説明

スクリーン印刷機用スキージ及びスクリーン印刷機

【課題】 印刷状態のバラツキが無い優れた品質の印刷が行えるようにする。
【解決手段】 スキージ1は、スクリーン版2に押し付けられながら相対的に移動することで印刷を行う。スキージ1のスクリーン版2に対向した対向面11と進行方向における前面12との角部には、凹部が形成されている。凹部は、対向面11のうちの最も前面よりの部位である対向面前縁13と、前面のうちの最も対向面11よりの部位である前面先端縁14とをつないで形成された凹面15より成る。前面先端縁14は、対向面前縁13がスクリーン版2に押し付けられた際、スクリーン版2から所定距離離間し、凹面15のうちの前面先端縁14から延びる部位は前面先端縁14に比べてスクリーン版2から遠ざかる形状である。凹部内でインク3のローリングRが小さい一定の大きさに抑え込まれるため、印刷状態のバラツキが無くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の発明は、スクリーン印刷機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スクリーン印刷機は、高精細の印刷を高速で行えるため、盛んに使用されている。図12は、従来のスクリーン印刷機の主要部を概略的に示した正面図である。スクリーン印刷機では、通常、版(以下、スクリーン版)2は水平な姿勢とされ、対象物Wの上に重ね合わされる。スクリーン版2は、保持枠21に張られて設けられている。ペースト状のインク(以下、単にインク)3がスクリーン版2の上に盛られ、薄く伸ばされる。インク3を薄く延ばすことを、以下、コートと呼ぶ。スクリーン印刷は、インク3がコートされたスクリーン版2を対象物Wに押し付けインク3を染み出させ対象物Wに付着させることで行われる。
【0003】
より具体的に説明すると、スクリーン印刷機は、コートを行う部材としてスクレッパー6を備えており、スクリーン版2の押し付けを行う部材としてスキージ1を備えている。尚、インク3を染み出させて対象物Wに押し付けることを、以下、スキージングと呼ぶ。スクレッパー6とスキージ1の各々には、スクリーン版2に沿って直線移動させる不図示の移動機構と、スクリーン版2に対する位置を調節するための不図示の位置調節機構がぞれぞれ付設されている。
【0004】
従来の装置を使用した印刷方法について説明すると、まず、所定量のインク3がスクリーン版2の上に盛られる。そして、不図示の位置調節機構によってスクレッパー6がスクリーン版2に接近した高さに位置した後、不図示の移動機構によってスクリーン版2に沿って移動し、インク3のコートが行われる。その後、スクレッパー6が上昇し、スキージ1が下降してスクリーン版2に当接した状態とされる。そして、スキージ1がスクリーン版2の他端から一端まで移動してスキージングが行われる。この際、スキージ1の先端がスクリーン版2を対象物Wに押し付けながら移動する状態となり、これによりインク3がスクリーン版2を通して染み出して対象物Wに付着し、印刷が行われる。尚、スクリーン版2は、スキージ1によって少し撓んだ状態となって対象物Wに押し付けられる。
インク3は、数回〜数十回分の印刷に必要な量が盛られる。上記のような動作で印刷を繰り返すうちにインク3は少なくなるが、所定回数の印刷が行われた後、再び所定量のインク3が盛られ、コート及びスキージングが行われて印刷が繰り返される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−137218号公報
【特許文献2】特開2009−148939号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来のスクリーン印刷機において、印刷を繰り返す過程で、印刷の仕上がり具合にバラツキが生じてしまうことがあった。具体的には、インクを新たに盛った後の印刷回数が少ないうちはインクの付着量が少なくて印刷が薄くなったり、印刷の欠け(部分的に印刷されていない状態)が生じることがある一方、印刷回数が多くなってインク残量が少なくなると、逆に印刷が濃くなる問題があった。また、一回の印刷においても、スキージが移動を開始するスクリーン版の一方の端部付近での印刷と、移動が終了する逆側の端部付近での印刷とで、印刷状態にバラツキが生じることがあった。
本願の発明は、このような課題を解決するために為されたものであり、スクリーン印刷において、各回の印刷における印刷状態のバラツキや一回の印刷における印刷箇所毎の印刷状態のバラツキが無い優れた品質の印刷が行えるようにする技術的意義を有するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、スクリーン印刷機においてスクリーン版に押し付けられながら相対的に移動することでスクリーン版を通してインクを対象物に付着させて印刷を行うスクリーン印刷機用スキージであって、
