説明

ステレオ又は疑似ステレオオーディオ信号を改善する装置及び方法

ここで提案する装置又はここで提案する方法は、特に、疑似ステレオオーディオ信号の相関度の線形的な変更を行って、全体として包括的であるが、出来る限り簡単な後処理手法を提供する。これは、例えば、今日でもほぼ基本的にモノラル信号に基づく電話機において、特に、マッピング幅の縮小又は拡大、或いは安定したステレオ信号の取得のためのオーディオ信号の業務用後処理分野、さもなければ非常に簡単であるが、効率的な処理を目的とする高品質な消費者用電子機器分野に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオ信号とオーディオ信号を生成、伝送、変換及び再生する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二つ以上のスピーカーから放出されるオーディオ信号が、異なる振幅、周波数、伝搬時間差又は位相差を有するか、或いは相応にフェードアウトする場合、聴取者に立体的な印象を与えることは、一般的に周知である。
【0003】
モノラル信号をステレオ信号の印象を与える二つの異なるオーディオ信号に変換する方法も周知である。そのような解決策は、特に、本当の、或いは仮想的な立体感を耳に伝えるように、モノラルオーディオ信号を変換するために用いられている。モノラル信号から部分的に相関をとった一対の異なるオーディオ信号を生成した場合、それは「疑似ステレオ音響」と呼ばれる。
【0004】
特許文献1は、フィルタリングによって、モノラル入力信号から異なる形式の信号を生成することを提案しており、そこでは、例えば、ローリゼン氏が提案する方法を用いて、録音状況に依存する振幅と伝搬時間の補正に基づき、別個に仮想的な単一バンドのステレオ信号を発生させた後、それらを二つの出力信号に組み合わせている。
【0005】
特許文献2と特許文献3は、例えば、マイクロホンの主軸と音源が向いている方向の軸が成す、マッピングすべき音響事象の入射角を方法論的に評価する方法を記載しており、それは、元の録音状況の関数に依存する(そのシステムに基づき補間することができる)伝搬時間差と振幅補正値を利用している。ここに、特許文献2と特許文献3の内容を参照して挿入する。
【0006】
特許文献4は、それぞれ遅延時間は異なるが、画一的に増幅されたモノラル入力信号に対して、90、120、240及び270°の方位に関して相関をとるためのHRTF(ヘッド・リレイテッド・トランスファー・ファンクション)を使用しており、そのようにして生成された信号は、最終的に再び元のモノラル信号と重ね合わされている。その場合、振幅補正値と伝搬時間補正値は、録音状況と関係無く選定されている。
【0007】
多くの疑似ステレオ信号は、強調した「位相関係」、即ち、二つのチャンネル間の明らかに感知できる伝搬時間差を有する。多くの場合、二つのチャンネル間の相関度も小さ過ぎる(互換性の欠如)か、或いは大き過ぎる(望ましくないモノラル音響パターンとの類似)。従って、疑似ステレオ信号、さもなければステレオ信号は、放出される信号の無相関の解消又は増強を引き起こす欠陥を持つ場合が有る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許公開第0825800号明細書
【特許文献2】欧州特許公開第2124486号明細書
【特許文献3】欧州特許公開第1850639号明細書
【特許文献4】米国特許第5173944号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のことから、本発明の課題は、上記の問題を解決して、(疑似ステレオ信号を含む)ステレオ信号を等しくするか、或いはその逆に大きく異なるようにすることである。
【0010】
別の課題は、生成、伝送、変換又は再生するために、ステレオ及び疑似ステレオ信号を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本課題は、本発明により、特に、疑似ステレオ変換装置に対して、形式的に単純にパノラマ電位差計を後に接続することによって解決される。
【0012】
(パンポット、パノラマコントローラ又はパノラマ調整器とも呼ばれる)パノラマ電位差計が知られており、強度差ステレオ信号、即ち、伝搬時間差又は位相差、或いは周波数スペクトルの差を持たず、レベルだけが異なるステレオ信号のために使用されている。周知のパノラマ電位差計の回路の原理図は、図1に図示されている。その機器は、一つの入力101と、L(左のオーディオチャンネル)とR(右のオーディオチャンネル)のチャンネルグループのバス配線204,205に印加される二つの出力202,203とを有する。中間位置(M)では、二つのバス配線は、同じレベルを有し、左(L)と右(R)の側方位置では、左又は右のバス配線にだけ信号が伝えられる。中間位置では、パノラマ電位差計は、スピーカーベース上の仮想音源の異なる位置に相当するレベル差を発生させている。
