説明

スピーカ装置

スピーカ装置(1)のスピーカユニット(2)は、キャビネット(4)に取り付けられる。吸着体(3)は、キャビネット(4)内部の空室(R)に配置され、その空室(R)内の気体を物理吸着する。位相反転機構(8)は、スピーカユニット(2)から空室(R)内に放射される特定の周波数の音と共振させて位相を反転し、外部へその音を放射する。位相反転機構(8)の防浸手段は、キャビネット(4)外部からその位相反転機構(8)を介して空室(R)への湿気の浸入を防浸する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカ装置に関し、より特定的には、小型のスピーカキャビネットで低音再生を実現するスピーカ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に小型のスピーカ装置は、スピーカキャビネットの空室が呈する音響スティフネスの影響で、低音再生が可能なスピーカシステムを実現することが困難である。従来、この小型スピーカ装置で低音再生を実現するために、キャビネット容積で決定される低音再生限界の課題を解決する1つの手段として、キャビネットの内部に活性炭の塊を配置する密閉型スピーカ装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図10は、上記特許文献1で開示されたスピーカ装置における主要部の構造断面図である。図10において、当該スピーカ装置は、キャビネット101、低音用スピーカ102、活性炭103、支持部材104、ダイヤフラム105、通気管106を備えている。低音用スピーカ102は、キャビネット101の前面に取り付けられている。活性炭103は、キャビネット101内部に塊状で配置され、キャビネット101の背面、底面、上面、左右側面、および支持部材104によって支持される。なお、支持部材104は、その全表面に空気を通過させる細孔が形成されている。通気管106は、ダイヤフラム105に設けられ、活性炭103と低音用スピーカ102との間を通気する。
【0004】
次に、上記スピーカ装置の動作について説明する。低音用スピーカ102に電気信号が印加されるとキャビネット101内の圧力が変化し、この圧力によりダイヤフラム105が振動する。そして、ダイヤフラム105の振動によって、活性炭103が配置された空室の圧力が変化する。活性炭103は、支持部材104およびキャビネット101によって塊状に支持されているが、支持部材104の全表面に細孔が設けられているため、ダイヤフラム105の振動による圧力変化に伴う空気分子が活性炭103に吸着されて、キャビネット101内の圧力変動は抑制される。
【0005】
このように、従来のスピーカ装置は、キャビネット101が等価的に大きな容積のキャビネットとして動作して、小型のキャビネットでありながら、あたかも大きなキャビネットにスピーカユニットを搭載したような低音再生が可能となる。また、通気管106は、スピーカ装置の周囲温度や内部の圧力変化により、活性炭103を含むダイヤフラム105およびキャビネット101で囲われた空間に対する圧力変動を防ぐものであった。
【0006】
一方、密閉型のキャビネットよりも低音を増強する方式として、バスレフ型のスピーカキャビネットが一般的に用いられている。図11は、バスレフ型スピーカ装置の構造断面図である。図11において、当該スピーカ装置は、キャビネット111、スピーカユニット112、および音響ポート113を備えている。スピーカユニット112は、キャビネット111の前面に取り付けられている。音響ポート113は、キャビネット111の前面に設けられ、当該音響ポート113を介してキャビネット111が形成する空室Rは外部へ開放される。そして、キャビネット111の音響容積とキャビネット111に設けた音響ポート113による音響共振を利用して、スピーカ装置から低音を放射するものである。
【特許文献1】特表昭60−500645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、活性炭による空気分子の吸着効果とバスレフ方式のスピーカ装置とを組み合わせれば、小型でありながら、効果的に低音が再生可能なスピーカ装置を構成できることが考えられる。しかしながら、図11に示す空室Rは外部に開放されており、外気中の湿気が音響ポート113を介してキャビネット111内に浸入する。そして、活性炭103は、親水性が高いために浸入した水分子を吸着してしまい、ダイヤフラム105(図10参照)の振動による圧力変化に伴う空気分子を活性炭103が吸着することができなくなる。その結果、キャビネットが等価的に大きな容積となる活性炭103の効果が失われ、スピーカ装置で目論む低音再生が困難となる。
