説明

スピーカーグリル用シート

【課題】難燃性の安全規格に適合する材質であって、かつ各種デザインや用途に対応可能な穴開け加工適性を有し、穴開け加工時のバリ発生が少なく、金属部品と比較して軽量化が容易で、スピーカーグリル用途に好適なスピーカーグリル用シートおよびそのシートに穴開け加工したスピーカーグリルを提供する。
【解決手段】(A)スチレン系樹脂40〜90質量部、およびポリフェニレンエーテル系樹脂10〜60質量部からなる熱可塑性樹脂組成物100質量部に対し、(B)リン酸エステル1〜50質量部、(C)ポリオルガノシロキサン0.01〜10質量部、(D)硼素化合物、亜鉛化合物及び錫化合物の群から選択される少なくとも1種の難燃助剤0.01〜10質量部を含有することを特徴とする樹脂組成物からなるスピーカーグリル用シート、およびこのシートに穴開け加工したスピーカーグリル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴開け加工適性に優れ難燃性を有するとともに、自動車内装部品や家電製品のスピーカーグリルに好適に使用できるスピーカーグリル用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スピーカーグリルは、従来より金属、木材またはプラスチックのグリル枠に布を貼付したものが使用されているが、その生産性や耐久性の観点から、その使用用途に合わせて多数の穴を設けたプラスチックの射出成形品や、金属やプラスチックに穴開け加工したものをスピーカーグリルとしたものが使われるようになってきている。(例えば特許文献1)プラスチックの射出成形品では、網目状のデザイン、開口面積、成形条件が制限される等の課題があった。(例えば特許文献2)一方で、近年スピーカーは大型化してきてその形状も多様化してきており、金属に穴開け加工したものでは重量が大きくなり軽量化は困難であることや、微小な穴を多数設けること自体が困難であり、またプラスチック製のものでも、穴開けの際に穴壁の部分にバリやヒゲが発生しやすく、美麗な表面を維持した状態で多数の微小穴を形成する事が困難であった。また、家電製品としては難燃性を有している事が要求されるが、熱可塑性樹脂に難燃性を付与するために難燃剤を添加すると、樹脂組成物自体が脆化することにより、微細な穴を多数設けることがより困難となり、穴壁の部分のバリやヒゲの発生を抑制することは更に困難であった。
【特許文献1】特開平11−155183号公報
【特許文献2】特開2004−114571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、難燃性の安全規格に適合する材質であって、かつ各種デザインや用途に対応可能な穴開け加工適性を有し、穴開け加工時のバリ発生が少なく、金属部品と比較して軽量化が容易で、スピーカーグリル用途に好適なスピーカーグリル用シートおよびそのシートに穴開け加工したスピーカーグリルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、穴開け加工適性に優れ、なおかつ難燃性に優れたシートを見出し本発明に至った。即ち本発明は(A)スチレン系樹脂40〜90質量部、およびポリフェニレンエーテル系樹脂10〜60質量部からなる熱可塑性樹脂組成物100質量部に対し、(B)リン酸エステル1〜50質量部、(C)ポリオルガノシロキサン0.01〜10質量部、(D)硼素化合物、亜鉛化合物及び錫化合物の群から選択される少なくとも1種の難燃助剤0.01〜10質量部を含有することを特徴とする樹脂組成物からなるスピーカーグリル用シートである。シート厚みは0.2〜0.6mmであることが好ましい。また本発明は、前記シートに穴開け加工したスピーカーグリルを含む。
【発明の効果】
【0005】
本発明のシートは、穴開け加工時のバリ発生が少なく、UL規格のVTM−2以上の難燃性を有し、又、穴開け加工後の歪も少ない。本発明のシートより得られたスピーカーグリルは、その表面が極めて美麗であり、かつ金属と比較して軽量であり、網目形状、開口面積等の設計の自由度が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、特定の樹脂組成物を用いて、押出成形等によって予め樹脂シートを成形し、そのシートを穴開け加工してスピーカーグリルを形成するものである。スピーカーグリルは、微細な穴を多数開ける必要があるため、前記の穴開け加工する際に、穴の切り口が極めて美麗に仕上がる必要があり、バリやヒゲの発生が極めて少ないこと、及び要求される難燃性を有することが重要である。本発明者は、そのような課題を達成できる樹脂組成を鋭意検討した結果、A)スチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂を必須成分とする熱可塑性樹脂組成物、(B)リン酸エステル、(C)ポリオルガノシロキサン、(D)硼素化合物、亜鉛化合物及び錫化合物の群から選択される少なくとも1種の難燃助剤を特定の割合で含有する樹脂組成物からなるシートを用いることで、前記の課題を解決できることを見出し本発明に至った。
【0007】
