説明

スピニング加工装置

【課題】 成形ローラの半径方向の位置に依存して変化する遠心力の影響を打ち消して成形力が大きく変動することがないようにしたスピニング加工装置を提供する。
【解決手段】 ワークWを固定するクランプ機構13と、ワークの軸線Jに沿った回転軸24を中心に回転する回転ドラム25と、回転対称となる位置関係で対をなすように配置される複数の成形ローラ11と、回転ドラムに固定され、成形ローラ11を回転ドラム25の半径方向に移動可能に支持する成形ローラスライド機構とからなり、回転ドラム25に支持され、旋回半径の変化に応じて増減する成形ローラ11の遠心力に対し、遠心力の増減分も含めて打ち消すように変化する付勢力を、成形ローラ11よりも外周側から成形ローラ11に付勢する付勢機構40を備えた構造にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筒状のワークを加工するためのスピニング加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種高圧ガスを充填する容器には鉄製やステンレス製の圧力容器(ボンベ)が使用されている。また、次世代の自動車である燃料電池車では水素燃料を充填して搭載するための軽量で耐圧性能が高い圧力容器が求められているが、このような要求を満足できる圧力容器として、アルミ合金製の金属ライナーの外側に補強樹脂層を形成した圧力容器が利用されている。
【0003】
金属製の圧力容器や金属ライナーは、円筒状の胴部の両端に、胴部よりも径が小さくなる湾曲面(例えば椀状、半円状、楕円状の湾曲面)を有するドーム部が形成されており、このドーム部を介して底部が形成されたり、ドーム部を介して口金取付部が形成されたりしている。一般に、ドーム部から底部、口金取付部に至る部分は、成形ローラを押し当てて加工するスピニング加工により成形されることが多い(特許文献1参照)。
【0004】
ところで、特許文献1に図示されているようなスピニング加工では、1つの成形ローラを使用し、加工対象である円筒部材を回転させておき、成形ローラを回転中の円筒部材の加工部分(ドーム部や口金取付部など)に対して一方向から押し当てるようにして所望の形状に変形させている。
しかしながら、この加工方法では、加工中に成形ローラによる押圧力が円筒部材を回転軸から偏心させるように作用することになり、その結果、スピニング加工によって形成されるワークの安定性は悪くなり、ワークがチャックから逃げやすくなっていた。
【0005】
また、特許文献1に図示されているようなスピニング加工では、円筒部材の外周面を、チャック機構で把持するようにして固定し、回転機構で円筒部材を回転させるのが一般的である。その場合、回転により遠心力が働くと、チャック機構による円筒部材の保持力が弱まるようになり、加工中に位置ずれが生じて外周面に傷が生じたり、加工精度の不具合が発生したりすることになる。
そのため、ワークの安定性が問題とならない程度になるようにローラの押圧力を制限し、また、遠心力による位置ずれが問題とならない程度になるように回転機構の回転速度を制限するようにしてスピニング加工を行うようにしている。
【0006】
また、別のスピニング成形機の従来例として、円筒状ワークの外周面に沿って旋回しつつ旋回半径を縮小するようにしてスピニング加工を行う成形ローラと、成形ローラによって成形されたワークの外周面に沿って旋回することにより不要部分を切断するカッターとを備えた構造とし、ワークをクランプ部で固定し、成形ローラとカッターとの双方を旋回駆動する1つの回転軸と、成形ローラとカッターを、別々に、前記回転軸に対し離間接近自在に支持するリニアスライドと、当該リニアスライドのうち前記成形ローラまたは前記カッターに係るいずれか一方のリニアスライドを前記回転軸に対し変位させる駆動手段(具体的には回転軸の内部を貫通して軸方向に変位するドローバー)と、当該一方のリニアスライドの変位を、これと逆方向の変位として他方のリニアスライドに伝達するリンク機構とを備えるようにしたものが開示されている(特許文献2参照)。
【0007】
これによれば、成形ローラおよびカッターのそれぞれに係るリニアスライドを、リンク機構によってつなぐようにしたので、成形ローラとカッターの旋回時にそれぞれに作用する遠心力を、互いの遠心力を打ち消す力として作用させることができ、遠心力に起因する振動発生などの問題を解決するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−113590号公報