【0008】
それ故に、本発明の目的は、キャビネット内に気体を物理吸着する吸着体(活性炭)を備えたスピーカ装置において、当該吸着体の物理吸着能力を維持しながらさらに低音再生能力を向上させるスピーカ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、以下に述べるような特徴を有している。
第1の局面は、キャビネット、スピーカユニット、吸着体、および位相反転機構を備えるスピーカ装置である。スピーカユニットは、キャビネットに取り付けられる。吸着体は、キャビネット内部の空室に配置され、その空室内の気体を物理吸着する。位相反転機構は、スピーカユニットから空室内に放射される特定の周波数の音と共振させて位相を反転し、外部へその音を放射する。位相反転機構は、防浸手段を含む。防浸手段は、キャビネット外部からその位相反転機構を介して空室への湿気の浸入を防浸する。
【0010】
第2の局面は、上記第1の局面において、位相反転機構は、キャビネットに形成された開口部に設けられたドロンコーンである。防浸手段は、キャビネット外部から空室との間の通気を遮断するドロンコーンである。
【0011】
第3の局面は、上記第2の局面において、ドロンコーンは、ワックスおよび樹脂材料の少なくとも一方でコーティングされている。
【0012】
第4の局面は、上記第1の局面において、位相反転機構は、キャビネットに形成された開口部に設けられた音響ポートである。防浸手段は、音響ポート内に静置された除湿剤である。
【0013】
第5の局面は、上記第1の局面において、吸着体は、活性炭である。
【0014】
第6の局面は、上記第1〜第5の局面におけるスピーカ装置と、スピーカ装置を固設する筐体とを備える携帯型情報処理装置である。
【0015】
第7の局面は、上記第1〜第5の局面におけるスピーカ装置と、スピーカ装置を固設する筐体とを備えるオーディオビジュアルシステムである。
【0016】
第8の局面は、上記第1〜第5の局面におけるスピーカ装置と、スピーカ装置を車内に固設する車体とを備える車両である。
【発明の効果】
【0017】
上記第1の局面によれば、吸着体が有する物理吸着効果によって見かけ上大きな容積を有する位相反転方式キャビネットとなり、一般的にキャビネットの大きさで決まる低音再生限界よりも低い周波数から低音を再生できる。また、防湿手段により、位相反転機構を介して外気に含まれる湿気がキャビネット内へ浸入することを防止している。したがって、吸着体が外気の湿気を吸着して、キャビネット内の気体を物理吸着する作用を阻害することがない。したがって、吸着体が有する物理吸着能力を低下させることがなく、音響容積が見かけ上大きくなる効果を阻害しない。
【0018】
上記第2の局面によれば、通気性の低いドロンコーンを用いて位相反転方式を実現することにより、外気に含まれる湿気がキャビネット内へ浸入することを容易に防浸することができる。また、パッシブラジエータ型のスピーカ装置は、バスレフ型よりもキャビネット内部音圧が高くなるので、吸着体の物理吸着効果による容積拡大効果が高く、かつ、バスレフ型と同等の共振による低域拡大効果が得られる。したがって、単純に物理吸着効果および位相反転方式を足し合わせて予想される効果以上の低音域拡大効果を期待することができ、共振による効果および物理吸着効果を両立したより高い低音域再生能力が得られる。
【0019】
上記第3の局面によれば、ドロンコーンを構成する振動板やサスペンション等をワックスや樹脂材料でコーティングすることによって、外気に含まれる湿気が空室へ浸入することを防ぐ防浸作用をさらに向上させることができる。
【0020】
上記第4の局面によれば、音響ポート内に除湿剤を静置して位相反転方式を実現することにより、外気に含まれる湿気が音響ポートを介してキャビネット内へ浸入することを容易に防止することができる。また、顆粒状や粉状の除湿剤は、通気性のある袋やメッシュ状部材で塞がれて音響ポート内に静置することによって、当該音響ポートにおける音響抵抗として作用する。したがって、除湿剤が音響ポートから放射される低音を制動するため、スピーカ装置は、より平坦な低域特性を得ることができる。さらに、バスレフ型のスピーカ装置は、キャビネット内部音圧が密閉型やパッシブラジエータ型より低下するので、キャビネット内部に設置された吸着体の物理吸着効果を得にくい状態にあるが、音響ポートの内部に除湿剤を設置しているため、キャビネット内部音圧の低下を抑制することも可能である。したがって、吸着体の物理吸着効果を維持する効果と共に、高い低音域再生能力を得る効果も期待できるものである。
