説明

スピネル系セラミックスの製造方法

【課題】本発明は、極めて製造効率の高いスピネル系セラミックスの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のスピネル系セラミックスの製造方法は、Al23多孔体を準備する第1工程と、該Al23多孔体に溶融状態のMgを含浸させることにより、該Al23多孔体をアモルファススピネルに転化する第2工程と、該アモルファススピネルを熱処理することによりそれを結晶化させる第3工程と、を含むことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用材料等に好適に用いることができるスピネル系セラミックスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に液晶表示装置等において液晶は、表面を汚れや外気から保護することを目的として、その表面に何らかの保護層を形成させて用いられている。液晶をCRT等に用いる場合は、そのような保護層として透明プラスチックが用いられておりその目的を達成している。また、携帯電話等における液晶画面の保護は、強度を要求されるためそのような保護層としてガラス等を用いる場合がある。
【0003】
最近では、このような液晶画面の表裏に透明な保護層(透明基板)を形成することによりその表面を透明化し(このような構造のものを液晶パネルという)、この液晶パネルの一方から光を当て、レンズ等で透過光を調整した液晶プロジェクターが市販されている。このような液晶プロジェクターにおける液晶画面を保護する透明基板は、汚れや外気から単に液晶画面を保護するだけではなく、近接する光源によって液晶画面が加熱されることを防止する断熱的な保護と、該光源からの光により液晶画面に発生する吸熱現象に伴う昇温を放熱する放熱目的とを兼ね備えることが要求される。そして、該透明基板自体も昇温するため、このような透明基板には耐熱性も要求される。
【0004】
したがって、このような用途における透明基板としては通常ガラスを用いることが考えられるところ、通常のガラスの熱伝導性を20〜30倍程度向上させた単結晶サファイアを使用することが提案されている(特許文献1)。このような単結晶サファイアは、強度も高く石英ガラスに比べ非常に硬いため、透明基板を薄くすることができるというメリットも期待される。また、このような単結晶サファイアは非常に高価であるため、それ単独で用いることは経済的に困難であるが、ガラスと併用することによりこの問題は解消することができるとされている。
【0005】
このように単結晶サファイアは、高価であるものの耐熱性と光透過性、および液晶の温度上昇を抑える等の液晶プロジェクター用の透明基板に要求される諸特性を備えるためその使用が期待されてきた。しかしながら、単結晶サファイアには複屈折なる特性があるため、液晶プロジェクターの組み立て時において結晶軸の方位を合わせる等の複雑な作業を要し、製造効率を低下させるとともに単結晶サファイア自体が高価であるということと相俟って製造コストを高騰させるという問題があった。
【0006】
この問題を解決するために、複屈折性を有さずかつ安価な透明基板材料として適する様々な物質が検討されており、そのような物質のひとつとして透光性セラミックスであるスピネルセラミックスが提案されている(特許文献2)。このスピネルセラミックスは、化学式MgAl24で示される立方晶セラミックスであり、熱伝導率が高く透明な材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−284700号公報
【特許文献2】特開2007−065696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スピネルセラミックスは、原料粉末であるAl23やMgOを混合し、成形した後、1500℃以上の高温で焼結して作製される。しかし、焼結温度が非常に高温であり、かつ少なくとも数時間を要するため極めて製造効率が悪いという課題を有していた。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、極めて製造効率の高いスピネル系セラミックスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のスピネル系セラミックスの製造方法は、Al23多孔体を準備する第1工程と、該Al23多孔体に溶融状態のMgを含浸させることにより、該Al23多孔体をアモルファススピネルに転化する第2工程と、該アモルファススピネルを熱処理することによりそれを結晶化させる第3工程と、を含むことを特徴としている。
