説明

スチレン系樹脂フイルム

【課題】帯電防止コーティングを施すことなく、摩擦帯電性、傷付き性、滑り性が良好で、且つ、接着性にも優れており、封筒窓材用途、食品包装容器用ラミネート材用途等に適した二軸延伸スチレン系フイルムの提供。
【解決手段】スチレン系樹脂に粒子を添加することにより、該フイルム表面の1表面には、最大高さ1.5〜10μmの表面突起が形成され、且つ、1.5〜10μmの高さの突起の数が1〜500個/mm2存在することを特徴とする二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、低帯電性、接着性、耐傷付き性に優れ、封筒窓材や、食品包装容器用ラミネート材等に使用される二軸延伸スチレン系樹脂フイルムに関する。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸スチレン系樹脂フイルムは、透明性、剛性、加工性等に優れていることから封筒用窓材をはじめとし、食品容器用ラミネート材などに利用されている。
上記用途では、加工適性を向上させる目的で、帯電防止剤等のコーティングがなされているのが一般的である(例えば、特開2001−219939号公報等)。しかし、これらの公知技術を利用したスチレン系樹脂フイルムでは、コーティング剤移行による機械汚染とその再転写によるフイルム汚れが問題になることがあった。
【0003】
こうした問題点を解決する目的で、ポリスチレン系樹脂にはタルクやポリテトラフルオロエチレンを混合したフイルム(例えば、特開平2−72051号公報)が提案され、またポリスチレン系樹脂に二酸化珪素や架橋ポリスチレンを混合したフイルム(例えば、特公平6−856号公報、特開平10−323893号公報)が提案されている。
しかし、これらの帯電防止コーティングを施さない公知技術のスチレン系樹脂フイルムでは、機械加工適性に劣ることから様々な問題がある。具体的には封筒加工工程を例に説明する。
【0004】
封筒窓貼り加工で用いられるフイルムは、複数の硬質ロールを通過し、封筒窓貼り加工機械において封筒と貼り合わされる。帯電防止を施さない前記公知技術を利用したフイルムの場合、複数の硬質ロールを通過した時に摩擦帯電又は剥離帯電が発生し、その静電引力の作用により、封筒との貼り合わせ位置が微妙に狂ってしまう現象(位置ズレ)が発生しやすい。
また、フイルムのカット工程では、フイルム先端が吸引ドラムに接触した際、吸引された状態で高速摩擦が起るために、フイルム表面に無数の傷が発生しやすく、それと同時にフイルムの磨耗によって生じたポリマー粉が機械汚染を招くと言った問題点がある。
【0005】
更には、スチレン系樹脂フイルムの表面は疎水性であるために水性エマルジョンよりなる接着剤に対しては十分な接着強度が得られない場合がある。この問題に対しては、フイルム表面をコロナ放電処理などで親水化することで、接着性は改善される(特開平10−119978号公報)が、その一方で、フイルム表面には夥しい静電気が発生し、イオンブロー等の従来技術では完全除去が難しく、封筒加工工程での「位置ズレ」問題が発生する。このため、コロナ放電処理等の親水化技術を取り入れることは困難である。
【0006】
上記の接着性問題に対しては、改質剤を配合することにより、フイルム表面の接着性を改良する技術(特開平06−192515号公報)が提案されている。
これは、オレフィン系熱可塑性エラストマーを特定の割合でスチレン系樹脂に配合したものであるが、封筒窓貼り用途において主として使用されている接着剤(エチレン酢酸ビニル共重合体の水性エマルジョン)に対しては、十分な接着強度を得ることが困難であった。
【0007】
【特許文献1】特開2001−219939号公報
【特許文献2】特開平2−72501号公報
【特許文献3】特開平6−856号公報
【特許文献4】特開平10−323893号公報
【特許文献5】特開平10−119978号公報
【特許文献6】特開平6−192515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、二軸延伸スチレン系樹脂フイルムが使用される封筒窓材、各種包装材料、食品容器用ラミネート材などの用途において、帯電性、擦傷性、接着性等を向上させた二軸延伸スチレン系樹脂フイルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、スチレン系樹脂フイルムに特定の突起を形成することにより、硬質ロールとの摩擦・剥離帯電、傷付き性、接着性が改良されることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、下記の通りである。
