説明

スパッタリングターゲット、ターゲット材およびバッキングプレート

【課題】 ターゲット材の長寿命化を図ることができるとともに、スパッタリング中に消耗するターゲット材の外力による変形を抑制することができるスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】 本発明のスパッタリングターゲット100では、ターゲット材が、バッキングプレートに接する板状の基部と、前記基部のバッキングプレートと接する面とは反対側の面の中央部に前記基部と同軸かつ一体的に形成された凸部とを有する。また、本発明のスパッタリングターゲット200では、ターゲット材が、バッキングプレートに接する板状の基部と、前記基部のバッキングプレートと接する面の中央部に前記基部と同軸かつ一体的に形成された凸部とを有し、バッキングプレートが、ターゲット材と接する面の中央部にターゲット材の前記凸部と嵌合する凹部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング法によって基板上に薄膜を形成するときに用いるスパッタリングターゲット、ターゲット材およびバッキングプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板上に薄膜デバイスを作製する液晶ディスプレイあるいはプラズマディスプレイ、薄膜センサー等に用いる電気配線膜、電極等には従来から主に高融点金属である純Cr膜、純Ta膜、純Ti膜等の純金属膜またはそれらの合金膜が用いられていた。
【0003】
そして、近年、ディスプレイの大型化、高精細化に伴い、配線膜、電極膜には信号の遅延を防止するために低抵抗化、低応力化とそれらの特性の安定化が要求されている。そのため、上述の金属膜より、さらに低抵抗な高純度アルミニウム膜を用いるようになってきている。
【0004】
上記基板に形成される金属の薄膜は、基板と、薄膜を形成する際の原料となる材料であるターゲット材との間でプラズマ放電を形成し、イオン化したアルゴンがターゲット材に衝突するエネルギーでターゲット材を構成している原子をたたき出し、その原子を基板に堆積させて薄膜を形成する手法、いわゆるスパッタリング法により形成される。
【0005】
スパッタリング法を実現するためのスパッタリング装置においては、プラズマ放電空間を形成するチャンバ内の所定位置に、ターゲット材を有するスパッタリングターゲットが配置され得る。
【0006】
スパッタリングターゲットは、一般に、ターゲット材がバッキングプレートと呼ばれる支持部材に載置されてなる。スパッタリング中においてバッキングプレートは、冷却水などの冷媒体によって冷却され得る。スパッタリング中には、イオン化したアルゴンが衝突するエネルギーによって、ターゲット材の温度は上昇するが、バッキングプレートが冷却されることによって、ターゲット材の温度が過度に上昇するのを防止することができる。
【0007】
一般に、このような従来のスパッタリングターゲットにおいて、スパッタリングによってターゲット材が消耗する部分は、ターゲット材に対して均一ではなく、特にスパッタリング効率を増大させたマグネトロンスパッタリングを使用する場合においては、ターゲット材に印加される表面磁場によって電子が特定の軌道に集中するために、ターゲット材の表面が局部的に消耗する傾向が強い。特に、従来のスパッタリングターゲットのターゲット材では、マグネトロンでスパッタリングを行うと、ターゲット材の中心部から円環状に消耗する傾向がある。
【0008】
スパッタリングターゲットのターゲット材が局部的に激しく消耗すると、そのターゲット材を交換せざるを得ないので、ターゲット材の長寿命化の技術についての検討が行われている。
【0009】
たとえば、特許文献1には、周縁端部の近傍に円環状に凹部を有するバッキングプレートと、前記凹部内に嵌合する凸部を周縁端部の近傍に円環状に有するターゲット材とを含むスパッタリングターゲットが開示されている。すなわち、特許文献1に開示されるスパッタリングターゲットは、周縁端部の近傍における厚みが円環状に厚くされたターゲット材を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−144186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、スパッタリング中においてスパッタリングターゲットのターゲット材は、スパッタリング面が、イオン化したアルゴンの衝突エネルギーによって加熱され得るが、バッキングプレートと接する面は冷却され得る。このように、スパッタリングターゲットのターゲット材は、スパッタリング中にスパッタリング面が加熱され得るが、バッキングプレートと接する面は冷却され得るので、スパッタリング面の温度と、バッキングプレートと接する面の温度とに差が生じ、スパッタリング中にターゲット材に熱応力が印加され得る。
【0012】
また、スパッタリングターゲットがスパッタリング装置のチャンバ内に配置された状態で、ターゲット材には様々な外力が印加され得る。例えば、ターゲット材には、チャンバ内が真空状態にされることによる負圧が印加され、ターゲット材のバッキングプレートと接する面には、バッキングプレートに対する冷媒体の供給による冷却媒体供給圧力(押圧力)が印加され得る。
【0013】
このように、スパッタリング中において、スパッタリングターゲットのターゲット材には、熱応力、負圧、押圧力などの外力が印加され得るので、スパッタリング中にターゲット材が変形するおそれがある。
【0014】
特に、マグネトロンでターゲット材をスパッタリングすると、ターゲット材のスパッタリング面は円環状に局部的に消耗(エロージョン)し、スパッタリング中に印加され得る上記の外力によって、ターゲット材が著しく変形することが問題であった。
【0015】
なお、特許文献1に開示されるスパッタリングターゲットでは、スパッタリング中におけるターゲット材での変形は全く考慮されていない。
【0016】
このように、スパッタリング中にターゲット材が局所的に著しく消耗して変形すると、ターゲット材の組織中に割れなどの内部欠陥が生じるおそれがある。また、このように、ターゲット材に内部欠陥が生じた場合には、スパッタリング中に、その内部欠陥に電荷が集中しやすくなり、異常放電が発生しやすくなり、スパッタリングによる薄膜の形成に異常や欠陥が発生しやすくなる。
【0017】
したがって、本発明の目的は、ターゲット材の長寿命化を図ることができるとともに、スパッタリング中に局所的に消耗するターゲット材の外力による変形を抑制することができるスパッタリングターゲット、ターゲット材およびバッキングプレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下の構成を包含する解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
[1]
板状のバッキングプレートと、
前記バッキングプレートに載置するターゲット材と
を含むスパッタリングターゲットであって、
前記ターゲット材が、
前記バッキングプレートに接する板状の基部と、
前記基部の前記バッキングプレートと接する面とは反対側の面の中央部に前記基部と同軸かつ一体的に形成された凸部と、
を有することを特徴とする、スパッタリングターゲット。
【0020】
[2]
前記凸部が円錐台形状である上記[1]に記載のスパッタリングターゲット。
