説明

スピロ環状アセタール化合物およびその製造方法ならびにスピロ環状アセタール構造を有するポリマー

【課題】ポリマー原料および架橋剤(またはその原料)として有用な新規なスピロ環状アセタール類およびそれらの製造方法を提供する。また、スピロ環状アセタール骨格を繰り返し単位に含む新規なポリマーを提供する。
【解決手段】固体酸触媒の存在下、下記一般式(I)で表される化合物とペンタエリスリトールとを脱水縮合させて、下記一般式(II)で表されるスピロ環状アセタール化合物を製造する。下記一般式(II)で表わされるスピロ環状アセタール化合物を用いて下記一般式(III)で表わされる繰り返し単位を有するポリマーを製造する。




(式中、Rはアルキル基又はアリール基を表し、Qは水素原子又はアシル基を表し、Lは少なくとも1つの炭素原子を含む2価の連結基を表し、nは0または1を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なスピロ環状アセタール化合物およびその製造方法に関する。また、本発明は、上記アセタール化合物を用いた新規なジアクリレート化合物およびポリエステル類に関する。
【背景技術】
【0002】
3,9位に直接またはアルキレン基やフェニレン基を介して水酸基またはエステル基を有する2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン類は、加工性、耐熱性、耐水性、機械的強度、密着性、耐クラック性等に優れたポリマー原料またはこれらの性能を発現するための架橋剤(またはその原料)として有用である(例えば、特許文献1〜7、並びに非特許文献1及び2参照)。
一般に、2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン類は、酸触媒存在下、カルボニル化合物とペンタエリスリトール[C(CH2OH)4]とを脱水縮合することにより合成することができる(例えば非特許文献3及び4参照)。分子内に水酸基やエステル基を有するカルボニル化合物を出発原料に用いることにより、ポリマー原料や架橋剤(またはその原料)として有用な3,9位に直接またはアルキレン基やフェニレン基を介して水酸基またはエステル基を有する2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン類を合成することができる(例えば、特許文献8、並びに非特許文献5及び6参照)。
しかしこの場合は、自己縮合やエステル交換反応等の副反応を併発する可能性があり、特にケトン類の場合は、非特許文献3及び4からも明らかなように、アルデヒド類と比べて所望のスピロ環状アセタール化反応が遅いため、高純度の目的物を効率的に得られないことが少なくない。
【0003】
この問題を解決する目的で、アセトンとペンタエリスリトール[C(CH2OH)4]とから一旦ジケタール(3,3,9,9−テトラメチル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)を調製し、このジケタールとケトエステルとをメタノール中で酸触媒を用いてアセタール交換することにより3,9−ジアルキル(またはジアリール)−3,9−ビス(メトキシカルボニルアルキル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンを高収率、高純度で合成する例が知られている(非特許文献7)。
しかし、この方法は工程が煩雑かつ工程数が多いため経済的に好ましくない。また、この方法においては本質的にエステル交換反応等の副反応の問題が解決されたわけではなく、3,9−ジアルキル(またはジアリール)−3,9−ビス[アシルオキシメチル(またはヒドロキシメチル)]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンの合成には適用することはできない。
【0004】
以上のように、従来、3,9−ジアルキル(またはジシクロアルキルもしくはジアリール)−3,9−ビス[アシルオキシメチル(またはヒドロキシメチル)]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンを効率的に合成する方法は知られていなかった。また、それ故、3,9−ジメチル−3,9−ビス(ヒドロキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンやそのジアシル体および3,9−ジメチル−3,9−ビス(ヒドロキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等のジオールを原料に用いたポリエステルは知られていなかった。
【0005】
【特許文献1】米国特許第2,945,008号明細書
【特許文献2】特開昭60−195168号公報
【特許文献3】特開昭61−47722号公報
【特許文献4】特開昭61−195136号公報
【特許文献5】特開平2−187424号公報
【特許文献6】特開平4−88078号公報
【特許文献7】特開2001−277421号公報
【特許文献8】米国特許第3,092,640号明細書
【非特許文献1】「ポリマー(韓国)[Polymer(Korea)]」,Vol.4,No.5,p.448−455(1990)
【非特許文献2】「ポリマー・インターナショナル(Polymer Int.)」,Vol.52,p.1633−1640(2003)
【非特許文献3】「シンセティック・コミュニケーションズ(SYNTHETIC COMMUNICATIONS)」,Vol.29,No.9,p.1601−1606(1999)
【非特許文献4】「ブルテイン・オブ・ザ・ケミカル・ソシエティー・オブ・ジャパン(Bull.Chem.Soc.Jpn.)」,Vol.75,p.2195−2205(2002)
【非特許文献5】「テトラへドロン(Tetrahedron)」,60,p.4789−4800(2004)
【非特許文献6】「ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(J.Org.Chem.)」,Vol.24,p.1958−1961(1959)
【非特許文献7】「ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(J.Org.Chem.)」,Vol.26,p.2515−2518(1961)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポリマー原料および架橋剤(またはその原料)として有用な3,9−ジアルキル(またはジシクロアルキルもしくはジアリール)−3,9−ビス[アシルオキシメチル(またはヒドロキシメチル)]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンの効率的な製造方法を提供することを目的とする。
また本発明は、新規な化合物である3,9−ジメチル−3,9−ビス(ヒドロキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、3,9−ジメチル−3,9−ビス(アセチルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、3,9−ジメチル−3,9−ビス(プロピオニルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、3,9−ジメチル−3,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、および3,9−ジメチル−3,9−ビス(ヒドロキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンを原料として得られるポリエステル類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
鋭意検討した結果、本発明の目的は以下により達成することができた。
[1]固体酸触媒の存在下、下記一般式(I)で表される化合物とペンタエリスリトールとを脱水縮合させることを特徴とする下記一般式(II)で表されるスピロ環状アセタール化合物の製造方法。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Rはアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基を表し、これらの各基は置換基を有してもよい。Qは水素原子またはアシル基を表す。)
[2]前記固体酸触媒がゼオライト又は層状粘土鉱物であることを特徴とする[1]項に記載のスピロ環状アセタール化合物の製造方法。
[3]前記固体酸触媒が層状粘土鉱物であることを特徴とする[1]または[2]項に記載のスピロ環状アセタール化合物の製造方法。
[4]前記層状粘土鉱物がモンモリロナイトであることを特徴とする[2]または[3]項に記載のスピロ環状アセタール化合物の製造方法。
[5]Rがメチル基であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載のスピロ環状アセタール化合物の製造方法。
[6]下記一般式(A)で表されるスピロ環状アセタール化合物。
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、Qは水素原子、−COCH、−COC、−COCH=CHまたは−COC(CH)=CHを表す。)
[7]前記一般式(A)で表される化合物が、下記式(II−1)、(II−2)または(II−3)のいずれかで表されることを特徴とする[6]項に記載のスピロ環状アセタール化合物。
【0012】
【化3】

