説明

ステップ着脱構造

【課題】持ち運びが容易で鉄塔等への着脱が簡単に、且つ、短時間でできると共に、昇降時の十分な安全強度を備えたステップ着脱構造を提供する。
【解決手段】上部に平坦面を有すると共に、上部平坦面の下側に設置され、下方側が開口する開口部14aを設けた係止部14を備え、携帯可能に形成されたステップ10と、
ステップ10を装着する鉄塔等に備えられ、開口部14aに係止する軸部18、軸部18に係止部14の肉厚分の間隙を有して配置された、平坦面を上向きに位置決め保持する位置決め部19及び頭部17を備えたステップ係止ボルト11とを有する。ステップ10は、頭部17に下方から係止してステップ10の上方への移動を阻止するロック金具15を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステップ着脱構造に関し、特に、鉄塔等を昇降する際に使用するステップを離脱自在に取り付けることができるステップ着脱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄塔等を昇降する際は、鉄塔等に装着されたステップボルトを足場として使用している。このステップボルトは、ボルトの一端のネジ部を鉄塔等に開けたネジ穴に螺着することにより、鉄塔等に略水平に取り付け固定される。
鉄塔等の昇降は、例えば、送電線等を支持する鉄塔の場合、定期的に行われる保守点検の際に必要となるが、定期点検の他、巡回視察時における接近木の離隔確認、伐採調査、各種の補修工事等の際にも必要となり、1本の鉄塔について略年1回以上の頻度で行われる。
【0003】
このような、鉄塔等を昇降する際に用いるステップとして、例えば、「ステップ付き昇塔防止金具」(特許文献1参照)が知られている。
この「ステップ付き昇塔防止金具」は、ボルト固定用穴に挿入することで鉄塔昇降用の足場となるボルトであって、一端付近にねじ穴を有する足場ボルトと、この足場ボルトのねじ穴部位をボルト配置用の開口から足場受けに配置し、ボルト固定用穴を介してその足場ボルトのねじ穴にねじこむことで、その足場ボルトをパイプに略平行に固定する固定ボルトとを有する。また、パイプ鉄塔の柱であるパイプに略平行に固定した足場ボルトを覆い隠すように昇降防止金具を設ける。
【特許文献1】特開2000−27491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の鉄塔等の昇降に際し使用するステップボルトは、鉄塔等の設置場所の地上から1.8m以下については、公衆保安対策により昇降を阻止するために鉄塔等から撤去されており、昇降の都度、取り付け及び取り外しが必要となる。これは、「ステップ付き昇塔防止金具」においても同様であり、足場受けのボルト固定用穴に足場ボルトを通し、その後、ナットで締め付け固定する必要があった。
【0005】
このステップボルト(足場ボルト)の取り付け及び取り外しには、例えば、必要とする2本の取り付けと取り外しにそれぞれ約60秒かかかるとして、一回の昇降時に約2分(約60秒×2回)を要していた。この時間は、鉄塔等の昇降時には必ず必要になるので、鉄塔等の数が多くなれば多くの時間が費やされることになり、削減することが求められている。
特に、墜落防止装置を取り付けた鉄塔等においては、墜落防止装置を鉄塔等に固定する固定金具を、ステップボルト用のネジ穴を使用して取り付けていたため、ステップボルト(足場ボルト)を取り付けることができなかった。このため、昇降に際しての足場が確保し難く、補助部材を伝って昇降せざるを得なくなり、そのための技術を必要とするばかりか、無理な姿勢での昇降を強いられていた。
【0006】
また、山間地における普通巡視を行う場合は、1日に約10基もの鉄塔等を昇降することになるため、着脱操作が簡単で十分な安全強度を備えた軽量コンパクトな足場となるステップの開発が望まれている。
この発明の目的は、持ち運びが容易で鉄塔等への着脱が簡単に、且つ、短時間でできると共に、昇降時の十分な安全強度を備えたステップ着脱構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、この発明に係るステップ着脱構造は、上部に平坦面を有すると共に、前記上部平坦面の下側に設置され、下方側が開口する開口部を設けた係止部を備え、携帯可能に形成されたステップと、前記ステップを装着する装着対象物に備えられ、前記開口部に係止する軸部、前記軸部に前記係止部の肉厚分の間隙を有して配置された、前記平坦面を上向きに位置決め保持する位置決め部及び頭部を備えたステップ係止ボルトとを有している。