説明

スパッタ法による膜及びその形成法

【課題】 スパッタ法において、耐湿性をより向上した膜を高い成膜レ−トで得るとともに、建築用や自動車用の窓材等として適用できるガラスを得る。
【解決手段】 ガラス基板上に、少なくとも下地膜を保護するためにスパッタ法によって形成する保護膜において、少なくともアルゴンガスを含む酸素ガスまたは/および窒素ガスの混合ガス雰囲気内でスパッタし形成した保護膜でなることを特徴とするスパッタ法による膜。及びその形成法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、スパッタ法によって成膜した酸化物薄膜、窒化物薄膜あるいは酸窒素物薄膜における耐湿性の向上、ならびにこれらの薄膜の成膜時における成膜速度(成膜レ−ト)のアップによる生産性の向上をもたらしめるスパッタ法による膜及び該膜の形成法に関する。
【0002】本発明は建築用ガラスはもちろん自動車用ガラスとしても少なくとも単板ガラス、合せガラス、複層ガラス等で使用できる等有用なスパッタ法による膜及び該膜の形成法を提供するものである。
【0003】
【従来の技術】近年、建築用ガラスにおける着色、断熱や紫外線遮断および電波透過等の機能付与はもちろん、車輌用ガラスにおいても車内に通入する太陽輻射エネルギーを遮蔽し、車内の温度上昇、冷房負荷を低減させる目的から熱線遮蔽ガラス、さらに人的物的両面や環境に優しくするため紫外線遮蔽を付加したものが車輌用に採用されている。
【0004】特に該建築用ガラスもちろん最近は車輌用ガラスにおいて、室内からの熱線を反射せしめ室内の温度低下を防止することができ、かつ太陽熱の熱線遮断効果もあるLow-E(Low-Emissivity) 膜を表面に形成したガラス、すなわちLow-E ガラスが使用されてきている。
【0005】該Low-E 膜としては、例えばZnO /Ag/ZnO 等の3層膜あるいはこれら膜成分を含む多層膜が挙げられる。該膜構成においては、耐擦傷性、耐摩耗性あるいは耐薬品性、耐湿性等の耐久性に劣るものであり、単板ガラスはもちろん合せガラスにおいても使用時等において白色斑点や白濁等の欠陥を生じるような現象が見られることがあり、保管や取扱いにおいても不便なことが多いものであった。
【0006】そこで、それを改善しようとするものとしては次のようなもの等が知られている。例えば実開昭62-37052号公報には、ガラス板上に、ZnO 、TiO2、Ta2O5 、SnO2、ITO およびこれらの混合物等の金属酸化物からなる第1層と、熱線反射機能を有するAg、Au、Cu、Pd、Rd等の貴金属からなる第2層と、酸素のバリヤ−すなわち貴金属のマイグレ−ション現象をおさえ、かつ自身熱線反射性をもつ厚み20〜50Å程度のAl、Ti、Ni、Zn、Crおよびこれらの合金等の金属からなる第3層と、第1層と同様の金属酸化物からなる第4層とをスパッタリングによって順次積層形成した熱線反射ガラスにおいて、金属酸化物からなる第1層および第4層のうち少なくとも一方を金属と酸素との化学量論比において酸化が不充分な金属酸化物によって構成した熱線反射ガラスが記載されている。
【0007】また、例えば特開昭62-41740公報には、ガラス板の表面に金属酸化物からなる第1層を直流スパッタリングによって形成し、この第1層の表面に無酸化雰囲気において直流スパッタリングを施すことで貴金属からなる第2層を形成し、さらに第2層の表面に金属酸化物をタ−ゲットとし、無酸化雰囲気若しくは酸素分圧が低い雰囲気において直流スパッタリングを施すことで金属酸化物からなる第3層を形成するようにした熱線反射ガラスの製造方法が記載されている。
