説明

スチレン改質直鎖状低密度ポリエチレン系発泡性樹脂粒子、予備発泡粒子及び発泡成形体

【課題】ポリエチレン系樹脂の本来の性質である優れた耐衝撃性を保ちつつ、剛性を改良し、更に加熱時の寸法安定性にも優れた発泡成形体を、ポリエチレン鎖を架橋することなく発泡成形体を与えるスチレン改質直鎖状低密度ポリエチレン系発泡性樹脂粒子を提供する。
【解決手段】無架橋で直鎖状の低密度ポリエチレン系樹脂成分100重量部に対して、ポリスチレン系樹脂成分50〜1000重量部を含有する基材樹脂と揮発性発泡剤とを含み、かつ前記低密度ポリエチレン系樹脂成分と前記ポリスチレン系樹脂成分とのグラフト重合体からなるゲル分が該基材樹脂中に2重量%未満含まれ、密度33kg/cm3に発泡成形させたときの発泡成形体が60cm以上の落球衝撃値を有するスチレン改質直鎖状低密度ポリエチレン系発泡性樹脂粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン改質直鎖状低密度ポリエチレン系発泡性樹脂粒子、予備発泡粒子及び発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリエチレン系樹脂の発泡体は、弾性が高く、耐油性、耐衝撃性に優れているので、包装資材として使用されている。しかし、剛性が低く圧縮強度が弱い等という短所を有している。一方、ポリスチレン系樹脂の発泡体は、剛性には優れているが、脆いという短所を有している。
【0003】
このような欠点を改良する方法として、特公昭51−46138号公報、特公昭52−10150号公報、特公昭58−53003号公報、特開昭62−59642号公報では、ポリエチレン系樹脂にスチレンモノマーを含浸させて重合を行い、スチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡粒子を得る方法が提案されている。これらの方法で用いられるポリエチレン系樹脂は、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等がほとんどで、ポリエチレン中へのスチレンの分散が不十分である。そのため、十分な剛性や耐衝撃性を得るにはポリエチレンを架橋する必要があり、架橋体からなるゲル分の発生が見られた。
【0004】
また、これらの問題を解決するため特許第2668384号では、無架橋で直鎖状の低密度ポリエチレン系樹脂粒子100重量部、ビニル芳香族モノマー5〜300重量部及び該モノマー100重量部に対して1〜3重量部の重合開始剤を水性媒体中に分散させ、得られた懸濁液を前記モノマーの重合が実質的に起こらない温度に加熱して、前記モノマーを前記ポリエチレン系樹脂粒子の内部及び表面に含浸せしめた後、温度を上昇させて前記モノマーの重合を行い、ビニル芳香族重合体をポリエチレン中にミクロ分散させることで、剛性及び耐衝撃性に優れた改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体を得る方法が提案されている。
【0005】
しかし、この方法によれば、全てのモノマーをポリエチレンに含浸させてから重合を行うため、ポリエチレンに対するモノマーの含有量には限界がある。そのため、多量のモノマーを含ませることを望む場合、ポリエチレンに含浸しきれずに、残ったモノマーの重合が進行し、多量の重合体粉末を発生するという問題がある。更に、ビニル芳香族重合体に対するポリエチレンの比率が高い場合、発泡剤の保持性に乏しいため、低密度化が困難である。また、使用する重合開始剤の量が1〜3重量部と多く、そのためビニル芳香族重合体の分子量は小さくなり十分な強度をもつ成形体を得ることは困難であった。
【0006】
また、この特許の実施例では、融点が122℃の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂粒子にスチレンモノマーを加えた後、115℃で重合を行うことが示されている(なお、この特許の実施例では、融点が明記されていないが、本発明の発明者等は、実施例に記載された樹脂粒子の商品名から、樹脂粒子が上記融点を示すことを確認している)。しかし、この温度で重合した場合、スチレンモノマーのポリエチレン鎖へのグラフト重合が起こりやすい。その結果として、得られる樹脂には架橋に由来するゲル分の発生はないが、グラフト重合に由来するゲル分の発生が見られた。ここで、グラフト重合体とは、ゲル分中にポリスチレンが存在する場合をいい、ポリスチレンが実質的に存在しない場合は架橋体である。
【0007】
スチレンモノマーをポリエチレン系樹脂に含浸重合させて得られる樹脂に発泡剤を含有させ、加熱成形して発泡成形品を得る場合、十分な剛性や耐衝撃性を得るためには上記のようにポリエチレンを架橋させる必要があった。しかし、発泡成形品を回収して再利用しようとした場合、その溶融樹脂には、架橋によって生じたゲル分が含まれているため、再利用が困難であった。
【0008】
このようなことから、ポリエチレンに対するスチレンモノマーの比率を広く変化させることができ、しかも架橋やグラフト重合に由来するゲル分の発生が少なく、十分な強度を有する発泡成形体を提供できるスチレン改質直鎖状低密度ポリエチレン系発泡性樹脂粒子の開発が期待されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、スチレンのポリエチレン鎖へのグラフト重合等に由来するゲル分の発生を極力抑えることによって、リサイクルが容易であり、しかも、耐衝撃性や物性の極めて優れた発泡成形体を与えるスチレン改質直鎖状低密度ポリエチレン系発泡性樹脂粒子を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者等は、上記目的を実現するため鋭意研究を重ねた結果、ポリエチレンとして直鎖状低密度ポリエチレンを使用し、スチレンモノマーを加えて、特定量の重合開始剤の存在下、特定の温度範囲で重合させることによって、無架橋であり、かつ、リサイクル性を阻害するゲル分が発生せず、ポリエチレンのもつ強靭性とポリスチレンの剛性を十分に発揮する発泡成形体を与えうるスチレン改質直鎖状低密度ポリエチレン系発泡性樹脂粒子を得られることを見いだし、本発明に至った。
【0011】
かくして本発明によれば、無架橋で直鎖状の低密度ポリエチレン系樹脂成分100重量部に対して、ポリスチレン系樹脂成分50〜1000重量部を含有する基材樹脂と揮発性発泡剤とを含み、かつ前記低密度ポリエチレン系樹脂成分と前記ポリスチレン系樹脂成分とのグラフト重合体からなるゲル分が該基材樹脂中に2重量%未満含まれ、密度33kg/cm3に発泡成形させたときの発泡成形体が60cm以上の落球衝撃値を有するスチレン改質直鎖状低密度ポリエチレン系発泡性樹脂粒子が提供される。
【0012】
更に、本発明によれば、上記スチレン改質直鎖状低密度ポリエチレン系発泡性樹脂粒子を予備発泡させて得られた嵩密度20〜200kg/m3の予備発泡粒子が提供される。
