説明

スパンライク織物

【課題】細繊度の複合ループヤーンを使用してスパンライクな外観、風合いを持った軽量薄地のスパンライク織物を提供すること。
【解決手段】繊度が70デシテックス以下であり、ループ長0.1mm以上0.5mm未満のループ数が100個/m以上であり、実質的に連続交絡を施した芯鞘2層構造であり、かつ鞘糸の繊度が芯糸の繊度以上である複合ループヤーンが経糸と緯糸のいずれか一方かあるいは双方に用いられ、目付けが70g/m以下であることを特徴とするスパンライク織物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパンライクな外観とソフトな風合いを持ち、薄くて軽く、特に衣料用途として適したスパンライク織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薄地のスパン織物は、綿等の細番手を経あるいは緯に使用して製織し、染仕上げ加工したものが実用化されているが、かかる薄地スパン織物は、製織難易度が高く、しかも綿の細番手という高級糸を使用するため高価なものとなり、一般衣料としては普及しにくいという点があった。
【0003】
一方、スパンライクな外観を有する合繊フィラメント糸としては、マルチフィラメント糸条に流体噴射処理をしたループヤーン、いわゆるタスラン糸が広く知られており、その加工方法はタスラン加工として、また、それを使用した織物はタスラン織物として広く用いられている。
【0004】
タスラン加工では、ループの粗大化による糸解除の不良やネップの発生およびネップの形態堅牢性の低下などの問題が一般にあり、これに対処するために流体噴射処理時に糸条への湿潤処理を施すことがその有効な解決手段とされている。
【0005】
しかし、この湿潤処理を施す場合には、糸条に付着された油剤が脱落しやすく、同時にオリゴマーやポリマー屑等も脱落することになる。そして、これらの脱落物が、液体噴射処理を行うノズルの糸条通路内やその出入口に付着して噴射流体の流れを阻害したり、糸条走行の際の抵抗となって、糸条に形成されるループや交絡の形成効果を低下させるなどの不都合を有している。
【0006】
更に、タスラン加工を施すことができる糸条は、一般に、厚地織物に使用される太繊度のものに限られており、細繊度の糸条をタスラン加工に供した場合、上述の脱落物などによるわずかな張力変動が糸切れの原因となるために加工難度が高く、細繊度の糸条に対するタスラン加工は、いまだ実用化されていない。
【0007】
その結果、細繊度のループヤーンを使用したスパンライクな薄地軽量織物の製造も実用化されていない。特に、ダウンジャケットや婦人衣料外衣などの用途では薄地軽量化のユーザーニーズが高く、近年、活発に検討が進められているが、上述の理由からスパンライクな薄地軽量織物は市場展開できていない状況である。
【0008】
後述する本発明に先行する技術として、鞘側を完全に仮撚りしたあと交絡する複合交絡糸に関する提案があり、実施例として太繊度の糸を使用することが提案されている(特許文献1)。また、鞘側を低温仮撚りした後に交絡する複合交絡糸に関する提案があり、実施例として太繊度の糸を使用することが提案されている(特許文献2)。
【0009】
すなわち、これらはいずれも太繊度の糸を使用するものであり、細繊度のループヤーンを用いたスパンライクな薄地軽量織物は得られていない。
【特許文献1】特開昭63−315632号公報
【特許文献2】特開平7−324254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上述した問題を解消し、細繊度の複合ループヤーンを使用してスパンライクな外観、風合いを持った軽量薄地のスパンライク織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明のスパンライク織物は、下記(1)の構成からなる。
(1)繊度が70デシテックス以下であり、ループ長0.1mm以上0.5mm未満のループ数が100個/m以上であり、実質的に連続交絡を施した芯鞘2層構造であり、かつ鞘糸の繊度が芯糸の繊度以上である複合ループヤーンが経糸と緯糸のいずれか一方かあるいは双方に用いられ、目付けが70g/m以下であることを特徴とするスパンライク織物。
【0012】
また、かかる本発明のスパンライク織物において、より具体的に好ましくは、以下の(2)〜(7)のいずれかの構成からなるものである。