【0021】
[3]
板状のバッキングプレートと、
前記バッキングプレートに載置するターゲット材と、
を含むスパッタリングターゲットであって、
前記ターゲット材が、
前記バッキングプレートに接する板状の基部と、
前記基部の前記バッキングプレートと接する面の中央部に前記基部と同軸かつ一体的に形成された凸部と、
を有し、
前記バッキングプレートは、前記ターゲット材と接する面の中央部に前記ターゲット材の前記凸部と嵌合する凹部を有することを特徴とする、スパッタリングターゲット。
【0022】
[4]
前記凸部が円柱形である上記[3]に記載のスパッタリングターゲット。
【0023】
[5]
スパッタリングターゲットにおいてバッキングプレートに載置して用いられるターゲット材であって、
前記バッキングプレートに接する板状の基部と、
前記基部の前記バッキングプレートと接する面とは反対側の面の中央部に前記基部と同軸かつ一体的に形成された凸部と、
を有することを特徴とする、ターゲット材。
【0024】
[6]
前記凸部が円錐台形状である上記[5]に記載のターゲット材。
【0025】
[7]
スパッタリングターゲットにおいてバッキングプレートに載置して用いられるターゲット材であって、
前記バッキングプレートに接する板状の基部と、
前記基部の前記バッキングプレートと接する面の中央部に前記基部と同軸かつ一体的に形成された凸部と、
を有することを特徴とする、ターゲット材。
【0026】
[8]
前記凸部が円柱形である上記[7]に記載のターゲット材。
【0027】
[9]
前記凸部が、前記バッキングプレートの前記ターゲット材と接する面の中央部に形成された凹部と嵌合する、上記[7]または[8]に記載のターゲット材。
【0028】
[10]
スパッタリングターゲットにおいてターゲット材を支持するために用いられるバッキングプレートであって、前記ターゲット材と接する面の中央部に凹部を有するバッキングプレート。
【0029】
[11]
前記凹部が円柱形である上記[10]に記載のバッキングプレート。
【0030】
[12]
前記凹部が、前記ターゲット材の前記バッキングプレートと接する面の中央部に形成された凸部と嵌合する上記[10]または[11]に記載のバッキングプレート。
【発明の効果】
【0031】
本発明のスパッタリングターゲットは、スパッタリング時に激しく消耗する中央部の厚みが厚くされたターゲット材を有するので、長寿命化を図ることができる。従って、本発明のスパッタリングターゲットは、より長期間にわたって、スパッタリングに供することができる。
【0032】
また、本発明のスパッタリングターゲットでは、ターゲット材の凸部の高さの分だけ中央部の厚みが厚くされているので、スパッタリング中にターゲット材が消耗(エロージョン)し、なおかつ、消耗した(エロージョン形状を有する)ターゲット材に熱応力、負圧および冷却媒体供給圧力(押圧力)などの外力が印加された場合であっても、ターゲット材の変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態に係るスパッタリングターゲット100の構成を示す図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るスパッタリングターゲット200の構成を示す図である。
【図3】従来の通常のスパッタリングターゲットの使用後のターゲット材の変形量を実測した結果を示すグラフである。
【図4】従来の通常のスパッタリングターゲットの使用後のターゲット材のエロージョン形状を表す残厚プロファイルを実測した結果を示すグラフである。
【図5】従来の通常のスパッタリングターゲットの有限要素モデルを示す図である。
【図6】従来の通常のスパッタリングターゲットのスパッタリング中に種々の温度および圧力を付与したときのターゲット材の変形量を表す変形解析結果を示すグラフである。
【図7】従来の通常のスパッタリングターゲットのターゲット材の図6の変形解析結果に基づいた圧力と最大変形量との関係を示すグラフである。
【図8】従来の通常のスパッタリングターゲットのターゲット材の実測変形値(曲線A)に対する変形解析結果(曲線G)の一致性を示すグラフである。
【図9】エロージョン形状を有しない本発明のスパッタリングターゲットのターゲット材に対して、スパッタリング時に推定外力を印加したときのターゲット材の変形量を表す変形解析結果を示すグラフである。
【図10】推定外力を印加したときの変形解析に用いる本発明の第1実施形態のスパッタリングターゲットのターゲット材のエロージョン形状を示す図である。
【図11】推定外力を印加したときの変形解析に用いる本発明の第2実施形態のスパッタリングターゲットのターゲット材のエロージョン形状を示す図である。
【図12】エロージョン形状を有する(エロージョンされた)本発明のスパッタリングターゲットのターゲット材に対して、スパッタリング時に推定外力を印加したときの変形量を表す変形解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(本発明の実施形態のスパッタリングターゲットの構成)
本発明の「スパッタリングターゲット」は、マグネトロンスパッタリング装置などのスパッタリング装置において、配線膜や電極膜などの金属膜を基板上に形成するときに用いることができるものであり、スパッタリングを受ける表面(スパッタリング面またはスパッタ面と呼ばれる表面)を有する「ターゲット材」と、スパッタリング中にターゲット材を裏側(スパッタリング面の反対側の面)から支持する「バッキングプレート」とを備える。
【0035】
図1は、本発明の第1実施形態に係るスパッタリングターゲット100の構成を示す。本発明の第1実施形態に係るスパッタリングターゲット100は、板状(好ましくは円形板状、すなわち円盤状)のバッキングプレート1と、バッキングプレート1に載置することのできるターゲット材2とを含む。ターゲット材2は、バッキングプレート1に接することのできる板状(好ましくは円形板状、すなわち円盤状)の基部21と、基部21がバッキングプレート1と接する面とは反対側の面の中央部に基部21と同軸かつ一体的に形成された凸部22とを有する。図1(a)は、本発明の第1実施形態に係るスパッタリングターゲット100の一部を切り欠いた斜視図を示し、図1(b)は、スパッタリングターゲット100の部分断面図を示す。
【0036】
バッキングプレート1は、スパッタリング中に、ターゲット材2を裏側(スパッタリング面とは反対側の面)から支持するものであり、バッキングプレート1のターゲット材2と接する面とは反対側の面が冷却水などの冷媒体によって冷却され得る。バッキングプレート1は、図1において、円形平板状(すなわち円盤状)で示されているが、本発明において、バッキングプレートの形状は、板状であればよく、円盤状に限定されるものではない。
【0037】
また、バッキングプレート1を構成する材料に特に限定はなく、例えば金属を含み、本実施形態では、例えば、アルミニウム合金(例えば、Al−2024など)などから構成することができる。
【0038】
バッキングプレート1が図1に示すように円盤状である場合、バッキングプレート1の直径d1は、たとえば300mm〜600mm、好ましくは400mm〜600mm、より好ましくは500mm〜600mmであり、本実施形態では524mmである。また、バッキングプレート1の厚みY1は、たとえば5mm〜20mm、好ましくは5mm〜15mm、より好ましくは5mm〜10mmであり、本実施形態では8.8mmである。
