説明

スピロオキサジンラジカル誘導体及び可逆的異性化反応

【課題】ラジカル種とカチオン種の発生状態を吸収波長の違いで識別できるクロミズム特性を示す新規なスピロオキサジンラジカル誘導体を提供する。
【解決手段】一般式(1)のスピロオキサジンラジカル誘導体。
【化1】


式中、X1はカルコゲン元素、アルキリデン基又はシクロアルキリデン基、X2はカルコゲン元素、R1〜R11は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基又はハロゲン原子であり、また、隣り合う炭素原子にあるR1〜R11は互いに結合して芳香環あるいは複素環を形成していてもよく、nは0又は1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光エネルギーや電気エネルギーを与えることにより、可逆的な着脱色に伴い、ラジカル種が生成又は消失するクロミック性質を有するスピロオキサジンラジカル誘導体及び該スピロオキサジンラジカル誘導体の可逆的異性化反応に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカル化合物は、高活性状態であることから、古くより様々な用途への応用が試みられてきた。例えば、高分子化合物の合成における重合開始剤として使われるラジカル開始剤が示される。
【0003】
しかし、多くのラジカル化合物は不安定であり、短時間でラジカル状態を消失させてしまう。
【0004】
そのような中で、ニトロキシラジカル(>N−O・)は比較的安定してラジカル状態を保っていることができることが知られており、例えば、ニトロキシラジカルを分子内に備えた化合物、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPOL)は、電子スピン共鳴分析(ESR)に用いられるスピンラベル剤として使用されている。さらに、この化合物は、医療用途への応用も検討され、放射線がん治療に使われる防護剤として有望視されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
さらに、近年のエレクトロニクスの目覚しい発展の中で開発された、高速な充放電が期待されている非水電解液二次電池に使われる有機ラジカルポリマーがある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この有機ラジカルポリマーは、二次電池の活物質として機能し、電気化学的に可逆的な酸化還元反応が可能である。この酸化還元反応は、ニトロキシラジカル種とニトロソニウム種の間を、外部からの可逆的な電子の授受により制御され、ニトロソニウム種(カチオン種)が生成した際に、対アニオン種として電子が放出され、電流が発生する。
【0007】
クロミック化合物は、単一化合物にて異なる2つの化学種を有し、各々の化学種が異なる光吸収波長を持ち、それぞれの化学種の間を外的な因子、例えば、光、電気、熱などにより、可逆的な構造異性化反応を起こす機能を有する。
【0008】
クロミック化合物には、スピロピラン化合物、スピロオキサジン化合物などの多くの化合物が知られている(例えば、非特許文献2参照)。それぞれの化合物は合成自由度の高い有機化合物であり、各化合物群から得られる誘導体は、個々に異なる特性を付与できることも知られている。
【0009】
例えば、スピロピラン化合物は、ピラン環内に発色団として機能する炭素−炭素二重結合部(−C=C−)があり、この結合部位は一重項酸素による自動酸化反応が発生しやすい構造であるため、可逆的異性化の耐久性を保持する期間が短いと言われている。
【0010】
また、スピロオキサジン化合物は、スピロピラン化合物のピラン環をオキサジン環に置き換えた構造であり、スピロピラン化合物のピラン環と同様に、オキサジン環上の発色団である炭素−窒素二重結合部(−C=N−)が一重項酸素の攻撃を受ける。しかし、炭素−窒素二重結合は、炭素−炭素二重結合に比べて、一重項酸素の結合が困難であるとされていることから、自動酸化劣化が発生し難くなり、可逆的異性化の耐久性が向上する。したがって、繰り返し耐久性の高いクロミズム特性を示すスピロ化合物にあっては、スピロオキサジン化合物が好ましく、例えば、フォトクロレンズ用機能性色素として応用されている。
【0011】
さらに、従来のスピロオキサジン化合物は、スピロ環のうちの一方を形成するインドリン環、チオリン環、セレナゾリン環などの複素環内の窒素に、ヒドロキシル基、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシアルキル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニルアルキル基などの安定置換基を導入したものが知られている(例えば、非特許文献2、特許文献2参照)が、不安定化学種であるラジカルを有する基を直接導入したものは知られてない。
【0012】
また、安定な有機ラジカル化合物として、ニトロキシラジカル基を有する複素環化合物があり、上記したTEMPOLに加え、例えば、5,5−ジメチル−1−ピロリン−N−オキシドのスピンアダクト、3−カルバモイル−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル、4−カルバモイル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルなどが知られている。
【0013】
これら安定ニトロキシラジカル基をもつ複素環化合物は、異なる印加電位を与えると、ニトロキシラジカルとニトロソニウムイオン間を可逆的に変化する。つまり、可逆的な酸化還元反応を示して、電子の授受が発生する。しかし、ニトロキシラジカルのような安定ラジカル基をもつ有機ラジカル化合物の酸化還元反応の可逆的な状態変化は、酸化還元電位の直接測定を行う以外に方法がなかった。
【特許文献1】特開2005−209498号公報
【特許文献2】特開2000−026469号公報
【非特許文献1】S.M.Halm, etc., "Evaluation of temp radioprotection in murine tumor model", Free Rad. Biol. Med., 22, 1211-1216(1997)
【非特許文献2】日本化学会編、季刊化学総説、No.28「有機フォトクロミズムの化学」、P70−88(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明の課題は、酸化還元反応の発生に寄与する安定ラジカル基と、クロミズム特性に寄与する発色団を合わせ持ち、有機ラジカル化合物の酸化還元反応を異なる波長光を与えることで制御すると共に、光異性化に伴う吸収スペクトル変化、又は可視域に吸収のある場合は色変化も誘起させることが可能である、ラジカル種とカチオン種の発生状態を吸収波長の違いで識別できるクロミズム特性を示す新規なスピロオキサジンラジカル誘導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題の解決のために、クロミズム特性を示すスピロオキサジン化合物のオキサジン環に対してスピロ環を形成している、ピロリジン環、ピペリジン環、オキサゾリジン環、オキサジン環、チアゾリジン環、チアジン環、セレナゾリジン環、セレナジン環などの環内に、安定なラジカル種であるニトロキシラジカル部位(>N−O・)をもたせること、つまり、スピロ炭素に隣接する窒素原子に、酸素ラジカルを導入することで、目的が解決されることを見出し、ついに本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)のスピロオキサジンラジカル誘導体である。
【0017】
【化1】

