説明

スピノシン因子ET−JおよびET−Lのスピネトラムへの選択的還元

3’−O−エチルスピノシンJと3’−O−エチルスピノシンLとの混合物を、水混和性有機溶媒中で、水素ガスおよび不均一系触媒を使って水素化することにより、スピネトラムが選択的に優れた収率で製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年11月3日に出願された米国特許出願第60/856,739号に基づく優先権を主張し、その開示は参照によりその全体を本明細書に組み入れられる。
【発明の概要】
【0002】
本発明は、殺虫剤スピネトラム(DE−175としても公知である)を製造するための選択的接触還元プロセスを提供する。
【0003】
より具体的には、本発明は、スピネトラムを製造するためのプロセスであって、約50〜90重量%の3’−O−エチルスピノシンJおよび約50〜10重量%の3’−O−エチルスピノシンLを含む混合物を、水混和性有機溶媒中で、圧力2〜100psiの水素ガスにより、3’−O−エチルスピノシンJの5,6−二重結合を選択的に還元する能力を持つ不均一系触媒の存在下で、3’−O−エチルスピノシンJが3’−O−エチル−5,6−ジヒドロ−スピノシンJに変換されるまで水素化することを含むプロセスを提供する。
【0004】
プロセス全体をスキーム1に示す。
a.スキーム1
【化1】

【0005】
スピネトラムは、50〜90%(2R,3aR,5aR,5bS,9S,13S,14R,16aS,16bR)−2−(6−デオキシ−3−O−エチル−2,4−ジ−O−メチル−α−L−マンノピラノシルオキシ)−13−[(2R,5S,6R)−5−(ジメチルアミノ)テトラヒドロ−6−メチルピラン−2−イルオキシ]−9−エチル−2,3,3a,4,5,5a,5b,6,9,10,11,12,13,14,16a,16b−ヘキサデカヒドロ−14−メチル−1H−as−インダセノ[3,2−d]オキサシクロドデシン−7,15−ジオン(スキーム1では「ジヒドロ−Et−J」と呼ばれている)と、50〜10%(2R,3aR,5aS,5bS,9S,13S,14R,16aS,16bS)−2−(6−デオキシ−3−O−エチル−2,4−ジ−O−メチル−α−L−マンノピラノシルオキシ)−13−[(2R,5S,6R)−5−(ジメチルアミノ)テトラヒドロ−6−メチルピラン−2−イルオキシ]−9−エチル−2,3,3a,5a,5b,6,9,10,11,12,13,14,16a,16b−テトラデカヒドロ−4,14−ジメチル−1H−as−インダセノ[3,2−d]オキサシクロドデシン−7,15−ジオン(スキーム1では「Et−L」と呼ばれている)との混合物の一般名である。
(発明の詳細な説明)
【0006】
本発明は、不均一系触媒を利用して、スピノシン因子Et−Jの13,14共役二重結合の付随的還元を伴わずに、5,6孤立二重結合の選択的接触還元を行う。因子Et−Lは意図的に(ごく少量よりほかは)還元されず、生成物へと持ち越される。スピネトラムが選択的に優れた収率で製造される。均一系触媒ではなく不均一系触媒を使用することにより、後処理条件が単純化される。
【0007】
水素化の出発物質は、発酵因子JおよびLの混合物をアルキル化することによって得られるスピノシン因子Et−JおよびEt−Lの混合物である。スピノシンJおよびLの混合物を得るための手法および株は、米国特許第5,202,242号に開示されている。アルキル化手法は米国特許第6,001,981号に記述されている。本明細書において言及する全ての米国特許の開示は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0008】
アルキル化によって得られるEt−JとEt−Lの混合物(Et−J/L)は、アルキル化ステップの後処理および単離後に得られる固形物として使用することができる。あるいは、Et−J/Lを、溶媒交換後に得られる溶液として使用することもできる。溶液中のEt−J/Lの濃度は5重量%〜50重量%の範囲内のどの濃度でもよく、好ましくは20重量%〜30重量%の範囲で使用される。Et−J/L混合物におけるEt−JとEt−Lの重量百分率は、ジヒドロEt−JおよびEt−Lを1/1〜9/1の重量比で含有する生成物が製造されるようにそれらが選択される限り、決定的な問題ではない。
【0009】
水素化に使用される溶媒は、水素化条件に適合する任意の典型的有機溶媒、例えばトルエン、酢酸エチル、アルコール類(メタノール、エタノール、2−プロパノール)、エーテル類(t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン)、およびグリコールエーテル類であることができる。より具体的には、水素化の最後に行われるスピネトラム沈殿に役立つように、水混和性溶媒が望ましく、ジメトキシエタンおよび2−プロパノールが好ましい。水は、(主溶媒に基づいて)0〜25重量%、好ましくは5重量%〜10重量%の範囲で、共溶媒として使用することができる。水の存在は水素化の速度を増加させ、水素化の最後に行われる触媒濾過を改善する。
【0010】