印刷の際にスクリーン版に対して対向した状態となる対向面と、前記移動の際に進行方向の前方に位置する前面と、対向面と前面とが交差した箇所である角部とを有しており、
角部には、対向面のうちの最も前面よりの部位である対向面前縁と、前面のうちの最も対向面よりの位置である前面先端縁と、対向面前縁と前面先端縁とをつないで形成された凹面とが形成されており、
前面先端縁は、対向面前縁がスクリーン版に押し付けられた際、スクリーン版から所定距離離間するよう形成されており、
凹面は、対向面前縁がスクリーン版に押し付けられた際、前面先端縁から延びる部位が前面先端縁に比べてスクリーン版から遠ざかるよう形成されているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、前記請求項1の構成において、前記凹面のうちの前記前面先端縁から延びる部位は曲面であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項3記載の発明は、前記請求項1の構成において、前記凹面は、二つの平坦面より成るV溝状であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項4記載の発明は、前記請求項1乃至3いずれかに記載のスキージを備えたスクリーン印刷機であって、
前記スキージを保持したスキージ保持機構を備えており、
スキージ保持機構は、前記スキージの前記対向面前縁がスクリーン版に押し付けられた際、前記前面先端縁がスクリーン版から所定距離離間した姿勢となるよう前記スキージを保持するものであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項5記載の発明は、前記請求項4の構成において、前記スキージ保持機構は、前記スキージの前記対向面前縁がスクリーン版に押し付けられた際、前記前面先端縁がスクリーン版から0.5mm以上10mm以下の距離で離間するよう前記スキージを保持するものであるという構成を有する。
【発明の効果】
【0008】
以下に説明する通り、本願の各請求項の発明によれば、スキージの端部に形成された凹部内にインクのローリングが一定に抑え込まれるので、印刷を繰り返す過程における印刷状態のバラツキが無くなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本願発明の第一の実施形態に係るスキージの斜視概略図である。
【図2】第一の実施形態のスキージを正面断面概略図である。
【図3】実施形態のスキージ1の作用効果について示した正面断面概略図である。
【図4】参考例のスキージの作用について示した正面断面概略図である。
【図5】第二の実施形態のスキージ1の正面断面概略図である。
【図6】他の実施形態のスキージの正面断面概略図である。
【図7】第一の実施形態のスクリーン印刷機の概略構成を示した正面図である。
【図8】スキージ1の保持機構の一例について示した概略図である。
【図9】第二の実施形態のスクリーン印刷機の概略構成を示した正面図である。
【図10】第二の実施形態のスクリーン印刷機の動作について示した正面概略図である。
【図11】第二の実施形態のスクリーン印刷機の変形例の主要部を示す正面断面概略図である。
【図12】従来のスクリーン印刷機の主要部を概略的に示した正面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本願発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態)について説明する。
まず、第一の実施形態について説明する。図1は、本願発明の第一の実施形態に係るスキージの斜視概略図である。図2は、第一の実施形態のスキージを正面断面概略図である。尚、図1及び図2は、スクリーン印刷機に搭載されて印刷が行われる際の状態(実使用状態)のスキージの姿勢を示している。
【0011】
図1に示すように、スキージ1は、全体としては細長い帯板状の部材である。図2に示すように、この実施形態では、スキージ1は、スクリーン版2の上側に位置し、上側からスクリーン版2に押し付けられるものである。したがって、スキージ1は、底面がスクリーン版2に対向した状態となる。即ち、底面が対向面11となっている。この実施形態では、対向面11は平坦面であり、スクリーン版2に対して斜めに対向した状態となる。