(2)前記芯糸の繊度が30デシテックス以下であることを特徴とする上記(1)記載のスパンライク織物。
(3)前記複合ループヤーンが、前記鞘糸に下記式を満たす仮撚り数の仮撚りを施した捩り変形を付与した後、仮撚を施さない芯糸とともに、交絡ノズルに供することにより製造された複合ループヤーンであることを特徴とする上記(1)または(2)記載のスパンライク織物。
12000≦T×√D≦25000
T=仮撚り数(t/m)
D=鞘糸の繊度(デシテックス)
(4)前記鞘糸あるいは前記芯糸が、ポリアミドマルチフィラメントであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の織物。
(5)前記鞘糸あるいは前記芯糸が、カチオン可染ポリエステルであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の織物。
(6)織物表面に樹脂加工が施され、通気度が0.1cc/cm・s以上、1.0cc/cm・s以下であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載のスパンライク織物。
(7)該織物の伸長率が8%以上であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載のスパンライク織物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、細繊度のマルチフィラメント複合ループヤーンを使用することによりスパンライクな外観と風合いを持った薄地軽量織物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
【0015】
本発明の織物は、スパン薄地織物やスパンライク薄地織物が高価格であることや、前述したような技術的な問題から用途展開が困難であった分野、主にダウンジャケット、ダウンプルーフ、婦人衣料等コンパクトでソフトな薄地軽量織物が要求される用途に好ましく用いられる。そのため、織物の目付けは70g/m以下とする必要がある。こういった用途は年々薄地軽量化が進む傾向があり、目付は小さければ小さいほど好ましく、35g/m程度まで小さくすることが可能である。
【0016】
本発明の織物に使用するループヤーンの繊度は70デシテックス以下とすることが必要である。繊度が70デシテックス以下のループヤーンを使用することによって、織物の目付けを70g/m以下にすることが容易になる。また、ループヤーンの繊度が70デシテックスを超えると、従来のタスラン加工でも湿潤処理による糸切れの発生も大きな問題とならずに類似のループヤーンを製造することができ、該ループヤーンを使用した織物は従来の中厚地スパンライク織物と何ら変わりはなく、目付けが大きくなり、ソフトな風合いも得られず薄地織物としての特徴を得ることができないものであり、本発明の目的にはそぐわない。
【0017】
織物を薄地化、軽量化するためにはループヤーンの繊度は細ければ細いほど好ましいが、ループヤーンの製造上の工程通過性から、20デシテックス程度まで細くすることが可能である。
【0018】
そして、本発明の織物に使用するループヤーンはループ長0.1mm以上で0.5mm未満のループ数が100個/m以上であることが肝要であり、さらに300個/m以上であることが好ましく、更に好ましくは500個/m以上である。
【0019】
ここで、本発明における「ループ」とは、糸(織物)表面から糸が飛び出し、たるんでいるだけのもの(いわゆる開放型)や、糸(織物)表面から糸が飛び出し、輪を形成しているもの(いわゆる閉鎖型)あるいは輪を複数回形成している形態等のいずれもが含まれる。
【0020】
また、ループ数とは、毛羽とループを含めて後述するフライカウンターを使用して測定した値を指すものであり、具体的には、ループ長0.1mm以上で0.5mm未満のループ数が100個/m以上であるとは、「TORAY FRAY COUNTER」などのフライカウンターを用いて、糸走行速度を50m/分、糸走行張力を0.1g/dtexに設定し、測定時間を1分間としてループ数を測定し、その値を1m当たりの個数に換算し、その1m当たりのループ個数/mの値から計算して求めるものである。そうした中で、具体的手法として、ループ数が最も多く計測される位置を糸表面とし、糸表面から0.5mm離れた位置での測定値をループ長0.5mm以上のループ数の値とし、同じく糸表面から0.1mm離れた位置での測定値をループ長0.1mm以上のループ数の値とした。
