説明

スクリーン印刷版の版面処理剤

【課題】 長期に亙って鮮明な印刷を可能にするスクリーン印刷版を作成するための版面処理剤を提供する。
【解決手段】 このスクリーン印刷版の版面処理剤は、下記構造式(2)で表されるシラン系化合物を含有する。
【化5】


一般的には、この構造式(2)で表されるシラン系化合物を、ハイドロフルオロエーテルやパーフルオロポリエーテル等の溶剤に溶解させて溶液状版面処理剤として取り扱う。そして、スクリーン印刷版本体の版面に、この溶液状版面処理剤を刷毛塗り等によって塗布して、スクリーン印刷版を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期に亙って鮮明な印刷を行うことのできるスクリーン印刷版を得るために使用する、スクリーン印刷版の版面処理剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スクリーン印刷版は、スクリーン表面に感光性樹脂組成物を塗布・乾燥して得られたスクリーン印刷版材を使用し、このスクリーン印刷版材の感光性樹脂上に画像形成用フィルムを置き、露光した後、現像して製造されるものである。画像形成用フィルムとして、たとえばポジフィルムを使用した場合には、画像部に対応している感光性樹脂は露光されずに硬化せず、非画像部に対応している感光性樹脂は露光されて硬化する。そして、そのあと現像することによって、露光されなかった感光性樹脂を洗い流す。このようにして得られたスクリーン印刷版は、画像部には感光性樹脂が存在せず、非画像部には硬化した感光性樹脂が残存しているものである。このスクリーン印刷版は、スクリーン印刷版の裏面から印刷インキ等を供給しながらスキージすると、画像部から印刷インキ等がスクリーン印刷版の表面(版面)に滲み出して、被印刷物面に画像が印刷されるのである。
【0003】
また、半田ペースト印刷用のスクリーン印刷版として、金属製薄板をエッチング等の手段によってステンシル加工した印刷版板を、スクリーンに貼合したものも、しばしば用いられている。この印刷版板は、ステンシル加工によって孔が開けられた箇所が画像部となり、孔の開けられなかった箇所が非画像部となる。このスクリーン印刷版も裏面から、半田ペースト等を供給しながらスキージすると、画像部から半田ペースト等がスクリーン印刷版の表面(版面)に滲み出して、各種基板上に半田バンプ等が形成されるのである。
【0004】
このようにしてスクリーン印刷版は使用されるのであるが、従来より、長期に亙って印刷を続けていると、印刷インキ等のダレやニジミが生じ、印刷が徐々に不鮮明になるということがあった。すなわち、スクリーン印刷版の裏面を何度もスキージしていると、版面に印刷インキが回り込み、印刷が不鮮明になるのである。印刷が不鮮明になると、回路パターンの印刷の場合には、パターン相互の接続による短絡等が問題となるし、文字印刷の場合には、文字の判読が困難になるという問題を惹起する。
【0005】
このため、特許文献1では、硬化した感光性樹脂(版膜)の表面(版面)や、ステンシル加工された印刷版の表面(版面)に、フッ素系又はシリコーン系撥水撥油剤の被膜を形成することが提案されている。この技術は、版面に撥水撥油剤の被膜を形成することにより、印刷インキ等と版面との親和性が低下し、版面への印刷インキ等の回り込みを防止できるというものである。したがって、印刷インキ等のダレやニジミを防止でき、鮮明な印刷が可能となるという面で、好ましいものである。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された技術においては、フッ素系又はシリコーン系撥水撥油剤と版面との接着強度が低く、何度もスキージを続けていると、フッ素系又はシリコーン系撥水撥油剤が版面から剥離してゆくということがあった。そして、剥離すると、印刷インキ等のダレやニジミが生じやすくなり、印刷が不鮮明になるという欠点が生じることがあった。
【0007】
