ストロンチウムを添加した生体活性ガラス
本発明は、ストロンチウムを含むか、または添加した生体活性ガラス、その調製の方法、および、骨の修復または再建の方法におけるその使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストロンチウムを含むか、または添加した新規の生体活性ガラス、その調製の方法、および、骨の修復または再建の方法におけるその使用に関する。
【0002】
骨は、コラーゲン線維ネットワーク、ならびに、リン酸カルシウムの水和および炭酸化した結晶で構成されている。骨細胞と呼ばれる細胞(骨芽細胞および破骨細胞を含む)は、このネットワーク中に入り込む。この細胞は、非常に小さな血管により血液供給される。
【背景技術】
【0003】
骨が損傷すると、損傷した破片を破骨細胞が除去し、骨芽細胞は、コラーゲンネットワークを再建し、結晶性のヒドロキシカーボネートアパタイトの堆積を可能にする酵素の産生を促進し、これが続いて骨欠損部が修復される。
【0004】
この自然な過程はゆっくりなので、骨セメント、または、損傷領域の寸法に応じたさまざまなサイズのプロテーゼにより骨修復を補助するのが普通である。骨再建が行われないか、または遅すぎるときは、骨移植が時に必要である。
【0005】
骨欠損部の修復の全ての場合において重要なことは、代用構造物の設置と並行して、徐々に定着し、または代用骨に取って代わることになる骨組織の再建を促進することである。
【0006】
特定の疾患、特に骨粗鬆症においては、骨芽細胞の活性を刺激することにより、骨組織の分解に対抗することが重要である。
【0007】
このような全ての用途のために、生体活性ガラスの開発が何年にもわたって行われている。生体活性ガラスは生体液と化学的に反応し、その反応生成物が、骨マトリックスの形成および骨成長を促進するヒドロキシアパタイトである。
【0008】
最初の生体活性セラミックスは、L.L.Henchにより開発された(L.L.Henchら、J.Biomed.Mater.Res.、1971、2、117〜141頁;L.L.Henchら、J.Biomed.Mater.Res.、1973、7、25〜42頁)。
【0009】
最初の生体活性ガラスは、SiO2とP2O5とから、また、CaOとNa2Oとから調製された。ケイ素の酸化物およびリンの酸化物は、ガラス質ネットワークの結合に関与するネットワーク形成物質である。ナトリウムおよびカルシウムなどのアルカリ金属およびアルカリ土類金属はこのような能力をもたず、ガラス質ネットワーク中に連鎖の切断部を導入することによりこのネットワークを改変し、この切断部があるとこうしたガラスの融点は低くなり、それに伴い構造の秩序の乱れが増すと考えられる。このような金属が存在すると、結果として水性環境において生体活性ガラスの反応性が増す。この反応性が、生理環境におけるヒドロキシアパタイトの形成を可能にし、ひいては骨再建を促進する。
【0010】
最も多く研究されているバイオガラスは、Bioglass(登録商標)と呼ばれるナトリウム−ケイ素−リン−カルシウムのガラスまたはHenchによるBioverreである。その基本組成は、SiO2が55%−CaOが20%−Na2Oが20%−P2O5が5%である。この材料の優れた生体活性特性については、あらためて立証するまでもない。Bioglass(登録商標)は、未だに最も興味深い生体活性材料(細胞の特異的な応答を誘導する)の1つである。
【0011】
生体活性ガラスの分野では、その発見以来、多様な原子の組込みまたは活性成分の組込みなど、多くの進歩が遂げられている(M.Vallet−Regiら、Eur.J.Inorg.Chem.、2003、1029〜1042頁)。生体活性ガラスの組成は、骨芽細胞の増殖および骨組織の形成を促進するように最適化されてきた(WO02/04606)。銀の組込みは、特に生体活性ガラスに抗菌特性を賦与するために提案されている(WO00/76486)。
【0012】
しかし、生体活性ガラス中への新しい元素の組込みにより、以下のような困難が常に生じる:事実、生体活性ガラスの組成中に導入されたいかなる原子も、前記ガラスの振舞いおよびその特性に、とりわけ、このガラスが、自身を構成する元素を塩析させる経路に対して影響を及ぼす。さらに、生体活性ガラスは、ヒドロキシアパタイトの形成を可能にするために良好に溶解する必要もあるが、ヒドロキシアパタイトが徐々に定着でき、また、任意の活性物質を持続的に塩析させることができるように、溶解速度は制御されなければならない。
【0013】
最後に、生体活性ガラスの作製の条件は、それぞれの新しい組成に適合したものでなければならない。
【0014】
このガラスの生物活性特性およびその溶解速度は、その組成およびそのテクスチャに依存する。生体活性ガラスの基本的な組成は、SiO2−CaO−P2O5またはSiO2−Na2O−CaO−P2O5の形態のものである。しかし、溶解過程における多様な段階中に、イオンの塩析、および、生物活性につながる物理化学的反応に特定の極微量元素が果たす役割についての研究は、これまでほとんどされてこなかった。
【0015】
ストロンチウムは、骨組織中に天然に存在し、沈着物の成長段階の間にアパタイト中に取り込まれることがある(カルシウム欠損アパタイトの形成)。さらに、文献には、この元素は細胞の反応に影響を及ぼすことが可能なものとして記載されている。ストロンチウムは、骨の機械的特性を向上させ、アパタイトの溶解性に影響を及ぼす。ストロンチウムは、ヒドロキシアパタイトの機械的特性を向上させることから、骨粗鬆症にも関連がある。この元素は、in vivoで、周囲組織とのより良好な結合をもたらす。この元素は、細胞の付着を向上させるが、培養液中での骨芽細胞の成長をわずかに低下させ、乳酸デヒドロゲナーゼの産生を増加させる。ストロンチウムは、細胞の固定化も可能にし、生体材料にSrを添加すると、細胞の付着がより良好になると考えられる(E.Canalisら、Bone、1996、18、517〜523頁;G.Boivinら、J.Bone Miner.Res.、1996、11、1302〜1311頁;P.Marie and M.Hott、Metabolism、1986、35、547〜551頁;P.Marie、Current Opinion in Pharmacology、2005、5、633〜636頁)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】WO02/04606
【特許文献2】WO00/76486
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】L.L.Henchら、J.Biomed.Mater.Res.、1971、2、117〜141頁
【非特許文献2】L.L.Henchら、J.Biomed.Mater.Res.、1973、7、25〜42頁
【非特許文献3】M.Vallet−Regiら、Eur.J.Inorg.Chem.、2003、1029〜1042頁
【非特許文献4】E.Canalisら、Bone、1996、18、517〜523頁
【非特許文献5】G.Boivinら、J.Bone Miner.Res.、1996、11、1302〜1311頁
【非特許文献6】P.Marie and M.Hott、Metabolism、1986、35、547〜551頁
【非特許文献7】P.Marie、Current Opinion in Pharmacology、2005、5、633〜636頁
【非特許文献8】「An introduction to Bioceramics」、L.Hench and J.Wilson、World Scientific Edition、New Jersey(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の一目的は、先行技術の材料と比較して向上した特性を有する新規の生体活性材料を開発することであった。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の材料は、ストロンチウムを含む生体活性ガラスの組成物である。本発明の第1の実施形態によれば、この生体活性ガラスは、ゾルゲル法により作製される。この組成物は、記載の比率での以下の構成要素:
SiO2:40から75%
CaO:15から30%
SrO:0.1から10%
P2O5:0から10%
Na2O:0から20%
MgO:0から10%
ZnO:0から10%
CaF2:0から5%
B2O3:0から10%
Ag2O:0から10%
Al2O3:0から3%
MnO:0から10%
その他:0から10%
の存在を特徴とする。
【0020】
この比率(%)は、組成物の総質量に対する質量比(%)である。
【0021】
有利には、構成要素SiO2、CaO、SrO、P2O5の質量の合計は、本発明の材料の組成物の総質量の98から100%、さらにより良好には99から100%、好ましくは99.9から100%を占める。
【0022】
有利には、本発明の材料は、組成物の総質量に対する質量比で、以下:
SiO2:45から75%
CaO:15から30%
SrO:2から8%
P2O5:0から10%
他の元素:0から1%、好ましくは0から0.5%
から構成される。
【0023】
本発明の材料は、ゾルゲル法により作製されるものであってもよく、固まっていない粉末もしくは圧縮粉末の形態、繊維の形態、または代替的に基材上のコーティングの形態、または板状物もしくはガラスフリットの形態をしていてもよい。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、この材料は、高温融合法に続いて急冷することにより作製されるものであってもよい。この場合、こうした材料は、以下の組成により定義される:
SiO2:45から55%
Na2O:10から25%
CaO:10から25%
SrO:0.1から10%
P2O5:0から10%
MgO:0から10%
ZnO:0から10%
CaF2:0から5%
B2O3:0から10%
Ag2O:0から10%
Al2O3:0から3%
MnO:0から10%
その他:0から10%。
【0025】
この比率(%)は、材料の総質量に対する質量比(%)である。
【0026】
有利には、構成要素SiO2、Na2O、CaO、SrO、P2O5の質量の合計は、本発明の材料の組成物の総質量の98から100%、さらに良好には99から100%、好ましくは99.9から100%を占める。
【0027】
有利には、この実施形態によれば、本発明の材料は、組成物の総質量に対する質量比で、以下から構成される:
SiO2:45から55%
Na2O:15から25%
CaO:15から25%
SrO:2から8%
P2O5:0から10%
他の元素:0から1%、好ましくは0から0.5%。
【0028】
本発明の材料は、融合法により作製されるものであってもよく、板状物の形態またはガラスフリットの形態をしていてもよい。
【0029】
表現「生体活性ガラス」は、酸化ケイ素がその主成分であり、生理液中に入れたとき、生きた組織に結合する能力を有する無機ガラス型の材料を意味する。
【0030】
生体活性ガラスは、当業者には周知であり、特に「An introduction to Bioceramics」、L.Hench and J.Wilson、World Scientific Edition、New Jersey(1993)中に記載がある。
【0031】
本発明の材料は生体適合性であるが、これは、生体、特にヒトまたは動物の生体と接触した際に、この材料は当該生物の防御系(とりわけ免疫系など)の反応を誘導しないことを意味する。生体適合性の、という用語は、患者の体内に埋め込んだ際に、その材料が細胞毒性効果または全身反応を生じさせないことも意味する。
【0032】
本発明の材料は、生体適合性でもあり生体活性でもある。先行技術の材料と比較すると、本発明の材料は、骨の機械的特性の強化、および、ヒドロキシアパタイトと周囲組織との間の結合の促進という利点を有する。したがって、本発明の生体材料は、この材料を、骨欠損部の修復、ならびに、任意の原因の骨欠損症の防止および/または治療において先行技術の生体材料より優れたものとする特性を有する。
【0033】
本発明の材料は、ゾルゲル法により調製でき、これには以下のような多くの利点がある:作製温度が他の方法の場合より低いこと、材料がより均質であること、最終組成物の制御ならびに材料の多孔度および比表面積の制御が容易であること。生物活性は材料の構造のみならずその化学組成によって決まるため、ゾルゲル法により作製された材料はとりわけ興味深いことがわかったが、その理由は、ゾルゲル法では、材料の溶解速度のみならずストロンチウムの塩析速度も制御することが容易だからである。
【0034】
本発明の材料は、多孔質のマトリックスまたは高密度のガラスを作製するための、溶液中での金属アルコキシドの混合、加水分解、ゲル形成および加熱の段階を含む方法により調製できる。
【0035】
ゾルゲル法は、上述のように3つ以上の成分(少なくともSiO2、CaO、SrO、ならびに、場合によりP2O5および/または他の酸化物が含まれる)を有する材料の組成の場合に適用される。
【0036】
第1の段階では、成分の前駆体、溶媒(水、および、場合により、エタノールなどのアルコール)を酸性または塩基性の触媒の存在下で混合する。
【0037】
より詳細には、SiO2前駆体としてはテトラエトキシシランなどのテトラアルコキシシランを使用し、P2O5前駆体としてはリン酸トリエチルなどのリン酸トリアルキルを使用し、CaO前駆体としては硝酸カルシウム四水和物または別のカルシウム塩(塩化物、酢酸塩、フッ化物、シュウ酸塩など)を、SrO前駆体としては硝酸ストロンチウムまたはストロンチウムの別の塩(塩化物、酢酸塩、フッ化物、シュウ酸塩など)を使用する。
【0038】
加水分解および縮合の反応は、同じ触媒(例えばHCl)により触媒される。固まるゲルの構造は、特に、中でこうした反応が起きる溶液のpHにより決まる。パーコレーション閾値に達すると、形成された三次元ネットワークが反応混合物の全体にわたって広がり、ゲルが得られる。
【0039】
熟成:この段階には、数時間から数日間、ゲルを溶媒中に浸漬したままにすることが含まれる。熟成中、重縮合が起こり、全ての反応種が反応し終わるまで続く。離漿と呼ばれるこの段階は、多孔度の低下およびゲルの強化に寄与する。ゲルの多孔度は、熟成の持続時間および温度を調節することにより制御できる。
【0040】
乾燥段階の間に、孔の中に存在する液体はそこから排出する。例えば界面活性剤を加えることにより固体−液体の界面歪みを低減させる条件を用いないと、毛細管応力が生じ、ゲルが割れる原因となる。
【0041】
安定化および高密度化は、シラノールの表面基の排除を可能にする条件下で熱的または化学的な手段により達成することができる。
【0042】
ゲル中に存在する他の成分(硝酸塩など)を分解するために、好ましくは加熱を用いる。加熱は、600℃以上の温度で好ましくは実施する。
【0043】
その結果、粉末の形態で最終生成物が得られる。孔のサイズは1nmから50μmの間である。好ましくは、直径2から50nmの孔を有する粉末が得られる。
【0044】
本発明の材料を用いることができる用途は、以下のとおりである:骨欠損部の充填、金属製インプラントの被覆、骨が変性する症例における骨成長の刺激。
【0045】
こうした用途は、以下のような多様な方式で実行できる:
本発明の材料は、例えばX線検査により骨欠損部が発見された領域で、外科手術または注入により局所的に導入できる。固まっていない粉末または圧縮粉末の形態をした本発明の材料を挿入することにより、骨欠損部を塞ぐことが可能である。
【0046】
この方法により得られる粉末は、骨欠損部の充填のために、例えば骨手術または上顎歯手術において、そのまま使用できる。この粉末は、治療用組成物の形態で、骨成長の刺激が必要な領域において注入できる。この粉末は、外科手術において使用する三次元の物体を形成するために、圧縮機により圧縮してタブレットの形態にすることができる。
【0047】
本発明の一実施形態によれば、生体活性ガラスの繊維は、以下の段階を用いるゾルゲル法により調製できる:金型を通してゾルを押し出す。得られた繊維を熟成、乾燥させ、熱的に安定化させる。次に、結合剤(例えばカルボキシメチルセルロースの溶液)を用いて、この繊維を織るか、または塊にすることができる。次に、結合剤の分解を引き起こす温度の窯に入れて加熱することにより、塊状の繊維ネットワークを使用して、ガラスフリットを作製できる。
【0048】
本発明のバイオガラス繊維は、外科手術において、縫合糸として、または布の形態で、そのまま使用できる。このバイオガラス繊維は、他の材料を含んだ組成物中で使用できる。
【0049】
本発明の材料は、単独で、または、骨組織の修復および/または再生を促進する他の手段と組み合わせて使用できる。治療用組成物、特に、注入または外科手術による投与を意図し、少なくとも1つの本発明の材料を含む組成物は、本発明の別の目的を構成する。こうした組成物は、同組成物を用いる用途のための薬学的に許容される任意の担体、特に注入用の担体を含んでもよい。
【0050】
本発明の生体活性ガラスに加えて、注入され、または外科手術により導入されることになる製剤は、抗生物質、抗ウイルス薬、瘢痕形成剤、抗炎症薬、免疫抑制薬、成長因子、抗凝血薬、血管新生剤、鎮痛薬、プラスミドなどから選択される1つまたは複数の化合物も含むことが想定できる。
【0051】
本発明の材料は、ネジ、板、管、弁など、プロテーゼとして生物体内に埋め込まれる金属またはセラミック製の構成部品上に堆積させることもできる。
【0052】
本発明の材料は、骨マトリックスなど、移植することを意図したマトリックスと組み合わせることができる。本発明の材料と移植片とを組み合わせると、特に、後者が同種異系のものである場合、生物体内でのその取込みが促進される。
【0053】
本発明の材料で被覆されたプロテーゼは、金属もしくはセラミック製の従来のプロテーゼまたは骨細胞ネットワーク除去後の骨移植片または生体適合性ポリマーをゾルゲル溶液中に浸漬させることによる、あるいは、プロテーゼ上に組成物をプラズマ溶射し、次いで600℃超の温度で加熱しながらこれを続ける(これにより生体活性ガラスが形成される)ことによる公知の様式で製造できる。
【0054】
部分的に、またはその全表面上が本発明の材料で被覆された、金属もしくはセラミックもしくはポリマー製のプロテーゼまたは骨マトリックスは、本発明の別の目的を構成する。
【0055】
本発明の材料は、ゾルゲル手法により、制御された形状の板状物の形態で調製することもできる。この実施形態によれば、この方法は、ゲル中の亀裂を回避するために、乾燥および高密度化の段階の制御を含む。ゾルのゲル化は、PTFE製の容器中で60℃にて実施するが、この容器の形状により、板状物の最終的な形態が決まる。
【0056】
このような板状物は、外科手術において、例えば骨欠損部を塞ぐために使用される。
【0057】
本発明の材料は、骨粗鬆症に罹患した個体における大腿骨頸部など、骨が脆いことで知られる部位において、外科手術または注入により導入することもできる。
【0058】
本発明の材料は、軟骨が損傷している場合、軟骨の修復および/または再生を促進するために、関節周囲に導入することもできる。
【0059】
本発明の材料および組成物は、軟骨の劣化につながった外傷の後、または変形性関節症の治療の範囲内のいずれかで、軟骨の修復用に使用できる。関節の炎症性疾患は、一般に、本発明による材料の使用が有益である可能性がある状況を構成できる。
【0060】
本発明の材料は、金属酸化物と他の成分とを混合し、融合が生じるまでこれを加熱してから冷却することによる融合法によって調製することもできる。融点は、ガラスの成分の選択により大部分決まる。融点は、約900から1500℃の間である。この場合に得られる材料は、板状および非多孔質のものである。
【0061】
この実施形態によれば、ガラスフリットは、溶融ガラスの組成物から開始し同組成物をフリット化して微粒子材料を作製する公知の様式で調製することもできる。
【0062】
板状物の形態で得られる材料の場合(融合またはゾルゲル)は、これらの材料は、外科手術において、骨欠損部を塞ぐ必要があるから、またはストロンチウム処理したアパタイトの塩析が骨構造の強化にとって有用と考えられるから、のいずれかの理由で、治療対象部位中に挿入することにより使用できる。
【0063】
本発明の別の目的は、生体活性ガラスを水性媒体中に溶解させることにより生体活性ガラスから得られる溶液を含む。この溶液は、本発明の生体活性ガラスを水溶液中に入れてから、そのまま放置してガラスを溶解させ、媒体を濾過することにより作製できる。濾過した溶液を回収する。この溶液は、骨芽細胞の成長を促進する。この溶液は、骨芽細胞の成長を刺激することが望ましい、生物の局所領域において投与するために、組成物、特に注入可能な組成物中で使用できる。この溶液は、細胞培養用に、検査室において使用することもできる。この溶液は、固体、半固体、液体など任意の形態、例えばタブレット、ペレット、粉末、液体溶液、懸濁液、坐薬の形態をした医薬製品を調製するために使用できる。
【0064】
本発明の材料、組成物およびプロテーゼは、骨および/または軟骨の欠損部、ならびに、以下の症例における疾患および傷害に伴う欠損症を修復するためにとりわけ有用である:骨折における骨組織の形成、腫瘍または嚢胞の切除によるものなど骨欠損部の修復、歯牙または骨格の異常の治療、骨喪失につながる歯周病における歯牙および歯周部の再建(特に歯槽骨の置換)、または歯牙と歯肉との間の空洞の充填用、または抜いた歯牙の一時的な置換用、骨粗鬆症の症例において。
【0065】
形態は、用いられることになる用途に適したもの、および最も頻繁には骨の欠損症を治療しなければならない部位での注入または外科的挿入を可能にする形態が選択される。
【0066】
本発明の別の目的は、プロテーゼ、または、前述の病態の1つもしくはその他を防止もしくは治療することを意図した医薬製品の製造のために、上述のような材料を使用することからなる。
【0067】
今回開発した生体材料は、ナノ構造の生体活性ガラスである。バイオセラミックスと生体媒体との間の相互作用の物理化学的試験から、この材料の表面上にリン酸カルシウムの層が最終的に形成されることになる生物活性の特性が明らかになる。生体活性材料の場合、この層により、骨組織との密接な結合が可能になる。さらに、テクスチャ(多孔度)ならびに主要元素および極微量元素(Sr)の含有量を制御することにより、これらの材料の溶解特性および生物活性特性を調整することが可能になる。したがって、今回開発したガラスは、生理的濃度でストロンチウムを塩析させる。極微量元素(骨中に存在する)の塩析をこのように制御することにより、細胞の特異的な応答を誘導できる。
【0068】
本発明による材料の多様な組成物を作製し、溶液中でのその振舞いを調査した。この組成物とそれを中に浸漬させる媒体との間の界面では、ヒドロキシアパタイトは、制御できる速度で固まることが見出された。さらに、媒体中におけるイオン形態でのストロンチウムの塩析、および、in situで生成したリン酸カルシウム層中へのその取込みがあることも見出された。
【0069】
ストロンチウムは、カルシウム同様、本発明の組成物中におけるネットワーク調節物質である。それらのイオン半径は似ている。それにもかかわらず、ストロンチウムの存在はこの組成物の構成要素の塩析の速度に関与するが、カルシウムの場合は、このパラメーターに対してほとんど影響を及ぼさないことが見出された。
【0070】
とりわけ、この組成物中のストロンチウムの量が増えると、結果として、ストロンチウム、カルシウム、リンおよびケイ素の塩析の速度が低下することが見出された。
【0071】
したがって、本発明の組成物は、生理液中に入れたときにその周囲におけるストロンチウムの塩析を可能にするだけでなく、制御された様式でのその実現も可能にする。
【0072】
要約すると、本発明の組成物は、以下を可能にする:
・生理学的濃度における、埋込み部位での直接的なストロンチウムの塩析、
・骨石灰化の向上、
・材料の溶解および塩析の制御、
・選択された部位での材料の埋込みおよび注入の可能性、
・生体媒体中における材料の周辺部でのリン酸カルシウム層の形成。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】開発したガラスの典型的な回折パターン(上のグラフはガラスB70について得られたもの)
【図2】生体媒体中での浸漬時間の関数としての、ガラスSiO2−CaOおよびSiO2−CaO−SrOのタブレットの周辺部でのカルシウム濃度の変化
【図3】生体媒体中での浸漬時間の関数としての、ガラスSiO2−CaOおよびSiO2−CaO−SrOのタブレットの周辺部でのリン濃度の変化
【図4】生体媒体中での浸漬時間の関数としての、ガラスSiO2−CaOおよびSiO2−CaO−SrOのタブレットの周辺部でのケイ素濃度の変化
【図5】生体媒体中での浸漬時間の関数としての、ガラスSiO2−CaOおよびSiO2−CaO−SrOのタブレットの周辺部でのマグネシウム濃度の変化
【図6】生体媒体中での浸漬時間の関数としての、ガラスSiO2−CaO−P2O5およびSiO2−CaO−P2O5−SrOのタブレットの周辺部でのカルシウム濃度の変化
【図7】生体媒体中での浸漬時間の関数としての、ガラスSiO2−CaO−P2O5およびSiO2−CaO−P2O5−SrOのタブレットの周辺部でのリン濃度の変化
【図8】生体媒体中での浸漬時間の関数としての、ガラスSiO2−CaO−P2O5およびSiO2−CaO−P2O5−SrOのタブレットの周辺部でのケイ素濃度の変化
【図9】生体媒体中での浸漬時間の関数としての、ガラスSiO2−CaO−P2O5およびSiO2−CaO−P2O5−SrOのタブレットの周辺部でのマグネシウム濃度の変化
【図10】生体媒体中での浸漬時間の関数としての、ガラスタブレットの周辺部でのストロンチウム濃度の変化
【図11】ガラスSiO2−CaOおよびSiO2−CaO−SrOのタブレットとの相互作用の時間の関数としての、生体媒体中のカルシウム濃度の変化
【図12】ガラスSiO2−CaO−P2O5およびSiO2−CaO−P2O5−SrOのタブレットとの相互作用の時間の関数としての、生体媒体中のカルシウム濃度の変化
【図13】ガラスSiO2−CaOおよびO2−CaO−SrOのタブレットとの相互作用の時間の関数としての、生体媒体中のリン濃度の変化
【図14】ガラスSiO2−CaO−P2O5およびSiO2−CaO−P2O5−SrOのタブレットとの相互作用の時間の関数としての、生体媒体中のリン濃度の変化
【図15】ガラスSiO2−CaOおよびSiO2−CaO−SrOのタブレットとの相互作用の時間の関数としての、生体媒体中のケイ素濃度の変化
【図16】ガラスSiO2−CaO−P2O5およびSiO2−CaO−P2O5−SrOのタブレットとの相互作用の時間の関数としての、生体媒体中のケイ素濃度の変化
【図17】ガラスSiO2−CaOおよびSiO2−CaO−SrOのタブレットとの相互作用の時間の関数としての、生体媒体中のマグネシウム濃度の変化
【図18】ガラスSiO2−CaO−P2O5およびSiO2−CaO−P2O5−SrOのタブレットとの相互作用の時間の関数としての、生体媒体中のマグネシウム濃度の変化
【図19】ガラスSiO2−CaO−SrOおよびSiO2−CaO−P2O5−SrOのタブレットとの相互作用の時間の関数としての、生体媒体中のストロンチウム濃度の変化
【図20】顆粒を加えてから4時間後(A)、4日後(B)、11日後(C)および13日後(D)の骨芽細胞の培養物の、位相差顕微鏡法による観察。星印は、細胞の縮合の屈折領域を示し、矢印は、石灰化した骨小結節を示す。縮尺バー=500μm。
【図21】バイオガラスの顆粒と接触させた状態での14日間の細胞培養後のアルカリホスファターゼの細胞酵素的な局在化。縮尺バー=500μm。
【図22】バイオガラスの存在下での14日間の細胞培養後の、メチレンブルー(Azur II)で染色した準微細切片(対物100倍)。(BG、バイオガラス)。
【図23】バイオガラスの存在下での14日間の細胞培養後の超微細切片(A、B)の、透過型電子顕微鏡法による観察(対物22000倍)。(BG、バイオガラス)。
【実施例】
【0074】
I−合成プロトコール
生体活性ガラスを粉末の形態で作製した。Sigma−Aldrich(USA)により供給された化学前駆体を表I−1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
TEOSの加水分解の反応を実施するために、共溶媒(エタノールEtOH)を使用した。触媒として塩酸HClを使用した。
【0077】
合成プロトコールに関しては、加水分解に必要な蒸留水をまず塩酸HCl(2N)と、さらにエタノールEtOH(99%)と混合するが、これにより、TEOSの導入後に均質な溶液がもたらされるだけでなく、Ca(NO3)2−4H2Oの結晶の良好な溶解が確実になる。水、エタノールおよび塩酸の比率を表I−2に詳細に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
これらの反応物をフラスコに入れ、磁気撹拌を用いて15分間混合する。次に、この混合物にTEOSを加え、30分後に、等体積のエタノールと共にTEPを注ぎ入れる。20分後、Ca(NO3)2−4H2Oの結晶を導入する。次に、この混合物をさらに60分間撹拌する。
【0080】
次に、この溶液を時計皿に入れ、60℃の窯の中でゲル化のために乾燥させる。この作業には4時間かかり、結果としてゾルは完全にゲル化される。次に、窯の温度を24時間、125℃に上げる。この段階でゲルは完全に断片化し、合成の最終段階として、これを乳鉢中で細かく砕く。高密度化に加え、700℃で24時間焼成すれば、孔中に捕捉されたアルコールおよび硝酸塩の残留物の完全な蒸発が確実に起こる。微細な白色粉末の形態で最終生成物を得る。
【0081】
図1は、X線回折結晶分析により特徴付けられた、ガラスについての回折パターンを示すものである。他のガラスについて得られた回折パターンは、このパターンと同様である。回折ピークがないことは、今回開発したガラスは実際に非晶質であることを示している。
【0082】
II−開発したガラスの特徴
II−1−組成物
開発したガラスの組成を、原子発光分光分析(ICP−AES)により調べた。原子発光分光分析による分析の結果を表II−1およびII−2に示す。開発したガラスは、期待値どおりの酸化物の濃度を有する。
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
II−2−テクスチャ
BET法により、77.4Kで動作するAutosorb Quantachrome装置を用いて、ガス吸着によりガラスの比表面積を測定した。使用する吸着質は、比表面積の計算のための、窒素分子の有効な吸着断面が0.162nm2である高純度窒素(99.999%)である。測定に先立ち、真空下で(p<1Pa)120℃にて12時間、試料を脱気する。脱気した試料の質量から比表面積を計算する。
