説明

スプライサ装置

【課題】内ノズル41の耐摩耗性を確保しつつ、内ノズル41の温度ムラを抑制できる技術を提供する。
【解決手段】スプライサ7は、糸継が行われる糸継室44が形成される内ノズル41と、この内ノズル41を収容する外ノズル42と、から構成され、糸継室44内に圧縮空気を噴射するために糸継室44の内壁面(51a等)に開口する流体噴射通路(49等)が形成される、スプライサノズル28を備える。外ノズル42には、スプライサノズル28を加熱するためのノズル加熱体43が設けられる。内ノズル41は、炭化ケイ素を主成分として形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプライサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、特許文献1(特開平7−125932号公報)は、糸端を糸継ノズル内に引き寄せて互いに重ね合わせ、圧縮流体の作用によって糸継を行うスプライサ装置を開示する。このスプライサ装置の代表的な構造は、例えば、特許文献1の図1や図2を参照されたい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記特許文献1の構成では、一部の糸種(特にウール糸)を糸継する場合、継ぎ目の強度が必ずしも十分とはならず、この問題を解消するために、上記圧縮流体を予め加熱しておくことで糸の柔らかくし、その上で糸継する、いわゆるホットスプライサ装置が開発されている。このホットスプライサ装置において重要な技術事項の一つに、スプライサノズル(上記糸継ノズルに相当。)を十分に加熱することが挙げられる。
【0004】
しかし、上記の圧縮流体を噴射前に予め加熱し、この加熱した圧縮流体を糸継ノズル内に噴射するだけでは、スプライサノズルを十分には加熱することが難しかった。そこで、例えば糸継を行う際には、糸継前に一度、上記の加熱された圧縮流体をスプライサノズル内に噴射することで前もってスプライサノズルを温めておく、といった対策が考えられるが、そもそもスプライサノズルの比熱が圧縮流体と比較して相当大きく、あまり有効ではない。また、この対策では、スプライサノズルを安定して所望の温度へと加熱することができず、スプライサノズルの温度のバラツキにより、継ぎ目の品質を一定とすることができなかった。
【0005】
そこで、本願出願人は、ノズル加熱体をスプライサノズルに設け、このノズル加熱体によりスプライサノズルを直接、加熱する構成を考えた。
【0006】
ところで、スプライサノズルは、例えば上記特許文献1のように、一般に、糸継が行われる糸継室が形成される内ノズルと、この内ノズルを収容する外ノズルと、から構成される。そして、内ノズルは、走行する糸と摩擦する環境下にあるので、一般に、耐摩耗性に優れたアルミナが採用されている。
【0007】
しかし、上記のアルミナは熱伝導率が低いので、内ノズルの温度ムラの原因となっていた。或いは、内ノズル全体を十分に加熱すべく、内ノズル内の温度勾配を考慮して、ノズル加熱体の発熱量を大きくしなければならなかった。
【0008】
本願発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、内ノズルの耐摩耗性を確保しつつ、内ノズルの温度ムラを抑制できる技術を提供することにある。また、本願発明の他の目的は、内ノズル全体を十分に加熱しつつ、ノズル加熱体の発熱量を低減できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0010】
本願発明の観点によれば、以下のように構成されるスプライサ装置が提供される。即ち、スプライサ装置は、糸継が行われる糸継室が形成される内ノズルと、この内ノズルを収容する外ノズルと、から構成され、前記糸継室内に流体を噴射するために前記糸継室の内壁面に開口する流体噴射通路が形成される、スプライサノズルを備える。前記外ノズルには、前記スプライサノズルを加熱するためのノズル加熱体が設けられる。前記内ノズルは、炭化ケイ素を主成分として形成される。このように、前記スプライサノズルにノズル加熱体を設け、このノズル加熱体によって前記スプライサノズルを加熱する構成では、前記ノズル加熱体から離れる方向に沿って強い温度勾配が形成される。この温度勾配は、上記の内ノズルにおいても形成され得る。そこで、前記内ノズルの主たる成分として、高い熱伝導率を有する炭化ケイ素を採用することで、前記内ノズル内の温度勾配、温度ムラ(以下、単に温度勾配と称する。)を抑えることができ、しかも、前記内ノズルに要求される高い耐摩耗性も損なうことがない。また、前記内ノズル内の温度勾配が抑えられるので、前記内ノズル全体を十分に加熱しつつ、前記ノズル加熱体の発熱量を低減できる。
【0011】
上記のスプライサ装置は、更に、以下のように構成される。即ち、前記内ノズルには、前記の糸継室が二つ形成される。前記二つの糸継室は、糸継の際に同時に用いられるものである。前記二つの糸継室は、前記ノズル加熱体からの距離が互いに異なる。このように、糸継の際に同時に用いられる前記二つの糸継室が、前記ノズル加熱体から異なる距離の位置に形成される場合、前記二つの糸継室の内壁面の間には、強い温度差が生じる。このように、前記二つの糸継室の内壁面に温度差が生じると、糸継によって形成される継ぎ目の品質が安定しない。そこで、前記内ノズルの主たる成分として、高い熱伝導率を有する炭化ケイ素を採用することで、前記内ノズル内の温度勾配が抑えられ、前記二つの糸継室の内壁面の間に生じる温度差を低減でき、もって、継ぎ目の安定した品質の実現に寄与する。
【0012】
上記のスプライサ装置は、更に、以下のように構成される。即ち、前記ノズル加熱体から離れる方向における前記二つの糸継室の間に、前記二つの糸継室を外部に連通させるためのスリットが形成される。この構成では、前記二つの糸継室間における熱の流路の断面積が前記スリットの存在により小さく、前記二つの糸継室の内壁面の間には、一層強い温度差が生じる。上述の温度差を低減する効果は、上記のスリットが形成される構成において一層有意義である。
【0013】
上記のスプライサ装置は、更に、以下のように構成される。即ち、スプライサ装置は、前記流体を前記スプライサノズルに導入する前に加熱する流体加熱手段を備える。以上の構成によれば、糸継時の糸の繊維が柔らかくなるので、強力な継ぎ目強度が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を説明する。図1は、本願発明の一実施形態に係るオートワインダが備える巻取ユニット(糸巻取装置)の側面図である。