【0008】また、例えば特開平5-229052号公報には、熱線遮断膜が記載されており、基体上に酸化物膜、金属膜、酸化物膜と交互に積層された(2n+1)層(n≧1) からなる熱線遮断膜において、基体からみて、基体から最も離れたAgを主成分とする等の金属膜(A) の反対側に形成された酸化物膜(B) は、Si、Ti、Cr、B 、Mg、Sn、Gaのうち少なくとも1種をZnとの総量に対し、1〜10原子%ド−プした酸化亜鉛膜を少なくとも1層含むものが開示されている。また前記酸化亜鉛膜は、酸化亜鉛の結晶系が六方晶であり、CuKa線を用いたX線回折法による六方晶酸化亜鉛の(002 )回折線の回折角2θ(重心位置)の値が33.88 °以上35.00 °以下の膜であることが開示されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】前述したような、例えば実開昭62-37052号公報に記載の熱線反射ガラスでは、特にAg薄膜層上にAgの酸化を防ぐためのバリヤ−層としての金属層を設けて無反射効果を有する保護膜層をカバ−することがマイグレ−ションを防ぐために不可欠であり、このバリヤ−層としての金属層は、保護膜の成膜時に酸化してしまわないようにしようとするものであり、第4層目の金属酸化物についてアルゴンガス80体積%、酸素ガス20体積%の雰囲気で直流スパッタリングを行うことが開示されているが、スパッタ法におけるアルゴンガスの作用効果についての記載あるいはそれを示唆する記載もなく、例えば成膜レ−トや耐湿性の向上については全く記載のないものである。
【0010】また、例えば特開昭62-41740号公報に記載の熱線反射ガラスの製造方法では、金属酸化物をタ−ゲットとして用いて、アルゴンおよび酸素を低酸素雰囲気、すなわち酸素の混合割合の限度が 20vol%、好ましくは10vol %以下としたとし、Ag層のマイグレ−ションは防止できたとしても、Agよりイオン化傾向の大きいZnについての記載がなく、またスパッタ法におけるアルゴンガスの作用効果についての記載あるいはそれを示唆する記載もなく、例えば成膜レ−トの向上については全く記載がなく、また耐湿性が充分あるものとは言い難いものである。
【0011】また、例えば特開平5-229052号公報に記載の熱線遮断膜では、Agを主成分とする等の金属膜(A) の保護膜として酸化物膜(B) は、Si、Ti、Cr、B 、Mg、Sn、Gaのうち少なくとも1種をZnとの総量に対し、1〜10原子%ド−プした酸化亜鉛膜を少なくとも1層含む薄膜層を被覆積層するものであって、ド−プしたことによって酸化亜鉛の膜結晶的状態を変え性能を高め、下地膜層であるAgを主成分とする等の金属膜(A) の耐湿性を高めるようにするというものであり、これだけにより必ずしも成膜レ−トまで充分に向上するものではなく、内部応力の低下度合も充分とは言えず、生産性やコストに必ずしも充分満足できるものとは言い難いものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明は、従来のこのような課題に鑑みてなしたものであり、スパッタリング法による成膜を、酸素ガスあるいは窒素ガスに少なくともアルゴンガスを含ませた混合ガス雰囲気中において行うことにより、成膜レ−トを高めて高効率を実現できるなかで、得られた酸化物薄膜、窒化物薄膜あるいは酸窒化物薄膜がより理論的理想な薄膜となり、下地層に影響を与えることなく、例えば耐湿性等積層薄膜全体の膜質をより安定で確実に向上することができる等、例えばLow-E 膜等の機能性薄膜をより安心して建築用窓材はもちろん自動車用窓材にも充分適用でき、最近のニーズに最適なものとなる有用なスパッタ法による膜及びその成膜法を提供するものである。
【0013】すなわち、本発明は、ガラス基板上に、少なくとも下地膜を保護するためにスパッタ法によって形成する保護膜において、少なくともアルゴンガスを含む酸素ガスまたは/および窒素ガスの混合ガス雰囲気内でスパッタし形成した保護膜でなることを特徴とするスパッタ法による膜。
【0014】ならびに、前記スパッタ法が、直流または高周波スパッタリング方式であることを特徴とする上述したスパッタ法による膜。また、前記混合ガス中の酸素ガスとアルゴンガスの割合が、酸素ガス:アルゴンガスが9:1から1:9であることを特徴とする上述したスパッタ法による膜。
