説明

スクリュープレス型汚泥脱水装置、及びその運転方法

【課題】脱水ケーキの含水率を所定の目標含水率に維持しながら、装置が閉塞することなく運転できるスクリュープレス型汚泥脱水装置、及びその運転方法を提供することを目的とする。
【解決手段】円筒状ろ過体3内に回転自在に、且つ該ろ過体3に対して相対的に軸方向に前後にスライド自在に配置されたスクリュー軸5を備え、汚泥101を脱水して脱水ケーキ102として脱水ケーキ排出口6から排出するスクリュープレス型汚泥脱水装置の運転方法において、スクリュー軸5の回転軸に接合されているスクリュー羽根4の半径方向の先端が円筒状ろ過体3のろ過面との間で接触又は微小のクリアランスを形成している部分の一部又は全部の位置が円筒ろ過体3からみて相対的に軸方向に移動しないように軸回転数及び軸方向スライド速度を設定した上で、スクリュー軸の回転及び軸方向スライドを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥等の懸濁液に凝集剤を添加し、凝集し生成した凝集フロックを脱水するスクリュープレス型汚泥脱水装置、及びその運転方法に関し、特に下水処理場や各種排水処理設備において発生する汚泥に高分子凝集剤等を添加、混合し生成した凝集汚泥をスクリュープレスで脱水する際に、スクリュープレス内に発生する汚泥閉塞を抑制すると共に、汚泥閉塞が生じてしまった場合に、この汚泥閉塞状態を速やかに解消できるスクリュープレス型汚泥脱水装置、及びその運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、汚泥等の懸濁液に凝集剤を添加し、凝集して得られた凝集フロック(汚泥)をスクリュープレスを備えたスクリュープレス型汚泥脱水装置により脱水する設備において、汚泥の性状の変化や季節的な脱水環境の変化に伴って汚泥の脱水性がたえず変化する。このように汚泥の脱水性が変化する条件下でスクリュープレスにより脱水処理を行うと、脱水されてスクリュープレスから排出される脱水ケーキの含水率も変動する。スクリュープレス型汚泥脱水装置において、スクリュープレス内のケーキの含水率が変化し、特に脱水が進行し過ぎて非常に低い含水率となった場合、ケーキがスクリュー軸に固着してスクリュープレス内に留まる場合がある。このスクリュー軸に固着したケーキはスクリュープレスの実質的ケーキ流路を小さくしケーキ排出口から排出される脱水ケーキ量を減少させ処理速度の低下をもたらす場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−34774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記スクリュープレスを備えたスクリュープレス型汚泥脱水装置において、スクリュープレスは、通常円筒状のろ過体の内部の回転軸にスクリュー羽根を螺旋状に接合した構成のスクリュー軸を回転自在に配置した構成である。このスクリュー軸のスクリュー羽根の先端が円筒状のろ過体と接触(又は略接触)している部分は常にろ過体内面の螺旋状の線である。この螺旋状の接触線はスクリュー軸が回転することで見かけ上軸方向に平行移動する。ろ過体内の固形物はこの螺旋状の接触線の平行移動に伴って出口方向に移動する。スクリュープレス内のケーキの脱水が進行し低含水率化が進み内圧が高まると、スクリュー軸とろ過体に挟まれたケーキのスクリュー軸とろ過体の両方の間で発生する摩擦力及び付着力が大きくなる。
【0005】