(1)スチレン系樹脂(A)と粒子(B)を含み、粒子(B)は、重量平均粒子径が1〜10μm、アスペクト比が1.0〜2.0の範囲の球状又はキュービック状の定型粒子である非晶質アルミノ珪酸塩、アルミナ(不活性)より選ばれる無機粒子であり、スチレン系樹脂(A)に対する量が、0.1〜1体積%である、二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
(2)スチレン系樹脂(A)100質量部に対し、金属石鹸(C)が0.01〜0.5質量部配合されていることを特徴とする(1)記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
(3)金属石鹸(C)が、高級脂肪酸塩類であることを特徴とする(2)に記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
(4)(1)から(3)のいずれかに記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルムの封筒窓材への使用。
(5)(1)から(3)のいずれかに記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルムの食品包装容器用ラミネート材への使用。
【0010】
また、本発明の他の好適な態様は、下記の通りである。
(I)スチレン系樹脂(A)よりなるフイルムであって、粒子(B)を含み、少なくとも一表面に、最大高さ(Sp)が、1.5〜10μmの範囲の突起が形成され、且つ、1.5μm〜10μmの高さの突起数が、1〜500個/mm2存在することを特徴とする二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
(II)粒子(B)が、重量平均粒子径が1〜10μm、アスペクト比が1.0〜2.0の範囲の球状又はキュービック状の定型粒子であることを特徴とする(I)に記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
(III)粒子(B)が、非晶質アルミノ珪酸塩、アルミナ(不活性)より選ばれる無機粒子であり、スチレン系樹脂(A)に対する量が、0.1〜1体積%であることを特徴とする(I)または(II)記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
(IV)さらに、スチレン系樹脂(A)100質量部に対し、金属石鹸(C)が0.01〜0.5質量部配合されていることを特徴とする(I)から(III)のいずれかに記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
(V)金属石鹸(C)が、高級脂肪酸塩類であることを特徴とする(IV
)に記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
(VI)さらに、スチレン系樹脂(A)100質量部に対し、極性官能基を有するスチレン系熱可塑性エラストマー(D)を0.3〜20質量部含有することを特徴とする(I)から(V)のいずれかに記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
(VII)極性官能基を有するスチレン系熱可塑性エラストマー(D)が、スチレン系単量体を主体とする重合体を少なくとも2個と共役ジエン単量体を主体とする重合体を少なくとも1個を含有するブロック共重合体及び/又は該ブロック共重合体中の共役ジエンを水素添加してなるブロック共重合体であって、且つ、カルボニル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、又はそれらの誘導体を少なくとも1官能基又は1誘導体を含有することを特徴とする(VI)に記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
(VIII)二軸延伸スチレン系樹脂フイルムの130℃で測定される各延伸方向の配向緩和応力のピーク値が0.6MPa〜5.4MPaであることを特徴とする(I)から(VII)のいずれかに記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