このため、本発明者等は、フッ素系又はシリコーン系撥水撥油剤に代えて、パーフルオロオクチルエチルトリメトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリプロポキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリアミノシラン又はパーフルオロオクチルエチルトリクロロシラン等のシラン系化合物からなる撥水撥油剤を使用することを提案した(特許文献2)。この撥水撥油剤は版面との接着強度が高く、長期に亙って印刷インキ等のダレやニジミが生じにくくなり、好ましいものである。
【0008】
【特許文献1】特開平5−80522号公報(特許請求の範囲、段落番号0007及び0009)
【特許文献2】特開2006−347062公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者等は、特許文献2に記載された撥水撥油剤よりも、さらに撥油性に優れたものを開発すべく検討していたところ、特許文献2に記載されていない特定の構造を持つシラン系化合物が撥油性に優れていることを見出した。本発明は、このような知見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、一般式(1)で表されるシラン系化合物を含有することを特徴とするスクリーン印刷版の版面処理剤に関するものである。
【化3】

[Rfは、炭素数1〜16の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基を示す。
OAは、OCF2CF2CF2,OCF(CF3)CF2,OCF2CF2及びOCF2よりなる群から選ばれる1種以上の基を示す。
Xは、ヨウ素原子、臭素原子又は水素原子を示す。
Yは、水素原子又は低級アルキル基を示す。
R1は、加水分解性基を示す。
R2は、水素原子又は非加水分解性基を示す。
m及びnは、0〜2の整数を示す。
pは、1〜10の整数を示す。
qは、1又は2を示す。
rは、1〜200の整数を示す。]
【0011】
本発明に係る版面処理剤は、一般式(1)で表されるシラン系化合物を含有するものである。このシラン系化合物は、炭素数1〜16の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基を持っている。炭素数が1未満のパーフルオロアルキル基は、版面に十分な撥水性及び撥油性を与えにくくなるため、好ましくない。また、炭素数が16を超えるパーフルオロアルキル基を持つ化合物を用いると、溶剤に溶解しにくくなり、版面処理剤を溶液状として取り扱いにくくなるため、好ましくない。パーフルオロアルキル基と珪素原子とは、パーフルオロポリアルキレンエーテル基、パーフルオロメチレン基及びポリメチレン基を介して結合されている。
【0012】
パーフルオロポリアルキレンエーテル基は、パーフルオロプロピレンエーテル基(OCF2CF2CF2),パーフルオロイソプロピレンエーテル基(OCF(CF3)CF2),パーフルオロエチレンエーテル基(OCF2CF2)及びパーフルオロメチレンエーテル基(OCF2)よりなる群から選ばれる1種以上の基が採用され、これらの基が単独で又は混合して採用される。パーフルオロポリアルキレンエーテル基は、上記した基が少なくとも1個以上で多くとも200個以下結合されてなる。パーフルオロポリアルキレンエーテル基の結合数が1個未満であると、得られる被膜の動摩擦係数が大きくなり、印刷インキ等がスクリーン印刷版を通過しにくくなる。パーフルオロポリアルキレンエーテル基の結合数が200個を超えても、印刷インキ等のスクリーン印刷版の通過性がもはや向上しないので合理的ではない。一般に、パーフルオロポリアルキレンエーテル基の結合数は、20〜30個程度である。
【0013】
パーフルオロメチレン基は、パーフルオロポリアルキレンエーテル基とポリメチレン基の間に挿入されている。パーフルオロメチレン基は、パーフルオロモノメチレン基又はパーフルオロジメチレン基である。ポリメチレン基は、ジメチレン基、トリメチレン基及びテトラメチレン基よりなる群から選ばれるものである。パーフルオロメチレン基とポリメチレン基によって、シラン系化合物に十分な撥水性を与える。
【0014】