この時、スクリュープレス内のケーキの円筒状ろ過体とケーキの間に生じる摩擦力や付着力がいくら大きくてもケーキはろ過体の内側に固着したままにならず、必ずスクリュー羽根が回転し前述した「螺旋状接触線」がその位置まで回転してくると該スクリュー羽根によってケーキは剥離される。一方、スクリュープレス内ケーキのスクリュー軸側との間で発生する摩擦力及び付着力が大きくなりすぎると、ケーキはスクリュー軸に固着してしまいスクリュープレス内を移動しなくなる。この状態がさらに進行し、仮にスクリュー軸と円筒状のろ過体の間の間隙部分の全てがスクリュー軸側に固着したケーキで埋まってしまうと、ろ過体の内部はスクリュー軸の羽根と羽根の間の間隙が全てケーキで埋まった1本の円柱状の棒のようになり、完全にスクリュー軸のケーキ搬送能力を失う(閉塞状態)ことになる。このような状態なることを「共廻り現象」という。この「共廻り現象」が発生すると、当然のことながら、スクリュープレス型汚泥脱水装置の汚泥の処理能力は失われてしまう。
【0006】
従来のスクリュープレス型汚泥脱水装置では、スクリュープレスのスクリュー軸とケーキの共廻り現象を防止する適当な方法はなく、含水率の低下を抑制したり、ケーキの排出量が減少した時点でテーパーコーンを開けてケーキの排出を促したりして「共廻り現象」の発生を防止するしかなく、手遅れの場合は、スクリュープレス型汚泥脱水装置の運転を停止し、スクリュープレスのろ過体を解体して、スクリュー軸に付着したケーキを除去するのが現状であった。
【0007】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、脱水ケーキ含水率を所定の目標含水率に維持しながら、装置が閉塞することなく運転できるスクリュープレス型汚泥脱水装置、及びその運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、円筒状ろ過体内に回転自在に、且つ該ろ過体に対して相対的に軸方向に前後にスライド自在に配置されたスクリュー軸を備え、汚泥を脱水して脱水ケーキとして排出するスクリュープレス型汚泥脱水装置の運転方法において、スクリュー軸の回転軸に接合されているスクリュー羽根の半径方向の先端が円筒状ろ過体のろ過面との間で接触又は微小のクリアランスを形成している部分の一部又は全部の位置が円筒状ろ過体からみて相対的に軸方向に移動しないように軸回転数及び軸方向スライド速度を設定した上でスクリュー軸の回転及び軸方向スライドを行うことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記スクリュープレス型汚泥脱水装置の運転方法において、円筒状ろ過体のろ過面上の少なくとも1箇所からろ過面内側の固形物移動ゾーン内に向けて突起物を必要に応じて出し入れすることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、円筒状ろ過体内に回転自在に、且つ該ろ過体に対して相対的に軸方向に前後にスライド自在に配置されたスクリュー軸を備え、汚泥を脱水して脱水ケーキとして排出するスクリュープレス型汚泥脱水装置において、スクリュー軸の回転軸に接合されているスクリュー羽根の半径方向の先端が円筒状ろ過体のろ過面との間で接触又は微小のクリアランスを形成している部分の一部又は全部の位置が円筒状ろ過体からみて相対的に軸方向に移動しないように軸回転数及び軸方向スライド速度を設定する設定手段を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記スクリュープレス型汚泥脱水装置において、円筒状ろ過体のろ過面上の少なくとも1箇所からろ過面内側の固形物移動ゾーン内に向けて突起物を任意のタイミングで自在に出し入れする突起物出し入れ手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明は、上記のようにスクリュー軸のスクリュー羽根の半径方向の先端が円筒状ろ過体のろ過面との間で接触又は微小のクリアランスを形成している部分の一部又は全部の位置が円筒状ろ過体からみて相対的に軸方向に移動しないように軸回転数及び軸方向スライド速度を設定した上で、スクリュー軸の回転及び軸方向スライドを行うことにより、スクリュー軸側とケーキの摩擦力が小さくなり、スクリュー軸側に固着又は固着しそうなケーキは一旦剥離して固着面のズレが生じ、そのまま剥離したケーキは出口まで移送され「共廻り現象」を回避できる。これは、あたかもナットからボルトを回転して引抜くようスクリュー軸を回転しながらスライドさせることで、スクリュー軸のスクリュー羽根の羽根と羽根の間のケーキは円筒状ろ過体との摩擦力を保持しながらケーキとスクリュー軸との摩擦力は相対的に小さくなり、ケーキとスクリュー軸の付着箇所の縁が切れ易くなることに相当する。