【0039】
ターゲット材2は、バッキングプレート1に載置することができ、バッキングプレート1によって支持され得る。従って、ターゲット材2は、バッキングプレート1と接している面とは反対側の面がスパッタリング面となる。ターゲット材2は、導電性の材料から構成されていればよく、通常は金属を含み、例えば、アルミニウムなどから構成することができ、好ましくは、アルミニウムから構成することができ、本実施形態では、アルミニウムから構成することが特に好ましい。
【0040】
本発明において、ターゲット材2は、基部21と、その中央部に凸部(または突出部)22とを含んで構成される。
【0041】
基部21は、板状であればその形状に特に限定はなく、図1に示すように円形平板状(すなわち円盤状)に形成されることが好ましいが、本発明において、基部21の形状は、円盤状に限定されるものではない。基部21は、面21bにおいて、バッキングプレート1と接して載置することができる。
【0042】
本発明において、基部21の中央部とは、基部21の幾何学的形状の中心およびその周囲を意味し、例えば、基部21が図1に示すように円形である場合には円の中心およびその周囲を意味し、正方形、四角形などの矩形または多角形などの場合にはその対角線の交点およびその周囲を意味する。また、本発明において、基部21の軸線とは、基部21の幾何学的形状の中心から板状の基部21の平面に対して垂直の方向にのびる軸線を意味する(例えば、図1の軸線L)。
【0043】
この基部21の軸線Lは、バッキングプレート1の軸線すなわち、バッキングプレート1の幾何学的形状の中心からプレート面に対して垂直の方向にのびる軸線と同軸であることが好ましい。特に、基部21とバッキングプレート1とが共に円盤状である場合、基部21は、バッキングプレート1と同心円状に配置することができる。
【0044】
ターゲット材2の基部21が円盤状である場合、基部21の直径(すなわち、基部21のバッキングプレート1と接する面21bの直径)d2は、たとえば100mm〜500mm、好ましくは300mm〜500mm、より好ましくは400mm〜500mmであり、本実施形態では443mmである。また、基部21の厚み(すなわち、ターゲット材2の凸部22を除く部分の平均の厚み)Y2は、たとえば5mm〜20mm、好ましくは7.5mm〜20mm、より好ましくは10mm〜20mmであり、本実施形態では12.7mmである。なお、本発明において、基部21のバッキングプレート1に接する面21bとは反対側の面21aの直径は、たとえば100mm〜500mm、好ましくは300mm〜500mm、より好ましくは400mm〜500mmであり、本実施形態では437mmであり、基部21のバッキングプレート1と接する面21bの直径d2と同じであっても、異なっていてもよいが、d2よりも0mm〜30mm、好ましくは0mm〜20mm、より好ましくは0mm〜10mm短い。すなわち、基部21は円錐台形であってもよい。
【0045】
この実施形態において、d1:d2の比は、特に限定されないが、例えば、1:0.5〜1:0.9、好ましくは1:0.7〜1:0.9、より好ましくは1:0.8〜1:0.9である。
【0046】
凸部22は、基部21の中央部、すなわち、基部21のバッキングプレート1に接する面21bとは反対側の面(すなわちスパッタリング面)21aの中央部から突出し、凸部22は、基部21の軸線Lに同軸に、かつ基部21に一体的に形成され得る。凸部22は、図1に示す通り、スパッタリング面を滑らか(平滑)にするなどの理由から、円錐台形状に形成されることが好ましい。しかし、凸部22の形状は、円錐台形状に限定されることはなく、円柱状、球面状などの形状であってもよい。
【0047】
凸部22が円錐台形状である場合、凸部22の上底面22aの直径d3は、たとえば100mm〜200mm、好ましくは100mm〜175mm、より好ましくは100mm〜150mmであり、本実施形態では123mmである。凸部22の下底面(面21aと同一平面上にある)の直径d4は、たとえば120mm〜220mm、好ましくは120mm〜195mm、より好ましくは120mm〜170mmであり、本実施形態では143mmである。また、凸部22の上底面から下底面までの距離、すなわち、凸部22の厚み(高さ)Y3は、たとえば1mm〜5mm、好ましくは1mm〜4mm、より好ましくは1mm〜3mmであり、本実施形態では2.3mmである。d3:Y3の比は、例えば、20:1〜200:1、好ましくは20:1〜150:1、より好ましくは20:1〜100:1である。
【0048】
また、ターゲット材2において、凸部22が円錐台形状である場合、凸部22の上底面の直径d3と、下底面の直径d4との比は、d3:d4=1:1〜1:2であり、好ましくは1:1〜1:1.75、より好ましくは1:1〜1:1.5である。さらに、基部21の直径d2と、凸部22の上底面の直径d3との比は、d2:d3=5:1〜2:1であり、好ましくは5:1〜4:1、より好ましくは5:1〜3:1である。
【0049】
以上のように構成されるターゲット材2において、基部21の面21aのうち、凸部22が形成される領域以外の領域部分と、凸部22の面22aとが、スパッタリングされ得るスパッタリング面となる。また、凸部22が円錐台形状である場合、凸部22のスパッタリング面22aと、基部21のスパッタリング面21aとの間の傾斜面もスパッタリング面となり得る。
【0050】
従って、本発明のスパッタリングターゲットにおいて、ターゲット材2は、前述したように、バッキングプレート1に接して設けられる基部21と、基部21のスパッタリング面21aの中央部に、基部21の軸線Lに同軸に、かつ基部21に一体的に形成され得る凸部22とを有する。すなわち、本発明の第1実施形態のスパッタリングターゲット100は、凸部22の厚みY3の分だけ、ターゲット材2の厚みが、中央部で厚くなるように構成されていることを特徴とする。
【0051】
バッキングプレート1へのターゲット材1の載置方法としては、特に限定はなく、例えば、拡散接合、はんだ接合などの方法で載置することができる。
【0052】
従来のスパッタリングターゲットでは、スパッタリング中において、ターゲット材の中央部が円環状に激しく消耗する。これに対して、本実施形態のスパッタリングターゲット100では、スパッタリングによって激しく消耗する中央部の厚みが厚くされたターゲット材2を有するので、長期間にわたって中央部、特に中央部の円環状での消耗(エロージョン)に耐え得ることができ、長寿命化を図ることができる。なお、本発明の第1実施形態のスパッタリングターゲット100は、ターゲット材の中央部に凸部22を設けることによって、凸部を有していない場合と比べて、寿命が1.05〜1.15倍、好ましくは1.05〜1.2倍、より好ましくは1.05〜1.25倍となる。
【0053】
また、本発明の第1実施形態のスパッタリングターゲット100では、ターゲット材の中央部に凸部22を設けていることから、スパッタリング中にターゲット材が消耗しても、熱応力、冷却による押圧力、負圧などの外力によって、スパッタリング中にターゲット材が著しく変形することを抑制することができる。
【0054】
