いて7.5〜8.0まで低下させることから成っていた。脱塩素化炭水化物を含有する溶液を、合成培地に10%刻みで徐々に導入し、微生物を各々の上昇に対して順化させた。微生物が培地中の全ての有機成分を完全に分解する能力を示した時点で、脱塩素化炭水化物培地の割合が高くなった。
【0029】
100%脱塩素化炭水化物溶液中で7日〜10日間安定化させた後、共同体に塩素化炭水化物を含有する生スクラロース廃棄物流を供給した。廃棄物流成分を添加することで、脱塩素化炭水化物溶液中の塩素化炭水化物をおよそ1500ppmとした。スクラロース製造プロセスの異なる工程に由来する2つの廃棄物流のうち、一方を培養物に供給した。スクラロース廃棄物流の供給(時点0)の前(ベースライン)及び後、並びに漸増時間でのスクラロース廃棄物流の微生物共同体とのインキュベーションの時点で、バイオリアクター培地中に存在する塩素化炭水化物をHPLC解析によって測定した。塩素化炭水化物を含有するスクラロース廃棄物流成分は、各々のバイオリアクター溶液に一度だけ添加した。バイオリアクター溶液中に存在する塩素化炭水化物のレベルを毎日測定した。
【0030】
塩素化炭水化物の生分解を示す8つのバイオリアクター培養物を、NRRLに寄託する共同体として選択した。これらの微生物共同体は、廃棄物流培地中に維持するか、又は15%グリセロールを含有する残りの培地において−80℃で保管することができる。これら8つの共同体に関する温度及び塩化物塩のパラメータを表1に示す。図2は共同体P−3及びP−4(図2A)、並びに共同体P−5、P−6及びP−7(図2B)による2つの廃棄物流における全塩素化炭水化物の生分解の進行を示す。
【0031】
4.スクラロース製造廃棄物流中の塩素化炭水化物を分解するための共同体の使用
廃棄物流への曝露前(ベースライン)、及び曝露後の漸増時間での共同体培養物中の塩素化炭水化物の組成を表2及び表3に示す。共同体P−3及びP−4に関して、廃棄物流1においてはおよそ82%の塩素化炭水化物、廃棄物流2においてはおよそ47%〜53%の塩素化炭水化物が7日間で分解された。
【0032】
表2及び表3中のジ塩素化二糖類としては、4,1’−ジクロロガラクトスクロース、4,1’−ジクロロ−3’,6’−アンヒドロガラクトスクロース、4,6’−ジクロロガラクトスクロース、1’,6’−ジクロロスクロース、及び6,6’−ジクロロスクロースが挙げられるが、これらに限定されない。トリ塩素化二糖類としては、4,1’,6’−トリクロロスクロース、4,1’,6’−トリクロロガラクトスクロース、4,6,6’−トリクロロガラクトスクロース、及び6,1’,6’−トリクロロスクロースが挙げられるが、これらに限定されない。テトラ塩素化二糖類としては、4,1’,4’,6’−テトラクロロタガトガラクトスクロース及び4,6,1’,6’−テトラクロロガラクトスクロースが挙げられるが、これらに限定されない。ペンタ塩素化炭水化物も分解されると考えられる。第2の廃棄物流は共同体によって同様に分解されるさらなる化合物を含有していた。これらの化合物は未だ同定されておらず、さらなる塩素化炭水化物を含んでいる可能性がある(データは示さない)。
【0033】
図3に示されるように、微生物共同体は合成培地に添加した4−クロロガラクトースも同様に分解したため、モノ塩素化単糖類も分解可能であることが実証される。
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
本発明の好ましい実施形態を本明細書中に示し、説明したが、かかる実施形態は一例としてのみ与えられることを理解されたい。当業者であれば、本発明の精神から逸脱することなく多数の変形形態、変更形態、及び代替形態を思い付くであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、かかる変形形態の全てを本発明の精神及び範囲内にあるものとして包含することが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素化炭水化物を分解することが可能な単離微生物共同体であって、塩素化炭水化物を含む培地中で増殖又は生存し、且つ該塩素化炭水化物の1つ又は複数を分解する、単離微生物共同体。
【請求項2】
前記培地が、スクラロース製造プロセスにおいて生じる廃棄物流を含む、請求項1に記載の単離微生物共同体。
【請求項3】
アクセッション番号NRRL B−50091、NRRL B−50092、NRRL B−50093、NRRL B−50094、NRRL B−50095、NRRL B−50096、NRRL B−50097、及びNRRL B−50098から成る、NRRLに寄託された微生物共同体の群から選択される、請求項1に記載の単離微生物共同体。
【請求項4】
前記培地が約4.5%以下の塩化物塩を含む、請求項1に記載の単離微生物共同体。
【請求項5】
前記培地が約1%〜約4.5%の範囲の塩化物塩を含む、請求項4に記載の単離微生物共同体。
【請求項6】
前記培地において、約15℃〜約55℃の範囲の温度で増殖又は生存することが可能である、請求項1に記載の単離微生物共同体。
【請求項7】
前記培地において、約27℃〜約50℃の範囲の温度で増殖又は生存することが可能である、請求項6に記載の単離微生物共同体。
【請求項8】
単離微生物共同体であって、スクラロースの製造において生じる塩素化炭水化物を分解することが可能である、単離微生物共同体。
【請求項9】
スクラロースを分解することが可能である、請求項1又は8に記載の単離微生物共同体。
【請求項10】