【0013】
図2は、オーバーベース領域とそれに対応するマッピング角の無い、パノラマ電位差計の左と右のチャンネルの減衰グラフを図示している。中間位置では、各チャンネルの減衰量が3dBであり、そのため、音の重ね合わせによって、位置L又はRにおいて一つのチャンネルだけが得られる場合と同じ音量の印象が生じる。
【0014】
パノラマ電位差計は、例えば、分圧器として、左チャンネルを選定可能な異なる比率で左又は右の出力(これらの出力は、バス配線とも呼ばれる)に分配するか、或いは同様に、右チャンネルを選定可能な異なる比率で同じ左又は右の出力(これらもバス配線と呼ばれる)に分配することができる。そのため、強度差ステレオ信号では、マッピング幅を狭めるとともに、その方向をずらすことができる。
【0015】
伝搬時間差又は位相差、周波数スペクトルの差、或いはフェードアウトを活用した疑似ステレオ信号(並びに一般的に、そのようにして得られたステレオ信号)では、そのようなパノラマ電位差計によるマッピング幅の狭窄化又はマッピング方向のスライドは不可能である。そのため、意図的に、そのような信号にパノラマ電位差計を使用することが全く見過ごされてきた。
【0016】
しかし、本発明では、意外にも、従来の経験と異なり、これまで周知でなかったパノラマ電位差計を疑似ステレオ変換回路の後に接続することが予期しなかった利点をもたらすことが分かった。確かに、そのような後に接続することは、前述した通りの得られたステレオ信号のマッピング幅の縮小又はマッピング方向のスライドを引き起こすことはできない。しかし、そのような経路上のそのようなパノラマ電位差計によって、左と右の信号間の相関度を増減することができる。
【0017】
有利な実施構成では、疑似ステレオ信号を得るための回路の左と右の出力の後に、それぞれ一つのパノラマ電位差計を接続する。この場合、有利には、二つのパノラマ電位差計のバス配線は、共通的に、有利には、並行して使用される。
【0018】
この場合、各パノラマ電位差計は、一つ入力と二つの出力を有する。第一のパノラマ電位差計の入力は、回路の第一の出力と接続され、第二のパノラマ電位差計の入力は、その回路の第二の出力と接続される。第一のパノラマ電位差計の第一の出力は、第二のパノラマ電位差計の第一の出力と接続される。第一のパノラマ電位差計の第二の出力は、第二のパノラマ電位差計の第二の出力と接続される。
【0019】
それに代わって、同様に、パノラマ電位差計の代わりに、ステレオ変換器とステレオ変換器の前に接続されたステレオ変換器の入力信号を増幅する増幅器とから成る疑似ステレオ変換用の第一の回路を用いて、相関度を調整することもでき、それは、パノラマ電位差計を使用しない。それによって、より少ないコンポーネントで同様の相関度の調整を行うことができる。
【0020】
それに代わって、同様に、パノラマ電位差計の代わりに、所定の係数でそれぞれ増幅された入力信号(M,S)を加算する加算器と減算する減算器を備えた改良したステレオ変換器を有する第二の回路を用いて、相関度を変化させて、パノラマ電位差計のバス配線の信号と同じ信号を生成することもできる。
【0021】
本発明は、三台以上のスピーカーから再生させる信号を生成する装置又は方法(例えば、従来技術に属するサラウンド設備)に適用することもできる。
【0022】
以下において、本発明の異なる実施構成を例示して説明し、その際、次の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】周知のパノラマ電位差計の回路の原理図
【図2】オーバーベース領域とそれに対応するマッピング角の無いパノラマ電位差計の左と右のチャンネルの減衰グラフの図
【図3】ステレオ変換から得られた左チャンネルL’又は右チャンネルR’をバス配線LとRが共通であるそれぞれ一つのパノラマ電位差計に供給する本発明の第一の実施構成の図
【図4】本発明の第二の実施構成の図
【図5】本発明の第三の実施構成の図
【図6】パノラマ電位差計を直後に接続する必要の無い、MSマトリックスを僅かに改良した図3と同様の回路から成る本発明の第四の実施構成の図
【図7】図3に図示されたパノラマ電位差計の反比例する減衰係数λとρに関して、関係式λ=ρが成り立つ場合の図3又は図6と同様の回路図
【図8】ステレオ変換器の出力信号のレベルを正規化するために、図7の回路を拡張した回路図
【図9】図8を拡張して、与えられた信号x(t),y(t)を複素数平面上の伝達関数
【0024】
【数1】

