説明

スクロール膨張機

【課題】スクロール膨張機に腐食性流体を供給した場合に生じるハウジング内機器類の発錆や、潤滑剤の流出、乳化等を低コストな手段で防止する。
【解決手段】回転軸36には発電機16が接続され、導入路66から高圧蒸気sが膨張室bに導入され、高圧蒸気sの膨張時のエネルギーにより旋回スクロール18が旋回されると、発電機16で回生電力が発生する。ハウジング12に入口開口44及び出口開口64が設けられ、回転軸36に送風羽根56が装着されている。送風羽根56が回転して入口開口44から外気aを取り込み、通風路62及び旋回スクロール18の背面側を通って、出口開口64から排出される。ハウジング12内に前記通風路を形成することで、高圧蒸気sを旋回スクロール18の背面側に来させないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導入される高圧流体が膨張室から流出して構成機器等に悪影響を及ぼすのを防止できるスクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール膨張機は、旋回スクロール及び固定スクロールの渦巻き状に形成されたラップを噛み合わせて形成した膨張室に高圧流体を導入し、高圧流体の膨張時のエネルギーによって旋回スクロールを旋回させるものである。そして、旋回スクロールの旋回運動を圧縮時のエネルギーとして利用したり、あるいは、旋回スクロールの旋回運動を回転軸を介して発電機に伝達し、回生電力を得るようにしている。
【0003】
スクロール膨張機は、タービン型膨張機と比べて、小規模な設備で、かつ小さな動力で駆動して、回生電力を得ることができるという利点がある。例えば、船内で、エンジンの熱により蒸気を製造し、高圧蒸気をスクロール膨張機に導入して、回生電力を得、その電力を船内で使用することができる。あるいは、地上の設備で、高圧蒸気を用いて得た電力を商用電源に供給することもできる。特許文献1には、かかる回生発電機を備えたスクロール膨張機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−32291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スクロール膨張機の旋回スクロール及び固定スクロールで形成される膨張室のシール面には、圧縮機で用いられるダストシールや、真空ポンプで用いられるPシール等のような、面圧を利用したダイナミックシールが用いられている。
該膨張室には、通常、0.5〜1.0MPa程度の高圧流体が導入され、この高圧流体が膨張して、仕事をした後、大気圧よりわずかな加圧状態で膨張室からハウジング外に排出される。このとき、旋回スクロールと固定スクロールのシール面から少量の漏れが発生する。
【0006】
高圧流体が水蒸気等である場合には、水蒸気が膨張室外に流出し、凝縮されると、回転軸や自転規制機構の軸受装置等が発錆したり、凝縮水がグリースなどの潤滑剤に混入し、潤滑剤の粘度が低下して、流出したり、あるいは潤滑剤が乳化する等の問題が発生する。膨張室のシール面を完全にシールするために、大掛かりなシール機構とする必要があり、そのようなシール機構は、旋回スクロールの高速旋回の下で、寿命が短縮してしまうという問題もある。
【0007】
そこで、本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、スクロール膨張機に腐食性流体を供給した場合に生じるハウジング内機器類の発錆や、潤滑剤の流出、乳化等を低コストな手段で防止できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため、本発明のスクロール膨張機は、
鏡板と該鏡板に立設された渦巻き状のラップとからなり、噛み合わされて膨張室を形成する固定スクロール及び旋回スクロールと、該旋回スクロールの自転を規制する自転規制機構と、旋回スクロールの旋回運動に連動して回転する回転軸と、該回転軸と連結されたて電力を回生する発電機とを備え、膨張室に流入した高圧流体の膨張エネルギーによって旋回スクロールを旋回させ電力を回生させるスクロール膨張機において、
旋回スクロールと発電機間のハウジングに設けられた入口開口と、固定スクロール側に設けられた出口開口と、該入口開口から回転軸の周囲を通り、旋回スクロールと固定スクロールとのシール面の外側を通って出口開口に至る通風路と、該通風路に入口開口から外気を導入する送風機とを備え、