【0086】
分圧p/p0が0.05から0.3の間(P0:飽和蒸気圧)の範囲における吸着されたガスの量を測定するために、少なくとも5点を使用した。
【0087】
比表面積は、50から150m2/gの間である。平均の孔サイズは、1nmから101nmの間である。
【0088】
III−in vitroでの生物活性の調査
生体材料が生きた組織に結合できるかどうかは、血漿を模した生体液と接触してアパタイト層を形成するその能力次第であることが、明確に立証されている。したがって、in vitroでのテストは、材料の生物活性を評価するための強力な手段である。
【0089】
中に生体活性ガラスを浸漬させた生体媒体は、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)である。DMEMの組成は、ヒト血漿の組成と似ている(表III−1)。37℃でのDMEMのpHは、血漿のpHに似た値の7.43である。
【0090】
【表5】
【0091】
III−1−実験プロトコール
生体活性ガラスの試料を、粉末の形態、および、以下のタブレットの形態で調べた:直径13mm、高さ2mmのディスク、90mgの粉末を圧縮機中で圧縮することによって得たもの。生体活性ガラスは、臨床適用においてはこの2つの形態で使用できることから、この2つの型の試料を調べることは興味深い。生物活性は、異なる時間規模および寸法に対して作用する。
【0092】
III−1.1−タブレットの形態の試料
タブレット試料を、以下の時間にわたり45mLのDMEM中に浸漬させた:1時間、6時間、1日、2日、5日、10日。
【0093】
浸漬後、タブレットを回収してから周囲大気中で乾燥させる一方、ICP−AESによる分析用に、試料を1個、DMEMから取り出す。イオンマイクロプローブを使用して特徴付けることを意図したタブレットの試料を樹脂中に包埋する。次に、Leica RM2145ミクロトームを用いて、材料の断面を調製する。ディスクの表面に垂直に30μm厚の切片を切る。最後に、中心に直径3mmの穴が開いたMylar支持体上に切片を載せる。イオンマイクロビームにより探査するのは、穴の上に位置する試料の領域である。
【0094】
III−1.2−粉末の形態の試料
タブレット試料のように大きな塊状ではないうえに多孔質の構造を有することから、粉末粒の試料は、タブレット試料より素早く反応する。本発明者らが行った粉末の調査は、以下の4種の生体活性ガラスの特徴付けに焦点を絞った:ガラスB75、B67.5、B75−Sr5およびB67.5−Sr5。生体媒体と接触するその領域よりむしろガラスの組成が生物活性に及ぼす効果を評価するために、各ガラスについて粉末10mgを、500cm−1で固定した比率[比表面積]/[DMEMの体積]によりDMEM中に浸漬させた。DMEMでは以下の浸漬時間を用いた:1時間、6時間、1日、2日、3日、4日。
【0095】
III−2−生体活性ガラスと生体媒体との間の相互作用中の物理化学的反応の特徴付け
バイオガラスの周辺部での異なる層の形成につながる物理化学的反応をよりよく理解するためには、材料と生体液との間の界面での元素の分布の局所分析を行うことが必須である。こうした分析には、良好な感受性および優れた空間分解能を有する技法を使用する必要がある。この目的のために、本発明者らは、PIXE法(粒子励起X線分析法)による、マイクロメートル規模での界面の化学地図作成を実施した。この方法は、イオンビーム(通常は陽子)により励起されるX線蛍光に基づく。この方法は、ミクロン程度の空間分解能を有しており、多元素地図の同時作成、ならびに、主要、少量および極微量(ppm)の元素の濃度の測定用に使用できる。
【0096】
III−2.1−生体媒体中での浸漬後の、ストロンチウム添加ガラスのタブレットの周辺部での多元素の化学画像
ストロンチウムを添加した二成分および三成分ガラスのタブレットのイオンマイクロビーム分析中に、多元素地図を記録した。多元素地図は、生体媒体との相互作用前、および相互作用の1時間後、6時間後、1日後、2日後、5日後および10日後に、ガラスのそれぞれについて得た。考察では、非添加の二成分および三成分ガラスのタブレットの調査との比較が示される。
【0097】
得られた化学画像に基づき、生体活性ガラス/生体媒体界面でのケイ素、カルシウム、リン、ストロンチウムおよびマグネシウムの分布を、材料と液体との間の相互作用の時間の関数としてモニターすることが可能であった。PIXEにより実施したガラス中の濃度の測定からは、さらに、材料の反応性についての局所情報がもたらされる。試料の全体的な反応性についての情報を得るために、ICP−AESによる測定を用いて、生体媒体中の濃度の変化をモニターした。したがって、この結果の比較は必要であり、また、これにより、材料の反応性についてさらなる情報が得られよう。PIXE分析に関しては、タブレット試料を、直径2μm、強度500pAの陽子線で探査した。関心領域に応じて一辺が40μmから400μmの間の正方形領域を走査することにより、地図を得た。
【0098】
組成がSiO2−CaO−SrOのガラスの地図から、ガラスの組成にストロンチウムを加えると、SiO2−CaOガラスと比較して材料の溶解性が低下することが明らかになる。この効果は、カルシウムについての地図においても見ることができる。
【0099】
ストロンチウムの分布に関しては、この元素は相互作用の1時間までは均一に分布する。その後、ストロンチウムのいくらかは材料の周辺部から塩析するようであり、ストロンチウムはタブレットの内部領域において、より高い比率で検出される。
【0100】
ストロンチウムの添加は、リン酸カルシウム層の発達に影響を及ぼすことも見出される。つまり、B75グラスの周辺部では相互作用のちょうど1時間後にリンの存在が検出されたが、ガラスB75−Sr1およびB75−Sr5については、この元素は相互作用の6時間後に検出されるにすぎない。さらに、極微量のマグネシウムは、ガラスSiO2−CaO−SrOについては6時間後に検出されるにすぎないが、対照的にSiO2−CaOガラスでは、1時間後に検出される。その後、Ca−P−Mg層は、二成分ガラスと似た様式で成長する。相互作用の10日後、これらのガラスタブレットにおいて3つの領域が観察される。タブレットの最深領域は、元のガラス質ネットワークから構成される。周辺層は、カルシウムおよびリンに富む大きな領域であり、そこには極微量のマグネシウムおよびストロンチウムがある。最後に、この2つの領域の間に、本発明者らは、局所的にカルシウムが豊富な中間領域を見出す。
【0101】
組成がSiO2−CaO−P2O5−SrOのガラスについての多元素地図からは、非添加ガラスB67.5と比較して材料の溶解が遅くなることも示される。したがって、ストロンチウムの添加は、カルシウムの塩析の減速という形で現れる。それにもかかわらず、この材料はCa−P−Mg−Sr層を形成することができることが、相互作用の数日後に実証される。
【0102】
III−2.2−ガラスタブレットと生体媒体との間の相互作用中の、元素の濃度の局所測定
化学種の分布に応じて、多元素地図を多様な関心領域に分割した。カルシウムおよびリンに富む周辺領域が同定されるたびに、測定マスクが浮かび上がり、これにより、その場にある元素の濃度を計算できた。関心領域に応じて一辺が5から20μmのマスクが浮かび上がり、浸漬時間に伴ってCa−P層の厚さが増加した。この技法を適用すると、ガラスの周辺部および中心部での種Ca、P、Si、SrおよびMgの濃度の変化をモニターすることができた。所与の相互作用時間および所与のガラスについて、グラフ上に示される濃度値は、いくつかの関心領域において見出された平均濃度である。
【0103】
ガラスタブレットの周辺部での濃度の変化
図2、3、4および5は、SiO2−CaO−SrOガラスの周辺部での元素の濃度の変化を示すものである。比較のために、ガラスB75(SiO2−CaO)の周辺部で測定した濃度も示す。カルシウム濃度の変化を表す図2は、ガラスB75−Sr1およびB75−Sr5がガラスB75のものとは実質的に異なる振舞いを見せることを示している。SiO2−CaO−SrOガラスについては、カルシウム濃度は生理液との相互作用の最初の数時間の間は増加し始める。カルシウム濃度の相対的な増加は、同時にケイ素濃度が急落している事実によるものである(図4)。このことは、ストロンチウム添加ガラスにおいては、カルシウムの塩析は、ケイ素ネットワークの分解ほど急速に進行しないことを示すことにつながる。すなわち、カルシウムの塩析が減速し、その影響で、マトリックスの陽イオンの数がより限定されるようである。カルシウム濃度が最小値に下落するのは相互作用の6時間後になってからであり、ガラスB75−Sr1の場合は相互作用の1日後、ガラスB75−Sr5の場合は2日後にこれに到達した。到達した最小値は、ガラスB75の場合より高い。したがって、ストロンチウムを添加した材料の場合のほうが、溶解の完全性は低い。
【0104】
塩析段階後、ガラスの周辺部に存在するカルシウムの量は増加するが、この増加はSiO2−CaO−SrOガラスについてはSiO2−CaOガラスの場合ほど急速ではない。10日間の浸漬後、ストロンチウム添加ガラスの周辺部のCa−P層中に含有されるカルシウムの比率は30質量%に近く、これは、ガラスB75の周辺部のCa−P層中で検出されるカルシウムの量(44質量%)より少ない。ただし、ガラスB75−Sr1およびB75−Sr5のマトリックスのほうが、最初に含有するカルシウムは少ないことを覚えておかなければならない。
【0105】
図4は、材料の周辺部でのケイ素濃度の低下は、元のガラス質マトリックス中のストロンチウムの比率の増加に伴い遅くなることを示す。相互作用の10日後、ガラスB75−Sr1の周辺層は、未だ6%のケイ素から構成されており、ガラスB75−Sr5の周辺層は9%のケイ素から構成されている。
【0106】
リンに関しては(図3)、3種のガラスB75、B75−Sr1およびB75−Sr5については共通の傾向、すなわち、タブレットの周辺部でこの元素の濃度が急速に上昇する傾向があるようである。極値には、最終的に相互作用の10日後に到達する。その時点でのガラスB75、B75−Sr1およびB75−Sr5の周辺部のリン含有量は、12%に近い。
【0107】
SiO2−CaO−SrOガラスの表面上に発達する層中では、極微量のマグネシウムが検出される(図5)。マグネシウムの比率は、浸漬時間が長くなるにつれ、ひいては周辺層がガラスの表面に広がるにつれ増加する。タブレットの周辺部に組み込まれているマグネシウムの量は、SiO2−CaO−SrOガラスの場合のほうがSiO2−CaO二成分ガラスの場合より多いことが見出される。
【0108】
図6、7、8および9は、SiO2−CaO−P2O5−SrOガラスの周辺部での元素の濃度の変化を示すものである。図6では、ガラスB67.5−Sr1およびB67.5−Sr5の周辺部でのカルシウム濃度の変化はガラスB67.5のものと同じように上昇することがわかる。ただし、この変化はより遅く、カルシウムは、ストロンチウム添加ガラスについてはより少量で存在する。図8からは、ケイ素濃度の低下速度は、ストロンチウムを含有するガラスの場合のほうが三成分ガラスB67.5の場合ほど急速ではないことがわかる。さらに、相互作用の10日後、SiO2−CaO−P2O5−SrOガラスの周辺部では高濃度のケイ素が存在し続けている。これらの観察から、ストロンチウム添加ガラスにおけるほうが、ガラス質ネットワークの分解が進む深さは浅いことが示される。
【0109】
タブレットの周辺領域において検出されるリンの量は、浸漬時間に伴い急速に増加する(図7)。濃度の変化は3種のガラスに共通であり、周辺層は、最終的には11から15%のリンから構成される。マグネシウムに関しては、この元素は10日後、タブレットの周辺部に1%のレベルで存在する。図9からは、ガラスB67.5と比較して、ストロンチウムから構成されるガラスB67.5−Sr1およびB67.5−Sr5のほうが、中により多くの量のマグネシウムが組み込まれていることがわかる。
【0110】
図10は、SiO2−CaO−SrOおよびSiO2−CaO−P2O5−SrOのガラスタブレットの周辺部でのストロンチウムの濃度の変化を示すものである。表面で起こるイオン交換および物理化学的反応の影響下で、ストロンチウムの濃度が大きく変動していることが観察される。それにもかかわらず、周辺層については、ストロンチウムの減少はわずかという一般的傾向があることがわかる。相互作用の10日後、材料の周辺部のほうがストロンチウムに富み、その比率は、元のガラス質マトリックス中におけるこの元素の比率より高く、測定された濃度は相互作用前の値より低い。
【0111】
ガラスタブレットの内部領域における濃度の変化
ガラスタブレットの内部領域における元素の濃度の測定(生体液に直接さらしてはいない)を、元素Si、Ca、P、SrおよびMgについて実施した。先に述べたように、イオンが材料の周辺部に向かって拡散および移動する現象は、ガラス質マトリックスの組成の変動につながる。生体媒体との相互作用の最初の2日の間は、主な変化は、ケイ素、カルシウムおよびストロンチウムの濃度について観察される。リンの濃度の変化も、増加するわずかな傾向を示す。相互作用の10日後、多様な構成元素の濃度は元のガラス質マトリックス中でのその値に近い値に戻ることが観察される。ストロンチウム添加ガラスのタブレットの内部領域は、非添加ガラスと比較して変化が小さかった。溶解の大きさおよび速度は、添加ガラスにおけるほうが低く、周辺部で発達したCa−P−Mg層は、ガラスタブレットの最深領域に広がらないようである。
【0112】
ガラスタブレットと生体媒体との間の界面での原子比率の変化
ガラスと生体媒体との間の界面でのCa/P、Ca/MgおよびCa/Srの原子比率の変化を調べた。
【0113】
相互作用の最初の数時間の間は、原子比率Ca/PはSiO2−CaO−SrOガラスの場合のほうがSiO2−CaOガラスの場合より高い。このことは、カルシウムは、SiO2−CaO−SrOガラスの場合のほうがより少量で塩析することから、これらの材料の表面上により高い比率で存在するという事実に関連する。相互作用の6時間を超えると、ガラスB75−Sr1およびB75−Sr5の場合にはカルシウムの溶解および塩析が加速する結果、媒体からリンが急速に取り込まれることと相まって、相互作用の1日目で観察されるCa/P比が急落することとなる。その後、生体液中での浸漬時間が長くなるにつれ、Ca/P比は、化学量論的なヒドロキシアパタイトの値である1.7に近い限界値に向かう。したがって、浸漬の10日後、最終的に到達したCa/P比の値はガラスB75−Sr1およびB75−Sr5については1.8であり、ガラスB75について得られた2.1という結果と比較した場合、この値のほうが化学量論的なアパタイトの名目値に近いことが見出される。SiO2−CaO−P2O5−SrOガラスに関しては、界面で測定したCa/P比は、SiO2−CaO−P2O5ガラスの値より常に低い。このことは、一方では、カルシウム濃度の増加がより小さいこと、他方では、これらの材料中に最初に存在するカルシウムの比率が、B67.5の場合の25%と比較して、ガラスB67.5−Sr1およびB67.5−Sr5についてはそれぞれ24%および20%と、これより低いことによる。相互作用の10日後、SiO2−CaO−SrOガラスについて行った解釈、すなわち、ストロンチウム添加ガラスについてのCa/P比は、非添加ガラスと比較して、化学量論的なヒドロキシアパタイトの値により近いという解釈は、SiO2−CaO−P2O5−SrOガラスについても妥当である。浸漬の10日後、このCa/P比は、ガラスB67.5の場合の1.9に対し、ガラスB67.5−Sr1については1.6、ガラスB67.5−Sr5については1.7である。