(IX)二軸延伸スチレン系樹脂フイルムとステンレス製鏡面との動摩擦係数が0.3未満であることを特徴とする(I)から(VIII)のいずれかに記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
(X)(I)から(IV)のいずれかに記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルムの封筒窓材、または食品包装容器用ラミネート材への使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、スチレン系樹脂に粒子を添加することにより、フイルム表面には特定の大きさと数の突起を形成させることに特徴がある。これにより、摩擦や剥離帯電が起こり難く、傷付き性、滑り性、接着性にも効果が得られる。また、極性官能基を有するスチレン系熱可塑性エラストマーを添加することで更に接着性が改良される。これらの効果により、各種包装材料、封筒窓材用途、食品包装用ラミネート材用途において好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について、その好ましい実施態様を中心に、詳細に説明する。
本発明は、ポリスチレン系樹脂、特に好ましくは、汎用ポリスチレン又は汎用ポリスチレンと耐衝撃性ポリスチレンとの混合物よりなるポリスチレン系樹脂(A)に特定の粒子(B)を添加し、フイルム成形することにより、フイルム表面には特定の高さと数の突起が形成され、これによって該フイルムは摩擦・剥離帯電、傷付き性、滑り性、接着性が改良されることに大きな特徴がある。すなわち一般公知の帯電防止剤の塗布、添加無しに摩擦・剥離帯電や傷付き性を低減したフイルムである。更には、特定の極性官能基を有するスチレン系エラストマー(D)を特定量添加することにより、より高度な接着性を付与することができる。
【0013】
まず、本発明の特徴であるフイルムの表面形態について説明する。
本発明のフイルムは、ポリスチレン系樹脂(A)に粒子(B)を添加することにより、フイルムに形成された突起の最大高さが1.5〜10μmであり、且つ、高さ1.5μm〜10μmの突起が1〜500個/mm2の範囲であることに特徴がある。突起の最大高さ、及び高さ1.5μm〜10μmの突起の個数を前記範囲にすることで、フイルムと被接触物との接触面積が小さくなり、フイルム自体の摩擦・剥離帯電、傷付きが低減し、更には滑り性、接着性等が改良される。
【0014】
すなわち、突起最大高さを1.5μm以上、及び1.5μm以上の突起数を1個/mm2以上にすることで、摩擦・剥離帯電、傷付きが低減され、滑り性、接着性が向上する。そして、最大突起高さを10μm以下、及び1.5μm以上の突起を500個/mm2以下にすることで、例えば封筒窓貼り加工工程における硬質ロールや吸引ドラムとの摩擦による粒子脱落を最小限に抑制し、実用上好ましく使用できるフイルムが得られる。より高度にこれらの特性をバランスさせるのは、突起最大高さが1.5μm〜8μmの範囲であり、且つ、高さ1.5μm〜8μmの突起数が3〜400個/mm2である。更に好ましくは突起最大高さが1.5〜6μmの範囲であり、且つ、高さ1.5μm〜6μmの突起の数が5〜300個/mm2の範囲である。
【0015】
尚、フイルムの表面突起の測定には、接触式表面粗度計(ミツトヨ社製)を用い、触針には円錐角60°、先端半径2μmの形状を有するダイヤモンド製触針により、0.75mNの荷重で測定を行う。また、測定面積はX方向が2mm、Y方向が0.5mmである。測定条件は、X方向のサンプリングピッチが0.5μm、Y方向のプロファイルピッチが1μmの条件で行う。データ処理条件は、カットオフ値を80μmとしてプロファイルを処理し、三次元画像処理では平面補正を加えて、突起の最大高さ(Sp値)及び1.5μm以上の突起数を求める。突起の最大高さ(Sp)並びに1.5μm以上の突起数は、測定位置を変更し、3回行い、その平均値を求める。
【0016】
次に本発明に使用可能な粒子(B)について説明する。
本発明に使用される粒子(B)は、上述したフイルムの表面形態を与えるものであれば特に制限はないが、本発明のフイルムの特徴である表面形態を効率良く、且つ、効果的に形成させるのに好ましい粒子径、粒子形状、粒子の種類は以下の通りである。