さらに、本発明の第1実施形態のスパッタリングターゲット100では、凸部22を円錐台形状に形成することによって、スパッタリング面が滑らか(平滑)となり、なおかつ、スパッタリング中にターゲット材が消耗しても、熱応力、冷却による押圧力、負圧などの外力によって、スパッタリング中にターゲット材が著しく変形することを抑制することができるなどの上記の効果が得られるので好ましい。
【0055】
本発明の第2実施形態に係るスパッタリングターゲット200の構成を図2に示す。本発明の第2実施形態に係るスパッタリングターゲット200は、板状(好ましくは円形板状、すなわち円盤状)のバッキングプレート3と、バッキングプレート3に載置することのできるターゲット材4とを含む。ターゲット材4は、バッキングプレート3に接することのできる板状(好ましくは円形板状、すなわち円盤状)の基部41と、基部41のバッキングプレート3と接する面の中央部に基部41と同軸かつ一体的に形成された凸部42とを有する。また、バッキングプレート3は、ターゲット材4と接する面の中央部にターゲット材4の凸部42と嵌合することのできる凹部32を有する。図2(a)は、本発明の第2実施形態に係るスパッタリングターゲット200の一部を切り欠いた斜視図を示し、図2(b)は、スパッタリングターゲット200の部分断面図を示す。
【0056】
バッキングプレート3は、ターゲット材4を支持することができればその材料に特に限定はなく、例えば金属を含み、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金などから構成することができ、好ましくはアルミニム合金から構成することができ、特に好ましくは、本実施形態では、アルミニウム合金(例えば、Al−2024など)から構成され得る。バッキングプレート3は、板状、好ましくは円形平板状(すなわち円盤状)の基材31を備え、基材31は、ターゲット材4と接する面の中央部に、以下にて詳しく説明するターゲット材4の凸部42の形状に対応して凸部42と嵌合することのできる凹部32を有する。なお、本発明において、基材31の形状は、板状であればよく、円盤状に限定されることはない。
【0057】
基材31が円盤状である場合、基材31の直径、すなわち、バッキングプレート3の直径d5は、たとえば100mm〜600mm、好ましくは300mm〜600mm、より好ましくは500mm〜600mmであり、本実施形態では524mmである。また、基材31の厚み、すなわち、バッキングプレート3の厚みY4は、たとえば5mm〜20mm、好ましくは5mm〜15mm、より好ましくは5mm〜10mmであり、本実施形態では8.8mmである。
【0058】
バッキングプレート3の中央部には、ターゲット材4の凸部42と嵌合し得るように形成した凹部32が設けられている。本発明において、バッキングプレート3の凹部32と、ターゲット材4の凸部42とが「嵌合」するとは、バッキングプレート3とターゲット材4とが、脱着可能または脱着不可能な状態で、バッキングプレート3の凹部32と、ターゲット材4の凸部42とが少なくとも部分的に結合または係合していることを意味する。凹部32の形状は、凸部42に対応して嵌合できるものであれば特に限定はないが、例えば、円柱状、球面状などの形状が挙げられ、加工の容易さなどの理由から、円柱状が特に好ましい。
【0059】
バッキングプレート3の基材31が円盤状であり、なおかつ凹部32が円柱状である場合、凹部32の中心(すなわち凹部の円柱の断面の円の中心)は、基材31の中心と一致していることが好ましい。
【0060】
凹部32の深さ(凹部が円柱状である場合は円柱の高さ)は、凸部42と嵌合することのできる大きさであれば特に限定はなく、例えば1mm〜5mm、好ましくは1mm〜4mm、より好ましくは1mm〜3mmである。
【0061】
凹部32が円柱状である場合、凹部の断面の円の直径は、凸部42と嵌合することのできる大きさであれば特に限定はなく、例えば50mm〜200mm、好ましくは50mm〜150mm、より好ましくは75mm〜150mm、さらにより好ましくは100mm〜150mmであり、断面の円の直径:円柱の高さとの比は、150:1〜10:1、好ましくは125:1〜10:1、より好ましくは100:1〜10:1である。
【0062】
また、バッキングプレート3の基材31が円盤状であり、なおかつ凹部32が円柱状である場合、基材31の直径:凹部32の直径の比は、2:1〜10:1、好ましくは2:1〜7:1、より好ましくは2:1〜5:1である。
【0063】
ターゲット材4は、基部41と、その中央部に凸部42とを含んで構成される。ターゲット材4は、バッキングプレート3の凹部32内に凸部42が嵌合した状態で、バッキングプレート3に載置して支持され得る。従って、ターゲット材4のバッキングプレート3と接している面とは反対側の面41aがスパッタリング面となる。
【0064】
ターゲット材4は、導電性の材料から構成されていればよく、通常は金属を含み、例えば、アルミニムなどから構成することができ、好ましくはアルミニムから構成することができ、本実施形態では、アルミニウムから構成することが特に好ましい。
【0065】
ターゲット材4の基部41の形状は、板状であれば特に限定はなく、図2に示されるように、円形平板状(すなわち円盤状)に形成されることが好ましい。しかし、基部41の形状は、円盤状に限定されるものではない。
【0066】
ターゲット材4の基部41は、バッキングプレート3の基材31の凹部32が形成される側の面31a(ただし凹部32の部分は除く)に載置することができる。ターゲット材4の基部41のバッキングプレート3と接する面の中央部には、バッキングプレート3の凹部32と嵌合し得る凸部42が基部41と同軸かつ一体的に形成されている。
【0067】
本発明において、基部41の中央部とは、基部41の幾何学的形状の中心およびその周囲を意味し、例えば、図2に示すように、基部41が円形である場合には円の中心およびその周囲を意味し、正方形、四角形などの矩形または多角形などの場合にはその対角線の交点およびその周囲を意味する。また、本発明において、基部41の軸線とは、基部41の幾何学的形状の中心から板状の基部41の平面に対して垂直の方向にのびる軸線を意味する(例えば、図2の軸線L)。
【0068】
基部41の軸線Lは、バッキングプレート3の軸線、すなわちバッキングプレート3の幾何学的形状の中心からプレート面に対して垂直方向にのびる軸線と同軸であることが好ましい。従って、この場合、ターゲット材4は、バッキングプレート3に同心円状に載置することができる。
【0069】
ターゲット材4の基部41が円盤状である場合、基部41の直径(すなわち、基部41がバッキングプレート3と接する面の直径)d6は、たとえば100mm〜500mm、好ましくは300mm〜500mm、より好ましくは400mm〜500mmであり、本実施形態では443mmである。また、基部41の厚みY5は、たとえば5mm〜20mm、好ましくは7.5mm〜20mm、より好ましくは10mm〜20mmであり、本実施形態では12.7mmである。なお、本発明において、基部41のバッキングプレート3と接する面とは反対側の面(すなわちスパッタリング面)41aの直径は、たとえば100mm〜500mm、好ましくは300mm〜500mm、より好ましくは400mm〜500mmであり、本実施形態では437mmであり、基部41のバッキングプレート3と接する面の直径d6と同じであっても、異なっていてもよいが、d6よりも0mm〜30mm、好ましくは0mm〜20mm、より好ましくは0mm〜10mm短い。すなわち、基部41は、円錐台形であってもよい。