【0021】
上記第5の局面によれば、吸着体を活性炭で構成することによって、キャビネット容積を等価的に大きくして、小型キャビネットで低音再生を実現することができる。
【0022】
また、本発明の携帯型情報処理装置、オーディオビジュアルシステム、および車両によれば、上述したスピーカ装置を搭載することによって同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態に係るスピーカ装置1aの内部概略構造を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の第2の実施形態に係るスピーカ装置1bの内部概略構造を示す断面図である。
【図3】図3は、密閉型スピーカ装置における音圧周波数特性およびキャビネット内部音圧特性を示すグラフである。
【図4】図4は、バスレフ型スピーカ装置における音圧周波数特性およびキャビネット内部音圧特性を示すグラフである。
【図5】図5は、パッシブラジエータ型スピーカ装置における音圧周波数特性およびキャビネット内部音圧特性を示すグラフである。
【図6】図6は、キャビネット内に活性炭を配置したパッシブラジエータ型スピーカ装置における音圧周波数特性およびキャビネット内部音圧特性を示すグラフである。
【図7】図7は、自動車の車内で用いられる図1のスピーカ装置1aの一例を示す図である。
【図8】図8は、携帯電話に搭載される図1のスピーカ装置1aの一例を示す正面図および側面図である。
【図9】図9は、図1のスピーカ装置1aをテレビに搭載した構成の一例を示す正面図およびその一部の内部構造を図示A−A断面で示した側面図である。
【図10】図10は、従来のスピーカ装置における主要部の構造断面図である。
【図11】図11は、従来のバスレフ型スピーカ装置の構造断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1…スピーカ装置
2…スピーカユニット
3…吸着体
4…キャビネット
7…音響ポート
8…ドロンコーン
9…振動板
10…サスペンション
11…除湿剤
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(第1の実施形態)
図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係るスピーカ装置について説明する。第1の実施形態に係るスピーカ装置は、位相反転方式の一例としてパッシブラジエータ(ドロンコーン)方式を用いている。なお、図1は、当該スピーカ装置1aの内部概略構造を示す断面図である。
【0026】
図1において、当該スピーカ装置1aは、スピーカユニット2、吸着体3、キャビネット4a、およびドロンコーン8を備えている。キャビネット4aは、スピーカ装置1aの筐体の前面、背面、上面、下面、および左右側面を構成する。スピーカユニット2は、動電型スピーカであり、キャビネット4aの前面開口部に取り付けられる。そして、キャビネット4aの内部にスピーカ装置1aの空室Raが形成される。
【0027】
吸着体3は、空室Raの内部に配置される。吸着体3は、気体を物理吸着する多孔性材料であり、例えば活性炭である。多孔性材料は、ミクロ単位の大きさの細孔で空気を物理吸着することができる。他の吸着体3の例として、ゼオライト、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、マグネシア(MgO)、四三酸化鉄(Fe)、モレキュラーシーブ、フラーレン、およびカーボンナノチューブなどでも実現可能である。なお、吸着体3の上部等には、スピーカ装置1a前後方向に通気する隙間が形成される。
【0028】
ドロンコーン8は、振動板9およびサスペンション10を備えており、キャビネット4aの前面開口部に取り付けられる。サスペンション10は、キャビネット4aの前面開口部に固設され、振動板9を支持している。振動板9およびサスペンション10は、一般的なスピーカに用いられるものと同様に通気性の低いものが選ばれ、ドロンコーン8を通過して空室Ra内に外気や外気に含まれる湿気が浸入することはない。一例として、振動板9がポリプロピレン等の樹脂材料で構成され、サスペンション10が合成ゴム等で構成されることによって、外気や外気に含まれる湿気が空室Raへ浸入することが防止される。他の例として、振動板9およびサスペンション10をワックスや樹脂材料でコーティングすることによって、外気や外気に含まれる湿気が空室Raへ浸入することが防止される。したがって、キャビネット4aの内部に形成される空室Raは、外気や外気に含まれる湿気から遮蔽された密閉空間となる。このように、ドロンコーン8は、外部空間と空室Raとの間を防浸しており、このようなドロンコーン8の構造および当該ドロンコーン8に施された処理が本発明の防浸手段に相当する。