また、本発明によれば、上記予備発泡粒子を発泡成形させて得られた密度20〜200kg/m3の発泡成形体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
まず、本発明のスチレン改質直鎖状低密度ポリエチレン系発泡性樹脂粒子(以下、発泡性樹脂粒子と称する)は、無架橋で直鎖状の低密度ポリエチレン系樹脂成分及びポリスチレン系樹脂成分を含有する基材樹脂と揮発性発泡剤とを含む。
本発明において使用される無架橋で直鎖状の低密度ポリエチレン系樹脂成分(以下、単にポリエチレン系樹脂成分と称する)は、エチレンとα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。
【0014】
α−オレフィンとしては1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、1−オクテン等が挙げられる。この内、1−ブテン、1−ヘキセンが好ましい。
エチレンとα−オレフィンとの構成比は、所望する物性に応じて適宜変化してもよいが、1:0.01〜0.1(重量比)の範囲であることが好ましい。なお、低密度とは、0.910〜0.925g/mlの範囲を意味する。
【0015】
また、本発明の目的とする効果を阻害しない範囲で、架橋及び/又は分岐鎖を有する低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレンアクリル酸共重合体、これら2種以上を併用してもよい。
ポリスチレン系樹脂成分は、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン等のモノマー由来の樹脂成分が挙げられる。
【0016】
ポリスチレン系樹脂成分の量は、ポリエチレン系樹脂成分100重量部に対して50〜1000重量部、好ましくは100〜900重量部である。50重量部未満では、ポリスチレン系樹脂成分の剛性が良好であるという特性が発現し難い。また、揮発性発泡剤の保持性が極端に悪くなるため、低密度化が困難であり、発泡成形性にも乏しくなる。また、1000重量部を超える場合、ポリエチレン系樹脂成分の弾性が高く、耐油性、耐衝撃性が良好であるという特性が発現し難い。更に、ポリエチレン系樹脂成分の内部にスチレンが十分に吸収されず、スチレン自体が単独で重合するため、多量の重合体粉末を発生することとなる。
【0017】
特に、ポリスチレン系樹脂成分の量が300重量部以上の発泡性樹脂粒子は、従来の方法では、ポリスチレン系樹脂成分を均一に含む発泡性樹脂粒子を得ることが困難であるが、本発明では、それを得ることができる。
揮発性発泡剤としては、例えば、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、ヘキサン等の炭化水素を単独もしくは2種以上混合して用いることができる。
発泡剤の含有量は、発泡性樹脂粒子を構成する樹脂成分(ポリエチレン系樹脂成分及びポリスチレン系樹脂成分の合計)100重量部に対して、5〜10重量部であることが好ましい。
【0018】
更に、本発明では、ポリエチレン系樹脂成分とポリスチレン系樹脂成分とのグラフト重合体からなるゲル分が発泡性樹脂粒子の内、基材樹脂中に2重量%未満(ゲル分率)含まれている。ここで、ゲル分がグラフト重合体であることは、ゲル分中にポリスチレンが存在するか否かを判断基準とし、本発明では、ゲル分中にポリスチレンが、10重量%以上存在する場合をグラフト重合体であるとする。ゲル分中のポリスチレンの量の測定法は実施例に記載する。
【0019】
ゲル分率が、この範囲内であることによって、リサイクルが容易であり、しかも耐衝撃性をはじめとする物性の極めて優れた発泡成形体を与える発泡性樹脂粒子を提供できる。
ゲル分率が2重量%以上ではリサイクル等を目的として樹脂を押出機等で溶融混錬した場合、溶解しないゲル分が塊状のブツとなるため、押出機等でストランド状に押出した直後に、ストランドが不用意に切れ、その結果リサイクルが困難になるため好ましくない。より好ましいゲル分率は、1.8重量%以下である。なお、押出されたストランドは、通常、粒子状に切断されてリサイクルに付される。
【0020】
また、発泡性樹脂粒子は、粒子の長さをL、平均径をDとした場合のL/Dが0.6〜1.6である円筒状ないしは略球状であり、平均粒子径が0.3〜2.0mmであることが好ましい。
L/Dが0.6以下ないしは1.6以上のように扁平度が大きい場合は、スチレン改質発泡性樹脂粒子として予備発泡し、金型に充填して発泡成形体を得る際に、金型への充填性が悪くなるため好ましくない。
また形状は、充填性をよくするには略球状がより好ましい。
平均粒子径は0.3mm未満の場合、発泡剤の保持性が低くなり、低密度化が困難となるため好ましくない。2.0mmを超える場合、充填性が悪くなるだけでなく発泡成形体の薄肉化も困難となるため好ましくない。
【0021】
次に、本発明の発泡性樹脂粒子の製造方法を説明する。
まず、分散剤を含む水性懸濁液中に、ポリエチレン系樹脂粒子100重量部と、スチレン系モノマー50〜1000重量部と、前記スチレン系モノマー100重量部に対して0.1〜0.9重量部の重合開始剤とを分散させる。
【0022】
また、ここで使用するポリエチレン系樹脂粒子は、粒子の長さをL、平均径をDとした場合のL/Dが0.6〜1.6である円筒状ないしは略球状であり、平均粒子径が0.2〜1.5mmであることが好ましい。L/Dが0.6以下ないしは1.6以上のように扁平度が大きい場合は、スチレン改質発泡性樹脂粒子として予備発泡させ、金型に充填して発泡成形体を得る際に、金型への充填性が悪くなるため好ましくない。また形状は、充填性をよくするには略球状がより好ましい。平均粒子径は0.2mm未満の場合、発泡剤の保持性が低くなり、低密度化が困難となるため好ましくない。1.5mmを超える場合、充填性が悪くなるだけでなく発泡成形体の薄肉化も困難となるため好ましくない。
【0023】
水性懸濁液を構成する水性媒体としては、水、水と水溶性溶媒(例えば、低級アルコール)との混合媒体が挙げられる。
分散剤としては、特に限定されず、公知のものをいずれも使用することができる。具体的には、リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸ナトリウム、酸化マグネシウム等の難溶性無機物が挙げられる。
【0024】
重合開始剤としては、一般にスチレン系モノマーの懸濁重合開始剤として用いられているものが使用できる。例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサン、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチル−パーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート等の有機化過酸化物である。これらの重合開始剤は単独もしくは2種以上を併用してもよい。