【0070】
ターゲット材4の基部41の直径d6とバッキングプレート3の直径d5との比(d5:d6)は、特に限定されないが、1:0.5〜1:0.9、好ましくは1:0.7〜1:0.9、より好ましくは1:0.8〜1:0.9である。
【0071】
ターゲット材4の凸部42は、ターゲット材4の基部41がバッキングプレート3と接する面の側に突出し、バッキングプレート3の凹部32と嵌合して嵌合部を形成することができる。ターゲット材4の凸部42の形状は、例えば、円柱形、球面形などの形状に形成することが好ましく、そのなかでも、加工の容易さなどの理由から、円柱形であることが特に好ましい。ただし、円柱形に限定されることはない。
【0072】
ターゲット材4の凸部42の形状が円柱形である場合、凸部42の直径(すなわち凸部42の円柱の断面の円の直径)d7は、たとえば100mm〜200mm、好ましくは100mm〜175mm、より好ましくは100mm〜150mmであり、本実施形態では122.8mmである。また、ターゲット材4の凸部42が円柱形である場合、凸部42の厚み(すなわち円柱の高さ)Y6は、たとえば1mm〜5mm、好ましくは1mm〜4mm、より好ましくは2mm〜4mmであり、本実施形態では3.0mmである。ターゲット材4の凸部42が円柱形である場合、d7:Y6の比は、20:1〜200:1、好ましくは20:1〜150:1、より好ましくは20:1〜100:1である。
【0073】
ターゲット材4の基部41が円盤状であり、かつ凸部42が円柱形である場合、ターゲット材4の中心と、凸部42の円柱の断面の円の中心とが一致することが好ましく、基部41の軸線Lと凸部42の軸線(すなわち断面の円の中心から垂直方向にのびる軸線)とが同軸であり、基部41と凸部42とが同心円状に一体的に形成されることが好ましい。
【0074】
また、ターゲット材4の凸部42の形状とバッキングプレート3の凹部32の形状とが同一であることが好ましく、加工の容易性などの理由から、いずれも円柱形であることが特に好ましい。その場合、ターゲット材4の凸部42の直径と、バッキングプレート3の凹部32の内径とがほぼ同じであり、凸部42と凹部32とが嵌合できることが特に好ましい。
【0075】
ターゲット材4において、基部41の直径d6と、凸部42の直径d7との比は、例えばd6:d7=5:1〜2:1であり、好ましくは5:1〜4:1、より好ましくは5:1〜3:1である。
【0076】
ターゲット材4のバッキングプレート3への載置方法としては、ターゲット材4の凸部42と、バッキングプレート3の凹部32とが嵌合することができれば特に限定はなく、例えば、拡散接合、はんだ接合などの方法が挙げられる。
【0077】
以上のように構成されるターゲット材4において、バッキングプレート3と接する側とは反対側の面41aが、スパッタリングされ得るスパッタリング面となる。
【0078】
このように、本発明のスパッタリングターゲット200は、凸部42の厚みY6の分だけ、ターゲット材4の厚みが、中央部で厚くなるように構成されている。このように、本実施形態のスパッタリングターゲット200は、スパッタリングによって激しく消耗する中央部の厚みが厚くされたターゲット材4を有するので、長期間にわたって中央部、特に中央部の円環状での消耗(エロージョン)に耐え得ることができ、長寿命化を図ることができる。また、本発明の第2実施形態のスパッタリングターゲット200は、ターゲット材の中央部に凸部42を設けることによって、凸部を設けていない場合と比べて、寿命が1.05〜1.15倍、好ましくは1.05〜1.2倍、より好ましくは1.05〜1.25倍となる。
【0079】
また、本発明の第2実施形態のスパッタリングターゲット200では、ターゲット材4の中央部に凸部42を設けていることから、スパッタリング中にターゲット材が消耗しても、熱応力、冷却による押圧力、負圧などの外力によって、スパッタリング中にターゲット材が著しく変形することを抑制することができる。
【0080】
さらに、本発明の第2実施形態のスパッタリングターゲット200では、凸部42を円柱形に形成することによって、スパッタリング中にターゲット材が消耗しても、熱応力、冷却による押圧力、負圧などの外力によって、スパッタリング中にターゲット材が著しく変形することを抑制することができるなどの上記の効果が得られるので好ましい。
【0081】
(スパッタリングターゲットのスパッタリング時における変形または変形量)
スパッタリング中においてスパッタリングターゲット100および200のターゲット材2,4のぞれぞれは、スパッタリング面が、イオン化したアルゴンの衝突エネルギーによって加熱され得るが、バッキングプレート1,3と接する側の面は冷却水などの冷媒体によってバッキングプレート1,3を冷却することによって冷却され得る。このように、スパッタリングターゲット100および200のターゲット材2,4はそれぞれ、スパッタリングを受けるスパッタリング面は加熱され、スパッタリングを受けていない反対側の面(すなわち、ターゲット材2,4がそれぞれバッキングプレート1,3と接する側の面)は冷却され得るので、スパッタリング面とその反対側の面とで温度差が生じ、ターゲット材に熱応力が印加され得る。
【0082】
また、スパッタリングターゲット100または200は、スパッタリング装置のチャンバ内に配置された状態で、ターゲット材2,4には、チャンバ内が真空状態にされることによる負圧、および、バッキングプレート1,3に対する冷媒体の供給による冷却媒体供給圧力(押圧力)などが印加され得る。
【0083】
このように、スパッタリング中においてスパッタリングターゲット100,200のターゲット材2,4には、熱応力、負圧、押圧力などの外力が印加され得るので、ターゲット材はスパッタリング中に変形する恐れがあり、これらの外力によるターゲット材の変形に影響を及ぼし得る外力を評価することが望ましい。なお、本明細書中、ターゲット材の「変形」および「変形量」とは、外力を受けてターゲット材が反るなどして変形することまたは反った状態を「変形」とし、シミュレーションもしくは直接測定することにより、元の形状からの変形の程度を数量(mm)で表したものを「変形量」とする。
【0084】
<スパッタリングによるターゲット材の変形に影響を及ぼす外力の推定>
ターゲット材2,4のスパッタリング中における変形量の解析を行うに先立って、まず、従来の通常のスパッタリングターゲットの使用後のターゲット材の変形量に基づいて、ターゲット材の変形に影響を与え得る熱応力、負圧、冷却による押圧力などの外力の推定を行った。通常、このような外力は、スパッタリング中に実際に測定することはできない。
【0085】
外力の推定実験では、まず、従来の通常のスパッタリングターゲットを用いて、その変形量を実際に測定する。測定に用いた従来の通常のスパッタリングターゲットは、従来の通常の円形平板状(すなわち円盤状)のバッキングプレート(直径524mm、厚さ8.8mmのアルミニウム合金製の円盤)(以下、「通常バッキングプレート」)に、従来の通常の円形平板状(すなわち円盤状)のターゲット材(直径443mm、厚さ12.7mmのアルミニウム製の円盤)(以下、「通常ターゲット材」)が、拡散接合によって同軸上に接合された、一般的に使用され得るスパッタリングターゲット(以下、「通常スパッタリングターゲット」または「サンプル5」という)である。