該送風機によって入口開口から通風路を経由し出口開口に至る通風を形成させるように構成したものである。
【0009】
本発明装置では、送風機によって旋回スクロールの背面側からハウジング内に外気を導入し、旋回スクロール側から旋回スクロールと固定スクロールとのシール面の外側を通ってハウジング外に排出させる通風を形成させるようにしている。
この通風の風圧によって、該シール面から漏れた膨張後の流体は、旋回スクロールの背面側に向わずに、ハウジング外に排出されるので、腐食性流体による回転軸や自転規制機構の軸受装置等、機器類の発錆を防止できると共に、凝縮水が潤滑剤に混入して、潤滑剤の流出や乳化をもたらす現象を解消できる。
【0010】
本発明装置において、前記通風路が、旋回スクロールと連動する回転軸の軸受装置、旋回スクロールの自転規制機構の軸受装置、及び旋回スクロールと固定スクロールとのシール面の外周部に面して形成されるとよい。
【0011】
これによって、該シール面から漏れた膨張後の流体が前記軸受装置に向わずにハウジング外に排出されるので、該軸受装置の発錆を防止できると共に、ハウジング内に導入される外気によって、これら軸受装置を冷却することもできる。そのため、ハウジング内の機器類が高温高圧蒸気によって加熱されても、外気のよって冷却できるので、装置の信頼性を維持できる。
【0012】
本発明装置において、送風機が、前記回転軸に固定された送風羽根によって構成され、該回転軸と共に該送風羽根を回転させ、通風路の入口開口から外気を導入させるようにするとよい。これによって、送風機の駆動装置を別途設ける必要がなくなるので、送風機の構成を簡素化かつ低コストにできる。そのため、ハウジング内の通風路を確保するのが容易になる。
【0013】
本発明装置において、送風機をハウジングの外側で通風路の入口開口に面した位置に配設するようにしてもよい。このように、送風機をハウジング外に配設すれば、送風機がじゃまにならないので、ハウジング内での通風路の形成がさらに容易になる。また、送風機をハウジング外に配置することによって、送風機の保守点検が容易になる。
さらに、送風機の駆動モータの電力として、発電機で回生した電力を使うこともできる。これによって、送風機の必要電力を節減できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明装置によれば、鏡板と該鏡板に立設された渦巻き状のラップとからなり、噛み合わされて膨張室を形成する固定スクロール及び旋回スクロールと、該旋回スクロールの自転を規制する自転規制機構と、旋回スクロールの旋回運動に連動して回転する回転軸と、該回転軸と連結されたて電力を回生する発電機とを備え、膨張室に流入した高圧流体の膨張エネルギーによって旋回スクロールを旋回させ電力を回生させるスクロール膨張機において、旋回スクロールと発電機間のハウジングに設けられた入口開口と、固定スクロール側に設けられた出口開口と、該入口開口から回転軸の周囲を通り、旋回スクロールと固定スクロールとのシール面の外側を通って出口開口に至る通風路と、該通風路に入口開口から外気を導入する送風機とを備え、該送風機によって入口開口から通風路を経由し出口開口に至る通風を形成させるように構成したので、該シール面から漏れた膨張後の流体を、旋回スクロールの背面側に向わせずに、該背面側から離した状態でハウジング外に排出できる。
【0015】
そのため、旋回スクロールの背面側に配設された軸受装置等、機器類の発錆や潤滑剤に凝縮水等が混入して、潤滑剤の粘度を低下させることによる潤滑剤の流出させたり、又は潤滑剤が乳化する問題を解消できると共に、外気により機器類の冷却も合わせて行なうことができ、機器類の信頼性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明装置の第1実施形態の正面視断面図である。
【図2】図1中のA−A線に沿う断面図である。
【図3】図1中のB−B線に沿う断面図である。
【図4】本発明装置の第2実施形態の正面視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0018】
(実施形態1)
本発明装置の第1実施形態を図1〜図3に基づいて説明する。図1〜図3に示す本実施形態のスクロール膨張機10Aにおいて、ハウジング12の内部は、後述する入口開口58及び出口開口64を除いて、密閉されている。ハウジング12の上部に、発電機16を内蔵した発電機ケーシング14が連結されている。ハウジング12内の下部に旋回スクロール18及び固定スクロール24が設けられている。旋回スクロール18は、鏡板20と、鏡板20に立設された渦巻き状のラップ22とからなる。固定スクロール24は、鏡板26と、鏡板26に立設された渦巻き状のラップ28とからなる。