【0011】
ここで、上記第2工程は、上記Al23多孔体の表面の一部を拘束することにより、溶融状態のMgとの接触面積を少なくさせた状態でそれを含浸させることが好ましい。
【0012】
また、本発明のスピネル系セラミックスの製造方法は、上記第2工程において、溶融状態のMgに換えて溶融状態のMg−Zn合金を含浸させることもできる。この場合、該Mg−Zn合金は、Znの含有比率が55mol%以下であることが好ましい。
【0013】
また、上記第3工程は、1650℃以上の熱処理を行なうことが好ましく、また上記第3工程の熱処理は、熱間静水圧処理であることが好ましい。
【0014】
一方、上記Al23多孔体は、以下の関係式を満たす相対密度Dを有することが好ましい。
【0015】
0.96×B/A≦D≦B/A
(上記式中、AはAl23の真密度を示し、Bは上記アモルファススピネルの真密度を示す。)
また、上記Al23多孔体は、過剰酸素を持つAl23を含むことが好ましく、平均粒径が5μm以下のAl23微粒子を用いて成形されたものであることが好ましい。そして、そのAl23微粒子は、平均粒径が0.5μm以下であることがより好ましい。
【0016】
なお、このような製造方法で製造される本発明のスピネル系セラミックスは、透光性セラミックスとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のスピネル系セラミックスの製造方法は、上記のような構成を有することにより、その製造効率が極めて良好であるという特徴を有する。すなわち、本発明のスピネル系セラミックスの製造方法は、極めて短時間にスピネル系セラミックスを製造することができるという特徴を有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<スピネル系セラミックスの製造方法>
本発明に係るスピネル系セラミックスの製造方法は、Al23多孔体を準備する第1工程と、該Al23多孔体に溶融状態のMgを含浸させることにより、該多孔体をアモルファススピネルに転化する第2工程と、該アモルファススピネルを熱処理することによりそれを結晶化させる第3工程と、を含むことを特徴としている。なお、上記第2工程は、溶融状態のMgに換えて溶融状態のMg−Zn合金を含浸させることもできる。
【0019】
このような本発明の製造方法は、上記の第1工程、第2工程、および第3工程を含む限り、他の任意の工程を含んでいても本発明の範囲を逸脱するものではない。以下、まず本発明が対象とするスピネル系セラミックスの説明を行なった後、各工程について説明する。
【0020】
<スピネル系セラミックス>
本発明が対象とするスピネル系セラミックスには、スピネル(MgAl24)だけではなく、このスピネルの「Mg」の一部を「Zn」で置き換えてなる亜鉛含有スピネル(Mg1-xZnxAl24)も含まれる(なお、亜鉛含有スピネルの詳細は後述する)。
【0021】
すなわち、このようなスピネル系セラミックスは、スピネルの結晶体または亜鉛含有スピネルの結晶体を意味するものである。
【0022】
本発明のスピネル系セラミックスは、透光性を有していること(すなわち透光性セラミックスであること)が好ましく、このように透光性を有する場合には、たとえば液晶プロジェクター用の透明基板等の光学用材料として好適に用いることができる。
【0023】
<第1工程>
本発明の第1工程は、Al23多孔体を準備する工程である。ここで、Al23多孔体とは、多数の気孔を有したアルミナ(Al23)をいう。気孔の大きさおよびその含有率は、特に限定されることはないが、10nm〜5000nm程度の気孔を有し、相対密度(Al23の真密度(約3.9g/cm3)に対する比率)が0.67〜0.77程度であるものが好ましい。
【0024】
そして、特にこのAl23多孔体の相対密度Dは、以下の関係式を満たすことが好ましい。
【0025】
0.96×B/A≦D≦B/A
上記式中、AはAl23の真密度を示し、Bは後述のアモルファススピネルの真密度を示す。アモルファススピネルの真密度(約3g/cm3程度)は、Al23の真密度よりも小さいため、Al23多孔体のアモルファススピネルへの転化(後述の第2工程)は体積膨張を伴いながら進行する。したがって、上記DをB/Aに近接させて設定するとアモルファススピネルの緻密性が向上するため好ましく、上記DがB/Aと等しくなる場合、理論的にアモルファススピネルの相対密度は1となる。一方、上記Dが0.96×B/A未満になると、アモルファススピネルに多数の気孔が生じることとなり、緻密性の高いアモルファススピネルを得ることが困難となる。