式中、
1は、カルコゲン元素、アルキリデン基あるいはシクロアルキリデン基であり、
2は、カルコゲン元素であり、
1〜R11は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基又はハロゲン原子であり、又は、隣り合う炭素原子にあるR1〜R11は、互いに結合して、置換基を有することのある、芳香環あるいは複素環を形成していてもよく、
nは0又は1である。
【0018】
また、本発明は、下記反応式Iに示す、スピロオキサジンラジカル誘導体の一般式(1
)のスピロ型構造体と一般式(2)の開環体との可逆的異性化反応である。
【0019】
【化2】

式中のX1、X2、R1〜R11及びnは、上記で示したと同じである。
【発明の効果】
【0020】
本発明のスピロオキサジンラジカル誘導体は、有機溶媒やポリマー中に溶解し、紫外光や可視光が照射されると、それぞれの波長光において、2つの異なる吸収ピークをもつ光吸収スペクトルが可逆的に変化し、特に可視域にスペクトル吸収がある場合は、着色と退色の可逆変化があり、これら可逆変化に伴い、酸化還元電位変化を生じ、それぞれの波長光における化学種の状態に応じた電子の授受が発生するので、この性質を用いて、各種用途に使用可能である。
【発明を実施するために最良の形態】
【0021】
本発明は、上記一般式(1)で表される、5又は6員複素環とオキサジン系複素環がスピロ構造をし、5又は6員複素環中のスピロ炭素に隣る窒素原子に酸素ラジカルが結合した、すなわちニトロキシラジカルとなった、スピロオキサジンラジカル誘導体である。
【0022】
上記一般式(1)中のX1は、カルコゲン元素、アルキリデン基あるいはシクロアルキリデン基である。なお、カルコゲン元素としては、酸素原子、硫黄原子、セレン原子などを挙げることができる。また、ここで、アルキリデン基の2つのアルキル基は、互いに同じであっても異なっていても構わない。
【0023】
なお、X1がカルコゲン元素であるときは、ニトロキシラジカルの安定に寄与するので、酸素原子が一番好ましく、硫黄原子、セレン原子の順である。また、アルキリデン基のときは、アルキリデン基を構成する2つのアルキル基はそれぞれ独立に炭素数1〜5個のものが好ましく、ニトロキシラジカルの安定には、1〜3個ものが好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などである。同様に、シクロアルキリデン基であるときは炭素数5〜7であることが好ましい。
【0024】
2は、カルコゲン元素、例えば、酸素原子、硫黄原子、セレン原子などであり、ニトロキシラジカルがより安定するので、原子量の小さい酸素原子が好ましい。なお、X2が酸素原子であるときは、該6員環がオキサジン環であるが、本明細書中では、X2が酸素原子以外のカルコゲン元素であるときも簡便のためにオキサジン環という。
【0025】
1〜R11は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基又はハロゲン基であり、また、隣り合う炭素にあるR1〜R11は、該炭素原子と共に、置換基を有しても良い、芳香環あるいは複素環を形成していてもよい。なお、R1〜R11はアルキル基であるときは、炭素数1から4までが好ましく、特に、R1、R2及びR5はメチル基であることが、ニトロキシラジカルの安定のために好ましい。
【0026】