【0019】
旋回スクロール18のラップ22と固定スクロール24のラップ28とが向い合わせに配置されて、これらが互いに噛み合わされ、密閉された膨張室bを形成する。旋回スクロール18の鏡板20と固定スクロール24とが当接するシール面Cには、ダストシール29が介装されている。
【0020】
旋回スクロール18の背面には、支持板19が固設されている。支持板19の背面19aの中央部には、ボス部30が一体に形成されている。ボス部30には、スリーブ32を介して偏心軸34が嵌合されている。偏心軸34はその上部に一体に設けられた回転軸36に対して軸線が偏心した位置にある。図2中の偏心軸34に、回転軸36の回転中心Oが図示されている。
【0021】
回転軸36は、回転ころ軸受からなる軸受装置38及び発電機ケーシング14内に設けられた、回転ころ軸受からなる軸受装置40及び41で回転可能に支持されている。また、支持板19の背面19aに、旋回スクロール18の自転を規制し、旋回スクロール18を公転運動のみ行なわせる自転規制機構42が設けられている。
【0022】
この自転規制機構42は、ハウジング12に形成された軸収納部44に、ピンクランク軸46が、回転ころ軸受からなる軸受装置48を介して回転可能に支持されている。また、支持板19の背面19aに軸収納部50が一体に設けられ、ピンクランク軸46に対して軸線が偏心した位置に連結された偏心ピン50が、該軸収納部50に、回転ころ軸受からなる軸受装置54を介して回転可能に支持されている。
【0023】
また、軸受装置38と軸受装置40の間の回転軸36の外周面に、複数(4枚)の送風羽根56が装着されている。そして、送風羽根42の近傍のハウジング12に、周方向に複数の入口開口58が穿設されている。ハウジング12と一体に設けられ、図3に示すように、軸受装置38を支承する軸収納部60に、回転軸36の周方向に複数の円弧状の通風孔62が穿設されている。また、図2に示すように、固定スクロール24の外周面近傍のハウジング12に、周方向に複数の円形の出口開口64が穿設されている。
【0024】
かかる構成のスクロール膨張機10Aにおいて、固定スクロール24の中央部に設けられた高圧流体が、例えば、高圧蒸気sである場合、高圧蒸気sは膨張室bに供給され、その膨張時のエネルギーによって旋回スクロール18を旋回させる。旋回スクロール18は、自転規制機構42によってその自転運動が規制されているので、偏心軸34によって公転運動のみ行なう。旋回スクロール18が旋回することによって、回転軸36が回転し、回転軸36が回転することによって、発電機16のロータ16aが回転し、電力が発生する。
【0025】
また、回転軸36が回転することで、送風羽根56が回転する。送風羽根56が回転することによって、入口開口44から外気aがハウジング12の内部に導入される。ハウジング12内に導入された外気aは、通風孔62を通り、さらに、旋回スクロール18の背面18aに沿って流れると共に、自転規制機構42の周囲を通る。そして、さらに、旋回スクロール18及び固定スクロール24の外周部に沿って流れ、出口開口64からハウジング12の外部に排出される。
【0026】
本実施形態によれば、ハウジング12内に形成される外気aの流れの風圧によって、シール面Cから漏れた高圧蒸気sは、旋回スクロール18の背面側に向わずに、逆方向に向い、出口開口64からハウジング外に排出される。そのため、旋回スクロール18の背面側に配置された軸受装置38,40、48及び54等、ハウジング内機器類は、シール面Cから漏洩した蒸気sの凝縮水による発錆を生じない。また、該凝縮水が潤滑剤に混入して潤滑剤の粘度を低下させ、潤滑剤を流出させたり、あるいは潤滑剤を乳化させることがなくなる。
【0027】
また、外気aの流通路が、回転軸36の軸受装置38、自転規制機構42の軸受装置48,54、及びシール面Cの外周部に面して形成されているので、外気aによってこれら機器類を冷却できる付加的効果もある。そのため、高温高圧蒸気sによってハウジング12内の機器対が加熱されても、これら機器類の温度を低下させることができるので、機器類の信頼性を維持できる。
【0028】