【0013】
[8]前記一般式(A)で表される化合物が、下記一般式(II−4)で表されることを特徴とする[6]項に記載のスピロ環状アセタール化合物。
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
[9]下記一般式(III)で表される繰り返し単位を有するポリマー。
【0016】
【化5】

【0017】
(式中、Lは少なくとも1つの炭素原子を含む2価の連結基を表し、nは0または1を表す。)
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法によれば、副生成物の生成を著しく抑制でき、ポリマー原料および架橋剤(またはその原料)として有用な3,9−ジアルキル(またはジシクロアルキルもしくはジアリール)−3,9−ビス[アシルオキシメチル(またはヒドロキシメチル)]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンを効率的に製造することができる。また、新規化合物3,9−ジメチル−3,9−ビス(ヒドロキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、3,9−ジメチル−3,9−ビス(アセチルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、3,9−ジメチル−3,9−ビス(プロピオニルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、3,9−ジメチル−3,9−ビス[(メタ)アクリロイルオキシメチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンおよび、3,9−ジメチル−3,9−ビス(ヒドロキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンを原料として得られるポリエステル類が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、前記一般式(II)で表されるスピロ環状アセタール化合物について説明する。
前記一般式(II)で表される化合物において、Rはアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基を表す。Rで表されるアルキル基は、炭素数1〜20が好ましく、より好ましくは炭素数2〜10であり、直鎖であっても分岐であってもよい。Rで表されるシクロアルキル基は、炭素数3〜20が好ましく、より好ましくは炭素数5〜10である。これらのアルキル基、シクロアルキル基としては、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル、デシル等が挙げられる。また、これらのアルキル基、シクロアルキル基は置換基を有していてもよい。
【0020】
該置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数20以下のアルキル基(例えばメチル、エチル)、炭素数20以下のアルケニル基(例えば、ビニル、アリル)、炭素数20以下のシクロアルキル基(例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル)、炭素数20以下のシクロアルケニル基(例えば、シクロへキセニル)、炭素数30以下のアリール基(例えばフェニル、ナフチル)、シアノ基、カルボキシル基、炭素数20以下のアルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル)、炭素数30以下のアリールオキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル)、カルバモイル基(例えばカルバモイル、N−フェニルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル)、炭素数20以下のアルキルカルボニル基(例えばアセチル)、炭素数30以下のアリールカルボニル基(例えばベンゾイル)、ニトロ基、アミノ基(例えばアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ)、炭素数20以下のアシルアミノ基(例えばアセトアミド、エトキシカルボニルアミノ)、スルホンアミド基(例えばメタンスルホンアミド)、イミド基(例えばスクシンイミド、フタルイミド)、イミノ基(例えばベンジリデンアミノ)、
【0021】
ヒドロキシ基、炭素数20以下のアルコキシ基(例えばメトキシ)、炭素数30以下のアリールオキシ基(例えばフェノキシ)、炭素数20以下のアシルオキシ基(例えばアセトキシ)、炭素数20以下のアルキルスルホニルオキシ基(例えばメタンスルホニルオキシ)、炭素数30以下のアリールスルホニルオキシ基(例えばベンゼンスルホニルオキシ)、スルホ基、スルファモイル基(例えばスルファモイル、N−フェニルスルファモイル)、炭素数20以下のアルキルチオ基(例えばメチルチオ)、炭素数30以下のアリールチオ基(例えばフェニルチオ)、炭素数20以下のアルキルスルホニル基(例えばメタンスルホニル)、炭素数30以下のアリールスルホニル基(例えばベンゼンスルホニル)、ヘテロ環基などを挙げることができる。置換基は更に置換されていても良く、置換基が複数ある場合は、同じでも異なっても良い。また置換基同士で結合して環を形成しても良い。さらに置換基中のアルキル基は任意の位置に不飽和結合を形成していてもよい。
で表されるアリール基は、炭素数6〜30が好ましく、より好ましくは炭素数6〜20であり、例えばフェニル、ナフチルが挙げられ、置換基を有してもよいフェニル基が好ましい。また、これらのアリール基は上記のアルキル基、シクロアルキル基で述べたような置換基を有していてもよい。
は好ましくはアルキル基であり、より好ましくは無置換アルキル基であり、さらに好ましくはメチル基、エチル基であり、最も好ましくはメチル基である。
【0022】
Qは水素原子またはアシル基を表す。Qで表されるアシル基は炭素数1〜30が好ましく、より好ましくは炭素数1〜20であり、例えばアセチル、プロピオニル、ピバロイル、オクタノイル、ドデカノイル、ベンゾイル等が挙げられる。また、これらのアシル基は上記のRにおけるアルキル基、シクロアルキル基で述べたような置換基を有していてもよい。Qは好ましくはアセチル基またはプロピオニル基である。
【0023】
前記一般式(II)で表されるスピロ環状アセタール化合物は、下記一般式(A)で表されるスピロ環状アセタール化合物が好ましい。
【0024】
【化6】