【0021】
そして、その両値を用いて、後者から前者を引く、すなわち、(ループ長0.1mm以上のループ数の値)−(ループ長0.5mm以上のループ数の値)で求められる値が、ループ長0.1mm以上で0.5mm未満のループ数としたものである。なお、ここでのループ長とは、糸表面からループ末端までのループ高さと言ってもよい概念である。
【0022】
本発明において最も重要なことは、薄地軽量織物でありながら、嵩高感、スパンライク感を得ることである。一般的にループヤーンのループサイズは、ある範囲に分布しているが、本発明の織物に使用するループヤーンも同様にそのループサイズは、ループ長にして0mm〜数mmにわたり分布している。ループサイズとしては、微小ループが多いほど織物にした際の良好なピーチタッチやスパン感などの風合いを発現するために適している。ループ長が0.5mmを越えるループは粗大であるためパッケージからの糸の解除性を悪化させたり、さらには糸条を経糸として製織に供した場合、ループ相互の絡みから製織の際の開口不良の原因となったり、織機の綜絖、筬の経糸通過性を悪化させたりするので好ましくない。
【0023】
特に、本発明で使用するループヤーンは、糸自体の繊度が細いため、ループ長が0.5mmを超える大きさの粗大ループは工程通過性に対する影響が非常に大きいのである。また、ループ長が0.1mmよりも短いループは多数存在しても、織物の表面感や風合いにほとんど影響を及ぼさない。
【0024】
従って、風合いと高次通過性の両方を満足する適正なループ長サイズとしてはループ長0.1mm以上0.5mm未満であることが重要なものであり、本発明に使用されるループヤーンは、好ましくは、該適正なループ、つまりループ長0.1mm以上0.5mm未満のループを100個/m以上800個/m以下で有していることが好ましいものである。
【0025】
さらに好ましくは、ループ長0.5mmを越えるサイズのループは50個/m以下であることが好ましい。このようなループ分布を満たすことにより、該ループヤーンは高次通過性も問題なく、織物にした際に良好なスパン感を得ることができる。
【0026】
従来のタスラン加工によるループヤーンにおいては、芯糸と鞘糸との交絡を強固にするため、芯糸の繊度と鞘糸の繊度とは同じにするか、あるいは交絡をさらに強固にし、かつ織物とした際に織物のハリ、コシを得るため芯糸の繊度を太くすることが一般的である。芯糸の繊度が鞘糸の繊度よりも細いと、タスラン加工を施した際に芯糸と鞘糸が絡みにくく、交絡が連続的にならず間欠的に入りやすい。その結果、糸長差が開繊部分に集中することから粗大ループが多くなり、解舒性を悪化させるなど工程通過性に問題を起こしやすくなるためである。
【0027】
本発明で使用するループヤーンは、従来のループヤーンと比較して細繊度のため、従来と比較して細繊度の芯糸および鞘糸を使用する必要がある。糸の製造においては、トータル繊度が細くなればなるほど単繊維繊度を細くすること、つまりフィラメント数を増やすことが難しく、そのため、必然的に鞘糸のフィラメント数が少なくなる。そのため、細繊度のループヤーンにおいては従来のように鞘糸の繊度が芯糸の繊度に対して小さいと、複合ループヤーンのトータル繊度に対しての鞘糸のフィラメント数は少なくなり、織物にした際に鞘糸のループにより発現するスパン感が、従来のスパンライク織物対比劣りやすく、織物にした際にも生糸使い織物に近い風合いになってしまう。
【0028】
そのため、細繊度のループヤーンを製造する際には鞘糸のフィラメント数を多くする目的から鞘糸の繊度を、芯糸の繊度以上、好ましくは芯糸の繊度よりも太くすることが重要である。同じトータル繊度のループヤーンを製造する場合に、鞘糸の繊度が芯糸の繊度よりも大きい場合の方が、芯糸の繊度が鞘糸の繊度よりも大きい場合よりもより良好なスパン感を得ることができるのである。
【0029】
十分なループを得るための鞘糸へのオーバーフィード率を設定した上で鞘糸の繊度を芯糸の繊度よりも太くし、複合ループヤーンの見かけ繊度を70デシテックス以下にするためには、芯糸の繊度を30デシテックス以下にすることが好ましい。更に好ましくは20デシテックス以下である。芯糸の繊度を30デシテックスより太くすると、鞘糸との組合せにより十分なループを有した複合ループヤーンの見かけ繊度を70デシテックス以下にしにくくなる傾向がある。
【0030】