【0025】
の合計としてマッピングする回路図の例
【図10】ステレオ信号のマッピング幅を決定するために、図9を拡張した回路図の例
【図11】(信号のローカル化を決定するために)図12の回路に引き渡される前の既に存在するステレオ信号L゜、R゜であるL゜、即ち、l(t)とR゜,即ち、r(t)を複素数平面上の伝達関数
【0026】
【数2】

【0027】
の合計としてマッピングする入力回路図の例
【図12】入力を図10の出力又は図11の出力と接続できる、信号のローカル化を決定する回路図
【発明を実施するための形態】
【0028】
図3〜5は、疑似ステレオ変換回路309,409又は509の直後に、それぞれ一つのパノラマ電位差計311と312,411と412,511と512を接続した本発明による回路の異なる実施構成を図示している。ここで図示している各例では、疑似ステレオ変換回路309,409又は509は、特許文献2又は3に記載された通りのMSマトリックス310,410又は510を備えた回路から構成される。
【0029】
このパノラマ電位差計311と312,411と412,511と512を用いて、バス配線L,R上に得られる信号304,404,504と305,405,505の相関度を増減することができる。それによって、(MSマトリックスを通過した後の)ステレオ変換から得られた左チャンネルL’302,402,502又は右チャンネルR’303,403,503は、バス配線LとRを共通に使用する、それぞれ一つのパノラマ電位差計に供給される。
【0030】
装置309,409又は509から得られるステレオ信号302と303,402と403,502と503のパノラマ電位差計311,411又は511の左の入力信号L’に関する減衰係数λとパノラマ電位差計312,412又は512の右の入力信号R’に関する減衰係数ρを0〜3dBの範囲に狭めた場合に、それと反比例する関係式1≧λ≧0及び1≧ρ≧0(ここで、1は0dBに対応し、0は3dBに対応する)を導入することができる。
【0031】
そのため、λとρは、図3〜5に図示されたパノラマ電位差計の減衰係数と反比例する0〜3dBの範囲に狭められた減衰係数と等しい。
【0032】
従って、(バス配線上に)得られるステレオ信号LとR(304と305,404と405,504と505)或いはパノラマ電位差計311,411,511の出力信号L''313,413,513とR''314,414,514及びパノラマ電位差計312,412,512の出力信号L''' 315,415,515とR''' 316,416,516に関して、次の関係式が得られる。
【0033】
【数3】

【0034】
図6は、パノラマ電位差計を直後に接続することを不要とした、MSマトリックスを僅かに改良した図3と同様の回路の別の実施構成を図示している。ステレオ変換と同様の次の変換式(MSマトリックス化)を考慮すると、
【0035】
【数4】

【0036】
、次の関係式が得られる。
【0037】
【数5】

【0038】
それによって、バス配線の信号LとRは、ステレオ変換回路の入力信号MとSから直接導き出すことができる。
【0039】
λ=ρの(左と右のチャンネルの減衰係数が等しい)場合、次の関係式が成り立つ、
【0040】
【数6】

【0041】
即ち、信号Sの振幅の変化は、左と右のチャンネルの減衰係数が等しい場合、パノラマ電位差計を一つずつ後続したことと同等となる。この前提条件において、出力信号LとRは、図3のバス配線の信号LとRと等しくなる。
【0042】
従って、係数(2+λ−ρ)で増幅したM信号と係数(λ+ρ)で増幅したS信号の合算信号及び係数(2−λ+ρ)で増幅したM信号から係数(λ+ρ)で増幅したS信号を減算した差分信号を生成する、例えば、図6の構成による(僅かな変更が可能である)回路又は方法が得られ、この場合、式(1)と(2)と同等の信号LとRを得るために、全体として、係数
【0043】
【数7】

【0044】
による補正を行っている。
【0045】
図7は、図3に図示されたパノラマ電位差計の反比例する減衰係数λとρに対して、λ=ρが成り立つ限り、図3又は図6と同等の回路を図示している。この回路は、強度差ステレオ音響(MSマイクロホン法)で周知の(ここでは行われない)録音角又は開口角を変更する構成と置き換えられない。
【0046】
ここでは、多くの場合に、ステレオ信号の同等化又は差別化のためには、提案しているパノラマ電位差計又は前述した改良したMSマトリックスに対して画一的な減衰係数で十分であることを出発点としている。そして、前述した次の式(3)と(4)に基づく装置は、λ=ρによって簡略化されており、
【0047】
【数8】