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、ステップ着脱構造は、携帯可能に形成されたステップと、ステップを装着する装着対象物に備えられたステップ係止ボルトにより構成され、ステップは、上部に平坦面を有すると共に、上部平坦面の下側に設置され、下方側が開口する開口部を設けた係止部を備えており、ステップ係止ボルトは、開口部に係止する軸部、軸部に係止部の肉厚分の間隙を有して配置された、平坦面を上向きに位置決め保持する位置決め部及び頭部を備えている。このため、持ち運びが容易で鉄塔等への着脱が簡単に、且つ、短時間でできると共に、昇降時の十分な安全強度を備えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。
図1は、この発明の一実施の形態に係るステップ着脱構造を示し、(a)は一部破断した斜視説明図、(b)はステップ突出端側から見た説明図である。図1に示すように、この発明に係るステップ着脱構造は、鉄塔等の昇降時に足場となるステップ10と、鉄塔等に固着されるステップ係止ボルト11を有しており、ステップ10をステップ係止ボルト11に装着することで、ステップ10を鉄塔等に容易に取り付け固定し或いは取り外すことができる。
【0010】
ステップ10が取り付けられる鉄塔等としては、例えば、送電線等を支持する鉄塔や鉄柱、或いは高張力鋼板を材料とした管状の各構成部材を継ぎ合わせて1本の柱にした鋼板組立柱であるパンザーマストがある。この鉄塔等には、足場用のボルト(例えば、ステップボルト)を取り付けるネジ穴が開けられている。なお、墜落防止装置を取り付けた鉄塔等においては、墜落防止装置に、同様のネジ穴が開けられている。
ステップ10は、足を載せる面となるステップ部12、ステップ部12の下端両側の側壁部13,13、及びステップ部12の一端側下方に位置する係止部14を備えた((a)参照)、大略下向きコ字状となる形状((b)参照)を有している。これらステップ部12と両側壁部13,13は、例えば、板体を屈曲して形成することができる。
【0011】
ステップ部12は、上面が長方形状の平坦面を有し、平坦面には、長手方向に沿って複数個(一例として、3個を図示)の、滑り止め及び軽量化に資する丸穴12aが開けられている。側壁部13は、ステップ部12の一端(係止部14側端)側の下方幅が他端側の下方幅より広い、略直角三角形状を有しており、一方の側壁部13の係止部14の近傍には、ロック金具15を装着するための金具装着孔16が開けられている。
【0012】
ロック金具15は、金具装着孔16内を自由に移動することができる太さのリング状に形成されており、金具装着孔16に、着脱自在に装着されている。金具装着孔16は、ステップ係止ボルト11にステップ10を装着した際に、ステップ係止ボルト11の後述する頭部17に塞がれない位置に形成された、頭部17から頭部17外側に延びる長孔からなり、一端(係止部14側端)、即ち、頭部17の下方には、ロック金具15を係止保持するための凹部16aを有している。
【0013】
係止部14は、中央に、下方側が開口する下向きU字状の開口部14aを有する((a),(b)参照)板体からなり、下端面を除く上・両側の各端面がステップ部12と両側壁部13,13に取り付けられている。取り付けに際し、係止部14がステップ部12に対し略直交するように、且つ、両側壁部13の一端(係止部14側端)から、後述する位置決め部19の肉厚分離間した位置に、位置決め固定される。この開口部14aに後述する軸部18が係止することにより、ステップ10を、ステップ係止ボルト11に係止固定することができる((b)参照)。
【0014】
図2は、図1のステップ係止ボルトの斜視図である。図2に示すように、ステップ係止ボルト11は、略六角形状の頭部17と、ネジを切った軸部18を有しており、軸部18には、頭部17との間に係止部14の略肉厚分の間隙aを有して、位置決め部19が形成されている。頭部17は、六角形平面の直径の略1/3分が、裏面から表面にかけて斜めに切り落とされており、裏面側が尖端となる傾斜面17aを有している。
【0015】
位置決め部19は、例えば、四角ナット(厚さ約8mm)等の、略平行する2つの端面を有する矩形状板体からなり、略平行する2つの端面19a(他方、図示せず)が係止部14の両側壁部13,13の内面に接触する(図1参照)ことにより、係止部14を、軸部18の周りに回転しないように位置決め固定することができる、形状及び厚みに形成されている。位置決め部19を、略正方形の板体にすることで、ステップ10の装着時、ステップ10と位置決め部19は左右両面で接触することになり、装着したステップ10がガタ付くことを防止することができる。
