説明

スクリーン・スピーカ

【課題】 本発明の目的は、厚みと曲げ合成が小さく、安価かつ取扱いが容易で、励振効率も良好で、巻き取り機構の簡易化も可能なスクリーン・スピーカを提供することにある。
【解決手段】 本発明の一実施例によるスクリーン・スピーカは、水平方向に延長される保持棒(12a)を含む吊り下げ機構が上端に形成されたスクリーン(10)と、その裏面に取付けられた励振機構(20)とを備えたスクリーン・スピーカである。
励振機構(20)は、スクリーン(10)の横幅に近い横幅を有し、このスクリーン(10)の上部の裏面に取付けられた細長形状の励振板(24)と、この励振板(24)の横幅方向の中央部分の裏面に取付けられた単一または複数のアクチュエータ(23a,23b)と、この単一または複数のアクチュエータを前記吊り下げ機構の保持棒(12a)に保持するアクチュエータ保持機構(25)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バソコンやオーディオ機器などの電子機器に利用されるパネル型スピーカを各種の用途に拡張するとともに高品質化と低廉化とを図ったスクリーン・スピーカに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パソコンや携帯電話機などの小型電子機器の音響出力用として、パネル型スピーカが開発されてきた。このパネル型スピーカは、英国のニュー・トランスデューサ社(New Transducers Limited)が出願した国際出願WO97/09482号に開示されているように、パネル振動板に励振用のアクチュエータを装着する際、パネルの振動分布の形態を制御する振動理論に基づいてアクチュエータを最適ポイントに選定することで、パネル振動板から効率良く音を放射するもので、分布振動(Distributed Mode)型スピーカとも呼ばれている。アクチュエータとしては、可動線輪型のものと、撓み振動型のものが知られている。
【0003】
上記パネル型振動板をハニカム構造としたものや、表示用のスクリーンと兼用すると共に折り畳み可能としたパネル型スクリーンが、本出願人によって開示されている(特許文献1,2)。また、シート状のスクリーンをパネル型振動板の代わりに利用したスクリーン一体型スピーカも本出願人らによって開示されている(特許文献3,4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特願2000−125391
【特許文献2】 特開2000−236595
【特許文献3】 特願2007−043412
【特許文献4】 特開2007−065482
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献3のスクリーン一体型スクリーンでは、繊維の織物、編物、不織布などから成る繊維構造体や膜状体のスクリーンの裏面に、可動線輪型などのアクチュエータが直に接着固定により取付けられる。このため、アクチュエータからスクリーンへの励振にあたり、低域の励振能率が低下し、低域の音量が不足するという問題がある。
【0006】
また、アクチュエータの下端を支点とする後方への回転力がアクチュエータ全体に作用し、アクチュエータの上部が後方に傾く。その結果、スクリーンのアクチュエータ取付け箇所に皺などの不規則な形状が形成され、このスクリーンを表示用として利用する場合には画像に歪みが生ずる。また、スクリーンを表示用としてではなく、間仕切りや、遮光用カーテンなどと兼用する場合にも、皺などの不連続な箇所が目障りになる。
【0007】
この皺などの不連続な箇所の形成を防止するには、スクリーンの厚みを増したりすることで曲げ合成を大きく保つことが必要になり、スクリーンの製造費用が嵩むだけでなく運搬、保管にも手間取るという問題があった。また、スクリーンの曲げ合成を大きくすると、ロール式の場合の巻き取り機構も大型かつ高価になるという問題や、小型のアクチュエータを使用してスクリーン上に必要な音量の音を効率良く励振できなくなるという問題もある。
【0008】
従って、本発明の一つの目的は、低域の励振効率が良好で、厚みと曲げ合成が小さく、安価かつ取扱いが容易で、巻き取り機構の簡易化も可能なスクリーン・スピーカを提供することにある。本願発明の他の目的は、実施例の説明に関連して後述する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来技術の課題を解決する本発明のスクリーン・スピーカは、水平方向に延長される保持棒を含む吊り下げ機構が上端に形成されたスクリーンと、このスクリーンの裏面に取付けられた励振機構とを備えている。そして、この励振機構は、スクリーンの横幅に近い横幅を有しこのスクリーンの裏面に取付けられた細長形状の励振板と、この励振板の横幅方向の中央部分の裏面に取付けられた単一または複数のアクチュエータと、この単一または複数のアクチュエータを前記吊り下げ機構の保持棒に保持するアクチュエータ保持機構とを備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスクリーン・スピーカは、単一または複数のアクチュエータがスクリーンに直に取付けられるのではなく、このスクリーンの横幅に近い横幅を有しこのスクリーンの裏面に取付けられた細長形状の励振板の横幅方向の中央部分の裏面に取付けられる構成であるから、低域の励振能率が良好で音量が大きなスクリーン・スピーカが提供できる。