【0025】
重合開始剤の使用量は、スチレン系モノマー100重量部に対して、0.1〜0.9重量部が好ましく、0.2〜0.5重量部がより好ましい。0.1重量部未満ではスチレンの重合がスムーズに行われず、その結果、樹脂粒子中のポリスチレンとポリエチレンの混合の均一性を損ない、重合体粉末の生成も多くなり好ましくない。0.9重量部を超える重合開始剤の使用は、ポリスチレン系樹脂成分の分子量を低くする。
【0026】
良好な物性を得るためにはポリスチレン系樹脂成分の分子量は20万〜40万程度が好ましいが、0.9重量部を超える量ではこれを下回るものしか得られない。
スチレン系モノマーは、ポリエチレン系樹脂粒子100重量部に対して、50〜1000重量部添加される。
【0027】
次に、得られた分散液をスチレン系モノマーが実質的に重合しない温度に加熱してスチレン系モノマーをポリエチレン系樹脂粒子に含浸させる。
ポリエチレン系樹脂粒子内部にスチレン系モノマーを含浸させる時間は、30分〜2時間が適当である。十分に含浸させる前に重合が進行するとポリスチレンの重合体粉末を生成してしまうからである。前記モノマーが実質的に重合しない温度とは、高い方が含浸速度を速めるには有利であるが、重合開始剤の分解温度を考慮して決定する必要がある。
【0028】
次いで、ポリエチレン系樹脂粒子の融点をT℃としたとき、(T−15)〜(T−8)℃もしくは(T+1)〜(T+5)℃の温度で、前記スチレン系モノマーの重合を行う。
重合温度が、(T−15)℃未満ではポリエチレンの結晶部分の融解が十分でなく、スチレン系モノマーの重合がポリエチレン系樹脂粒子内部で均等に行われないため好ましくない。(T−8)℃を超え(T+1)℃未満の温度範囲で重合を行った場合、得られた発泡性樹脂粒子のゲル分率が2重量%を超えるため好ましくない。
【0029】
また、重合開始剤の種類及び量と重合温度の選択によっては、ゲル分率が40重量%を超える場合がある。上記温度範囲は融点より少し低い温度であり、この温度では結晶はほとんど存在しないが、ポリマー鎖はフリーの状態ではないため、スチレン系モノマーはポリエチレン鎖へグラフト重合する確率が高くなるものと推定される。
【0030】
更に、(T+5)℃を超える温度では重合反応器の内圧が上昇するため、スチレン系モノマーの添加が困難になるばかりでなく、ゲル分も発生する。このような高温ではポリエチレン鎖の水素の引き抜きが起こりやすくなり、グラフト重合が進行しやすくなるためと推定している。
【0031】
最後に、重合中もしくは重合終了後の樹脂粒子に揮発性発泡剤を含浸することで、発泡性樹脂粒子を得ることができる。この含浸は、それ自体公知の方法により行うことができる。例えば、重合中での含浸は、重合反応を密閉式の容器中で行い、容器中に揮発性発泡剤を圧入することにより行うことができる。重合終了後の含浸は、密閉式の容器中で、揮発性発泡剤を圧入することにより行われる。含浸を密閉式の容器中で行いさえすれば、重合用の容器は密閉式の容器でなくてもよい。
【0032】
上記方法により良好な特性の発泡性樹脂粒子を得ることができるが、ポリエチレン系樹脂粒子100重量部に対するスチレン系モノマーが300重量部を超える場合、ポリスチレンの重合体粉末が多くなる傾向にある。
換言すれば、上記方法において、ポリエチレン樹脂粒子100重量部に対するスチレンモノマーが50〜300重量部であるときは、ポリスチレンの重合体粉末の発生は少なく、最も安定した良好な特性を有する発泡性樹脂粒子を容易に得ることができる。
【0033】
スチレン系モノマーが300重量部を超える場合、重合体粉末の発生を極力少なくするためには、以下のようにスチレン系モノマーを2段階に分けてポリエチレン系樹脂粒子に含浸させることが好ましい。
まず、分散剤を含む水性懸濁液中に、ポリエチレン系樹脂粒子100重量部と、スチレン系モノマー30〜300重量部と、前記スチレン系モノマー100重量部に対して0.1〜0.9重量部の重合開始剤とを分散させる。
次に、得られた分散液をスチレン系モノマーが実質的に重合しない温度に加熱して前記スチレン系モノマーを前記ポリエチレン系樹脂粒子に含浸させる。
【0034】
更に、前記ポリエチレン系樹脂粒子の融点をT℃としたとき、(T−15)〜(T−8)℃もしくは(T+1)〜(T+5)℃の温度で、前記スチレン系モノマーの第1の重合を行う。
次に、重合転化率が80〜99.9%に達したときに、スチレン系モノマーと、スチレン系モノマー100重量部に対して0.1〜0.9重量部の重合開始剤を加え、かつ前記低密度ポリエチレン系樹脂粒子の融点をT℃としたとき、(T−15)〜(T−8)℃、もしくは(T+1)〜(T+5)℃の温度とすることで、前記低密度ポリエチレン系樹脂粒子への前記スチレン系モノマーの含浸と第2の重合とが行われる。但し、ポリエチレン樹脂粒子100重量部に対し、第1の重合と第2の重合で使用するスチレン系モノマーの合計は、50〜1000重量部である。
【0035】
重合転化率が80%に達していれば、300重量部を超えるスチレン系モノマーを添加した時、ポリエチレン系樹脂粒子中に速やかに含浸及び重合が行われるため、ポリスチレンの重合体粉末の発生を抑えることができる。重合転化率が99.9%を超えると、添加されたスチレン系モノマーは含浸されにくくなり、重合速度も低下するため重合体粉末の発生を抑えにくくなる。
【0036】
2回目のスチレン系モノマーと重合開始剤とを含む混合液の添加方法は、連続的でも断続的でもよいが、重合体粉末の生成を防ぐためには、ポリエチレン系樹脂粒子内部への含浸と重合を、ほぼ同時に行うことが好ましい。比較的高い温度での重合であるため、あまり添加速度が速いと含浸される前に重合が進んでしまうため好ましくない。極端に遅い添加速度は重合を妨げるため好ましくない。例えば、添加速度は、300〜1000重量部を添加するのに3〜5時間である。
最後に、前記と同様にして、重合中もしくは重合終了後の樹脂粒子に揮発性発泡剤を含浸することで発泡性樹脂粒子を得ることができる。
【0037】
上記のようにして得られた本発明の発泡性樹脂粒子は、公知の方法で所定の嵩密度(例えば、20〜200kg/m3)に予備発泡させることで予備発泡粒子とすることができる。嵩密度の測定法は、実施例に記載する。
更に、予備発泡粒子を金型内に充填し、再度加熱して予備発泡粒子を発泡させながら、発泡粒同士を熱融着させることで、発泡成形体を得ることができる。
【0038】
加熱用の媒体は水蒸気が好適に使用される。発泡成形体の密度は20〜200kg/m3が好ましい。20kg/m3より低密度にすると十分な強度が得られにくく、200kg/m3より高密度では軽量化ができないことや、ポリエチレン発泡成形体の特徴のひとつである弾性等が十分に発揮できない場合があるため好ましくない。
得られた発泡成形体は強靭であり、衝撃強度に優れたものである。また、スチレンで改質されているため剛性も高い。
【0039】