【0015】
本図に示される巻取ユニット1は、給糸ボビンBから解舒される紡績糸Y(例えばウールなど)をトラバースさせながら巻取ボビンBf上に巻き返して所定形状のパッケージPとするものである。オートワインダ100は、本図の紙面垂直方向に多数で列設される巻取ユニット1から構成され、各巻取ユニット1は、オートワインダ100の基体フレーム101に支持される。
【0016】
巻取ユニット1は、巻取ボビンBfを把持するクレードル2と、紡績糸Yをトラバースさせる綾振ドラム3と、を備える。クレードル2は、綾振ドラム3に対して近接又は離間する方向に揺動自在であり、巻取ボビンBfに紡績糸Yを巻いて形成したパッケージPが綾振ドラム3に対して接触又は離間される。また、クレードル2には、糸切れ時にクレードル2を上げて、パッケージPを綾振ドラム3から離反させる図略のリフトアップ機構と、クレードル2に把持された巻取ボビンBfの回転を停止させる図略のパッケージブレーキ機構が取り付けられる。
【0017】
綾振ドラム3の周面には螺旋状の綾振溝が形成されており、この綾振溝によって紡績糸Yは巻取ボビンBf(パッケージP)に対して綾振られる。また、巻取ユニット1は、給糸ボビンBと綾振ドラム3との間の糸走行経路中に、給糸ボビンB側から順に、バルーンブレーカ4、ヤーンフィーラ5、テンサー6、スプライサ7(スプライサ装置)、ヤーンクリアラ8を配する。
【0018】
バルーンブレーカ4は、給糸ボビンBの解舒と共に芯管に被さる筒体を下げることにより、給糸ボビンBからの糸の解舒を補助する。ヤーンフィーラ5は、バルーンブレーカ4とテンサー6との間における紡績糸Yの有無を検出する。テンサー6は、走行する紡績糸Yに所定のテンションを付与する。スプライサ7は、糸欠点を検出して行う糸切断時、または解舒中の糸切れ時などに、給糸ボビンB側の紡績糸Yとしての下糸Y1と、パッケージP側の紡績糸Yとしての上糸Y2と、を糸継する。ヤーンクリアラ8は、紡績糸Yの欠陥を検出するためのものであって、クリアラ8からの紡績糸Yの太さに応じた信号が適宜のアナライザで処理されることで、スラブ等の糸欠点を検出する。また、このヤーンクリアラ8には、糸欠点を検出した時に紡績糸Yを切断するためのカッター8aが付設される。
【0019】
スプライサ7の上下には、給糸ボビンB側の下糸Y1を捕捉して案内する中継パイプ11と、パッケージP側の上糸Y2を捕捉して案内するサクションマウス12と、が設けられる。この構成で、糸切断時または糸切れ時においては、中継パイプ11が旋回して下糸Y1を捕捉し、下から上へと旋回してスプライサ7に下糸Y1を案内する。同時に、サクションマウス12が下から上へと旋回し、逆転するパッケージPから上糸Y2を捕捉し、上から下へと旋回し、スプライサ7に上糸Y2を案内する。そして、スプライサ7に案内された上糸Y2と下糸Y1は、スプライサ7において糸継される。
【0020】
巻取ユニット1の正面には、複数の給糸ボビンBを収容するマガジン13と、このマガジン13から投下された給糸ボビンBをボビンペッグ14に案内するためのボビンシュート15と、が設けられる。そして、給糸ボビンBの紡績糸Yは、ボビンペッグ14に支持された状態で解舒されるようになっている。
【0021】
また、巻取ユニット1の背面には、複数の巻取ユニット1に跨るように本図の紙面垂直方向に延びる二本のパイプが設けられる。この二本のパイプのうち巻取ユニット1に対して近いパイプである高圧パイプ16は、可撓性パイプである高圧側ユニットパイプ17を介してスプライサ7と接続される。同様に、他方のパイプである低圧パイプ18は、可撓性パイプである低圧側ユニットパイプ19を介してスプライサ7と接続される。上記の高圧パイプ16には、図略の圧縮機が第一減圧弁20を介して接続される。また、上記の高圧パイプ16と低圧パイプ18は、第二減圧弁21を介して接続される。この構成で、図略の圧縮機から吐出された高圧の圧縮空気は、第一減圧弁20によって概ね6.5kg/cmに減圧されて高圧パイプ16へと供給される。この圧縮空気は、高圧側ユニットパイプ17を介してスプライサ7へ供給されると共に、第二減圧弁21によって概ね2.0〜6.5kg/cmに減圧されて低圧パイプ18へと供給される。この圧縮空気は、低圧側ユニットパイプ19を介してスプライサ7へ供給される。後述するように、上記の高圧側ユニットパイプ17を介してスプライサ7へ供給される圧縮空気はスプライサ7内で下糸Y1及び上糸Y2の各糸端部を解撚するのに供され、一方、上記の低圧側ユニットパイプ19を介してスプライサ7へ供給される圧縮空気はスプライサ7内で下糸Y1及び上糸Y2の各糸端部を糸継して継ぎ目を形成するのに供される。
【0022】
次に、図2を参照されたい。図2は、スプライサ装置の斜視図である。本図に示されるようにスプライサ7は、上糸Y2と下糸Y1の糸継が行われる糸継部7aと、この糸継部7aを適宜に駆動させるためのカム機構7bと、を主たる構成とするスプライサ本体7Aを備える。スプライサ本体7Aは、更に、糸継部7aを露出させつつカム機構7bを収容するカムボックス7cを備える。そして、糸継部7aのメンテナンス性を確保するため、糸継部7aはカム機構7bに対して巻取ユニット1の正面側に配置される。即ち、糸継部7aが巻取ユニット1の正面側に露出するレイアウトが採用される。
【0023】
スプライサ7は、更に、スプライサ本体7Aの正面から見て右側方に配設される、例えばニクロム線などの発熱体を備えた加熱装置22(流体加熱手段、流体加熱装置)を備える。スプライサ本体7Aの外部に配設される上記の加熱装置22と、低圧パイプ18とは、前述の低圧側ユニットパイプ19によって接続される。そして、加熱装置22と、スプライサ7のスプライサノズル28と、を接続するために、スプライサ7は、更に、可撓性の低圧側第二ユニットパイプ19a(加熱流体用配管)を備える。即ち、スプライサ7は、スプライサ本体7Aと、低圧側第二ユニットパイプ19aと、加熱装置22と、を備える。この構成で、低圧パイプ18から低圧側ユニットパイプ19へ流入した圧縮空気は、加熱装置22で例えば150℃程度に加熱されてから、低圧側第二ユニットパイプ19aを介してスプライサノズル28に導入されるようになっている。
【0024】