【特許文献2】特開2004−291048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のスピニング加工に対し、特許文献2に記載のスピニング成形機では、ワーク(筒状部材)を回転させずにクランプ部で固定しているため、ワークに遠心力が働かなくなり、ワークの保持力が遠心力で弱まることによって位置ずれが発生したり傷が発生したりする問題はなくなる。また、成形ローラに働く遠心力を、カッターに働く遠心力で打ち消すようにしているので、成形ローラに働く遠心力による問題を低減させることができる。
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載のスピニング成形機では、成形ローラに加わる遠心力は成形ローラの位置によって変化することになる。
すなわち、遠心力Fは質量m、半径r、角速度ωとすると、次式(1)で表すことができる。

F=mrω ・・・(1)

そのため、一定の角速度で回転させている成形ローラやカッターは、旋回半径(r)が変化すると、それぞれに加わる遠心力も変化するようになる。
【0011】
特許文献2に記載されているように、成形ローラとカッターとがリンク機構で結合されていると、成形ローラが半径方向内側に移動させるとカッターは外側に移動することになるが、その場合には、成形ローラに働く遠心力は減少し、カッターに働く遠心力が増大することとなる。その結果、成形ローラの半径方向の位置に応じて遠心力の差分が変動することとなり、成形ローラがワークを押圧する成形力は、遠心力の変化の影響を受けて変動することとなる。
【0012】
そこで、本発明は、成形ローラの半径方向の位置が変動したとしても、遠心力による影響を、その変動分を含めて打ち消すようにすることで、半径方向の位置に依存して成形力が大きく変動することがないようにしたスピニング加工装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、遠心力の変動の影響を低減することで、高速回転下でも精度のよいスピニング加工を実現でき、加工時間を短縮するのに適したスピニング加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するためになされた本発明のスピニング加工装置は、円筒状のワークを固定するクランプ機構と、前記ワークの軸線に沿った回転軸を中心に回転する回転ドラムと、前記ワークの軸線を中心にして回転対称となる位置関係で対をなすように配置される複数の成形ローラと、前記回転ドラムに固定され、前記成形ローラを前記回転ドラムの半径方向に移動可能に支持する成形ローラスライド機構とからなり、前記ワークに対し旋回半径を変化させながら前記成形ローラを押し当てることによりスピニング加工を行うスピニング加工装置であって、前記回転ドラムに支持され、旋回半径の変化に応じて増減する成形ローラの遠心力に対し、遠心力の増減分も含めて打ち消すように変化する付勢力を成形ローラよりも外周側から成形ローラに付勢する付勢機構を備えるようにしてある。
【0014】
ここで、「クランプ機構」は、円筒状のワークが軸線を中心にして回転しないように固定することができるものであればよく、例えばワークの外周を把持するクランプ機構が用いられる。
「回転ドラム」は、回転軸を中心に回転する円板部分と円筒側壁とからなり、これらが一体に形成された形状が好ましい。
「軸線を中心にして回転対称となる位置関係で対をなすように配置される」とは、具体的には、2回対称の位置関係では、軸線を中心にして互いに180度回転した位置関係となる2つの位置に配置されることをいう。3回対称の位置関係では、軸線を中心にして互いに120度回転した位置関係となる3つの位置に配置されることをいう。また、4回対称の位置関係では、軸線を中心にして互いに90度回転した位置関係となる4つの位置に配置されることをいう。5回対称以上の位置関係についても同様の配置をいうが装置が複雑になるので、実用上は2回対称、3回対称となる位置関係が最も好ましい。