ポリメチレン基に結合している珪素原子には、加水分解性基が1個乃至3個結合されている。この加水分解性基によって、シラン系化合物同士及びシラン系化合物と感光性樹脂組成物中のポリビニルアルコールや金属等とが結合し、版面に対して強固に接着するのである。加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、アミノ基、ハロゲン基等が用いられる。
【0015】
一般式(1)で表されるシラン系化合物の代表例としては、下記構造式(2)で表されるものが用いられる。
【化4】

【0016】
また、一般式(1)で表されるシラン系化合物は、以下の測定方法で動摩擦係数を測定すると、概ね0.06〜0.13の範囲内となる。
(i)厚さ1mmで大きさ30mm×80mmのSUS304板の片面を平均粗さが1.2μm程度に整面した。
(ii)当該片面を脱脂し、稀酸で洗浄し、更に水洗して前処理した。
(iii )微量の酸触媒と共にポリシラザン1.0gをミネラルターペン99.0gに溶解した溶液を、当該片面に刷毛塗りにより塗布し、常温で10分間乾燥した。
(iv)一般式(1)で表されるシラン系化合物を溶剤に溶解した溶液状版面処理剤を刷毛塗りより塗布した後、40℃の恒温室で24時間乾燥させて、動摩擦試験用テストピースを得た。
(v)表面性測定機(HEIDON 14FW)に、動摩擦試験用テストピースをセットし、測定機に備えつけられているSUS10mmφのボールに、垂直荷重100gを加え、摺動距離を40mm(1往復)、線速度を2000mm/minとして、このときの動摩擦係数を3回測定して、その平均値を算出した。
なお、本発明においては、以上のようにして得られた平均値のことを、(iv)で使用したシラン系化合物の動摩擦係数であると定義している。この定義に基づくと、上記構造式(2)で表されたシラン系化合物の動摩擦係数は0.09である。
【0017】
構造式(2)で代表的に表される一般式(1)で表されるシラン系化合物は、一般的に、溶剤に溶解され、溶液状で取り扱われる。溶剤としては、イソプロピルアルコール、アセトン、ハイドロフルオロエーテル類、パーフルオロポリエーテル類、ハイドロフルオロカーボン類、パーフルオロカーボン類、ハイドロフルオロポリエーテル類又はフッ素系アルコール類等が用いられる。また、溶液状にした場合のシラン系化合物の濃度は、0.05〜0.5重量%程度であるのが、好ましい。
【0018】
本発明に係るスクリーン印刷版の製造方法においては、まずスクリーン印刷版本体を製造する。スクリーン印刷版本体は、従来のスクリーン印刷版の製造方法によって製造すればよい。たとえば、感光性樹脂組成物を用いてスクリーン印刷版本体を製造する方法は、以下のとおりである。すなわち、まず、スクリーン表面に感光性樹脂組成物を塗布・乾燥して、スクリーン印刷版材を得る。使用する感光性樹脂組成物としても、従来公知のものが使用され、具体的には、ポリビニルアルコールに重クロム酸塩或いはジアゾニウム塩を配合した水系組成物、ポリビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体エマルジョンに重クロム酸塩或いはジアゾニウム塩を配合した水系組成物、ポリビニルアルコールと酢酸ビニル重合体エマルジョンとからなる乳液にジアゾニウム塩を配合した水系組成物、ポリビニルアルコールとアクリルモノマーと酢酸ビニル重合体エマルジョンからなる乳液にジアゾニウム塩を配合した水系組成物、又はこれらの水系組成物に更に、側鎖にスチルバゾリウム基が導入されたポリビニルアルコール誘導体を添加してなる水系組成物を使用することができる。
【0019】
得られたスクリーン印刷版材は、スクリーンの片面に感光性樹脂が積層接着した形態や、感光性樹脂層中にスクリーンが埋入した形態となっている。このスクリーン印刷版材の感光性樹脂層上に、画像形成用フィルムを置く。この画像形成用フィルムは、ポジフィルムでもネガフィルムでもよい。そして、ポジフィルム又はネガフィルムの面に、ケミカルランプや紫外線ランプで光を照射し、露光する。この露光によって、ポジフィルムの場合は、ポジフィルムの画像部からは光が透過せず、非画像部から光が透過する。したがって、非画像部に対応している感光性樹脂は硬化し、画像部に対応している感光性樹脂は硬化しない。また、ネガフィルムの場合は、ネガフィルムの非画像部からは光が透過せず、画像部から光が透過する。したがって、画像部に対応している感光性樹脂は硬化し、非画像部に対応している感光性樹脂は硬化しない。そして、露光した後、アルカリ水溶液或いは単なる水によって現像し、硬化していない感光性樹脂を洗い流して、スクリーン印刷版本体を得る。