水素化は、圧力2〜3000psigの水素雰囲気下で行うことができる。典型的には、水素化は5〜15psig水素で行われる。反応圧を低下させるにつれて収率および純度は改善するが、反応速度は低下する。
【0011】
水素化中の反応混合物の温度は、0℃から使用する溶媒の沸点までであることができる。典型的には、温度は0℃〜100℃の範囲、より典型的には0℃〜50℃の範囲になる。最も一般的には、反応は周囲温度で行われる。
【0012】
水素化に使用される触媒は、二重結合を還元する能力を持つ、文献に見出される任意の不均一系触媒、例えばパラジウム、白金、ロジウム、およびニッケルであることができる。これらの触媒は、一般に、不活性支持体、例えば炭素、Al、BaSO、およびCaCO上で、典型的には支持体に対して0.5重量%〜10重量%の触媒量で使用される。触媒は乾燥していてもよいし、60重量%までの水を含有してもよい。水素化に使用される触媒の量は、出発因子Et−J/Lの量に基づいて0.1モル%〜10モル%であることができ、最も一般的には、1〜3モル%使用される。最も重要なのは、因子Et−Jの13,14−共役二重結合の付随的還元を伴わずに、Et−Jの5,6−二重結合を選択的に還元する能力である。例えば5%Rh/Al、5%Rh/C、5%Pd/C、5%Pd/Alは優れた結果を与える。1%〜5%Pd/Cは成功裏に使用されている。Pd/CaCOは成功裏に使用されている。混合金属触媒、例えばRh+Pd/Cも、使用することができる。
【0013】
反応選択性は触媒負荷量を増加させるにつれて増加する。一組の実験により、モル%触媒と13,14二重結合における還元の量との間に、以下の結果が得られた。(1.2モル%Pd/24+時間反応/2.3%過還元)、(1.9モル%Pd/4時間反応/1.5%過還元)、および(4.2モル%Pd/2時間反応/0.5%過還元)。
【0014】
活性炭による供給溶液の前処理は、触媒被毒の量を減少させ、妥当な反応速度を得るのに必要な触媒の量を低下させる。
【0015】
供給溶液のpHは良好な選択性を得るために7未満にすべきである。
【0016】
水素化反応の後処理および単離では、不活性濾過助剤、例えばCeliteまたはセルロースを通した触媒濾過を行った後、水を加えて最終生成物スピネトラムを沈殿させる。本手法では、ウィルキンソン触媒を使った場合に必要な退屈で時間のかかる後処理が回避され、したがって問題の多い数回の抽出およびエーテルの使用が回避される。最終生成物スピネトラムは水性/有機溶媒から濾過され、乾燥されて、製剤に適したスピネトラムを与える。
【実施例1】
【0017】
DMEを用いる固形Et−J/Lのスピネトラムへのロジウム水素化
2L厚肉Parrボトルに135g(≒0.18モル、EtOH/HOから沈殿)の固形Et−J/Lを投入し、次に300mLの1,2−ジメトキシエタン(DME)を投入した。その溶液に9.3gの5%Rh/Al(4.5mmol,)を加え、磁気撹拌を開始した。ボトルを水素化装置に接続し、Nで6psiまで加圧した。圧力を開放し、この操作を4回繰り返した。最後に、ボトルをHで15psiまで加圧し、放圧し、Hで15psiまで再加圧した。その黒色混合物を15psi Hで17時間撹拌した時点で、H NMR分析は還元をほとんど示さなかった。Nで6psiまで加圧することにより、反応混合物を5回、不活性化および放圧した。その暗色混合物を、Celiteを通して濾過することにより、触媒を除去した。その黄色溶液を新鮮な5%Rh/Al(9.3g、4.5mmol,)による水素化(40psi H)に再び付した。27時間後に、H NMR分析が、Et−Jのジヒドロ−Et−Jへの完全な還元を示す。その暗色混合物をCeliteを通して濾過し、減圧下で濃縮することにより、262gの濃厚な暗色油状物を得た。これを、スピネトラムの試料を前もって接種しておいた550mLの水に、1.50時間かけて滴下した。添加中の温度は、氷浴冷却で、<10℃に保った。その濃厚なクリーム状の灰色混合物を室温で2日間撹拌し、濾過し、水で2回洗浄した。そのペースト様物質をドラフト内で終夜風乾した後、45℃の真空乾燥機で乾燥することにより、125gの明灰色粉末(mp 125℃〜130℃)を得た。
【実施例2】
【0018】
IPAを用いるEt−J/L溶液のスピネトラムへのロジウム水素化
2L厚肉Parrボトルに276g(0.1モル、iPrOH(IPA)中27.0重量%、パイロットプラントバッチ3)のEt−J/Lを投入し、次に10.0gの水(IPAの5重量%)を投入した。その溶液に2.57gの5%Rh/Al(1.25mmol,)を加え、磁気撹拌を開始した。ボトルを水素化装置に接続し、Nで6psiまで加圧した。圧力を開放し、この操作を4回繰り返した。最後に、ボトルをHで15psiまで加圧し、放圧し、Hで15psiまで再加圧した。その黒色混合物を15psi Hで撹拌し、LC分析(ACE−Phカラム、40℃、55:45 CHCN/0.5重量%アンモニウムホルメート)でEt−Jの消失とジヒドロ−Et−Jの出現とを観察することにより、反応を監視することができた。16時間後に、LC分析(UV検出、254nm)は、Et−Jが残っていないことと、70.9面積%のジヒドロ−Et−Jとを示した。