説明

スパイラル型分離膜エレメントならびに分離膜モジュールの製造方法および管理方法

【課題】
スパイラル型分離膜エレメント情報を効率良く収集し、トラブル対応時等に適切に保守管理を行うことができるスパイラル型分離膜エレメント、ならびにそれを用いた分離膜モジュールの製造方法および管理方法を提供する。
【解決手段】
側面に複数の孔を有する中心管の周囲に分離膜を巻回したスパイラル型分離膜エレメントであって、前記記録媒体を中心管の内側に記録媒体を有するスパイラル型分離膜エレメントとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体中に存在している成分を分離するスパイラル型分離膜エレメントおよびそれを用いた分離膜モジュールに関する。詳しくは、分離膜モジュールを構成する分離膜エレメントの情報を効率的に収集、管理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、逆浸透膜等の分離膜を用いた流体の分離は、省エネルギープロセスとして注目され、利用が進んでいる。たとえば、逆浸透膜を用いた逆浸透分離法では、塩分等の溶質を含んだ溶液を該溶液の浸透圧以上の圧力で逆浸透膜を透過させることで、塩分等の溶質の濃度が低減された液体を得ることが可能であり、例えば海水の淡水化、かん水の脱塩、超純水の製造や排水処理に用いられている。
【0003】
これらの分離膜は、平膜の場合、たとえばスパイラル型エレメントという形態で用いられることが多く、従来のスパイラル型分離膜エレメントの構造としては、たとえば図1に示すように、分離膜1、供給側流路材3及び透過側流路材2の積層体の単数または複数が、有孔の中心管4の周りに巻きつけられたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この分離膜エレメントは、被処理流体5が一端面より供給され、供給側流路材3に沿って流動しながら分離膜1を透過することで溶質が分離される。その後、分離膜を透過した処理流体は、透過側流路材2に沿って流動して、中心管4へ側面の孔から流入し、該中心管内を流動し、他端面より透過流体6として取り出される。一方、分離された溶質を含有する処理流体は、他端面より濃縮流体7として取り出される。
【0005】
上記分離膜エレメントは、通常、複数本が、圧力容器であるベッセル内に装填して使用されるが、トラブル発生時の対応のために、そのベッセルへの装填に際し、分離膜エレメントの管理番号を記録用紙に記載し、その後で情報端末機器に該管理番号を入力して管理している。そのため、分離膜エレメントの本数が数100本となる場合などは、非常に時間を要する作業となり非効率である。
【0006】
他の管理方法として、分離膜エレメントの管理番号をバーコード化し、分離膜エレメントの外周面にバーコードを取り付け、該バーコードからエレメント情報を読み取り、情報端末機器に入力して管理する方法も提案されている。この方法によれば、管理番号を読み取る際の時間は大幅に短縮できる。しかしながら、エレメントは表面が平滑ではないため、エレメント外周面に貼り付けたバーコードラベルがはがれ易く、ベッセル容器に引っ掛かって脱落したりする恐れがある。
【0007】
また、かかる管理番号は、被処理流体の分離工程においてトラブルが生じた際に必要なものであるので、そもそもエレメントをベッセルに装填する際に読み取ることが必須ではなく、たとえば、トラブル発生時に初めて番号を読み取って必要な処置を講ずればよい。
【0008】
しかしながら、たとえば上記バーコードによる方法によれば、一度分離膜エレメントをベッセルに装填してしまうと、ベッセルに付着した汚れなどのためバーコードの読み取りが難しくなり、問題が生じてからバーコードを読み取り、読み取った情報に基づいて必要な保守を行うということは難しい。
【特許文献1】特開平10−137558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記した従来の問題点を解決し、分離膜エレメント情報を効率良く収集し、トラブル対応時等に適切に保守管理を行うことができるスパイラル型分離膜エレメント、ならびにそれを用いた分離膜モジュールの製造方法および管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、次のいずれかの構成を特徴とするものである。
(1)側面に複数の孔を有する中心管の周囲に分離膜を巻回したスパイラル型分離膜エレメントであって、中心管の内側に記録媒体を有することを特徴とするスパイラル型分離膜エレメント。
(2)前記記録媒体が、エレメント固有の情報を有することを特徴とする、前記(1)に記載のスパイラル型分離膜エレメント。