【0086】
図3は、使用後の従来の通常のスパッタリングターゲットにおけるターゲット材の変形量を実測した結果を示すグラフである。図3のグラフにおいて、横軸は、通常スパッタリングターゲットのターゲット材(以下、「通常ターゲット材」という)の中心からの距離(mm)を示し、縦軸は、変形量(mm)の実測値を示す。図3のグラフにおける曲線Aから明らかなように、通常ターゲット材は、スパッタリング面の中心において最大変形量(=2.264mm)を示し、その中心から半径方向外側になるにつれて変形量が小さくなる。
【0087】
図4は、使用後の通常スパッタリングターゲットにおける通常ターゲット材のスパッタリング領域における実際に測定したエロージョン形状を表す残厚プロファイルを示すグラフである。図4のグラフにおいて、横軸は、通常ターゲット材の中心からの距離(mm)を示し、縦軸は、使用後の通常ターゲット材における残厚(mm)を示す。使用後の通常ターゲット材は、曲線Bの残厚プロファイルで表されるエロージョン形状を有する。
【0088】
次に、このような通常ターゲット材のスパッタリング領域におけるエロージョン形状に基づいて、有限要素法(FEM)を用いた変形解析を行った。
【0089】
図5は、スパッタリングによる従来の通常のスパッタリングターゲットの有限要素モデルを示す図であり、通常ターゲット材の変形に影響を及ぼす外力を推定する解析に使用したものである。図5に示す有限要素モデル300Mは、使用後の通常スパッタリングターゲットを想定し、スパッタリングターゲットの中心(図5左側)から半径方向外側の端部までの断面をモデル化したものである。なお、有限要素モデル300Mでは、使用後の通常スパッタリングターゲットは、円形平板状(円盤状)のバッキングプレート5に通常ターゲット材6が接合されたものであり、通常ターゲット材6は図5に示すエロージョン形状を有する。また、図5では、各要素エリアを表す境界線を省略している。
なお、図5の有限要素モデル300Mは、図4の実際に測定したエロージョン形状に基づいて、モデル化を行った。
【0090】
変形解析に用いる計算条件を、表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
表中、「ANSYS 11.0」は、サイバネットシステム(株)から入手可能である。
【0093】
図6は、有限要素モデル300Mに温度および圧力を印加したときのターゲット材の変形量を表す変形解析結果を示すグラフである。図6のグラフは、有限要素モデル300Mの通常ターゲット材6において、バッキングプレート5に接する面が60℃に冷却された状態で、スパッタリング面の温度を図6(a)では100℃、図6(b)では120℃、図6(c)では140℃とし、バッキングプレート5に接する側の面の圧力(押圧力)を0.2MPa、0.4MPaまたは0.6MPaとし、その後、通常ターゲット材6の両面の温度を常温として圧力を除荷したときの通常ターゲット材6の永久変形量を示している。図6のグラフにおいて、横軸は、通常ターゲット材6の中心からの距離(mm)を示し、縦軸は、永久変形量(mm)を示す。
【0094】
図6(a)は、通常ターゲット材6のスパッタリング面が100℃に加熱されたときの変形量の解析結果を示し、曲線C1が、バッキングプレート5側の面に0.2MPaの圧力が印加されたときの通常ターゲット材6の永久変形量、曲線C2が、バッキングプレート5側の面に0.4MPaの圧力が印加されたときの通常ターゲット材6の永久変形量、曲線C3が、バッキングプレート5側の面に0.6MPaの圧力が印加されたときの通常ターゲット材6の永久変形量を表す。
【0095】
また、図6(b)は、通常ターゲット材6のスパッタリング面が120℃に加熱されたときの変形量の解析結果を示し、曲線D1が、バッキングプレート5側の面に0.2MPaの圧力が印加されたときの通常ターゲット材6の永久変形量、曲線D2が、バッキングプレート5側の面に0.4MPaの圧力が印加されたときの通常ターゲット材6の永久変形量、曲線D3が、バッキングプレート5側の面に0.6MPaの圧力が印加されたときの通常ターゲット材6の永久変形量を表す。
【0096】
また、図6(c)は、通常ターゲット材6のスパッタリング面が140℃に加熱されたときの変形量の解析結果を示し、曲線E1が、バッキングプレート5側の面に0.2MPaの圧力が印加されたときの通常ターゲット材6の永久変形量、曲線E2が、バッキングプレート5側の面に0.4MPaの圧力が印加されたときの通常ターゲット材6の永久変形量、曲線E3が、バッキングプレート5側の面に0.6MPaの圧力が印加されたときの通常ターゲット材6の永久変形量を表す。
【0097】
図6のグラフから明らかなように、通常ターゲット材6は、スパッタリング面の中心において最大変形量を示し、その中心から半径方向外側になるにつれて変形量が小さくなる。また、圧力が大きくなるにつれて変形量は大きくなるが、スパッタリング面の温度の違いによる影響はほとんどない。
【0098】
図7は、ターゲット材の変形解析結果に基づいた圧力と最大変形量との関係を示すグラフである。図7のグラフは、図6の解析結果に基づいたものである。図7のグラフにおいて、横軸は、通常ターゲット材6に印加される圧力(MPa)を示し、縦軸は、最大変形量(mm)を示す。図7のグラフから明らかなように、圧力と最大変形量とは直線Fの関係を示し、圧力の増加に応じて最大変形量が大きくなる。この直線Fより、図3で示した実際のスパッタリング使用後のスパッタリングターゲットにおけるターゲット材の最大変形量である「2.264mm」に対応する圧力は、「0.279MPa」となる。
【0099】
以上の結果より、上記実験(図3、図4)のスパッタリング時においてターゲット材には、以下の表2に示す圧力および温度が印加されていると推定することができる。本明細書中、この圧力を「推定外力」と呼ぶ。なお、表2の推定外力において、ターゲット材のバッキングプレートと接する面に付与される温度を「60℃」、スパッタリング面に付与される温度を「120℃」としたのは、温度の違いによる変形量に及ぼす影響がほとんどないという、図6の結果に基づくものである。
【0100】
【表2】

【0101】
次に、表2に示す推定外力を用いて、図5に示す有限要素モデル300Mによる有限要素法の変形解析を行った。なお、変形解析の計算条件は、表1の条件を用いた。変形解析結果を図8に示す。
【0102】
図8は、ターゲット材の実測変形値に対する変形解析結果の一致性を示すグラフである。図8のグラフにおいて、曲線Aは、図3に示した使用後のターゲット材の実測変形値を表すものであり、曲線Gは、変形解析結果によるものである。なお、図8のグラフは、ターゲット材に対して、表2に示す推定外力を印加した後、温度を常温で圧力を除荷したときのターゲット材の永久変形量を示している。
【0103】
図8より、変形解析結果は、実測変形値とほぼ一致することが分かった。すなわち、表2に示す推定外力は、スパッタリング時にターゲット材に印加される外力として妥当であると判断できる。
【0104】
<スパッタリング時におけるターゲット材の変形解析>
表2に示す推定外力を用いて、図1に示した本実施形態のスパッタリングターゲット100、および、図2に示した本実施形態のスパッタリングターゲット200に対する有限要素法の変形解析を行った。なお、変形解析の計算条件は、表1の条件を用いた。
