説明

スピニング加工装置

【課題】油圧機構を使用することなく、ローラ工具と成形型が干渉しても、過負荷による破損の虞れなく教示作業を行うことができるスピニング加工装置を提供すること。
【解決手段】駆動電流に応じた推力を発生するリニアモータでローラ工具を駆動し、教示においては作業者が操作レバーによりローラ工具を手動操作してワークを成形するとともに、その際の動作指令をメモリに記憶し、以後は記憶された動作指令をリニアモータに与えることにより同じ形状を繰り返し成形するので、ローラ工具と成形型が干渉しても、過負荷による破損の虞れがなく、スピニング加工の教示作業を行うことができる。また、摩擦等の外乱があっても教示の際とほぼ同じローラ工具の動きを忠実に再現できる。更に、教示に時間がかかっても小さいメモリ容量で教示データを記憶でき、再生の際には加工時間を短縮できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピニング加工装置に関し、特に教示再生方式のスピニング加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スピニング加工は、成形型に板材または管材のワークを取り付けて成形型とともに回転させ、ローラ工具でワークを成形型に押し付けて成形加工を行う塑性加工方法である。この加工方法は、金属を素材とする製品の成形加工法として、家庭用容器、装飾工芸品、照明器具、ボイラ、タンク、ノズル、エンジン部品、パラボラアンテナ、タイヤホイールなどの部品・製品の製造に広く使用されている。
【0003】
また、スピニング加工装置は、成形型およびワークを回転させるための主軸と、ローラ工具を駆動してワークを成形型に押し付けるための複数の互いに交差した直動アクチュエータから構成される。従来のスピニング加工装置においては、ローラ工具を駆動するための直動アクチュエータとして、油圧シリンダや、サーボモータによって回転駆動されるボールねじ機構が使用されていた。
【0004】
一方、ローラ工具の制御においては、位置座標を数値で入力する普通の数値制御のほかに、作業者が操作レバーによりローラ工具を手動操作して実際に成形を行い、その際に記憶した動作指令を再生してそれ以降の成形を行う教示再生方式が広く用いられている。ワークを徐々に変形する多段階の絞りスピニングでは、熟練作業者の経験と技能に基づくローラ工具の経路指定が重要であり、教示再生方式ならばそれを容易に自動生産へ反映できる。また、スピニング加工では成形型とローラ工具の間の隙間を成形後の製品肉厚にしたがって正確に制御することが必要だが、教示再生方式では教示時の現物合わせとなるため、適切な隙間が実現しやすい。
【0005】
ところが、直動アクチュエータとしてボールねじ機構を使用した場合、通常サーボモータは位置制御あるいは速度制御されて剛性が高い状態になっているため、教示作業中にローラ工具と成形型が干渉すると、過負荷が発生して動力伝達機構等を破損する虞れがある。
そのため教示再生方式のスピニング加工装置では、アクチュエータとして油圧シリンダが用いられることが多い。特許1640675号や特許1704269号においては、こうした教示再生方式のスピニング加工装置において、リリーフ弁等を用いて油圧を制限し、過剰な加工力を防ぐ方法が考案されている。
【特許文献1】特許1640675号公報
【特許文献2】特許1704269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の油圧機構によってローラ工具を駆動するスピニング加工装置にあっては、作動油の配管系における流体抵抗、弁の応答性、更には、作動油管理など保守に手間がかかり、特性が温度変化の影響を受けやすい。また、油漏れによる環境汚染の危険があるため、設置場所も限定される等の欠点が存在した。
一方、ボールネジ機構を使用した場合、ネジ機構の摩擦抵抗やバックラッシュ、駆動モータとボールネジ間の継ぎ手の弾性等の為に十分な応答性を有した力制御を実現することが困難であった。
【0007】
この発明は、上記に鑑み提案されたもので、教示再生方式のスピニング加工装置であって、取り扱いが容易な電動アクチュエータを用いながら、ローラ工具と成形型が干渉しても、過負荷による破損の虞れなく教示作業を行うことができるスピニング加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明のスピニング加工装置は、回転する成形型に板材のワークをローラ工具で押し付けて成形加工を行うスピニング加工装置において、駆動電流に応じた推力を発生し、前記ローラ工具を駆動するリニアモータと、前記リニアモータに動作指令を与える操作レバーと、メモリを含んだ制御部とを備え、教示においては、作業者が前記操作レバーにより前記ローラ工具を手動操作してワークを所定の形状に成形するとともに、その際の動作指令を制御部のメモリに記憶し、以後は前記メモリに記憶された動作指令を前記リニアモータに与えることにより同じ形状を繰り返し成形可能なことを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明において、前記動作指令は、前記操作レバーの角度に対応した前記リニアモータへの速度入力を積分して得られた前記ローラ工具の目標位置であり、前記ローラ工具の現在位置と前記目標位置との偏差のフィードバックに基づいて前記リニアモータの駆動電流を決定することを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の発明において、前記動作指令の教示時において、前記ローラ工具の目標位置が一定距離以上移動する毎に前記目標位置およびその瞬間の時刻を記憶し、再生時においては前記目標位置と通過時刻の対応が変更可能なことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明は、上記した構成からなるので、以下に説明するような効果を奏することができる。