(3)前記記録媒体が、前記情報を電子情報あるいは磁気情報として記録していることを特徴とする、前記(2)に記載のスパイラル型分離膜エレメント。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のスパイラル型分離膜エレメントを圧力容器内に装填して分離膜モジュールを製造する際に、記録情報読取装置で前記記録媒体に記録されている情報を読みとることを特徴とする分離膜モジュールの製造方法。
(5)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のスパイラル型分離膜エレメントを圧力容器内に装填した分離膜モジュールの管理方法であって、前記記録媒体に記録されている情報を記録情報読取装置で読みとり、読みとった情報に基づいて前記分離膜モジュールを管理することを特徴とする分離膜モジュールの管理方法。
(6)前記中心管の中に記録情報読取装置を取り付けたチューブを通し、該チューブで中心管中の透過物を採取するとともに、前記記録情報読取装置と前記記録媒体との送受信により前記透過物を採取した箇所を識別して分離膜モジュールの保守を行うことを特徴とする、前記(5)に記載の分離膜モジュールの管理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のスパイラル型分離膜エレメントによると、分離膜エレメントの情報を効率良く収集することができる。すなわち、圧力容器内に装填して分離膜モジュールを構成する際にも、また、分離膜モジュールの運転時にも、分離膜エレメントの情報を迅速に収集することができ、効率良く保守管理を行うことができる。
【0012】
また、かかるスパイラル型分離膜エレメントを用いれば、中心管の中に記録情報読取装置を取り付けたチューブを通し、該チューブで中心管中の透過物を採取するとともに、記録情報読取装置と記録媒体との送受信で前記透過物を採取した箇所をより正確に検知できるので、分離膜モジュールの保守を適切に行うことができる。したがって、たとえば分離膜エレメントの漏れ検査時に、漏れ位置をより正確に把握することができ、最低限必要な分離膜エレメントだけを交換することで漏れを改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、スパイラル型分離膜エレメントの一例を示す部分破断した斜視図である。
【0014】
本発明のスパイラル型分離膜エレメントは、図1に示すように、分離膜1、供給側流路材3、および透過側流路材2が積層状態で、有孔の中心管4の周囲にスパイラル状に巻回されている。分離膜1は端部が封止されて、供給流体と透過流体の混合を防止している。
【0015】
分離膜1には、逆浸透膜、限外ろ過膜、精密ろ過膜、ガス分離膜、脱ガス膜などが使用できる。供給側流路材2には、ネット状材料、メッシュ状材料、溝付シート、波形シート等が使用できる。透過側流路材3には、ネット状材料、メッシュ状材料、溝付シート、波形シート等が使用できる。
【0016】
分離膜1の端部を封止するための手段として、接着法が好適に用いられる。接着剤としては、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、ホットメルト接着剤等、従来公知の何れの接着剤も使用することができる。
【0017】
また、本発明のスパイラル型分離膜エレメントは、外装材により拘束されて拡径しない構造になっていることも好ましい。外装材は、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニルなどからなるシートや、硬化性樹脂を塗ったガラス繊維などからなるもので、円筒状に巻回された分離膜1の表面にかかるシートや繊維を巻回してエレメントが拡径しないように拘束する。
【0018】
さらに、本発明のスパイラル型分離膜エレメントの軸方向端部には、巻回している分離膜等が筒状に変形すること(テレスコープ等)を防止するための有孔の端部材や、シール材、補強材などを必要に応じて設けることもできる。
【0019】
本発明は、上記のようなスパイラル型分離膜エレメントにおいて、中心管4の内側に、小型の記録媒体を有することを特徴とする。中心管4は、管の側面に複数の孔を有するものであり、中心管4の材質は、樹脂、金属など何れでもよいが、ノリル樹脂、ABS樹脂等のプラスチックが通常使用される。
【0020】
記録媒体には、エレメント固有の情報としてエレメント管理番号を記録していることが好ましい。さらには、製造場所、製造時期や出荷時期などの情報を記録していることが好ましい。
【0021】