【0015】さらに、前記下地膜が金属膜であることを特徴とする上述したスパッタ法による膜。さらにまた、前記下地膜が、銀、金、銅、亜鉛、チタンの各薄膜であることを特徴とする上述したスパッタ法による膜。
【0016】さらにまた、前記保護膜が、酸化物薄膜、窒化物薄膜もしくは酸窒化物薄膜であることを特徴とする上述したスパッタ法による膜。さらにまた、前記保護膜が、酸化亜鉛薄膜、窒化亜鉛薄膜もしくは酸窒化亜鉛薄膜であることを特徴とする上述したスパッタ法による膜。
【0017】ならびに、ガラス基板上に少なくとも下地膜を保護するためにスパッタ法によって形成する保護膜の形成法において、少なくともアルゴンガスを含む酸素ガスまたは/および窒素ガスの混合ガス雰囲気内でスパッタし保護膜を形成するようにしたことを特徴とするスパッタ法による膜の形成法。
【0018】また、前記スパッタ法が、直流または高周波スパッタリング方式であることを特徴とする上述したスパッタ法による膜の形成法。さらに、前記混合ガス中の酸素ガスとアルゴンガスの割合が、酸素ガス:アルゴンガスが9:1から1:9であることを特徴とする上述したスパッタ法による膜の形成法。
【0019】さらにまた、前記混合ガスにおけるアルゴンガスの混合割合を、スパッタするための印加電力によってバランスを持たしめるよう調整することを特徴とする上述したスパッタ法による膜の形成法をそれぞれ提供するものである
【0020】
【発明の実施の形態】ここで、前記したように、ガラス基板上に、少なくとも下地膜を保護するためにスパッタ法によって形成する保護膜において、少なくともアルゴンガスを含む酸素ガスまたは/および窒素ガスの混合ガス雰囲気内でスパッタし形成した保護膜でなるスパッタ法による膜を実施するにあたっては次のようにする。
【0021】先ず、前記ガラス基板としては、自動車用ならびに建築用ガラスに通常用いられているソーダライムシリケートガラスからなる普通板ガラス、所謂フロート板ガラスなどであり、クリアはじめグリ−ン系、ブロンズ系、ブル−系またはグレ−系等各種着色ガラス、各種機能性ガラス、強化ガラスやそれに類するガラス、合せガラスのほか複層ガラス等、さらに平板あるいは曲げ板等各種板ガラス製品として使用できることは言うまでもない。また板厚としては例えば約1.0mm 程度以上約12mm程度以下であり、建築用としては約2.0mm 程度以上約10mm程度以下が好ましく、自動車用としては約1.5mm 程度以上約6.0mm 程度以下が好ましく、より好ましくは約2.0mm 程度以上約4.0mm 程度以下のガラスであるが、特に限定するものではない。
【0022】次に、前記スパッタ法としては、例えばDCマグネトロンスパッタリング装置でのDCマグネトロン反応スパッタであり、該装置の真空槽内にある例えばZnのタ−ゲットに対向して洗浄乾燥した前記ガラス基板が搬送できるようセットし、続いて前記槽内を真空ポンプで例えば約5×10-6Torr程度までに脱気した後、該真空槽内に酸素(O2)ガスとアルゴン(Ar)ガス〔但し、ArガスとO2ガスの混合ガスのガス流量比はArガス:O2ガスの値が1:9から9:1の範囲の割合である。〕、あるいは窒素(N2)ガスとアルゴン(Ar)ガス〔但し、ArガスとN2ガスの混合ガスのガス流量比はArガス量:N2ガス量の値が1:9から9:1の範囲の割合である。〕、またはこれらの複合した混合ガス〔但し、Arガスと(O2 ガス+N2ガス)の複合した混合ガスのガス流量比はArガス量:(O2 +N2)ガス量の値が1:9から9:1の範囲の割合である。〕を導入し、真空度を例えば約2×10-3Torr程度に保持し、前記タ−ゲットに例えば約0.5 〜40kw程度の電力を印加し、前記混合ガスによるDCマグネトロン反応スパッタの中を、必要な膜厚に応じたスピ−ドで前記ガラス基板を搬送することによって必要な厚さの酸化物薄膜、窒化物薄膜もしくは酸窒化物薄膜を、例えば銀、金、銅、亜鉛、チタン等の各薄膜の上層または/および下層に順次2層以上成膜する。