【0029】
次に、スピーカ装置1aの動作について説明する。動電型スピーカであるスピーカユニット2の動作は周知であるのでここでは詳細な説明を省略するが、スピーカユニット2に音楽信号を印加するとボイスコイルに力が発生して、コーン型振動板を振動させて音が発生する。そして、スピーカユニット2は、キャビネット4aの内部の空室Raにも音を放射する。ここで、キャビネット4aの内部容積(空室Raの容積)、ドロンコーン8のサスペンション10のスティフネス、およびドロンコーン8の振動板9の質量により、共振器が構成されている。その共振周波数においては、キャビネット4aの内部空間に放射された音によって、ドロンコーン8の振幅が最も大きくなり、ドロンコーン8の振動板9より音が大きく放射される。そして、ドロンコーン8から放射される音は、スピーカユニット2から放射される音と同位相であるため、上記共振周波数を低域に設定することにより、スピーカ装置1aが再生する低音が増強される。このようにスピーカ装置1aは、低音を増強する位相反転方式を用いた装置として機能する。
【0030】
また、スピーカユニット2のコーン型振動板で発生した音圧は、キャビネット4a内部の空室Raの内部圧力を上昇させる。そして、空室Raには吸着体3が配置されているため、吸着体3の気体吸着作用により空室Ra内の圧力変動が抑制され、空室Raは、等価的に大きな容積となる。つまり、上記スピーカ装置1aは、あたかも大きな容積のキャビネット4aにスピーカユニット2が取り付けられているように動作する。
【0031】
このように、本実施形態のスピーカ装置1aは、見かけ上大きな容積を有する位相反転方式キャビネットとなり、一般的にキャビネットの大きさで決まる低音再生限界よりも低い周波数から低音を再生できる。また、スピーカ装置1aは、通気性の低いドロンコーン8を用いて位相反転方式を実現することにより、外気に含まれる湿気がキャビネット4a内へ浸入することを防止している。したがって、活性炭等の吸着体3が外気の湿気を吸着して、空室Ra内の気体を物理吸着する作用を阻害することがない。したがって、吸着体3が有する物理吸着能力を低下させることがなく、音響容積が見かけ上大きくなる効果を阻害しない。さらに、振動板9およびサスペンション10を、それぞれ樹脂材料および合成ゴム等で構成したり、ワックスや樹脂材料でコーティングして撥水性を向上させたりすると、さらに外気の湿気が空室Ra内に浸入することを防止できる。
【0032】
(第2の実施形態)
図2を参照して、本発明の第2の実施形態に係るスピーカ装置について説明する。第2の実施形態に係るスピーカ装置は、位相反転方式の一例としてバスレフ方式を用いている。なお、図2は、当該スピーカ装置1bの内部概略構造を示す断面図である。
【0033】
図2において、当該スピーカ装置1bは、スピーカユニット2、吸着体3、キャビネット4b、音響ポート7、および除湿剤11を備えている。キャビネット4bは、スピーカ装置1bの筐体の前面、背面、上面、下面、および左右側面を構成する。スピーカユニット2は、動電型スピーカであり、キャビネット4bの前面開口部に取り付けられる。そして、キャビネット4bの内部にスピーカ装置1bの空室Rbが形成される。
【0034】
吸着体3は、空室Rbの内部に配置される。吸着体3は、第1の実施形態と同様に気体を物理吸着する多孔性材料であり、例えば活性炭である。多孔性材料は、ミクロ単位の大きさの細孔で空気を物理吸着することができる。他の吸着体3の例として、カーボンナノチューブやフラーレンなどでも実現可能である。なお、吸着体3の上部等には、スピーカ装置1b前後方向に通気する隙間が形成される。
【0035】
音響ポート7は、キャビネット4bの前面に設けられ、当該音響ポート7を介してキャビネット4bが形成する空室Rbは外部へ開放される。そして、キャビネット4bの音響容積とキャビネット4bに設けた音響ポート7による音響共振を利用して、スピーカ装置1bから低音を放射するものである。
【0036】