次に、図3を参照されたい。図3は、スプライサ装置の糸継部の斜視図である。本図に示されるように糸継部7aは、パッケージP側(本図上)から給糸ボビンB側(本図下)へ向かって順に、上糸クランププレート23と、上糸糸寄せレバー24と、下糸糸端カッター25と、下糸解撚ノズル26と、上糸糸押さえレバー27と、スプライサノズル28と、下糸糸押さえレバー29と、上糸解撚ノズル30と、上糸糸端カッター31と、下糸糸寄せレバー32と、下糸クランププレート33と、を主たる構成として備える。
【0025】
上記の上糸糸寄せレバー24と下糸糸寄せレバー32は、スプライサ7のフレーム34に対して枢設される。上記の上糸糸押さえレバー27と下糸糸押さえレバー29は、一体的に形成され、スプライサ7のフレーム34に対して枢設される。
【0026】
次に、図4を参照されたい。図4は、スプライサ装置の動作の説明図である。以下、この図4に基づいてスプライサ7の動作を概略的に説明する。
【0027】
紡績糸Yの糸切れ時又は糸切断時、前述したように、上糸Y2はサクションマウス12によって、下糸Y1は中継パイプ11によって、スプライサ7へ案内される。そして、図4(a)に示されるように、スプライサ7へ案内された上糸Y2は上糸糸寄せレバー24の旋回によってスプライサノズル28内に押し込まれると共に、上糸クランププレート23によってクランプされる。同様に、スプライサ7へ案内された下糸Y1は下糸糸寄せレバー32の旋回によってスプライサノズル28に押し込まれると共に、下糸クランププレート33によってクランプされる。
【0028】
次に、図1において符号17で示される高圧側ユニットパイプ17を介して高圧パイプ16から供給される圧縮空気が下糸解撚ノズル26と上糸解撚ノズル30に供給されると共に、上糸Y2は上糸糸端カッター31によって適宜にトリムされ、下糸Y1も下糸糸端カッター25によって適宜にトリムされる。すると、図4(b)に示されるように、上糸Y2の糸端部Y2tは上糸解撚ノズル30内に吸引されて撚り戻しされ、下糸Y1の糸端部Y1tも下糸解撚ノズル26内に吸引されて撚り戻しされる。このとき、上糸糸寄せレバー24は上糸Y2を押さえつける方向と反対の方向へ若干退避することで、上糸解撚ノズル30内に吸引される糸端部Y2tの長さが十分に確保されるようになっている。同様に、このとき、下糸糸寄せレバー32は下糸Y1を押さえつける方向と反対の方向へ若干退避することで、下糸解撚ノズル26内に吸引される糸端部Y1tの長さが十分に確保されるようになっている。
【0029】
次に、図4(c)に示されるように、上糸糸寄せレバー24と下糸糸寄せレバー32が再び旋回する。すると、上糸解撚ノズル30内に吸引されていた上糸Y2の糸端部Y2tが所定量、引き出される。同様に、下糸解撚ノズル26内に吸引されていた下糸Y1の糸端部Y1tが所定量、引き出される。次いで、上糸糸押さえレバー27と下糸糸押さえレバー29が旋回し、上糸Y2の糸端部Y2tが上糸糸押さえレバー27とスプライサノズル28との間にクランプされると共に、下糸Y1の糸端部Y1tが下糸糸押さえレバー29とスプライサノズル28との間にクランプされる。この状態で、加熱装置22で加熱された圧縮空気が低圧側第二ユニットパイプ19aを介してスプライサノズル28に導入され、両糸端部Y1t・糸端部Y2tに対して噴射されることで、糸端部Y1tと糸端部Y2tは互いに絡み合って継ぎ目が形成される。
【0030】
次に、図5〜9を参照されたい。以降、上記のスプライサ7に採用されるスプライサノズル28の構成を図5〜9を参照しつつ、詳細に説明する。
【0031】
先ず、図5及び図6を参照されたい。図5は、スプライサノズルの斜視図である。図6は、図5に類似する図であって、スプライサノズルの分解図である。図5及び図6に示されるように本実施形態に係るスプライサノズル28は、主たる成分を炭化ケイ素とする内ノズル41と、アルミニウム製の外ノズル42と、を主たる構成として備え、更にノズル加熱体43が設けられる。以降の説明の便宜上、「糸走行方向」、「ノズル幅方向」、「ノズル奥行き方向」を定義する。先ず、図2、3、5を参照されたい。これらの図から判る通り、図5に示される「糸走行方向」は、紡績糸Yの走行する方向を意味する。「ノズル幅方向」及び「ノズル奥行き方向」は何れも上記「糸走行方向」に対して直角であり、「ノズル幅方向」と「ノズル奥行き方向」は互いに直角の関係にある。
【0032】
図5に示されるように、内ノズル41には、二本の糸端部Y1t、Y2tを収容すると共に糸継が行われる糸継室44と、この糸継室44に対して二本の糸端部Y1t、Y2tを挿入するために糸走行方向に沿って刻設され、糸継室44を外部と連通させるスリット45と、このスリット45へ二本の糸端部Y1t、Y2tを滑らかに案内するためのV字状の傾斜面46と、が主として形成される。外ノズル42には、図6に示されるように、内ノズル41を収容するための収容溝47がノズル奥行き方向に開口して形成されると共に、図5に示されるように、この収容溝47内に内ノズル41を密嵌した状態で傾斜面46と略面一となる傾斜面48がV字状となるように形成される。また、図6に示されるように、スプライサノズル28のノズル幅方向一端に締結固定されるノズル加熱体43と内ノズル41を挟んで反対側において、外ノズル42にはノズル幅方向に沿って延びるストレート孔49が穿設される。このストレート孔49の入り開口49aは、破線で示す低圧側第二ユニットパイプ19aが連結可能とされる。ノズル加熱体43は、後述する、例えばニクロム線などの発熱体と、この発熱体が埋設されるブロックと、から構成される。このノズル加熱体43には、ノズル幅方向に沿うように筒孔43aが穿設され、この筒孔43aにボルト50が遊挿される。このボルト50を外ノズル42の側面に形成されたメネジ孔に対して螺合することで、ノズル加熱体43は外ノズル42に対して押圧された状態で固定される。即ち、ノズル加熱体43は、ノズル幅方向において、外ノズル42に対して押圧される。ノズル加熱体43は、ノズル加熱体43と外ノズル42との合わせ面Fに対して垂直な方向において、外ノズル42に対して押圧される。ノズル加熱体43は、ノズル加熱体43の中心から内ノズル41を望む方向と略平行な方向において、外ノズル42に対して押圧される。
【0033】