【0114】
ガラスタブレットとの相互作用中の生体媒体の組成の変化
DMEM中に存在するカルシウムの濃度の変化(図11および12)は、相互作用の最初の数時間の間はわずかである。表面の脱アルカリ段階の間に媒体中に塩析されたカルシウムの量は、ストロンチウム添加ガラスの場合のほうがガラスB75およびB67.5の場合より少ない。その後、浸漬時間が長くなるにつれ、生体媒体中のカルシウム濃度の緩やかな低下が、全ての添加ガラスについて見出される。二成分ガラスB75は、多量のカルシウムを塩析することから、この元素は、相互作用の10日後は、相互作用前より高い濃度で存在した。また、この観察は、ガラスB75−Sr1およびB75−Sr5については見出されない。ストロンチウム添加ガラスには、塩析されたものと比較してより多くの量のカルシウムが組み込まれていることが見出される。したがって、相互作用の10日後、生体媒体中のカルシウム濃度は、ガラスB75−Sr1およびB75−Sr5についてはわずか62ppmであり、一方、ガラスB75については94ppmであった。ガラスB67.5−Sr1およびB67.5−Sr5については、当該濃度はそれぞれ5および49ppmであり、一方、ガラスB67.5については67ppmであった。
【0115】
図13および14は、生体媒体中に存在するリンの濃度の変化を示すものである。全てのガラスについて、この元素の濃度は時間の経過に伴い大きく低下している。試料のそれぞれについて観察された低下は同様である。しかし、相互作用の5日後、リンの消費がストロンチウム添加ガラスにおいて減速したらしいことがわかる。このことは、ガラス−生体媒体系が平衡状態に近付きつつあることを示すのではないかと考えられる。
【0116】
ケイ素に関しては、図15および16は全てのガラスについて共通の傾向を示す。溶解反応はガラス質ネットワークをどこまでも深く崩壊させるので、生体媒体中で検出されるケイ素の濃度はどんどん高くなる。相互作用の10日後、生体媒体中で塩析されたケイ素の量は、ストロンチウム添加ガラスの場合のほうが少ない。このことは、添加ガラスにおける溶解の程度がより低いことを別の形で示すものである。
【0117】
一方、図17および18は、ストロンチウム添加ガラスには、他のガラスより多くのマグネシウムが組み込まれていることを示す。この元素の濃度は、浸漬時間に伴いゆっくり低下し、10日後、マグネシウムの減少は、ガラスB75−Sr1およびB75−Sr5については2ppm、ガラスB675−Sr1については3ppm、ガラスB67.5−Sr5については5ppmである。
【0118】
最後に、生体媒体中に存在するストロンチウムの濃度の測定により、この試験は完了する(図19)。最初はゼロに等しい、生理液中のストロンチウムの量は、ガラスの表面の外にこの元素を塩析させた後は数ppmに増加する。ガラスB75−Sr5およびB67.5−Sr5はガラスB75−Sr1およびB67.5−Sr1より5倍多いストロンチウムを塩析することが見てとれるが、この量は、これらの材料のそれぞれのストロンチウム含有量と一致する。
【0119】
III−2.4−ガラス粒と生体媒体との間の相互作用中の、元素の濃度の局所測定
ガラス粒の周辺部での濃度の変化
粒の周辺部の局所分析から、粉末について観察された現象はタブレットについて観察された現象を再現するが、時間規模および寸法は低下していることが明らかになる。元素の濃度は、それまでに観察されたものと同様の傾向を見せる。
【0120】
この観察は、リンの濃度の変化にも当てはまる。タブレットの場合と全く同じように、この元素の濃度は粒の周辺部で急速に高まる。相互作用の4日後、リンは、ストロンチウム添加ガラスについては9〜10%のレベルで、三成分ガラスについては16%のレベルでそこに含有される。ガラスB75については、リンの量は、相互作用の6時間まで急速に増加する。その後、リン濃度はほぼゼロまで低下する。そのため、ガラスB75中の粒の境界で形成されるリン酸カルシウムの層は不安定であるようであり、この層は生体液の作用下で急速に溶解する。
【0121】
ガラスB75中の粒界でのケイ素濃度は、材料の周辺部でのガラス質ネットワークの崩壊に対応して、相互作用の早期段階で低下することが見出される。しかし、相互作用の6時間を超えるとリン酸カルシウムの同心円層は溶解し、その結果、粒はこの段階ではケイ素に富むガラス質のコアを含むのみである。ガラスB67.5、B75−Sr5およびB67.5−Sr5については、異なる現象が観察される。すなわち、ケイ素ネットワークは、粒の周辺領域において徐々に崩壊し、結果としてこの元素の濃度は低下する。この低下は、非添加ガラスと比較して、ストロンチウム添加ガラスについてはより遅いことに気付くであろう。また、これは、タブレットの形態をした試料についての事実でもあった。
【0122】
IV−ストロンチウム添加バイオガラス(B75Sr5)と接触させて培養した骨芽細胞の振舞いの予備評価
IV−I−in vitroでの調査−培養の方法
ストロンチウム添加バイオガラスB75Sr5を顆粒の形態で調査する。使用に先立ち、このバイオガラスを計量し、180℃で2時間滅菌する。次に、培地(下記の組成を参照)中で48時間、撹拌しながら顆粒をプレインキュベートする。このプレインキュベーションに次いで、バイオガラスの顆粒を細胞と速やかに接触させる。
【0123】
生後21日のラットの胎仔の頭蓋冠から酵素消化により骨芽細胞を単離する。無菌条件において頭蓋冠を解体し、コラゲナーゼ(Life technologies(登録商標))の存在下で37℃にて2時間、断片をインキュベートする。次に、骨の断片から分離した細胞を、2.105細胞/mlの密度で培養皿(5ml)中に播種する。培養物がサブコンフルエンス(表面の約80%にコロニーが形成されている)の段階に達したら、バイオガラスの顆粒を菌叢に加える(培養皿1枚当たり20mg)。培地は、DMEM(Invitrogen(登録商標))、アスコルビン酸(50μg/mL)、10mMのβ−グリセロリン酸塩(Sigma(登録商標))、50IU/mLのペニシリン−ストレプトマイシン(Gibco(登録商標))および10%のウシ胎仔血清(FCS)(Hyclone(登録商標))から構成される。5%CO2の湿った大気中で37℃のインキュベーターに入れた細胞を14日間培養する。
【0124】
IV−2−位相差光子顕微鏡法による、ガラスB75Sr5の粒と骨細胞との間の界面の調査
位相差光子顕微鏡法による観察により、バイオガラスの周囲でこれと接触した骨小結節の発達、成熟および形成を追跡することが可能になる。
【0125】
培養の最初の数日間、細胞は増殖し(図20)、培養の3日目から4日目の間にコンフルエンスに達し(図20)、菌叢中で顆粒が固定化される。これに続く数日間、細胞は増殖を続け、顆粒の周辺部で多層のフィルム中に並ぶようになる。この三次元配列は、屈折領域の形態で、培養の第2週の開始時から見ることができる(図20)。培養の第2週の終了時点では、この屈折領域は顆粒の周囲で非常に豊富であり、菌叢全体の上に広がり始め、13日目から、本発明者らは第1の石灰化した骨小結節の出現を観察する(図20)。
【0126】
この結果は、ストロンチウム添加バイオガラスの顆粒の存在下ではラットの頭蓋冠細胞は増殖して活性骨芽細胞に分化し、これにより、石灰化した骨小結節が形成されることを実証するものである。
【0127】
IV−3−アルカリホスファターゼの細胞酵素的な局在化
細胞を、バイオガラス顆粒と接触させた状態で14日間培養する。次に、この細胞を固定液(クエン酸塩とアセトンとの混合物)中で室温にて30秒間固定する。次に、細胞試料をすすいでから、アルカリホスファターゼを合成する細胞を染色する溶液(「ファストブルーソルト(fast blue salt)RR」とリン酸ナフトールとの溶液、Sigma(登録商標))中で室温にて30分間、光を遮断した状態でインキュベートした。細胞酵素的な反応の後、試料をすすいでから、位相差光子顕微鏡法により調べる。
【0128】
培養14日目、バイオガラスの顆粒の周囲にこれと接触した状態で位置する細胞について、アルカリホスファターゼの陽性標識、すなわち骨芽細胞分化のマーカーを観察する(図21)。この結果から、B75Sr5型のバイオガラスの存在によりラットの頭蓋冠細胞の分化が可能になることが示される。
【0129】
IV−5−光学顕微鏡法および透過型電子顕微鏡法による調査
14日間の培養後の透過型電子顕微鏡検査のために、バイオガラスの顆粒と接触させた状態で、細胞を処理する。Karnovsky溶液(4%パラホルムアルデヒドおよび1%グルタルアルデヒド)中で細胞を固定してから、徐々に濃度が増すエタノール浴を用いて試料を脱水させる。次に、固定化された顆粒を有する菌叢をEpon−Araldite中に包埋し、ダイヤンモンドカッターを用いて、菌叢に対して垂直に、準微細切片(図22)、次いで超微細切片(図23)を調製する。超微細切片を銅格子上に回収してから、酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛で染色する。次に、透過型電子顕微鏡(Philips CM−12)で切片を調べる。
【0130】
準微細切片上で、顆粒周囲の細胞の多層フィルムの三次元配列を観察する(図22)。
【0131】
透過型電子顕微鏡法での観察により、顆粒と接触した多数の細胞の存在が明らかになる(図23)。これらの細胞は、細胞質内小器官を発達させており、このことから、細胞活性が旺盛であることが示される。これらの細胞は、コラーゲン線維に富む高密度の細胞外マトリックスに取り巻かれている。本発明者らは、マトリックス中で複数の石灰化の中心も観察できる。最後に、マトリックス、細胞、および、顆粒の周辺部との間の密接な接触を観察する。
【0132】
細胞は合成活性の全ての兆候(小胞体、ミトコンドリア、大核など)を見せることから、バイオガラスが存在しても、マトリックス合成能力は変質しない。本発明者らは、多数のコラーゲン線維から構成される細胞外マトリックスの存在も観察している。
【0133】
生物学的試験に関する結論
これらの結果を総合すると、ストロンチウム添加バイオガラスの顆粒が有する、ラットの頭蓋冠から得た初代細胞に対する非細胞毒性の性質が実証される。事実、バイオガラスと接触させた状態での14日間の培養後に細胞窮迫の兆候は検出されず、この顆粒と接触させた状態で培養した細胞は増殖し、三次元構造へと組織化し、細胞外マトリックスを合成する能力を有する。さらに、培養の2週間後、これらの細胞のアルカリホスファターゼ活性および石灰化した骨小結節の出現は、バイオガラスの顆粒の存在が、調査した細胞の骨芽細胞分化に対して有害ではないことを示している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストロンチウムを含むか、または添加した新規の生体活性ガラス、その調製の方法、および、骨の修復または再建の方法におけるその使用に関する。
【0002】
骨は、コラーゲン線維ネットワーク、ならびに、リン酸カルシウムの水和および炭酸化した結晶で構成されている。骨細胞と呼ばれる細胞(骨芽細胞および破骨細胞を含む)は、このネットワーク中に入り込む。この細胞は、非常に小さな血管により血液供給される。
【背景技術】
【0003】
骨が損傷すると、損傷した破片を破骨細胞が除去し、骨芽細胞は、コラーゲンネットワークを再建し、結晶性のヒドロキシカーボネートアパタイトの堆積を可能にする酵素の産生を促進し、これが続いて骨欠損部が修復される。
【0004】
この自然な過程はゆっくりなので、骨セメント、または、損傷領域の寸法に応じたさまざまなサイズのプロテーゼにより骨修復を補助するのが普通である。骨再建が行われないか、または遅すぎるときは、骨移植が時に必要である。
【0005】
骨欠損部の修復の全ての場合において重要なことは、代用構造物の設置と並行して、徐々に定着し、または代用骨に取って代わることになる骨組織の再建を促進することである。
【0006】
特定の疾患、特に骨粗鬆症においては、骨芽細胞の活性を刺激することにより、骨組織の分解に対抗することが重要である。
【0007】
このような全ての用途のために、生体活性ガラスの開発が何年にもわたって行われている。生体活性ガラスは生体液と化学的に反応し、その反応生成物が、骨マトリックスの形成および骨成長を促進するヒドロキシアパタイトである。
【0008】
最初の生体活性セラミックスは、L.L.Henchにより開発された(L.L.Henchら、J.Biomed.Mater.Res.、1971、2、117〜141頁;L.L.Henchら、J.Biomed.Mater.Res.、1973、7、25〜42頁)。
【0009】
最初の生体活性ガラスは、SiO2とP2O5とから、また、CaOとNa2Oとから調製された。ケイ素の酸化物およびリンの酸化物は、ガラス質ネットワークの結合に関与するネットワーク形成物質である。ナトリウムおよびカルシウムなどのアルカリ金属およびアルカリ土類金属はこのような能力をもたず、ガラス質ネットワーク中に連鎖の切断部を導入することによりこのネットワークを改変し、この切断部があるとこうしたガラスの融点は低くなり、それに伴い構造の秩序の乱れが増すと考えられる。このような金属が存在すると、結果として水性環境において生体活性ガラスの反応性が増す。この反応性が、生理環境におけるヒドロキシアパタイトの形成を可能にし、ひいては骨再建を促進する。
【0010】
最も多く研究されているバイオガラスは、Bioglass(登録商標)と呼ばれるナトリウム−ケイ素−リン−カルシウムのガラスまたはHenchによるBioverreである。その基本組成は、SiO2が55%−CaOが20%−Na2Oが20%−P2O5が5%である。この材料の優れた生体活性特性については、あらためて立証するまでもない。Bioglass(登録商標)は、未だに最も興味深い生体活性材料(細胞の特異的な応答を誘導する)の1つである。
【0011】
生体活性ガラスの分野では、その発見以来、多様な原子の組込みまたは活性成分の組込みなど、多くの進歩が遂げられている(M.Vallet−Regiら、Eur.J.Inorg.Chem.、2003、1029〜1042頁)。生体活性ガラスの組成は、骨芽細胞の増殖および骨組織の形成を促進するように最適化されてきた(WO02/04606)。銀の組込みは、特に生体活性ガラスに抗菌特性を賦与するために提案されている(WO00/76486)。
【0012】
しかし、生体活性ガラス中への新しい元素の組込みにより、以下のような困難が常に生じる:事実、生体活性ガラスの組成中に導入されたいかなる原子も、前記ガラスの振舞いおよびその特性に、とりわけ、このガラスが、自身を構成する元素を塩析させる経路に対して影響を及ぼす。さらに、生体活性ガラスは、ヒドロキシアパタイトの形成を可能にするために良好に溶解する必要もあるが、ヒドロキシアパタイトが徐々に定着でき、また、任意の活性物質を持続的に塩析させることができるように、溶解速度は制御されなければならない。
【0013】
最後に、生体活性ガラスの作製の条件は、それぞれの新しい組成に適合したものでなければならない。
【0014】