【0023】さらに例えば、Znを含む成膜としては、酸化物薄膜、窒化物薄膜もしくは酸窒化物薄膜の他に、ZnO-SnOx、ZnO-SiOx等の複合酸化物薄膜にも本発明が採用できうるものである。
【0024】また、前記したように混合ガス中の酸素ガスとアルゴンガスの割合が、酸素ガス:アルゴンガスが9:1から1:9であることとしたのは、O2ガスの濃度が高すぎると成膜速度が遅く、結晶の歪が大きいものとなり、逆にArガスの濃度が高すぎると例えばZnO のような酸化物薄膜等にならず、Znのような金属薄膜となるなどめざす高い成膜速度でかつ向上した耐湿性等の薄膜をうることができないからである。より好ましくは酸素ガス:アルゴンガスが8.5 :1.5 から1.5 :8.5である。
【0025】また、前記したように混合ガスにおけるアルゴンガスの混合割合を、スパッタするための印加電力によってバランスを持たしめるよう調整することとしたのは、例えば印加電力が約0.5 〜5kw程度であればArガスの濃度としては20〜85%程度の混合割合で、また例えば印加電力が約5〜50kw程度であればArガスの濃度としては15〜70%程度の混合割合でそれぞれ成膜バランスを持たしめることができるためである。
【0026】さらに、例えば前記Arガスの割合や濃度の範囲内であって、同一のArガスの割合や濃度例えば50%Arガスと50%O2ガスの混合ガスにおいては、印加電力が低から高になれば成膜レ−トは低から高になる。またさらに印加電力が同じでArガスの割合や濃度を低から高にすれば、成膜レ−トが低から高になり、薄膜の内部応力が強から弱になる。またさらに成膜レ−トを一定にすれば、Arガスの割合、濃度が低から高にすることにより、印加電力が高から低となって消費電力が多から少となり省エネルギ−となる。
【0027】またさらに、例えばZnO 薄膜の内部応力値(σ)については、一般に、σ=(E/2ν)×〔(d0 −d)/d0 〕で表される。
E;ZnO のヤング率、ν;ZnO のポアソン比、d0 ;ZnO (002) のバルクの格子定数値=2.602Å、d;X線により測定したZnO (002) の格子定数値(Å)。
【0028】この式より、ZnO 薄膜のd値がd0 値に近づくほど内部応力が少ないと考えられるものである。また、ZnO 薄膜の結晶性については、X線回折におけるZnO (002) の半値幅(FWHM)で評価でき、半値幅が大のとき結晶性が悪く、半値幅が小のとき結晶性が良いものとなる。
【0029】前述したとおり、本発明のスパッタ法による膜及びその形成法は、前記真空槽内の雰囲気ガスとしてArガスが少なくとも含まれる混合ガスを用いて適宜スパッタリングすることにより、成膜レ−トを高め高効率の生産ができることとなり、しかも成膜した薄膜自体における内部応力の低減、あるいは結晶性の向上をもたらしめることとなって、可視光透過率や色調等が充分簡単な調整でできうる範囲内程度の極僅かな変化が場合によってはあるものの、耐湿性が格段に向上し優れたものとなり、他の各種物性も同等か向上する傾向を示すものとすることができた。
【0030】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし本発明は係る実施例に限定されるものではない。
【0031】実施例1洗浄、乾燥された厚さ5mmのフロ−トガラス基板を、DCマグネトロンスパッタリング装置の真空槽内にセットしてあるZnとTiのタ−ゲットに対向して上方を往復できるようセットし、次に前記槽内を真空ポンプで約5×10-6Torrまでに脱気した後、該真空槽内にO2ガスを導入して真空度を約2×10-3Torrに保持し、前記Znのタ−ゲットに約0.6kw の電力を印加し、前記O2ガスによるDCマグネトロン反応スパッタの中を、前記Znのタ−ゲット上方においてスピ−ド約85mm/min で前記ガラス基板を搬送することによって約30nm厚さのZnO 薄膜を第1層として成膜した。成膜が完了した後、Znタ−ゲットへの印加を停止した。