Nで6psiまで加圧することにより、反応混合物を5回、不活性化および放圧した。その暗色混合物を、5.1gのセルロースを前もって装填しておいた中フリット焼結ガラス漏斗を通して濾過した。濾過は遅く、完了するのに10分を要した。フィルターを10mLのIPAで2回すすいだ。その暗色溶液を2L容器に移し、402g(IPA重量の2倍)の水を、撹拌しながら54〜57℃で4時間かけて滴下した。その濁った2相油性混合物を12時間かけて25℃まで徐冷し、その温度で30時間撹拌した。ゴム状の暗色物質が反応器の側面にいくらか形成されており、それを撹拌混合物中にたたき落とした。固形物を濾過して暗色砂糖様粘着性固形物を得た。その固形物を2:1水/IPAで1回、水で2回洗浄し、アスピレーターで0.5時間乾燥することにより、94.2gの硬い粘着性固形物を得た。その固形物をドラフト中で2日間風乾することにより、77.0gの固形物を得て、40℃の真空乾燥機でさらに乾燥させると、76.7gの明灰色粉末(mp 128〜132℃、乾燥減量23%)を得た。内部標準としてヘキサノフェノンを使用するLC分析は91.0重量%のスピネトラムを示し、Et−J/Lからの総収率は93%になった。
【実施例3】
【0019】
IPAを用いるEt−J/L溶液のスピネトラムへのパラジウム水素化
2L厚肉Parrボトルに281g(0.1モル、iPrOH(IPA)中26.5重量%)のEt−J/Lを投入し、次に10.3gの水(IPAの5重量%)を投入した。その溶液に8.84gのPd/C(1.85mmol,,53.8重量%HO)を加え、磁気撹拌を開始した。ボトルを水素化装置に接続し、Nで6psiまで加圧した。圧力を開放し、この操作を4回繰り返した。最後に、ボトルをHで15psiまで加圧し、放圧し、Hで15psiまで再加圧した。その黒色混合物を15psi Hで撹拌し、LC分析(ACE−Phカラム、40℃、55:45 CHCN/0.5重量%アンモニウムホルメート)でEt−Jの消失とジヒドロ−Et−Jの出現とを観察することにより、反応を監視することができた。38時間後に、LC分析(UV検出、254nm)は、2.0面積%のEt−Jおよび62.9面積%のジヒドロ−Et−Jを示した。ELSDを用いるLC分析は、0.7面積%のEt−J、70.6面積%のジヒドロ−Et−J、および1.9面積%のテトラヒドロ−Et−Jを示した。Nで6psiまで加圧することにより、反応混合物を5回、不活性化および放圧した。その暗色混合物を、15gのセルロースを前もって装填しておいた中フリット焼結ガラス漏斗を通して濾過した。濾過は極めて遅く、完了するのに25分を要した。フリットの表面上に暗色の細粒が集まっていた。フィルターを10mLのIPAで2回すすいだ。その黄色溶液を2L容器に移し、410g(IPA重量の2倍)の水を、撹拌しながら25℃で4時間かけて滴下した。300mLの水を加え終えた後に、白色固形物が形成された。その混合物を25℃で20時間撹拌した(後の実験でこの長さの温浸は必要ないことが示され、この時間は4時間に短縮された)。固形物を濾過し、2:1水/IPAで2回洗浄し、アスピレーターで0.5時間乾燥することにより、84.7gの白色固液物を得た。その固形物をドラフト中で終夜乾燥させたところ、62.3gの白色固形物を得た。40℃の真空乾燥機における最終乾燥により、60.4gの白色粉末固形物(乾燥減量28.7%)を得た。内部標準としてジエチルフタレートを使用するLC分析は、90.9重量%のスピネトラムを示し、Et−J/Lからの総収率は73%になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピネトラムを製造するためのプロセスであって、約50〜90重量%の3’−O−エチルスピノシンJおよび約50〜10重量%の3’−O−エチルスピノシンLを含む混合物を、水混和性有機溶媒中で、圧力2〜3000psigの水素ガスにより、3’−O−エチルスピノシンJの5,6−二重結合を選択的に還元する能力を持つ不均一系触媒の存在下で、3’−O−エチルスピノシンJが3’−O−エチル−5,6−ジヒドロ−スピノシンJに変換されるまで水素化することを含むプロセス。
【請求項2】
前記溶媒がイソプロピルアルコールである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記不均一系触媒が5%Rh/Alまたは5%Pd/Cである、請求項1に記載のプロセス。

【公表番号】特表2010−509225(P2010−509225A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535356(P2009−535356)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/023338
【国際公開番号】WO2008/057520
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(501035309)ダウ アグロサイエンシィズ エルエルシー (197)
【Fターム(参考)】