【0026】
なお、このようなアモルファススピネルの真密度は、アモルファス構造の違いに依存して変化するとともに、後述の第2工程の還元反応の温度によっても若干変化する。また、Znを含有するアモルファススピネルは真密度が増大する傾向を示す。このようなアモルファススピネルの真密度は、通常のアルキメデス法により測定することができる。
【0027】
本発明の第1工程で用いられるAl23多孔体は、たとえばAl23粉末をプレス等で適度に成形することにより準備することができるが、このような方法のみに限られるものではない。Al23多孔体をこのようなプレス成形法で準備する場合、プレス成形時の圧力を調整したり、Al23粉末の粒度を調整することにより、Al23多孔体の上記相対密度Dを好適に制御することができる。このようなプレス成形法は、加熱処理を伴うことができるとともに、Al23粉末とともにバインダを併用することもできる。
【0028】
ここで、Al23多孔体の相対密度Dについてさらに詳細に説明すると、たとえば、後述のアモルファススピネルの真密度が2.8g/cm3である場合、Al23多孔体の相対密度Dを約0.72に制御すれば、このアモルファススピネルの相対密度は理論上1となるため、この相対密度Dを0.72に調整することが好ましい。しかしながら、0.72という相対密度Dは、セラミックス粉末のプレス成形体としてはかなり高い数値であるため、このように高い相対密度Dを得るためには、微粒のAl23粉末と粗粒のAl23粉末とを混合した微粗混粉末を用いてプレス成形することによりAl23多孔体を準備することが特に好ましい。
【0029】
さらにまた、このようなAl23粉末として、平均粒径が5μm以下、より好ましくは0.5μm以下のAl23微粒子を用いてAl23多孔体を成形すると、後述の第2工程における溶融状態のMgまたはMg−Zn合金の含浸速度が向上するため好ましい。
【0030】
一方、Al23多孔体が、過剰酸素を持つAl23を含むと、MgまたはMg−Zn合金が酸化されずに金属として残存することを防止することができる。このようにMgまたはMg−Zn合金が酸化されずに金属として最終生成物であるスピネル系セラミックス中に残存すると、透光性を低減する場合が多い。このため、Al23多孔体を構成するAl23が過剰酸素を持つか、またはAlの格子欠陥を含むことが好ましい。
【0031】
なお、上記の過剰酸素量またはAl格子欠損量は、Al23に対して0.5〜2mol%含むことが好ましい。0.5mol%未満では、上記のような効果を明瞭に示さない場合があり、また2mol%を超えるAl23を準備することは困難であるためである。
【0032】
<第2工程>
本発明の第2工程は、上記の第1工程で準備されたAl23多孔体に溶融状態のMgを含浸させることにより、該Al23多孔体をアモルファススピネルに転化する工程である。ここで、溶融状態のMgに換えて溶融状態のMg−Zn合金を含浸させることもできる。
【0033】
この第2工程において、溶融状態のMgを含浸させると最終的に得られるスピネル系セラミックスはスピネル(MgAl24)の結晶体となり、一方、溶融状態のMg−Zn合金を含浸させると最終的に得られるスピネル系セラミックスは亜鉛含有スピネル(Mg1-xZnxAl24)の結晶体となる。したがって、目的とするスピネル系セラミックスの組成に応じて、Mgを使用するか、あるいはMg−Zn合金を使用するかを選択することができる。
【0034】
ここで、上記Mg1-xZnxAl24におけるxは、0<x≦0.55とすることが好ましい。xが0.55を超えると、上記Mg−Zn合金のZnの含有比率を高める必要が生じるが、Znの含有比率を高めると、溶融状態のMg−Zn合金と上記Al23多孔体との濡れ性が低下する傾向を示し、緻密なアモルファススピネルを得ることができなくなる場合がある。この点、上記Mg−Zn合金のZnの含有比率は、55mol%以下とすることが好ましく、より好ましくは45mol%以下とすることが好適である。
【0035】
このような本発明の第2工程においては、Al23多孔体に溶融状態のMgまたはMg−Zn合金を接触させるだけで、毛細管現象によりMgまたはMg−Zn合金はAl23多孔体の内部にまで浸入し、以ってMgまたはMg−Zn合金はAl23多孔体に含浸されることとなる。