また、R1〜R11は、隣り合う炭素原子にあるもの同士が結合して、該炭素原子と共に、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環等の芳香環や、例えば、ピリジン環、ピリミジン環、イソキノリン環、キナゾリン環、アクリジン環、ベンゾアクリジン環等の複素環を形成することがある。さらに、これら芳香環あるいは複素環は、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基等の電子供与性基やニトロ基、シアノ基、ハロゲン化アルキル基、アルキルカルボニル基、アルキルエステル基、ハロゲン基等の電子吸引性基などの置換基が置換されていても良い。
【0027】
すなわち、nが0のとき、隣り合う炭素原子にあるR1、R2、R3及びR4と当該炭素原子との間で芳香環又は複素環を形成しても良いことを、また、nが1のときは、隣り合う炭素原子にあるR1、R2、R10及びR11の組合せあるいはR10、R11、R3及びR4の組合せで、芳香環又は複素環を形成しても良いことを意味する。なお、環の形成が複素環である場合、これらの組合せにおいて、当該炭素原子間が2重結合又は共役系である時や複素芳香環では、4つの基はすべて結合に関与する。しかし、当該炭素原子から形成される環が両方とも飽和結合であったり、一方のみが不飽和結合であったりした時、複素環の形成ではこれら4つの基は環を形成する基と環の形成に関与しない基が1個又は2個ある。したがって、このことも上記には含んでいる。
【0028】
また、オキサジン環に結合するベンゼン環にあるR6〜R9は、隣り合うもの同士で該ベンゼン環にさらにベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環等の芳香環や、ピリジン環、ピリミジン環、イソキノリン環、キナゾリン環、アクリジン環、ベンゾアクリジン環等の複素環が形成されていても良いことを意味する。
【0029】
なお、上記において、ニトロキシラジカルの安定には、芳香環や複素環を含まない構造が好ましいが、芳香環を導入する場合はもっとも小さいベンゼン環が好ましく、次いでナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環の順である。複素環を導入する場合も、芳香環と同じく、もっとも小さいピリジン環が好ましく、次いでピリミジン環、イソキノリン環、キナゾリン環、アクリジン環、ベンゾアクリジン環の順である。
【0030】
また、芳香環や複素環はアルキル基、アルコキシ基、アミノ基等の電子供与性基やニトロ基、シアノ基、ハロゲン化アルキル基、アルキルカルボニル基、アルキルエステル基、ハロゲン基等の電子吸引性基などの置換基が置換されていてもよい。なお、電子供与性基と電子吸引性基は助色団としての機能があるので、電子供与性基の導入により光吸収波長を長波長側に移動でき、電子吸引性基の導入により光吸収波長を短波長側に移動できる。
【0031】
なお、一般式(1)において、nは0又は1である。
【0032】
本発明のスピロオキサジンラジカル誘導体の前駆体は、プロトン核磁気共鳴分析(1H−NMR)、カーボン核磁気共鳴分析(13C−NMR)、赤外分光分析(FT−IR)、元素分析等にて、構造確認が行なえる。また、本発明のスピロオキサジンラジカル誘導体自体は、電子スピン共鳴分析(ESR)にて、確認できる。
【0033】
本発明のスピロオキサジンラジカル誘導体は、その合成方法については特に限定されることはないが、合成ステップ数の少ない簡素な合成経路として以下に示す方法を示すことができる。
【0034】
下記一般式(3)で示される化合物Aと下記一般式(4)で示される化合物Bを、メタノール、エタノール、トルエン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミドなどの溶媒存在中で、窒素、アルゴンなどの不活性気体雰囲気下に、還流しながら反応を進行させる。
【0035】
【化3】