発泡成形体の落球衝撃値は、60cm以上であることが好ましい。落球衝撃値が60cm未満の成形体でも使用することは可能であるが、60cm以上であれば容易に割れ欠けを生じることがなく、輸送箱等に使用することができる。より好ましくは、70cm以上である。なお、落球衝撃値の測定法は、実施例に記載する。
本発明の発泡成形体は、種々の用途に使用できるが、特に自動車内装材、バンパー内部に装着されるエネルギー吸収材、重量物の梱包材等に好適に使用できる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の各種値の測定方法を下記する。
(粉末量の測定)
粉末量の測定にあたっては、まず、重合スラリーのサンプルを、上部に35メッシュの金網を貼り付けた通水孔を有するポリビーカーに約1000g計量する。これに洗浄水約6リットルを徐々に流し込み、上部通水孔から流れ出た液を採取する。この液をガラス繊維ろ紙(GA−100)で濾過し、60℃のオーブン中で3時間乾燥させた後、乾いた重合体粉末の重量を測定する。また、洗浄後のスラリーサンプルに残っている樹脂も乾燥させてその重量を測定し、下式により粉末量を求める。
【0041】
【数1】

【0042】
(ゲル分率の測定)
ゲル分率の測定にあたっては、まず、樹脂粒子の試料を計量し、フラスコに入れ、トルエン100mlを加えた後、130℃のオイルバス中にて24時間かけて溶解させる。オイルバスより取り出した後、直ちに80メッシュ(φ0.12mm)の金網にて濾過し、金網上に残った沸騰トルエンに不溶の試料と金網を130℃のオーブン中に1時間放置してトルエンを除去乾燥し、残った固形物の重量を測定する。ゲル分率は次式で求められる。
【0043】
【数2】

【0044】
残った固形物を約200μg精秤し、強磁性金属体(パイロホイル:日本分析工業社製)に圧着するように包み、熱分解装置キューリーポイントパイロライザーJHP−3型(日本分析工業社製)を用いて分解生成物を発生させた。分解生成物を、ガスクロマトグラフAuto System(パーキンエルマー社製)を用いて分析し、分析結果からポリスチレン量を算出した。その分析条件は、590℃の熱分解温度−5set、オーブン温度280℃、ニードル温度300℃で、カラムはDB−5(0.25μm×φ0.25mm×30m J&W社製)を用いた。カラム温度条件は、50℃(1分)→昇温10℃/分→100℃→昇温40℃/分→320℃(3.5分)で、キャリアーガスHe、キャリアー流量1ml/分、カラム入口圧力12psi、注入口温度300℃、検出器温度300℃、検出器FIDとした。定量は標準試料に旭化成社製ポリスチレン樹脂QC254を用いた絶対検量線法による。
なお、ポリスチレン量が10重量%以上の場合、ゲル分が架橋体でなく、実質的にグラフト重合体からなると判断した。
【0045】
(樹脂粒子中のポリスチレン樹脂成分の分子量の測定)
重合体の平均分子量(Mw)は、GPC(Gel Permeation Chromatography)によって以下の条件で測定した。
測定装置:東ソー社製 高速GPC装置 HLC−8020
カラム:積水ファインケミカル社製 HSG−60S×2本 HSG−40H×1本 HSG−20H×1本
測定条件:カラム温度:40℃
移動相:THF(テトラハイドロフラン)
流量:1.0ml/分
注入量:500ml
検出器:東ソー社製 RID−6A
試料の分子量測定:試料の分子量測定に当たっては、該試料の有する分子量分布が、数種の単分散ポリスチレン標準試料により作製された分子量の対数とカウント数からなる検量線が直線となる範囲内に包含される測定条件を選択した。
また、本発明において、ポリスチレンの検量線は、重量平均分子量が2.74×103、1.91×104、1.02×105、3.55×105、2.89×106、4.48×106である東ソー社製の6個のポリスチレン標準試料(TSKスタンダードポリスチレン)を用いて作製した。
【0046】
(嵩密度の測定)
JIS K 6911:1995「熱硬化性プラスチック一般試験方法」記載の方法に準拠して測定した。具体的には、見かけ密度測定器により予備発泡粒子をメスシリンダー内に自然落下させ、その重量を測定し、次式により算出する。
嵩密度(kg/m3)=重量(kg)/メスシリンダー内の粒子容積(m3
【0047】
(発泡成形体密度の測定)
発泡成形体密度は、JIS A 9511:1995「発泡プラスチック保温板」記載の方法で測定した。
【0048】
(衝撃強度の測定)
衝撃強度の測定にあたっては、発泡成形体を、215×40×20mmの大きさにカットしたサンプルを作製した。次にこのサンプルを、155mmのスパンで配置された一対の保持部材上に載置したのち、両保持部材の中間位置でかつサンプルの幅方向の中心位置に、所定の高さから重さ321gの鋼球を落下させて、サンプルの破壊の有無を確認した。
この試験は、鋼球を落下させる高さを変えて繰り返し行い、サンプルが破壊された高さの最低値を落球衝撃値とし、衝撃強度を評価した。従って、落球衝撃値が高いほど衝撃強度は高くなる。
【0049】
(圧縮強度の測定)
圧縮強度は、JIS A9511:1995「発泡プラスチック保温材」記載の方法により測定した。すなわち、テンシロン万能試験機UCT−10T(オリエンテック社製)を用いて、試験体サイズは50×50×50mmで圧縮速度を10mm/分として5%圧縮時の圧縮強度を測定した。
【0050】
(リサイクル性の評価基準)
リサイクル性の評価は、押出機(圧縮混錬単軸押出機:CER−40 星プラスチック社製、目皿:φ2mm×1穴)に、得られたスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子及び発泡成形体を投入して押出す場合、1時間あたりにストランドが切断される回数を測定し、5回以上/1時間を×、5回未満/1時間を○とした。測定結果は、ゲル分率が2重量%以上の時は×、ゲル分率が2重量%未満の時は○であった。
【0051】
実施例1
(ポリエチレン系樹脂粒子の作製)
直鎖状低密度ポリエチレン(エチレン・ヘキセン共重合体、メルトインデックス1.0g/10分、密度0.921g/ml、融点126℃)を押出機にて造粒し、L/D=0.9、平均粒径が0.8mmの略球状のポリエチレン系樹脂粒子を得た。なお、造粒時に気泡調整剤として、前記ポリエチレン100重量部に対して0.5重量部のタルクを添加した。
【0052】
(スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子の作製)
内容積100リットルのオートクレーブに純水40kg、分散剤としてピロリン酸マグネシウム200g、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ20gを加えて水性媒質とし、次に、これに前記ポリエチレン系樹脂粒子14kgを懸濁させ、回転数150rpmで撹拌した。
【0053】