変形解析に用いたスパッタリングターゲットの構成を、表3に示す。
【0105】
【表3】

【0106】
図9は、ターゲット材に対してスパッタリング時の推定外力を印加したときの変形量を表す変形解析結果を示すグラフである。図9のグラフにおいて、横軸は、ターゲット材の中心からの距離(mm)を示し、縦軸は、変形量(mm)を示す。
【0107】
図9(a)は、スパッタリング中のターゲット材の変形を想定し、表2に示す推定外力を印加したときのターゲット材の変形量を示している。図9(a)のグラフにおいて、曲線H1は、表3のサンプル1の変形解析結果を示し、曲線H2は、表3のサンプル2の変形解析結果を示し、曲線H3は、表3のサンプル3の変形解析結果を示し、曲線H4は、表3のサンプル4の変形解析結果を示し、曲線H5は、表3のサンプル5の変形解析結果を示す。
【0108】
図9(a)のグラフより、サンプル1は、凸部22に対応して中央部の厚みが厚くされたターゲット材2を有するスパッタリングターゲット100(図1)であり、熱応力、負圧を含む冷却媒体供給圧力(押圧力)などの外力からなる推定外力が印加されることによる変形量をサンプル5(均一な厚みを有する円形平板状のターゲット材を有する通常スパッタリングターゲット)よりも小さくすることができる。さらに、図9(a)のグラフより、サンプル2〜4は、嵌合部の凸部42に対応して中央部の厚みが厚くされたターゲット材4を有するスパッタリングターゲット200(図2)であり、推定外力が印加されることによる変形量を、通常スパッタリングターゲットを表すサンプル5と、ほぼ同等の変形量にすることができ、過度の変形は抑制することができる。
【0109】
また、図9(b)は、スパッタリング後のターゲット材の永久変形を想定し、表2に示す推定外力を印加した後、温度を常温で圧力を除荷したときのターゲット材の永久変形量を示している。図9(b)のグラフにおいて、曲線J1は、表3のサンプル1の変形解析結果を示し、曲線J2は、表3のサンプル2の変形解析結果を示し、曲線J3は、表3のサンプル3の変形解析結果を示し、曲線J4は、表3のサンプル4の変形解析結果を示し、曲線J5は、表3のサンプル5の変形解析結果を示す。
【0110】
図9(b)のグラフより、スパッタリングターゲット100のサンプル1は、推定外力が印加された後の永久変形量を、通常スパッタリングターゲットのサンプル5よりも、小さくすることができる。さらに、図9(b)のグラフより、スパッタリングターゲット200のサンプル2〜4は、推定外力が印加された後の永久変形量を、通常スパッタリングターゲットを表すサンプル5と、ほぼ同等の永久変形量にすることができ、過度の永久変形は抑制することができる。
【0111】
<スパッタリング時におけるエロージョン形状を有するターゲット材の変形解析>
次に、スパッタリングによってエロージョンが発生した場合の変形解析を行った。なお、変形解析の計算条件は、表1の条件を用いた。また、変形解析に用いたサンプルは、表3に示したサンプル1〜5である。
【0112】
まず、サンプル1〜5における、ターゲット材のエロージョン形状を設定した。図10および図11は、推定外力が印加された時の変形解析に用いるターゲット材のエロージョン形状を示す図である。
【0113】
図10(a)は、図4に示した使用後の通常スパッタリングターゲットにおける実際の残厚プロファイル(図4)を参考にして作成したスパッタリングターゲット100(サンプル1)におけるターゲット材2のエロージョン形状を表す残厚プロファイルを示すグラフである。図10(a)のグラフにおいて、横軸は、ターゲット材2の中心からの距離(mm)を示し、縦軸は、ターゲット材2における残厚(mm)を示す。ターゲット材2は、曲線Kの残厚プロファイルで表されるエロージョン形状を有するものと設定した。
【0114】
図10(b)は、スパッタリング時のスパッタリングターゲット100(サンプル1)を想定し、中心(図10(b)左側)から半径方向外側の端部までの断面をモデル化した有限要素モデル100Mを示す。なお、図10(b)中、バッキングプレート1に接合したターゲット材2は、図10(a)の曲線Kの残厚プロファイルで表されるエロージョン形状を有する。図10(b)では、各要素エリアを表す境界線を省略している。
【0115】
図11(a)は、図4に示した使用後の通常スパッタリングターゲットにおける実際の残厚プロファイル(図4)を参考にして作成したスパッタリングターゲット200(サンプル2〜4)におけるターゲット材4のエロージョン形状を表す残厚プロファイルを示すグラフである。図11(a)のグラフにおいて、横軸は、ターゲット材4の中心からの距離(mm)を示し、縦軸は、ターゲット材4における残厚(mm)を示す。ターゲット材4は、図11(a)の曲線L1の残厚プロファイルで表されるエロージョン形状を有するものとして設定した。
【0116】
図11(b)は、スパッタリング時のスパッタリングターゲット200(サンプル2〜4)を想定し、中心(図11(b)左側)から半径方向外側の端部までの断面をモデル化した有限要素モデル200Mを示す。なお、図11(b)中、バッキングプレート3に接合したターゲット材4は、図11(a)の曲線L1の残厚プロファイルで表されるエロージョン形状を有する。図11(b)では、各要素エリアを表す境界線を省略している。
【0117】
なお、通常スパッタリングターゲットであるサンプル5については、エロージョン形状を示す残厚プロファイルとして、図4で示した実際の残厚プロファイルを用い、変形解析のための有限要素モデルとして、図5で示した有限要素モデル300Mを用いた。
【0118】
図12は、スパッタリング時にエロージョン形状を有するターゲット材(すなわちエロージョンされたターゲット材)に推定外力を印加したときの変形量を表す変形解析結果を示すグラフである。図12のグラフにおいて、横軸は、ターゲット材の中心からの距離(mm)を示し、縦軸は、変形量(mm)を示す。
【0119】
図12(a)は、スパッタリング中におけるエロージョン形状を有するターゲット材の変形を想定し、表2に示す推定外力を印加したときのターゲット材の変形量を示している。図12(a)のグラフにおいて、曲線P1は、エロージョン形状を有するサンプル1の変形解析結果を示し、曲線P2は、エロージョン形状を有するサンプル2の変形解析結果を示し、曲線P3は、エロージョン形状を有するサンプル3の変形解析結果を示し、曲線P4は、エロージョン形状を有するサンプル4の変形解析結果を示し、曲線P5は、エロージョン形状を有するサンプル5の変形解析結果を示す。サンプル1〜5としては、いずれもエロージョン形状を有する(すなわち、エロージョンされている)場合を想定した上記の各有限要素モデルを適用した(後述図12(b)時等)。
【0120】
図12(a)のグラフより、スパッタリングターゲット100のサンプル1は、凸部22に対応して中央部の厚みが厚くされたターゲット材2を有し、推定外力が印加されることによる変形量を、サンプル5と、ほぼ同等の変形量にすることができ、過度の変形を抑制することができる。なお、サンプル5は、均一な厚みを有する円形平板状(円盤状)のターゲット材を有する通常スパッタリングターゲットである。さらに、図12(a)のグラフより、スパッタリングターゲット200のサンプル2〜4は、嵌合部の凸部42に対応して中央部の厚みが厚くされたターゲット材4を有し、推定外力が印加されることによる変形量を、許容範囲内に抑えることができ、過度の変形を抑制することができる。