【0048】
これは、S信号の振幅を単純に補正すること(717)に等しい。
【0049】
そのようなS信号の振幅の補正は、これまで従来のMSマイクロホン法に関してのみ知られており、そこでは、理想的な範囲で、ここでは行われない録音角又は開口角の変更を行っている。同じ作用原理を適用することはできない(そのため、MSマイクロホン法を本回路に適用することは推奨できない)。
【0050】
従って、図7では、MSマトリックスを最終的に通過する前に、S信号を係数λ(1≧λ≧0)で増幅して補完している。その結果得られたステレオ信号は、減衰係数が画一的であるバス配線の図3の信号304と305、図4の信号404と405、図5の信号504と505、並びにそこでλ=ρが成り立つ限りにおいて、図6の出力信号LとRと同等である。
【0051】
実際には、この回路又は方法によって、相関度を正確に決定することができる、即ち、減衰係数λと相関度rの間の直接的な関数関係が得られ、理想的には、0.2≦r≦0.7が成り立つ。λに関しては、一連の実験において、0.07≦λ≦0.46が大抵の用途に対して有利であることが分かっている。
【0052】
特に、本装置又は方法によって、アーチファクト(伝搬時間差、位相シフトなどの乱れ)を簡単に除去することができ、それは、手動で、或いは自動的に(アルゴリズムで)行われる。
【0053】
従って、パノラマ電位差計を後に接続することが、減衰係数が画一的であり、最終的なMSマトリックス化の前に、S信号の振幅を係数λ(1≧λ≧0)で補正することと同等であることによって、元のモノラル信号を出発点として、聴取者に対して、包括的であるが、出来る限り簡単な後処理手法を可能とする納得できる疑似ステレオ音響化を実現することができ、それは、基本的に互換性を確保するとともに、欠陥を引き起こすアーチファクトを防止する。
【0054】
本装置は、例えば、電話機において、非常に簡単であるが、効率的な処理を目的とするオーディオ信号の業務用後処理分野又は高品質な消費者用電子機器分野で用いることができる。
【0055】
1.マッピング幅の縮小又は拡大
このような用途に対して、従来技術に属する圧縮アルゴリズム又はデータ削減方法を更に採用すること、或いは例えば、得られた疑似ステレオ信号の最小値又は最大値などの特筆すべき特徴を考察することも推奨され、それは、本発明による評価を加速する。
【0056】
得られたステレオ信号の相関度r、或いは(得られたステレオ信号を処理するための)減衰係数λ又はρを目的通り変化させることによって、得られたステレオ信号のマッピング幅を補足的に縮小又は拡大することは、(例えば、自動車でのステレオ信号の再生のために)特に重要である。この場合、ステレオ音響化する信号の指向特性を規定する、事前に調査したパラメータf(又はn)、手動で、或いは測定技術により検出する、主軸と音源の成す角度φ、左の仮想の開口角α及び右の仮想の開口角βを維持することができ、有意義なこととして、そのようなマッピング幅の縮小又は拡大を手動で行う場合には、例えば、図8の論理素子120による最終的な振幅補正だけが必要となる。
【0057】
これらを自動化する場合、一連の音響心理実験は、ステレオ出力信号x(t),y(t)又はその複素伝達関数
【0058】
【数9】

【0059】
に対して、一定のマッピング幅が、基本的に次の判定基準
【0060】
【数10】

【0061】
と次の判定基準
【0062】
【数11】

【0063】
に依存することを示している(ここで、例えば、電話信号に対しては、S* とε又はU* とκを音楽録音と異なる形で決定する)。それによると、得られたステレオ信号の相関度r、(得られたステレオ信号を処理するための)減衰係数λ又はρ、或いは図8の論理素子120に応じた好適な関数値x(t),y(t)だけをフィードバックに基づき反復した動作原理により決定する。
【0064】
従って、本発明による構成は、配置構成という意味において、以下の通り、例えば、図8〜10に図示された形に拡張することができる。
【0065】
この場合、図1〜7による構成から得られた出力信号は、二つの信号の最大値が正確に0dBのレベルを有するように(複素数平面の単位円への正規化)、画一的に係数ρ* で増幅される(図8の増幅器118,119)。それは、例えば、左又は右のチャンネルのの最大レベルが0dBとなるまで、フィードバック121と122によって、増幅器118と119の増幅係数ρ* を変更又は補正する論理素子120を後に接続することによって実現される。
【0066】
ここで、更なる工程において、その結果得られた信号x(t)123とy(t)124をマトリックスに供給し、そこでは、これらの信号は、それぞれ係数
【0067】
【数12】