これにスチレンモノマー26kg(ポリエチレン100重量部に対して185重量部)と重合開始剤としてt−ブチルパーオキシベンゾエート(TBPB)78g(スチレンモノマー100重量部に対して0.3重量部)を含んだ混合液を加え、60℃の温度で60分間放置し、ポリエチレン系樹脂粒子中にスチレンモノマーを含浸させた。
【0054】
その後、117℃に昇温し4時間重合させた。更に、140℃の温度に昇温して2時間維持し、残存モノマーを強制重合させて減少させた後、冷却してスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子を取り出した。重合スラリー中に含まれる粉末量は0.3重量%であり、得られた樹脂粒子のゲル分率は0.3重量%であった。ゲル分中のポリスチレン量は23.3重量%であった。ポリスチレン樹脂成分の分子量は約32万であった。
【0055】
(スチレン改質ポリエチレン系発泡性樹脂粒子の作製及びその発泡・成形評価)
内容積50リットルの耐圧で密閉可能なV型ブレンダーに、上記スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子20kg、トルエン400gを投入し、密閉してから回転させブタン(n−ブタン:i−ブタン=7:3、体積比、以下同じ)2800gを圧入した。そして、70℃の温度に昇温して4時間維持してブタンを含浸させ後、冷却してスチレン改質ポリエチレン系発泡性樹脂粒子を取り出した。
【0056】
取り出した発泡性樹脂粒子は、直ちに水蒸気で嵩密度33kg/m3に予備発泡させた。約24時間後、この予備発泡粒子を金型内に充填し、蒸気により加熱して予備発泡粒子を発泡させながら、発泡粒子同士を熱融着させ、密度33kg/m3の発泡成形体を得た。発泡成形体の落球衝撃値は80cmと高く、強度に優れたものであった。また、圧縮強度は、34N/cm2であった。
【0057】
実施例2
内容積100リットルのオートクレーブに純水40kg、分散剤としてピロリン酸マグネシウム200g、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ20gを加えて水性媒質とし、実施例1で得られたポリエチレン系樹脂粒子6kgを懸濁させ、回転数150rpmで撹拌した。
【0058】
これにスチレンモノマー12kg(ポリエチレン100重量部に対して200重量部)と重合開始剤としてt−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート(TBPOEHC)36g(スチレンモノマー100重量部に対して0.3重量部)を含んだ混合液を加え、60℃の温度で60分間放置し、ポリエチレン系樹脂粒子中にスチレンモノマーを含浸させた。
【0059】
その後、115℃に昇温し3時間重合させた。スチレンモノマーの重合転化率が85%に達した後、115℃の温度で、スチレンモノマー22kg(ポリエチレン100重量部に対して366重量部)と重合開始剤としてTBPOEHC66g(スチレンモノマー100重量部に対して0.3重量部)を含んだ混合液を4時間かけて加え、ポリエチレン内部にスチレンモノマーを含浸させながら重合を行った。その後140℃の温度に昇温して2時間維持し、残存モノマーを強制重合させて減少させた後、冷却してスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子を取り出した。
【0060】
重合スラリー中に含まれる粉末量は0.7重量%であり、得られた樹脂粒子のゲル分率は0.9重量%であった。ゲル分中のポリスチレン量は22.2重量%であり、ポリスチレン樹脂成分の分子量は約32万であった。また実施例1と同様にして発泡性樹脂粒子を直ちに水蒸気で嵩密度33kg/m3に予備発泡させて予備発泡粒子を得た。この予備発泡粒子を実施例1と同様に発泡成形して得られた発泡成形体の密度は33kg/m3であり、落球衝撃値は70cmと高く強度に優れたものであった。また、圧縮強度は、42N/cm2であった。
【0061】
実施例3
ポリエチレン系樹脂粒子を20kg、スチレンモノマーを20kg(ポリエチレン100重量部に対して100重量部)、TBPB60g(スチレンモノマー100重量部に対して0.3重量部)とし、重合の温度を115℃としたこと以外は実施例1と同様にして反応を進め、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子、予備発泡粒子及び発泡成形体を得た。
【0062】
重合スラリー中に含まれる粉末量は0.3重量%であり、得られた樹脂粒子のゲル分は0.6重量%であった。ゲル分中のポリスチレン量は25.0重量%であった。ポリスチレン樹脂成分の分子量は約30万であった。また得られた予備発泡粒子の嵩密度は33kg/m3、発泡成形体の密度は33kg/m3であり、落球衝撃値は90cmと高く、強度に優れたものであった。また、圧縮強度は、30N/cm2であった。
【0063】
実施例4
重合開始剤としてジクミルパーオキサイド(DCP)を用い、重合温度を130℃としたこと以外、実施例1と同様にして反応を進め、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子、予備発泡粒子及び発泡成形体を得た。
重合スラリー中に含まれる粉末量は0.6重量%であり、得られた樹脂粒子のゲル分率は0.8重量%であった。ゲル分中のポリスチレン量は18.7重量%であった。ポリスチレン樹脂成分の分子量は約27万であった。また得られた予備発泡粒子の嵩密度は33kg/m3、発泡成形体の密度は33kg/m3であり、落球衝撃値は85cmと高く、強度に優れたものであった。また、圧縮強度は、35N/cm2であった。
【0064】
実施例5
重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート(TBPOTMH)を156g(スチレンモノマー100重量部に対して0.6重量部)用いたこと以外は、実施例1と同様にして反応を進め、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子、予備発泡粒子及び発泡成形体を得た。
重合スラリー中に含まれる粉末量は0.3重量%であり、得られた樹脂粒子のゲル分率は0.4重量%であった。ゲル分中のポリスチレン量は25.0重量%であった。ポリスチレン樹脂成分の分子量は約25万であった。また得られた予備発泡粒子の嵩密度は33kg/m3、発泡成形体の密度は33kg/m3であり、落球衝撃値は80cmと高く、強度に優れたものであった。また、圧縮強度は、32N/cm2であった。
【0065】
実施例6
ポリエチレン系樹脂粒子11.5kg、スチレンモノマーを28.5kg(ポリエチレン100重量部に対して250重量部)としたこと以外は、実施例1と同様にして反応を進めスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子、予備発泡粒子及び発泡成形体を得た。