式(3)及び式(4)中のX1、X2、R1〜R11及びnは、上記で示したと同じである。
【0036】
化合物Aと化合物Bの反応割合は、求める収率にもよるが、1モル対3モルから3モル対1モルの範囲が好ましい。ここで得られる反応生成物は、下記一般式(5)に示す化合物C(中間合成物)となる。
【0037】
【化4】

式(5)中のX1、X2、R1〜R11及びnは、上記で示したと同じである。
【0038】
続いて、化合物Cに、異常過熱しないように過酸化水素を滴下しながら加え、第二アミン部を酸化してヒドロキシルアミン化し、本発明のスピロオキサジンラジカル誘導体の前駆体である下記一般式(6)に示す化合物D(中間合成物)を得る。
【0039】
【化5】

式(6)中のX1、X2、R1〜R11及びnは、上記で示したと同じである。
【0040】
最後に、化合物Dを十分に脱水した有機溶媒、例えば、エーテル、クロロホルム、酢酸エチル、ヘキサン、アセトニトリルなどに溶解し、氷冷にて酸化銀を加えて十分に攪拌する。副生成物として得られる水を、無水硫酸ナトリウムを加えることで脱水除去する。ろ過により固形残渣を除去し、ろ液をロータリーエバポレーターなどで減圧濃縮する。このとき、完全に溶媒を除去することなく、残留物の2倍から3倍の溶媒を残す。残分をエタノールとドライアイス混合物などにより低温冷却し、本発明のスピロオキサジンラジカル誘導体Eを得る。
【0041】
本発明のスピロオキサジンラジカル誘導体は、塩化メチレン、クロロホロルム、ヘキサン、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランなどの有機溶媒に溶解し、下記の反応式Iに示すような可逆変化を誘起させるべく、400nm〜750nmの可視光域又は250nm〜400nmの紫外光域の光により、可逆的な光吸収スペクトル変化を誘起する。状態変化の確認は、紫外可視分光光度計により、2つの異なる吸収ピークの吸光度変化により、可逆的状態変化を知ることができ、特に可視域に吸収がある場合は、可逆的色変化として、着色状態と無色状態の間の変化を視認できる。2つの状態変化の可逆的なラジカルの発生と消失は、電子スピン共鳴分析(ESR)にて知ることができる。さらに、本発明のスピロオキサジンラジカル誘導体について、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定をすることで、可逆的な酸化還元反応に伴う電位変化を知ることができる。
【0042】
【化6】