【0013】
また、このことは、木材にネジ込んだビスをドライバーで回転させながら、引き抜くと木材のネジ溝を潰さずビスを引き抜くことができるが、ビスを釘抜き等で無理矢理引き抜くとビスのネジ溝に切り取られた木材が詰まった状態の棒状のビスを引き抜くことに相当する。即ち、螺旋状のネジ溝に沿って回転しながら引き抜く「ネジ戻しスライド」をスクリュープレスのスクリュー軸に行うことにより、ケーキをなるべく現状の位置に留まらせつつスクリュー軸を軸方向に移動させることが可能になり、汚泥とスクリュー軸の縁が切れる。
【0014】
また、本発明は上記のように、円筒状ろ過体のろ過面上の少なくとも1箇所からろ過面内側の固形物移動ゾーン内に向けて突起物を必要に応じて出し入れすることにより、該突起物はスクリュープレス内のケーキの内部に打ち込まれ、突起物近傍のケーキと突起物との間に大きな摩擦力を生じ、スクリュー軸と共廻りしていたケーキは突起物に引っ張られるようにしてスクリュー軸側から剥離する。この時同時にスクリュー軸を上記「ネジ戻しスライド」させてケーキ出口の反対方向にスライドさせることにより、スクリュー軸はネジ戻しされるネジのように羽根と羽根の間にケーキを置き去りにしながらケーキ出口と反対方向に移動する。これらの動作により「共廻り現象」は解除されることになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、スクリュー軸のスクリュー羽根の半径方向の先端が円筒状ろ過体のろ過面との間で接触又は微小のクリアランスを形成している部分の一部又は全部の位置が円筒状ろ過体からみて相対的に軸方向に移動しないように、スクリュー軸の軸回転数及び軸方向スライド速度を設定した上でスクリュー軸の回転及び軸方向スライドを行うことにより、脱水ケーキの含水率を所定の値に維持しながら、スクリュープレス型汚泥脱水装置を閉塞させることなく(ケーキの「共廻り現象」を発生させることなく)、また発生した閉塞を速やかに解除して汚泥の脱水処理が可能となる。
【0016】
また、本発明は、円筒状ろ過体のろ過面上の少なくとも1箇所からろ過面内側の固形物移動ゾーン内に向けて突起物を必要に応じて出し入れすることにより、発生したケーキの「共廻り現象」を解除、又は発生しようとするケーキの共廻り現象を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るスクリュープレス型汚泥脱水装置の概略構成を示す図である。
【図2】ケース(1)の従来例と実施例1、2の脱水運転結果を示す図である。
【図3】ケース(2)の従来例と実施例1、2の脱水運転結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。図1は本発明に係るスクリュープレスを備えたスクリュープレス型汚泥脱水装置の概略構成を示す図である。図示するように、本スクリュープレス型汚泥脱水装置はスクリュープレス1を備えている。該スクリュープレス1は、円筒状のろ過体3と、回転軸5aに螺旋状にスクリュー羽根4を接合したスクリュー軸5を備えている。ろ過体3の一端部に汚泥101が投入されるホッパ2aを備えた汚泥供給部2が設けられ、ろ過体3の他端部に脱水ケーキ102が排出される脱水ケーキ排出口6が設けられている。スクリュー軸5の回転軸5aは脱水ケーキ排出口6に向かってある傾斜角で軸径を大きくした軸である。該スクリュー軸5の回転軸5aの脱水ケーキ排出口6側端部には該回転軸5aと同心円状のテーパーコーン7が設けられている。なお、図中の網目のハッチを付した部分はスクリュー羽根4の無いプラグゾーン12である。