また、前述したように、印刷の際にスキージ1はスクリーン版2に沿って移動する。説明の都合上、スキージ1の移動方向の前方に位置する面12を前面と呼ぶ。尚、この「移動」という概念は相対的であり、スキージ1が静止していてスクリーン版2が移動してもよい。
【0012】
図1及び図2から解るように、帯板状の部材であるスキージ1は、その長手方向を水平な姿勢で配置され、長手方向に垂直な水平方向に移動するようになっている。スクリーン版2も水平な姿勢であり、スキージ1の長手方向はスクリーン版2の幅方向に一致している。尚、図2に示すように、前面12は、対向面11に対して直角な方向の延びる面となっている。
図1及び図2に示すように、スキージ1は、対向面11と前面12とが交差した箇所である角部を有している。角部は、スクリーン版2に対して押し付けられる箇所である。図1及び図2に示すように、角部には、凹部が形成されている。即ち、角部には、対向面11のうちの最も前面12よりの位置である対向面前縁13と、前面12のうちの最も対向面11よりの位置である前面先端縁14と、対向面前縁13と前面先端縁14とをつないだ凹面とが形成されている。
【0013】
対向面前縁13は、スクリーン版2に接触してスクリーン版2を対象物Wに押し付ける部位である。前面先端縁14は、図2に示すように、対向面前縁13がスクリーン版2に押し付けられた際、スクリーン版2から所定距離離間するよう形成されている。即ち、角部には、凹部を形成するよう切り欠きが設けられており、対向面前縁13と前面先端縁14とはこの切り欠きの両端となっている。したがって、前面先端縁14は対向面前縁13よりも高い位置にあり、対向面11がスクリーン版2に対して斜めに対向した所定の姿勢でスキージ1が保持されると、対向面前縁13がスクリーン版2から所定距離離間するようになっている。
【0014】
本実施形態では、凹面15は、平坦面部と曲面部とから成っている。平坦面部は、対向面11に対して垂直に延びており、前面12に対しては平行な面となっている。即ち、対向面前縁13は直角に突出した縁である。尚、凹面15の対向面前縁から延びる部分が、平坦面ではなく緩やかな曲面の場合もあり、前面12に対して完全には平行ではなくてほぼ平行の場合もある。曲面部は、平坦面部と前面先端縁14とをつないで形成された曲面である。図1及び図2に示すように、曲面部は、前面先端縁14から少し上側に延びて窪んだ部位である。
【0015】
上記のような構成のスキージ1を使用すると、印刷を繰り返す過程で見られた印刷状態のバラツキが解消し、均一性の良好な良質な印刷が行える。この点について、図3を使用して説明する。図3は、実施形態のスキージ1の作用効果について示した正面断面概略図である。図3には、比較のため、従来のスキージ1の作用について示してあり、(1−1)及び(1−2)が従来のスキージ1の場合、(2−1)及び(2−2)が実施形態のスキージ1の場合である。
【0016】
印刷状態にバラツキが生じる原因について発明者が調査研究を鋭意行ったところ、スキージ1の前方の生じるインクの流れが原因であることが判ってきた。即ち、スキージ1がスクリーン版2に押し付けられながら前方に移動すると、インク3を掻き出しながら移動する状態となるので、スキージ1の前方にインク3の流れRが生じる。このインク3の流れRは、スキージ1とスクリーン版2との接触箇所からスキージ1の前面12に沿って上方に向かって流れた後、自重により折り返して前方に落下する流れである。以下、この流れRをローリングと呼ぶ。
【0017】
従来のスキージ1では、ローリングRの存在を意識しておらず、ローリングRをコントロールするような形状にはなっていない。このため、ローリングRはスキージ1の前方に特に制御されずに形成される。容易に理解できるように、ローリングRの大きさは、スキージ1が掻き出すインク3の量に依存する。インク3をコートして印刷を開始した当初は、図3(1−2)に示すように、インク3の残量が多く、したがって大きなローリングRが形成される。印刷が繰り返されてインク3の残量が少なくなってくると、図3(1−2)に示すように、ローリングRは小さくなる。
【0018】
また、一回の印刷について見てみると、スキージ1がスクリーン版2の端部から移動を始めた当初は、掻き出すインク3の量は少ない。しかし、スキージ2の移動が進むと、徐々に掻き出すインクの量が多くなる。したがって、一回の印刷においてスキージ1が移動を開始する一方の端部付近では、図3(1−2)に示すように小さなローリングRが形成され、逆側の端部付近では図3(1−1)に示すように大きなローリングRが形成される。
【0019】