本発明のスピニング加工装置において、使用するリニアモータは駆動電流に応じた推力を発生し、発生した推力をボールねじのような伝達機構を介することなく直接に駆動対象へ及ぼすことができる。また、摺動部分を持たないため摩擦抵抗は、直線ガイド機構におけるリニアベアリングによるもののみであり、摩擦による推力の損失が小さい。したがって、過負荷による伝達機構の破損の危険がない教示再生方式の加工装置を構成することが可能となる。
したがって、本願発明によれば、回転する成形型に板材のワークをローラ工具で押し付けて成形加工を行うスピニング加工装置において、駆動電流に応じた推力を発生し、前記ローラ工具を駆動するリニアモータと、前記リニアモータに動作指令を与える操作レバーと、メモリを含んだ制御部とを備え、教示においては、作業者が前記操作レバーにより前記ローラ工具を手動操作してワークを所定の形状に成形するとともに、その際の動作指令を制御部のメモリに記憶し、以後は前記メモリに記憶された動作指令を前記リニアモータに与えることにより同じ形状を繰り返し成形可能であるので、油圧シリンダを使用した場合よりも保守等の取り扱いが容易で、過剰な加工力を防ぐ手段を設ける必要がない。また、ローラ工具と成形型が干渉しても、ボールねじ機構のように過負荷による破損の虞れがなく、スピニング加工の教示作業を行うことができる。
【0012】
また、本発明では、前記動作指令は、前記操作レバーの角度に対応した前記リニアモータへの速度入力を積分して得られた前記ローラ工具の目標位置であり、前記ローラ工具の現在位置と前記目標位置との偏差のフィードバックに基づいて前記リニアモータの駆動電流を決定するので、摩擦等の外乱があっても教示の際とほぼ同じローラ工具の動きを忠実に再現できる。
【0013】
また、本発明では、前記動作指令の教示時において、前記ローラ工具の目標位置が一定距離以上移動する毎に前記目標位置およびその瞬間の時刻を記憶し、再生時においては前記目標位置と通過時刻の対応が変更可能であるので、教示に時間がかかっても小さいメモリ容量で教示データを記憶でき、再生の際には加工時間を短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
油圧機構を使用することなく、ローラ工具と成形型が干渉しても、過負荷による破損の虞れなく教示作業を行うという目的を、駆動電流に応じた推力を発生するリニアモータとリニアモータに動作指令を与える操作レバーとメモリを含んだ制御部とを備え、教示の際の動作指令をメモリに記憶し、以後メモリに記憶された動作指令をリニアモータで再生する加工装置により実現する。
【実施例】
【0015】
以下、本発明のスピニング加工装置の一実施例について図面を参照して説明する。
図1は本発明のスピニング加工装置の概略図である。ワーク1は芯押棒2によって成形型3にセンタリングされ、主軸モータ4によって成形型3とともに回転する。ローラ工具5は、固定子6aおよび可動子6bから構成されるリニアモータ6で駆動される直動テーブル7によって成形型3の半径方向(y方向)に前進あるいは後退する。また直動テーブル7は固定子8aおよび可動子8bから構成されるリニアモータ8で駆動される直動テーブル9によって成形型3の回転軸方向(x方向)に前進あるいは後退する。ローラ工具5によりワーク1を成形型3に押し付け、初期形状である平板1aから最終的には成形型3に沿った形状1bにワーク1を加工する。
【0016】
操作レバー10は、ポテンショメータを内蔵し、x方向、y方向へのレバーの傾きにそれぞれ比例した速度入力の電圧信号を計算機(制御部)11のA/Dコンバータ12x、12yに入力する。また、リニアモータへの電流指令がD/Aコンバータ13x、13yを介してサーボアンプ14x、14yに出力され、それぞれリニアモータ6、8への駆動電流を発生する。また各リニアモータ6、8は、可動子6b、8bの位置を検出するエンコーダなどの位置センサを備え、その位置信号はカウンタ15に入力される。計算機(制御部)11のCPU16は、A/Dコンバータ12x、12y及びカウンタ15を介して各信号を取り込み、制御のための計算処理を行って、D/Aコンバータ13x、13yからサーボアンプ14x、14yへの制御信号を出力する一方、メモリ17に動作指令を記憶する。
【0017】
図2に本発明による制御の概念図を示す。教示モード図2(a)において、作業者が操作レバー10を操作すると、レバーの角度に応じて速度入力Vx、Vyが発生する。速度入力Vx、Vyを積分器で積分して得られるローラ工具の目標位置xd、ydと、カウンタ15から入力されるローラ工具の現在位置x、yとの偏差Δx、Δyを計算し、比例微分制御などの位置制御則によりサーボアンプ14への電流指令を求める。以上により作業者のレバー操作に従ってローラ工具が動き、ワークを加工することができる。比例微分制御においてはフィードバックゲインの設定を小さめとするか、あるいはサーボアンプへの電流指令において最大電流制限を設定することによって、ローラ工具と成形型が干渉しても過負荷が発生するのを防ぐことができる。また同時に、加工中のローラ工具の目標位置xd、ydを動作指令の配列としてメモリ17に記憶する。