【0011】
本発明の、スクリーン・スピーカは、励振板に取付けられた単一または複数のアクチュエータを、吊り下げ機構の保持棒に保持するアクチュエータ保持機構とさらに備える構成であるから、スクリーンへの皺の形成を防止しつつ厚みと曲げ合成が小さく、安価かつ取扱いが容易で、巻き取り機構の簡易化も可能なスクリーン・スピーカが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例のスクリーン・スピーカの構成を示す裏面図である。
【図2】図1のA−A’断面図である。
【図3】図1のB−B’断面図である。
【図4】上記実施例のスクリーン・スピーカの音響特性を示す実測データであり、実線は励振板保持金具有りの場合の特性、点線は励振板保持金具無しの場合の特性である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための好適な一つの形態によれば、励振機構が、励振板の横幅方向の両端部分を吊り下げ機構の保持棒に保持する振動板保持機構をさらに備えることにより、低域の励振能率がさらに改良された良好な音質のスクリーン・スピーカが提供される。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明の一実施例のスクリーン・スピーカの構成を示す裏面図である。この実施例のスクリーン・スピーカは、スクリーン10と励振機構20とから構成されている。スクリーン10は、スクリーン本体部11と、このスクリーン本体部11の上端に形成された保持棒12aを含むスクリーン吊り下げ機構と、このスクリーン本体部11の下端に形成された巻き取り棒12bとから構成されている。励振機構20は、可動線輪型のアクチュエータ23a,23bと、励振板24と、保持金具25,26a,26bとから構成されている。
【0015】
スクリーン本体部11は、前述した特許文献3,4に記載されたような繊維の織物、編物、不織布などを素材とするほぼ均一な厚みの膜状体であり、その表面には遮光層が形成されている。このスクリーン本体部11は、吊り下げ機構を構成する保持棒12aの両端に取付けられた下げ紐(図示せず)によって壁や窓に吊り下げられる。スクリーン本体部11の下端には、つる巻きバネの復元力によって回転する巻き取り棒12bが形成されており、図示しないストッパーを解除してこの巻き取り棒12bを回転させることにより、スクリーン本体部11が上方に巻き上げられる。
【0016】
この巻き取り棒12bとしては、例えば、米国特許第5,054,533に開示されたものなどが使用できる。この実施例のスクリーン・スピーカは、例えば、自動車の窓に吊り下げられて外部の日差しや人目を遮断するカーテンと、カーステレオなどの再生音を拡声して車室内に放射する高音質のスピーカとを兼ねている。また、スクリーン前面に絵や風景を印刷したタペストリー・スピーカとしても利用できる。
【0017】
図2のA−A’断面図を参照すると、スクリーン10の本体部11の裏面には、励振板24が接着材で固定されている。この励振板24は、適宜な厚みと剛性を有する発泡材、ハネカム、アクリルなどで構成され、その横幅がスクリーン本体部11の横幅に近い極く細長の形状を呈している。さらに、この励振板24の横幅方向の中央部分の裏面には、2個のアクチュエータ23a,23bが取付けられている。各アクチュエータは、汎用の可動線輪型のアクチュエータで構成されている。
【0018】
アクチュエータ23a,23bのボビンの先端面は、励振板24の裏面に接着材で固定されている。アクチュエータ23a,23bの後部に位置する永久磁石を含む重い磁気回路の外周面は、アクチュエータ保持金具25の下部に形成された開口内に接着材で固定される。このアクチュエータ保持金具25の上部は、ポリウレタンなどを素材とする緩衝材27を介して保持棒12aの内部に形成された保持機構29に接着固定されている。この結果、アクチュエータ23a,23bが保持金具25を介して保持機構25とを介在させながら保持棒12aに直接保持される。このため、励振板24がアクチュエータ23a,23bが発生する後方への曲げモーメントによって後方に傾き、皺などの不連続な箇所がスクリーン上に形成されることが効果的に回避される。
【0019】