発明者の研究によると、従来見られた印刷のバラツキは、このようなローリングRの大きさのバラツキに依存していることが判った。発明者の知見によると、ローリングRが大きい場合、スキージ1がスクリーン版2を通して対象物Wに染み出させるインク3の量が少なくなり、印刷状態が薄くなり易い。一方、ローリングRが小さいと、対象物Wに染み出るインク3の量が多くなり、印刷状態が濃くなり易い。詳細な説明は省略するが、これは、流体としてインク3の性質によるものであると判断される。
【0020】
実施形態の構成は、このような知見に基づいて成されたものであり、ローリングRの大きさを一定にコントロールすることで印刷状態を一定にしようとする技術思想である。即ち、スクリーン版2との接触箇所の付近に小さな凹部を形成し、凹部内にローリングRを押し留めることで、ローリングRを小さい一定の大きさに規制する技術思想となっている。
より具体的に説明すると、実施形態の構成では、前述したように、対向面前縁13がスクリーン版2に接触して押し付けられる。したがって、インク3は対向面前縁13から上方に跳ね上がるように流れる。この流れは、凹部によって規制され、凹面15に沿って流れた後、前面先端縁14から下方に落下する。
【0021】
この際、図3(2−1)(2−2)に示すように、凹部内にローリングRが形成される他、前方に別のローリングR’が形成される。しかしながら、スクリーン版2との接触箇所は、前面12よりも奥まった所に(後方に)位置しているため、この別のローリングR’が印刷に影響を与えることはない。別のローリングR’は、印刷が繰り返されてインク3の残量が少なくなる過程で相対的に小さくなるし、また一回の印刷においてもスキージ1が移動を開始してから逆側の端部に達する過程で相対的に大きくなるが、このようなローリングR’の大きさの変化に関わらず、凹部内のローリングRは、凹部の寸法形状が一定であるため、一定の大きさに維持される。したがって、ローリングRが印刷に与える影響も一定であり、濃淡の点でバラツキの無い良質な印刷が行える。
【0022】
尚、インク3の残量が極端に少なくなると、凹部内のローリングRが凹部の大きさよりも小さくなってしまうことがあり得るが、通常は、この程度にインク3の残量が少なくなると、その残量のみで一回の印刷が十分に行えない程度の量になってしまうので、インク3の補充のタイミングである。即ち、凹部の大きさは、一回の印刷が行える最小限のインク残量の場合でもローリングRが凹部の内面に沿って流れる程度の大きさに設計される。
【0023】
このような凹部の寸法例について説明すると、凹部の最も高い部位からスクリーン版2までの距離(図2にd1で示す)は、凹部の大きさといっても良い寸法であるが、おおよそ1〜15mm程度であることが望ましい。d1が1mmより小さいと、前面先端縁14がスクリーン版2に近づき過ぎてしまい、前面先端縁14においてもスキージング作用が生じてしまうことがある。この場合、前方の別のローリングR’がこの部分のスキージングに影響を与える結果、印刷にバラツキを生じさせることがあり得る。d1が15mmより大きいと、凹部が大きくなるので、インク残量が少なくなった際に凹部でローリングRを規制できなくなってしまう(ローリングが凹部より小さくなってしまう)ことがあり得る。この結果、前述したように印刷にバラツキが生じ得る。
【0024】
また、前面先端縁14とスクリーン版2との距離(図2にd2で示す)も重要なパラメータである。d2があまりにも小さくなると、上述したように前面先端縁14にスキージング作用が生じてしまい、前方のローリングR’が印刷に影響を与えてしまう問題がある。d2が大きくなると、凹部内にローリングRを抑え込む作用が無くなってしまうことがあり得る。即ち、凹部内から前方にかけて大きなローリングが形成されてしまい(凹部内のローリングと前方の別のローリングが一体化してしまい)、インク残量やインクの掻き出し量に依存して大きさが変化するローリングによって印刷状態が影響を受けてしまうことがあり得る。したがって、d2は0.5〜10mm程度することが望ましい。
【0025】
尚、前述したように、凹面15のうち前面先端縁14から延びる部分は、前面先端縁14に比べてスクリーン版2から遠ざかる形状とされる。この点を、上記d1,d2で表現すると、d1,d2が0<d2<d1の関係にあるということになる。
このようなd1及びd2は、当然ならがスキージ1の姿勢によって多少変化する。したがって、上記のような関係及び数値範囲になるよう、スクリーン印刷機においてスキージ1が保持される。言い換えると、スクリーン印刷機においてある姿勢で保持された際、d1及びd2が上記関係及び数値範囲となるよう凹部の寸法形状が決定される。
