説明

ストロー管の凍結方法とその凍結装置

【目的】
ストロー管の凍結にはアルコール溶液や液体窒素等の凍結媒体を用いて凍結装置によって行われていたが、運搬や保管等の利便性や取り扱い等の安全性に極めて劣るものであった。従って、利便性や安全性に優れ、且つバッテリー等からの電力供給で駆動可能なストロー管の凍結方法とその凍結装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
熱伝導性を有する素材から形成したホルダー部材にストロー管を接触状態で保持し、且つそのホルダー部材をペルチェ素子を用いた冷却手段で冷却することによってストロー管を凍結する。また、凍結装置1を、ストロー管7をセットするストロー管ホルダー2と、ストロー管ホルダー2を冷却するペルチェモジュール3から構成した冷却機構部と、ペルチェモジュール3から発生した熱を排除するファン6とから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜産業において主に用いられるストロー管を凍結するための凍結方法とその凍結装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、保存等のために樹脂製等のストロー管に入れられた希釈精液あるいは受精卵を凍結する際は、凍結用の媒体としてアルコール溶液や液体窒素を用いた凍結装置によって行われていた。
前者のアルコール溶液によるものは、アルコール溶液中にストロー管を入れ、アルコール溶液をコンプレッサー等の圧縮機で冷却処理し、その冷却されたアルコール溶液によってストロー管内の希釈精液あるいは受精卵を凍結させていた。
後者の液体窒素によるものは、液体窒素の冷気を直接ストロー管に吹き付けて凍結させていたり、また、液体窒素の収容器内に、周囲にヒーターを配設したストロー管を入れ、ヒーターで液体窒素の冷気温度をコントロールしながらストロー管内の希釈精液あるいは受精卵を凍結させていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、アルコール溶液を使用するものは、冷却装置の電力使用量が多く、また、使用済みアルコール溶液の処理にコストが発生し、さらに、アルコールが可燃物であるため火災等の二次的災害が発生する危険もあった。そして、液体窒素を使用するものは、液体窒素そのものが気化してしまうためコスト高となっていた。何れの方法においても、運搬や保管等の利便性や取り扱い等の安全性に問題があった。さらには、冷却装置を装備した専用車輌もあるが、その専用車輌においても、外部から商用電力の供給を受けられない場所ではその冷却装置を使用できなかった。
従って、本発明は上述した問題点に鑑みてなされたもので、利便性や安全性に優れ、且つバッテリー等からの電力供給で駆動可能なストロー管の凍結方法とその凍結装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の要旨とするところは、熱伝導性を有する素材から形成したホルダー部材にストロー管を接触状態で保持し、且つそのホルダー部材をペルチェ素子を用いた冷却手段で冷却することによってストロー管を凍結することを特徴とするストロー管の凍結方法である。
また、ストロー管をセットするホルダー部と、ホルダー部を冷却するペルチェ素子を用いてなる冷却機構部と、ペルチェ素子から発生した熱を排除する排熱手段とからなることを特徴とするストロー管の凍結装置である。
【0005】
本発明のストロー管の凍結方法とその凍結装置をさらに詳しく説明すると、熱伝導性を有する素材とは、具体的には金属素材であり、鉄、アルミニウム、銅、そして熱伝導性に優れた合金から形成すればよい。勿論、金属以外の素材を用いてもよい。
その熱伝導性を有する素材から形成したホルダー部材でストロー管を保持するが、その保持とは、ホルダー部材の任意の部位によってストロー管の任意の部位を支え持つような形態であっても、また、ホルダー部材の内部にストロー管の全体を収容する形態としてもよい。
【0006】
また、ホルダー部材は、ストロー管への熱伝導すなわち冷却するのに有利な形態に形成すればよい。具体的には、ホルダー部材とストロー管とを接触させるのがよい。そして、ホルダー部材と接触させるストロー管の部位は、ストロー管内の披凍結物が凍結可能であれば特に限定するものではないが、望ましくはストロー管の周囲の部位がよい。そして、その周囲は、ストロー管の全長に渡る全部であっても、また、一部であってもよく、さらには、周囲の全周に渡る全部であっても、また、一部であってもよく、冷却機構部の冷却性能や冷却効率また冷却効果等を考慮して決定すればよい。