重合スラリーに含まれる粉末量は0.8重量%であり、得られた樹脂粒子のゲル分率は0.7重量%であった。ゲル分中のポリスチレン量は15.7重量%であった。得られたポリスチレン樹脂成分の分子量は約32万であった。また得られた予備発泡粒子の嵩密度は33kg/m3、発泡成形体の密度は33kg/m3であり、落球衝撃値は80cmと高く、強度に優れたものであった。また、圧縮強度は36N/cm2であった。
【0066】
実施例7
内容積100リットルのオートクレーブに純水40kg、分散剤としてピロリン酸マグネシウム200g、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ20gを加えて水性媒質とし、実施例1で得られたポリエチレン系樹脂粒子10kgを懸濁させ、回転数150rpmで攪拌した。
これに、スチレンモノマー4kg(ポリエチレン系樹脂粒子100重量部に対して40重量部)と重合開始剤としてDCP12g(スチレンモノマー100重量部に対して0.3重量部)を含んだ混合液を加え、60℃で60分間放置し、ポリエチレン系樹脂粒子中にスチレンモノマーを含浸させた。
【0067】
更に、130℃に昇温して3時間重合させた。スチレンモノマーの重合転化率が90%に達した後、115℃の温度でスチレンモノマー26kg(ポリエチレン100重量部に対して260重量部)と重合開始剤としてTBPOEHC78g(スチレンモノマー100重量部に対して0.3重量部)を含んだ混合液を4時間かけて加えることで、ポリエチレン内部にスチレンを含浸させながら重合を行った。その後、140℃に昇温して2時間維持し、残存モノマーを強制重合させて減少させた後、冷却してスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子を得た。また、実施例1と同様に予備発泡粒子及び発泡成形体を得た。
【0068】
重合スラリーに含まれる粉末量は0.6重量%であり、得られた樹脂粒子のゲル分率は0.5重量%であった。ゲル分中のポリスチレン量は16.0重量%であり、ポリスチレン樹脂成分の分子量は約32万であった。また実施例1と同様にして得られた予備発泡粒子の嵩密度は33kg/m3、発泡成形体の密度は33kg/m3であり、落球衝撃値は75cmと高く、強度に優れたものであった。また、圧縮強度は38N/cm2であった。
【0069】
実施例8
内容積100リットルのオートクレーブに純水40kg、分散剤としてピロリン酸マグネシウム200g、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ20gを加えて水性媒質とし、実施例1で得られたポリエチレン系樹脂粒子4.4kgを懸濁させ、回転数150rpmで攪拌した。
これに、スチレンモノマー4.4kg(ポリエチレン系樹脂粒子100重量部に対して100重量部)と重合開始剤としてDCP13.2g(スチレンモノマー100重量部に対して0.3重量部)を含んだ混合液を加え、60℃で60分間放置してポリエチレン系樹脂粒子中にスチレンモノマーを含浸させた。
【0070】
更に、130℃に昇温して3時間重合させた。スチレンモノマーの重合転化率が90%に達した後、115℃の温度でスチレンモノマー31.2kg(ポリエチレン100重量部に対して700重量部)と重合開始剤としてTBPOEHC93.6g(スチレンモノマー100重量部に対して0.3重量部)を含んだ混合液を5時間かけて加えることで、ポリエチレン内部にスチレンを含浸させながら重合を行った。その後、140℃に昇温して2時間維持し、残存モノマーを強制重合させて減少させた後、冷却してスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子を得た。また、実施例1と同様にして予備発泡粒子及び発泡成形体を得た。
【0071】
重合スラリーに含まれる粉末量は0.9重量%であり、得られた樹脂粒子のゲル分率は0.8重量%であり、ゲル分中のポリスチレン量は15.0重量%であった。ポリスチレン樹脂成分の分子量は約32万であった。また実施例1と同様にして得られた発泡成形体の密度は33kg/m3であり、落球衝撃値は65cmと高く、強度に優れたものであった。また、圧縮強度は45N/cm2であった。
【0072】
実施例9
内容積100リットルのオートクレーブに純水40kg、分散剤としてピロリン酸マグネシウム200g、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ20gを加えて水性媒質とし、実施例1で得られたポリエチレン系樹脂粒子14kgを懸濁させ、回転数150rpmで攪拌した。
これに、スチレンモノマー5.6kg(ポリエチレン100重量部に対して40重量部)と重合開始剤としてDCP13.4g(スチレンモノマー100重量部に対して0.24重量部)を含んだ混合液を加え、60℃で60分間放置し、ポリエチレン系樹脂粒子中にスチレンモノマーを含浸させた。
【0073】
更に、130℃に昇温して3時間重合させた。スチレンモノマーの重合転化率が90%に達した後、117℃の温度でスチレンモノマー20.4kg(ポリエチレン100重量部に対して145重量部)と重合開始剤としてTBPOEHC49g(スチレンモノマー100重量部に対して0.24重量部)を含んだ混合液を4時間かけて加えることで、ポリエチレン内部にスチレンを含浸させながら重合を行った。その後、140℃に昇温して2時間維持し、残存モノマーを強制重合させて減少させた後、冷却してスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子を得た。また、実施例1と同様にして予備発泡粒子及び発泡成形体を得た。
【0074】
重合スラリーに含まれる粉末量は0.2重量%であり、得られた樹脂粒子のゲル分率は0.3重量%であり、ゲル分中のポリスチレン量は16.6重量%であった。得られたポリスチレン樹脂成分の分子量は約32万であった。また、実施例1と同様にして得られた予備発泡粒子の嵩密度は33kg/m3、発泡成形体の密度は33kg/m3であり、落球衝撃値は80cmと高く、強度に優れたものであった。また、圧縮強度は35N/cm2であった。
【0075】
比較例1
ポリエチレン系樹脂粒子を31kg、スチレンモノマーを9kg(ポリエチレン100重量部に対して30重量部)、重合開始剤としてTBPOTMH27g(スチレンモノマー100重量部に対して0.3重量部)を使用したこと以外は実施例1と同様にして反応を進め、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子を得た。
重合スラリー中に含まれる粉末量は0.6重量%であった。得られた樹脂粒子のゲル分率は2.1重量%であり、ゲル分中のポリスチレン量は23.8重量%であった。実施例1と同様の方法で予備発泡粒子及び発泡成形体を得ようとしたが、ガスの保持性に乏しく嵩密度33kg/m3の予備発泡粒子及び33kg/m3の密度の発泡成形品を得ることができなかった。