【0068】
で増幅された(図9の増幅器229,230)後、同じラウドネスの実数部と虚数部に分割され、増幅器229を用いて増幅された信号x(t)から生成された実数部は、更に増幅係数−1の増幅器231を通過する。それによって、次の伝達関数
【0069】
【数13】

【0070】
が得られる。ここで、各実数部と虚数部は、合算され、そのため、伝達関数の合計f* [x(t)]+g* [y(t)]の実数部と虚数部が得られる。
【0071】
この場合、例えば、図10の論理素子640による構成が後に接続され、その構成は、ユーザーが目的とするステレオ信号のマッピング幅に関して好適に選定した限界値S* 又は好適に選定した偏差ε(両方とも不等式(7)によって定義される)に関して、次の条件
【0072】
【数14】

【0073】
が満たされるか否かを検査する。その条件に該当しない場合、フィードバック641によって、(得られたステレオ信号を処理するための)相関度r又は減衰係数λ又はρに関して新たな最適値を決定して、上記の条件(7)が満たされるまで、図8〜10に図示されている通り、これまでに説明した工程を実行する。
【0074】
ここで、論理素子640の入力信号は、例えば、図10の論理素子642による構成に引き渡される。その構成は、最終的に目的とするステレオ信号のマッピング幅に関する関数値の最適化という意味において、関数f* [x(t)]+g* [y(t)]のリリーフを考察しており、ユーザーは、目的とするステレオ信号のマッピング幅に関して、限界値U* 及び偏差κ(両方とも不等式(8)によって定義される)を好適に選定することができる。全体として、次の条件
【0075】
【数15】