【0019】
9はスクリュー軸5を回転する駆動装置であり、該駆動装置9の回転駆動力は図示しないスプロケット及びチェーンを介してスクリュー軸5の回転軸5aに伝達される。10はスクリュー軸5を軸方向に摺動させるための油圧駆動装置(油圧シリンダ)であり、11はテーパーコーン7を矢印C方向に移動させて開閉するためのテーパーコーン駆動装置である。スクリュー軸5はろ過体3内に配置され、駆動装置9からの回転力を受けて回転するようになっており、更に油圧駆動装置10のスライド力を受けて矢印A、Bに示すようにスライドするようになっている。
【0020】
上記構成のスクリュープレス型汚泥脱水装置において、駆動装置9でスクリュー軸5を回転させ、汚泥供給部2のホッパ2aに汚泥101を供給することにより、該汚泥101は回転するスクリュー羽根4に押圧され、ろ過体3とスクリュー羽根4とにより圧縮力を受けながら脱水ケーキ排出口6に向かって移動する。この圧縮力により汚泥101中の液は脱水ろ過液103となって、ろ過体3の外に排出される。この脱水によって含水率が減少した汚泥(ケーキ)は脱水ケーキ102となって脱水ケーキ排出口6からスクリュープレス1外に排出される。なお、17、18はろ過体3内のX1、X2点の圧力P1、P2を検出する圧力計である。
【0021】
し尿系汚泥等は各種汚泥の中でも比較的繊維分が多く脱水性が高い場合が多い。それらの汚泥を上記構成のスクリュープレス1で脱水すると、回転数を0.3回転/min以下、脱水ケーキ排出口6の開度を50mm以下とする場合、機内の内圧は0.5MPa以上となり、排出される脱水ケーキ102の含水率は65%以下となる場合がある。このような運転条件でスクリュープレス型汚泥脱水装置の運転を継続した場合、スクリュープレス1内にケーキが閉塞してしまい上記「共廻り現象」が生じる場合がある。一旦共廻り現象が発生してしまうと通常のスクリュープレス1では対処が困難であり、脱水ケーキ排出口6の開度を全開にし、スクリュー軸5の軸回転数を大幅に増加し、洗浄工程を頻繁に行う等の処置を行う場合が多い。
【0022】
上記の処置をしてもスクリュープレス1内に固着したケーキを排出できない場合は、スクリュープレス1自体を解体(ろ過体3を外して)してスクリュー軸5内のケーキを人力で掻き出すしか方法がない。そこでここでは上記「共廻り現象」を解除する1つの手段として、スクリュー軸5を軸方向に任意にスライドさせる油圧駆動装置10を設けている。該油圧駆動装置10でスクリュー軸5を軸方向にスライドさせることによって、スクリュープレス1内の最も硬いケーキ層が生成されている脱水ケーキ排出口6の近傍のケーキを物理的に排出するようにしている。更にこの「共廻り現象」の解除の効果を高め、脱水ケーキの更なる低含水率化と「共廻り現象」の発生防止又は解除を同時に満足させている。
【0023】
上記ケーキの「共廻り現象」を生じさせない又は生じてしまった時にスクリュー軸5から、ケーキを剥離させるには、ケーキとスクリュー軸5側との摩擦をできるだけ小さくする動作をスクリュー軸5に与える必要がある。スクリュー軸5側に固着又は固着しそうなケーキは一旦剥離して固着面のズレが生じればそのまま剥離したケーキは脱水ケーキ排出口6まで移送され、「共廻り現象」が解除される可能性がある。そこでここでは、油圧駆動装置10により、スクリュー軸5を軸方向の所定区間(図1の実線で示す位置と点線で示す位置の間)を脱水ケーキ排出口6側方向と汚泥供給部2側方向の2方向にスライドさせることを可能にしている。このスクリュー軸5のスライド動作は、スクリュー軸5を正回転又は逆回転させながら行うことも軸回転を停止した状態で行なうことも可能である。