【0025】
(式中、Qは水素原子、−COCH、−COC、−COCH=CHまたは−COC(CH)=CHを表す。)
上記一般式(A)で表されるスピロ環状アセタール化合物は、下記式(II−1)、(II−2)、(II−3)または一般式(II−4)として表される。
【0026】
【化7】

【0027】
【化8】

【0028】
式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。
は、好ましくは水素原子である。
【0029】
次に、本発明のスピロ環状アセタール化合物の製造方法について説明する。
前記一般式(II)で表されるスピロ環状アセタール化合物は、固体酸触媒の存在下、前記一般式(I)で表される化合物とペンタエリスリトール[C(CHOH)]とを脱水縮合することにより製造することができる。
前記一般式(I)中、R及びQは、一般式(II)について上述したものと同様であり、好ましい範囲も同様である。
本発明において、脱水縮合は、反応条件下、生成する水を分離あるいは除去できる方法であればいずれの方法でもよいが、例えば、共沸で水を除去する方法や、脱水剤存在下で反応を行う方法が好ましい。
このとき、ペンタエリスリトールの使用量としては前記一般式(I)で表される化合物に対して、0.1〜5当量が好ましく、0.2〜1当量がより好ましく、0.3〜0.6当量が特に好ましい。
【0030】
酸触媒としては、アセタール化反応で一般的に用いられるp−トルエンスルホン酸一水和物、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩等の酸触媒を用いることもできるが、エステル交換や自己縮合が避けられない。これに対し、本発明では固体酸触媒が用いられる。固体酸触媒は、酸性度を適度に調整することが可能で、かつ表面や細孔内の立体構造による反応制御が可能であり、上述したエステル交換や自己縮合などの副反応の生起を抑制することができる。
固体酸触媒の例としては、無機または有機のマトリックス中に何らかの方法でスルホン酸を固定化したもの[例えば、ナフィオン(Nafion、商品名)、アンバーライト(Amberlite、商品名、酸性のもの)等]、硝酸酸化カーボン、ゼオライト(例えば、A、X、Y型、モルデナイト、エリオナイト、ZSM−5等)、リン酸アルミニウム、層状粘土鉱物(例えば、モンモリロナイト(montmorillonite)、バイデライト(beidellite)、ノントロナイト(nontronite)、サポナイト(saponite)、ヘクトライト(hectorite)、海泡石(sepiolite)等)等が挙げられる。より好ましい固体酸触媒はゼオライトおよび層状粘土鉱物であり、中でもモンモリロナイトが好ましい。
固体酸触媒の使用量としては前記一般式(I)で表される化合物に対して0.001〜2当量が好ましく、0.01〜0.5当量がより好ましい。酸触媒が固体酸触媒の場合は、活性点の酸性度や密度にもよるが、前記一般式(I)で表される化合物に対して0.1〜200質量%用いるのが好ましく、より好ましくは1〜50質量%であり、更に好ましくは5〜30質量%である。
【0031】
共沸により水を除去する場合は、Dean−Stark水分離器を用いるのが好ましい。また、脱水剤により水を除去する場合、脱水剤としては、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、ゼオライト、モレキュラー・シーブス等が挙げられる。これらの脱水剤は反応で生成する水を保持することができる量以上の量を用いることが好ましい。脱水剤は反応系に入れて使用してもよいし、還流管中に保持させる等して反応系外で使用してもよい。
反応は無溶媒で行ってもよいし、溶媒中で行ってもよい。用いる溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、石油エーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン、四塩化炭素、クロロホルム、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等、およびこれらの混合溶媒が挙げられ、より好ましくはヘキサン、ヘプタン、シクロヘプタン、トルエン、キシレンであり、トルエンがより好ましい。溶媒の使用量は前記一般式(I)で表される化合物の1〜100質量倍が好ましく、2〜50質量倍がより好ましい。反応温度は好ましくは0〜200℃であり、より好ましくは50〜150℃である。反応時間は使用する酸の種類、量、溶媒および反応温度に依存する。これらを適宜調節し12時間以内、好ましくは6時間以内で反応を行うことが好ましい。
【0032】
前記式(II−1)で表される化合物は、上記で記載した反応条件下、ヒドロキシアセトン(前記一般式(I)中、Rがメチル基、Qが水素原子である。)とペンタエリスリトールとを反応させることにより製造することもできるし、また、前記一般式(II)においてQがアシル基である化合物の加水分解によっても製造することができる。
一方、前記一般式(II)で表される化合物のうち、Qがアシル基の場合、上記で記載した条件下、前記一般式(I)においてQがアシル基である化合物とペンタエリスリトールとを反応させることにより製造することもできるし、前記式(II−1)で表される化合物をアシル化して製造することもできる。
【0033】
前記一般式(II)においてQがアシル基である化合物の加水分解により前記式(II−1)で表される化合物を製造する際の条件としては、アルカリ条件が好ましい。溶媒としては水の他に、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトニトリル等の共溶媒を用いてもよい。溶媒の使用量としては、前記一般式(II)においてQがアシル基である化合物の0.5〜50質量倍が好ましく、1〜10質量倍がより好ましい。共溶媒を用いる場合、水/共溶媒の体積比は、好ましくは1/10〜10/1の範囲であり、より好ましくは1/3〜3/1の範囲である。
【0034】
好ましい塩基としては、水酸化アルカリ金属(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、水酸化アルカリ土類金属(例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等)、アミン類(例えばアンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、ヒドラジン等)等が挙げられ、より好ましくは、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである。塩基の使用量は、好ましくは前記一般式(II)で表される化合物(ただし、式中のQは水素原子ではない)に対して1〜50当量であり、より好ましくは2〜10当量である。反応温度は好ましくは0〜200℃であり、より好ましくは20〜80℃である。反応時間は使用する塩基の種類、量、溶媒および反応温度に依存する。 これらを適宜調節し10時間以内、好ましくは5時間以内で反応を行うことが好ましい。
【0035】
前記式(II−1)で表される化合物をアシル化して、前記一般式(II)[式(II−2)、式(II−3)、一般式(II−4)で表される化合物を含む]におけるQがアシル基である化合物を製造するには、例えば中性〜塩基性条件下、前記式(II−1)で表される化合物とカルボン酸を反応させる方法(例えば日本化学会編,「第4版 実験化学講座22 有機合成IV −酸・アミノ酸・ペプチド−」,丸善株式会社発行,p.45−47に記載されているような方法)や、塩基性条件下、前記式(II−1)で表される化合物と酸ハライドまたは酸無水物を反応させる方法(例えば日本化学会編,「第4版 実験化学講座22 有機合成IV −酸・アミノ酸・ペプチド−」,丸善株式会社発行,p.50−51に記載されているような方法)を用いることができる。特に、式(II−1)で表される化合物と(メタ)アクリル酸誘導体(酸、酸ハライドまたは酸無水物)との反応により重合性2官能モノマーとして有用な一般式(II−4)で表されるジ(メタ)アクリレートが得られる。
【0036】
本発明の化合物は、ポリマー原料および架橋剤(またはその原料)として有用である。このうち、ポリマーとしては、特に下記一般式(III)で表される繰り返し単位を有するポリマーが好ましい。
【0037】
【化9】