【0026】
次に、上記凹部の作用について、参考例と比較しながらさらに詳しく説明する。図4は、参考例のスキージの作用について示した正面断面概略図である。この参考例では、凹部の形状が上記実施形態と異なっている。即ち、参考例では、前面先端縁14からスクリーン版2に対して平行に延びた形状となっている。
スキージ1がこのような形状である場合、図4に示すように、凹部内にローリングRを抑え込む作用が不十分となる。この場合は、前述したd2があまりにも大きい場合と同様であり、凹部内のローリングと前方の別のローリングが一体化して大きな一つのローリングRが形成されてしまう。この大きなローリングRは、インク残量に依存して大きさが変化し、印刷状態が影響を受けてしまう。したがって、凹部は、前面先端縁14から延びる部分がスクリーン版2から遠ざかるように延びた(窪んだ)形状であることが必要である。
【0027】
次に、第二の実施形態のスキージ1について説明する。図5は、第二の実施形態のスキージ1の正面断面概略図である。この実施形態のスキージ1は、凹部の断面形状が第一の実施形態と異なっている。即ち、この実施形態における凹面15は、二つの平坦面より成っており、V溝状の形状となっている。この実施形態では、二つの平坦面は直角に交差したもの(90度のV溝)であるが、特にこれに限定される訳ではない。
この実施形態のスキージ1においても、凹部内にローリングが抑え込まれて一定したものとなるので、印刷を繰り返す過程で印刷状態にバラツキが生じることが無い。この実施形態においても、凹面15のうちスクリーン版2から最も離れた部位におけるスクリーン版2からの距離(同様に図5にd1で示す)は、おおよそ1〜15mm程度とすることが好ましい。また、前面先端縁14とスクリーン版2との距離(同様に図5にd2で示す)は、おおよそ0.5〜10程度とすることが好ましい。
【0028】
第二の実施形態のより詳しい寸法例について示すと、凹部を成す二つの面の幅w1,w2をそれぞれ4mm、3mmとし、前面12を水平面に対して(即ち、スクリーン版2に対して)60度の角度となるようにスキージ1を保持すると、d1は3.5mm程度、d2は2mm程度になる。尚、凹部が二つの平坦面から成る場合であっても、必ずしもV溝状である必要はなく、二つの平坦面を曲面でつないだような形状であっても良い。
【0029】
次に、他の実施形態のスキージ1について説明する。図6は、他の実施形態のスキージの正面断面概略図である。図6には、三つの実施形態が示されている。
このうち、図6(1)は、スキージ1が二つの部材から成る構造となっている。即ち、このスキージ1は、二つの平板状の部材(以下、ブレードと呼ぶ)101,102を貼り合わせた構造となっている。各ブレード101,102は、図1に示すスキージ1と同様にスクリーン版2の幅方向に長いものであるが、一方のブレード101は他方のブレード102より高さが高くなっている。二つのブレード101,102をネジ止め又はロウ付け等の方法で貼り合わせ、図6(1)に示すように先端にV溝が形成されるようにする。形状として図5に示す実施形態と等価であり、同様にローリングを小さい一定の大きさに抑え込むことで印刷状態を一定に保つことができる。
【0030】
また、図6(2)に示すスキージ1は、図5に示す実施形態のスキージ1の先端形状において、さらに断面コ状の溝を形成したような形状となっている。即ち、図6(6)に示すスキージ1では、凹面15が四つの平坦面より成っており、対向面前縁13から対向面11に対して垂直に延びる第一面151と、第一面151に対して直角に交差した第二面152と、第二面152に対して直角に交差して対向面11の側に延びる第三面153と、第三面153に対して垂直に交差して前面12に延びて前面先端縁14に達する第四面154とから成っている。このような凹部の形状によっても同様にローリングを小さい一定の大きさに抑え込むことができ、印刷状態を一定にすることができる。尚、図6(2)に示す実施形態において、凹面15を構成する各面151〜154が平坦面である必要は無く緩やかな曲面であっても良い。また、各面151〜154が直角に交差することも必須の条件ではなく、ローリングを小さい一定の大きさに抑え込む効果がある限り、他の角度で交差していても良い。
【0031】
さらに、図6(3)に示すスキージ1は、(2)に示すような形状のスキージ1を複数の(ここでは三つの)部材103〜105で構成したものである。各部材(同様にブレードと呼ぶ)103〜105はスクリーン1の幅方向に長いものであり、高さが(3)に示すように異なっている。各ブレード103〜105を同様にネジ止め又はロウ付け等の方法で貼り合わせることで、(2)に示すものとほぼ等価な形状を得ることができる。