【0020】
また、金属製薄板をステンシル加工した印刷版板を用いてスクリーン印刷版本体を製造する方法は、以下のとおりである。まず、ステンレス等の金属薄板に、画像部以外の箇所にレジスト膜を設ける。そして、エッチング処理によってレジスト膜を形成した以外の箇所を腐食して孔を開けた後、レジスト膜を除去して、ステンシル加工した印刷版板を得る。この印刷版板とスクリーンとを貼合して、スクリーン印刷版本体を得る。
【0021】
以上のようにして得られたスクリーン印刷版本体に、予め準備した溶液状版面処理剤を付与する。溶液状版面処理剤は、一般式(1)で表されるシラン系化合物を溶剤に溶解したものである。スクリーン印刷版本体に、溶液状版面処理剤を付与する方法としては、スクリーン印刷版本体を溶液状版面処理剤中に浸漬する方法、スクリーン印刷版本体の版面にコーティング法、スプレー法、刷毛塗り法等で、溶液状版面処理剤を塗布する方法等を採用することができる。この際、溶液状版面処理剤の液温は、一般的に常温で使用されるが、常温より高い温度であっても差し支えない。
【0022】
スクリーン印刷版本体に、溶液状版面処理剤を付与した後、乾燥する。乾燥温度は室温か又は室温よりも若干高めがよく、25〜45℃程度が好ましい。乾燥時間は、1日程度でよい。この乾燥時に、空気中の水分又は感光性樹脂中に存在する水分の作用で、版面処理剤の加水分解性基が分解し、シラン系化合物同士、感光性樹脂中のポリビニルアルコールのOH基又は印刷版板の金属原子と結合し、感光性樹脂又は金属薄板よりなる版面と強固に接着するのである。
【0023】
版面と版面処理剤とを更に強固に接着させるために、溶液状版面処理剤を付与する前、予め版面に、シリカ系コーティング剤等の版面処理剤と結合しやすい物質を含浸塗布されておくことも、好ましいことである。シリカ系コーティング剤としては、ポリシラザンやコロイダルシリカ等を用いることができる。
【0024】
本発明に係るスクリーン印刷版は、スクリーン印刷版本体に、溶液状版面処理剤を付与した後、乾燥して、得ることができる。このスクリーン印刷版は、非画像部に残存している硬化した感光性樹脂表面(版面)又は非画像部を形成する金属薄板表面(版面)に、一般式(1)で表されるシラン系化合物を含有する版面処理剤が接着して被膜が形成され、この結果、版面の耐水性、撥水性及び撥油性が向上し、ひいては印刷時における印刷インキや半田ペーストの版面への回り込みが防止されるのである。そして、本発明に係るスクリーン印刷版は、スクリーン印刷版の裏面から印刷インキ等を供給しながら、その裏面をスキージするという従来公知の方法で、スクリーン印刷に使用されるのである。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る版面処理剤を用い、上記した方法でスクリーン印版版を得ると、これは、版面に一般式(1)で表されるシラン系化合物が強固に接着し、被膜が形成されてなるものである。そして、この被膜は耐水性、撥水性及び撥油性に優れている。したがって、本発明に係るスクリーン印刷版を使用してスクリーン印刷を繰り返し行っても、シラン系化合物よりなる被膜が剥離しにくく、版面への印刷インキや半田ペーストの回り込みを長期に亙って防止しうるという効果を奏する。よって、本発明に係るスクリーン印刷版を用いれば、長期に亙って多数枚の印刷を行っても、当初の印刷状態を維持した鮮明な印刷物が得られるという効果を奏する。
【0026】
また、本発明に係る版面処理剤を用いて得られた被膜は、動摩擦係数が0.06〜0.13程度で小さいという特徴を持っている。したがって、本発明に係る版面処理剤を用いて得られたスクリーン印刷版で印刷すると、印刷インキや半田ペーストがスクリーン印刷版を通過しやすくなり、印刷によって付与する印刷インキや半田ペーストの量を一定量に維持することができるという効果を奏する。すなわち、印刷インキや半田ペーストが、スクリーン印刷版の画像部(開孔部)の壁面に付着滞留して、付与量が少なくなることを防止しうるという効果を奏する。