【0017】
粒子(B)の重量平均粒子径は、粒子径分布や粒子形状により一概に定められるものではないが、通常1〜10μmの範囲が好ましい。重量平均粒子径が1μm以上を選択した場合では、後述の配向緩和応力ピーク値の範囲において1.5μm以上の最大高さの突起をフイルム表面に形成させることが多く、摩擦・剥離帯電性、傷付き性、接着性等に改良効果が得られる。また、重量平均粒子径が10μm以下を選択した場合では、フイルム表面の過度な粗面化による外観低下を防ぐことや硬質ロール等との摩擦による粒子脱落を防ぐことが可能である。より好ましくは2〜8μm、更に好ましくは3〜6μmである。尚、ここで言う重量平均粒子径は、コールターカウンター法により求められる値である。
【0018】
また、粒子の形状は球状又はキュービック状等の定型粒子であることが好ましく、アスペクト比(長径又は長辺と短径又は短辺の比)が1〜2である球状又はキュービック状粒子がより好ましい。更に好ましくは、アスペクト比が1〜1.5の定型粒子である。球状又はキュービック状の定型粒子を使用することでフイルム表面の不定形な粗れが防止され、フイルムの外観低下を抑え、効果的に目的とする高さと数の突起を形成することが可能であり、本発明の特徴である摩擦・剥離帯電性、傷付き性、接着性が改良され、好ましい。
【0019】
ポリスチレン系樹脂に添加される粒子(B)は、フイルムの押出し、延伸加工時の形状変形がほとんどないため、摩擦・剥離帯電性、傷付き性、接着性等に対し、高い改良効果が得られ、吸湿性が小さいことでフイルム押出時の圧力変動による厚み変動やフイルムの発泡不良等が抑えられる非晶質アルミノ珪酸塩、アルミナ(不活性)である。特に好ましくは経済的に球状の定型粒子が得られやすい非晶質アルミノ珪酸カルシウム、非晶質珪酸ナトリウム、非晶質珪酸ナトリウム・カルシウム等の焼成された非晶質アルミノ珪酸塩である。
上述の粒子(B)はスチレン系樹脂(A)に対し、0.1〜1体積%の範囲で添加されることが望ましく、0.1体積%以上では低帯電性、耐傷付き性、滑り性、接着性に効果が得られ、1体積%以下では透明性、粒子の脱落等に対して良好な性能が得られる範囲である。より好ましくは0.2〜0.8体積%、更に好ましくは0.3〜0.8体積%の範囲である。
【0020】
また、粒子(B)は樹脂中に凝集を伴わず、フイルム押出し時において均一分散させることが望ましいが、粒子径が小さくなるほど、それが難しくなる傾向にある。このため、分散性を向上させるために金属石鹸を添加しても良く、特にC12以上の高級脂肪酸塩類が好ましく用いられる。具体的にはラウリン酸亜鉛、ラウリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸リチウム等が挙げられ、それらの内、少なくとも一成分を含有したものである。より好ましくは、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛がよい。
上記の金属石鹸(C)は、スチレン系樹脂(A)100質量部に対し、0.01〜0.5質量部の範囲で添加することが好ましく、分散剤を0.01質量部以上の添加量にすることで定型粒子の均一分散に効果が得られ、0.5質量部以下の添加量にすることで良好な透明性を維持することができる。より好ましくは0.02〜0.3質量部。更に好ましくは0.03〜0.1質量部である。
【0021】
次に、本発明においてスチレン系樹脂(A)とは、スチレン系単量体の単独重合体又は共重合体及びこれらの混合組成物であり、スチレン系単量体とは、スチレン(GPPS)、α−メチルスチレン等のアルキルスチレンである。また、共重合体とは、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体類、スチレン−酸無水物共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)等であり、これらに含まれるスチレン単量体が50質量%以上含まれる重合体を言う。尚、シンジオタグチックポリスチレンに代表される結晶性ポリスチレンは、エンジニアリング樹脂であるため好ましくない。
スチレン系樹脂(A)に所定の粒子(B)、更には所定の金属石鹸(C)を添加することにより、フイルム表面には特定の高さと数の突起が形成され、例えば封筒窓貼り加工工程において高速でも位置ズレ、傷付き、接着不良、ロール汚れ等がなく、好適に使用することが可能である。