【0036】
なお、この時、Al23多孔体の形状とほぼ同じ形状の型にAl23多孔体を装填することにより、MgまたはMg−Zn合金との接触部分を少なくすることが好ましい。たとえば、Al23多孔体が直方体形状の場合、6面の内の5面を型で拘束(被覆)するようにしておくことが好ましい。すなわち、Al23多孔体がアモルファススピネルに転化する際の体積膨張挙動を、当該多孔体の内部に向かって生じさせることが重要である。このような処理をすることにより、浸入した溶融状態のMgまたはMg−Zn合金はAl23多孔体と反応して当該多孔体の気孔部を埋めるようにして反応が進行していく。
【0037】
Al23多孔体の表面部が外部に開放されている一面(すなわち上記の型で拘束されていない面)を、温度が700〜800℃程度の溶融状態のMgまたはMg−Zn合金に接触させると、毛細管現象により溶融状態のMgまたはMg−Zn合金が当該多孔体内部に浸入していくが、このときいわゆるテルミット反応(後述)が起こり、MgまたはMg−Zn合金はAl23を還元しながらAl23表面を濡らしていくことで、毛細管現象が促進される。同時に、Al23多孔体はアモルファススピネルに転化していく。
【0038】
また、このようなMgまたはMg−Zn合金の溶浸は真空で行なうことが好ましいが、不活性ガス中でもよい。不活性ガス中で行なう場合、Al23多孔体を装填する型の壁面に複数の貫通孔を開けておくと、Al23多孔体に含まれている不活性ガスの脱離が起こりやすく溶浸反応がスムーズに進行する。
【0039】
なお、上記の型は、たとえば耐火物などからなる型を用いることができる。
上記のように、本発明の第2工程は、上記Al23多孔体の表面の一部を拘束することにより、溶融状態のMgまたはMg−Zn合金との接触面積を少なくさせた状態でそれを含浸させることが好ましい。
【0040】
このように、溶融状態のMgまたはMg−Zn合金によるAl23多孔体への含浸時において、MgまたはMg−Zn合金はAl23を還元しながらAl23多孔体との接触面を濡らしていくことで、毛細管現象はさらに促進されることになり、また同時に、Al23多孔体はアモルファススピネルに転化されることになる。なお、上記還元反応は、Alが金属酸化物を還元して自己が酸化される所謂テルミット反応と同様の反応であると推測される。また、前述のように、アモルファススピネルの真密度はおよそ3g/cm3程度であり、Al23の真密度(約3.9g/cm3)よりも小さいため、アモルファススピネルへの転化は体積膨張を伴いながら進行し、Al23多孔体の相対密度を調整することによりアモルファススピネルを緻密化させることが可能となる。
【0041】
ここで、溶融状態のMgまたはMg−Zn合金の温度は通常700〜800℃程度の温度とすることができ、このように当該温度が比較的低温であるためAl23多孔体が転化したスピネル(または亜鉛含有スピネル)はアモルファス(非晶質)状態(すなわちアモルファススピネル)となる。なお、本発明の「アモルファススピネル」という表現は、アモルファス状態のスピネル(MgAl24)またはアモルファス状態の亜鉛含有スピネル(Mg1-xZnxAl24)を意味するものとする。
【0042】
一方、本発明の第2工程に要する時間は、0.5〜2時間程度とすることができ、極めて短時間で実行することができるため、製造効率(すなわちエネルギー効率)の向上に大きく貢献するものである。
【0043】
<第3工程>
本発明の第3工程は、上記の第2工程で得られたアモルファススピネルを熱処理することによりそれを結晶化させる工程である。すなわち、この第3工程を経ることにより、本発明のスピネル系セラミックスは、結晶体として得られることになる。本発明のスピネル系セラミックスは、このように結晶体であるが故、高い熱伝導率を有したものとなる。なお、第2工程で得られたアモルファススピネルは、これを一旦冷却した後にこの第3工程を実施しても良いし、特別な冷却操作を経由することなく第2工程に引き続き第3工程を実施しても良い。
【0044】
ここで、上記熱処理は、1600℃以上で行なうことが好ましく、より好ましくは1650℃以上で行なうことが好適である。1600℃未満では、アモルファススピネルの結晶化を十分に進行させることができない場合がある。
【0045】
一方、上記熱処理は、1850℃以下の温度で行なうことが好ましい。1850℃を超えると、粒成長が顕著となり、割れやクラック等が発生する場合がある。
【0046】