本発明でいう「付勢機構」は、成形ローラの遠心力に対し、遠心力の増減分も含めて打ち消すように変化する付勢力を成形ローラに付勢する付勢機構をいう。すなわち、特許文献2に記載されるような成形ローラが外側に移動して遠心力が大きくなったときに、成形ローラに働く付勢力が逆に小さくなるような付勢機構は含まれず、成形ローラが外側に移動して遠心力が大きくなったときに付勢力も大きく働く付勢機構をいう。具体的には、成形ローラの外周側から成形ローラに弾性力を与えることができ、成形ローラが外側に移動するほど弾性力が大きくなる弾性手段(スプリング等)を適用することで実現できる。
【0015】
本発明によれば、成形ローラは、回転ドラムおよび成形ローラスライド機構によってワークに対し、互いに回転対称の位置で旋回しながら半径方向の位置を変化させて加工するので、ワークの軸線を中心にして、バランスよく成形力を加えることができるようになり、真円度の高い加工を行うことができる。そして、加工時に成形ローラの半径方向の位置が変動すると、その半径方向の位置に応じて成形ローラに加わる遠心力が変化する。
すなわち、既述のように(式1)に基づいて一定角速度での回転下で、成形ローラが半径方向外側に移動すると、遠心力は大きく働くようになり、半径方向内側に移動すると遠心力は小さく働くようになる。
【0016】
そこで、付勢機構によって、成形ローラよりも外周側から成形ローラに付勢し、成形ローラが半径方向外側に移動して遠心力が増加したときは、増大した分だけ付勢力を増やすようにして、遠心力を打ち消す付勢力を与えるようにし、成形ローラが半径方向内側に移動して遠心力が減少したときは減少した分だけ付勢力も減らすようにして、遠心力を打ち消す付勢力を与えるようにする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、成形ローラの半径方向の位置が変化して成形ローラに働く遠心力が変化しても、その変化分も含めて遠心力を打ち消す付勢力を与えることができるので、成形ローラの半径方向の位置の変動にかかわらず、安定した成形力でスピニング加工を行うことができる。また、外周側から与える付勢力によって遠心力による成形力の減衰を抑えることができる。
【0018】
上記発明において、前記付勢機構は、前記回転ドラムに支持されたシリンダ内に封入されたガスをピストンで圧縮することにより発生する反発力を、前記ピストンおよび前記成形ローラに連結されたピストンロッドを介して付勢力として成形ローラに与えるガススプリング機構としてもよい。
これによれば、成形ローラが回転中心から外側に変動することによってピストンロッドが外側に押されると、その変動量に応じてピストンがシリンダに封入されたガスを圧縮するようになり、成形ローラにはシリンダからの反発力が付勢力として働くようになる。成形ローラの回転で加わる遠心力が作用して成形ローラの位置が変動したときにも、付勢力が遠心力の増減と連動して増減し、増減分も含めた遠心力を打ち消すように働くようになる。また、封入するガスの圧力を調整することで適切な付勢力に調整することもできる。
【0019】
上記発明において、前記ガススプリング機構のシリンダは、連通管で接続され並列に並んだ第一シリンダと第二シリンダとからなり、第一シリンダおよび第二シリンダの一端側はそれぞれ閉口端にして回転ドラムに固定され、第一シリンダは前記ピストンが摺動可能に挿入されるとともに当該ピストンに連結されたピストンロッドが第一シリンダの他端から突出して前記成形ローラに固定され、第二シリンダは他端を閉口端にするととともに摺動可能な隔壁が挿入され、第二シリンダの前記他端と隔壁との間にはガスが封入され、第一シリンダのピストンと第二シリンダの隔壁とに挟まれ連通管によって連通される空間には非圧縮性液体が封入してあるようにしてもよい。
これによれば、ガスを封入するシリンダ(第二シリンダ)の空間を大きくすることができ、遠心力に対する付勢力を大きくすることができ、成形ローラの半径方向の移動距離となるストロークを大きくすることができる。このとき第二シリンダの径を太くしたり細くしたりすることでストロークを調整することもできる。
【0020】
上記発明において、前記成形ローラスライド機構は、前記回転ドラムの半径方向に向けて配置され、前記回転ドラムの中心側と外周側とで軸支され、前記成形ローラが前記回転ドラムの半径方向に沿って移動可能に螺合されるボールネジと、前記回転ドラムの回転軸に対し同軸に支持され、一端が前記ボールネジ端とベベルギアで螺合し、前記ボールネジに回転運動を与えて前記成形ローラを半径方向に移動させる成形ローラ調整軸とを備えるようにしてもよい。