本発明の織物に使用する複合ループヤーンは、いわゆるタスラン糸として知られているような芯糸と鞘糸とが実質的に連続交絡によって絡み合った状態になっており、連続交絡によって形成されたループが該糸を使用して製織した織物のスパン感を発現させる。
【0031】
本発明の織物に使用される複合ループヤーンは、トータル繊度が一般的なタスラン糸と比較すると細いために、前述した理由からタスランノズルでのタスラン加工は困難である。そのため交絡ノズルで湿潤処理を行わずに連続交絡を得ることが好ましい。
【0032】
交絡ノズルで十分な連続交絡を得るためには次の製造方法が好ましい。つまり、マルチフィラメント糸捩り変形を付与した後、交絡ノズルに供する。更に、芯糸に対して鞘糸に少なくとも10%以上のオーバーフィード率差を与えながら、捩り変形装置に供給することが好ましい。ここでいう捩り変形とは一定条件で仮撚り加工を施すことであり、以下に説明する。
【0033】
該ループヤーンの製造において重要なことは、鞘糸のトルクを大きくすることである。ループ形成の過程では、オーバーフィード差により弛緩された鞘糸に、流体の作用でその単糸の様々な方向から力が加わり仮のループを形成し、その状態で絡まり固定されたものが最終的なループとして残る。すなわち鞘糸がそのトルクにより芯糸との糸長差を吸収しながら自然にループを形成しやすい状態にしておくことで、サイズの小さいループを多数形成することが可能になる。
【0034】
更に、本発明者らは、ある一定の条件で仮撚り加工を施すことにより、上記のようなループ形成を容易にするトルクの大きい鞘糸を得る方法を見いだした。
【0035】
通常の仮撚り加工においては、仮撚り数T(t/m)=31623/√糸繊度(デシテックス)を標準とした撚り数が適正とされており、いわゆる捲縮加工糸を得ることができる。捲縮については仮撚り数が大きくなるほど細かく強い捲縮となり、捲縮加工糸に要求されるストレッチ性を得ることができる。ところが、仮撚り糸のトルクについては、仮撚り数が少ないうちはその値が増加するほど大きくなるが、通常の仮撚り数の約60%、つまりT=19000/√糸繊度(D)(デシテックス)前後で最も大きなトルクを示し、仮撚り数をそれ以上大きくするとトルクは減少していく。そのため、本発明で使用するループヤーンを得るためには、鞘糸に仮撚り数T=19000/√糸繊度(D)(デシテックス)前後、具体的には、12000≦T×√D≦25000で仮撚り加工を付与すること、つまり捩り変形を施した後、交絡ノズルに供することが好ましい。
【0036】
それ以上の仮撚り数で仮撚り施すと、得られる糸条は、通常の仮撚り捲縮糸に近づいていき、ループ形成を補助する役割のトルクも減少する。そのため、芯糸と鞘糸とのオーバーフィード率差が大きいと糸長差を吸収することができにくく、糸切れにより複合加工が困難となる場合がある。糸切れを防ぐためには、オーバーフィード率差を少なくすることが好ましく、その結果、ループの発現が抑制され、スパン感が得られなくなる。また、鞘糸が通常の仮撚り捲縮糸であることから、ループ形成上重要である単糸の糸長方向のずれも生じず、その結果、間欠交絡しか入らず、得られたループヤーンは、生糸(仮撚り捩り変形を施していないもの)である芯糸と、仮撚り糸である鞘糸との交絡糸となり、いわゆるタスラン糸のようなスパン感のあるループヤーンとは全く異なった形態をとる。
【0037】
そして、通常の捲縮糸となってしまった鞘糸を使用した複合ループヤーンによる織物は、ループによるスパン感は乏しく、ふかついた織物になる。また、仮撚り数を通常の60%から小さくすればするほど鞘糸のトルクは弱くなり、この場合も間欠交絡が入りやすくなり、ループ形成が困難になることから粗大ループや交絡不良部が増加する。このように、本発明の織物に使用するループヤーンの製造方法においては、捩り変形加工を施す際は、トルクを最大限に発現させ、かつ捲縮形態を強固に固定しないように通常の仮撚り数の60%前後とすることは好ましい要件となる。糸種やオーバーフィード数にもよるが、十分な連続交絡によるループヤーンを得るためには、通常の仮撚り数の40〜80%の範囲で仮撚りをすることが好ましい。
【0038】
通常、芯糸の繊度に対して鞘糸の繊度が大きいと、特に連続交絡を施すことは困難である。しかし、上述の方法、鞘糸に捩り変形を付与した後、交絡ノズルに供することにより、芯糸及び鞘糸の繊度に拘わらず、強固な連続交絡を施すことが可能となる。
【0039】