音響ポート7の内部空間には、シリカゲル等の除湿剤11が配置される。除湿剤11を配置することによって、音響ポート7を介して空室Rに出入りする外気の湿気を吸収し、キャビネット4b内への湿気の浸入を防浸している。一例として、除湿剤11は顆粒状や粉状であり、音響ポート7の内部空間に静置された後、当該音響ポート7の両端が除湿剤11の粒径より細かいメッシュ状の布や金属で塞がれて、その位置が音響ポート7内に固定される。他の例として、通気性のある袋に顆粒状や粉状の除湿剤11が封入されて音響ポート7内に設置される。いずれの例においても、音響ポート7の内部空間を全て除湿剤11で埋める必要はなく、上記バスレフ方式の低音域増強効果、制動効果、および除湿剤11の防浸効果を鑑みながら、除湿剤11を音響ポート7内に配置する量を適切に調整すればよい。このように、音響ポート7は、除湿剤11によって外部空間と空室Raとの間を防浸しており、このような音響ポート7の構造および除湿剤11が本発明の防浸手段に相当する。
【0037】
次に、スピーカ装置1bの動作について説明する。動電型スピーカであるスピーカユニット2の動作は周知であるのでここでは詳細な説明を省略するが、スピーカユニット2に音楽信号を印加するとボイスコイルに力が発生して、コーン型振動板を振動させて音が発生する。そして、スピーカユニット2は、キャビネット4bの内部の空室Rbにも音を放射する。ここで、キャビネット4bの内部容積(空室Rbの容積)および音響ポート7の音響質量により、共振器が構成されている。その共振周波数においては、キャビネット4bの内部空間に放射された音が音響ポート7から大きく放射される。そして、音響ポート7から放射される音は、スピーカユニット2から放射される音と同位相であるため、上記共振周波数を低域に設定することにより、スピーカ装置1bが再生する低音が増強される。このようにスピーカ装置1bは、低音を増強する位相反転方式を用いた装置として機能する。
【0038】
また、スピーカユニット2のコーン型振動板で発生した音圧は、キャビネット4b内部の空室Rbの内部圧力を上昇させる。そして、空室Rbには吸着体3が配置されているため、吸着体3の気体吸着作用により空室Rb内の圧力変動が抑制され、空室Rbは、等価的に大きな容積となる。つまり、上記スピーカ装置1bは、あたかも大きな容積のキャビネット4bにスピーカユニット2が取り付けられているように動作する。
【0039】
このように、本実施形態のスピーカ装置1bは、見かけ上大きな容積を有する位相反転方式キャビネットとなり、一般的にキャビネットの大きさで決まる低音再生限界よりも低い周波数から低音を再生できる。また、スピーカ装置1bは、音響ポート7内に除湿剤11を配置して位相反転方式を実現することにより、外気に含まれる湿気がキャビネット4b内へ浸入することを防止している。したがって、活性炭等の吸着体3が外気の湿気を吸着して、空室Rb内の気体を物理吸着する作用を阻害することがない。したがって、吸着体3が有する物理吸着能力を低下させることがなく、音響容積が見かけ上大きくなる効果を阻害しない。さらに、顆粒状や粉状の除湿剤11は、通気性のある袋やメッシュ状部材で塞がれて音響ポート7内に静置されるため、当該音響ポート7における音響抵抗として作用する。したがって、除湿剤11が音響ポート7から放射される低音を制動するため、スピーカ装置1bは、より平坦な低域特性を得ることができる。
【0040】
なお、音響ポート7を介して空室Rb内に湿気が浸入することを防止する防浸手段として、撥水性および気体透過性を有する材料を音響ポート7両端に貼設してもかまわない。上記材料は、外気に含まれる湿気が空室Rb内に浸入することを防止しながら、外気と空室Rbとの通気性を確保する。これによって、上記除湿剤11と同様の効果を得ることが可能となる。また、上記メッシュ状部材で塞ぐ代わりに上記撥水性および気体透過性を有する材料を貼設して音響ポート7内に除湿剤11を静置することによって、湿気が空室Rb内に浸入することを防ぐ防浸性能をさらに向上させてもかまわない。
【0041】
ここで、図3〜図6を参照して、上述した第1および第2の実施形態に係るスピーカ装置1aおよび1bで得られる低音域増強効果について説明する。なお、図3は、密閉型スピーカ装置における音圧周波数特性およびキャビネット内部音圧特性を示すグラフである。図4は、バスレフ型スピーカ装置における音圧周波数特性およびキャビネット内部音圧特性を示すグラフである。図5は、パッシブラジエータ型スピーカ装置における音圧周波数特性およびキャビネット内部音圧特性を示すグラフである。図6は、キャビネット内に活性炭を配置したパッシブラジエータ型スピーカ装置における音圧周波数特性およびキャビネット内部音圧特性を示すグラフである。図3〜図6に示すグラフは、全て横軸:周波数(Hz)および縦軸:音圧レベル(dB)で示し、音圧周波数特性を実線、キャビネット内部音圧特性を破線で示している。また、図3〜図5に示す特性が得られるスピーカ装置の内部容積は、全て同一である。