【実施例】
【0027】
以下、実施例に基づいて、本発明は実施例に限定されるものではない。本発明は、一般式(1)で表されるシラン系化合物が、スクリーン印刷版の版面処理剤として優れているとの知見も基づくものとして、解釈されるべきである。
【0028】
実施例1
スクリーンとして250メッシュのテトロン織布を使用し、このスクリーンを枠に張設した。そして、このスクリーンの全面に、16重量%濃度のポリビニルアルコール水溶液62重量部と、酢酸ビニルエマルジョン38重量部とを混合した乳液に、ジアゾニウム塩水溶液を添加してなる水系感光性樹脂組成物(感光乳剤)を塗布し、乾燥してスクリーン印刷版材を得た。このスクリーン印刷版材は、スクリーンの片面に感光性樹脂層が形成されてなるものであった。そして、スクリーン印刷版材の感光性樹脂層上に、画像形成用ネガフィルムを置いて、真空焼枠にセットし、ケミカルランプにて露光した。その後、真空焼枠から取り外して、水現像し、次いで乾燥してスクリーン印刷版本体(A版,B版,C版,D版,E版及びF版の六枚)を得た。なお、このスクリーン印刷版本体に残存している硬化した感光性樹脂の膜厚は10μmであった。次に、A版の版面(感光性樹脂層の表面、すなわち、被印刷物に接する面)に、以下の溶液状版面処理剤を刷毛塗りにより、塗布した。塗布後、40℃の恒温室で24時間乾燥させて、スクリーン印刷版を得た。このスクリーン印刷版の版面の初期撥油性をノルマルヘキサデカンで測定したところ、接触角は71°であった。
[溶液状版面処理剤]
構造式(2)のシラン系化合物0.1gを、沸点76℃のハイドロフルオロエーテル100gに溶解させたもの。
【0029】
比較例1
実施例1で得られたスクリーン印刷版本体B版を使用し、版面処理剤による処理を行わないで、そのまま、スクリーン印刷版とした。このスクリーン印刷版の版面の初期撥油性を、実施例1と同様の方法で測定したところ、0°であった。
【0030】
実施例2
実施例1で得られたスクリーン印刷版本体C版を使用し、このC版の版面に、微量の酸触媒と共にポリシラザン1.0gをミネラルターペン99.0gに溶解したものを、刷毛塗りにより塗布した。その後、常温で10分間乾燥させ、ポリシラザン層を形成した。次いで、実施例1で用いた溶液状版面処理剤をC版の版面(ポリシラザン層の表面)に、刷毛塗りにより塗布した。塗布後、40℃の恒温室で24時間乾燥させて、スクリーン印刷版を得た。このスクリーン印刷版の版面の初期撥油性をノルマルヘキサデカンで測定したところ、接触角は74°であった。
【0031】
比較例2
実施例1で得られたスクリーン印刷版本体D版を使用し、このD版の版面に、以下の溶液状撥水撥油剤を刷毛塗りにより、塗布した。塗布後、40℃の恒温室で24時間乾燥させて、スクリーン印刷版を得た。このスクリーン印刷版の版面の初期撥油性をノルマルヘキサデカンで測定したところ、接触角は77°であった。
[溶液状撥水撥油剤]
パーフルオロアルキルアクリレート重合体2.0gを、沸点76℃のハイドロフルオロエーテル100gに溶解させたもの。
【0032】
比較例3
実施例1で得られたスクリーン印刷版本体E版を使用し、このE版の版面に、以下の溶液状撥水撥油剤を刷毛塗りにより、塗布した。塗布後、40℃の恒温室で24時間乾燥させて、スクリーン印刷版を得た。このスクリーン印刷版の版面の初期撥油性をノルマルヘキサデカンで測定したところ、接触角は63°であった。
[溶液状撥水撥油剤]
パーフルオロオクチルエチルトリメトキシシラン0.1gを、沸点76℃のハイドロフルオロエーテル100gに溶解させたもの。なお、パーフルオロオクチルエチルトリメトキシシランの動摩擦係数は0.34であった。
【0033】
比較例4
実施例1で得られたスクリーン印刷版本体F版を使用し、このF版の版面に、微量の酸触媒と共にポリシラザン1.0gをミネラルターペン99.0gに溶解したものを、刷毛塗りにより塗布した。その後、常温で10分間乾燥させ、ポリシラザン層を形成した。次いで、比較例3で用いた溶液状撥水撥油剤をF版の版面(ポリシラザン層の表面)に、刷毛塗りにより塗布した。塗布後、40℃の恒温室で24時間乾燥させて、スクリーン印刷版を得た。このスクリーン印刷版の版面の初期撥油性をノルマルヘキサデカンで測定したところ、接触角は70°であった。