【0024】
ここで、スクリュー軸5はその回転軸5aにスクリュー羽根4が螺旋状に溶接されており、羽根と羽根のピッチ、及び軸回転数の2つの条件が決ればスクリュー軸5の軸スライド速度を調節することにより、前述した「ネジ戻しスライド」にて軸をスライドさせることが可能である。この「ネジ戻しスライド」工程を定期的に行うことにより、その都度スクリュー軸5に固着しているケーキが一旦剥離するため、ケーキ閉塞(「共廻り現象」)の発生頻度は大幅に低下し、「共廻り現象」を気にせずにより低含水率化を目指したスクリュープレス型汚泥脱水装置の運転が行える。
【0025】
例えば、あるし尿系汚泥を直径600mmのスクリュープレス1で脱水し、脱水ケーキ102の含水率を70%未満で運転する必要が有る場合は、1回/2〜4時間、又はスクリュー軸5の軸トルク値10〜16kNm以上、機内圧力(図1の圧力計P1の検出圧力)が400〜700kPa以上でスクリュー軸5を150〜400mmの間隔で1往復させることにより、「共廻り現象」を発生させずに約250kg/hの処理速度を維持しつつ、脱水ケーキ含水率70%以下を満足するスクリュープレス型汚泥脱水装置の運転を継続させることが可能である。
【0026】
また、直径600mmのスクリュープレス1を使用した上記例において、脱水ケーキ102の含水率をより低含水率化する場合において、例えば含水率60%程度の脱水ケーキ102を得るように運転する場合は、プラグゾーン12の長さやテーパーコーン7の開度を調節することにより機内圧力が1000kPa以上となり低含水率化を進行させるが、この時「共廻り現象」等が原因と思われる処理速度の低下が見られる場合がある。この状況において、突起物挿入機構(突起物出し入れ機構)13、14を作動させて突起物15、16をろ過体3の外側からろ過体3内側のケーキ中に挿入する。
【0027】
上記のように「共廻り現象」はスクリュープレス1の機内ケーキが円筒状のろ過体3よりもスクリュー軸5側に強く固着することにより発生するが、機内ケーキがろ過体3の方からより強い摩擦力を受けることができればスクリュー軸5と一体化して回転せずにスクリュー軸5側との縁が切れ排出口の方に移動する確率が高くなる。上記のように、突起物挿入機構13、14により突起物15、16をろ過体3内側のケーキ中に挿入することにより、突起物15、16の近傍のケーキは突起物15、16との間で大きな摩擦力を生じスクリュー軸5と共廻りしていたケーキは該突起物15、16に引っ張られるようにスクリュー軸5から剥離されやすくなる。
【0028】
この時同時にスクリュー軸5を油圧駆動装置10により上記「ネジ戻しスライド」させて脱水ケーキ出口6の反対方向にスライドさせることにより、スクリュー軸5はネジ戻しされたビスのようにスクリュー羽根4の羽根と羽根の間のケーキを置き去りにしながら脱水ケーキ出口6とは反対軸方向に移動する。これらの動作により発生した「共廻り現象」は解除され、また発生しそうな「共廻り現象」を回避できる。この突起物15、16を挿入する「突起物挿入」と「ネジ戻しスライド」をタイマー設定により適宜行うことにより「共廻り現象」を事前に防止することも可能であり、機内圧力、軸トルク、軸スラスト荷重等の値の変化により共廻り発生及び発生の可能性を検知し、一定の条件に達した場合に上記「突起物挿入」+「ネジ戻しスライド」の操作を行うことも有効である。
【0029】