【0042】
上述したように本発明では、吸着体の物理吸着作用と位相反転方式とを両立させるために、パッシブラジエータ方式(第1の実施形態)や除湿剤をポート内部に配置したバスレフ方式(第2の実施形態)を用いてスピーカ装置を構成している。以下、これらの音圧周波数特性およびキャビネット内部音圧特性について比較する。
【0043】
背景技術で説明した特許文献1で開示されたスピーカ装置は密閉型であり、図3に示すようにキャビネット内部音圧が高いため、キャビネット内部に設置された吸着体の物理吸着効果を比較的得やすい状態にある。しかしながら、位相反転方式による共振を利用できないので、物理吸着効果以上に低音域特性を伸ばすことができない。
【0044】
一方、図4に示すように、バスレフ型のスピーカ装置は、キャビネット内部音圧が密閉型より低下するので、キャビネット内部に設置された吸着体の物理吸着効果を得にくい状態にある。つまり、バスレフ型のスピーカ装置のキャビネット内部に吸着体を設置することによって図4に示す音圧周波数特性よりも低音域特性を伸ばすことができるが、キャビネット内部音圧が低いため、その物理吸着効果を十分に得ることができない。しかしながら、第2の実施形態で説明したスピーカ装置1bは、音響ポート7の内部に除湿剤11を設置しているため、キャビネット内部音圧の低下を抑制することも可能である。したがって、スピーカ装置1bは、吸着体3の物理吸着効果を維持する効果と共に、高い低音域再生能力を得る効果も期待できるものである。
【0045】
また、図5に示すように、パッシブラジエータ型のスピーカ装置は、バスレフ型よりもキャビネット内部音圧が高くなるので、吸着体の物理吸着効果による容積拡大効果が高く、かつ、バスレフ型と同等の共振による低域拡大効果が得られる。つまり、吸着体の物理吸着効果を十分に得て、かつ共振による低音域拡大を図るには、パッシブラジエータ型がさらに有利である。したがって、第1の実施形態で説明したスピーカ装置1aは、単純に物理吸着効果および位相反転方式を足し合わせて予想される効果以上の低音域拡大効果を期待することができ、共振による効果および物理吸着効果を両立したより高い低音域再生能力が得られるものである。例えば、キャビネット内部に吸着体を配置して、その内部容積が2倍になる物理吸着効果が得られたとすると、図6に示すような十分に低音域が向上した音圧周波数特性を得ることができる。
【0046】
なお、上述した第1および第2の実施形態で説明したスピーカ装置1aおよび1bは、例えば車載用のスピーカ装置として用いられる。図7は、自動車の車内で用いられるスピーカ装置1aの一例を示す図である。
【0047】
図7において、スピーカ装置1aは、自動車のドア内部に固設される。なお、図7においては、スピーカ装置1aを破線で示しており、その構成要素としてスピーカユニット2、キャビネット4a、およびドロンコーン8のみを示している。
【0048】
一般的に、低音域の再生能力に優れたスピーカ装置を搭載する場合、所望の低音を再生するために、容積の大きなキャビネットが必要とされる。一方、自動車のドア内部空間で許容されるスピーカ装置の設置のための空間は、非常に狭い空間となる。一方、スピーカ装置1aは、容積の小さいキャビネットであっても、吸着体3の物理吸着効果および位相反転方式による効果によって高い低音域再生能力を有している。つまり、許容される空間が狭いためにキャビネット4aの容積が制限されても、豊かな低音再生が可能な車載用スピーカ装置1aが実現される。
【0049】
また、上述した第1および第2の実施形態で説明したスピーカ装置1aおよび1bは、例えば携帯電話等の携帯型情報処理装置用のスピーカ装置として用いられる。図8は、携帯電話に搭載されるスピーカ装置1aの一例を示す正面図および側面図である。
【0050】
図8において、スピーカ装置1aは、携帯電話の筐体内部に固設される。なお、図8においては、スピーカ装置1aを破線で示しており、その構成要素としてスピーカユニット2、吸着体3、キャビネット4a、およびドロンコーン8のみを示している。
【0051】
上述したように、低音域の再生能力に優れたスピーカ装置を搭載する場合、所望の低音を再生するために、容積の大きなキャビネットが必要とされる。一方、携帯電話等の携帯型装置は小型化が常に求められ、携帯電話の筐体内部空間で許容されるスピーカ装置の設置のための空間は、非常に狭い空間となる。一方、スピーカ装置1aは、容積の小さいキャビネットであっても、吸着体3の物理吸着効果および位相反転方式による効果によって高い低音域再生能力を有している。つまり、許容される空間が狭いためにキャビネット4aの容積が制限されても、豊かな低音再生が可能な携帯型情報処理装置用スピーカ装置1aが実現される。