【0034】
実施例1及び2、比較例1〜4で得られたスクリーン印刷版を用い、被印刷物としてテトロン布を用いて、捺染インキでスクリーン印刷を行った。このスクリーン印刷は、スクリーン印刷版の裏面から捺染インキを供給しながら、その裏面をスキージすることによって行った。その結果、実施例1及び2で得られたスクリーン印刷版は、初期印刷が鮮明で、さらに6000往復のスキージ操作をしても、テトロン布への印刷は良好に行え、印刷が不鮮明になるということはなかった。一方、比較例1で得られたスクリーン印刷版は、スキージ操作を繰り返すと、数回で印刷が不鮮明になった。また、比較例2で得られたスクリーン印刷版は、比較例1のものに比べると、印刷が不鮮明になる程度は低かったが、4000往復のスキージ操作を繰り返すと、印刷が不鮮明となった。さらに、比較例3及び4で得られたスクリーン印刷版は、比較例1及び2のものに比べると、長期に亙って印刷が鮮明に行えたが、スキージ操作が4500往復を超える時点で、徐々に印刷が不鮮明になった。
【0035】
実施例3
厚さ50μmで、大きさ450mm×450mmのSUS304板の片面を平均粗さが1.2μm程度に整面した。続いて、当該片面を脱脂し、稀酸で洗浄した後水洗して前処理を施した。このSUS304板の片面には画像形成レジスト膜を、他面には保護膜としてのドライフィルムレジストを積層した。次に、印刷されない領域として紫外線を透過する部分と、印刷される領域として紫外線を透過しない領域を持つ画像パターンを備えたガラスマスクを、画像形成レジスト膜上に置き、紫外線露光装置でUV露光した。一方、ドライフィルムレジスト面には全面露光をした。15分エージングした後、縦型現像機でアルカリ現像した後、水洗して画像形成レジスト膜にパターン形成をした。
【0036】
画像形成レジスト膜にパターン形成したSUS304板を、39%濃度の塩化第二鉄水溶液を含むエッチング液に浸漬し、ステンシル開孔部を形成した。その後、画像形成レジスト膜及びドライフィルムレジストを剥離液に浸漬して剥離除去した。最後に、480Aの電流を流しながら、60秒間電解研磨を行い、ステンシル加工した印刷版板を得た。この印刷版板を、♯100メッシュのポリエステル製紗と貼合して、550×650mmの大きさのアルミ枠の中央部に張設し、スクリーン印刷版本体(G版、H版及びI版の三枚)を得た。
【0037】
次に、G版の版面(ステンシル加工した印刷版板の被印刷物に接する面)に、微量の酸触媒と共にポリシラザン1.0gをミネラルターペン99.0gに溶解したものを、刷毛塗りにより塗布した。その後、常温で10分間乾燥させ、ポリシラザン層を形成した。次いで、実施例1で用いた溶液状版面処理剤をG版の版面(ポリシラザン層の表面)に、刷毛塗りにより塗布した。塗布後、40℃の恒温室で24時間乾燥させて、スクリーン印刷版を得た。このスクリーン印刷版の版面の初期撥油性をノルマルヘキサデカンで測定したところ、接触角は71°であった。
【0038】
比較例5
実施例3で得られたスクリーン印刷版本体H版を使用し、版面処理剤による処理を行わないで、そのまま、スクリーン印刷版とした。このスクリーン印刷版の版面の初期撥油性を、実施例3と同様の方法で測定したところ、0°であった。
【0039】
比較例6
実施例3で得られたスクリーン印刷版本体I版を使用し、このI版の版面(ステンシル加工した印刷版板の被印刷物に接する面)に、微量の酸触媒と共にポリシラザン1.0gをミネラルターペン99.0gに溶解したものを、刷毛塗りにより塗布した。その後、常温で10分間乾燥させ、ポリシラザン層を形成した。次いで、比較例3で用いた撥水撥油剤をI版の版面(ポリシラザン層の表面)に、刷毛塗りにより塗布した。塗布後、40℃の恒温室で24時間乾燥させて、スクリーン印刷版を得た。このスクリーン印刷版の版面の初期撥油性をノルマルヘキサデカンで測定したところ、接触角は64°であった。
【0040】