円筒状のろ過体3の内面と機内ケーキの摩擦力を大きくする方法としては、ろ過体3の内面の凹凸を増す等の処置が考えられるが円筒型内面の起伏を大きくすることは同時にスクリュー羽根4の先端にも起伏を与える処置を施すか、又はスクリュー羽根4とクリアランスを大きくする処置を施さないとスクリュー軸5の回転によりろ過体3の内面を常に回転しながらスクレープし(削り落し)クリーニングしているスクリュー軸5の先端(円筒状のろ過体3と接近する螺旋接触部分)部分により機械的に干渉することになる。よって、当然のことながら、ろ過体3の内面に定常的に突起物が存在すると回転してくるスクリュー軸5と接触するのでそのような突起物を常時設置することはできない。しかし上記スクリュープレス型汚泥脱水装置では、スクリュープレス1のスクリュー軸5を油圧駆動装置10により軸方向にスライドさせる機能を有しているので、上記のように「ネジ戻しスライド」によりスクリュー羽根4の先端部は螺旋状接触部分のみを移動することができるので、それ以外のろ過体3の内面に仮に突起物が存在してもスクリュー軸5と干渉することが無いようにスクリュー軸5を回転させることができる。
【0030】
具体的な工程の例としては、脱水が進行しスクリュープレス1内の圧力が必要以上に高まり、「共廻り現象」が原因と思われる処理速度低下(共廻りによるケーキ搬送効率が低下することにより起る)が発生した場合に、ろ過体3の複数の所定箇所においてスクリュー羽根4の先端部が近傍に位置しないことを検知した上で、その位置に設置された突起物挿入機構13、14を作動させることにより突起物15、16をろ過体3内に挿入する。
【0031】
突起物挿入機構13、14はケーキが固化し易しい領域に設置することが望ましく、直径600mmのスクリュープレス1の場合は、脱水ケーキ出口6から300mm〜1000mmの位置が望ましく、突起物1つ当たりの打ち込み断面積は12cm2以下が望ましく、突起物15、16の挿入深さはスクリュー羽根4の羽根高さの15〜70%が望ましい。打ち込まれた突起物15、16はスクリュー軸5の機内ケーキとの間で大きな摩擦力を生じ、スクリュー軸5と伴に共廻りしていたケーキは突起物15、16に引っ掛かるようにしてスクリュー軸5側から剥離する。
【0032】
この時スクリュー軸5を回転させるだけでは回転してくるスクリュー羽根4が突起物15、16に衝突するので問題となるが、上記のように突起物15、16を挿入すると同時にスクリュー軸5を約300mmのスライド幅において「ネジ戻しスライド」させることにより、スクリュー軸5はネジ戻しされたビスのように羽根と羽根の間のケーキを置き去りにしながら脱水ケーキ出口6とは反対方向の軸方向に移動する。これらの動作によりスクリュー軸5側に固着した又は固着しそうなケーキ層がスクリュー軸5と一旦縁が切れ共廻りが解除される。
【0033】
スクリュー軸5を約300mm後方の位置までスライドした後にろ過体3内に挿入した突起物15、16をろ過体3外に戻した後、スクリュー軸5を今度は脱水ケーキ出口6の方向に軸方向にスライドさせることにより固着が解除された、ケーキ層は速やかに脱水ケーキ出口6の方に搬送され、「共廻り現象」は完全に解除される。この間スクリュー軸5は通常の回転方向で連続回転させることができるが、状況に応じて反対方向に回転させることによりケーキの剥離効果が高まる場合もある。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明に係るスクリュープレス型汚泥脱水装置を実際に組み込んだ実験プラントによる運転結果の一例について詳細に説明する。なお、本発明はこの実施例により何等制限されるものではない。本実施例はし尿処理場において処理される汚泥に対して、ポリ鉄及び両性高分子凝集剤を使用して調質したものを脱水処理するスクリュープレス型汚泥脱水実験プラントである。このスクリュープレス型汚泥脱水装置では、直径D:300mm、L/D:4(L:スクリュープレスの長さ、D:スクリュープレスの直径)のスクリュープレス1を備えている。本スクリュープレス型汚泥脱水装置は、スクリュー軸5をスライドさせない場合は従来型のスクリュープレス型汚泥脱水装置と同等の機器構成であるので、従来例としてのスクリュープレス型汚泥脱水装置はスクリュー軸5をスライドさせない場合とした。
【0035】
