説明

スプリングクラツチ

【目的】 電磁石への通電の制御によって、クラッチの接続動作と遮断動作を行なうスプリングクラッチで、電磁石の小型化を図る。
【構成】 電磁石7への一方向の通電で電磁石7側に移動するアマチュア6を吸引し、一方向の通電の遮断後も吸引状態を維持し、電磁石7への他方向への通電でその吸引状態を解除する永久磁石8を設ける。
【効果】 全体を小型化でき、電磁石の消費電力が少なく、発熱量が低減し、また、クラッチスプリングを使用した位置ずれのない高精度の間欠駆動が可能なスプリングクラッチを提供できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、複写機やファクシミリの給紙機構などに使用され間欠駆動を行なうスプリングクラッチに関する。
【0002】
【従来の技術】給紙機構では、用紙を所定量ずつ搬送するために、例えば、紙送りローラと駆動モータとの間の駆動経路途中にスプリングクラッチを使用している。
【0003】このスプリングクラッチは、入力側回転部材と、出力側回転部材と、該入力側回転部材及び出力側回転部材の周面に巻装されたクラッチスプリングとを備え、回転伝達時には、前記クラッチスプリングの締まりにより前記入力側回転部材の回転を前記出力側回転部材に伝達し、一方、回転遮断時には、前記クラッチスプリングの一端を係止することにより、前記クラッチスプリングを緩めて遮断するようにしてある。
【0004】そして、このスプリングクラッチ、例えば、電磁スプリングクラッチでは、出力側回転部材を半回転で回転・停止をさせるのは電気的時間設定を行なって制御するか、もしくは、ホール素子などのセンサーにて積算誤差が出ない方法で停止させるものである。
【0005】この種のスプリングクラッチは実開昭63−92832号公報に開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、前述電磁式スプリングクラッチでは、半回転毎の正確な停止角度を得るには、2つの突起を持ったクラッチスプリングの緩めを行なう制御筒を設けている。ところが、1方の突起にアマチュアを係止させるのを、電磁石のオフの状態とした場合、もう1方の突起にアマチュアを係止させるのは電磁石がオンの時となる。しかしながら、電磁石をオンのままとすると、電磁石の発熱を低く押える必要から、どうしても電磁石部分の体積が大きくなり、スプリングクラッチ全体として大きくなつてしまう。また、消費電力も多く、また、間欠駆動を行なっているうちに、停止角度(又は位置)のずれが生じていた。
【0007】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために、入力側回転部材と、出力側回転部材と、該入力側回転部材及び出力側回転部材の周面に巻装されたクラッチスプリングとを備え、回転伝達時には、前記クラッチスプリングの締まりにより前記入力側回転部材の回転を前記出力側回転部材に伝達し、一方、回転遮断時には、前記クラッチスプリングの一端を係止することにより、前記クラッチスプリングを緩めて遮断するようにしてなるスプリングクラッチにおいて、正逆両方向に通電の切換が可能な電磁石と、該電磁石から離れる方向にばね付勢され、前記電磁石への一方向の通電によって、前記電磁石側へ吸引されるアマチュアと、前記アマチュアと前記電磁石間に設けられた永久磁石とを備え、前記一方向の通電によって前記電磁石とともに、前記永久磁石により前記アマチュアを吸引し、前記一方向の通電の遮断後も前記永久磁石により前記アマチュアの吸引状態を保持し、前記電磁石への他方向の通電によって、前記アマチュアの前記吸引状態を解除し、ばね付勢力により電磁石から離れた状態を保持し、前記アマチュアを2位置に選択することにより、回転伝達、あるいは回転遮断を行なうようにした構成としてある。
【0008】