本発明では、一般に透光性セラミックスを得るために用いる熱間静水圧処理(HIP)を行なうことなく緻密な透光性のスピネル系セラミックスを得ることができるが、上記のような熱処理の後に、得られたスピネル系セラミックスが内部に微量の気孔を含んでいる場合もあり、これに起因して透光性が低下する場合がある。このため、スピネル系セラミックスとして特に高い透光性を得る場合には、この熱処理を熱間静水圧処理(HIP)とすることが好ましい。すなわち、第2工程で得られたアモルファススピネルを熱間静水圧処理することによりそれを結晶化すれば、熱間静水圧処理の高圧力(1000〜2000気圧)によりアモルファススピネル中に存在する気孔を除去することができ、より高い透光性を得ることができる。なお、この熱間静水圧処理時の温度は、上記した温度と同様の温度を採用することが好ましい。
【0047】
なお、本発明の第3工程における保持時間は、1〜2時間程度とすることができ、極めて短時間で実行することができるため、上記の第2工程の採用と相俟って製造効率(すなわちエネルギー効率)の向上に大きく貢献するものである。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
<第1工程>
以下の表1に記載したアルミナ原料粉末(「アルミナ原料粉末1」、「アルミナ原料粉末2」)を用いて、以下の条件でプレス成形することにより、Al23多孔体を準備した。
【0050】
「アルミナ原料粉末1」は、純度が99.99%以上の化学量論組成の結晶質のAl23であり、表1に記載した密度と各種平均粒径を有している。また、「アルミナ原料粉末2」は、純度が99.99%以上のアモルファス状のAl23(ただし過剰酸素を持つため正確には「Al23.2」と表わされる)であり、表1に記載した密度と平均粒径を有している。
【0051】
なお、表1中の試料No.3を除き、用いたアルミナ原料粉末は「アルミナ原料粉末1」のみである。試料No.3は、アルミナ原料粉末として「アルミナ原料粉末1」と「アルミナ原料粉末2」との混合粉末を用いており、両者の混合比率は前者80質量%に対し後者20質量%である。この混合粉末の平均密度は3.89g/cm3であった。
【0052】
一方、プレス成形の条件は、次のとおりである。すなわち、アルミナ原料粉末に対して3質量%のポリビニルアルコール(PVA)系バインダを加えた後、各種の圧力でプレス成形することにより、直径20mm、厚み5mmのプレス成形体を得た。そして、このプレス成形体をさらに大気中500℃で1時間加熱することによりAl23多孔体を得た。
【0053】
得られたAl23多孔体の相対密度Dを表1に示す。表1における各相対密度Dの相違は、主としてプレス成形時の圧力の相違に基づくものである。
【0054】
また、表1における「B/A」は、Al23の真密度Aを「3.9g/cm3」とし、各アモルファススピネルの真密度Bを測定すること(すなわち表1に記載された「第2工程」で得られたアモルファススピネルの「密度」(真密度))により、算出した値である。
【0055】
<第2工程>
純度99.99%の「Mg」または「Mg−Zn合金」(各600g)を、SF6ガス雰囲気中で鉄坩堝に入れて電気炉で溶解し、温度を777℃に保持して溶融状態とした。なお、表1中、試料No.1〜4、8〜12は「Mg」を用い、試料No.5〜7は「Mg−Zn合金」を用いた。「Mg−Zn合金」中のZnの含有比率は表1に示したとおりである。
【0056】
一方、上記の第1工程で準備されたAl23多孔体は、直径20mm、厚み5mmの形状を有するため、これを直径20.1mm、深さ5mmの型に装填し、一方の面のみがその型により拘束(被覆)されず開放空間となるようにした。
【0057】
続いて、炉内をロータリーポンプで真空状態まで減圧し、この溶融状態(表1中の「溶浸温度」で保持した状態)にある「Mg」または「Mg−Zn合金」の表面に、上記で準備したAl23多孔体の一面(型で拘束されていない面)を接触させ所定の時間保持することにより、Al23多孔体に溶融状態の「Mg」または「Mg−Zn合金」を含浸させた。これにより、Al23多孔体をアモルファススピネルに転化させることができた。なお、上記の接触保持時間は、表1のとおりである(表1中の「溶浸時間」の欄参照)。
【0058】
<第3工程>
上記の第2工程で得られたアモルファススピネルに対して特別な冷却操作をすることなく、表1に記載した条件で熱処理することにより、アモルファススピネルを結晶化させることにより試料No.1〜12の本発明のスピネル系セラミックスを得た。