【0052】
また、上述した第1および第2の実施形態で説明したスピーカ装置1aおよび1bは、薄型化が進む液晶テレビ、PDP(プラズマディスプレイ)、ステレオ装置、5.1チャンネル再生のホームシアター等のAVシステムに用いられるスピーカシステムに適用される。具体的には、スピーカ装置1aおよび1bは、薄型テレビに搭載されるスピーカシステムとして用いられる。図9は、スピーカ装置1aをテレビに搭載した構成の一例を示す正面図およびその一部の内部構造を図示A−A断面で示した側面図である。
【0053】
図9において、スピーカ装置1aは、薄型テレビの筐体内部の左右にそれぞれ固設される。なお、図9においては、スピーカ装置1aの構成要素としてスピーカユニット2、吸着体3、キャビネット4a、およびドロンコーン8のみを示している。
【0054】
上述したように、低音域の再生能力に優れたスピーカ装置を搭載する場合、所望の低音を再生するために、容積の大きなキャビネットが必要とされる。一方、薄型テレビは薄型化が常に求められ、薄型テレビの筐体内部空間で許容されるスピーカ装置の設置のための空間は、非常に狭い空間となる。一方、スピーカ装置1aは、容積の小さいキャビネットであっても、吸着体3の物理吸着効果および位相反転方式による効果によって高い低音域再生能力を有している。つまり、許容される空間が狭いためにキャビネット4aの容積が制限されても、豊かな低音再生が可能なAVシステム用スピーカ装置1aが実現される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係るスピーカ装置は、小型のキャビネット容積で低音域再生可能であり、車載用、携帯型デバイス用、AVシステム用等の様々なスピーカ装置等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビネットと、
前記キャビネットに取り付けられたスピーカユニットと、
前記キャビネット内部の空室に配置され、当該空室内の気体を物理吸着する吸着体と、
前記スピーカユニットから前記空室内に放射される特定の周波数の音と共振させて位相を反転し、外部へ当該音を放射する位相反転機構とを備え、
前記位相反転機構は、前記キャビネット外部から当該位相反転機構を介して前記空室への湿気の浸入を防浸する防浸手段を含む、スピーカ装置。
【請求項2】
前記位相反転機構は、前記キャビネットに形成された開口部に設けられたドロンコーンであり、
前記防浸手段は、前記キャビネット外部から前記空室との間の通気を遮断する前記ドロンコーンであることを特徴とする、請求項1に記載のスピーカ装置。
【請求項3】
前記ドロンコーンは、ワックスおよび樹脂材料の少なくとも一方でコーティングされていることを特徴とする、請求項2に記載のスピーカ装置。
【請求項4】
前記位相反転機構は、前記キャビネットに形成された開口部に設けられた音響ポートであり、
前記防浸手段は、前記音響ポート内に静置された除湿剤であることを特徴とする、請求項1に記載のスピーカ装置。
【請求項5】
前記吸着体は、活性炭であることを特徴とする、請求項1に記載のスピーカ装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のスピーカ装置と、
前記スピーカ装置を固設する筐体とを備える、携帯型情報処理装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のスピーカ装置と、
前記スピーカ装置を固設する筐体とを備える、オーディオビジュアルシステム。
【請求項8】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のスピーカ装置と、
前記スピーカ装置を車内に固設する車体とを備える、車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【国際公開番号】WO2005/099300
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【発行日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−512006(P2006−512006)
【国際出願番号】PCT/JP2005/005342
【国際出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】