実施例3及び比較例5、6で得られたスクリーン印刷版を用い、被印刷物として実装前のプリント配線版を用いて、半田ペーストをスクリーン印刷した。このスクリーン印刷は、スクリーン印刷版の裏面から半田ペーストを供給しながら、その裏面をスキージすることによって行った。この結果、実施例3で得られたスクリーン印刷版を用いたものは、初期印刷が鮮明で、半田ペーストの滲みが少なく、印刷塗布量を多く良好であった。しかも、スキージ操作を3000往復繰り返しても、この効果は持続した。一方、比較例5で得られたスクリーン印刷版を用いたものは、初期印刷時においても半田ペーストの滲みが発生した。比較例6で得られたスクリーン印刷版を用いたものは、初期印刷は鮮明であったが、半田ペーストの印刷塗布量は実施例3のものより少なかった。また、スキージ操作を1000回繰り返すと、半田ペーストの滲みが発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるシラン系化合物を含有することを特徴とするスクリーン印刷版の版面処理剤。
【化1】

[Rfは、炭素数1〜16の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基を示す。
OAは、OCF2CF2CF2,OCF(CF3)CF2,OCF2CF2及びOCF2よりなる群から選ばれる1種以上の基を示す。
Xは、ヨウ素原子、臭素原子又は水素原子を示す。
Yは、水素原子又は低級アルキル基を示す。
R1は、加水分解性基を示す。
R2は、水素原子又は非加水分解性基を示す。
m及びnは、0〜2の整数を示す。
pは、1〜10の整数を示す。
qは、1又は2を示す。
rは、1〜200の整数を示す。]
【請求項2】
構造式(2)のシラン系化合物を含有することを特徴とするスクリーン印刷版の版面処理剤。
【化2】

【請求項3】
シラン系化合物の動摩擦係数が0.06〜0.13である請求項1記載のスクリーン印刷版の版面処理剤。
【請求項4】
請求項1記載の一般式(1)で表されるシラン系化合物又は請求項2記載の構造式(2)で表されるシラン系化合物を、溶剤に溶解させてなることを特徴とするスクリーン印刷版の溶液状版面処理剤。
【請求項5】
溶剤が、イソプロピルアルコール、アセトン、ハイドロフルオロエーテル類、パーフルオロポリエーテル類、ハイドロフルオロカーボン類、パーフルオロカーボン類、ハイドロフルオロポリエーテル類、フッ素系アルコール類よりなる群から選ばれたものである請求項4記載のスクリーン印刷版の溶液状版面処理剤。
【請求項6】
スクリーン印刷版本体を作成した後、請求項4記載の溶液状版面処理剤を、該スクリーン印刷版本体に付与した後、乾燥して、溶剤を蒸発させることを特徴とするスクリーン印刷版の製造方法。
【請求項7】
スクリーンに感光性樹脂組成物を塗布した後、該感光性樹脂組成物層上に画像形成用フィルムを置いて露光し、次いで現像することによってスクリーン印刷版本体を得る請求項6記載のスクリーン印刷版の製造方法。
【請求項8】
感光性樹脂組成物として、ポリビニルアルコールを含有しているものを用いる請求項7記載のスクリーン印刷版の製造方法。
【請求項9】
ステンシル加工された金属製薄板とスクリーンとを貼合することによってスクリーン印刷版本体を得る請求項6記載のスクリーン印刷版の製造方法。
【請求項10】
請求項6記載のスクリーン印刷版の製造方法において、溶液状版面処理剤をスクリーン印刷版本体に付与する前に、予め、版面にシリカ系コーティング剤を塗布しておく請求項6記載のスクリーン印刷版の製造方法。
【請求項11】
版面に、請求項1又は2記載の版面処理剤で形成された被膜が設けられているスクリーン印刷版。

【公開番号】特開2009−45867(P2009−45867A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−215240(P2007−215240)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(503121505)株式会社フロロテクノロジー (5)
【出願人】(594063614)株式会社栗田化学研究所 (2)
【Fターム(参考)】