【0076】
を満たさなければならない。その条件に該当しない場合、フィードバック643によって、(得られたステレオ信号を処理するための)相関度r、或いは減衰係数λ又はρに関する新たな最適値を決定して、関数f* [x(t)]+g* [y(t)]のリリーフが、限界値U* 又は偏差κ(両方ともユーザーによって好適に選定される)を考慮したマッピング幅に関する関数値の目標とする最適化を満たすまで、図8〜10に図示されている通り、これまでに説明した工程を実行する。
【0077】
そのため、信号x(t)123とy(t)124は、(得られたステレオ信号を処理するための)相関度r、或いは減衰係数λとρによって決まるマッピング幅に関して、ユーザーの指示と一致し、前述した構成の出力信号L**とR**を表すこととなる。
【0078】
ここで行った考察は、虚数平面の単位円と異なる座標系を選定した場合でも、全体として有効である。例えば、単一の関数値の代わりに、軸の長さを正規化して、それに応じて計算負荷を軽減することもできる。
【0079】
2.マッピング方向の決定
時として、得られたステレオマッピングをステレオ音響化のベースとなる指向特性の主軸の周りに鏡像反転させることも、例えば、そのような主軸に関して鏡面反転したマッピングが得られるので、重要である。それは、手動で左と右のチャンネルを交換することによって行うことができる。
【0080】
本システムによって、既に存在するステレオ信号L゜,R゜をマッピングする場合、例えば、図12により構成される仮想音源の図示された疑似ステレオ手法を用いて、正しいマッピング方向を自動的に見つけ出すことができる(図12は、図10の直ぐ後に接続され、既に存在するステレオ信号L゜,R゜の複素伝達関数の合計f* (l(ti ))+g* (r(ti ))を決定するために、同様に図11を図12に接続することができる、図9の説明を参照)。この場合、(少なくとも一つのケースにおいて、以下で述べる伝達関数f* (x(ti ))+g* (y(ti ))又はf* (l(ti ))+g* (r(ti ))の相関関数値の全てが0に等しいということにはならない)好適に選定した時点ti において、図9により既に算出した伝達関数f* (x(ti ))+g* (y(ti ))を元のステレオ信号L゜,R゜の左の信号l(t)又は右の信号r(t)のf* (l(ti ))+g* (r(ti ))と比較する。これらの伝達関数が複素数平面の同じ又は対角線上に対向する象限内を移動した場合、複素数平面の同じ又は対角線上に対向する象限内に有る、前記の伝達関数の関数値の全数mがそれぞれ1だけ増える。
【0081】
ここで、伝達関数f* (x(ti ))+g* (y(ti ))又はf* (l(ti ))+g* (r(ti ))の相関関数値の数以下であり、ゼロではない、経験的に(又は統計的に調査して)決定できる数bは、必要な該当数を規定する。そのような数を下回る数で、例えば、図8〜10による構成から得られるステレオ信号の左チャンネルx(t)と右チャンネルy(t)を交換する。
【0082】
元のステレオ信号が、指向特性を規定する関数f(又はその簡略化したパラメータn)及び(例えば、データ圧縮を目的とする)パラメータφ、α、β、λ、ρに加えて、モノラル信号に符号変換される場合(パラメータzに関して拡張することができる出力640aの例、下記参照)、有意義なこととして、(例えば、0又は1の数を占めるパラメータzによって表される)得られた左チャンネルと得られた右チャンネルを交換すべきか否かの情報を一緒に符号化する。
【0083】
僅かな変更により、図3、4、5、6又は7の直後に接続するか、或いは電気回路又はアルゴリズム内の別の位置に挿入することもできる、図11及び12による回路と同様の回路を構成することができる。
3.二台以上のスピーカーから再生することができる既に存在するステレオ信号を評価する例としての、本発明による安定したFMステレオ信号の取得。
【0084】
本発明は、(例えば、自動車内の)不利な受信条件下における安定したFMステレオ信号の取得に関しても特に重要である。この場合、安定したステレオ音響は、元のステレオ信号の左と右のチャンネルの合計である主チャンネル信号(L+R)を入力信号として純粋に利用して実現することができる。この場合、元のステレオ信号の左と右のチャンネルの減算結果である完全又は不完全な副チャンネル信号(L−R)を一緒に用いて、使用可能なS信号を処理するか、或いは全体として目標とするステレオ信号のマッピング幅を決定するための以下のパラメータ又は前述した構成により再現した音源のマッピング方向を決定又は最適化する。
(a)ステレオ音響化する信号の指向特性を規定するパラメータf(又はn)、
(b)手動で、或いは測定技術により検出する、主軸と音源の成す角度φ、
(c)左の仮想の開口角α、
(d)右の仮想の開口角β、
(e)得られたステレオ信号又はそれから得られた信号を処理するための減衰係数λ又はρ、
(f)(例えば、図8の論理素子120と同様に決定された)MSマトリックス又はそれ以外の本発明による構成から得られた左と右のチャンネルを単位円に正規化するための増幅係数ρ* (この場合、1は、ρ* を用いて正規化した0dBの最大レベルに等しく、x(t)は、そのような正規化から得られた左の出力信号を表し、y(t)は、そのような正規化から得られた右の出力信号を表す)、
(g)得られたステレオ信号の相関度r、
(h)例えば、以下の不等式(9)又は(9a)によって定義される、得られた出力信号の伝達関数の合計に関する許容される数値範囲を定義するための増幅係数a、(例えば、前記の複素伝達関数は、
【0085】
【数16】

【0086】
と、
【0087】
【数17】

【0088】
であり、例えば、0≦a≦1に対して、次の式が成り立つか、
【0089】
【数18】

【0090】
と、
【0091】
【数19】

【0092】
或いは全体として、
【0093】
【数20】

【0094】
である)
(i)前記の伝達関数の合計の関数値の絶対値を決定又は最大化するための、以下の不等式(11)又は(11a)によって定義される限界値R* 又は同じく以下の不等式(11)又は(11a)によって定義される偏差Δ(この場合、そのような決定又は最大化と時間間隔[−T,T]又は可能な出力信号xj (t),yj (t)の全数に関して、例えば、次の式が成り立つ、
【0095】
【数21】