本発明の複合ループヤーンの製造方法としては、鞘糸と芯糸とを、それぞれ別々のフィードローラから異なった速度で供給し、タスランノズルに導入する直前の段階で両糸を合体し(揃え)、そのまま、合体された状態でタスランノズル内でタスラン加工に供されるようにすることが肝要である。そして、特に、鞘糸と芯糸とを別々のフィードローラから異なった速度で供給する際、鞘糸と芯糸とのオーバーフィード率差を10%以上40%以下とし、かつ、鞘糸を、仮撚ツイスターと仮撚ヒータを有する仮撚り加工装置に導入し、加撚状態で加熱されるようにして該鞘糸に捩り変形を付与した後、液流噴射ノズルに供することが好ましい。仮撚ヒータの温度は、100℃〜200℃程度の範囲内、すなわち、通常の仮撚捲縮加工(ウーリィ加工)の一般的な温度範囲(180℃〜200℃)よりは、やや低めの低い温度を含め設定するのがよい。
【0040】
特に、芯糸は5〜10%オーバーフィードを与えた糸を用いることが好ましい。特に、ループ長0.1mm以上0.5mm未満のループ数が100個/m以上であり、実質的に連続交絡を施した芯鞘2層構造である複合ループヤーンは、オーバーフィード率差を10%以上とすることにより製造することができる。
【0041】
なお、上記において、オーバーフィード率差が10%未満であると、鞘糸が十分なループを形成せず、該ループヤーンを使用した織物は十分な表面のスパン感が得られない。また、オーバーフィード率差が40%を越えると、粗大ループが増加し、該ループヤーンをチーズから解除する際に鞘糸のループどおしが絡まり、解除不良を起こしやすくなり場合がある。更には、本発明の複合ループヤーンを経糸に使用した場合に織機上での経糸のさばきが悪く容易に経糸切れを引き起こしたり、開口不良による停台を引き起こすことにより、工程通過性および品質上不都合を生じる場合がある。なお、本発明において、鞘糸と芯糸とのオーバーフィード率差とは、それぞれのオーバーフィード率を、芯糸のオーバーフィード率をA(%)、鞘糸のオーバーフィード率をB(%)として、(B−A)(%)の値として求められるものである。
【0042】
上述した複合ループヤーンは、経糸と緯糸のいずれか一方かあるいは双方に用いられて製織され、目付けが70g/m以下である本発明のスパンライク織物にされる。
【0043】
本発明の織物では容易にストレッチ性を発現する。上述のように10〜40%のオーバーフィード率差を設定することで、ループヤーンは鞘糸による嵩高性が発現し、織物上でのループヤーンのクリンプが大きくなりやすい。そのため、ループヤーンの方向、例えばループヤーンを緯糸に使用した場合は織物の緯糸の方向に引っ張った場合、鞘糸の嵩高性を潰すように、つまり糸長差でたるんだ鞘糸をクッションにしてクリンプを小さくしながら織物を伸長させることができる。更にオーバーフィード率差を10%以上40%以下とした上で、芯糸に10%以下のオーバーフィードを与えると、複合ループヤーンは芯糸が弛んだ状態で、より弛んだ鞘糸と連続交絡された状態になるため、よりいっそうの伸長性を発現する。芯糸のオーバーフィード率を10%以上にすると、その交絡によっても芯糸のたるみを吸収することができず、複合交絡加工は困難になる場合がある。そのため、ストレッチ性を発現させるためには芯糸のオーバーフィード率は0〜10%以下にすることが好ましい。
【0044】
芯糸と鞘糸とのオーバーフィード率差を10〜40%、芯糸のオーバーフィード率を0〜10%とした複合ループヤーンを使用して織物に使用することによって、伸長率が8%以上を有するという優れた伸長特性を有する本発明のスパンライク織物を製造することができる。本発明のスパンライク織物において、好ましくは、伸長率が10%以上を有する織物であり、該伸長特性を有する織物は、特に、8%以上の伸長率のものは、オーバーフィード率差を20%以上、芯糸オーバーフィード率を3%以上とすることにより、また、10%以上の伸長率のものは、オーバーフィード率差を30%以上、芯糸オーバーフィード率を3%以上とすることにより製造することができる。本発明にかかるスパンライク織物の伸長率値の上限は、本発明者らの知見によれば、13%までである。
【0045】
本発明におけるループヤーンおよびスパンライク織物を構成する繊維素材は、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートやこれらの共重合物などのポリエステル類、ナイロン6やナイロン6,6および共重合ナイロンなどのポリアミド類、あるいはこれらの混合物などを使用することができる。
【0046】