尚、図6の(1)や(3)に示すように、複数のブレードを貼り合わせてスキージ1を構成すると、先端の凹部の寸法や形状について任意のものを得るのが容易となる。即ち、同じ形状寸法のブレードを用意した場合でも、その貼り合わせの位置を適宜選択することで、先端の凹部の寸法や形状について任意のものを得ることができ、またその変更も容易である。
【0032】
次に、スクリーン印刷機の発明の実施形態について説明する。
図7は、第一の実施形態のスクリーン印刷機の概略構成を示した正面図である。図7に示すスクリーン印刷機は、印刷ユニット4と、対象物Wを搬送する搬送系5とを備えている。搬送系5は、ロールツーロールの搬送を行う構成となっており、送り出しローラ51と、巻き取りローラ52と、一対のピンチローラ53と、テンションローラ54等から構成されている。対象物Wは長尺なシート状(帯状)であり、搬送系5は対象物Wをその長さ方向に所定のストロークで順次送り、長さ方向に沿ってスクリーン版2のパターンが順次印刷されてるようになっている。
【0033】
印刷ユニット4には、スクリーン版2、スクレッパー6及びスキージ1が搭載されている。スキージ1は、前述したいずれかの実施形態のものである。スクレッパー6及びスキージ1には、前述したように不図示の位置調節機構と移動機構とがそれぞれ設けられている。これらの機構は、通常のスクリーン印刷機と同様に構成できるので、詳細な説明は割愛する。
【0034】
また、スキージ1には、前述したような姿勢となるようスキージ1を保持する保持機構が設けられている。この保持機構についても、従来周知のスクリーン印刷機におけるものと同様の機構が使用できるが、図8にはその一例の概略が示されている。図8は、スキージ1の保持機構の一例について示した概略図である。図8(1)に示すように、保持機構としては、台座状のホルダー71に凹部を設け、凹部内にスキージ1を嵌め込み、ネジ72で固定する構造のものを採用することができる。また、スキージ1の保持姿勢を調節できる機構も採用可能である。例えば、図8(2)に示すように、スキージ1を保持したホルダー71を水平な回転軸711を介して吊り下げ、ホルダー71に水平な回転軸712を介して伸縮クランク73を取り付け、伸縮クランク73を駆動源74で伸縮させる機構が採用できる。伸縮クランク73の伸縮により、図8(2)に示すように、スキージ1の保持角度を変えることができる。
【0035】
図7に示すスクリーン印刷機では、送り出しローラ51が対象物Wを送り出し、一対のピンチローラ53によって所定のストロークで搬送され、スクリーン版2の下側の所定位置に送られる。そして、前述したように、スクリーン版2に盛られたインクをスクレッパー6が引き延ばし、スキージ1がスクリーン版2を対象物Wに押し付けながらスクリーン版2に沿って移動して印刷が行われる。その後、対象物Wが所定のストロークで再び送られて、次の印刷対象箇所がスクリーン版2の下側に位置され、同様に印刷を行う。このようにして、対象物Wを間欠的に送りながら、印刷が繰り返される。この印刷の繰り返しにおいても、また各回の印刷においても、前述したようにローリングが一定に抑え込まれるので、バラツキの無い良質な印刷が行われる。尚、印刷された対象物Wは、巻き取りローラに順次巻き取られる。
【0036】
次に、第二の実施形態のスクリーン印刷機について説明する。
図9は、第二の実施形態のスクリーン印刷機の概略構成を示した正面図である。図9に示すスクリーン印刷機は、いわゆるロータリースクリーン印刷機となっている。ロータリースクリーン印刷機は、スクリーン版2が円筒形で、スクリーン版2を回転させながら印刷するタイプのスクリーン印刷機である。
【0037】
図9に示すスクリーン印刷機も、ロールツーロールで対象物Wを搬送するものであり、送り出しローラ51、巻き取りローラ52、一対のピンチローラ53、テンションローラ54等を備えている。この実施形態では、対象物Wを垂直な方向に搬送する箇所があり、その箇所に印刷位置が設定されていて印刷ユニット4が設けられている。
印刷ユニット4は、円筒形のスクリーン版2と、スキージ1とを備えている。スクリーン版2は、中心軸が水平になるよう配置されており、印刷位置における対象物Wの幅方向に中心軸が平行になるよう設けられている。また、スクリーン版2は、搬送系5によって垂直に送られる対象物Wに接触し少し押圧する位置に配置される。
【0038】
そして、スクリーン版2には、スクリーン版2をその中心軸を周りに回転させる不図示の回転機構が設けられている。回転機構による回転は、対象物Wの送りに対して順向きである。即ち、図9に示すようにスクリーン版2が対象物Wの左側に位置し、対象物Wが上から下に送られるとすると、スクリーン版2の回転は反時計回りである。