これによれば、成形ローラの半径方向の位置の調整を、成形ローラ調整軸を用いて精度よく調整することができ、上述したガススプリング機構による付勢力を再現性よく与えることができる。また、成形ローラに作用する遠心力をボールネジ部全体で支持するため、応力を分散することができ耐久性に有利である。
【0021】
上記発明において、前記回転ドラムの外周面は補助ローラによって支持されるようにしてもよい。
これにより、回転ドラムを安定して回転させることができる。また、回転ドラムに遠心力が加わることによる回転ドラムの外側への変形による影響を抑制することができるので、付勢力を一層安定して与えることができる。
【0022】
上記発明において、前記補助ローラのローラ面には、回転軸から遠ざかるにつれて広がるテーパ面が形成され、前記回転ドラムにおける補助ローラとの接触面は回転軸に近づくにつれて広がるテーパ面が形成されるようにしてもよい。
これにより、ワークを後退させながらスピニング加工を行う際に、成形ローラがワークの方向に引かれる力が働いても、回転ドラムが軸方向に移動することを防止することができ、安定してスピニング加工を行うことができる。さらに、回転ドラムに遠心力が作用し、回転ドラムが回転軸と反対の方向に逃げようした場合でも、回転ドラムが軸方向に移動することを防止することができ、安定してスピニング加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るスピニング加工装置の一実施例を示す正面から見た断面図。
【図2】図1のスピニング加工装置の左側面図。
【図3】図1のスピニング加工装置の一部を拡大した部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下において本発明に係るスピニング加工装置を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0025】
図1は金属ライナーを製造する際に使用されるスピニング加工装置の一実施形態を正面から見た断面図である。図2は図1のスピニング加工装置の左側面図である。
スピニング加工装置1は、主として、成形ローラ11を旋回可能、かつ、径方向に移動可能に保持する成形ローラ駆動装置12、アルミライナーである円筒状のワークWの胴部を保持するクランプ装置13、このクランプ装置13をワークWの軸線Jの方向(X方向とする)に前進、後退してワークWの位置を成形ローラ11に対し相対的に移動させるX軸駆動装置14とからなる。なお、X軸駆動装置14は、成形ローラ駆動装置12を駆動するようにしてもよい。
【0026】
成形ローラ駆動装置12について説明する。成形ローラ駆動装置12は、中空のフレーム21の右側部分に、距離を隔てて平行に配置された支持板22,23が設けてあり、これらの支持板22,23に取り付けたベアリングによって回転軸24が軸支される。回転軸24は、軸線Jに一致するように配置される。回転軸24の左端には回転ドラム25が固定される。回転軸24の右端にはモータ(図示せず)が接続されており、回転ドラム25を回転駆動する。
回転軸24の内側は中空にしてあり、成形ローラ調整軸26が回転軸24と同軸状に挿入してある。回転軸24と成形ローラ調整軸26とは独立して回転することができるようにしてある。成形ローラ調整軸26の回転ドラム側の端部にはベベルギア26aが固定してある。
【0027】
回転ドラム25は円板部25aと円筒側壁25bとからなる。円板部25aの中心近傍には貫通孔25cが形成された支持体25dが固定してある。また、円筒側壁25bには貫通孔25eが形成してある。そしてボールネジ27が貫通孔25c,25eで軸支されるようにしてある。ボールネジ27は回転軸側(回転中心)から径方向に沿って放射状に配置してある。
ボールネジ27の回転軸24側の端部にはベベルギア27aが固定してあり、成形ローラ調整軸26のベベルギア26aと螺合してある。
また、ボールネジ27には成形ローラ11を支持するハウジング11aが螺合してある。成形ローラ調整軸26を回転すると、ベベルギア26a,27aを介してボールネジ27が回転するようになり、これにより成形ローラ11が径方向に移動することができる。
したがって、成形ローラ調整軸26、ベベルギア26a,27a、ボールネジ27により、成形ローラ11を径方向にスライドさせる成形ローラスライド機構が構成される。
【0028】