【0076】
比較例2
重合温度を119℃としたこと以外、実施例1と同様にして反応を進め、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子、予備発泡粒子及び発泡成形体を得た。重合スラリー中に含まれる粉末量は0.7重量%であった。樹脂粒子のゲル分率は6.5重量%であり、ゲル分中のポリスチレン量は21.5重量%であった。ポリスチレン樹脂成分の分子量は約27万であった。得られた予備発泡粒子の嵩密度は33kg/m3、発泡成形体の密度は33kg/m3であり、落球衝撃値は90cmと高く強度に優れたものであったが、樹脂粒子のゲル分率が高く、リサイクルして使用するのは困難であった。また、圧縮強度は38N/cm2であった。
【0077】
比較例3
重合温度を121℃としたこと以外、実施例1と同様にして反応を進め、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子、予備発泡粒子及び発泡成形体を得た。重合スラリー中に含まれる粉末量は0.8重量%であった。樹脂粒子のゲル分率は25.0重量%であり、ゲル分中のポリスチレン量は24.0重量%であった。ポリスチレン樹脂成分の分子量は約26万であった。得られた予備発泡粒子の嵩密度は33kg/m3、発泡成形体の密度は33kg/m3であり、落球衝撃値は100cmと高く強度に優れたものであったが、樹脂粒子のゲル分率が高く、リサイクルして使用するのは困難であった。また、圧縮強度は、40N/cm2であった。
【0078】
比較例4
重合温度を122℃としたこと以外、実施例1と同様にして反応を進め、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子、予備発泡粒子及び発泡成形体を得た。重合スラリー中に含まれる粉末量は0.7重量%であった。樹脂粒子のゲル分率は32.2重量%と高く、ゲル分中のポリスチレン量は26.4重量%であった。ポリスチレン樹脂成分の分子量は約25万であった。得られた予備発泡粒子の嵩密度は33kg/m3、発泡成形体の密度は33kg/m3であり、落球衝撃値は100cmと高く強度に優れたものであったが、樹脂粒子のゲル分率が高く、リサイクルして使用するのは困難であった。また、圧縮強度は、42N/cm2であった。
【0079】
比較例5
重合温度を123℃としたこと以外、実施例1と同様にして反応を進め、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子、予備発泡粒子及び発泡成形体を得た。重合スラリー中に含まれる粉末量は0.6重量%であった。樹脂粒子のゲル分率は19.6重量%であり、ゲル分中のポリスチレン量は26.5重量%であった。ポリスチレン樹脂成分の分子量は約26万であった。得られた予備発泡粒子の嵩密度は33kg/m3、発泡成形体の密度は33kg/m3であり、落球衝撃値は95cmと高く強度に優れたものであったが、樹脂粒子のゲル分率が高く、リサイクルして使用するのは困難であった。また、圧縮強度は、40N/cm2であった。
【0080】
比較例6
重合温度を125℃としたこと以外、実施例1と同様にして反応を進め、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子、予備発泡粒子及び発泡成形体を得た。重合スラリー中に含まれる粉末量は0.5重量%であった。樹脂粒子のゲル分率は4.6重量%であり、ゲル分中のポリスチレン量は23.9重量%であった。ポリスチレン樹脂成分の分子量は約26万であった。得られた予備発泡粒子の嵩密度は33kg/m3、発泡成形体の密度は33kg/m3であり、落球衝撃値は90cmと高く強度に優れたものであったが、樹脂粒子のゲル分率が高く、リサイクルして使用するのは困難であった。また、圧縮強度は、38N/cm2であった。
【0081】
比較例7
重合温度を135℃としたこと以外、実施例1と同様にして反応を進め、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子、予備発泡粒子及び発泡成形体を得た。重合スラリー中に含まれる粉末量は0.5重量%であった。樹脂粒子のゲル分率は5.2重量%であり、ゲル分中のポリスチレン量は25.0重量%であった。ポリスチレン樹脂成分の分子量は約22万であった。得られた予備発泡粒子の嵩密度は33kg/m3、発泡成形体の密度は33kg/m3であり、落球衝撃値は90cmと高く、強度に優れたものであったが、樹脂粒子のゲル分率が高く、リサイクルして使用するのは困難であった。また、圧縮強度は、38N/cm2であった。
【0082】
比較例8
重合開始剤量を312g(スチレンモノマー100重量部に対して1.2重量部)としたこと以外、比較例2と同様にして反応を進め、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子、予備発泡粒子及び発泡成形体を得た。重合スラリー中に含まれる粉末量は0.6重量%であり樹脂粒子のゲル分率は4.5重量%であり、ゲル分中のポリスチレン量は22.2重量%であった。ポリスチレン樹脂成分の分子量は約15万と低く、スチレンモノマーの重合がポリエチレン中で均一に行われなかったことが予想される。得られた予備発泡粒子の嵩密度は33kg/m3、発泡成形体の密度は33kg/m3であった。スチレンモノマーの重合がポリエチレン中で均一に行われなかったためか落球衝撃値も35cmであり強度に乏しいものであった。また、圧縮強度は、28N/cm2であった。更に、リサイクルすることも困難であった。
【0083】
比較例9
重合温度を117℃としたこと以外は比較例8と同様にしてスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子、予備発泡粒子及び発泡成形体を得た。重合スラリーに含まれる粉末量は0.6重量%であり、得られた樹脂粒子のゲル分率は0.9重量%であり、ゲル分中のポリスチレン量は17.7重量%であった。ポリスチレン樹脂成分の分子量は約16万であった。得られた予備発泡粒子の嵩密度は33kg/m3、発泡成形体の密度は33kg/m3であり、落球衝撃値は40cmと低く強度に乏しいものであった。また、圧縮強度は28N/cm2であった。
実施例1〜9及び比較例1〜9原料比及び重合条件を表1に、粉末量、ゲル分率、ポリスチレン量及びポリスチレン樹脂成分の分子量、落球衝撃値、圧縮強度及びリサイクル性を表2にまとめて示す。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
実施例10
実施例1とは融点の異なる直鎖状低密度ポリエチレン(エチレン・ブテン共重合体:メルトインデックス 0.7g/10分 密度 0.922/ml 融点 121℃)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてポリエチレン系樹脂粒子を得た。