薄地織物の外衣として使用する上では強度と柔らかさが要求されることから、ポリアミドマルチフィラメントを用いることが好ましい。また、芯糸にポリアミドマルチフィラメント、鞘糸にカチオン可染ポリエステルマルチフィラメントを使用することは好ましく、このような組合せによって、芯糸部と鞘糸部とを異なる色で染色することが可能で、斑感のある外観を得、スパン感を強調することができる。
【0047】
本発明の織物は、さまざまな用途においての使用が可能であるが、特にダウンプルーフ用途においては、通常、織物の通気度0.1cc/cm・s以上、1.0cc/cm・s以下が要求される。通気度が1cc/cm・sよりも大きいものであると、最終製品の衣料等においてダウン抜けが発生しやすくなるためである。また、通気度が0.1cc/cm・s未満のものであると、ダウンプルーフ生地を縫製した側地内にダウンを詰める製造工程において、空気が十分に抜けないことから、ダウンをスムーズに側地内に詰めることができず、更には製品となった後も空気が出入りすることによるふくらみ、しぼみの変形がしにくくなる。本発明の織物は、ループヤーンを使用しているため、ループ部分で織物上に空隙が形成され、一般に、通気度は1cc/cm・s以上に高くなりやすい。そのため、ダウンプルーフ用途などに使用することを企図して、安定的に0.1cc/cm・s以上1.0cc/cm・s以下の通気度を実現するためには、織物表面に樹脂コーティングなどの樹脂加工を施すことが好ましい。使用する樹脂は、特に限定されないが、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、あるいはシリコン樹脂などを使用することができる。このような低通気度の制御を行うためには、水系樹脂を用いたコーティングが特に好ましいものであり、特に、上述した範囲の通気度を得るためには、フローティングナイフコーティング方式にて、塗布量10g/mとすることが重要である。なお、溶剤系樹脂は、製膜性が高く、織物上の空隙を強固に塞いでしまう場合があるので、通気度が0.1cc/cm・s未満になりやすく、0.1cc/cm・s以上1.0cc/cm・s以下となるように制御することが難しい場合がある。一方、水系樹脂は製膜性が低く、特に衣料用途で通常施される撥水加工を施した織物にははじかれるため、不均一に製膜し、適度に織物上の空隙を残す結果、通気度を0.1cc/cm・s以上1.0cc/cm・s以下に制御することが容易なものである。
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、実施例における糸特性および織物特性は次の方法により求めたものである。
【0049】
(1)ループ数
走行中の糸のループ数や毛羽数を計測する光電型毛羽測定器(TORAY FRAY COUNTER)を用い、糸速50m/min、走行張力0.1g/dtexの条件で1分間測定し、1m当たりのループ数に換算した。ループ数が最も多く計測される位置を糸表面とし、例えば、糸表面から0.5mm離れた位置での測定値をループ長0.5mm以上のループ数とし、糸表面から0.1mm離れた位置での測定値をループ長0.1mm以上のループ数とした。
そうした測定方法によって、ループ長0.1mm以上0.5mm未満のループ数とは、(ループ長0.1mm以上のループ数の値)−(ループ長0.5mm以上のループ数の値)で求められる値が、ループ長が0.1mm以上で0.5mm未満のループ数である。
【0050】
(2)通気度
JIS−L−1096 8.27.1に規定されている通気度(フラジール法 A法)に準拠する。
【0051】
(3)伸張率
JIS−L−1096 8.14.1に規定されている伸長率(A法 定速伸長法)に準拠する。
【0052】
実施例1
芯糸としてナイロン6マルチフィラメント糸の13dtex−10フィラメント(F)、鞘糸としてナイロン6マルチフィラメント糸の33dtex−26Fを使用し、鞘糸に捩り変形を施した後、捩り変形を施さない芯糸と交絡複合化し、複合ループヤーンとした。その際、鞘糸の仮撚り温度は120℃、仮撚り数は3400t/mとし、芯糸のオーバーフィード率を3%、鞘糸のオーバーフィード率を33%と設定した。得られたループヤーンは、トータル繊度が60dtex、ループ長0.5mm以下のループ数が402個/m、ループ長0.5mmより長いループ数が21個/mであった。更に経糸にナイロン66マルチフィラメント糸の33dtex−26F、緯糸に該複合ループヤーンの60dtex−36Fを使用してエアジェットルームで平織りに製織した。ループヤーンの緯糸解舒性も問題なく製織した。更に該生機に通常のナイロン精練、染色加工を施すことにより経糸密度168本/inch、緯糸密度125本/inchの織物を得た。該織物は目付が56.9g/mであり、通気度が1.7cc/cm・s、伸長率が13%で、軽量で柔らかく、緯糸のループが十分織物表面に出て外観、風合いともスパン感が発現したナイロン織物となった。