このガラスの生物活性特性およびその溶解速度は、その組成およびそのテクスチャに依存する。生体活性ガラスの基本的な組成は、SiO2−CaO−P2O5またはSiO2−Na2O−CaO−P2O5の形態のものである。しかし、溶解過程における多様な段階中に、イオンの塩析、および、生物活性につながる物理化学的反応に特定の極微量元素が果たす役割についての研究は、これまでほとんどされてこなかった。
【0015】
ストロンチウムは、骨組織中に天然に存在し、沈着物の成長段階の間にアパタイト中に取り込まれることがある(カルシウム欠損アパタイトの形成)。さらに、文献には、この元素は細胞の反応に影響を及ぼすことが可能なものとして記載されている。ストロンチウムは、骨の機械的特性を向上させ、アパタイトの溶解性に影響を及ぼす。ストロンチウムは、ヒドロキシアパタイトの機械的特性を向上させることから、骨粗鬆症にも関連がある。この元素は、in vivoで、周囲組織とのより良好な結合をもたらす。この元素は、細胞の付着を向上させるが、培養液中での骨芽細胞の成長をわずかに低下させ、乳酸デヒドロゲナーゼの産生を増加させる。ストロンチウムは、細胞の固定化も可能にし、生体材料にSrを添加すると、細胞の付着がより良好になると考えられる(E.Canalisら、Bone、1996、18、517〜523頁;G.Boivinら、J.Bone Miner.Res.、1996、11、1302〜1311頁;P.Marie and M.Hott、Metabolism、1986、35、547〜551頁;P.Marie、Current Opinion in Pharmacology、2005、5、633〜636頁)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】WO02/04606
【特許文献2】WO00/76486
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】L.L.Henchら、J.Biomed.Mater.Res.、1971、2、117〜141頁
【非特許文献2】L.L.Henchら、J.Biomed.Mater.Res.、1973、7、25〜42頁
【非特許文献3】M.Vallet−Regiら、Eur.J.Inorg.Chem.、2003、1029〜1042頁
【非特許文献4】E.Canalisら、Bone、1996、18、517〜523頁
【非特許文献5】G.Boivinら、J.Bone Miner.Res.、1996、11、1302〜1311頁
【非特許文献6】P.Marie and M.Hott、Metabolism、1986、35、547〜551頁
【非特許文献7】P.Marie、Current Opinion in Pharmacology、2005、5、633〜636頁
【非特許文献8】「An introduction to Bioceramics」、L.Hench and J.Wilson、World Scientific Edition、New Jersey(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の一目的は、先行技術の材料と比較して向上した特性を有する新規の生体活性材料を開発することであった。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の材料は、ストロンチウムを含む生体活性ガラスの組成物である。本発明の第1の実施形態によれば、この生体活性ガラスは、ゾルゲル法により作製される。この組成物は、記載の比率での以下の構成要素:
SiO2:40から75%
CaO:15から30%
SrO:0.1から10%
P2O5:0から10%
Na2O:0から20%
MgO:0から10%
ZnO:0から10%
CaF2:0から5%
B2O3:0から10%
Ag2O:0から10%
Al2O3:0から3%
MnO:0から10%
その他:0から10%
の存在を特徴とする。
【0020】
この比率(%)は、組成物の総質量に対する質量比(%)である。
【0021】
有利には、構成要素SiO2、CaO、SrO、P2O5の質量の合計は、本発明の材料の組成物の総質量の98から100%、さらにより良好には99から100%、好ましくは99.9から100%を占める。
【0022】
有利には、本発明の材料は、組成物の総質量に対する質量比で、以下:
SiO2:45から75%
CaO:15から30%
SrO:2から8%
P2O5:0から10%
他の元素:0から1%、好ましくは0から0.5%
から構成される。
【0023】
本発明の材料は、ゾルゲル法により作製されるものであってもよく、固まっていない粉末もしくは圧縮粉末の形態、繊維の形態、または代替的に基材上のコーティングの形態、または板状物もしくはガラスフリットの形態をしていてもよい。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、この材料は、高温融合法に続いて急冷することにより作製されるものであってもよい。この場合、こうした材料は、以下の組成により定義される:
SiO2:45から55%
Na2O:10から25%
CaO:10から25%
SrO:0.1から10%
P2O5:0から10%
MgO:0から10%
ZnO:0から10%
CaF2:0から5%
B2O3:0から10%
Ag2O:0から10%
Al2O3:0から3%
MnO:0から10%
その他:0から10%。
【0025】
この比率(%)は、材料の総質量に対する質量比(%)である。
【0026】
有利には、構成要素SiO2、Na2O、CaO、SrO、P2O5の質量の合計は、本発明の材料の組成物の総質量の98から100%、さらに良好には99から100%、好ましくは99.9から100%を占める。
【0027】
有利には、この実施形態によれば、本発明の材料は、組成物の総質量に対する質量比で、以下から構成される:
SiO2:45から55%
Na2O:15から25%
CaO:15から25%
SrO:2から8%
P2O5:0から10%
他の元素:0から1%、好ましくは0から0.5%。
【0028】
本発明の材料は、融合法により作製されるものであってもよく、板状物の形態またはガラスフリットの形態をしていてもよい。
【0029】
表現「生体活性ガラス」は、酸化ケイ素がその主成分であり、生理液中に入れたとき、生きた組織に結合する能力を有する無機ガラス型の材料を意味する。
【0030】
生体活性ガラスは、当業者には周知であり、特に「An introduction to Bioceramics」、L.Hench and J.Wilson、World Scientific Edition、New Jersey(1993)中に記載がある。
【0031】
本発明の材料は生体適合性であるが、これは、生体、特にヒトまたは動物の生体と接触した際に、この材料は当該生物の防御系(とりわけ免疫系など)の反応を誘導しないことを意味する。生体適合性の、という用語は、患者の体内に埋め込んだ際に、その材料が細胞毒性効果または全身反応を生じさせないことも意味する。
【0032】
本発明の材料は、生体適合性でもあり生体活性でもある。先行技術の材料と比較すると、本発明の材料は、骨の機械的特性の強化、および、ヒドロキシアパタイトと周囲組織との間の結合の促進という利点を有する。したがって、本発明の生体材料は、この材料を、骨欠損部の修復、ならびに、任意の原因の骨欠損症の防止および/または治療において先行技術の生体材料より優れたものとする特性を有する。
【0033】
本発明の材料は、ゾルゲル法により調製でき、これには以下のような多くの利点がある:作製温度が他の方法の場合より低いこと、材料がより均質であること、最終組成物の制御ならびに材料の多孔度および比表面積の制御が容易であること。生物活性は材料の構造のみならずその化学組成によって決まるため、ゾルゲル法により作製された材料はとりわけ興味深いことがわかったが、その理由は、ゾルゲル法では、材料の溶解速度のみならずストロンチウムの塩析速度も制御することが容易だからである。
【0034】
本発明の材料は、多孔質のマトリックスまたは高密度のガラスを作製するための、溶液中での金属アルコキシドの混合、加水分解、ゲル形成および加熱の段階を含む方法により調製できる。
【0035】
ゾルゲル法は、上述のように3つ以上の成分(少なくともSiO2、CaO、SrO、ならびに、場合によりP2O5および/または他の酸化物が含まれる)を有する材料の組成の場合に適用される。
【0036】
第1の段階では、成分の前駆体、溶媒(水、および、場合により、エタノールなどのアルコール)を酸性または塩基性の触媒の存在下で混合する。
【0037】
より詳細には、SiO2前駆体としてはテトラエトキシシランなどのテトラアルコキシシランを使用し、P2O5前駆体としてはリン酸トリエチルなどのリン酸トリアルキルを使用し、CaO前駆体としては硝酸カルシウム四水和物または別のカルシウム塩(塩化物、酢酸塩、フッ化物、シュウ酸塩など)を、SrO前駆体としては硝酸ストロンチウムまたはストロンチウムの別の塩(塩化物、酢酸塩、フッ化物、シュウ酸塩など)を使用する。
【0038】
加水分解および縮合の反応は、同じ触媒(例えばHCl)により触媒される。固まるゲルの構造は、特に、中でこうした反応が起きる溶液のpHにより決まる。パーコレーション閾値に達すると、形成された三次元ネットワークが反応混合物の全体にわたって広がり、ゲルが得られる。
【0039】
熟成:この段階には、数時間から数日間、ゲルを溶媒中に浸漬したままにすることが含まれる。熟成中、重縮合が起こり、全ての反応種が反応し終わるまで続く。離漿と呼ばれるこの段階は、多孔度の低下およびゲルの強化に寄与する。ゲルの多孔度は、熟成の持続時間および温度を調節することにより制御できる。
【0040】
乾燥段階の間に、孔の中に存在する液体はそこから排出する。例えば界面活性剤を加えることにより固体−液体の界面歪みを低減させる条件を用いないと、毛細管応力が生じ、ゲルが割れる原因となる。
【0041】
安定化および高密度化は、シラノールの表面基の排除を可能にする条件下で熱的または化学的な手段により達成することができる。
【0042】
ゲル中に存在する他の成分(硝酸塩など)を分解するために、好ましくは加熱を用いる。加熱は、600℃以上の温度で好ましくは実施する。
【0043】
その結果、粉末の形態で最終生成物が得られる。孔のサイズは1nmから50μmの間である。好ましくは、直径2から50nmの孔を有する粉末が得られる。
【0044】
本発明の材料を用いることができる用途は、以下のとおりである:骨欠損部の充填、金属製インプラントの被覆、骨が変性する症例における骨成長の刺激。
【0045】
こうした用途は、以下のような多様な方式で実行できる:
本発明の材料は、例えばX線検査により骨欠損部が発見された領域で、外科手術または注入により局所的に導入できる。固まっていない粉末または圧縮粉末の形態をした本発明の材料を挿入することにより、骨欠損部を塞ぐことが可能である。
【0046】
この方法により得られる粉末は、骨欠損部の充填のために、例えば骨手術または上顎歯手術において、そのまま使用できる。この粉末は、治療用組成物の形態で、骨成長の刺激が必要な領域において注入できる。この粉末は、外科手術において使用する三次元の物体を形成するために、圧縮機により圧縮してタブレットの形態にすることができる。
【0047】
本発明の一実施形態によれば、生体活性ガラスの繊維は、以下の段階を用いるゾルゲル法により調製できる:金型を通してゾルを押し出す。得られた繊維を熟成、乾燥させ、熱的に安定化させる。次に、結合剤(例えばカルボキシメチルセルロースの溶液)を用いて、この繊維を織るか、または塊にすることができる。次に、結合剤の分解を引き起こす温度の窯に入れて加熱することにより、塊状の繊維ネットワークを使用して、ガラスフリットを作製できる。
【0048】
本発明のバイオガラス繊維は、外科手術において、縫合糸として、または布の形態で、そのまま使用できる。このバイオガラス繊維は、他の材料を含んだ組成物中で使用できる。
【0049】
本発明の材料は、単独で、または、骨組織の修復および/または再生を促進する他の手段と組み合わせて使用できる。治療用組成物、特に、注入または外科手術による投与を意図し、少なくとも1つの本発明の材料を含む組成物は、本発明の別の目的を構成する。こうした組成物は、同組成物を用いる用途のための薬学的に許容される任意の担体、特に注入用の担体を含んでもよい。
【0050】
本発明の生体活性ガラスに加えて、注入され、または外科手術により導入されることになる製剤は、抗生物質、抗ウイルス薬、瘢痕形成剤、抗炎症薬、免疫抑制薬、成長因子、抗凝血薬、血管新生剤、鎮痛薬、プラスミドなどから選択される1つまたは複数の化合物も含むことが想定できる。
【0051】
本発明の材料は、ネジ、板、管、弁など、プロテーゼとして生物体内に埋め込まれる金属またはセラミック製の構成部品上に堆積させることもできる。
【0052】
本発明の材料は、骨マトリックスなど、移植することを意図したマトリックスと組み合わせることができる。本発明の材料と移植片とを組み合わせると、特に、後者が同種異系のものである場合、生物体内でのその取込みが促進される。
【0053】
本発明の材料で被覆されたプロテーゼは、金属もしくはセラミック製の従来のプロテーゼまたは骨細胞ネットワーク除去後の骨移植片または生体適合性ポリマーをゾルゲル溶液中に浸漬させることによる、あるいは、プロテーゼ上に組成物をプラズマ溶射し、次いで600℃超の温度で加熱しながらこれを続ける(これにより生体活性ガラスが形成される)ことによる公知の様式で製造できる。
【0054】
部分的に、またはその全表面上が本発明の材料で被覆された、金属もしくはセラミックもしくはポリマー製のプロテーゼまたは骨マトリックスは、本発明の別の目的を構成する。
【0055】
本発明の材料は、ゾルゲル手法により、制御された形状の板状物の形態で調製することもできる。この実施形態によれば、この方法は、ゲル中の亀裂を回避するために、乾燥および高密度化の段階の制御を含む。ゾルのゲル化は、PTFE製の容器中で60℃にて実施するが、この容器の形状により、板状物の最終的な形態が決まる。
【0056】
このような板状物は、外科手術において、例えば骨欠損部を塞ぐために使用される。
【0057】
本発明の材料は、骨粗鬆症に罹患した個体における大腿骨頸部など、骨が脆いことで知られる部位において、外科手術または注入により導入することもできる。
【0058】
本発明の材料は、軟骨が損傷している場合、軟骨の修復および/または再生を促進するために、関節周囲に導入することもできる。
【0059】
本発明の材料および組成物は、軟骨の劣化につながった外傷の後、または変形性関節症の治療の範囲内のいずれかで、軟骨の修復用に使用できる。関節の炎症性疾患は、一般に、本発明による材料の使用が有益である可能性がある状況を構成できる。
【0060】
本発明の材料は、金属酸化物と他の成分とを混合し、融合が生じるまでこれを加熱してから冷却することによる融合法によって調製することもできる。融点は、ガラスの成分の選択により大部分決まる。融点は、約900から1500℃の間である。この場合に得られる材料は、板状および非多孔質のものである。
【0061】
この実施形態によれば、ガラスフリットは、溶融ガラスの組成物から開始し同組成物をフリット化して微粒子材料を作製する公知の様式で調製することもできる。
【0062】
板状物の形態で得られる材料の場合(融合またはゾルゲル)は、これらの材料は、外科手術において、骨欠損部を塞ぐ必要があるから、またはストロンチウム処理したアパタイトの塩析が骨構造の強化にとって有用と考えられるから、のいずれかの理由で、治療対象部位中に挿入することにより使用できる。