上記ポリエチレン系樹脂粒子を用い、重合開始剤としてTBPOTMHを用い、重合温度を111℃としたこと以外は実施例1と同様にしてスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子を取出した。
【0087】
重合スラリーに含まれる粉末量は0.6重量%であった。得られた樹脂粒子のゲル分率は0.5重量%であり、ゲル分中のポリスチレン量は16.0重量%であった。ポリスチレン樹脂成分の分子量は約38万であり、また実施例1と同様にして得られた予備発泡粒子の嵩密度は33kg/m3、発泡成形体の密度は33kg/m3であり、落球衝撃値は80cm及び圧縮強度は34N/cm2と高く強度に優れたものであった。
【0088】
実施例11
実施例1とは融点の異なる直鎖状低密度ポリエチレン(エチレン・ブテン共重合体 メルトインデックス 0.7g/10分 密度 0.922/ml 融点 121℃)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてポリエチレン系樹脂粒子を得た。
上記ポリエチレン系樹脂粒子を用い、重合開始剤としてDCPを用い、重合温度を124℃としたこと以外は実施例1と同様にしてスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子を取出した。
【0089】
重合スラリーに含まれる粉末量は0.5重量%であり、得られた樹脂粒子のゲル分率は0.8重量%であり、ゲル分中のポリスチレン量は15.0重量%であった。ポリスチレン樹脂成分の分子量は約27万であった。また実施例1と同様にして得られた発泡成形体の密度は33kg/m3であり、落球衝撃値は85cm及び圧縮強度は35N/cm2と高く強度に優れたものであった。
実施例10及び11の重合条件、粉末量、ゲル分率、ポリスチレン量及びポリスチレン樹脂成分の分子量、落球衝撃値、圧縮強度及びリサイクル性を表3にまとめて示す。
【0090】
【表3】

【0091】
上記表3から、ポリエチレン系樹脂の融点を異ならせても、本発明の重合温度の範囲内なら、ゲル分の発生が少ないことが分かる。
【0092】
実施例12
ポリエチレン100重量部に対して183重量部のスチレンモノマーと2重量部のα−メチルスチレン(α−MS)を加えること以外は、実施例1と同様にしてスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子、予備発泡粒子及び発泡成形体を得た。
重合スラリーに含まれる粉末量は0.8重量%であり、得られた樹脂粒子のゲル分率は0.9重量%であり、ゲル分中のポリスチレン量は17.8重量%であった。得られたポリスチレン樹脂成分の分子量は約25万であった。また実施例1と同様にして得られた予備発泡粒子の嵩密度は33kg/m3、発泡成形体の密度は33kg/m3であり、落球衝撃値は75cmと高く優れたものであった。また、圧縮強度は32N/cm2であった。
実施例12の原料比、重合条件、粉末量、ゲル分率、ポリスチレン量及びポリスチレン樹脂成分の分子量、落球衝撃値、圧縮強度及びリサイクル性を表4にまとめて示す。
【0093】
【表4】

【0094】
上記表4から、2種のスチレンモノマーの混合物を使用しても、本発明の重合温度の範囲内なら、ゲル分の発生が少ないことが分かる。
【0095】
実施例13
重合温度とゲル分率との関係を調べるために、重合温度と重合開始剤を表5に示すように変更すること以外は実施例1と同様にして、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子、予備発泡粒子及び発泡成形体を得た。表5に重合温度、重合開始剤、ゲル分率、ポリスチレン量、ポリスチレン樹脂成分の分子量、落球衝撃値、圧縮強度及びリサイクル性を示す。また、重合温度とゲル分率との関係を図1に示す。
【0096】
【表5】

【0097】
表5及び図1から、本発明の重合温度範囲(112〜118℃及び128〜130℃)では、顕著にゲル分率が減少していることが分かる。なお、ポリエチレン系樹脂の融点より16℃低い重合温度(110℃)の場合、ゲル分率は2重量%以下であったが、落球衝撃値が低かった。これは、スチレンの重合が不十分であるためと予想される。
【0098】
以上のように、本発明は、ポリエチレン系樹脂粒子にスチレン系モノマーを含浸させて重合を行う工程を特定の温度で行うことにより、スチレン系モノマーのポリエチレン系樹脂粒子への均一な含浸と重合が可能となり、高物性であり、特に耐衝撃性に優れた発泡成形体を与える発泡性樹脂粒子を得ることができる。また架橋やグラフト重合に由来するゲル分の発生が少ないため、発泡成形体のリサイクルが容易となる。また、ポリエチレン内部にスチレン系モノマーを含浸させて重合させた後、ある程度重合が進行した状態でスチレン系モノマーを追加し、特定の温度で含浸と重合を同時に行うことで、重合体粉末の発生が少なく、かつ、ポリスチレン樹脂成分の比率の高い発泡性樹脂粒子を得ることができるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】図1は、重合温度とゲル分の量との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無架橋で直鎖状の低密度ポリエチレン系樹脂成分100重量部に対して、ポリスチレン系樹脂成分50〜1000重量部を含有する基材樹脂と揮発性発泡剤とを含み、かつ前記低密度ポリエチレン系樹脂成分と前記ポリスチレン系樹脂成分とのグラフト重合体からなるゲル分が該基材樹脂中に2重量%未満含まれ、密度33kg/cm3に発泡成形させたときの発泡成形体が60cm以上の落球衝撃値を有するスチレン改質直鎖状低密度ポリエチレン系発泡性樹脂粒子。
【請求項2】
請求項に記載のスチレン改質直鎖状低密度ポリエチレン系発泡性樹脂粒子を予備発泡させて得られた嵩密度20〜200kg/m3の予備発泡粒子。
【請求項3】
請求項に記載の予備発泡粒子を発泡成形させて得られた密度20〜200kg/m3の発泡成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2008−101226(P2008−101226A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298376(P2007−298376)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【分割の表示】特願2005−504037(P2005−504037)の分割
【原出願日】平成16年3月22日(2004.3.22)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】