本発明において、(A)成分中のスチレン系樹脂とはスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジメチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系モノマーの単独または共重合体、それらスチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体、例えばスチレンーアクリルニトリル共重合体(AS樹脂)、それらスチレン系モノマーあるいはさらに他のポリマー、ポリブタジエン、スチレンーブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等のジエン系ゴム質重合体の存在下にグラフト重合したグラフト重合体、例えばハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)、スチレンーアクリルニトリルグラフト重合体(ABS樹脂)等が挙げられ、中でもハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)が機械的特性のうちの剛性と耐衝撃性のバランスの点で、本発明の用途に好ましく用いられる。また(A)成分100質量部中のスチレン系樹脂の添加量は40〜90質量部である。添加量が40質量部未満であると流動性が低下し、成形加工性が悪くなり良好なシートが得られず、添加量が90質量部を超えると、穴開け加工時のヒゲ発生が多くなるか、またはVTM−2以上の難燃性を得ることが困難となる。
【0008】
本発明において、(A)成分中にポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させることによって、単に難燃性が向上するばかりでなく、本発明のシートを穴開け加工する際のバリやヒゲの発生が著しく抑制される。このポリフェニレンエーテル系樹脂としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレンエーテル)ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジフェニル−1,4−フェニレンエーテル)2,6−ジメチル−1,4−フェニル/2,3,6−トリメチル−1,4−フェノール共重合体及びこれらにそれぞれスチレンをグラフト重合したグラフト共重合体やこれらに不飽和ジカルボン酸(無水物)等で変性したものが挙げられる。また(A)成分100質量部中におけるポリフェニレンエーテル系樹脂の添加量は10〜60質量部の範囲内である。添加量が10質量部未満であると難燃性が不足し、添加量が60質量部を超えると流動性が悪くなり良好なシートが得られない。
【0009】
本発明においては、前記(A)成分に難燃剤として(B)リン酸エステル(C)ポリオルガノシロキ酸を用い、難燃助剤として、(D)硼素化合物、亜鉛化合物および錫化合物の群から選択された少なくとも1種を用いる。
本発明で使用される難燃剤としては、安全性、樹脂の耐熱性を低下させないという観点からハロゲンを含有しない事が必要であり、その他の難燃剤のうちリン酸エステルが有効である。リン酸エステルとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(o−フェニルフェニル)ホスフェート、トリス(p−フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、o−フェニルフェニルジクレジルホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート等及びこれらの縮合物、例えばレゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジクレジルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジクレジルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジキシレニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジクレジルホスフェート)、ビフェノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジクレジルホスフェート)等のビスホスフェートやポリホスフェートオリゴマー等が挙げられる。
これらの中でもフェニルホスフェートが、物性への影響が少なくかつ難燃性付与の効果が大きい点で好ましい。
【0010】
本発明で使用される(B)リン酸エステルの添加量は1〜50質量部であり、好ましくは2〜40質量部である。添加量が1質量部未満であると難燃性が低下し、添加量が50質量部を超えると耐熱性、耐衝撃性が低下する。
【0011】
本発明で使用される(C)ポリオルガノシロキサンとしては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、あるいはこれらのポリオルガノシロキサンの末端あるいは分子鎖中にアミノ基、メルカプト基、エポキシ基、カルボキシル基、ビニル基、水酸基、アミド基、エステル基等を導入したポリオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0012】
(C)ポリオルガノシロキサンの添加量は0.01〜10質量部である。添加量が0.01質量部未満であると難燃性が不足し、添加量が10質量部を超えると耐熱性、耐衝撃性、塗装性が低下する。
【0013】