【0063】
本発明の別の目的は、生体活性ガラスを水性媒体中に溶解させることにより生体活性ガラスから得られる溶液を含む。この溶液は、本発明の生体活性ガラスを水溶液中に入れてから、そのまま放置してガラスを溶解させ、媒体を濾過することにより作製できる。濾過した溶液を回収する。この溶液は、骨芽細胞の成長を促進する。この溶液は、骨芽細胞の成長を刺激することが望ましい、生物の局所領域において投与するために、組成物、特に注入可能な組成物中で使用できる。この溶液は、細胞培養用に、検査室において使用することもできる。この溶液は、固体、半固体、液体など任意の形態、例えばタブレット、ペレット、粉末、液体溶液、懸濁液、坐薬の形態をした医薬製品を調製するために使用できる。
【0064】
本発明の材料、組成物およびプロテーゼは、骨および/または軟骨の欠損部、ならびに、以下の症例における疾患および傷害に伴う欠損症を修復するためにとりわけ有用である:骨折における骨組織の形成、腫瘍または嚢胞の切除によるものなど骨欠損部の修復、歯牙または骨格の異常の治療、骨喪失につながる歯周病における歯牙および歯周部の再建(特に歯槽骨の置換)、または歯牙と歯肉との間の空洞の充填用、または抜いた歯牙の一時的な置換用、骨粗鬆症の症例において。
【0065】
形態は、用いられることになる用途に適したもの、および最も頻繁には骨の欠損症を治療しなければならない部位での注入または外科的挿入を可能にする形態が選択される。
【0066】
本発明の別の目的は、プロテーゼ、または、前述の病態の1つもしくはその他を防止もしくは治療することを意図した医薬製品の製造のために、上述のような材料を使用することからなる。
【0067】
今回開発した生体材料は、ナノ構造の生体活性ガラスである。バイオセラミックスと生体媒体との間の相互作用の物理化学的試験から、この材料の表面上にリン酸カルシウムの層が最終的に形成されることになる生物活性の特性が明らかになる。生体活性材料の場合、この層により、骨組織との密接な結合が可能になる。さらに、テクスチャ(多孔度)ならびに主要元素および極微量元素(Sr)の含有量を制御することにより、これらの材料の溶解特性および生物活性特性を調整することが可能になる。したがって、今回開発したガラスは、生理的濃度でストロンチウムを塩析させる。極微量元素(骨中に存在する)の塩析をこのように制御することにより、細胞の特異的な応答を誘導できる。
【0068】
本発明による材料の多様な組成物を作製し、溶液中でのその振舞いを調査した。この組成物とそれを中に浸漬させる媒体との間の界面では、ヒドロキシアパタイトは、制御できる速度で固まることが見出された。さらに、媒体中におけるイオン形態でのストロンチウムの塩析、および、in situで生成したリン酸カルシウム層中へのその取込みがあることも見出された。
【0069】
ストロンチウムは、カルシウム同様、本発明の組成物中におけるネットワーク調節物質である。それらのイオン半径は似ている。それにもかかわらず、ストロンチウムの存在はこの組成物の構成要素の塩析の速度に関与するが、カルシウムの場合は、このパラメーターに対してほとんど影響を及ぼさないことが見出された。
【0070】
とりわけ、この組成物中のストロンチウムの量が増えると、結果として、ストロンチウム、カルシウム、リンおよびケイ素の塩析の速度が低下することが見出された。
【0071】
したがって、本発明の組成物は、生理液中に入れたときにその周囲におけるストロンチウムの塩析を可能にするだけでなく、制御された様式でのその実現も可能にする。
【0072】
要約すると、本発明の組成物は、以下を可能にする:
・生理学的濃度における、埋込み部位での直接的なストロンチウムの塩析、
・骨石灰化の向上、
・材料の溶解および塩析の制御、
・選択された部位での材料の埋込みおよび注入の可能性、
・生体媒体中における材料の周辺部でのリン酸カルシウム層の形成。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】開発したガラスの典型的な回折パターン(上のグラフはガラスB70について得られたもの)
【図2】生体媒体中での浸漬時間の関数としての、ガラスSiO2−CaOおよびSiO2−CaO−SrOのタブレットの周辺部でのカルシウム濃度の変化
【図3】生体媒体中での浸漬時間の関数としての、ガラスSiO2−CaOおよびSiO2−CaO−SrOのタブレットの周辺部でのリン濃度の変化
【図4】生体媒体中での浸漬時間の関数としての、ガラスSiO2−CaOおよびSiO2−CaO−SrOのタブレットの周辺部でのケイ素濃度の変化
【図5】生体媒体中での浸漬時間の関数としての、ガラスSiO2−CaOおよびSiO2−CaO−SrOのタブレットの周辺部でのマグネシウム濃度の変化
【図6】生体媒体中での浸漬時間の関数としての、ガラスSiO2−CaO−P2O5およびSiO2−CaO−P2O5−SrOのタブレットの周辺部でのカルシウム濃度の変化
【図7】生体媒体中での浸漬時間の関数としての、ガラスSiO2−CaO−P2O5およびSiO2−CaO−P2O5−SrOのタブレットの周辺部でのリン濃度の変化
【図8】生体媒体中での浸漬時間の関数としての、ガラスSiO2−CaO−P2O5およびSiO2−CaO−P2O5−SrOのタブレットの周辺部でのケイ素濃度の変化
【図9】生体媒体中での浸漬時間の関数としての、ガラスSiO2−CaO−P2O5およびSiO2−CaO−P2O5−SrOのタブレットの周辺部でのマグネシウム濃度の変化
【図10】生体媒体中での浸漬時間の関数としての、ガラスタブレットの周辺部でのストロンチウム濃度の変化
【図11】ガラスSiO2−CaOおよびSiO2−CaO−SrOのタブレットとの相互作用の時間の関数としての、生体媒体中のカルシウム濃度の変化
【図12】ガラスSiO2−CaO−P2O5およびSiO2−CaO−P2O5−SrOのタブレットとの相互作用の時間の関数としての、生体媒体中のカルシウム濃度の変化
【図13】ガラスSiO2−CaOおよびO2−CaO−SrOのタブレットとの相互作用の時間の関数としての、生体媒体中のリン濃度の変化
【図14】ガラスSiO2−CaO−P2O5およびSiO2−CaO−P2O5−SrOのタブレットとの相互作用の時間の関数としての、生体媒体中のリン濃度の変化
【図15】ガラスSiO2−CaOおよびSiO2−CaO−SrOのタブレットとの相互作用の時間の関数としての、生体媒体中のケイ素濃度の変化
【図16】ガラスSiO2−CaO−P2O5およびSiO2−CaO−P2O5−SrOのタブレットとの相互作用の時間の関数としての、生体媒体中のケイ素濃度の変化
【図17】ガラスSiO2−CaOおよびSiO2−CaO−SrOのタブレットとの相互作用の時間の関数としての、生体媒体中のマグネシウム濃度の変化
【図18】ガラスSiO2−CaO−P2O5およびSiO2−CaO−P2O5−SrOのタブレットとの相互作用の時間の関数としての、生体媒体中のマグネシウム濃度の変化
【図19】ガラスSiO2−CaO−SrOおよびSiO2−CaO−P2O5−SrOのタブレットとの相互作用の時間の関数としての、生体媒体中のストロンチウム濃度の変化
【図20】顆粒を加えてから4時間後(A)、4日後(B)、11日後(C)および13日後(D)の骨芽細胞の培養物の、位相差顕微鏡法による観察。星印は、細胞の縮合の屈折領域を示し、矢印は、石灰化した骨小結節を示す。縮尺バー=500μm。
【図21】バイオガラスの顆粒と接触させた状態での14日間の細胞培養後のアルカリホスファターゼの細胞酵素的な局在化。縮尺バー=500μm。
【図22】バイオガラスの存在下での14日間の細胞培養後の、メチレンブルー(Azur II)で染色した準微細切片(対物100倍)。(BG、バイオガラス)。
【図23】バイオガラスの存在下での14日間の細胞培養後の超微細切片(A、B)の、透過型電子顕微鏡法による観察(対物22000倍)。(BG、バイオガラス)。
【実施例】
【0074】
I−合成プロトコール
生体活性ガラスを粉末の形態で作製した。Sigma−Aldrich(USA)により供給された化学前駆体を表I−1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
TEOSの加水分解の反応を実施するために、共溶媒(エタノールEtOH)を使用した。触媒として塩酸HClを使用した。
【0077】
合成プロトコールに関しては、加水分解に必要な蒸留水をまず塩酸HCl(2N)と、さらにエタノールEtOH(99%)と混合するが、これにより、TEOSの導入後に均質な溶液がもたらされるだけでなく、Ca(NO3)2−4H2Oの結晶の良好な溶解が確実になる。水、エタノールおよび塩酸の比率を表I−2に詳細に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
これらの反応物をフラスコに入れ、磁気撹拌を用いて15分間混合する。次に、この混合物にTEOSを加え、30分後に、等体積のエタノールと共にTEPを注ぎ入れる。20分後、Ca(NO3)2−4H2Oの結晶を導入する。次に、この混合物をさらに60分間撹拌する。
【0080】
次に、この溶液を時計皿に入れ、60℃の窯の中でゲル化のために乾燥させる。この作業には4時間かかり、結果としてゾルは完全にゲル化される。次に、窯の温度を24時間、125℃に上げる。この段階でゲルは完全に断片化し、合成の最終段階として、これを乳鉢中で細かく砕く。高密度化に加え、700℃で24時間焼成すれば、孔中に捕捉されたアルコールおよび硝酸塩の残留物の完全な蒸発が確実に起こる。微細な白色粉末の形態で最終生成物を得る。
【0081】
図1は、X線回折結晶分析により特徴付けられた、ガラスについての回折パターンを示すものである。他のガラスについて得られた回折パターンは、このパターンと同様である。回折ピークがないことは、今回開発したガラスは実際に非晶質であることを示している。
【0082】
II−開発したガラスの特徴
II−1−組成物
開発したガラスの組成を、原子発光分光分析(ICP−AES)により調べた。原子発光分光分析による分析の結果を表II−1およびII−2に示す。開発したガラスは、期待値どおりの酸化物の濃度を有する。
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
II−2−テクスチャ
BET法により、77.4Kで動作するAutosorb Quantachrome装置を用いて、ガス吸着によりガラスの比表面積を測定した。使用する吸着質は、比表面積の計算のための、窒素分子の有効な吸着断面が0.162nm2である高純度窒素(99.999%)である。測定に先立ち、真空下で(p<1Pa)120℃にて12時間、試料を脱気する。脱気した試料の質量から比表面積を計算する。
【0086】
分圧p/p0が0.05から0.3の間(P0:飽和蒸気圧)の範囲における吸着されたガスの量を測定するために、少なくとも5点を使用した。
【0087】
比表面積は、50から150m2/gの間である。平均の孔サイズは、1nmから101nmの間である。
【0088】
III−in vitroでの生物活性の調査
生体材料が生きた組織に結合できるかどうかは、血漿を模した生体液と接触してアパタイト層を形成するその能力次第であることが、明確に立証されている。したがって、in vitroでのテストは、材料の生物活性を評価するための強力な手段である。
【0089】
中に生体活性ガラスを浸漬させた生体媒体は、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)である。DMEMの組成は、ヒト血漿の組成と似ている(表III−1)。37℃でのDMEMのpHは、血漿のpHに似た値の7.43である。
【0090】
【表5】
【0091】
III−1−実験プロトコール
生体活性ガラスの試料を、粉末の形態、および、以下のタブレットの形態で調べた:直径13mm、高さ2mmのディスク、90mgの粉末を圧縮機中で圧縮することによって得たもの。生体活性ガラスは、臨床適用においてはこの2つの形態で使用できることから、この2つの型の試料を調べることは興味深い。生物活性は、異なる時間規模および寸法に対して作用する。
【0092】
III−1.1−タブレットの形態の試料
タブレット試料を、以下の時間にわたり45mLのDMEM中に浸漬させた:1時間、6時間、1日、2日、5日、10日。
【0093】
浸漬後、タブレットを回収してから周囲大気中で乾燥させる一方、ICP−AESによる分析用に、試料を1個、DMEMから取り出す。イオンマイクロプローブを使用して特徴付けることを意図したタブレットの試料を樹脂中に包埋する。次に、Leica RM2145ミクロトームを用いて、材料の断面を調製する。ディスクの表面に垂直に30μm厚の切片を切る。最後に、中心に直径3mmの穴が開いたMylar支持体上に切片を載せる。イオンマイクロビームにより探査するのは、穴の上に位置する試料の領域である。
【0094】
III−1.2−粉末の形態の試料
タブレット試料のように大きな塊状ではないうえに多孔質の構造を有することから、粉末粒の試料は、タブレット試料より素早く反応する。本発明者らが行った粉末の調査は、以下の4種の生体活性ガラスの特徴付けに焦点を絞った:ガラスB75、B67.5、B75−Sr5およびB67.5−Sr5。生体媒体と接触するその領域よりむしろガラスの組成が生物活性に及ぼす効果を評価するために、各ガラスについて粉末10mgを、500cm−1で固定した比率[比表面積]/[DMEMの体積]によりDMEM中に浸漬させた。DMEMでは以下の浸漬時間を用いた:1時間、6時間、1日、2日、3日、4日。
【0095】
III−2−生体活性ガラスと生体媒体との間の相互作用中の物理化学的反応の特徴付け
バイオガラスの周辺部での異なる層の形成につながる物理化学的反応をよりよく理解するためには、材料と生体液との間の界面での元素の分布の局所分析を行うことが必須である。こうした分析には、良好な感受性および優れた空間分解能を有する技法を使用する必要がある。この目的のために、本発明者らは、PIXE法(粒子励起X線分析法)による、マイクロメートル規模での界面の化学地図作成を実施した。この方法は、イオンビーム(通常は陽子)により励起されるX線蛍光に基づく。この方法は、ミクロン程度の空間分解能を有しており、多元素地図の同時作成、ならびに、主要、少量および極微量(ppm)の元素の濃度の測定用に使用できる。
【0096】
III−2.1−生体媒体中での浸漬後の、ストロンチウム添加ガラスのタブレットの周辺部での多元素の化学画像
ストロンチウムを添加した二成分および三成分ガラスのタブレットのイオンマイクロビーム分析中に、多元素地図を記録した。多元素地図は、生体媒体との相互作用前、および相互作用の1時間後、6時間後、1日後、2日後、5日後および10日後に、ガラスのそれぞれについて得た。考察では、非添加の二成分および三成分ガラスのタブレットの調査との比較が示される。
【0097】
得られた化学画像に基づき、生体活性ガラス/生体媒体界面でのケイ素、カルシウム、リン、ストロンチウムおよびマグネシウムの分布を、材料と液体との間の相互作用の時間の関数としてモニターすることが可能であった。PIXEにより実施したガラス中の濃度の測定からは、さらに、材料の反応性についての局所情報がもたらされる。試料の全体的な反応性についての情報を得るために、ICP−AESによる測定を用いて、生体媒体中の濃度の変化をモニターした。したがって、この結果の比較は必要であり、また、これにより、材料の反応性についてさらなる情報が得られよう。PIXE分析に関しては、タブレット試料を、直径2μm、強度500pAの陽子線で探査した。関心領域に応じて一辺が40μmから400μmの間の正方形領域を走査することにより、地図を得た。