スクラロース以外の少なくとも1つの塩素化炭水化物を分解することが可能である、請求項1、8、又は9に記載の単離微生物共同体。
【請求項11】
ジ塩素化二糖類、スクラロース以外のトリ塩素化二糖類、及びテトラ塩素化二糖類から成る群から選択される、少なくとも1つの塩素化炭水化物を分解することが可能である、請求項10に記載の単離微生物共同体。
【請求項12】
アクセッション番号NRRL B−50091、NRRL B−50092、NRRL B−50093、NRRL B−50094、NRRL B−50095、NRRL B−50096、NRRL B−50097、及びNRRL B−50098から成る、NRRLに寄託された微生物共同体の群から選択される、請求項8に記載の単離微生物共同体。
【請求項13】
塩素化炭水化物を分解する方法であって、
a)前記塩素化炭水化物を含有する培地に請求項1に記載の単離微生物共同体を接種する工程、及び
b)前記単離微生物共同体を前記培地において培養する工程
を含む、方法。
【請求項14】
塩素化炭水化物を分解する方法であって、
a)前記塩素化炭水化物を含有する培地に、該塩素化炭水化物の1つ又は複数を分解することが可能な単離微生物共同体を接種する工程、及び
b)前記微生物共同体を前記培地において培養する工程
を含む、方法。
【請求項15】
前記培地が、スクラロース製造プロセスにおいて生じる廃棄物流を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記塩素化炭水化物がスクラロース製造プロセスにおいて生じる、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記微生物共同体がスクラロースを分解することが可能である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記微生物共同体が、スクラロース以外の少なくとも1つの塩素化炭水化物を分解することが可能である、請求項14又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記微生物共同体がジ塩素化二糖類、スクラロース以外のトリ塩素化二糖類、及びテトラ塩素化二糖類から成る群から選択される、少なくとも1つの塩素化炭水化物を分解することが可能である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記培地の塩化物塩濃度が約4.5%以下である、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記培地が約1%〜約4.5%の範囲の塩化物塩を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記培地の温度が約15℃〜約55℃の範囲である、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
前記培地の温度が約27℃〜約50℃の範囲である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記塩素化炭水化物がモノ塩素化単糖類、モノ塩素化二糖類、ジ塩素化二糖類、トリ塩素化二糖類、テトラ塩素化二糖類、及びペンタ塩素化二糖類から成る群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
塩素化炭水化物を分解することが可能な微生物共同体を開発する方法であって、
a)微生物を含有する環境試料を準備する工程、
b)前記試料中の微生物を、1つ又は複数の有機溶媒を含む規定培地において培養する工程であって、インキュベーションの温度が約15℃〜約55℃であり、且つ該培地の塩化物塩濃度が約4.5%以下である工程、
c)工程b)後に前記培地中に存在する、前記有機溶媒の1つ又は複数を分解する微生物共同体を選択する工程、
d)続いて、前記選択された共同体の前記培地を、前記塩素化炭水化物を含む培地と交換する工程、及び
e)前記培地を前記塩素化炭水化物の分解に関してモニタリングすることによって、該塩素化炭水化物を分解する共同体を選択する工程
を含む、方法。
【請求項26】
スクラロースを製造する方法であって、
a)水性溶媒中のスクラロース−6−アシレートを含む溶液を、該スクラロース−6−アシレートの実質的に全てを脱アシル化するのに十分な条件下で維持する工程、
b)続いて、前記スクラロースを回収する工程、並びに
c)脱アシル化後に存在する塩素化炭水化物を、
i)前記塩素化炭水化物を含む溶液に、請求項1に記載の単離微生物共同体を接種する工程、及び
ii)前記微生物共同体を前記溶液において培養する工程
を含む方法によって分解する工程
を含む、方法。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2011−514808(P2011−514808A)
【公表日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−550716(P2010−550716)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【国際出願番号】PCT/US2009/033531
【国際公開番号】WO2009/114224
【国際公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(509178806)テート アンド ライル テクノロジー リミテッド (17)
【Fターム(参考)】