【0038】
式中、Lは少なくとも1つの炭素原子を含む2価の連結基を表し、nは0または1を表す。
Lとして好ましくは、炭素数1〜20(好ましくは2〜10)の直鎖または分岐のアルキレン基(例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ヘキシレン、オクチレン等)、炭素数3〜20(好ましくは5〜10のシクロアルキレン基(例えば、シクロペンチレン、シクロヘキシレン等)および炭素鎖6〜20(好ましくは6〜12)のアリーレン基(たとえば、1,2−フェニレン、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン、1,5−ナフタレン、2,6−ナフタレン等)を挙げることができる。これらの各基は置換基を有してもよく、Rにおけるアルキル基、シクロアルキル基で説明した置換基が挙げられる。
【0039】
ここで、一般式(III)で表される繰り返し単位を有するポリマーは、式(II−1)で表される化合物と2官能のカルボン酸誘導体と重縮合させることにより誘導することができる。
より具体的には、前記式(II−1)で表されるジオールは、例えば丸善株式会社発行、日本化学会編、第4版実験化学講座28、高分子合成、p.217−231に記載の方法等に準じて、2官能のカルボン酸誘導体と重縮合させることにより、前記一般式(III)で表される繰り返し単位を有するポリマーへと誘導することができる。
【0040】
2官能のカルボン酸誘導体として好ましくは、酸ハライド(例えば酸フルオリド、酸クロリド、酸ブロミド等)であり、より好ましくは酸クロリドである。
式(II−1)で表されるジオールと2官能酸ハライドとの重縮合は、無塩基で行ってもよいが、塩基の存在下で行った方が好ましい。好ましい塩基としては、水酸化アルカリ金属(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、水酸化アルカリ土類金属(例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等)、アルカリ金属炭酸塩(例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等)、アルカリ金属炭酸水素塩(例えば、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等)、アルカリ土類金属炭酸塩(例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム等)等の無機塩基およびピリジン、ピコリン、ルチジン、コリジン、キノリン、イソキノリン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデ−7−セン、テトラメチルグアニジン等の有機塩基が挙げられ、より好ましくはピリジン、ピコリン、ルチジン、コリジン、キノリン、イソキノリン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の有機塩基である。塩基の使用量としては、好ましくは式(II−1)で表されるジオールに対し、0.1当量〜100当量であり、より好ましくは2当量〜10当量である。
【0041】
式(II−1)で表されるジオールと2官能酸ハライドとの重縮合において、2官能酸ハライドは、式(II−1)で表されるジオールに対し、好ましくは0.8当量〜1.2当量用いるのが好ましく、より好ましくは0.95当量〜1.05当量である。式(II−1)で表されるジオールと2官能酸ハライドとの重縮合は、無溶媒で行っても、溶媒中で行ってもよく、好ましくは−20℃〜200℃、より好ましくは0℃〜100℃の温度で行う。好ましい溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、石油エーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン、四塩化炭素、クロロホルム、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等、およびこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0042】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
<1>3,9−ジメチル−3,9−ビス(プロピオニルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(前記式(II−3)で表される化合物)の調製(実施例1及び2、比較例1及び2)
比較例1
ヒドロキシアセトン(190g,2.56mol)およびピリジン(210ml,2.6mol)の酢酸エチル(1L)溶液に5℃にてプロピオニルクロリド(197g,2.1mol)を滴下した。反応液を室温にて1時間攪拌した後、水(700ml)に注加した。分液後、有機層を1N塩酸水(700ml)で2回、水(700ml)で2回及び飽和食塩水(500ml)で1回洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥した。硫酸マグネシウムを濾別後、溶媒を減圧にて留去することにより、プロピオニルオキシアセトン(177g,1.36mol)を得た。得られたプロピオニルオキシアセトンはこれ以上の精製操作をすることなく次工程に用いた。
プロピオニルオキシアセトン(10g,76.8mmol)、ペンタエリスリトール(5.22g,38.4mmol)およびp−トルエンスルホン酸一水和物(0.76g,4mmol)のトルエン(200ml)溶液を、Dean−Stark水分離器を用いて水を除去しながら、3時間還流攪拌した。反応液を室温まで冷却した後、酢酸エチル(300ml)/炭酸水素ナトリウム水溶液(350ml)に注加した。分液後、有機層を水(200ml)で2回、および飽和食塩水(200ml)で1回洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別後、溶媒を減圧にて留去することにより11.6gの濃縮残留物を得た。濃縮残留物のNMRを測定した結果、プロピオニルオキシアセトン(原料):3,9−ジメチル−3,9−ビス(プロピオニルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(目的物):2−メチル−2,5,5−トリス(プロピオニルオキシメチル)−[1,3]ジオキサン(副生成物)≒1:4:1を主成分とする混合物であった。濃縮残留物をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=1/2)で精製することにより3,9−ジメチル−3,9−ビス(プロピオニルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンを得た(7.5g,20.8mmol,収率54%)。
H NMR(CDCl):δ4.21−4.12(m,4H),3.89−3.67(m,8H),2.39(q,J=7.5Hz,4H),1.40(s,6H),1.16(t,J=7.5Hz,6H)
m.p.=55−56℃
【0044】
比較例2
プロピオニルオキシアセトン(10g,76.8mmol)、ペンタエリスリトール(5.22g,38.4mmol)およびp−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩(1.0g,4mmol)のトルエン(200ml)溶液を、Dean−Stark水分離器を用いて水を除去しながら、6時間還流攪拌した。反応液を室温まで冷却した後、酢酸エチル(300ml)/炭酸水素ナトリウム水溶液(350ml)に注加した。分液後、有機層を水(200ml)で2回、および飽和食塩水(200ml)で1回洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別後、溶媒を減圧にて留去することにより11.0gの濃縮残留物を得た。濃縮残留物のNMRを測定した結果、比較例1で生成した副生成物{2−メチル−2,5,5−トリス(プロピオニルオキシメチル)−[1,3]ジオキサン}はほとんど認められなかったが、それ以外の副生成物が生成し、さらに原料のプロピオニルオキシアセトンも比較例1と同程度残存することがわかった。濃縮残留物をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=1/2)で精製することにより3,9−ジメチル−3,9−ビス(プロピオニルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンを得た(7.3g,20.3mmol,収率53%)。
【0045】
実施例1
プロピオニルオキシアセトン(10g,76.8mmol)、ペンタエリスリトール(5.22g,38.4mmol)およびゼオライト(1.5g)のトルエン(200ml)溶液を、Dean−Stark水分離器を用いて水を除去しながら、6時間還流攪拌した。反応液を室温まで冷却し、セライトろ過後、減圧にて溶媒を留去し、10.8gの濃縮残留物を得た。濃縮残留物のNMRを測定した結果、比較例1又は2で生成した副生成物はほとんど認められず、プロピオニルオキシアセトン(原料):3,9−ジメチル−3,9−ビス(プロピオニルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(目的物)≒1:8を主成分とする混合物であった。濃縮残留物を酢酸エチル/ヘキサンから再結晶することにより3,9−ジメチル−3,9−ビス(プロピオニルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンを得た(8.5g,23.6mmol,収率61%)。
【0046】
実施例2
プロピオニルオキシアセトン(10g,76.8mmol)、ペンタエリスリトール(5.22g,38.4mmol)およびモンモリロナイト(montmorillonite K10、商品名、アルドリッチ社製)(1.5g)のトルエン(200ml)溶液を、Dean−Stark水分離器を用いて水を除去しながら、6時間還流攪拌した。反応液を室温まで冷却し、セライトろ過後、減圧にて溶媒を留去し、11.5gの濃縮残留物を得た。濃縮残留物のNMRを測定した結果、比較例1又は2で生成した副生成物はほとんど認められず、プロピオニルオキシアセトン(原料):3,9−ジメチル−3,9−ビス(プロピオニルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(目的物)≒1:10を主成分とする混合物であった。濃縮残留物を酢酸エチル/ヘキサンから再結晶することにより3,9−ジメチル−3,9−ビス(プロピオニルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンを得た(9.5g,26.4mmol,収率69%)。