回転ドラム25には、成形ローラ11よりも外側に、第一シリンダ31、第二シリンダ32、連通管33、ピストン34、ピストンロッド35、隔壁36、オイル37(非圧縮性液体)、窒素ガス38からなるガススプリング40が設けてある。
第一シリンダ31と第二シリンダ32は、連通管33で接続してあり、連通管33に近い側の端は閉口端にされ、円筒側壁25bに並べて固定してある。第一シリンダ31の他端は成形ローラ11のハウジング11aに向けてある。第一シリンダ31内のピストン34に連結されたピストンロッド35は、第一シリンダ31の他端から突き出し、先端が成形ローラ11(ハウジング11a)に固定してある。したがって、成形ローラ11が径方向に移動するとピストンロッド35を介してピストン34が摺動するようにしてある。
【0029】
第二シリンダ32の連通管33から遠い側の端部32aは閉口端にしてある。第二シリンダ32内に挿入された隔壁36と端部32aとの間の空間はガス室32bであり、所望の圧力で窒素ガス38が封入してある。封入されるガスは窒素ガスに限られず空気などであってもよい。封入ガス圧やシリンダ容積(シリンダ径)を適宜に設定することで、成形ローラ11に与える付勢力やピストンロッド35の可動範囲であるストロークを調整することができる。また、ガス室32b内のガス圧は加工中に最適な付勢力を得られるように制御されてもよい。
【0030】
第一シリンダ31のピストン34と第二シリンダ32の隔壁36とによって挟まれ、連通管33で接続される空間には、非圧縮性の液体であるオイル37が充填してある。したがって、ピストン34が摺動するとオイル37を介して隔壁36が摺動するようになる。
【0031】
回転ドラム25の円筒側壁25bの外側には4つの補助ローラ41が軸線Jを中心に対称に配置してある。補助ローラ41はそれぞれテーパ面で円筒側壁25bと接触するようにしてあり、回転ドラム25を支持するとともに回転運動を補助するようにしてある。さらに、接触面をテーパ面にすることにより、回転ドラム25に対しクランプ装置13側に引く力が作用したときに、回転ドラム25が軸線Jの方向に移動するのを防ぐようにしてある。
【0032】
次に、スピニング加工装置1による加工動作について説明する。
成形ローラ調整軸26により成形ローラの径方向の位置を調整し、回転軸24を駆動して成形ローラ11を旋回させる。
加工対象のワークWをクランプ装置13で固定し、X軸駆動装置14により、旋回中の成形ローラ11に対し、前進、後退させる。このとき、成形ローラ調整軸26を調整することで、随時成形ローラ11の径方向の位置を調整する。これにより、ワークWにはスピニング加工が施される。
【0033】
一定の角速度でスピニング加工中に、成形ローラ11を径方向に移動させると、成形ローラ11に加わる遠心力は、旋回半径に比例して変化する。
具体的には、成形ローラ11を径方向外側に移動させると、遠心力は増大する。このとき、成形ローラ11のハウジング11aに固定されたピストンロッド35は、径方向外側への移動量に応じて変位し、ピストン34を外周側に摺動させる。ピストン34の変位は、オイル37、隔壁36を介してガス室32bの窒素ガス38をさらに圧縮するようになり、移動量に応じた反発力を発生する。反発力は隔壁36、オイル37、ピストン34、ピストンロッド35を介して、成形ローラ11のハウジング11aに、付勢力として伝達される。すなわち、成形ローラ11が外側に移動すると、遠心力が増加するが、ガススプリング40による付勢力も増加するため、平衡を保つことができるようになる。
成形ローラ11を径方向内側に移動させたときは、遠心力が減少するが、ガススプリングによる付勢力も減少するため、やはり平衡を保つことができるようになる。
【0034】
(変形実施形態)
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施形態に特定されるものではない。
例えば、上記実施形態では、回転ドラム25は、円板部25aと円筒側壁25bとにより形成され、これが好ましい形状であるが、円筒側壁25bは完全な円筒形状でなくてもよく、一部が欠如していてもよい。すなわち、円筒側壁25bは、付勢力を与えるガススプリング40の一端を、成形ローラ11の外側で固定するために用いられ、また、成形ローラスライド機構のボールネジ27の一端を軸支するために用いられるが、これらの取り付けに必要な側壁部分があればよいので、完全な円筒側壁でなくてもよい。したがって、本発明でいう回転ドラムは、完全な円筒形状の側壁を有していない場合も含まれる。