実施例1では、スクリュープレス型汚泥脱水装置の油圧駆動装置10を用いて「ネジ戻しスライド」を2時間に1回、又は軸トルク値が定格トルクの80%に達した場合に作動させるように設定した。実施例2では、同じスクリュープレス型汚泥脱水装置に「突起物挿入工程」+「ネジ戻しスライド」を2時間に1回、又は軸トルク値が定格トルクの95%に達した場合に作動させるように設定した。脱水運転はケース(1)、(2)の2条件で行い、ケース(1)は目標脱水ケーキ含水率70%、目標汚泥処理速度60kg/hとし、ケース(2)は目標脱水ケーキ含水率60%、目標汚泥処理速度45kg/hとした。ケース(1)、及びケース(2)のそれぞれでスクリュープレス型汚泥脱水装置のスクリュー軸5の軸回転数、テーパーコーン7の開度、プラグゾーンの長さ等を調整して目標となる脱水ケーキ含水率と処理速度を同時に達成できるように運転条件を調整して運転条件を決めた。
【0036】
ケース(1)の従来例と実施例1、2の脱水運転結果を図2に、ケース(2)の従来例と実施例1、2の脱水運転結果を図3に示す。ここで実施例1は、スクリュー軸5の「ネジ戻しスライド」工程が有る場合であり、実施例2は「突起物の挿入」工程と「ネジ戻しスライド」工程(「突起物」+「ネジ戻し」工程)が有る場合である。
【0037】
ケース(1)では、図2に示すように、目標脱水ケーキ含水率を70%とし、目標汚泥処理速度を60kg/hとしているが、一般的に汚泥処理速度を上げるほどに脱水ケーキの含水率は上昇する傾向があるため、汚泥処理速度を60kg/hとした条件下で低含水率化を図る必要がある。低含水率化はスクリュー軸5の軸回転数を下げ、テーパーコーン7の開度を狭める等の操作により可能であるが、それらはいずれも処理速度の低下を伴うので両方の目標値を満足するようにバランス良く運転条件を設定する必要がある。
【0038】
図2に示すように、従来例では汚泥処理速度を60kg/hに維持しつつ脱水ケーキ含水率を70%とすることは困難であった。これは脱水ケーキの含水率を70%まで低下させるためにスクリュー軸5の軸回転数やテーパーコーン7の開度を小さくすると60kg/hという汚泥処理速度が確保できなかったことが原因である。一方、実施例1、2ともに脱水ケーキ含水率と汚泥処理速度の目標値を平均値として満足することが可能であった。これは定期的なスクリュー軸5の「ネジ戻しスライド」工程、「突起物の挿入」と「ネジ戻しスライド」(「突起物」+「ネジ戻し」)工程によりケーキの「共廻り現象」を防止し汚泥処理速度が低下しなかったことが影響していると思われる。
【0039】
ケース(2)では、図3に示すように、目標脱水ケーキ含水率が60%とケース(1)より低下した分、目標汚泥処理速度が45kg/hとケース(1)よりも小さくなっている。従来例及び実施例では運転条件としてスクリュー軸5の軸回転数やテーバーコーン7の開度をケース(1)よりも小さく設定し脱水ケーキの低含水率化を行ったが、従来例では汚泥処理速度を45kg/hに維持した状態では脱水ケーキ含水率が約71%までしか低下しなかった。
【0040】
一方、実施例1では、ネジ戻しスライド工程によりケーキの「共廻り現象」を防止しつつ脱水を行ったが45kg/hの汚泥処理速度を維持した条件下では脱水ケーキ含水率は63%程度までしか低下しなかった。それに引き換え実施例2では処理速度45kg/hと脱水ケーキ含水率60%を同時に満足する運転が可能であった。非常に硬くなった目詰りしやすいスクリュープレス1内のケーキを「突起物の挿入」工程と「ネジ戻しスライド」(「突起物」+「ネジ戻し」)工程により定期的に確実に機外に排出することができるようになったことから汚泥処理速度の低下を起さず安定的に脱水ケーキの低含水率化が実現できたと思われる。
【0041】