また、記録媒体は、エレメント情報を電子情報あるいは磁気情報として記録できるものが好ましく、記録媒体の大きさを小さくできること、保存できる情報量が多いことから、集積回路(Integrated Circuit、以下、ICと省略する。)が特に好ましい。さらに、IC内の記録データを読み込む方式として、接触型と非接触型があり、特に限定されるものでは無いが、非接触型が好適に用いられる。
【0022】
記録媒体が設置される場所は、中心管4の内側で、複数の分離膜エレメントを連結するための連結アダプターが挿入される場所以外であれば、特に限定されることは無い。中心管4の内側は、透過水側であり高圧下に曝されることがないので、記録媒体の設置場所として最適である。
【0023】
記録媒体の設置方法についても、特に限定されることは無く、防水処置を施した記録媒体を中心管4の内側に貼り付ける方法でも良いし、中心管4の内側に記録媒体が収まる窪みをもうけ、その窪みの中に設置する方法でも良い。記録媒体を中心管4の内側に設置し、固定する方法としては、特に限定されるものではないが接着剤での固定や、保護テープでの固定が好適に用いられ、それら複数の方法で固定しても良い。また、記録媒体の設置数も1箇所でも良いし、複数箇所であっても良い。
【0024】
上記のような記録媒体が設置された分離膜エレメントは、たとえば圧力容器に装填して分離膜モジュールを製造する際に、記録情報読取装置で記録媒体に記録されている情報を非接触方式で読み取れば、該情報を容易に情報端末機器で管理することができ、エレメントの装填位置の管理等を簡便に実施することができる。
【0025】
また、スパイラル型分離膜エレメントを圧力容器に装填する際ではなく、スパイラル型分離膜エレメントが圧力容器内に収まっている状態で、記録媒体に記録されている情報を記録情報読取装置で読みとり、読みとった情報に基づいて分離膜モジュールを管理することも可能である。このような方法によれば、トラブル発生時など必要な時に初めて記録媒体に保存されている情報を読み取るだけで十分な対応をとることができ、また、装填時の作業を迅速に行うことができる。さらに、ベッセルに汚れなどが付着していても読み取り不良を起こしにくい。
【0026】
さらに、本発明のスパイラル型分離膜エレメントは次のように利用することも可能である。すなわち、従来、たとえば直列に接続配列されたスパイラル型分離膜エレメントから得られる透過水の水質を検査するにあたっては、ベッセル容器内に装填されている各エレメントの中心管に細いパイプを挿入して中心管内を流れる透過水を採取し、それらの導電率を測定することで、各エレメント性能を把握していたが、サンプリング位置は、その中心管に挿入しているパイプ長から把握していただけだった。そのため、エレメントをたとえば8本も直列に連結している時などは、該パイプの全長が長くなり、該パイプが途中で曲がったりして、漏れの位置を正確に特定することが困難となっていた。しかしながら、本発明のスパイラル型分離膜エレメントによれば、中心管4の中に記録情報読取装置を取り付けたチューブを通し、該チューブで中心管中の透過物を採取するとともに、前記記録情報読取装置で中心管4の内側に設けた記録媒体と送受信を行い、透過物を採取している箇所を特定、識別できる。その結果、分離膜モジュールの保守を適切に行うことができる。
【実施例】
【0027】
以下に具体例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0028】
<実施例1>
エレメントの両端から12cmの中心管の内側にICチップが取り付けられた全長102cm、直径20cmのスパイラル型逆浸透膜エレメント1,600本を、エレメントが8本収まる圧力容器に装填する際に、小型の情報読取装置を用いてICチップからエレメント情報を収集し、情報を収集したエレメントから順次圧力容器に装填した。全エレメントを装填後、読取装置から情報端末機器にエレメントデータを移して、1600本のエレメントの配置位置を管理した。
【0029】
次に、エレメントを装填した圧力容器に、砂ろ過処理を施した海水(塩分濃度3.5重量%)を供給して造水を行った。なお、供給水はpH6.5に調整してからエレメントに供給した。また、運転圧力は5.5MPa、水温25℃、回収率50%で運転を行った。
【0030】
24時間運転を継続した後、各圧力容器から得られる透過水の蒸発残留物濃度を該透過水の電気伝導度からもとめたところ、1個の圧力容器で平均の蒸発残留物濃度の値の2倍程度の値を示した。その2倍の値を示した圧力容器について、中心管の出口の配管を外し、造水を行いながら、先端に小型の記録読取装置を取り付けたチューブを中心管に徐々に通して、透過水の採取を行った。このとき同時に、チューブの先端に取り付けた小型の記録読取装置とICチップスとの送受信により、透過水の採取位置を識別した。
【0031】