【0018】
一方、再生モード図2(b)においては、メモリ17に格納されたローラ工具の目標位置xd、ydを動作指令として順次取り出し、教示モード(a)と同様に位置制御側に入力する。これによって、ローラ工具は作業者によって教示された動作と同じ動きを再現し、ワークを同じ形状に加工することができる。この場合、動作指令がサーボアンプへの電流指令あるいはローラ工具の速度指令としてメモリ17に記憶されていると、摩擦等に起因する制御誤差の累積によって、必ずしも教示時と同じ動きが再生できない場合がある。しかし本発明のようにローラ工具の目標位置を動作指令として記憶しておけば、摩擦等の外乱があっても位置制御則によって外乱が補償され、ローラ工具は目標位置近傍にとどまるため、教示時とほぼ同じローラ工具の動きが忠実に再現できる。
【0019】
また、教示において特に作業者が未熟練の場合や未経験の材質・形状を加工する場合、教示の途中でローラ工具を止めて加工状態を観察したり、ローラ工具の動きを非常に遅くして加工する場合がある。通常、動作指令の記憶は一定時間間隔で行われるが、上記のような教示動作を行うと、ローラ工具がほとんど停止している無駄なデータで大量のメモリが消費され、再生による加工においても余計な時間がかかる。
【0020】
そこで、ローラ工具の目標位置が一定距離以上移動する毎に、目標位置およびその瞬間の時刻を記憶する(図3)。すなわち、最後に記憶した目標位置を(xn-1、yn-1)として、現在のローラ工具目標位置を(x、y)とすると、
(x−xn-12+(y−yn-12 ≧ d2
となった瞬間のx、yをそれぞれ次の目標位置xn、ynとして記憶する。また、その瞬間の時刻もTnとして記憶する。記憶された隣接する目標位置間の距離はほぼdとなる。
【0021】
再生の際には、Tnを基準時刻からの経過時間として、ローラ工具を目標位置(xn、yn)に追従させれば、ローラ工具の運動態様は教示の際と全く同じになる。一方、目標位置(xn、yn)とその通過時刻の対応を変更することもできる。例えば、Tnの代わりに一定時間間隔nΔTで目標位置(xn、yn)を追従すれば、目標位置は一定の速さd/ΔTで動くことになる。こうすることでローラ工具が停止している時間を省き、再生の際の加工時間を短縮できる。
【0022】
以上本発明に係わるスピニング加工装置を図示する実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されることなく、特許請求の範囲記載の技術的事項の範囲内で種々の実施の態様があることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係わるスピニング加工装置の一例を示す概略図である。
【図2】同スピニング加工装置における教示モード・再生モードにおける制御の概要を示す説明図である。
【図3】同スピニング加工装置における教示データにおける目標位置の与え方を示す説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1 ワーク
1a ワーク初期形状
1b ワーク最終形状
2 芯押棒
3 成形型
4 主軸モータ
5 ローラ工具
6 リニアモータ
6a 固定子
6b 可動子
7 直動テーブル
8 リニアモータ
8a 固定子
8b 可動子
9 直動テーブル
10 操作レバー
11 計算機(制御部)
12 A/Dコンバータ
13 D/Aコンバータ
14 サーボアンプ
15 カウンタ
16 CPU
17 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する成形型に板材のワークをローラ工具で押し付けて成形加工を行うスピニング加工装置において、
駆動電流に応じた推力を発生し、前記ローラ工具を駆動するリニアモータと、
前記リニアモータに動作指令を与える操作レバーと、
メモリを含んだ制御部とを備え、
教示においては、作業者が前記操作レバーにより前記ローラ工具を手動操作してワークを所定の形状に成形するとともに、
その際の動作指令を制御部のメモリに記憶し、以後は前記メモリに記憶された動作指令を前記リニアモータに与えることにより同じ形状を繰り返し成形可能なことを特徴とするスピニング加工装置。
【請求項2】
前記動作指令は、前記操作レバーの角度に対応した前記リニアモータへの速度入力を積分して得られた前記ローラ工具の目標位置であり、
前記ローラ工具の現在位置と前記目標位置との偏差のフィードバックに基づいて前記リニアモータの駆動電流を決定することを特徴とする請求項1に記載のスピニング加工装置。
【請求項3】
前記動作指令の教示時において、前記ローラ工具の目標位置が一定距離以上移動する毎に前記目標位置およびその瞬間の時刻を記憶し、
再生時においては前記目標位置と通過時刻の対応が変更可能なことを特徴とする請求項2に記載のスピニング加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−313510(P2007−313510A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142216(P2006−142216)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(598004354)株式会社大東スピニング (9)