保持金具25の周辺部と中央部に形成された複数のスリット29は、励振板24の裏面と保持金具25の内面との間に定在波が形成されてスピーカの音質が劣するのを防ぐための放音孔である。この放音孔29は、アクチュエータ23a,23bが発生する熱を放散するための放熱孔も兼ねている。励振板24の両端部には保持金具26a,26bが取付けられている。図3の断面図を参照すると、保持金具26a,26bの先端部は、ポリウレタンなどを素材とする柔らかな緩衝材28を介して励振板24の裏面の両端部に接着固定されると共に、それぞれの根元側端部は保持棒12aの内部に形成された保持機構29に取付けられている。
【0020】
アクチュエータ23a,23bの磁気回路内に配置されたボイスコイルに音声周波数帯の信号電流を供給すると、電磁力による前後方向への振動が発生し、この前後方向への振動がアクチュエータのボビンの先端部を介して励振板24に伝達される。アクチュエータ23a,23bから伝達された前後方向への振動により、励振板24上に撓み振動が励振される。この励振板24に励振された撓み振動により、スクリーン10のスクリーン本体部11上に撓み振動が励振される。
【0021】
図4は、図1の実施例のスクリーン・スピーカの音圧−周波数特性の実測データである。横軸は振動の周波数、縦軸は音圧dBである。この実測データの点線は、励振板保持金具26a,26bを無い場合の実測データであり、実線は振動板保持金具26a,26bを取付けた後の実測データである。なお、どちらの場合も、アクチュエータ保持金具25は取付けられている。
【0022】
さらに、点線と実線の実測データを参照すると、アクチュエータ23a,23bを励振板24を介してスクリーン本体部11の裏面に取り付け、さらに、励振板24の両端を励振板保持金具26a,26bで吊り下げる形で保持棒12aに取り付けたことにより、200Hz以下の低域の音圧特性に大幅な改善の効果が見られることが分かる。
【0023】
以上の実施例では、励振板保持金具26a、26bを使用する構成を例示した。しかしながら、音響特性を多少犠牲にしても製造費用の低廉化を図るためなどに、励振板保持金具26a,26bを省略することもできる。
【符号の説明】
【0024】
10 スクリーン
11 スクリーン本体部
12a 保持棒
12b 巻き取り棒
20 励振機構
23a,23b アクチュエータ
24 励振板
25 アクチュエータ保持金具
26a,26b 励振板保持金具
27,28 緩衝材
29 放音、放熱用スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に延長される保持棒を含む吊り下げ機構が上端に形成されたスクリーンと、このスクリーンの裏面に取付けられた励振機構とを備えたスクリーン・スピーカであって、
前記励振機構は、
前記スクリーンの横幅に近い横幅を有し、このスクリーンの裏面に取付けられた細長形状の励振板と、
この励振板の横幅方向の中央部分の裏面に取付けられた単一または複数のアクチュエータと、
この単一または複数のアクチュエータを前記吊り下げ機構の保持棒に保持するアクチュエータ保持機構と
を備えたことを特徴とするスクリーン・スピーカ。
【請求項2】
請求項1において、
前記励振機構は、前記励振板の横幅方向の両端部分を前記吊り下げ機構の保持棒に保持する励振板保持機構をさらに備えたことを特徴とするスクリーン・スピーカ。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかにおいて、
前記スクリーンの下端に巻き取り機構が形成されたことを特徴とするスクリーン・スピーカ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記励振板は、前記スクリーンの裏面の上部に取付けられたことを特徴とするスクリーン・スピーカ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記励振機構は、前記励振板保持機構と前記励振板の両端部との間に介在されるスポンジその他の緩衝材をさらに備えたことを特徴とするスクリーン・スピーカ。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかにおいて、
前記励振機構の励振板は、発泡材、ハニカム材、またはアクリル材を素材として構成されることを特徴とするスクリーン・スピーカ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−147093(P2011−147093A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23541(P2010−23541)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(595077418)株式会社オーセンティック (25)
【Fターム(参考)】