【0047】
実施例1及び2並びに比較例1及び2の結果から明らかなように、固体酸触媒を用いた本発明の方法によれば、副生成物がほとんど生成せず、収率良くスピロ環状アセタール化合物を調製することができることがわかった。
【0048】
<2>3,9−ジメチル−3,9−ビス(アセチルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(前記式(II−2)で表される化合物)の調製(実施例3及び4、比較例3)
比較例3
ヒドロキシアセトン(100g,1.35mol)およびピリジン(121ml,1.5mol)の酢酸エチル(1L)溶液に5℃にてアセチルクロリド(96ml,1.35mol)を滴下した。反応液を室温にて1時間攪拌した後、1N塩酸水(400ml)に注加した。分液後、有機層を水(300ml)及び飽和食塩水(300ml)で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥した。硫酸マグネシウムを濾別後、溶媒を減圧にて留去することにより、アセトキシアセトン(40g,0.34mol)を得た。得られたアセチルオキシアセトンはこれ以上の精製操作をすることなく次工程に用いた。
アセチルオキシアセトン(28.3g,244mmol)、ペンタエリスリトール(16.6g,122mmol)およびp−トルエンスルホン酸一水和物(1.74g,9.2mmol)のトルエン(200ml)溶液を、Dean−Stark水分離器を用いて水を除去しながら、3時間還流攪拌した。反応液を室温まで冷却した後、酢酸エチル(300ml)/炭酸水素ナトリウム水溶液(350ml)に注加した。分液後、有機層を水(200ml)で2回、および飽和食塩水(200ml)で1回洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別後、溶媒を減圧にて留去することにより31.5gの濃縮残留物を得た。濃縮残留物のNMRを測定した結果、原料及び目的物を含む複雑な混合物であった。濃縮残留物をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=1/2)で精製することにより3,9−ジメチル−3,9−ビス(アセチルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンを得た(7.6g,22.9mmol,収率19%)。
H NMR(CDCl):δ4.19−4.10(m,4H),3.91−3.66(m,8H),2.10(s,6H),1.41(s,6H)
m.p.=66−67℃
【0049】
実施例3
アセチルオキシアセトン(8.9g,76.8mmol)、ペンタエリスリトール(5.22g,38.4mmol)およびゼオライト(1.5g)のトルエン(200ml)溶液を、Dean−Stark水分離器を用いて水を除去しながら、6時間還流攪拌した。反応液を室温まで冷却し、セライトろ過後、減圧にて溶媒を留去し、10.3gの濃縮残留物を得た。濃縮残留物のNMRを測定した結果、アセチルオキシアセトン(原料):3,9−ジメチル−3,9−ビス(アセチルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(目的物)≒1:9を主成分とする混合物であった。濃縮残留物を酢酸エチル/ヘキサンから再結晶することにより3,9−ジメチル−3,9−ビス(アセチルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンを得た(8.3g,25.0mmol,収率65%)。
【0050】
実施例4
アセチルオキシアセトン(8.9g,76.8mmol)、ペンタエリスリトール(5.22g,38.4mmol)およびモンモリロナイト(montmorillonite K10)(1.5g)のトルエン(200ml)溶液を、Dean−Stark水分離器を用いて水を除去しながら、6時間還流攪拌した。反応液を室温まで冷却し、セライトろ過後、減圧にて溶媒を留去し、10.7gの濃縮残留物を得た。濃縮残留物のNMRを測定した結果、アセチルオキシアセトン(原料):3,9−ジメチル−3,9−ビス(アセチルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(目的物)≒1:9を主成分とする混合物であった。濃縮残留物を酢酸エチル/ヘキサンから再結晶することにより3,9−ジメチル−3,9−ビス(アセチルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンを得た(8.5g,25.6mmol,収率67%)。
【0051】
実施例3及び4並びに比較例3の結果から明らかなように、比較例3では目的物の収率が著しく低かったのに対し、固体酸触媒を用いた本発明の方法によれば、副生成物がほとんど生成せず、収率良くスピロ環状アセタール化合物を調製することができることがわかった。
【0052】
<3>3,9−ジメチル−3,9−ビス(ヒドロキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(前記式(II−1)で表される化合物)の調製(実施例5、比較例4)
実施例5
ヒドロキシアセトン(5.7g,76.8mmol)、ペンタエリスリトール(5.22g,38.4mmol)およびモンモリロナイト(montmorillonite K10)(1.5g)のトルエン(200ml)溶液を、Dean−Stark水分離器を用いて水を除去しながら、6時間還流攪拌した。反応液を50℃まで冷却し、セライトろ過後、減圧にて溶媒を留去し、9.4gの濃縮残留物を得た。濃縮残留物をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/メタノール=10/1)で精製することにより3,9−ジメチル−3,9−ビス(ヒドロキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンを得た(6.1g,24.5mmol,収率64%)。
H NMR(DMSOd−6):δ4.71(bs,2H),3.78−3.57(m,8H),3.33(bs,4H),1.27(s,6H)
m.p.=127−128℃
【0053】
比較例4
ヒドロキシアセトン(5.7g,76.8mmol)、ペンタエリスリトール(5.22g,38.4mmol)およびp−トルエンスルホン酸一水和物(0.76g,4mmol)のトルエン(200ml)溶液を、Dean−Stark水分離器を用いて水を除去しながら、3時間還流攪拌した。反応進行をTLCにて確認したところ、多数の副生成物の生成が認められ、目的の3,9−ジメチル−3,9−ビス(ヒドロキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンは極微量しか生成していなかった。
【0054】
実施例5及び比較例4の結果から明らかなように、比較例3では副生成物が多数生成し、目的物が極微量しか得られなかったのに対し、固体酸触媒を用いた本発明の方法によれば、収率良くスピロ環状アセタール化合物を調製することができることがわかった。
【0055】
<4>3,9−ジメチル−3,9−ビス(ヒドロキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(前記式(II−1)で表される化合物)の調製
実施例6
水酸化ナトリウム(3g,0.075mol)、水(25ml)およびメタノール(25ml)の溶液に3,9−ジメチル−3,9−ビス(プロピオニルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(6.5g,18mmol)をゆっくり添加し、60℃にて40分攪拌した。溶媒を減圧にて留去した後、濃縮残留物をアセトニトリル/食塩水に溶かした。有機層を減圧にて濃縮し、酢酸エチルを加えた。不溶物をろ過後、再び減圧にて濃縮した。濃縮残留物を酢酸エチル/ヘキサンから再結晶することにより、3,9−ジメチル−3,9−ビス(ヒドロキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンを得た(3.4g,13.7mmol,収率76%)。
【0056】
実施例6の結果から明らかなように、前記式(II−1)で表される化合物は、前記式(II−3)で表される化合物を加水分解することによっても収率良く得られることがわかった。
【0057】
<5>3,9−ジメチル−3,9−ビス(アクリロイルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(前記式(II−4)(R=H)で表される化合物)の調製
実施例7
3,9−ジメチル−3,9−ビス(ヒドロキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(2.5g)およびピリジン(2.1ml)の酢酸エチル(50ml)溶液にアクリロイルクロリド(2.0ml)を滴下した。反応液を室温にて5時間攪拌後、酢酸エチル(100ml)/1N塩酸水(100ml)に注ぎ、分液した。有機層を重曹水(100ml)、水(100ml×2回)、および飽和食塩水(100ml)で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別後、溶媒を減圧にて留去した。濃縮残留物をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=1/2)で精製することにより3,9−ジメチル−3,9−ビス(アクリロイルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンを得た(3.1g,収率86%)。
H NMR(CDCl):δ6.45(dd,J=17.6Hz,1.6Hz,2H), 6.17(dd,J=17.6Hz,10.4Hz,2H), 5.87(dd,J=10.4Hz,1.6Hz,2H), 4.27(d,J=11.6Hz,2H),4.22(d,J=11.6Hz,2H),3.84(dd,J=35.6Hz,11.6Hz,4H), 3.73(dd,J=25.8Hz,11.6Hz,4H), 1.43(s,6H)
【0058】
実施例8
下式で表される繰り返し単位を有するポリマーの調製
【0059】
【化10】