次に、図7を参照されたい。図7は、内ノズルの平面図などである。即ち、図7(a)は内ノズル41の平面図、図7(b)は内ノズル41の正面図、図7(c)は図7(a)の7c−7c線矢視断面図である。本図(a)〜(c)に示されるように、本実施形態において上記の糸継室44は、内ノズル41内に二つ、形成される。即ち、内ノズル41には、パッケージP側の第一糸継室51と、給糸ボビンB側の第二糸継室52と、が形成される。第一糸継室51と第二糸継室52は、本図(a)〜(c)に示されるようにノズル幅方向においてズレて形成される。第一糸継室51と第二糸継室52は、本図(b)及び(c)に示されるように糸走行方向においてズレて形成される。第一糸継室51は、本図(b)及び(c)に示されるように、糸走行方向において、内ノズル41の上端から中央に至るまでストレート状に穿設されると共に、内ノズル41の中央において閉塞される。同様に、第二糸継室52は、糸走行方向において、内ノズル41の下端から中央に至るまでストレート状に穿設されると共に、内ノズル41の中央において閉塞される。第一糸継室51と第二糸継室52は、本図(a)においてノズル幅方向に沿ってみてみると、重複せず、あたかも隣接するように形成される。第一糸継室51と第二糸継室52は、本図(b)、(c)において糸走行方向に沿ってみてみると、重複せず、あたかも隣接するように形成される。また、ノズル幅方向における第一糸継室51と第二糸継室52の境界には、内ノズル41の正面側から上糸Y2及び下糸Y1を第一糸継室51及び第二糸継室52へ挿入するための前述のスリット45が形成される。このスリット45は、本図(b)に示されるように、内ノズル41を糸走行方向において貫くように形成される。スリット45は、第一糸継室51及び第二糸継室52と連通する。第一糸継室51と第二糸継室52は、スリット45を介して互いに僅かに連通する。第一糸継室51と第二糸継室52は、スリット45を介して外部と連通する。
【0034】
次に、図8及び図9を参照されたい。図8は、図7(b)の8a−8a線矢視断面図である。図8(b)には、図8(a)の一部を拡大して示した。図9は、図7(b)の9a−9a線矢視断面図である。図9(b)には、図9(a)の一部を拡大して示した。以下、図8及び図9を参照しつつ、内ノズル41の形状を更に詳細に説明する。
【0035】
先ず、図8(a)に示されるように、内ノズル41の外周には、第一糸継室51やスリット45を取り囲むU字状溝53が凹設され(図6、図7(a)、(c)も併せて参照)、このU字状溝53が外ノズル42の収容溝47によって閉塞されることでU字状流路54が形成され、このU字状流路54は前述のストレート孔49と連通する。一方、第一糸継室51の内壁面は、本図(b)に示される平面視において反時計回りに順に、スリット45と接続し、スリット45と略平行な第一平面部51aと、円弧状に湾曲する第一湾曲面51bと、平面状の第二平面部51c(平面部)と、円弧状に湾曲する第二湾曲面51dと、スリット45と接続する第三平面部51eと、から構成される。そして、内ノズル41には、この第一糸継室51とU字状流路54とを連通する断面円形のストレート流路55が形成される。このストレート流路55の中心線(符号Uで示される一点鎖線に相当。)は、スリット45の最深端45aよりも第一湾曲面51b側に若干、ズレるように設定される。上記の第一糸継室51内に流体を噴射するために第一糸継室51の内壁面(第一平面部51a)に開口する、スプライサノズル28の流体噴射通路は、圧縮空気の流れの方向に沿って順に、ストレート孔49と、U字状流路54と、ストレート流路55と、から構成される。上記の第二平面部51cの法線方向Tと、ストレート流路55から第一糸継室51内へ噴射される圧縮空気の噴射方向Uと、の間には概ね10〜20°程度の傾斜角Aが設けられ、本実施形態において傾斜角Aは15°に設定される。詳しくは、本図において法線方向Tは、上記噴射方向Uを基準として、時計回りに上記傾斜角Aだけ傾いている。上記傾斜角Aが15°に設定されるので、本実施形態では、第二平面部51cは、第一平面部51aにおけるストレート流路55の開口55aに対して対向する関係にある。
【0036】
次に、第二糸継室52の内壁面は、図9(b)に示される平面視において時計回りに順に、スリット45と接続し、スリット45と略平行な第一平面部52aと、円弧状に湾曲する第一湾曲面52bと、平面状の第二平面部52c(平面部)と、円弧状に湾曲する第二湾曲面52dと、スリット45と接続する第三平面部52eと、から構成される。そして、内ノズル41には、この第二糸継室52とU字状流路54とを連通する断面円形のストレート流路56が形成される。このストレート流路56の中心線(符号Wで示される一点鎖線に相当。)は、スリット45の最深端45aよりも第一湾曲面52b側に若干、ズレるように設定される。上記の第二糸継室52内に流体を噴射するために第二糸継室52の内壁面(第一平面部52a)に開口する、スプライサノズル28の流体噴射通路は、圧縮空気の流れの方向に沿って順に、ストレート孔49と、U字状流路54と、ストレート流路56と、から構成される。上記の第二平面部52cの法線方向Vと、ストレート流路56から第二糸継室52内へ噴射される圧縮空気の噴射方向Wと、の間には概ね10〜20°程度の傾斜角Bが設けられ、本実施形態において傾斜角Bは15°に設定される。詳しくは、本図において法線方向Vは、上記噴射方向Wを基準として、反時計回りに上記傾斜角Bだけ傾いている。上記傾斜角Bが15°に設定されるので、本実施形態では、第二平面部52cは、第一平面部52aにおけるストレート流路56の開口56aに対して対向する関係にある。
【0037】
次に、図10〜12を参照されたい。図10は、スプライサノズルの平面図である。図11は、図8(b)及び図9(b)に相当する図である。図12は、図7(c)に相当する図である。以下、図10〜12に基づいて、加熱装置22によって加熱され、低圧側第二ユニットパイプ19aを介して、スプライサノズル28内に導入された圧縮空気の流れについて詳細に説明する。
【0038】
図10に示されるように、加熱装置22によって加熱された圧縮空気は、低圧側第二ユニットパイプ19aを介してスプライサノズル28の外ノズル42のストレート孔49へ吐出される。ストレート孔49へ吐出された圧縮空気は、U字状流路54とストレート流路55を介して第一糸継室51へ噴射されると共に、U字状流路54とストレート流路56を介して第二糸継室52へ噴射される。
【0039】