ホルダー部材とストロー管の接触は、直にホルダー部材とストロー管を接触させてもよいが、熱伝導性を有する素材を介在させて間接的に接触させてもよく、前述のホルダー部材とストロー管の接触とは、直接接触または間接接触のいずれも含むものである。
【0007】
ペルチェ素子とは、直流電流が流されることによって素子の一方の表面温度が低下(冷却)し、また、他方の表面温度が上昇(加熱)する冷却可能な半導体素子を指すものである。その半導体素子は、P型半導体/N型半導体であり、それらの接合対が熱電冷却素子と呼ばれ、それらの素子が電気的に直列接続されたものがペルチェモジュールと呼ばれているものである。また、電流の流す方向を逆にすると、今まで表面温度が低下(冷却)する面が逆に表面温度が上昇(加熱)する面となり、表面温度が上昇(加熱)する面が逆に表面温度が低下(冷却)する面に変えることができる。
冷却機構部は、このペルチェ素子(ペルチェモジュール)が冷却手段として1個または複数個用いられており、また、凍結装置にはペルチェ素子を駆動するための電源、例えば、電圧や電流を可変できる安定化電源や安定化電源への電力供給用のバッテリー等の駆動手段が設けられる。さらには、自動温度調節や自動運転等を行わせる任意の自動制御手段を設けてもよい。その駆動手段また自動制御手段は、凍結装置内に設置あるいは別体として設ければよい。
【0008】
また、ペルチェ素子よるホルダー部材の冷却においては、所望の冷却効率を発揮することができればその冷却形態を特に限定するものではない。具体的には、ペルチェ素子(ペルチェモジュール)の冷却面とホルダー部材の所望の面を接触させてもよい。このペルチェ素子とホルダー部材との接触においても、直にペルチェ素子とホルダー部材を接触させてもよいが、熱伝導性を有する素材を介在させて間接的に接触させてもよい。この素材も、固体(板部材)やクリーム(非流動体)等の好適なものを用いればよい。勿論、ペルチェ素子は一段であってもよいが、複数段(2段)設けてもよい。その場合、作用面を対向させて、その対向する作用面の間に銅板等の熱伝導性を有する素材を介在して構成するのがよい。
そして、ペルチェ素子を駆動するための電圧/電流設定や設置形態等は公知の技術を参考に構成すればよい。
【0009】
冷却装置には、ペルチェ素子から発生した熱を排除する排熱手段を設けるのが望ましく、具体的には、ファン等によって装置の外部に排出すればよい。また、ファン設置形態も特に限定するものではなく、熱を効率よく装置外部に排出することができる部位に適数配置すればよく、そのファンも所望のものを選定して用いればよい。
装置の形態も特に限定するものではなく、装置内の空気の流れを考慮して所望の形状とすればよい。また、冷却機構部すなわちペルチェ素子とファンの配置においては、ペルチェ素子に近接してファンを設置してもよいが、ペルチェ素子とファンの間に適当な間隙を設けて設置してもよい。
【0010】
さらに、装置の全体または一部が天地を逆にしても設置できるようにしてもよい。すなわち、ストロー管をセットするホルダー部、ペルチェ素子を用いてなる冷却機構部、ペルチェ素子から発生した熱を排除する排熱手段等が配置された筐体を垂直方向に回転できるように構成してもよい。従って、ストロー管をセットする際はホルダー部を装置上方に位置させ、ストロー管を冷却する際は筐体を180度回転させてファンを装置の上方に位置させ、ペルチェ素子から発生した熱を装置の上方に排出させるようにしてもよい。
【0011】
従って、ペルチェ素子に直流電流が流れるとペルチェ素子(ペルチェモジュール)の一方の面の表面温度が低下し、その面に接するホルダー部材もペルチェ素子の表面温度の低下に伴いその温度も低下し、更にホルダー部材に保持されているストロー管もそのホルダー部材の温度の低下に伴いその温度も低下し、そしてストロー管内部の披凍結物が冷却され凍結する。
また、冷却がペルチェ素子に流す電流等によって調節できるので、冷却操作が電気的また電子的に制御可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のストロー管の冷却方法とその冷却装置は以上のように構成されているので、従来のようにアルコールあるいは液体窒素等の冷却用媒体を使用することがなくストロー管を凍結することができる。従って、利便性や安全性を向上させることができる。また、冷却が半導体によって行われるので、冷却温度等の制御も容易に且つ極めて正確に行うことができる。さらに、市販のバッテリーによる電力供給でも十分に駆動できるので、従来のように外部から商用電力の供給が受けられない場所、また、屋内外や移動中の車輌内等、所望の場所で使用することができる。そして、装置もコンパクトに構成することができるので、持ち運びを容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のストロー管の凍結方法とその凍結装置を以下図面に従って説明すると、図1は、本発明に係わる凍結装置の筐体内部を透視した図であり、1は凍結装置で、11は凍結装置1の筐体である。