【0022】
次に、接着性をより高度にするための改質剤とその処方について詳述する。
接着性をより高度にするために用いられる改質剤には、スチレン系樹脂(A)に極性官能基を有するスチレン系熱可塑性エラストマー(D)を添加するのが好ましい。
極性官能基を有するスチレン系熱可塑性エラストマー(D)とは、スチレン系単量体を主体とする少なくとも2個を含有する重合体と共役ジエン単量体を主体とする少なくとも1個を含有する重合体よりなるブロック共重合体及び/又はこれらに含まれる共役ジエンを水素添加して得られるブロック共重合体であって、且つ、カルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシ基又はそれらの誘導体の内、少なくとも1官能基又は1誘導体を含有するブロック共重合体である。
【0023】
更に詳しくは、スチレン系熱可塑性エラストマー(D)を構成するスチレン系単量体とは、スチレン(GPPS)、α−メチルスチレン等のアルキル置換体である。また、共役ジエン単量体とは、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等である。中でもスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、又はこれらの共役ジエンに由来する二重結合を水素添加したブロック共重合体(SEBS、SEPS)は、熱安定性、接着性改良効果に優れており、好適である。更に好ましくは、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体及び/又はスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を水素添加したものである。
【0024】
また、スチレン単量体と共役ジエン単量体のブロック構造については特に制限がなく、例えばA−B−A、B−A−B−A、A−B−A−B等の構造を有するブロック共重合体やテーパーブロックタイプ、カップリング剤により星型構造を有したタイプ等、一般に市販されているスチレン系熱可塑性エラストマーで良い。
極性官能基を有するスチレン系熱可塑性エラストマー(D)を製造する方法としては、例えば、特開2002−234985に開示された方法等により、特定の官能基又はその誘導体を有機過酸化物の存在下でラジカル重合し、製造する方法等が提案されている。中でもカルボニル基又はその誘導体で変性されたスチレン系熱可塑性エラストマーは、接着性に対する効果が大きく、特に好ましく使用できる。
【0025】
スチレン系樹脂(A)への極性官能基を有するスチレン系熱可塑性エラストマー(D)の配合割合は、フイルムに加工された時の透明性、接着性等を考慮し、0.3〜20質量部を添加することが好ましく、より好ましくは0.5〜15質量部、更に好ましくは1〜10質量部である。
このようにスチレン系樹脂(A)に極性官能基を有するスチレン系熱可塑性エラストマーを所定の割合で添加することにより、比較的接着力の劣る接着剤にも対応可能であり、例えば封筒窓材用途では、加工工程、自動封入・封緘工程でのフイルム剥がれが防止可能であり、更には高度に接着力が求められる用途にも対応可能である。
【0026】
本発明のニ軸延伸フイルムを製造する方法の代表的な例として、スチレン系樹脂(A)と粒子(B)、金属石鹸(C)、極性官能基を有するスチレン系熱可塑性エラストマー(D)を所定の割合で配合した樹脂を、スクリュ押出機等により溶融混錬し、Tダイ法によりシート状にした後、ロール延伸、テンター延伸する方法やインフレーション法により二軸延伸フイルムを製造する方法が挙げられる。
【0027】
ニ軸延伸フイルムの各延伸方向の配向緩和応力ピーク値は、0.6〜5.4MPaであることが好ましい。この配向緩和応力ピーク値は、主に延伸倍率、延伸温度により、決まる特性値であり、突起の形成や封筒加工時のカット性に影響を及ぼす。すなわち、0.6MPa以上で、粒子(B)が、効率的に突起を形成し、その結果、摩擦や剥離帯電を小さくする効果、そしてフイルムの引裂き強度が小さくなることで、封筒加工機械でのカット性が向上すると言った効果が得られる。一方、5.4MPa以下で、粒子(B)の脱落を抑制することができる。より好ましくは0.65〜5.0MPaであり、更に好ましくは0.7〜4.0MPaである。