【0053】
実施例2
実施例1と同様に生機を製織および染色加工した後、乾式のフローティングナイフ方式により水系のウレタン樹脂を塗布量2.1g/mでコーティングした。経糸密度は実施例1と同じであったが、目付は59.0g/mであり通気度は0.2cc/cm・s、伸長率は11%であった。実施例1と同様に軽量で柔らかく、外観、風合いともスパン感が発現したナイロン織物で、更に通気度が低いことからダウンプルーフ用途としても使用可能であった。
【0054】
実施例3
鞘糸としてカチオン可染ポリエステルマルチフィラメント糸の33dtex−48Fを使用し、鞘糸の仮撚り数を3200t/mとする以外は実施例1と同様に交絡複合化することにより複合ループヤーン60dtex−58Fを得た。得られたループヤーンは、トータル繊度が60dtex、ループ長0.5mm以下のループ数が742個、ループ長が0.5mmより長いループ数が38個であった。更に緯糸に該ループヤーンを使用すること以外は実施例1と同様に製織し、酸性染料とカチオン染料の同浴染めで染色加工し、経糸および芯糸を酸性染料で、鞘糸をカチオン染料で染色させることにより異色効果を出し、経糸密度168本/inch、緯糸密度125本/inchの織物を得た。該織物は目付が55.1g/mであり、通気度が1.5cc/cm・s、伸長率が12%で、軽量で柔らかく、緯糸のループが十分織物表面に出て外観、風合いともにスパン感が発現したナイロン織物となった。更に、多色染めしたことから、実施例1にはない自然な斑感が得られた。
【0055】
実施例4
芯糸としてナイロン6マルチフィラメント糸の8dtex−5F、鞘糸としてナイロン6マルチフィラメント糸の11dtex−16Fを使用し、鞘糸の仮撚り数を6000t/mとする以外は実施例1と同様に交絡複合化することにより複合ループヤーン23dtex−21Fを得た。得られたループヤーンは、トータル繊度が23dtex、ループ長0.5mm以下のループ数が247個/m、ループ長が0.5mmより長いループ数が7個/mであった。更に経糸にナイロン6マルチフィラメント糸の17dtex−7Fを使用し、緯糸に該ループヤーンを使用すること以外は実施例2と同様に製織、染色加工およびコーティング加工し、経糸密度210本/inch、緯糸密度180本/inchの織物を得た。
【0056】
該織物は目付が35.2g/mであり、通気度が0.3cc/cm・s、伸長率が10%で、非常に軽量で柔らかく、緯糸のループが十分織物表面に出て外観、風合いともスパン感が発現したナイロン織物となった。更に通気度が低いことからダウンプルーフ用途としても使用可能であった。
【0057】
比較例1
芯糸としてナイロン6マルチフィラメント糸の44dtex−13F、鞘糸としてナイロン6マルチフィラメント糸の44dtex−34Fを使用し、鞘糸の仮撚り数を3000t/mとする以外は実施例1と同様に交絡複合化することにより複合ループヤーン106dtex−47Fを得た。得られたループヤーンは、トータル繊度が106dtex、ループ長0.5mm以下のループ数が525個/m、ループ長0.5mmより長いループ数が27個/mであった。更に経糸にナイロン66マルチフィラメント糸の44dtex−34F、緯糸に該複合ループヤーンを使用する以外は実施例1と同様に製織し、更に該生機に通常のナイロン精練、染色加工を施すことにより経糸密度150本/inch、緯糸密度100本/inchの織物を得た。該織物は目付が79.0g/mであり、通気度が1.6cc/cm・s、伸長率が12%で、緯糸のループが十分織物表面に出て外観、風合いともスパン感が発現したナイロン織物であったが、軽量感やソフトな風合いはなく、通常のタスラン糸を使用した織物と何ら変わりのないものであった。
【0058】
比較例2