第一糸継室51に噴射された圧縮空気の噴射方向は、図11(a)において符号Uで示され、この噴射方向Uに沿って噴射された圧縮空気の流れを符号pでイメージした。本図に示されるように、第一糸継室51内に噴射された圧縮空気は、第一平面部51aに対して対向する第二平面部51cに対して直接的に、直角に近い角度で、強力に衝突する。このとき、スリット45内の符号hで示される位置に静止している解撚状態の各糸端部Y1t、Y2tは、加熱された圧縮空気から受熱することで程よく柔らかくなると共に、符号pで示される圧縮空気の流れに引っ張られるかたちで第二平面部51cに対して打ち付けられ、第二平面部51cに対して打ち付けられた各糸端部Y1t、Y2tに対して更に覆い被さるように圧縮空気が衝突することで、糸端部Y1t、Y2tは、強力に潰されて互いに撚り合い、一体化する。なお、本実施形態に係るスプライサノズル28は、ノズル加熱体43を備え、このノズル加熱体43によって、上記圧縮空気の導入前に予め内ノズル41が加温されるようになっているので、内ノズル41内に導入された圧縮空気の高温状態を維持し易く、また、第二平面部51cが加温状態にあるため、各糸端部Y1t、Y2tは、圧縮空気から十分に受熱できると共に、第二平面部51cに対して打ち付けられた際にも第二平面部51cから受熱するようになっており、もって、各糸端部Y1t、Y2tが一層柔らかくなるようになっている。
【0040】
ところで、前述の通り、第二平面部51cの法線方向Tと、第一糸継室51内へ噴射される圧縮空気の噴射方向Uと、の間には傾斜角Aが設けられているので(図8(b)を併せて参照)、第一糸継室51内に噴射された圧縮空気は、第二平面部51cに対して若干傾斜して衝突することとなる。この傾斜を伴う衝突により、上記衝突後、第一糸継室51内には、符号qで示されるような、第一糸継室51の内壁面に沿った反時計回りの旋回流が形成される。換言すれば、第一糸継室51内に噴射された圧縮空気には、一方向(反時計回り)の旋回性が付与される。このとき、各糸端部Y1t、Y2tは、符号hの位置から符号iの位置へ引っ張られた際に糸内に蓄積された弾性エネルギーによって元の符号hの位置へ戻ろうとする作用と、上記旋回流qによって引っ張られる作用と、によって、符号iの位置から符号jの位置へと移動する。この結果、上記の旋回流qは、符号jの位置にある糸端部Y1t、Y2tを取り囲むこととなる。言い換えれば、第一糸継室51内に噴射された圧縮空気には、第一糸継室51内に収容された二本の糸端部Y1t、Y2tを取り囲うような旋回性が付与される。なお、本実施形態では、本図に示されるように、各糸端部Y1t、Y2tの符号hで示される初期位置が、符号pで示される初期の圧縮空気の流れに対して、この圧縮空気の流れpが第二平面部51cとの衝突により屈曲される方向と同じ方向に所定寸法L、オフセットされており、このオフセットの存在により、第二平面部51cに打ち付けられ、符号iの位置へ移動した各糸端部Y1t、Y2tが上記の旋回流qと良く馴染み、もって、旋回流qが各糸端部Y1t、Y2tを取り囲う関係が成立し易くなっている。
【0041】
そして、この旋回流qは、図示の通り、糸端部Y1t、Y2tを符号jの位置から例えば第一平面部51aへ向かって引っ張るなどして若干バタツかせると共に、糸端部Y1tの先端の繊維を糸端部Y2tに対して巻き付ける。この旋回流qによる巻き付け作用は、第一糸継室51内においても発現するし、以下に説明するように、第一糸継室51外においても発現する。即ち、上記旋回流qは、図12に示されるように旋回性を維持したまま、第一糸継室51の唯一の開口方向(紡績糸Yの下流側、内ノズル41の上方側、パッケージP側)へ向かって内ノズル41から吐出され、この際、第一糸継室51内に収容されなかった、糸端部Y1tの先端の繊維は、旋回流qによって糸端部Y2t回りに旋回させられるので糸端部Y2tに対して巻き付けられる。なお、本実施形態において上記の旋回流qは、平面視で反時計回りであって、紡績糸Yの下流側へ向かって緩やかに拡散するようになっているので、糸端部Y1tの先端の繊維は、糸端部Y2tに対してZ巻きの方向で巻き付くこととなる。従って、紡績糸YがZ撚りの場合、糸端部Y2tに対する糸端部Y1tの先端の繊維の巻き付く方向は、紡績糸Yの撚り方向と一致することとなる。
【0042】
さて、上記の第二糸継室52内においては、図11(a)と図11(b)を比較して判る通り、スリット45に関して全く線対称な事象となるので、その詳細な説明は割愛する。図11(a)の符号h、i、j、U、p、qは、図11(b)の符号k、m、n、W、r、sと夫々対応する。
【0043】
第二糸継室52内で形成される旋回流sは、糸端部Y2tの先端の繊維を糸端部Y1tに対して巻き付ける。この旋回流sによる巻き付け作用は、第二糸継室52内においても発現するし、以下に説明するように、第二糸継室52外においても発現する。即ち、上記旋回流sは、図12に示されるように旋回性を維持したまま、第二糸継室52の唯一の開口方向(紡績糸Yの上流側、内ノズル41の下方側、給糸ボビンB側)へ向かって内ノズル41から吐出され、この際、第二糸継室52内に収容されなかった、糸端部Y2tの先端の繊維は、旋回流sによって糸端部Y1t回りに旋回させられるので糸端部Y1tに対して巻き付けられる。なお、本実施形態において上記の旋回流sは、平面視で時計回りであって、紡績糸Yの上流側へ向かって緩やかに拡散するようになっているので、糸端部Y2tの先端の繊維は、糸端部Y1tに対してZ巻きの方向で巻き付くこととなる。従って、紡績糸YがZ撚りの場合、糸端部Y1tに対する糸端部Y2tの先端の繊維の巻き付く方向は、紡績糸Yの撚り方向と一致することとなる。
【0044】
ここで、図13を参照されたい。図13は、継ぎ目をイメージした図である。図13(a)に示される継ぎ目は、上記特許文献3の技術で達成される継ぎ目をイメージしたものである。特許文献3の技術の特徴は、継ぎ目の強度が十分に確保される点である。しかし、糸端部の先端の繊維が紡績糸に巻き付いておらず、毛羽立ちが目立ち、外観上、好ましくない。一方、図13(b)に示される継ぎ目は、上記実施形態で達成される継ぎ目をイメージしたものである。上記実施形態に係るスプライサノズル28によれば、糸端部の先端の繊維は紡績糸に巻き付くこととなり、毛羽立ちが殆どなく、外観上、良好である。しかも、糸端部の先端の繊維の巻き付き方向が紡績糸の撚り方向と一致しているので、この巻き付きは一層目立ち難くなっており、外観に優れる。