【0028】
配向緩和応力ピーク値は、フイルム押出し後の延伸倍率と温度によって定まる特性値であるが、一般的には、延伸温度一定の条件下において延伸倍率を高く(低く)した場合では、配向緩和応力ピーク値は増加(低下)傾向を示し、また、延伸温度一定の条件下において延伸温度を上げた(下げた)場合では、配向緩和応力ピーク値は低下(増加)傾向を示す。この様な特性を踏まえ、フイルムの配向緩和応力ピーク値を好ましい範囲にする。
【0029】
また、本発明のニ軸延伸フイルムは、ASTM D−1897に準拠したフイルムと金属(ステンレス)鏡面との動摩擦係数が0.35未満であることが好ましく、より好ましくは0.3未満、更に好ましくは0.27未満である。この動摩擦係数は、粒子(B)が形成する突起が大きな影響を与えるが、動摩擦係数を前記の所定の範囲にすることで、例えば封筒加工機械に供給する過程の傷付き防止、破断防止の効果が得られる。尚、動摩擦係数の下限値については、特に規定はしないが、本発明の実施例の範囲(動摩擦係数=0.16)までは封筒加工機でのトラブルは発生しなかった。
【0030】
また、本発明のフイルムは、食品包装容器用のラミネート用途としても好適に用いることができる。食品包装容器はオレフィン系や塩化ビニル系のラップフイルムで包装されるが、ラップフイルムと容器表面との滑り性が悪い場合は、ラップフイルムのシワや容器の変形が起り易くなる。本発明のフイルムをラミネートした容器の場合、前述の問題が起り難くなり、ラップフイルムでの包装適性が向上する。
本発明のニ軸延伸フイルムの厚みについては、特に制限はないが、好ましくは5〜100μm、より好ましくは10〜80μm、さらに好ましくは20〜50μmである。この範囲は作業者が取り扱う上での作業性や封筒加工機械の様な機械適正等により決められる範囲である。
【実施例】
【0031】
以下、比較例及び実施例について詳述する。尚、本発明は、ここに記載された実施例に限定されるものではない。また、本発明の評価に用いた粒子、分散剤、熱可塑性エラストマーは、予め旭化成ポリスチレン#685(商品名、旭化成社製)に予備混錬したマスターバッチを用い、所定の割合でドライブレンドした後、φ150mm押出機(L/D=28)にて混練し、インフレーション法により二軸延伸フイルムを得た。この時の延伸倍率は高配向タイプでは、縦方向延伸倍率10倍、横方向延伸倍率は10倍であり、低配向タイプでは、縦方向延伸倍率8倍、横方向延伸倍率は8倍で二軸延伸フイルムを製作した。
また、フイルムの各評価項目の判定基準については、「○」及び「◎」が実用上求められる性能であり、「△」及び「×」は実用上不適とされる性能である。
以下、評価方法について説明する。
【0032】
(1)表面形態(突起高さ、数):フイルムの表面形態(突起高さ、数)の測定は、表面粗さ測定機サーフテストSV3000S4・3D(商品名、ミツトヨ社製)を使用し、触針(ダイヤモンド製)先端半径=2μm、圧力=0.75mN、カットオフ値=80μm、サンプリングピッチ(X方向)=0.5μm、プロファイルピッチ(Y方向)=1.0μmにおいて、測定面積(X方向×Y方向)=2.0mm×0.5mmとして、場所を変えて3回繰り返し測定を行い、三次元画像処理(平面補正有り)により、突起最大高さ(Sp)及び1.5μm以上の突起数の平均値を求めた。
【0033】
(2)配向緩和応力(ORS):ASTM D−1504に準拠し、130℃のオイルバスにて配向緩和応力(ピーク)値を測定した。測定方向は、縦方向(MD方向)と横方向(TD方向)について測定した。
(3)滑り性:フイルムの動摩擦係数をASTM D−1897に準拠し、測定を行った。尚、ライダーはSUS製の鏡面仕上げされた質量200gのものを使用し、速度1000mm/minにおいて測定した。このときの判定基準は以下の通りである。
×:0.35以上
△:0.30〜0.34
○:0.25〜0.29
◎:0.24未満
【0034】
(4)摩擦帯電性:図1に示す摩擦試験装置により、フイルム表面の帯電圧を測定した。測定雰囲気は20℃×20%RHである。予め、イオンブロー除電気により完全除電したフイルム(100mm巾×1200mm長さ)を使用した。
測定条件は、フイルム走行スピード50m/min、摩擦ロールスピード25m/min、エアシリンダー圧力(=フイルムテンション)をそれぞれ0.05MPaとし、1分後の帯電圧を測定した。判定基準は、無添加のスチレン系樹脂フイルム(比較例1)の帯電圧を100%とし、以下の判定基準に従った。