【0060】
3,9−ジメチル−3,9−ビス(ヒドロキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(1.25g) およびピリジン(0.9ml)の酢酸エチル(50ml)溶液にアジピン酸クロリド(0.73ml)を滴下した。反応液を室温にて1時間攪拌し、さらに60℃にて1時間攪拌した。室温まで冷却後、析出した結晶をろ過し、十分に水洗した。得られた結晶をジクロロメタン(100ml)に溶解し、不溶物を濾別後減圧にて濃縮した。濃縮残留物(1.62g)をジクロロメタン(16ml)に溶解し、イソプロパノール(1L)から再沈することにより、白色のポリマー(1.3g)を得た。FT−IR分析で、水酸基の吸収がほぼ消失し、エステル基の吸収が確認された。また、NMR測定により上記繰り返し単位を有するポリマーであることが確認された。H NMR(CDCl):δ4.21〜4.10(m,4H),3.87−3.3.53(m,8H),2.39(bs,4H), 1.67(bs,4H),1.40(s,6H)
(株)東ソー製ゲル浸透クロマトグラフ分析計(HLC−8220GPC)にて数平均分子量(Mn)および質量平均分子量を測定したところ、ポリスチレン換算でそれぞれMn=2,729、Mw=3,850であった。
【0061】
実施例9
下式で表される繰り返し単位を有するポリマーの調製
【0062】
【化11】