【0032】次いで、該真空槽内にArガスを導入して真空度を約2×10-3Torrに保持し、Agのタ−ゲットに約0.15kwの電力を印加し、前記ArガスによるDCマグネトロン反応スパッタの中を、前記Agのタ−ゲット上方においてスピ−ド約470mm /min で前記ガラス基板を搬送することによって前記ZnO 薄膜上に約10nm厚さのAg薄膜を第2層として成膜した。成膜が完了した後、Agタ−ゲットへの印加を停止した。
【0033】続いて、同様にArガスで真空度約2×10-3Torrの中、Tiのタ−ゲットに約0.5kw の電力を印加し、前記ArガスによるDCマグネトロン反応スパッタの中を、前記Tiのタ−ゲット上方においてスピ−ド約845mm /min で前記ガラス基板を搬送することによって前記Ag薄膜上に約3nm厚さのTi薄膜を第3層として成膜した。成膜が完了した後、Tiタ−ゲットへの印加を停止した。
【0034】次に、該真空槽内にO2ガスとArガス〔但し、ArガスとO2ガスのガス流量比はAr/(O2+Ar)の値が0.5 である。〕を導入して真空度を約2×10-3Torrに保持し、前記Znのタ−ゲットに約0.6kw の電力を印加し、前記混合ガスによるDCマグネトロン反応スパッタの中を、前記Znのタ−ゲット上方においてスピ−ド約85mm/min で前記ガラス基板を搬送することによって約50nm厚さのZnO 薄膜を第4層として成膜した。成膜が完了した後、Znタ−ゲットへの印加を停止した。
【0035】なお、膜厚を触針式膜厚測定機(DekTak3030;Sloan 社製)で測定した。得られた4層でなる積層薄膜付きガラス基板について、下記のような各項を評価した。
〔光学特性〕:分光光度計(U 4000型、日立製作所製)で波長340 〜1800nmの間の透過率を測定し、JIS Z 8722及びJIS R 3106又はJIS Z 8701によって可視光透過率Tv(%)(380〜780nm)、日射透過率Ts(%)(340〜1800nm) 、ISO 9050によって紫外線透過率Tuv(%)(282.5〜377.5nm)、刺激純度Tuv(%)、色調等を求めた。
〔くもり度〕:ヘイズ値HをJIS K6714 に準拠して行い求めた。建築用としては3%以下、自動車用としては1%以下を合格とした。
〔耐湿性〕: 30±3 ℃、相対湿度90±5 %の雰囲気内に静置し、目視で評価した。
【0036】0.1mm 径以上の欠陥の数を数え、100cm2の面積中に0.1 〜0.5mm径の欠陥が10個以下を合格とし、10個を超えると不合格とし、また0.5mm 径を超えるものが1個でもあれば不合格とした。
【0037】その結果、第4層のZnO 薄膜の成膜レ−トは第1層のZnO 薄膜の成膜レ−トに対し約1.7 倍程度と生産性が高まった。また前記耐湿性も約3倍前後(2〜4倍程度)の向上となった。
【0038】また、分光透過率曲線によると可視光透過率Tvが約70%、放射率が約0.07程度等、日射透過率Ts(%)、紫外線透過率Tuv (%)、刺激純度Pe(%)、D65 光源2°による積層薄膜の透過色ならびにガラス面側と膜面側の反射色等については、Low-E ガラスとして充分なものであった。
【0039】実施例2洗浄、乾燥された厚さ3.5mm のフロ−トガラス基板を、DCマグネトロンスパッタリング装置の真空槽内にセットしてあるZnとTiのタ−ゲットに対向して上方を往復できるようセットし、次に前記槽内を真空ポンプで約5×10-6Torrまでに脱気した後、該真空槽内にO2ガスを導入して真空度を約2×10-3Torrに保持し、前記Znのタ−ゲットに約40kwの電力を印加し、前記O2ガスによるDCマグネトロン反応スパッタの中を、前記Znのタ−ゲット上方においてスピ−ド約500mm /min で前記ガラス基板を搬送することによって約30nm厚さのZnO 薄膜を第1層として成膜した。成膜が完了した後、Znタ−ゲットへの印加を停止した。