【0098】
組成がSiO2−CaO−SrOのガラスの地図から、ガラスの組成にストロンチウムを加えると、SiO2−CaOガラスと比較して材料の溶解性が低下することが明らかになる。この効果は、カルシウムについての地図においても見ることができる。
【0099】
ストロンチウムの分布に関しては、この元素は相互作用の1時間までは均一に分布する。その後、ストロンチウムのいくらかは材料の周辺部から塩析するようであり、ストロンチウムはタブレットの内部領域において、より高い比率で検出される。
【0100】
ストロンチウムの添加は、リン酸カルシウム層の発達に影響を及ぼすことも見出される。つまり、B75グラスの周辺部では相互作用のちょうど1時間後にリンの存在が検出されたが、ガラスB75−Sr1およびB75−Sr5については、この元素は相互作用の6時間後に検出されるにすぎない。さらに、極微量のマグネシウムは、ガラスSiO2−CaO−SrOについては6時間後に検出されるにすぎないが、対照的にSiO2−CaOガラスでは、1時間後に検出される。その後、Ca−P−Mg層は、二成分ガラスと似た様式で成長する。相互作用の10日後、これらのガラスタブレットにおいて3つの領域が観察される。タブレットの最深領域は、元のガラス質ネットワークから構成される。周辺層は、カルシウムおよびリンに富む大きな領域であり、そこには極微量のマグネシウムおよびストロンチウムがある。最後に、この2つの領域の間に、本発明者らは、局所的にカルシウムが豊富な中間領域を見出す。
【0101】
組成がSiO2−CaO−P2O5−SrOのガラスについての多元素地図からは、非添加ガラスB67.5と比較して材料の溶解が遅くなることも示される。したがって、ストロンチウムの添加は、カルシウムの塩析の減速という形で現れる。それにもかかわらず、この材料はCa−P−Mg−Sr層を形成することができることが、相互作用の数日後に実証される。
【0102】
III−2.2−ガラスタブレットと生体媒体との間の相互作用中の、元素の濃度の局所測定
化学種の分布に応じて、多元素地図を多様な関心領域に分割した。カルシウムおよびリンに富む周辺領域が同定されるたびに、測定マスクが浮かび上がり、これにより、その場にある元素の濃度を計算できた。関心領域に応じて一辺が5から20μmのマスクが浮かび上がり、浸漬時間に伴ってCa−P層の厚さが増加した。この技法を適用すると、ガラスの周辺部および中心部での種Ca、P、Si、SrおよびMgの濃度の変化をモニターすることができた。所与の相互作用時間および所与のガラスについて、グラフ上に示される濃度値は、いくつかの関心領域において見出された平均濃度である。
【0103】
ガラスタブレットの周辺部での濃度の変化
図2、3、4および5は、SiO2−CaO−SrOガラスの周辺部での元素の濃度の変化を示すものである。比較のために、ガラスB75(SiO2−CaO)の周辺部で測定した濃度も示す。カルシウム濃度の変化を表す図2は、ガラスB75−Sr1およびB75−Sr5がガラスB75のものとは実質的に異なる振舞いを見せることを示している。SiO2−CaO−SrOガラスについては、カルシウム濃度は生理液との相互作用の最初の数時間の間は増加し始める。カルシウム濃度の相対的な増加は、同時にケイ素濃度が急落している事実によるものである(図4)。このことは、ストロンチウム添加ガラスにおいては、カルシウムの塩析は、ケイ素ネットワークの分解ほど急速に進行しないことを示すことにつながる。すなわち、カルシウムの塩析が減速し、その影響で、マトリックスの陽イオンの数がより限定されるようである。カルシウム濃度が最小値に下落するのは相互作用の6時間後になってからであり、ガラスB75−Sr1の場合は相互作用の1日後、ガラスB75−Sr5の場合は2日後にこれに到達した。到達した最小値は、ガラスB75の場合より高い。したがって、ストロンチウムを添加した材料の場合のほうが、溶解の完全性は低い。
【0104】
塩析段階後、ガラスの周辺部に存在するカルシウムの量は増加するが、この増加はSiO2−CaO−SrOガラスについてはSiO2−CaOガラスの場合ほど急速ではない。10日間の浸漬後、ストロンチウム添加ガラスの周辺部のCa−P層中に含有されるカルシウムの比率は30質量%に近く、これは、ガラスB75の周辺部のCa−P層中で検出されるカルシウムの量(44質量%)より少ない。ただし、ガラスB75−Sr1およびB75−Sr5のマトリックスのほうが、最初に含有するカルシウムは少ないことを覚えておかなければならない。
【0105】
図4は、材料の周辺部でのケイ素濃度の低下は、元のガラス質マトリックス中のストロンチウムの比率の増加に伴い遅くなることを示す。相互作用の10日後、ガラスB75−Sr1の周辺層は、未だ6%のケイ素から構成されており、ガラスB75−Sr5の周辺層は9%のケイ素から構成されている。
【0106】
リンに関しては(図3)、3種のガラスB75、B75−Sr1およびB75−Sr5については共通の傾向、すなわち、タブレットの周辺部でこの元素の濃度が急速に上昇する傾向があるようである。極値には、最終的に相互作用の10日後に到達する。その時点でのガラスB75、B75−Sr1およびB75−Sr5の周辺部のリン含有量は、12%に近い。
【0107】
SiO2−CaO−SrOガラスの表面上に発達する層中では、極微量のマグネシウムが検出される(図5)。マグネシウムの比率は、浸漬時間が長くなるにつれ、ひいては周辺層がガラスの表面に広がるにつれ増加する。タブレットの周辺部に組み込まれているマグネシウムの量は、SiO2−CaO−SrOガラスの場合のほうがSiO2−CaO二成分ガラスの場合より多いことが見出される。
【0108】
図6、7、8および9は、SiO2−CaO−P2O5−SrOガラスの周辺部での元素の濃度の変化を示すものである。図6では、ガラスB67.5−Sr1およびB67.5−Sr5の周辺部でのカルシウム濃度の変化はガラスB67.5のものと同じように上昇することがわかる。ただし、この変化はより遅く、カルシウムは、ストロンチウム添加ガラスについてはより少量で存在する。図8からは、ケイ素濃度の低下速度は、ストロンチウムを含有するガラスの場合のほうが三成分ガラスB67.5の場合ほど急速ではないことがわかる。さらに、相互作用の10日後、SiO2−CaO−P2O5−SrOガラスの周辺部では高濃度のケイ素が存在し続けている。これらの観察から、ストロンチウム添加ガラスにおけるほうが、ガラス質ネットワークの分解が進む深さは浅いことが示される。
【0109】
タブレットの周辺領域において検出されるリンの量は、浸漬時間に伴い急速に増加する(図7)。濃度の変化は3種のガラスに共通であり、周辺層は、最終的には11から15%のリンから構成される。マグネシウムに関しては、この元素は10日後、タブレットの周辺部に1%のレベルで存在する。図9からは、ガラスB67.5と比較して、ストロンチウムから構成されるガラスB67.5−Sr1およびB67.5−Sr5のほうが、中により多くの量のマグネシウムが組み込まれていることがわかる。
【0110】
図10は、SiO2−CaO−SrOおよびSiO2−CaO−P2O5−SrOのガラスタブレットの周辺部でのストロンチウムの濃度の変化を示すものである。表面で起こるイオン交換および物理化学的反応の影響下で、ストロンチウムの濃度が大きく変動していることが観察される。それにもかかわらず、周辺層については、ストロンチウムの減少はわずかという一般的傾向があることがわかる。相互作用の10日後、材料の周辺部のほうがストロンチウムに富み、その比率は、元のガラス質マトリックス中におけるこの元素の比率より高く、測定された濃度は相互作用前の値より低い。
【0111】
ガラスタブレットの内部領域における濃度の変化
ガラスタブレットの内部領域における元素の濃度の測定(生体液に直接さらしてはいない)を、元素Si、Ca、P、SrおよびMgについて実施した。先に述べたように、イオンが材料の周辺部に向かって拡散および移動する現象は、ガラス質マトリックスの組成の変動につながる。生体媒体との相互作用の最初の2日の間は、主な変化は、ケイ素、カルシウムおよびストロンチウムの濃度について観察される。リンの濃度の変化も、増加するわずかな傾向を示す。相互作用の10日後、多様な構成元素の濃度は元のガラス質マトリックス中でのその値に近い値に戻ることが観察される。ストロンチウム添加ガラスのタブレットの内部領域は、非添加ガラスと比較して変化が小さかった。溶解の大きさおよび速度は、添加ガラスにおけるほうが低く、周辺部で発達したCa−P−Mg層は、ガラスタブレットの最深領域に広がらないようである。
【0112】
ガラスタブレットと生体媒体との間の界面での原子比率の変化
ガラスと生体媒体との間の界面でのCa/P、Ca/MgおよびCa/Srの原子比率の変化を調べた。
【0113】
相互作用の最初の数時間の間は、原子比率Ca/PはSiO2−CaO−SrOガラスの場合のほうがSiO2−CaOガラスの場合より高い。このことは、カルシウムは、SiO2−CaO−SrOガラスの場合のほうがより少量で塩析することから、これらの材料の表面上により高い比率で存在するという事実に関連する。相互作用の6時間を超えると、ガラスB75−Sr1およびB75−Sr5の場合にはカルシウムの溶解および塩析が加速する結果、媒体からリンが急速に取り込まれることと相まって、相互作用の1日目で観察されるCa/P比が急落することとなる。その後、生体液中での浸漬時間が長くなるにつれ、Ca/P比は、化学量論的なヒドロキシアパタイトの値である1.7に近い限界値に向かう。したがって、浸漬の10日後、最終的に到達したCa/P比の値はガラスB75−Sr1およびB75−Sr5については1.8であり、ガラスB75について得られた2.1という結果と比較した場合、この値のほうが化学量論的なアパタイトの名目値に近いことが見出される。SiO2−CaO−P2O5−SrOガラスに関しては、界面で測定したCa/P比は、SiO2−CaO−P2O5ガラスの値より常に低い。このことは、一方では、カルシウム濃度の増加がより小さいこと、他方では、これらの材料中に最初に存在するカルシウムの比率が、B67.5の場合の25%と比較して、ガラスB67.5−Sr1およびB67.5−Sr5についてはそれぞれ24%および20%と、これより低いことによる。相互作用の10日後、SiO2−CaO−SrOガラスについて行った解釈、すなわち、ストロンチウム添加ガラスについてのCa/P比は、非添加ガラスと比較して、化学量論的なヒドロキシアパタイトの値により近いという解釈は、SiO2−CaO−P2O5−SrOガラスについても妥当である。浸漬の10日後、このCa/P比は、ガラスB67.5の場合の1.9に対し、ガラスB67.5−Sr1については1.6、ガラスB67.5−Sr5については1.7である。
【0114】
ガラスタブレットとの相互作用中の生体媒体の組成の変化
DMEM中に存在するカルシウムの濃度の変化(図11および12)は、相互作用の最初の数時間の間はわずかである。表面の脱アルカリ段階の間に媒体中に塩析されたカルシウムの量は、ストロンチウム添加ガラスの場合のほうがガラスB75およびB67.5の場合より少ない。その後、浸漬時間が長くなるにつれ、生体媒体中のカルシウム濃度の緩やかな低下が、全ての添加ガラスについて見出される。二成分ガラスB75は、多量のカルシウムを塩析することから、この元素は、相互作用の10日後は、相互作用前より高い濃度で存在した。また、この観察は、ガラスB75−Sr1およびB75−Sr5については見出されない。ストロンチウム添加ガラスには、塩析されたものと比較してより多くの量のカルシウムが組み込まれていることが見出される。したがって、相互作用の10日後、生体媒体中のカルシウム濃度は、ガラスB75−Sr1およびB75−Sr5についてはわずか62ppmであり、一方、ガラスB75については94ppmであった。ガラスB67.5−Sr1およびB67.5−Sr5については、当該濃度はそれぞれ5および49ppmであり、一方、ガラスB67.5については67ppmであった。
【0115】
図13および14は、生体媒体中に存在するリンの濃度の変化を示すものである。全てのガラスについて、この元素の濃度は時間の経過に伴い大きく低下している。試料のそれぞれについて観察された低下は同様である。しかし、相互作用の5日後、リンの消費がストロンチウム添加ガラスにおいて減速したらしいことがわかる。このことは、ガラス−生体媒体系が平衡状態に近付きつつあることを示すのではないかと考えられる。
【0116】
ケイ素に関しては、図15および16は全てのガラスについて共通の傾向を示す。溶解反応はガラス質ネットワークをどこまでも深く崩壊させるので、生体媒体中で検出されるケイ素の濃度はどんどん高くなる。相互作用の10日後、生体媒体中で塩析されたケイ素の量は、ストロンチウム添加ガラスの場合のほうが少ない。このことは、添加ガラスにおける溶解の程度がより低いことを別の形で示すものである。
【0117】
一方、図17および18は、ストロンチウム添加ガラスには、他のガラスより多くのマグネシウムが組み込まれていることを示す。この元素の濃度は、浸漬時間に伴いゆっくり低下し、10日後、マグネシウムの減少は、ガラスB75−Sr1およびB75−Sr5については2ppm、ガラスB675−Sr1については3ppm、ガラスB67.5−Sr5については5ppmである。
【0118】
最後に、生体媒体中に存在するストロンチウムの濃度の測定により、この試験は完了する(図19)。最初はゼロに等しい、生理液中のストロンチウムの量は、ガラスの表面の外にこの元素を塩析させた後は数ppmに増加する。ガラスB75−Sr5およびB67.5−Sr5はガラスB75−Sr1およびB67.5−Sr1より5倍多いストロンチウムを塩析することが見てとれるが、この量は、これらの材料のそれぞれのストロンチウム含有量と一致する。
【0119】
III−2.4−ガラス粒と生体媒体との間の相互作用中の、元素の濃度の局所測定
ガラス粒の周辺部での濃度の変化
粒の周辺部の局所分析から、粉末について観察された現象はタブレットについて観察された現象を再現するが、時間規模および寸法は低下していることが明らかになる。元素の濃度は、それまでに観察されたものと同様の傾向を見せる。
【0120】
この観察は、リンの濃度の変化にも当てはまる。タブレットの場合と全く同じように、この元素の濃度は粒の周辺部で急速に高まる。相互作用の4日後、リンは、ストロンチウム添加ガラスについては9〜10%のレベルで、三成分ガラスについては16%のレベルでそこに含有される。ガラスB75については、リンの量は、相互作用の6時間まで急速に増加する。その後、リン濃度はほぼゼロまで低下する。そのため、ガラスB75中の粒の境界で形成されるリン酸カルシウムの層は不安定であるようであり、この層は生体液の作用下で急速に溶解する。
【0121】