上記反応式I中のX1、X2、R1〜R11及びnは、上記で示したと同じである。
【0043】
なお、反応式Iでは、完全に電子が離れたカチオン種構造を示した。しかし、X1、X2、R1〜R11及びnの組み合わせにもよるが、この中間にはカチオン種と電子が対をなした構造や一般式(2)の開環体において電子が離れる前の状態であるラジカル様構造もありうる。
【0044】
本発明のスピロオキサジンラジカル誘導体は、反応式Iに示したような酸化還元反応を利用して、例えば、二次電池等の各種用途に利用可能である。
【実施例】
【0045】
本発明の実施例を以下に示す。ただし、例示内容に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
化合物Aとして下記式(7)にて示される2−メチレン−3,3,5,5−テトラメチルピロリジン3mmol(417mg)と化合物Bとして2−ニトロソフェノール3mmol(369mg)を脱水メタノール溶媒40mlに溶解し、3時間加熱還流した後、溶媒を減圧留去した。得られた残留反応物をシリカゲルカラムで展開分離し(展開溶媒:酢酸エチル/ノルマルヘキサン混合溶媒)、下記式(8)で示される化合物(C−1)の溶液を得た。得られた溶液から溶媒を減圧留去して十分に除去し、精製された化合物(C−1)が得られた。
【0047】
【化7】

【0048】
【化8】

【0049】
続いて、化合物(C−1)0.61mmol(150mg)を脱水エーテル中にて、異常発熱しないように、ゆっくりと過酸化水素水を過剰量滴下し、下記式(9)で示される化合物(D−1)を得た。
【0050】
【化9】

【0051】
化合物(D−1)0.50mmol(130mg)を脱水エーテル30ml中に加え、氷冷にて酸化銀(I)0.50mmol(116mg)を加えて十分に攪拌した。無水硫
酸ナトリウムを加えて、吸引濾過した。得られた濾液をロータリーエバポレーターにより、2分の1の体積まで減圧濃縮した。残分をエタノールとドライアイス混合物などにより低温冷却(−78℃)し、下記式(10)で示されるスピロオキサジンラジカル誘導体(E−1)を得た。
【0052】
【化10】

【0053】
なお、スピロオキサジンラジカル誘導体(E−1)のラジカルの発生は電子スピン共鳴分析(ESR)により確認できた。上記の反応原料、中間合成物及びスピロオキサジンラジカル誘導体の構造を第1表(表1〜3)に示した。また、中間合成物(C−1)、(D−1)の1H−NMRの測定結果(溶媒:CDCl3、基準:TMS)と元素分析結果を第2表(表4、5)に示す。
【0054】
[実施例2〜15]
実施例1と同様にして、表1に示す原料を用い、表1に示す各種スピロオキサジンラジカル誘導体を製造した。これら実施例での中間合成物の構造を第1表(表1〜3)に、また、中間合成物の1H−NMRの測定結果(溶媒:CDCl3、基準:TMS)と元素分析結果を第2表(表4、5)に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【0060】
上記により得られたスピロオキサジンラジカル誘導体を、クロロホルムに溶解し、紫外光や可視光を照射したところ、紫外可視分光光度計により、2つの異なる吸収ピークが観測され、一方の吸収ピークの増加減衰変化に対応して、他方の吸収ピークの減衰増加変化が確認できると共に、400nm〜800nmの可視域にスペクトル吸収が観測されるものにあっては、着色と消色が可逆的に変化することを目測確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)のスピロオキサジンラジカル誘導体。
【化1】

式中、
1は、カルコゲン元素、アルキリデン基あるいはシクロアルキリデン基であり、
2は、カルコゲン元素であり、
1〜R11は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基又はハロゲン原子であり、又は、隣り合う炭素原子にあるR1〜R11は、互いに結合して、置換基を有することのある、芳香環あるいは複素環を形成していてもよく、
nは0又は1である。
【請求項2】
一般式(1)において、nが0である、請求項1記載のスピロオキサジンラジカル誘導体。
【請求項3】
一般式(1)において、nが1である、請求項1記載のスピロオキサジンラジカル誘導体。
【請求項4】
下記反応式Iに示す、スピロオキサジンラジカル誘導体の一般式(1)スピロ型構造体と一般式(2)の開環体との可逆的異性化反応。
【化2】

式中のX1、X2、R1〜R11及びnは、請求項1で示したと同じである。
【請求項5】
反応式Iにおいて、nが0である、請求項4記載の可逆的異性化反応。
【請求項6】
反応式Iにおいて、nが1である、請求項4記載の可逆的異性化反応。

【公開番号】特開2008−150357(P2008−150357A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241225(P2007−241225)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】