以上、本発明の実施形態例を説明したが、本発明は上記実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお、直接明細書及び図面に記載がない何れの形状や構造であっても、本願発明の作用効果を奏する以上、本願発明の技術範囲である。例えば、スクリュープレス1のスクリュー軸5の回転軸5aを脱水ケーキ排出口に向かってある傾斜角で軸径が大きくなっている軸としたが軸径が等しい軸としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、下水処理場や各種排水処理設備において発生する汚泥に高分子凝集剤等を添加、混合し生成した凝集汚泥をスクリュープレスで脱水する際に、スクリュープレス内での汚泥閉塞の発生を抑制すると共に、汚泥閉塞が生じてしまった場合にこの汚泥閉塞状態を速やかに解消できるスクリュープレス型汚泥脱水装置、及びその運転方法を利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 スクリュープレス
2 汚泥供給部
3 ろ過体
4 スクリュー羽根
5 スクリュー軸
6 脱水ケーキ排出口
7 テーパーコーン
9 駆動装置
10 油圧駆動装置
11 テーパーコーン駆動装置
12 プラグゾーン
13 突起物挿入機構(突起物出し入れ機構)
14 突起物挿入機構(突起物出し入れ機構)
15 突起物
16 突起物
17 圧力計
18 圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状ろ過体内に回転自在に、且つ該ろ過体に対して相対的に軸方向に前後にスライド自在に配置されたスクリュー軸を備え、汚泥を脱水して脱水ケーキとして排出するスクリュープレス型汚泥脱水装置の運転方法において、
前記スクリュー軸の回転軸に接合されているスクリュー羽根の半径方向の先端が前記円筒状ろ過体のろ過面との間で接触又は微小のクリアランスを形成している部分の一部又は全部の位置が前記円筒状ろ過体からみて相対的に軸方向に移動しないように軸回転数及び軸方向スライド速度を設定した上で前記スクリュー軸の回転及び軸方向スライドを行うことを特徴とするスクリュープレス型汚泥脱水装置の運転方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスクリュープレス型汚泥脱水装置の運転方法において、
前記円筒状ろ過体のろ過面上の少なくとも1箇所からろ過面内側の固形物移動ゾーン内に向けて突起物を必要に応じて出し入れすることを特徴とするスクリュープレス型汚泥脱水装置の運転方法。
【請求項3】
円筒状ろ過体内に回転自在に、且つ該ろ過体に対して相対的に軸方向に前後にスライド自在に配置されたスクリュー軸を備え、汚泥を脱水して脱水ケーキとして排出するスクリュープレス型汚泥脱水装置において、
前記スクリュー軸の回転軸に接合されているスクリュー羽根の半径方向の先端が前記円筒状ろ過体のろ過面との間で接触又は微小のクリアランスを形成している部分の一部又は全部の位置が前記円筒状ろ過体からみて相対的に軸方向に移動しないように軸回転数及び軸方向スライド速度を設定する設定手段を備えたことを特徴とするスクリュープレス型汚泥脱水装置。
【請求項4】
請求項3に記載のスクリュープレス型汚泥脱水装置において、
前記円筒状ろ過体のろ過面上の少なくとも1箇所からろ過面内側の固形物移動ゾーン内に向けて突起物を任意のタイミングで自在に出し入れする突起物出し入れ手段を備えたことを特徴とするスクリュープレス型汚泥脱水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−253441(P2010−253441A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109416(P2009−109416)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(591030651)荏原エンジニアリングサービス株式会社 (94)
【Fターム(参考)】