【0096】
又は
【0097】
【数22】

【0098】
)、
(j)前に定義した限界値S* 又は前に定義した偏差ε(これらに関しては、例えば、次の式
【0099】
【数23】

【0100】
が成り立たなければならない)、
(k)前に定義した限界値U* 又は前に定義した偏差κ(これらに関しては、例えば、次の式
【0101】
【数24】

【0102】
が成り立たなければならない)。
如何なる場合でも、この結果は、FM信号に対して一定のステレオ音響マッピングとなる。
【0103】
特に、この場合でも、従来技術に属する圧縮アルゴリズム又はデータ削減方法の採用、或いは例えば、前述した判定基準によるステレオ又は疑似ステレオ信号の評価を加速させる、最小値と最大値などの特筆すべき特徴の考察が推奨される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左と右の信号間の相関度が変更可能な疑似ステレオ信号を取得する装置であって、
疑似ステレオ変換用のステレオ変換器と、その後に接続された二つのパノラマ電位差計(311,312;411,412;511,512)とを備え、各パノラマ電位差計が二つのバス配線の信号を生成する第一の回路(309,409,509)か、
ステレオ変換器とそのステレオ変換器の前に接続された、ステレオ変換器の入力信号を増幅するための増幅器(717)とを備えた疑似ステレオ変換用の第一の回路(309,409,509)か、
上記のバス配線の信号と同等の信号を生成するように、それぞれ所定の係数で増幅された入力信号(M,S)を加算する加算器と減算する減算器を有する改良したステレオ変換器を備えた第二の回路、
を有する装置。
【請求項2】
第一の回路の左の出力(L’)と右の出力(R’)の後に、それぞれ一つのパノラマ電位差計が接続されている請求項1に記載の装置。
【請求項3】
パノラマ電位差計が、両方ともバス配線(313,314;315,316;413,414;415,416;513,514;515,516)を有し、これらの二つのバス配線を単に共通的に、並行して使用することができる請求項2に記載の装置。
【請求項4】
各パノラマ電位差計が、一つの入力(302;303)と二つの出力(313,314;315,316)を有し、
第一のパノラマ電位差計(311)の入力が、第一の回路の第一の出力(L’)と接続されており、
第二のパノラマ電位差計(312)の入力が、第一の回路の第二の出力(R’)と接続されており、
第一のパノラマ電位差計(311)の第一の出力(313)が、第二のパノラマ電位差計(312)の第一の出力(315)と接続されており、
第一のパノラマ電位差計(311)の第二の出力(314)が、第二のパノラマ電位差計(312)の第二の出力(316)と接続されている、
請求項2に記載の装置。
【請求項5】
(a)左の出力信号L’に係数1/2*(1+λ)(λは、MSマトリックスの前記の左の出力信号L’に関する減衰係数に反比例して、(0dBに対応する)1≧λ≧(3dBに対応する)0である)を乗算した結果と、MSマトリックスの右の出力信号R’に係数1/2*(1−ρ)(ρは、MSマトリックスの前記の右の出力信号R’に関する減衰係数に反比例して、(0dBに対応する)1≧ρ≧(3dBに対応する)0である)を乗算した結果とを加算して、左のバス配線の信号Lを最終的に生成する手段と、
(b)上記(a)での左の出力信号L’に係数1/2*(1−λ)を乗算した結果と、MSマトリックスの前記の右の出力信号R’に係数1/2*(1+ρ)を乗算した結果とを加算して、右のバス配線の信号Rを最終的に生成する手段と、
備えていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項6】
(a)係数(2+λ−ρ)で増幅された第一の入力信号(M)と係数(λ+ρ)で増幅された第二の入力信号(S)を加算して合算信号を生成する加算手段と、
(b)係数(2−λ+ρ)で増幅された第一の入力信号(M)から係数(λ+ρ)で増幅された第二の入力信号(S)を減算して差分信号を生成する減算手段と、
を備えていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項7】
減衰係数λとρが等しい請求項6に記載の装置。
【請求項8】
当該の得られた左と右のチャンネルの最大レベルを正規化するか、或いは同様に<x(t),y(t)>の座標系の軸の長さを正規化する正規化手段を備えた請求項1から7までのいずれか一つに記載の装置。
【請求項9】
当該の得られた疑似ステレオ信号の相関度r或いは減衰係数λ又は減衰係数ρを可能な限り変更することによって、その疑似ステレオ信号のマッピング幅を更に決定する手段を備えていることを特徴とする請求項1から8までのいずれか一つに記載の疑似ステレオ信号を取得する装置。
【請求項10】
ステレオ信号のマッピング方向を更に決定又は規定する手段を備えた請求項1から9までのいずれか一つに記載の装置。
【請求項11】
得られたステレオ信号を二台以上のスピーカーから再生することができるように更に評価する手段を備えた請求項1から10までのいずれか一つに記載の装置。
【請求項12】
オーディオ信号の圧縮、データ削減又はそれ以外の選択的評価を行う手段を備えた請求項1から11までのいずれか一つに記載の装置。
【請求項13】
得られたステレオ出力信号を三台以上のスピーカーから再生するために使用されるステレオ信号に変換する一つ以上の変換器を備えていることを特徴とする請求項1から12までのいずれか一つに記載の装置。
【請求項14】