【0045】
以下、図14及び図15を参照しつつ、上記のノズル加熱体43に関して詳細に説明する。図14は、図5に類似する図であって、スプライサノズルの一部切欠き斜視図である。図15は、図14に類似する図であって、スプライサノズルの一部切欠き斜視図である。なお、以降のノズル加熱体43に関する説明は、上記の説明と一部重複する。
【0046】
先ず、図14を参照されたい。本図に示されるように、スプライサノズル28には、発熱体70と、この発熱体70が埋設されるブロック71と、を主たる構成として備えるノズル加熱体43が設けられる。このノズル加熱体43は、スプライサノズル28のノズル幅方向一端に、詳しくは図6に示すようにストレート孔49の入り開口49aと糸継室44を挟んで反対側に、締結固定される。本実施形態においてノズル加熱体43は、スプライサノズル28に対してボルト50を介して着脱可能とされる。そして、上記のブロック71内であって、スプライサノズル28と発熱体70を挟んで反対側には、密閉空間72が形成される。
【0047】
上記の発熱体70は、ブロック71内に埋設され、このブロック71内でノズル奥行き方向に延在する。図15に示されるように、ノズル加熱体43のブロック71をノズル奥行き方向に沿ってみたとき、発熱体70は、ノズル加熱体43の中心Eよりもスプライサノズル28側に寄って配設される。この発熱体70は、例えばニクロム線などによって形成され、図14に示されるように、発熱体70へ電力を供給するための電力供給線73が接続される。
【0048】
上記のブロック71は、ジュラルミンにより形成される。
【0049】
上記の密閉空間72は、ノズル加熱体43に背面側から長孔を非貫通状に穿設し、この長孔の開口をシール部材74で閉塞することで形成され、従って、この密閉空間72は、ブロック71内でノズル奥行き方向に延びる。発熱体70と密閉空間72は平行の関係にある。この密閉空間72のノズル奥行き方向の長さは、上記発熱体70のノズル奥行き方向の長さよりも大きく設定される。また、ノズル加熱体43をノズル幅方向に沿ってみたとき、密閉空間72と発熱体70は重複関係とされる。詳しくは、ノズル加熱体43をノズル幅方向に沿ってみたとき、発熱体70は密閉空間72に包含される位置関係である。
【0050】
前述の筒孔43aは、本図に示されるように、ノズル加熱体43とスプライサノズル28との並設方向に対して平行となるように、ブロック71内に形成される。上記のブロック71と外ノズル42を適宜に位置合わせしたとき、この筒孔43aは、外ノズル42に形成されるメネジ孔42aと軸心が揃うようになっており、ブロック71の筒孔43aと、外ノズル42のメネジ孔42aと、を軸合わせした状態でボルト50を螺入することで、ブロック71が外ノズル42に対して押圧を伴って締結固定される。
【0051】
この構成で、発熱体70に対して電力供給線73を介して電力を供給すると、発熱体70が発熱し、この熱が、白抜き矢印Gで示すように、ブロック71と、合わせ面Fを通過して外ノズル42と、内ノズル41と、を順に介して、糸継室44の内壁面へ伝熱する。上記の押圧の方向は、白抜き矢印Gの指す方向と一致する。従って、ノズル加熱体43は、ノズル加熱体43から糸継室44へ向かう熱の流れの方向(白抜き矢印Gの指す方向)に沿った押圧を伴って、スプライサノズル28に対して固定される、と言うことができる。
【0052】
次に、発熱体70の発熱により生じた熱の流れについて詳しく説明する。図15を参照されたい。本図に示されるように、第一に、発熱体70は、ブロック71の中心Eよりもスプライサノズル28側に寄って配置され、第二に、スプライサノズル28と発熱体70を挟んで反対側には断熱効果のある密閉空間72が形成される。これらの特別な構造の相乗効果により、発熱体70からスプライサノズル28へ向かう熱の流れd1は、発熱体70から密閉空間72へ向かう熱の流れd2よりも著しく大きくなるようになっている。そして、発熱体70からスプライサノズル28へ向かう熱の流れd1は合わせ面Fを通過することとなるが、上述した押圧の作用により合わせ面Fにおけるエアギャップが少ない状態となっており、もって、上記の熱の流れd1が合わせ面Fをスムーズに通過できるようになっている。
【0053】
次に、前述したように上記の内ノズル41の主たる成分として炭化ケイ素を採用した技術的意義について説明する。図16を参照されたい。図16は、内ノズル内の温度分布のシミュレーション結果を示すグラフである。このシミュレーションの主たる目的は、内ノズル41内の温度勾配、温度ムラを検証することにある。
【0054】
以下、上記のシミュレーションについて説明する。上記シミュレーションは、ノズル加熱体43を熱源とした場合のスプライサノズル28の温度分布を解析するものであって、三次元FEMを用いている。内ノズル41の主たる成分として、(a)アルミナ(熱伝導率λ=29W/m・K)、(b)炭化ケイ素(熱伝導率λ=75W/m・K)、(c)真鍮(熱伝導率λ=117W/m・K)、(d)炭化ケイ素(熱伝導率λ=150W/m・K)、の4種類を採用した。上記(a)〜(d)は、グラフ中の符号a〜dに対応している。外ノズル42の主たる成分は、ジュラルミン(熱伝導率λ=120W/m・K)とした。ノズル加熱体43の主たる成分は、ジュラルミンとした。内ノズル41、外ノズル42、ノズル加熱体43の各形状は、本図に示される通りである。境界条件については以下の通りとした。即ち、発熱体70において発熱し、ノズル加熱体43とスプライサノズル28の外表面から大気中へ自然対流によって放熱する。グラフ中の温度データとしては、スプライサノズル28の平面視においては本図符号Mで示される二点鎖線上に、スプライサノズル28の正面視においては上下方向中央に、相当する要素の節点温度の代表値を採用した。発熱体70からの発熱量(W)は、スリット45近傍の温度の平均値が概ね63.5℃となるように設定した。室温として22℃を採用した。上記グラフの縦軸は温度[℃]であり、横軸はグラフの下方に示したスプライサノズル28やノズル加熱体43の位置に対応している。また、グラフ中の太線は、試作品での実測値を意味する。この試作品では、内ノズル41の主たる成分はアルミナ(熱伝導率λ=29W/m・K)とし、外ノズル42は亜鉛製(熱伝導率λ=98W/m・K)とし、ノズル加熱体43はジュラルミン製とした。この実測は、室温22℃の環境下で行われた。上記のグラフによると、ノズル幅方向におけるスリット45の前後で著しい温度降下が認められる。これは、符号Gで示される熱の流れの流路断面積が、スリット45の位置において著しく減少しているからである。