【0121】
また、図12(b)は、エロージョン形状を有するターゲット材のスパッタリング後における永久変形を想定し、表2に示す推定外力を印加した後、ターゲット材の両面の温度を常温として圧力を除荷したときのターゲット材の永久変形量を示している。図12(b)のグラフにおいて、曲線Q1は、エロージョン形状を有するサンプル1の変形解析結果を示し、曲線Q2は、エロージョン形状を有するサンプル2の変形解析結果を示し、曲線Q3は、エロージョン形状を有するサンプル3の変形解析結果を示し、曲線Q4は、エロージョン形状を有するサンプル4の変形解析結果を示し、曲線Q5は、エロージョン形状を有するサンプル5の変形解析結果を示す。
【0122】
図12(b)のグラフより、スパッタリングターゲット100,200においてエロージョン形状を有するサンプル1,2は、それぞれ、推定外力が印加された後の永久変形量を、通常スパッタリングターゲットにおいてエロージョン形状を有するサンプル5よりも、小さくすることができる。さらに、図12(b)のグラフより、スパッタリングターゲット200においてエロージョン形状を有するサンプル3,4は、推定外力が印加された後の永久変形量を、通常スパッタリングターゲットにおいてエロージョン形状を有するサンプル5と、ほぼ同等の永久変形量にすることができ、過度の永久変形は抑制することができる。
【0123】
以上のように、本実施形態のスパッタリングターゲット100,200は、いずれも、スパッタリングによって激しく消耗する中央部の厚みが厚くされたターゲット材2,4を有して長寿命化を図ることができるとともに、スパッタリング中の熱応力、負圧を含む冷却媒体供給圧力(押圧力)などの外力が印加されることによる変形量(スパッタリング中の変形量およびスパッタリング後の永久変形量の両方)を、均一な厚みを有する通常の円形平板状(円盤状)のターゲット材よりも小さいか、少なくとも同等の変形量にすることができ、過度の変形は抑制することができる。
【0124】
このように、本発明では、通常のスパッタリングターゲットの変形量およびエロージョンプロファイル(図3、4)から、有限要素モデル化(図5)を行って解析することによって、その解析結果(図6)から、スパッタリング中に印加され得る外力を推定することができた。また、図4のエロージョンプロファイルに基づいて、本発明の第1実施形態および第2実施形態のスパッタリングターゲットを有限要素モデル化(図10(b)、図11(b))し、上記で推定した外力を適用して解析すると、ターゲット材の変形(スパッタリング中の変形およびスパッタリング後の永久変形の両方)を許容の範囲内に抑制できることがわかった。
【0125】
従って、本発明では、第1実施形態および第2実施形態のように、ターゲット材の厚みを中央部で大きくすることによって、ターゲット材の長寿命化が達成できるだけでなく、スパッタリング中およびスパッタリング後の変形を許容の範囲に抑制することができた。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明のスパッタリングターゲットは、長寿命であり、なおかつ、スパッタリング中の変形およびスパッタリング後の永久変形を許容の範囲内に抑制することができるので、従来のスパッタリングターゲットの代替品として非常に有益である。
【0127】
本願は、2011年7月7日に日本国で出願された特願2011−151288を基礎としてその優先権を主張するものであり、その内容はすべて本明細書中に参照することにより援用される。
【符号の説明】
【0128】
1,3 バッキングプレート
2,4 ターゲット材
21,41 基部
22 凸部(または突出部)
31 基材
32 凹部
42 凸部(または嵌合部)
100,200 スパッタリングターゲット
100M,200M,300M 有限要素モデル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のバッキングプレートと、
前記バッキングプレートに載置するターゲット材と、
を含むスパッタリングターゲットであって、
前記ターゲット材が、
前記バッキングプレートに接する板状の基部と、
前記基部の前記バッキングプレートと接する面とは反対側の面の中央部に前記基部と同軸かつ一体的に形成された凸部と、
を有することを特徴とする、スパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記凸部が円錐台形状である請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
板状のバッキングプレートと、
前記バッキングプレートに載置するターゲット材と、
を含むスパッタリングターゲットであって、
前記ターゲット材が、
前記バッキングプレートに接する板状の基部と、
前記基部の前記バッキングプレートと接する面の中央部に前記基部と同軸かつ一体的に形成された凸部と、
を有し、
前記バッキングプレートは、前記ターゲット材と接する面の中央部に前記ターゲット材の前記凸部と嵌合する凹部を有することを特徴とする、スパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記凸部が円柱形である請求項3に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
スパッタリングターゲットにおいてバッキングプレートに載置して用いられるターゲット材であって、
前記バッキングプレートに接する板状の基部と、
前記基部の前記バッキングプレートと接する面とは反対側の面の中央部に前記基部と同軸かつ一体的に形成された凸部と、
を有することを特徴とする、ターゲット材。
【請求項6】
前記凸部が円錐台形状である請求項5に記載のターゲット材。
【請求項7】
スパッタリングターゲットにおいてバッキングプレートに載置して用いられるターゲット材であって、
前記バッキングプレートに接する板状の基部と、
前記基部の前記バッキングプレートと接する面の中央部に前記基部と同軸かつ一体的に形成された凸部と、
を有することを特徴とする、ターゲット材。
【請求項8】
前記凸部が円柱形である請求項7に記載のターゲット材。
【請求項9】
前記凸部が、前記バッキングプレートの前記ターゲット材と接する面の中央部に形成された凹部と嵌合する、請求項7または8に記載のターゲット材。
【請求項10】
スパッタリングターゲットにおいてターゲット材を支持するために用いられるバッキングプレートであって、前記ターゲット材と接する面の中央部に凹部を有するバッキングプレート。
【請求項11】
前記凹部が円柱形である請求項10に記載のバッキングプレート。
【請求項12】
前記凹部が、前記ターゲット材の前記バッキングプレートと接する面の中央部に形成された凸部と嵌合する請求項10または11に記載のバッキングプレート。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−32586(P2013−32586A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−153120(P2012−153120)
【出願日】平成24年7月6日(2012.7.6)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】