ガラスB75中の粒界でのケイ素濃度は、材料の周辺部でのガラス質ネットワークの崩壊に対応して、相互作用の早期段階で低下することが見出される。しかし、相互作用の6時間を超えるとリン酸カルシウムの同心円層は溶解し、その結果、粒はこの段階ではケイ素に富むガラス質のコアを含むのみである。ガラスB67.5、B75−Sr5およびB67.5−Sr5については、異なる現象が観察される。すなわち、ケイ素ネットワークは、粒の周辺領域において徐々に崩壊し、結果としてこの元素の濃度は低下する。この低下は、非添加ガラスと比較して、ストロンチウム添加ガラスについてはより遅いことに気付くであろう。また、これは、タブレットの形態をした試料についての事実でもあった。
【0122】
IV−ストロンチウム添加バイオガラス(B75Sr5)と接触させて培養した骨芽細胞の振舞いの予備評価
IV−I−in vitroでの調査−培養の方法
ストロンチウム添加バイオガラスB75Sr5を顆粒の形態で調査する。使用に先立ち、このバイオガラスを計量し、180℃で2時間滅菌する。次に、培地(下記の組成を参照)中で48時間、撹拌しながら顆粒をプレインキュベートする。このプレインキュベーションに次いで、バイオガラスの顆粒を細胞と速やかに接触させる。
【0123】
生後21日のラットの胎仔の頭蓋冠から酵素消化により骨芽細胞を単離する。無菌条件において頭蓋冠を解体し、コラゲナーゼ(Life technologies(登録商標))の存在下で37℃にて2時間、断片をインキュベートする。次に、骨の断片から分離した細胞を、2.105細胞/mlの密度で培養皿(5ml)中に播種する。培養物がサブコンフルエンス(表面の約80%にコロニーが形成されている)の段階に達したら、バイオガラスの顆粒を菌叢に加える(培養皿1枚当たり20mg)。培地は、DMEM(Invitrogen(登録商標))、アスコルビン酸(50μg/mL)、10mMのβ−グリセロリン酸塩(Sigma(登録商標))、50IU/mLのペニシリン−ストレプトマイシン(Gibco(登録商標))および10%のウシ胎仔血清(FCS)(Hyclone(登録商標))から構成される。5%CO2の湿った大気中で37℃のインキュベーターに入れた細胞を14日間培養する。
【0124】
IV−2−位相差光子顕微鏡法による、ガラスB75Sr5の粒と骨細胞との間の界面の調査
位相差光子顕微鏡法による観察により、バイオガラスの周囲でこれと接触した骨小結節の発達、成熟および形成を追跡することが可能になる。
【0125】
培養の最初の数日間、細胞は増殖し(図20)、培養の3日目から4日目の間にコンフルエンスに達し(図20)、菌叢中で顆粒が固定化される。これに続く数日間、細胞は増殖を続け、顆粒の周辺部で多層のフィルム中に並ぶようになる。この三次元配列は、屈折領域の形態で、培養の第2週の開始時から見ることができる(図20)。培養の第2週の終了時点では、この屈折領域は顆粒の周囲で非常に豊富であり、菌叢全体の上に広がり始め、13日目から、本発明者らは第1の石灰化した骨小結節の出現を観察する(図20)。
【0126】
この結果は、ストロンチウム添加バイオガラスの顆粒の存在下ではラットの頭蓋冠細胞は増殖して活性骨芽細胞に分化し、これにより、石灰化した骨小結節が形成されることを実証するものである。
【0127】
IV−3−アルカリホスファターゼの細胞酵素的な局在化
細胞を、バイオガラス顆粒と接触させた状態で14日間培養する。次に、この細胞を固定液(クエン酸塩とアセトンとの混合物)中で室温にて30秒間固定する。次に、細胞試料をすすいでから、アルカリホスファターゼを合成する細胞を染色する溶液(「ファストブルーソルト(fast blue salt)RR」とリン酸ナフトールとの溶液、Sigma(登録商標))中で室温にて30分間、光を遮断した状態でインキュベートした。細胞酵素的な反応の後、試料をすすいでから、位相差光子顕微鏡法により調べる。
【0128】
培養14日目、バイオガラスの顆粒の周囲にこれと接触した状態で位置する細胞について、アルカリホスファターゼの陽性標識、すなわち骨芽細胞分化のマーカーを観察する(図21)。この結果から、B75Sr5型のバイオガラスの存在によりラットの頭蓋冠細胞の分化が可能になることが示される。
【0129】
IV−5−光学顕微鏡法および透過型電子顕微鏡法による調査
14日間の培養後の透過型電子顕微鏡検査のために、バイオガラスの顆粒と接触させた状態で、細胞を処理する。Karnovsky溶液(4%パラホルムアルデヒドおよび1%グルタルアルデヒド)中で細胞を固定してから、徐々に濃度が増すエタノール浴を用いて試料を脱水させる。次に、固定化された顆粒を有する菌叢をEpon−Araldite中に包埋し、ダイヤンモンドカッターを用いて、菌叢に対して垂直に、準微細切片(図22)、次いで超微細切片(図23)を調製する。超微細切片を銅格子上に回収してから、酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛で染色する。次に、透過型電子顕微鏡(Philips CM−12)で切片を調べる。
【0130】
準微細切片上で、顆粒周囲の細胞の多層フィルムの三次元配列を観察する(図22)。
【0131】
透過型電子顕微鏡法での観察により、顆粒と接触した多数の細胞の存在が明らかになる(図23)。これらの細胞は、細胞質内小器官を発達させており、このことから、細胞活性が旺盛であることが示される。これらの細胞は、コラーゲン線維に富む高密度の細胞外マトリックスに取り巻かれている。本発明者らは、マトリックス中で複数の石灰化の中心も観察できる。最後に、マトリックス、細胞、および、顆粒の周辺部との間の密接な接触を観察する。
【0132】
細胞は合成活性の全ての兆候(小胞体、ミトコンドリア、大核など)を見せることから、バイオガラスが存在しても、マトリックス合成能力は変質しない。本発明者らは、多数のコラーゲン線維から構成される細胞外マトリックスの存在も観察している。
【0133】
生物学的試験に関する結論
これらの結果を総合すると、ストロンチウム添加バイオガラスの顆粒が有する、ラットの頭蓋冠から得た初代細胞に対する非細胞毒性の性質が実証される。事実、バイオガラスと接触させた状態での14日間の培養後に細胞窮迫の兆候は検出されず、この顆粒と接触させた状態で培養した細胞は増殖し、三次元構造へと組織化し、細胞外マトリックスを合成する能力を有する。さらに、培養の2週間後、これらの細胞のアルカリホスファターゼ活性および石灰化した骨小結節の出現は、バイオガラスの顆粒の存在が、調査した細胞の骨芽細胞分化に対して有害ではないことを示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゾルゲル法により作製され、その組成が、記載の比率での以下の元素
SiO2:40から75%
CaO:15から30%
SrO:0.1から10%
P2O5:0から10%
Na2O:0から20%
MgO:0から10%
ZnO:0から10%
CaF2:0から5%
B2O3:0から10%
Ag2O:0から10%
Al2O3:0から3%
MnO:0から10%
その他:0から10%
(比率(%)は材料の総質量に対する質量比(%)である)
の存在を特徴とすることを特徴とする材料。
【請求項2】
前記構成要素SiO2、CaO、SrO、P2O5の質量の合計が、本発明の材料の組成物の総質量の98から100%を占めることを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
その組成が、前記組成物の総質量に対する質量比で、以下:
SiO2:45から75%
CaO:15から30%
SrO:2から8%
P2O5:0から10%
他の元素:0から1%
のとおりであることを特徴とする、請求項1または2に記載の材料。
【請求項4】
固まっていない粉末もしくは圧縮粉末の形態、繊維の形態、板状物の形態もしくはガラスフリットの形態をしていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の材料。
【請求項5】
基材上のコーティングの形態をしていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の材料。
【請求項6】
粉末の形態をしており、1nmから50μmの間のサイズの孔を有することを特徴とする、請求項4に記載の材料。
【請求項7】
融合法により作製され、その組成が、記載の比率での以下の元素:
SiO2:45から55%
Na2O:10から25%
CaO:10から25%
SrO:0.1から10%
P2O5:0から10%
MgO:0から10%
ZnO:0から10%
CaF2:0から5%
B2O3:0から10%
Ag2O:0から10%
Al2O3:0から3%
MnO:0から10%
その他:0から10%
(比率(%)は材料の総質量に対する質量比(%)である)
の存在を特徴とすることを特徴とする材料。
【請求項8】
前記構成要素SiO2、Na2O、CaO、SrO、P2O5の合計が、本発明の材料の総質量の98から100%を占めることを特徴とする、請求項7に記載の材料。
【請求項9】
板状物またはガラスフリットの形態をしていることを特徴とする、請求項8に記載の材料。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか一項に記載の少なくとも1つの材料と薬学的に許容される担体とを含む治療用組成物。
【請求項11】
請求項1から7のいずれか一項に記載の材料で部分的または完全に表面が被覆されている骨プロテーゼまたは骨マトリックス。
【請求項12】
請求項1から9のいずれか一項に記載の材料から、前記材料を水性媒体中に溶解させることにより得られる溶液。
【請求項13】
プロテーゼ、または、骨欠損部の充填を意図した医薬製品の製造のための、請求項1から9のいずれか一項に記載の材料の使用。
【請求項14】
プロテーゼ、または、骨成長の刺激を意図した医薬製品の製造のための、請求項1から9のいずれか一項に記載の材料の使用。
【請求項15】
プロテーゼ、または、軟骨の修復および/または再生を促進することを意図した医薬製品の製造のための、請求項1から9のいずれか一項に記載の材料の使用。
【請求項1】
ゾルゲル法により作製され、その組成が、記載の比率での以下の元素
SiO2:40から75%
CaO:15から30%
SrO:0.1から10%
P2O5:0から10%
Na2O:0から20%
MgO:0から10%
ZnO:0から10%
CaF2:0から5%
B2O3:0から10%
Ag2O:0から10%
Al2O3:0から3%
MnO:0から10%
その他:0から10%
(比率(%)は材料の総質量に対する質量比(%)である)
の存在を特徴とすることを特徴とする材料。
【請求項2】
前記構成要素SiO2、CaO、SrO、P2O5の質量の合計が、本発明の材料の組成物の総質量の98から100%を占めることを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
その組成が、前記組成物の総質量に対する質量比で、以下:
SiO2:45から75%
CaO:15から30%
SrO:2から8%
P2O5:0から10%
他の元素:0から1%
のとおりであることを特徴とする、請求項1または2に記載の材料。
【請求項4】
固まっていない粉末もしくは圧縮粉末の形態、繊維の形態、板状物の形態もしくはガラスフリットの形態をしていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の材料。
【請求項5】
基材上のコーティングの形態をしていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の材料。
【請求項6】
粉末の形態をしており、1nmから50μmの間のサイズの孔を有することを特徴とする、請求項4に記載の材料。
【請求項7】
融合法により作製され、その組成が、記載の比率での以下の元素:
SiO2:45から55%
Na2O:10から25%
CaO:10から25%
SrO:0.1から10%
P2O5:0から10%
MgO:0から10%
ZnO:0から10%
CaF2:0から5%
B2O3:0から10%
Ag2O:0から10%
Al2O3:0から3%
MnO:0から10%
その他:0から10%
(比率(%)は材料の総質量に対する質量比(%)である)
の存在を特徴とすることを特徴とする材料。
【請求項8】
前記構成要素SiO2、Na2O、CaO、SrO、P2O5の合計が、本発明の材料の総質量の98から100%を占めることを特徴とする、請求項7に記載の材料。
【請求項9】
板状物またはガラスフリットの形態をしていることを特徴とする、請求項8に記載の材料。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか一項に記載の少なくとも1つの材料と薬学的に許容される担体とを含む治療用組成物。
【請求項11】
請求項1から7のいずれか一項に記載の材料で部分的または完全に表面が被覆されている骨プロテーゼまたは骨マトリックス。
【請求項12】
請求項1から9のいずれか一項に記載の材料から、前記材料を水性媒体中に溶解させることにより得られる溶液。
【請求項13】
プロテーゼ、または、骨欠損部の充填を意図した医薬製品の製造のための、請求項1から9のいずれか一項に記載の材料の使用。
【請求項14】
プロテーゼ、または、骨成長の刺激を意図した医薬製品の製造のための、請求項1から9のいずれか一項に記載の材料の使用。
【請求項15】
プロテーゼ、または、軟骨の修復および/または再生を促進することを意図した医薬製品の製造のための、請求項1から9のいずれか一項に記載の材料の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公表番号】特表2010−533016(P2010−533016A)
【公表日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515549(P2010−515549)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【国際出願番号】PCT/FR2008/000985
【国際公開番号】WO2009/027594
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【出願人】(509201894)ユニヴェルシテ ブレズ パスカル−クレモン−フェラン ドゥジエム (4)
【出願人】(500283125)ユニヴェルシテ パリ デカルト (8)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS DESCARTES
【住所又は居所原語表記】12,rue de l’Ecole de Medecine,F−75006 Paris FRANCE
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【国際出願番号】PCT/FR2008/000985
【国際公開番号】WO2009/027594
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【出願人】(509201894)ユニヴェルシテ ブレズ パスカル−クレモン−フェラン ドゥジエム (4)
【出願人】(500283125)ユニヴェルシテ パリ デカルト (8)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS DESCARTES
【住所又は居所原語表記】12,rue de l’Ecole de Medecine,F−75006 Paris FRANCE
【Fターム(参考)】
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