【0055】
<比較例a>
それでは、先ず、符号aで示される比較例を参照されたい。この比較例では、内ノズル41の主たる成分として熱伝導率λの低いアルミナを採用している。このため、内ノズル41内における温度勾配が大きく、しかも、上記の流路断面積の減少に伴う温度降下の影響が顕著に発現している。更に、上記温度勾配の存在のため、内ノズル41内の温度を概ね63.5℃程度確保するには、発熱体70の発熱量を大きく設定しなければならず、結果として、発熱体70近傍の温度が著しく高くなっている。
【0056】
次に、図中の太線で示す実測値を参照されたい。この実測値によれば、内ノズル41の主たる成分としてアルミナを採用すると、ノズル幅方向における温度勾配が著しいことが判る。この実測値は、符号aで示される上記の比較例に係るシミュレーション結果と定性的に概ね一致した。
【0057】
<実施例b、d>
次に、符号b、dで示される実施例を参照されたい。これらの実施例では、内ノズル41の主たる成分として熱伝導率λの高い炭化ケイ素を採用しているので、内ノズル41内における温度勾配が上記比較例と比較して小さく、また、上記の流路断面積の減少に伴う温度降下の影響も比して小さい。従って、内ノズル41内の温度ムラが上記比較例と比較して大幅に抑えられている。これらの優れた結果は、内ノズル41の主たる成分として、熱伝導率λの高い材料を採用しているからだと考えられる。
【0058】
<比較例c>
次に、符号cで示される比較例を参照されたい。この比較例では、内ノズル41の主たる成分として熱伝導率λの高い真鍮を採用しているので、グラフ上では、上記の符号b、dで示される実施例の結果と比較して遜色ない。しかし、内ノズル41の主たる材料として金属を採用しているので、紡績糸との摩擦により損耗し易く、寿命の面で、上記実施例と比較して劣る。
【0059】
次に、加熱装置22からスプライサノズル28に至るまでの間の圧縮空気の経路に関して詳細に説明する。図17を参照されたい。図17は、圧縮空気の経路説明図である。図17(a)はスプライサノズル28等の平面図であり、図17(b)はスプライサノズル28等の正面図である。
【0060】
本図(a)に示されるように上記実施形態に係るスプライサノズル28は、糸継部7aのフレーム34に対して図略のボルトによって締結固定され(図2や図3も併せて参照)、スプライサノズル28の背面28bはフレーム34と向かい合って当接する関係とされる。この状態で、本図(a)に示されるように、加熱装置22で加熱された圧縮空気をスプライサノズル28に導入するための低圧側第二ユニットパイプ19aは、スプライサノズル28の側面28aに接続される。この側面28aは、ノズル加熱体43と内ノズル41を挟んで反対側の、スプライサノズル28の側面である。
【0061】
詳しくは、以下の通りである。即ち、上記の低圧側第二ユニットパイプ19aは、スプライサノズル28の側面28aに開口する前述のストレート孔49の入り開口49aに接続される。この低圧側第二ユニットパイプ19aは、本図(b)に示される巻取ユニット1の正面視において、一点鎖線で略示する紡績糸Yの糸道に対して直角の方向に延びる直角延在部19bと、紡績糸Yの糸道に対して平行の方向に延びる垂直延在部19cと、から構成される。この直角延在部19bは、本図(a)に示すように、上記の入り開口49aを起点とし、徐々に巻取ユニット1の背面側へ向かうように円弧を描いて湾曲する。同様に、垂直延在部19cも円弧を描いて湾曲し、直角延在部19bに対して滑らかに接続する。そして、低圧側第二ユニットパイプ19aのうち直角延在部19bがスプライサノズル28の側面28aに対して接続する。
【0062】
糸継室44内に噴射される圧縮空気を加熱するための上述の加熱装置22は、符号Yで示されるように、二点鎖線で略示するスプライサ本体7Aから若干離間して配設される。加熱装置22がスプライサ本体7Aから離間して配設されるとは、即ち、スプライサ本体7Aを構成する各部材のすべてから離間して配設されることを意味する。ここで、各部材とは、少なくとも、図2に示される糸継部7a、カム機構7b、カムボックス7cを含む。ただし、スプライサ本体7Aがカムボックス7cを備えない構成においては、各部材とは、少なくとも、図2に示される糸継部7a、カム機構7bを含む。
【0063】
そして、加熱装置22とスプライサノズル28を接続する上記の低圧側第二ユニットパイプ19aには、加熱装置22からスプライサノズル28に至るまでの間、他の部材に接触しないような経路が採用される。ここで、他の部材とは、少なくとも、スプライサ本体7Aを構成する糸継部7a、カム機構7b、カムボックス7cを含む。ただし、スプライサ本体7Aがカムボックス7cを備えない構成においては、他の部材とは、少なくとも、スプライサ本体7Aを構成する糸継部7a、カム機構7bを含む。
【0064】
(まとめ)
以上説明したように上記実施形態においてスプライサ7は、以下のように構成される。即ち、スプライサ7は、糸継が行われる糸継室44が形成される内ノズル41と、この内ノズル41を収容する外ノズル42と、から構成され、糸継室44内に圧縮空気を噴射するために糸継室44の内壁面(51a等)に開口する流体噴射通路(49等)が形成される、スプライサノズル28を備える。外ノズル42には、スプライサノズル28を加熱するためのノズル加熱体43が設けられる。内ノズル41は、炭化ケイ素を主成分として形成される。このように、スプライサノズル28にノズル加熱体43を設け、このノズル加熱体43によってスプライサノズル28を加熱する構成では、ノズル加熱体43から離れる方向に沿って強い温度勾配が形成される。この温度勾配は、上記の内ノズル41においても形成され得る。そこで、内ノズル41の主たる成分として、高い熱伝導率を有する炭化ケイ素を採用することで、内ノズル41内の温度勾配、温度ムラ(以下、単に温度勾配と称する。)を抑えることができ、しかも、内ノズル41に要求される高い耐摩耗性も損なうことがない。また、内ノズル41内の温度勾配が抑えられるので、内ノズル41全体を十分に加熱しつつ、ノズル加熱体43の発熱量を低減できる。
【0065】