【0016】
このステップ係止ボルト11は、ステップボルトを取り付けるために鉄塔の主脚L等に開けられたネジ穴に補助部材20をネジ止めし、補助部材20に開けた孔に軸部18を通した後、ナット21を螺着することにより、位置決め部19から頭部17迄が外側に露出するように、補助部材20に固定することができる。この際、ステップ係止ボルト11は、頭部17の傾斜面17aが上を向き、且つ、位置決め部19の両端面19a,19aが略垂直に位置する所定位置に、位置決め固定される(図1参照)。
【0017】
従って、鉄塔等には、予め、ステップ係止ボルト11が装着されており、補助部材20から位置決め部19及び頭部17が突出しているが、補助部材20からの突出量である出巾は約22mmに抑えることができるので、これを足掛けとして登るのは困難である。その上、頭部17は傾斜面17aが上端に位置しているため、足掛けとすることができず、出巾は8mm+αに過ぎなくなるので、鉄塔等に装着されているステップ係止ボルト11を用いて鉄塔等に登ることを防止することができる。
なお、所定位置に位置決め固定することが可能ならば、補助部材20を用いずに、直接、鉄塔等に開けられたネジ孔に取り付けても良い。
【0018】
このように、ステップ10とステップ係止ボルト11は、別体に形成されており、ステップ10は、ステップ係止ボルト11に工具等を用いることなく自在に着脱することができる。このため、複数の鉄塔等に昇塔する場合、ステップ10のみを携帯して、昇塔対象の鉄塔等に昇塔時に装着することにより、安全、且つ、容易に昇塔することができ、降塔後は、ステップ10を取り外して、次の昇塔対象の鉄塔等迄、ステップ10のみを携帯すればよい。
【0019】
図3は、図1のステップをステップ係止ボルトに装着する際の手順を示し、(a)は差し込み時の説明図、(b)は固定時の説明図、(c)はロック時の説明図である。図3に示すように、先ず、携帯したステップ10をステップ部12を上に向けて片手で持ち、補助部材20(図1参照)から突出している、ステップ係止ボルト11の頭部17の上方に位置させる。このとき、ロック金具15を、金具装着孔16の手前側、即ち、ステップ部12の他端(係止部14側とは反対側の端)側に位置するように保持しておく(図3(a)参照)。
【0020】
次に、ステップ10を下方移動(図中、矢印参照)させて、係止部14が頭部17と位置決め部19の間に設けた間隙に入り込み、開口部14aに軸部18がはまり係止部14が軸部18に跨るように、上方から差し込んでステップ係止ボルト11に装着する(図1(b)参照)。このとき、ロック金具15は保持したままである(図3(b)参照)。ステップ係止ボルト11に装着されたステップ10は、ステップ部12を上に向けた状態で、ガタ付くこと無く固定保持される。
【0021】
次に、保持していたロック金具15を手から離して、ロック金具15を、金具装着孔16の凹部16aに位置させる。ロック金具15が凹部16aに位置することで、ロック金具15は、ステップ係止ボルト11の頭部17下方に位置決め保持される(図1(b)、図3(c)参照)。このため、ステップ10の上方移動は、頭部17に下方から係止するロック金具15により阻止されることになり、上方移動が阻止されたステップ10は、ステップ係止ボルト11から外れることが無い。従って、下方から蹴り上げたとき等にステップ10が外れてしまうのを防止することができる。
【0022】
図4は、ステップ係止ボルトの他の固定方法を示し、(a)はステップ装着状態の側面図、(b)は取り付け状態の側面図である。図4に示すように、ステップ係止ボルト11をパンザーマスト22に固定する場合、パンザーマスト22の外表面に、溶接等により取り付け固定したボルト受け部材23を用いる((a)参照)。ボルト受け部材23は、パンザーマスト22外表面との間に、ステップ係止ボルト11を固定するナット21の装着空間を確保することができるように、例えば、凸形状に板体を折り曲げて形成されており、凸面には、ステップ係止ボルト11の軸部18を通す孔(図示しない)が開けられている((b)参照)。このボルト受け部材23へのステップ係止ボルト11の取り付けは、上述した補助部材20に取り付ける場合と同様であるが、軸部18の長さは、必要に応じて調整する。
【0023】