【0063】
3,9−ジメチル−3,9−ビス(ヒドロキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(3.75g) およびピリジン(2.7ml)の酢酸エチル(120ml)溶液にトリホスゲン(1.5g)の酢酸エチル(30ml)溶液を滴下した。反応液を室温にて1時間攪拌し、さらに60℃にて1時間攪拌した。室温まで冷却後、酢酸エチル(100ml)/1N塩酸水(100ml)に注ぎ、分液した。有機層を重曹水(100ml)、水(100ml×2回)、および飽和食塩水(100ml)で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥した。硫酸マグネシウムを濾別後、溶媒を減圧にて留去した。濃縮残留物(3.56g)をジクロロメタン(36ml)に溶解し、イソプロパノール(1.8L)から再沈することにより、白色のポリマー(2.5g)を得た。FT−IR分析で、水酸基の吸収がほぼ消失し、カーボネートの吸収が確認された。また、NMR測定により上記繰り返し単位を有するポリマーであることが確認された。
H NMR(CDCl):δ4.24〜4.15(m,4H),3.87−3.3.53(m,8H), 1.42(s,6H)
(株)東ソー製ゲル浸透クロマトグラフ分析計(HLC−8220GPC)にて数平均分子量(Mn)および質量平均分子量を測定したところ、ポリスチレン換算でそれぞれMn=3,916、Mw=5,036であった。
【0064】
<6>3,9−ジメチル−3,9−ビス(アクリロイルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(前記式(II−4)(R=H)で表される化合物)の架橋剤としての評価
【0065】
実施例10
特開2004−331795号公報の実施例2において、トリシクロデカンジメチロールジアクリレートを等重量の3,9−ジメチル−3,9−ビス(アクリロイルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンで置き換えた以外は特開2004−331795号公報の実施例1、2と同様にして熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルム上にハードコート層を形成した。外観、JIS−K7105による400nmにおける光線透過率、JIS−K5400による碁盤目剥離試験、および85℃、85%RH、1000時間の高温高湿耐久試験の結果は、特開2004−331795号公報の実施例2の結果と同等であった。
【0066】
実施例11
特開2006−63162号公報の実施例1において、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートを等重量の3,9−ジメチル−3,9−ビス(アクリロイルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンで置き換えた以外は特開2006−63162号公報の実施例1と同様にしてポリカーボネートシート上にハードコート層を形成した。外観、JIS−K5600による耐候性試験、ASTM D1044に準じたテーバー式摩耗試験、形成性試験、JIS−K5400に準拠した密着性試験の結果は、特開2006−63162号公報の実施例1の結果と同等であった。
これら結果より、3,9−ジメチル−3,9−ビス(アクリロイルオキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンは、透明性、外観、密着性、耐久性等に優れた架橋剤の一つとして有用であることがわかった。
【0067】
<7>一般式(III)で表される繰り返し単位を有するポリマーの有用性評価
実施例12
実施例8で調製したポリマーひとかけらをMATSUNAMI GLASS社製(18×18mm、厚さ0.12〜0.17mm)のカバーグラスに挟み徐々に加熱したところ、110〜120 ℃で溶解した。溶解したポリマーをカバーグラス間に均一に圧延し、室温まで冷却したところ、カバーグラスは透明かつ強固に接着し、引き離すことはできなかった。
【0068】
比較例5
実施例12と同様の実験をビスフェノールAとアジピン酸とのポリエステル(Mw≒10,000)を用いて行ったところ、150℃付近でポリマーは溶解し、一旦透明となったが、室温まで冷却すると白濁し、カバーグラスは容易に引き離すことができた。
以上の実施例8〜12及び比較例5の結果を総合すると、一般式(III)で表される繰り返し単位を有する本発明のポリマーは種々の用途に用いられる。例えば透明なガラス接着剤として有用である。また、一般式(III)で表される繰り返し単位を有するポリマーは、環状を有し、芳香環を含まないポリエステルであることから、透明性、耐候性、耐熱性、生分解性等の様々なユニークは特性が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸触媒の存在下、下記一般式(I)で表される化合物とペンタエリスリトールとを脱水縮合させることを特徴とする下記一般式(II)で表されるスピロ環状アセタール化合物の製造方法。
【化1】