筐体1は、軸14によって支柱12に回転自在に支持されており、その筐体1内にストロー管7をセットするストロー管ホルダー2と、ストロー管ホルダー2を冷却するペルチェモジュール3と、ペルチェモジュール3から発生した熱を排出するファン6が設けられている。9は制御装置8と接続するケーブルである。
本図で示す筐体1の位置は、ストロー管ホルダー2にストロー管7をセットする際の位置であり、装置運転時すなわちストロー管7を凍結する際は筐体1は天地が逆となる。(図5参照)
【0014】
図2は、冷却機構部の拡大側面図であり、本図では、ペルチェモジュール3を2段に設けた冷却機構部を示しており、それぞれのペルチェモジュール3の間に熱伝導部材5を介在させ、また、下側のペルチェモジュール3には放熱部材4を設けている。
【0015】
図3は、ストロー管ホルダーを示す斜視図であり、21はストロー管ホルダー2の上ケース、22はストロー管ホルダー2の下ケース、23はストロー管7の保持部で、その保持部23はストロー管7の外周とほぼ接するように形成されている。
【0016】
図4は、ストロー管のセット状態を示す斜視図である。(a)図は、ストロー管ホルダー2の下ケース22の保持部23にストロー管7が配置されたところを示す。(b)図は、下ケース22に上ケース21が被せられてストロー管7がストロー管ホルダー2にセットされたところを示す。この(b)図の状態でストロー管7が凍結処理される。
【0017】
図5は、凍結装置運転時の状態を示す図であり、筐体1はストロー管7がセットされる位置から180度回転した位置で固定される。この状態で凍結装置を運転することにより、ペルチェモジュール3から発生した熱をファン6によって効率よく排出することができる。
【0018】
図6は、凍結装置の構成例を示す図であり、凍結装置1は制御装置8と接続され制御装置8の所定の制御によって運転される。
また、図では示していないが、制御装置8はパソコン/記録装置/表示装置等の装置に接続してもよい。さらには、凍結装置1を直接または間接的にパソコン等に接続してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係わる凍結装置の筐体内部を透視した図
【図2】冷却機構部の拡大側面図
【図3】ストロー管ホルダーを示す斜視図
【図4】ストロー管のセット状態を示す斜視図
【図5】凍結装置運転時の状態を示す図
【図6】凍結装置の構成例を示す図
【符号の説明】
【0020】
1−凍結装置,11−筐体,12−支柱,13−台座,14−軸,15−固定具,16−ハンドル,2−ストロー管ホルダー,21−上ケース,22−下ケース,23−保持部,3−ペルチェモジュール,4−放熱部材,5−熱伝導部材,6−ファン,7−ストロー管,8−制御装置,9−ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性を有する素材から形成したホルダー部材にストロー管を接触状態で保持し、且つそのホルダー部材をペルチェ素子を用いた冷却手段で冷却することによってストロー管を凍結させることを特徴とするストロー管の凍結方法
【請求項2】
ストロー管をセットするホルダー部と、ホルダー部を冷却するペルチェ素子を用いてなる冷却機構部と、ペルチェ素子から発生した熱を排除する排熱手段とからなることを特徴とするストロー管の凍結装置
【請求項3】
前記ホルダー部がストロー管の周面と接触するようになっていることを特徴とする請求項2のストロー管の凍結装置
【請求項4】
前記ペルチェ素子が複数設けられており、それらは作用面を対向させ、且つその対向する作用面の間に熱伝導性を有する素材を介在して複数段に構成されていることを特徴とする請求項2のストロー管の凍結装置
【請求項5】
前記筐体が天地を逆にして配置できるようになっていることを特徴とする請求項2のストロー管の凍結装置

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−97872(P2007−97872A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292377(P2005−292377)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000237824)富士平工業株式会社 (14)
【出願人】(593028562)社団法人 家畜改良事業団 (7)
【Fターム(参考)】