芯糸としてナイロン6マルチフィラメント糸の33dtex−10F、鞘糸としてナイロン6マルチフィラメント糸の13dtex−10Fを使用し、鞘糸の仮撚り数を5263t/mとする以外は実施例1と同様に交絡複合化することにより複合ループヤーン51dtex−20Fを得た。得られたループヤーンは、トータル繊度が51dtex、ループ長0.5mm以下のループ数が95個/m、ループ長0.5mmより長いループ数が2個/mであり、毛羽感の少ない複合ループヤーンであった。更に緯糸に該複合ループヤーンを使用する以外は実施例1と同様に製織し、該生機に通常のナイロン精練、染色加工を施すことにより経糸密度168本/inch、緯糸密度136本/inchの織物を得た。該織物は目付が52.0g/mであり、通気度が1.4cc/cm・s、伸長率が8%であった。緯糸のループが少ないため織物表面にあまり出ておらず、外観、風合いとも十分なスパン感の発現がみられないナイロン織物であった。
【0059】
比較例3
芯糸としてナイロン6マルチフィラメント糸の13dtex−10F、鞘糸としてカチオン可染ポリエステルマルチフィラメント糸の33dtex−48Fを使用し、仮撚り数を5000t/mとし、芯糸のオーバーフィード率を1%、鞘糸のオーバーフィード率を10%と設定した以外は実施例1と同様に交絡複合化することにより複合ループヤーン60dtex−58fを得た。得られたループヤーンは、トータル繊度が60dtex、ループ長0.5mm以下のループ数が10個/m、ループ長0.5mmより長いループ数が100個/mであった。複合糸の形態としても、いわゆるタスラン糸のようなループは見られず、スパン感がなく、鞘糸の捲縮糸と芯糸の生糸とに間欠交絡をかけたものであった。更に緯糸に該複合ループヤーンを使用する以外は実施例2と同様に製織、染色加工を施すことにより経糸密度168本/inch、緯糸密度125本/inchの織物を得た。
【0060】
該織物は目付が55.1g/mであり、通気度が1.5cc/cm・s、伸長率が5%であった。また、軽量ではあったが、外観、風合いともループによるスパン感はなく、通常の仮撚り加工糸使いの織物で、ややハリのある風合いをもったものであった。
【0061】
以上の各実施例、比較例における糸使い、織物仕様、評価結果などを表1、表2にまとめて示した。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊度が70デシテックス以下であり、ループ長0.1mm以上0.5mm未満のループ数が100個/m以上であり、実質的に連続交絡を施した芯鞘2層構造であり、かつ鞘糸の繊度が芯糸の繊度以上である複合ループヤーンが経糸と緯糸のいずれか一方かあるいは双方に用いられ、目付けが70g/m以下であることを特徴とするスパンライク織物。
【請求項2】
前記芯糸の繊度が30デシテックス以下であることを特徴とする請求項1記載のスパンライク織物。
【請求項3】
前記複合ループヤーンが、前記鞘糸に下記式を満たす仮撚り数の仮撚りを施した捩り変形を付与した後、該鞘糸を仮撚りを施さない芯糸とともに、交絡ノズルに供することにより製造された複合ループヤーンであることを特徴とする請求項1または2記載のスパンライク織物。
12000≦T×√D≦25000
T=仮撚り数(t/m)
D=鞘糸の繊度(デシテックス)
【請求項4】
前記鞘糸あるいは前記芯糸が、ポリアミドマルチフィラメントであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスパンライク織物。
【請求項5】
前記鞘糸あるいは前記芯糸が、カチオン可染ポリエステルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスパンライク織物。
【請求項6】
織物表面に樹脂加工が施され、通気度が0.1cc/cm・s以上、1.0cc/cm・s以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のスパンライク織物。
【請求項7】
該織物の伸長率が8%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のスパンライク織物。

【公開番号】特開2009−108453(P2009−108453A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284918(P2007−284918)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(597122792)原田商事株式会社 (4)
【Fターム(参考)】