上記のスプライサ7は、更に、以下のように構成される。即ち、内ノズル41には、糸継室44が二つ形成される。二つの糸継室(51,52)は、糸継の際に同時に用いられるものである。二つの糸継室(51,52)は、図10に示されるように、ノズル加熱体43からの距離が互いに異なる。このように、糸継の際に同時に用いられる二つの糸継室(51,52)が、ノズル加熱体43から異なる距離の位置に形成される場合、二つの糸継室(51,52)の内壁面(51c,52cなど)の間には、強い温度差が生じる。このように、二つの糸継室(51,52)の内壁面(51c,52cなど)に温度差が生じると、糸継によって形成される継ぎ目の品質が安定しない。そこで、内ノズル41の主たる成分として、高い熱伝導率を有する炭化ケイ素を採用することで、内ノズル41内の温度勾配が抑えられ、二つの糸継室(51,52)の内壁面(51c,52cなど)の間に生じる温度差を低減でき、もって、継ぎ目の安定した品質の実現に寄与する。
【0066】
上記のスプライサ7は、更に、以下のように構成される。即ち、ノズル加熱体43から離れる方向における二つの糸継室(51,52)の間に、二つの糸継室(51,52)を外部に連通させるためのスリット45が形成される。この構成では、二つの糸継室(51,52)間における熱の流路の断面積がスリット45の存在により小さく、二つの糸継室(51,52)の内壁面(51c,52cなど)の間には、一層強い温度差が生じる。上述の温度差を低減する効果は、上記のスリット45が形成される構成において一層有意義である。
【0067】
上記のスプライサ7は、更に、以下のように構成される。即ち、上記のスプライサ7は、上記の圧縮空気をスプライサノズル28に導入する前に加熱する加熱装置22を備える。以上の構成によれば、糸継時の紡績糸Yの繊維が柔らかくなるので、強力な継ぎ目強度が得られる。
【0068】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、上記の実施形態は以下のように変更して実施することができる。
【0069】
上記実施形態において内ノズル41は、紡績糸YがZ撚りであることを想定して構成した。しかし、これに代えて、内ノズル41は、紡績糸YがS撚りであることを想定して構成してもよい。この場合、図8(b)に示される第二平面部51cの法線方向Tを、噴射方向Uを基準として時計回りではなく反時計回りに回転して傾斜させ、もって、図11(a)に示される旋回流qの旋回方向を逆転させると共に、図9(b)に示される第二平面部52cの法線方向Vを、噴射方向Wを基準として反時計回りではなく時計回りに回転して傾斜させ、もって、図11(b)に示される旋回流sの旋回方向を逆転させる構成を採用すればよい。この構成によれば、各糸端部Y1t、Y2tの先端の繊維の、他方の糸端部Y2t、Y1tに対する巻き方向がS巻きとなるので、図13(b)に示されるような、紡績糸の撚り方向と繊維の巻き付き方向とが一致した良好な外観が実現される。
【0070】
また、上記実施形態では、糸継用の流体として圧縮空気を採用したが、これに代えて、空気と液体の混合体などを採用することもできる。即ち、糸継室44内に噴射される圧縮空気に例えば水などの液体を混合させる液体混合手段をスプライサ7(又は、巻取ユニット1、或いはオートワインダ100)に設ける。このような混合体を採用することによって、継ぎ目の強度が向上すると共に、継ぎ目における毛羽の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本願発明の一実施形態に係るオートワインダが備える巻取ユニット(糸巻取装置)の側面図
【図2】スプライサ装置の斜視図
【図3】スプライサ装置の糸継部の斜視図
【図4】スプライサ装置の動作の説明図
【図5】スプライサノズルの斜視図
【図6】図5に類似する図であって、スプライサノズルの分解図
【図7】内ノズルの平面図
【図8】図7(b)の8a−8a線矢視断面図
【図9】図7(b)の9a−9a線矢視断面図
【図10】スプライサノズルの平面図
【図11】図8(b)及び図9(b)に相当する図
【図12】図7(c)に相当する図
【図13】継ぎ目をイメージした図
【図14】図5に類似する図であって、スプライサノズルの一部切欠き斜視図
【図15】図14に類似する図であって、スプライサノズルの一部切欠き斜視図
【図16】内ノズル内の温度分布のシミュレーション結果を示すグラフ
【図17】圧縮空気の経路説明図
【符号の説明】
【0072】
1 巻取ユニット
28 スプライサノズル
41 内ノズル
42 外ノズル
43 ノズル加熱体
44、51、52 糸継室
100 オートワインダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸継が行われる糸継室が形成される内ノズルと、この内ノズルを収容する外ノズルと、から構成され、前記糸継室内に流体を噴射するために前記糸継室の内壁面に開口する流体噴射通路が形成される、スプライサノズルを備えたスプライサ装置であって、
前記外ノズルには、前記スプライサノズルを加熱するためのノズル加熱体が設けられ、
前記内ノズルは、炭化ケイ素を主成分として形成される、
ことを特徴とするスプライサ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスプライサ装置であって、
前記内ノズルには、前記の糸継室が二つ形成され、
前記二つの糸継室は、糸継の際に同時に用いられるものであり、
前記二つの糸継室は、前記ノズル加熱体からの距離が互いに異なる、
ことを特徴とするスプライサ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のスプライサ装置であって、
前記ノズル加熱体から離れる方向における前記二つの糸継室の間に、前記二つの糸継室を外部に連通させるためのスリットが形成される、
ことを特徴とするスプライサ装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のスプライサ装置であって、
前記流体を前記スプライサノズルに導入する前に加熱する流体加熱手段を備える、
ことを特徴とするスプライサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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