また、対象物Wを挟んでスクリーン版2の反対側には、円筒形の受け胴8が設けられている。スクリーン版2は、上記のように対象物Wに接触して多少押圧する位置に配置されるが、受け胴8は、押圧される対象物Wを受けて支える位置に配置されている。受け胴8には、スクリーン版2の回転に同期させて受け胴8をスクリーン版2とは逆向きに回転させる不図示の回転機構が設けられている。
【0039】
スキージ1は、スクリーン版2の内部に配置されている。スクリーン版2内に挿通させるようにしてホルダー71が設けられており、スキージ1はこのホルダー71に保持されている。ホルダー71は任意の構造を採用し得るが、例えば、ブラケット状のものにスキージ1をネジ止めする構成が採用できる。尚、ホルダー71は両端がスクリーン版2外に位置し、この両端で不図示のフレームに支持されており、ホルダー71やスキージ1はスクリーン版2の回転に関わらず静止した状態を保つようになっている。
【0040】
また、スクリーン版2内には、インクの供給ノズル31が設けられている。供給ノズル31は、スクリーン版2の回転の向きにおいて、スキージ1の位置よりも手前側の位置に設けられている。尚、この実施形態では、スクレッパー6は設けられていない。スクリーン版2が回転しながらインクを供給ノズル31から少しずつ吐出することでスクレッパーの作用も果たし得るからである。
【0041】
第二の実施形態のスクリーン印刷機の動作について、図10を使用して説明する。図10は、第二の実施形態のスクリーン印刷機の動作について示した正面概略図である。
第一の実施形態では、搬送系5は所定のストロークで対象物Wを送り、対象物Wを停止させた状態で印刷が行われるが、この実施形態では、対象物Wを停止させることなく連続的に送りながら(走行させながら)印刷が行われる。より具体的に説明すると、一対のピンチローラ53等から成る搬送系5を動作させて対象物Wを走行させながら、スクリーン版2を搬送系による対象物Wの走行速度に同期した回転速度で回転させ、受け胴8を逆向きの同期した速度で回転させる。そして、上述したようにスクリーン版2と受け胴8で対象物Wを挟んだ状態とする。この状態で、供給ノズル31がインク3を吐出し、スクリーン版2の内面に盛る。供給ノズル31は、少しずつ一定量のインク3を吐出し続ける。この際、スクリーン版2が回転しているので、図10(1)に示すように、インク3がスクリーン版2の内面に沿って薄く延ばされた状態となる。スクリーン版2が一周すると、図10(2)に示すように内面の全面にインクが薄く延ばされた状態となる。
【0042】
一方、スキージ1に設けられた不図示の位置調節機構は、印刷をするタイミングで動作し、スキージ1をスクリーン版2に向けて移動させ、図10(3)に示すように、スクリーン版2を押圧する位置とする。この結果、スクリーン版2のパターンに従ってインク3が染み出し、対象物Wに付着する。この際、スクリーン版2は回転を続けており、対象物Wはこの回転と順向きに送られているので、スクリーン版2のパターンが対象物Wに転写される。
スクリーン版2には、一個のパターンが描かれていて一回転で一つの印刷を行う場合もあり、複数個のパターンが描かれていて一回転で複数の印刷を行う場合もある。いずれにしても、上記のようにインク3を盛った後、スクリーン版2は回転を続け、連続して印刷を行う。
ある程度の回数印刷を繰り返して、インクの残量が少なくなったら、再び供給ノズル31が動作して所定量のインク3を吐出し、スクリーン版2の回転を利用して内面に薄くインク3を延ばす。そして、同様に印刷を繰り返す。
【0043】
上記動作の際、図10(3)に拡大して示すように、やはりスキージ1の前方にはローリングRが形成される。尚、ここでの「前方」とは、スキージ1は静止していてスクリーン版2が反時計回りに回転しているので、スキージ1が時計回りに回転しているのと等価であり、したがって下方ということになる。
図10(3)に示すように、この実施形態においても、ローリングRは、スキージ1の角部に設けられた凹部内に抑え込まれて小さい一定の大きさに維持される。したがって、印刷を繰り返す過程における印刷状態のバラツキや、一回の印刷における印刷箇所の違いによる印刷状態のバラツキは、同様に生じない。
【0044】
図11は、第二の実施形態のスクリーン印刷機の変形例の主要部を示す正面断面概略図である。この変形例では、スクリーン版2と受け胴8が上下に配置され、対象物Wは水平方向に送られて印刷されるようになっている。スクリーン版2が上側で受け胴8が下側である。この実施形態では、スクリーン版2は反時計回りに回転し、受け胴8も反時計回りに回転する。