本発明で使用される(D)成分の難燃助剤としては、硼酸メラミン、硼酸アンモニウム、メタ硼酸、硼酸、硼砂、無水硼酸、硼酸亜鉛、メタ硼酸亜鉛、メタ硼酸バリウム、硼酸マグネシウム、オルト硼酸バリウム等の硼素化合物、硼酸亜鉛、錫酸亜鉛、酸化亜鉛、硫化亜鉛、カルボン酸亜鉛等の亜鉛化合物、錫酸亜鉛、ヒドロキシ錫酸亜鉛、酸化錫等の錫化合物の群から選択される少なくとも1成分を含有する難燃助剤である。これらの硼素化合物、亜鉛化合物、及び錫化合物を使用する場合、有機界面活性剤、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤及びアルミニウム系カップリング剤で表面処理して使用しても良い。
【0014】
本発明で使用される(D)成分の添加量は0.01〜10質量部である。添加量が0.01質量部未満であると難燃剤の効果を高める効果が得られず、添加量が10質量部を超えると、耐熱性、耐衝撃性及び流動性の低下により加工性が悪くなる。
【0015】
本発明のシートには、前記の各主要成分の他に、本発明の要求特性を阻害しない範囲で必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、加工助剤、補強剤などの各種添加剤や他の樹脂成分を添加する事が可能である。
【0016】
本発明のシートを製造するには、前記の樹脂組成物の原料の全部又は一部を、バンバリーミキサー、二軸混練機又は二軸押出機等を用いて公知の方法で溶融混練してペレット化し、そのペレットを用いて一般的な押出成形にてTダイ法等でシートを押出し冷却し引取ることによって得る事ができる。一部の原料のみ溶融混練した場合は、押出成形する前に、タンブラー等の混合機で前記ペレットと他の成分の原料を混合しても良いし、押出成形のライン上で計量フィーダーを用いて連続的に供給しても良い。
【0017】
本発明のシートは前記の押出成形によりシート形状とした後に、一般的な方法でその表面をコロナ放電処理や帯電防止剤等の各種表面処理剤を塗布しても良い。
【0018】
本発明のスピーカーグリル用シートの厚みは0.2〜0.6mmが好ましい。0.2mm未満であると、実用上に必要な機械強度及び難燃性が不十分となる場合があり、0.6mmを超えると穴開け加工時に必要な力が大きくなり、美麗な穴開け加工が困難となる場合がある。
【0019】
本発明のスピーカーグリル用シートに穴開け加工する方法としては、特に限定されるものでは無く、一般的なプレス方式からレーザーによる加工方式まで巾広いものを使用する事ができる。
【0020】
本発明のスピーカーグリル用シートに穴開け加工を施した樹脂製品は、UL規格のVTM−2以上の難燃性を有し、かつバリやヒゲの発生を極力抑制した穴開けがされることからスピーカーグリル用途に好適であり、特に大型の液晶テレビやプラズマテレビのスピーカーグリルとして好適に用いる事ができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
(実施例1〜10及び比較例1〜10)
表1に示す原料を使用し、表2及び表3に示す原料組成にて各々計量し、高速混合機にて均一混合した後、45mmベント式二軸押出機を用いて混練し、ストランドカット法によりペレット化した。次にペレット化した樹脂組成物を65mm押出機(L/D=28)を用い800mm巾のTダイにより厚み0.4mm、600mm巾のシート状に成形したものを評価用サンプルとした。
【0022】
各実施例及び比較例で作成したシートの各種物性を下記の方法で評価した。
(穴開け加工性評価)
真空ロータリー式エンボスキャリヤテープ成形機(CTF−200、CKD社製)にて成形したエンボスキャリヤテープの個々の送り穴を147穴、開け(穴の形状;円形、穴の径;1.5φ、ピッチ;4mm)、その穴を光学顕微鏡(Mitsutoyo社製)にて拡大撮影し、ヒゲまたはバリの発生箇所をカウントし数値化した。ヒゲまたはバリの発生率が5%未満であれば良好であると判断できる。評価結果を表4に示す。
(衝撃強度評価)
JIS−K7211法に準拠して衝撃強度の評価を行い、その強度が0.5J以上であることが実用上の強度の目安となる。評価結果を表4に示す。
(耐折強度評価)
JIS−P8115法に準拠して耐折強度の評価を行った。その値が30回以上であることが実用上の目安である。評価結果を表4に示す。
(燃焼性評価)
UL94試験法に準拠し、判定もUL−94に準じた。目標レベルをVTM−2とした。それらの結果を表4に示す。
(総合判定)
前記性能(穴開け加工性、衝撃強度、耐折強度、燃焼性)が全て目標のレベルを満たすものを○、一つでも欠けるものを×とした。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)スチレン系樹脂40〜90質量部、およびポリフェニレンエーテル系樹脂10〜60質量部からなる熱可塑性樹脂組成物100質量部に対し、(B)リン酸エステル1〜50質量部、(C)ポリオルガノシロキサン0.01〜10質量部、(D)硼素化合物、亜鉛化合物及び錫化合物の群から選択される少なくとも1種の難燃助剤0.01〜10質量部を含有することを特徴とする樹脂組成物からなるスピーカーグリル用シート。
【請求項2】
前記シート厚みが0.2〜0.6mmである請求項1又は請求項2に記載のスピーカーグリル用シート。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のシートに穴開け加工したスピーカーグリル。

【公開番号】特開2009−118372(P2009−118372A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291634(P2007−291634)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】