また、送風羽根56が回転軸36に装着されているので、送風羽根56の駆動装置が不要になり、送風羽根56の構成を簡素化かつ低コストにできる。従って、ハウジング12内の外気aの通風路を確保するのが容易になる。
【0029】
(実施形態2)
次に、本発明装置の第2実施形態を図4により説明する。本実施形態のスクロール膨張機10Bでは、送風羽根72及び図示省略の駆動モータを備えた送風機70を、軸受装置38と発電機ケーシング14との間のハウジング12の外側壁に取付けたものである。そして、送風機70を取付けた領域のハウジング隔壁に、送風羽根72の直径に相当した大径の入口開口71を設けている。その他の構成は、第1実施形態と同一であるので、同一符号を付し、それら同一構成の機器類の説明を省略する。
【0030】
本実施形態によれば、送風機70をハウジング12の外側に配設したので、ハウジング12の内部で通風路の形成がさらに容易になる。また、送風機70をハウジング12の外側に配置することによって、送風機70の保守点検が容易になる。また、送風機70の駆動モータの電力として、発電機16で回生した電力を使うこともできる。これによって、送風機70の必要電力を節減できる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、スクロール膨張機に高圧流体として、腐食性流体を導入した場合でも、腐食性流体による内部機器類の発錆や潤滑剤の流出、乳化等を簡単かつ低コストな設備で防止できるスクロール膨張機を実現できる。
【符号の説明】
【0032】
10A、10B スクロール膨張機
12 ハウジング
14 発電機ケーシング
16 発電機
16a ロータ
18 旋回スクロール
19 支持板
19a 背面
20、26 鏡板
22、28 ラップ
24 固定スクロール
29 ダストシール
30 ボス部
32 スリーブ
34 偏心軸
36 回転軸
38、40、41、48、54 軸受装置
42 自転規制機構
44、50,60 軸収納部
46 ピンクランク軸
52 偏心ピン
56,72 送風羽根
58,71 入口開口
62 通風孔
64 出口開口
66 導入路
68 排出路
70 送風機
C シール面
a 外気
b 膨張室
s 高圧蒸気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡板と該鏡板に立設された渦巻き状のラップとからなり、噛み合わされて膨張室を形成する固定スクロール及び旋回スクロールと、該旋回スクロールの自転を規制する自転規制機構と、旋回スクロールの旋回運動に連動して回転する回転軸と、該回転軸と連結されたて電力を回生する発電機とを備え、膨張室に流入した高圧流体の膨張エネルギーによって旋回スクロールを旋回させ電力を回生させるスクロール膨張機において、
前記旋回スクロールと発電機間のハウジングに設けられた入口開口と、固定スクロール側に設けられた出口開口と、該入口開口から前記回転軸の周囲を通り、旋回スクロールと固定スクロールとのシール面の外側を通って出口開口に至る通風路と、該通風路に入口開口から外気を導入する送風機とを備え、
該送風機によって入口開口から通風路を経由し出口開口に至る通風を形成させるように構成したことを特徴とするスクロール膨張機。
【請求項2】
前記通風路が、前記回転軸の軸受装置、前記自転規制機構の軸受装置、及び前記シール面の外周部に面して形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール膨張機。
【請求項3】
前記送風機が、前記回転軸に固定された送風羽根によって構成され、該回転軸と共に該送風羽根を回転させ、前記入口開口から外気を導入させるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載のスクロール膨張機。
【請求項4】
前記送風機が前記ハウジングの外側で前記入口開口に面した位置に配設されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のスクロール膨張機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−252434(P2011−252434A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126762(P2010−126762)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(390028495)アネスト岩田株式会社 (224)