×:90%以上
△:80〜89%
○:70〜79%
◎:69%以下
【0035】
(5)傷付き性:図2に示す摩擦試験装置により、フイルムの傷付き性を評価した。測定雰囲気は20℃×20%RHである。また、フイルムは100mm巾×1200mm長さのものを使用した。測定条件は、摩擦ロールが回転しない様に完全固定し、エアシリンダー圧力(=フイルムテンション)をそれぞれ0.05MPa、フイルム走行スピード50m/minの条件で1分間摩擦試験を実施した。フイルムの傷付き性は、摩擦試験前後のフイルムの質量変化を以下の判定基準に従って評価した。
×:10mg以上
△:5〜9mg
○:2〜4mg
◎:1mg以下
【0036】
(6)分散性:偏光顕微鏡(倍率320倍)により観察を行い、以下の判定基準に従った。
×:2個以上の凝集粒子が全体の31%以上存在する
△:2個以上の凝集粒子が全体の30%以下存在する
○:2個以上の凝集粒子が全体の10%以下存在する
◎:2個以上の凝集粒子が全体の5%以下存在する
【0037】
(7)接着性:縦15cm×横10cmのフイルム上にメイヤーバーを用い、接着剤(サイビノールPS706G/商品名、サイデン化学社製)を12g/m2塗布し、縦12cm×横8cmのNTT封筒の印刷面を内面になるように貼り合わせた後、その上をゴムロールで3回軽くなぞり、70℃乾燥機に1分間乾燥した。この一連の操作を速やかに実施し、接着性は24時間経過後で評価した。
評価には縦15cm×横1cmに切り出し、フイルムの180°剥離テストを3回繰り返した。判定基準は以下の通りである。
×:フイルムを剥がしたときほとんど抵抗感がなく、容易に剥離する。
△:フイルムを剥がしたときにやや抵抗感がある。
○:フイルムを剥がしたときに強い抵抗感がある。
◎:フイルムを剥離した時に強い抵抗感があり、紙の材料破壊が起る。
【0038】
(8)透明性:ASTM D−1003に準拠し、測定したヘイズ値を基に下記判定基準に従い、評価した。
×:41%以上
△:31〜40%以下
○:21〜30%以下
◎:20%以下
【0039】
[比較例1、2]
ポリスチレン(GPPS)は、旭化成ポリスチレン#685(商品名)を使用し、耐衝撃性ポリスチレンは同社#492(商品名)を使用した。比較例1及び2は粒子を添加しなかった場合である。
【0040】
[比較例3、4、5]
比較例3、4、5は、比較例1又は比較例2の樹脂組成に平均粒径3μmのポリテトラフロロエチレン、平均粒径0.7μmのアルミナを添加した場合である。比較例1、2に比し、いずれの場合も傷付き性、滑り性は改良効果されるが、突起高さが不十分なために摩擦帯電性に対しする十分な効果は得られなかった。
【0041】
[実施例1〜9]
実施例1〜9は、比較例1又は比較例2の樹脂組成に平均粒径3〜5.5μmの非晶性アルミノ珪酸ナトリウム・カルシウム塩(球状又はキュービック状)を0.13〜0.9体積%添加した場合である。いずれも摩擦帯電性、傷付き性、滑り性、透明性は改良効果が得られた。また、実施例1と2の違いは金属石鹸(ステアリン酸マグネシウム/堺化学社製)有無であるが、金属石鹸を添加した実施例2では分散性が更に向上し、透明性も改善された。
【0042】
[実施例10]
実施例10は、比較例2の樹脂組成に平均粒径7μmのアルミナを添加した場
合である。摩擦帯電性、傷付き性、滑り性、透明性は全て良好であった。
【0043】
[比較例6]
比較例6は接着性の改良効果を調べるため、極性官能基を有するオレフィン系熱可塑性エラストマーTPO(モディパーA6100/商品名、日本油脂社製)を添加した場合であるが、比較例1との比較において接着性に対する効果は得られなかった。
【0044】
[実施例11〜13]
実施例11〜13には、極性官能基を有するスチレン系熱可塑性エラストマーTPS1(アクティマーLQA8284N/商品名リケンテクノス社製)を0.3〜10質量部添加した場合である。実施例5との比較において、いずれも接着性に対する効果が認められ、透明性も良好であった。
【0045】
[実施例14]