FMステレオ信号に基づき疑似ステレオ信号を取得するために請求項1から13までのいずれか一つに記載の装置を使用する方法。
【請求項15】
左と右の信号間の相関度が変更可能な疑似ステレオ信号を取得する方法において、
一つの信号をステレオ変換器でステレオ変換する工程と、
二つのパノラマ電位差計を用いて、或いは
ステレオ変換器の前に接続された、ステレオ変換器の入力信号を増幅する増幅器(717)を用いて、或いは
それぞれ所定の係数で増幅された入力信号(M,S)を加算する加算器と減算する減算器を有する改良したステレオ変換器を用いて、
左と右の信号間の相関度を調整する工程と、
を有する方法。
【請求項16】
左と右の出力チャンネルにそれぞれ一つのパノラマ電位差計が接続されており、これらの二つのパノラマ電位差計がそれぞれ一つのバス配線を有し、二つのバス配線が共通的に、並行して使用される請求項15に記載の方法。
【請求項17】
各パノラマ電位差計が一つの入力(302;303)と二つの出力(313,314;315,316)を有し、
第一のパノラマ電位差計(311)の入力が回路の第一の出力(L’)と接続され、
第二のパノラマ電位差計(312)の入力が回路の第二の出力(R’)と接続され、
第一のパノラマ電位差計(311)の第一の出力(313)が第二のパノラマ電位差計(312)の第一の出力(315)と接続され、
第一のパノラマ電位差計(311)の第二の出力(314)が第二のパノラマ電位差計(312)の第二の出力(316)と接続されている、
請求項15に記載の方法。
【請求項18】
(a)左の出力信号L’に係数1/2*(1+λ)(λは、MSマトリックスの前記の左の出力信号L’に関する減衰係数に反比例して、(0dBに対応する)1≧λ≧(3dBに対応する)0である)を乗算した結果と、MSマトリックスの右の出力信号R’に係数1/2*(1−ρ)(ρは、MSマトリックスの前記の右の出力信号R’に関する減衰係数に反比例して、(0dBに対応する)1≧ρ≧(3dBに対応する)0である)を乗算した結果とを加算して、左のバス配線の信号Lを最終的に生成し、
(b)上記(a)での左の出力信号L’に係数1/2*(1−λ)を乗算した結果と、MSマトリックスの前記の右の出力信号R’に係数1/2*(1+ρ)を乗算した結果とを加算して、右のバス配線の信号Rを最終的に生成する、
ことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項19】
(a)係数(2+λ−ρ)で増幅された第一の入力信号(M)と係数(λ+ρ)で増幅された第二の入力信号(S)を加算して合算信号を生成し、
(b)係数(2−λ+ρ)で増幅された第一の入力信号(M)から係数(λ+ρ)で増幅された第二の入力信号(S)を減算して差分信号を生成する、
請求項15に記載の方法。
【請求項20】
減衰係数λとρが等しい請求項19に記載の方法。
【請求項21】
当該の得られた左と右のチャンネルの最大レベルを正規化するか、或いは同様に<x(t),y(t)>の座標系の軸の長さを正規化する請求項15から20までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項22】
当該の得られた疑似ステレオ信号の相関度r或いは減衰係数λ又は減衰係数ρを可能な限り変更することによって、その疑似ステレオ信号のマッピング幅を更に決定することを特徴とする請求項15から21までのいずれか一つに記載の疑似ステレオ信号を取得する方法。
【請求項23】
得られたステレオ信号のマッピング方向を更に決定又は規定することを特徴とする請求項15から21までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項24】
得られたステレオ信号を二台以上のスピーカーから再生することができるように更に評価することを特徴とする請求項15から23までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項25】
オーディオ信号に圧縮手法、データ削減手法又はそれ以外の選択的評価手法を更に適用することを特徴とする請求項15から24までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項26】
得られたステレオ出力信号を三台以上のスピーカーから再生するためのステレオ信号に変換することを特徴とする請求項15から25までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項27】
本方法をFMステレオ信号に適用することを特徴とする請求項15から26までのいずれか一つに記載の疑似ステレオ信号を取得する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2012−533953(P2012−533953A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520969(P2012−520969)
【出願日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055876
【国際公開番号】WO2011/009649
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(510300393)ストーミングスイス・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (3)
【Fターム(参考)】