(式中、Rはアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基を表し、これらの各基は置換基を有してもよい。Qは水素原子またはアシル基を表す。)
【請求項2】
前記固体酸触媒がゼオライト又は層状粘土鉱物であることを特徴とする請求項1に記載のスピロ環状アセタール化合物の製造方法。
【請求項3】
前記固体酸触媒が層状粘土鉱物であることを特徴とする請求項1または2に記載のスピロ環状アセタール化合物の製造方法。
【請求項4】
前記層状粘土鉱物がモンモリロナイトであることを特徴とする請求項2または3に記載のスピロ環状アセタール化合物の製造方法。
【請求項5】
がメチル基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のスピロ環状アセタール化合物の製造方法。
【請求項6】
下記一般式(A)で表されるスピロ環状アセタール化合物。
【化2】

(式中、Qは水素原子、−COCH、−COC、−COCH=CHまたは−COC(CH)=CHを表す。)
【請求項7】
前記一般式(A)で表される化合物が、下記式(II−1)、(II−2)または(II−3)のいずれかで表されることを特徴とする請求項6に記載のスピロ環状アセタール化合物。
【化3】

【請求項8】
前記一般式(A)で表される化合物が、下記一般式(II−4)で表されることを特徴とする請求項6に記載のスピロ環状アセタール化合物。
【化4】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【請求項9】
下記一般式(III)で表される繰り返し単位を有するポリマー。
【化5】

(式中、Lは少なくとも1つの炭素原子を含む2価の連結基を表し、nは0または1を表す。)

【公開番号】特開2007−230992(P2007−230992A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269475(P2006−269475)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】