スチレン系熱可塑性エラストマーTPS2(タフテックM1913/商品名、旭化成社製)を10質量部添加した場合でも接着性、透明性は良好であった。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の二軸延伸スチレン系樹脂フイルムは、各種包装材料、封筒窓材用途、食品包装用ラミネート材用途において好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】摩擦帯電性を評価するために用いた摩擦試験装置を示す概略図。
【図2】傷付き性を評価するために用いた摩擦試験装置を示す概略図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂(A)よりなるフイルムであって、粒子(B)を含み、少なくとも一表面に、最大高さ(Sp)が、1.5〜10μmの範囲の突起が形成され、且つ、1.5μm〜10μmの高さの突起数が、1〜500個/mm2存在することを特徴とする二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
【請求項2】
粒子(B)が、重量平均粒子径が1〜10μm、アスペクト比が1.0〜2.0の範囲の球状又はキュービック状の定型粒子であることを特徴とする請求項1に記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
【請求項3】
粒子(B)が、非晶質アルミノ珪酸塩、アルミナ(不活性)より選ばれる無機粒子であり、スチレン系樹脂(A)に対する量が、0.1〜1体積%であることを特徴とする請求項1または2記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
【請求項4】
さらに、スチレン系樹脂(A)100質量部に対し、金属石鹸(C)が0.01〜0.5質量部配合されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
【請求項5】
金属石鹸(C)が、高級脂肪酸塩類であることを特徴とする請求項4に記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
【請求項6】
さらに、スチレン系樹脂(A)100質量部に対し、極性官能基を有するスチレン系熱可塑性エラストマー(D)を0.3〜20質量部含有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
【請求項7】
極性官能基を有するスチレン系熱可塑性エラストマー(D)が、スチレン系単量体を主体とする重合体を少なくとも2個と共役ジエン単量体を主体とする重合体を少なくとも1個を含有するブロック共重合体及び/又は該ブロック共重合体中の共役ジエンを水素添加してなるブロック共重合体であって、且つ、カルボニル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、又はそれらの誘導体を少なくとも1官能基又は1誘導体を含有することを特徴とする請求項6に記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
【請求項8】
二軸延伸スチレン系樹脂フイルムの130℃で測定される各延伸方向の配向緩和応力のピーク値が0.6MPa〜5.4MPaであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
【請求項9】
二軸延伸スチレン系樹脂フイルムとステンレス製鏡面との動摩擦係数が0.3未満であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルム。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の二軸延伸スチレン系樹脂フイルムの封筒窓材、または食品包装容器用ラミネート材への使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−150623(P2008−150623A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58699(P2008−58699)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【分割の表示】特願2003−125625(P2003−125625)の分割
【原出願日】平成15年4月30日(2003.4.30)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】