上述したように、ステップ10とステップ係止ボルト11からなるステップ着脱構造は、ステップ10を上部からステップ係止ボルト11に差し込むだけのワンタッチで、ステップ係止ボルト11に固定することができ、加えて、ロック金具15により、ステップ係止ボルト11からのステップ10の抜け落ちを防止することができる。
また、ステップ10は、重量を、従来のステップボルト(約360g)の略半分にすることができ、十分な強度を確保した上で大幅な軽量化を図ることができる。更に、ステップ係止ボルト11は、従来の出巾30mm程度に対し、頭部17の先端カットにより約8mm+αとなり、ステップ係止ボルト11を使っての昇降を困難にした。
【0024】
また、出願人において、現在、昇塔対象となる鉄塔等は約46,000基あり、伐採調査や巡視点検或いは補修等により年1回の頻度で昇塔するとすれば、1基当たり略2分の短縮効果により、延べ200人日/年の効率化と格段の安全性向上を図ることができる。
このステップ着脱構造は、昇降用具が付かない箇所における昇塔を可能にしたものであり、ステップ10は、重量が略1/2になる軽量化、ワンタッチ装着による操作性、及び外れ防止機能による安全性を満たしている。従って、容易に携帯することができる上に、安定した足場作業が可能になり、鉄塔等の昇降時の安全確保と作業時間の効率化の両立を図ることができる。
【0025】
このように、この発明によれば、ステップ着脱構造は、携帯可能に形成されたステップと、ステップを装着する装着対象物に備えられたステップ係止ボルトにより構成され、ステップは、上部に平坦面を有すると共に、上部平坦面の下側に設置され、下方側が開口する開口部を設けた係止部を備えており、ステップ係止ボルトは、開口部に係止する軸部、軸部に係止部の肉厚分の間隙を有して配置された、平坦面を上向きに位置決め保持する位置決め部及び頭部を備えているため、持ち運びが容易で鉄塔等への着脱が簡単に、且つ、短時間でできると共に、昇降時の十分な安全強度を備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の一実施の形態に係るステップ着脱構造を示し、(a)は一部破断した斜視説明図、(b)はステップ突出端側から見た説明図である。
【図2】図1のステップ係止ボルトの斜視図である。
【図3】図1のステップをステップ係止ボルトに装着する際の手順を示し、(a)は差し込み時の説明図、(b)は固定時の説明図、(c)はロック時の説明図である。
【図4】ステップ係止ボルトの他の固定方法を示し、(a)はステップ装着状態の側面図、(b)は取り付け状態の側面図である。
【符号の説明】
【0027】
10 ステップ
11 ステップ係止ボルト
12 ステップ部
12a 丸穴
13 側壁部
14 係止部
14a 開口部
15 ロック金具
16 金具装着孔
16a 凹部
17 頭部
17a 傾斜面
18 軸部
19 位置決め部
19a 端面
20 補助部材
21 ナット
22 パンザーマスト
23 ボルト受け部材
a 間隙
L 主脚


【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に平坦面を有すると共に、前記上部平坦面の下側に設置され、下方側が開口する開口部を設けた係止部を備え、携帯可能に形成されたステップと、
前記ステップを装着する装着対象物に備えられ、前記開口部に係止する軸部、前記軸部に前記係止部の肉厚分の間隙を有して配置された、前記平坦面を上向きに位置決め保持する位置決め部及び頭部を備えたステップ係止ボルトと
を有するステップ着脱構造。
【請求項2】
前記ステップは、前記頭部に下方から係止して前記ステップの上方への移動を阻止するロック金具を有する請求項1に記載のステップ着脱構造。
【請求項3】
前記ステップは、ステップ装着時に、前記頭部に塞がれない位置に形成された、前記頭部から前記頭部外側に延びる長孔からなり、前記頭部の下方に、前記ロック金具を係止保持するための凹部を有する請求項1または2に記載のステップ着脱構造。
【請求項4】
前記位置決め部は、前記係止部の両側壁部の内面に接触する、略平行する2つの端面を有する矩形状板体により形成されている請求項1から3のいずれか一項に記載のステップ着脱構造。
【請求項5】
前記頭部は、裏面から表面にかけて斜めに切り落とされ、裏面側が尖端となる傾斜面を有する請求項1から4のいずれか一項に記載のステップ着脱構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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