この結果、チューブを中心管に徐々に通して行くにつれて、伝導度が極端に大きく変化する場所があった。変化した位置は、圧力容器の供給水側から4本目のエレメントの供給水側端部と識別できたので、それに従い4本目のエレメント1本を交換したところ、エレメントを交換した圧力容器からの透過水の蒸発残留物濃度が平均性能とほぼ同等の値を示した。本発明により、漏れ位置を正確に特定することができたといえる。
【0032】
<比較例1>
外表面に管理番号が記載された逆浸透膜からなるスパイラル型分離膜エレメント1,600本を、エレメントが8本収まる圧力容器に装填する際に、その管理番号を記録用紙に書き写し、管理番号を書き写したエレメントから順次圧力容器に装填した。全エレメントを装填後、記録用紙に記載した1600本分のエレメント管理番号を情報端末に入力した。その結果、配置位置を整理管理するのに、4時間を要し、非常に効率が悪かった。また、記録用紙に番号を記載する際に、記載間違いが11件発生した。
【0033】
<比較例2>
エレメントの管理番号に相当するバーコードラベルが外表面に貼り付けられた逆浸透膜からなるスパイラル型分離膜エレメント1,600本を、エレメントが8本収まる圧力容器に装填する際に、そのバーコードラベルをバーコードリーダーで読み込みエレメント情報を収集し、情報を収集したエレメントから順次圧力容器に装填した。全エレメントを装填後、バーコードリーダーから情報端末機器にエレメントデータを移して、1600本のエレメントの配置位置を管理した。
【0034】
次に、実施例と同様の条件で造水を行った。
【0035】
24時間運転を継続した後、各圧力容器から得られる透過水の蒸発残留物濃度を該透過水の電気伝導度からもとめたところ、2個の圧力容器で平均の蒸発残留物濃度の値の2倍程度の値を示した。その2倍程度の値を示した圧力容器の1個について、中心管の出口の配管を外し、造水を行いながら、チューブを中心管に徐々に通して、透過水の採取を行った。この時同時にチューブの長さから、透過水の採取位置を見積もった。
【0036】
この結果、チューブを中心管に徐々に通して行くにつれて、伝導度が極端に大きく変化する場所があった。変化した位置は、チューブの長さから、圧力容器の供給水側から6本目のエレメント端部近傍と見積もれたので、それに従い6本目のエレメントを交換した。しかしながら、圧力容器の蒸発残留物濃度は改善されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】スパイラル型分離膜エレメントの一例を示す部分破断した斜視図である。
【符号の説明】
【0038】
1:分離膜
2:透過側流路材
3:供給側流路材
4:中心管
5:被処理流体
6:透過流体
7:濃縮流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面に複数の孔を有する中心管の周囲に分離膜を巻回したスパイラル型分離膜エレメントであって、中心管の内側に記録媒体を有することを特徴とするスパイラル型分離膜エレメント。
【請求項2】
前記記録媒体が、エレメント固有の情報を有することを特徴とする請求項1に記載のスパイラル型分離膜エレメント。
【請求項3】
前記記録媒体が、前記情報を電子情報あるいは磁気情報として記録していることを特徴とする請求項2に記載のスパイラル型分離膜エレメント。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のスパイラル型分離膜エレメントを圧力容器内に装填して分離膜モジュールを製造する際に、記録情報読取装置で前記記録媒体に記録されている情報を読みとることを特徴とする分離膜モジュールの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のスパイラル型分離膜エレメントを圧力容器内に装填した分離膜モジュールの管理方法であって、前記記録媒体に記録されている情報を記録情報読取装置で読みとり、読みとった情報に基づいて前記分離膜モジュールを管理することを特徴とする分離膜モジュールの管理方法。
【請求項6】
前記中心管の中に記録情報読取装置を取り付けたチューブを通し、該チューブで中心管中の透過物を採取するとともに、前記記録情報読取装置と前記記録媒体との送受信により前記透過物を採取した箇所を識別して分離膜モジュールの保守を行うことを特徴とする請求項5に記載の分離膜モジュールの管理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−119333(P2009−119333A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293991(P2007−293991)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】