【0035】
上記実施形態では、ガススプリング機構40を用いたが、ガスの反発力に代えて、弾性バネ等の反発力で付勢することもできる。
その他本発明では、その目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のスピニング加工装置は、金属ライナー等の加工に用いられる。
【符号の説明】
【0037】
W ワーク
1 スピニング加工装置
11 成形ローラ
12 成形ローラ駆動装置
13 クランプ装置
14 X軸駆動装置
24 回転軸
25 回転ドラム
26 成形ローラ調整軸
26a ベベルギア
27 ボールネジ
27a ベベルギア
31 第一シリンダ
32 第二シリンダ
33 連通管
34 ピストン
35 ピストンロッド
36 隔壁
37 オイル(非圧縮性液体)
38 窒素ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のワークを固定するクランプ機構と、
前記ワークの軸線に沿った回転軸を中心に回転する回転ドラムと、
前記ワークの軸線を中心にして回転対称となる位置関係で対をなすように配置される複数の成形ローラと、
前記回転ドラムに固定され、前記成形ローラを前記回転ドラムの半径方向に移動可能に支持する成形ローラスライド機構とからなり、
前記ワークに対し旋回半径を変化させながら前記成形ローラを押し当てることによりスピニング加工を行うスピニング加工装置であって、
前記回転ドラムに支持され、旋回半径の変化に応じて増減する成形ローラの遠心力に対し、遠心力の増減分も含めて打ち消すように変化する付勢力を成形ローラよりも外周側から成形ローラに付勢する付勢機構を備えたことを特徴とするスピニング加工装置。
【請求項2】
前記付勢機構は、前記回転ドラムに支持されたシリンダ内に封入されたガスをピストンで圧縮することにより発生する反発力を、前記ピストンおよび前記成形ローラに連結されたピストンロッドを介して付勢力として成形ローラに与えるガススプリング機構である請求項1に記載のスプリング加工装置。
【請求項3】
前記ガススプリング機構のシリンダは、連通管で接続され並列に並んだ第一シリンダと第二シリンダとからなり、第一シリンダおよび第二シリンダの一端側はそれぞれ閉口端にして回転ドラムに固定され、第一シリンダは前記ピストンが摺動可能に挿入されるとともに当該ピストンに連結されたピストンロッドが第一シリンダの他端から突出して前記成形ローラに固定され、第二シリンダは他端を閉口端にするととともに摺動可能な隔壁が挿入され、第二シリンダの前記他端と隔壁との間にはガスが封入され、第一シリンダのピストンと第二シリンダの隔壁とに挟まれ連通管によって連通される空間には非圧縮性液体が封入してある請求項2に記載のスプリング加工装置。
【請求項4】
前記成形ローラスライド機構は、前記回転ドラムの半径方向に向けて配置され、前記回転ドラムの中心側と外周側とで軸支され、前記成形ローラが前記回転ドラムの半径方向に沿って移動可能に螺合されるボールネジと、
前記回転ドラムの回転軸に対し同軸に支持され、一端が前記ボールネジ端とベベルギアで螺合し、前記ボールネジに回転運動を与えて前記成形ローラを半径方向に移動させる成形ローラ調整軸とを備えた請求項1〜請求項3のいずれかに記載のスピニング加工装置。
【請求項5】
前記回転ドラムの外周面は補助ローラによって支持される請求項4に記載のスピニング加工装置。
【請求項6】
前記補助ローラのローラ面には、回転軸から遠ざかるにつれて広がるテーパ面が形成され、前記回転ドラムにおける補助ローラとの接触面は回転軸に近づくにつれて広がるテーパ面が形成される請求項5に記載のスピニング加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−206843(P2011−206843A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79949(P2010−79949)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「水素製造・輸送・貯蔵システム等技術開発/システム技術開発/車載等水素貯蔵・輸送容器システム技術に関する研究開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(593166462)サムテック株式会社 (12)