【0040】次いで、該真空槽内にArガスを導入して真空度を約2×10-3Torrに保持し、Agのタ−ゲットに約45kwの電力を印加し、前記ArガスによるDCマグネトロン反応スパッタの中を、前記Agのタ−ゲット上方においてスピ−ド約3800mm/min で前記ガラス基板を搬送することによって前記ZnO 薄膜上に約13.5nm厚さのAg薄膜を第2層として成膜した。成膜が完了した後、Agタ−ゲットへの印加を停止した。
【0041】続いて、同様にArガスで真空度約2×10-3Torrの中、Znのタ−ゲットに約25kwの電力を印加し、前記ArガスによるDCマグネトロン反応スパッタの中を、前記Znのタ−ゲット上方においてスピ−ド約3800mm/min で前記ガラス基板を搬送することによって前記Ag薄膜上に約2.7nm 厚さのZn薄膜を第3層として成膜した。成膜が完了した後、Znタ−ゲットへの印加を停止した。
【0042】次に、該真空槽内にO2ガスとArガス〔但し、ArガスとO2ガスのガス流量比はAr/(O2+Ar)の値が0.5 である。〕を導入して真空度を約2×10-3Torrに保持し、前記Znのタ−ゲットに約20kwの電力を印加し、前記混合ガスによるDCマグネトロン反応スパッタの中を、前記Znのタ−ゲット上方においてスピ−ド約250mm /min で前記ガラス基板を搬送することによって約45nm厚さのZnO 薄膜を第4層として成膜した。成膜が完了した後、Znタ−ゲットへの印加を停止した。
【0043】なお、膜厚は実施例1と同様に測定した。得られた4層でなる積層薄膜付きガラス基板について、実施例1と同様に評価した。
【0044】その結果、第4層のZnO 薄膜の成膜レ−トは第1層のZnO 薄膜の成膜レ−トに対し約1.5 倍程度と生産性が高まった。また前記耐湿性も約3倍前後(2〜4倍程度)の向上となった。なお、dの値は2.611 でσ=-0.56×1010dyn /cm2 であり、よりバルクに近いものであった。
【0045】また、分光透過率曲線によると可視光透過率Tvが約78%、放射率が約0.06%程度等、日射透過率Ts(%)、紫外線透過率Tuv (%)、刺激純度Pe(%)、D65光源2°による積層薄膜の透過色ならびにガラス面側と膜面側の反射色等については、Low-E ガラスとして充分なものであった。
【0046】なおまた、実施例1、2とも、第1層のZnO 薄膜を第4層のZnO 薄膜と同様にして行うと全体の成膜レ−トがさらに高まるとともに、前記耐湿性もさらに向上する傾向を示した。
【0047】実施例3実施例1と2の第4層目ののZnO 薄膜のみについて、同様にしてスパッタ成膜条件のうち、ガラス基板の搬送速度を100mm /min でA)印加電力0.55kwとB)印加電力0.60kwに対し、混合ガスにおけるO2ガスとArガスのガス流量比を1)O2ガスのみ(O2ガス100 %)、2)25%Arガス+75%O2ガス、3)50%Arガス+50%O2ガス、4)75%Arガス+25%O2ガスで行った。
【0048】その結果、その成膜レ−トが、A)で1)を1として2)1.15倍、3)1.41倍、4)1.77倍となり、またB)で1)を1として2)1.37倍、3)1.79倍、4)2.42倍となった。いずれも、Arガスを混合ガスに含むことによるスパッタ法において成膜レ−トが格段に高まることが明らかであった。
【0049】また、前記A)で1)の条件で成膜した際のZnO 薄膜は前記dの値が2.657 Åとなり、σ=-3.5 ×1010dyn /cm2 で半値幅が0.532 °であり、さらにまた前記A)で3)の条件で成膜した際のZnO 薄膜は前記dの値が2.627Å となり、σ=-1.6 ×1010dyn /cm2 で半値幅が0.315 °であり、明らかに内部応力も減少し結晶性も向上し、前記耐湿性試験で1〜2日程度までしか合格しなかったものが9日程度まで合格するようになり、より耐湿性も向上した。