【0059】
表1中、「熱処理方法」の欄に「常圧」と記載されたものは下記条件の「通常の熱処理」が実施されたことを示し、「HIP」と記載されたものは下記条件の「熱間静水圧処理」されたことを示している。
通常の熱処理:大気炉中で、1気圧で1時間、表1に記載した熱処理温度で熱処理した。
熱間静水圧処理:大気炉中で、1000気圧で1時間、表1に記載した熱処理温度で熱処理した。
【0060】
<評価>
上記で得られたスピネル系セラミックスについて、「相対密度」、「Mg残存の有無」、および「透光性の有無」を確認し、その結果を表1に示した。
【0061】
「相対密度」は、各スピネル系セラミックスの結晶体の真密度に対する比率を示している。
【0062】
「Mg残存の有無」は、スピネル系セラミックス中に金属の「Mg」が残存しているか否かを、EDX分析(エネルギー分散型蛍光X線分析)で確認することにより、残存しているものについては「有」、残存していないものについては「無」として表記した。
【0063】
一方、「透光性の有無」については、得られたスピネル系セラミックスを厚み1mmに加工し、ダイヤモンドスラリーを用いて鏡面研磨を行なった後、一方の表面から波長420nmの青色光を照射して、他方の面から目視でその青色光を観察することにより、青色光が観察されたものについては「有」、観察されなかったものについては「無」と評価した。
【0064】
上記より明らかなように、本発明の製造方法によれば、従来のスピネル系セラミックスと同等以上の効果を有するスピネル系セラミックスを極めて短時間に製造することができる。
【0065】
【表1】

【0066】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0067】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピネル系セラミックスの製造方法であって、
Al23多孔体を準備する第1工程と、
前記Al23多孔体に溶融状態のMgを含浸させることにより、前記Al23多孔体をアモルファススピネルに転化する第2工程と、
前記アモルファススピネルを熱処理することによりそれを結晶化させる第3工程と、
を含むスピネル系セラミックスの製造方法。
【請求項2】
前記第2工程は、前記Al23多孔体の表面の一部を拘束することにより、溶融状態のMgとの接触面積を少なくさせた状態でそれを含浸させる、請求項1記載のスピネル系セラミックスの製造方法。
【請求項3】
前記第2工程において、溶融状態のMgに換えて溶融状態のMg−Zn合金を含浸させる、請求項1または2に記載のスピネル系セラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記Mg−Zn合金は、Znの含有比率が55mol%以下である、請求項3記載のスピネル系セラミックスの製造方法。
【請求項5】
前記第3工程は、1650℃以上の熱処理を行なう、請求項1〜4のいずれかに記載のスピネル系セラミックスの製造方法。
【請求項6】
前記第3工程の熱処理は、熱間静水圧処理である、請求項1〜5のいずれかに記載のスピネル系セラミックスの製造方法。
【請求項7】
前記Al23多孔体は、以下の関係式を満たす相対密度Dを有する、請求項1〜6のいずれかに記載のスピネル系セラミックスの製造方法。
0.96×B/A≦D≦B/A
(上記式中、AはAl23の真密度を示し、Bは前記アモルファススピネルの真密度を示す。)
【請求項8】
前記Al23多孔体は、過剰酸素を持つAl23を含む、請求項1〜7のいずれかに記載のスピネル系セラミックスの製造方法。
【請求項9】
前記Al23多孔体は、平均粒径が5μm以下のAl23微粒子を用いて成形されたものである、請求項1〜8のいずれかに記載のスピネル系セラミックスの製造方法。
【請求項10】
前記Al23微粒子は、平均粒径が0.5μm以下である、請求項9記載のスピネル系セラミックスの製造方法。
【請求項11】
前記スピネル系セラミックスは、透光性セラミックスである、請求項1〜10のいずれかに記載のスピネル系セラミックスの製造方法。

【公開番号】特開2010−254523(P2010−254523A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106646(P2009−106646)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】