スキージ1は、スクリーン版2の内部に位置し、不図示の位置調節機構により上から下に移動してスクリーン版2に押し付けられるようになっている。供給ノズル31は、スクリーン版2の回転の向きにおいて、スキージ1よりも手前側の位置に配置されている。
【0045】
この実施形態においても、スクリーン版2と受け胴8が対象物Wを挟み込んだ状態で対象物Wの送り速度に同期させてスクリーン版2と受け胴8が互いに逆向きに回転する。そして、供給ノズル31がインク3を少しずつ吐出し、スクリーン版2の回転を利用してスクリーン版2の内面に薄く延ばす。この状態で、不図示の位置調節機構が動作し、スキージ1を下方に移動させてスクリーン版2に押し付け、スクリーン版2を通してインク3を対象物Wに付着させる。これにより、印刷が行われる。
この際、スキージ1の前方にはやはりローリングRが形成されるが、ローリングは、スキージ1の角部の凹部内に抑え込まれ、小さい一定の大きさを維持する。このため、同様にバラツキの無い良質な印刷が行える。
【0046】
尚、各実施形態のスクリーン印刷機において、印刷ユニット4は、対象物Wの搬送路に沿って複数設けられる場合がある。例えば、カラー印刷を行う場合、各色用の印刷ユニット4が搬送路に沿って設けられる。
また、上述した各実施形態のスクリーン印刷機は、ロールツーロールタイプの搬送系5を採用したものであったが、対象物Wが枚葉状の場合もあり、枚葉式の搬送系を採用したスクリーン印刷機についても本願発明は同様に実施できる。
【符号の説明】
【0047】
1 スキージ
11 対向面
12 前面
13 対向面前縁
14 前面先端縁
15 凹面
2 スクリーン版
3 インク
31 供給ノズル
4 印刷ユニット
5 搬送系
6 スクレッパー
71 ホルダー
8 受け胴
W 対象物
R ローリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリーン印刷機においてスクリーン版に押し付けられながら相対的に移動することでスクリーン版を通してインクを対象物に付着させて印刷を行うスクリーン印刷機用スキージであって、
印刷の際にスクリーン版に対して対向した状態となる対向面と、前記移動の際に進行方向の前方に位置する前面と、対向面と前面とが交差した箇所である角部とを有しており、
角部には、対向面のうちの最も前面よりの部位である対向面前縁と、前面のうちの最も対向面よりの位置である前面先端縁と、対向面前縁と前面先端縁とをつないで形成された凹面とが形成されており、
前面先端縁は、対向面前縁がスクリーン版に押し付けられた際、スクリーン版から所定距離離間するよう形成されており、
凹面は、対向面前縁がスクリーン版に押し付けられた際、前面先端縁から延びる部位が前面先端縁に比べてスクリーン版から遠ざかるよう形成されていることを特徴とするスクリーン印刷機用スキージ。
【請求項2】
前記凹面のうちの前記前面先端縁から延びる部位は曲面であることを特徴とする請求項1記載のスクリーン印刷機用スキージ。
【請求項3】
前記凹面は、二つの平坦面より成るV溝状であることを特徴とする請求項1記載のスクリーン印刷機用スキージ。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかに記載のスキージを備えたスクリーン印刷機であって、
前記スキージを保持したスキージ保持機構を備えており、
スキージ保持機構は、前記スキージの前記対向面前縁がスクリーン版に押し付けられた際、前記前面先端縁がスクリーン版から所定距離離間した姿勢となるよう前記スキージを保持するものであることを特徴とするスクリーン印刷機。
【請求項5】
前記スキージ保持機構は、前記スキージの前記対向面前縁がスクリーン版に押し付けられた際、前記前面先端縁がスクリーン版から0.5mm以上以上10mm以下の距離で離間するよう前記スキージを保持するものであることを特徴とする請求項4記載のスクリーン印刷機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−79148(P2011−79148A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231020(P2009−231020)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000111270)ニューロング精密工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】