【0050】比較例1実施例1と同様にし、第4層目のZnO 薄膜のみについて、実施例1と同様のスパッタ成膜条件のうち、混合ガスを92%Arガス+ 8%O2ガスに変えスパッタ成膜した。
【0051】その結果、第4層目の薄膜はZnの金属膜となって完全なZnO 薄膜を得ることができなかった。
比較例2実施例1と同様にし、第4層目のZnO 薄膜のみについて、実施例2と同様のスパッタ成膜条件のうち、混合ガスを5%Arガス+95%O2ガスに変えスパッタ成膜した。
【0052】その結果、前記dの値が2.641 Åで、σ=-2.5 ×1010dyn /cm2 で半値幅が0.515 °であり、強い内部応力をもち、耐湿性試験で2日程度までの合格であり、めざす所期のスパッタ法による膜とは到底言えるようなものではなかった。
【0053】
【発明の効果】以上前述したように、本発明によれば、成膜レ−トを高めより効率化できて生産性を向上することができ、しかも成膜された積層膜の耐湿性を高めることができる等、特にAg薄膜などの金属膜やそれに類する所謂強くないような薄膜をガ−ドする保護膜、ことにLow-E ガラス等機能性薄膜付きガラスとして建築用窓ガラスや自動車用窓ガラス等に有用であるスパッタ法による膜及びその形成法をを安価にかつ容易に提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガラス基板上に、少なくとも下地膜を保護するためにスパッタ法によって形成する保護膜において、少なくともアルゴンガスを含む酸素ガスまたは/および窒素ガスの混合ガス雰囲気内でスパッタし形成した保護膜でなることを特徴とするスパッタ法による膜。
【請求項2】 前記スパッタ法が、直流または高周波スパッタリング方式であることを特徴とする請求項1記載のスパッタ法による膜。
【請求項3】 前記混合ガス中の酸素ガスとアルゴンガスの割合が、酸素ガス:アルゴンガスが9:1から1:9であることを特徴とする請求項1乃至2記載のスパッタ法による膜。
【請求項4】 前記下地膜が金属膜であることを特徴とする請求項1乃至3記載のスパッタ法による膜。
【請求項5】 前記下地膜が、銀、金、銅、亜鉛、チタンの各薄膜であることを特徴とする請求項1乃至4記載のスパッタ法による膜。
【請求項6】 前記保護膜が、酸化物薄膜、窒化物薄膜もしくは酸窒素物薄膜であることを特徴とする請求項1乃至5記載のスパッタ法による膜。
【請求項7】 前記保護膜が、酸化亜鉛薄膜、窒化亜鉛薄膜もしくは酸窒素亜鉛であることを特徴とする請求項1乃至6記載のスパッタ法による膜。
【請求項8】 ガラス基板上に少なくとも下地膜を保護するためにスパッタ法によって形成する保護膜の形成法において、少なくともアルゴンガスを含む酸素ガスまたは/および窒素ガスの混合ガス雰囲気内でスパッタし保護膜を形成するようにしたことを特徴とするスパッタ法による膜の形成法。
【請求項9】 前記スパッタ法が、直流または高周波スパッタリング方式であることを特徴とする請求項8記載のスパッタ法による膜の形成法。
【請求項10】 前記混合ガス中の酸素ガスとアルゴンガスの割合が、酸素ガス:アルゴンガスが9:1から1:9であることを特徴とする請求項8乃至9記載のスパッタ法による膜の形成法。
【請求項11】 前記混合ガスにおけるアルゴンガスの混合割合を、スパッタするための印加電力によってバランスを持たしめるよう調整することを特徴とする請求項8乃至10記載のスパッタ法による膜の形成法。

【公開番号】特開平9−110472
【公開日】平成9年(1997)4月28日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−275987
【出願日】平成7年(1995)10月24日
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)