【作用】前記手段によると、電磁石への一方向の通電により、電磁石、アマチュア及び永久磁石を通る閉磁界が形成され、アマチュアは電磁石側に移動して、電磁石とアマチュア間に配設されている永久磁石に吸引される。そして、アマチュアの永久磁石への吸引は、一方向の通電を遮断しても維持され、電磁石への他方向の通電により、永久磁石の磁界が打ち消されアマチュアの永久磁石への吸引が解除される。
【0009】
【実施例】以下、本発明の実施例を図1ないし図6を参照して説明する。
【0010】ここで、図1は第1の実施例の構成を示す説明図、図2は図1のA−A断面図、図3は第1の実施例の動作の説明図、図4は第2の実施例の構成を示す説明図、図5は第2の実施例のアマチュアの説明図、図6は第3の実施例の要部の構成を示す説明図である。
【0011】第1の実施例では図1に示すように、軸20には、段部4aを有する二段軸状の従動アーバ4が嵌合され、この従動アーバ4の小径部の一端には、止め輪12で抜け止めされてギヤ1が嵌合されている。このギヤ1には軸芯を中心に凹部1aが形成され、さらに、小径部には駆動アーバ2が嵌装されて駆動アーバ2の一端が凹部1aに嵌合されている。駆動アーバ2のギヤ1側の端部と従動アーバ4の駆動アーバ2から離れた端部とが、軸受10,11でそれぞれ軸支されている。尚、軸20にはDカットが形成され、軸20と従動アーバ4とは一体に回転するようにしてある。
【0012】また、駆動アーバ2と従動アーバ4の大径部21の周面は同一径に設定されて、クラッチスプリング3が、その両端側をそれぞれ駆動アーバ2及び従動アーバ4に巻き締めた状態で配設されている。クラッチスプリング3の外側には、制御筒5が隙間を介して嵌装されていて、図1、図2に示すように、クラッチスプリング3のギヤ1側の一端部3aが、制御筒5の内周に設けたスリット5cに係止されている。この制御筒5の外周には、軸芯方向に位置をずらし(後述するアマチュアの揺動範囲の両端)且つ直径位置に係合突起5a,5bが突設している。制御筒5の外側にはアマチュア6が配されていて、このアマチュア6には、図2に示すように係合突起部5a,5bと係合する突起部6aが丸孔6bに形成され、また、支点となる切込み部6c,6c、並びにばね引掛部6dが形成されている。この丸孔6bには、制御筒5等が挿入されている。
【0013】一方、支持板25a、枠体25b,25cに取り囲まれて電磁石7が配設されていて、前記アマチュア6は切り込み部6cを支持板25aに嵌め込んで支点Xを中心に回動自在に支持され、アマチュア6のばね引掛部6dと枠体25b間には、戻しばね9が張設されている。さらに、アマチュア6と電磁石7間には、電磁石7にリング状の永久磁石8が固定されている。また、電磁石7のコイル7aには、図示せぬ制御手段から正あるいは逆方向に切換えて電流を供給可能になっていて、コイル7aに一方向の電流を供給する(永久磁石8と磁束方向が同じとなる)と、アマチュア6は支点Xを中心に回動して電磁石7と永久磁石8により吸引され、コイル7aへの電流の供給を断ってもアマチュア6が永久磁石8に吸引された状態が維持されるようになっている。そして、コイル7aに他方向の電流を供給すると、永久磁石8の磁力が弱められて戻しばね9によりアマチュア6は永久磁石8から離れ、アマチュア6は支点を中心に回動して図1で左に傾いた位置に復帰するようになっている。
【0014】アマチュア6が永久磁石8に吸引された状態(図1で1点鎖線で示す)で、アマチュア6の突起部6aが、制御筒5の突起部5bと係止可能で、また、アマチュア6が永久磁石8への吸引を解除された状態(図1R>1で2点鎖線で示す)では、アマチュア6の突起部6aが、制御筒5の突起部5aと係止可能に構成されている。そして、アマチュア6の突起部6aが、制御筒5の突起部5a、あるいは5bと係止した状態で、ギヤ1が駆動されて駆動アーバ2が回動すると、クラッチスプリング3の一端3aが、停止している制御筒5に係止されているために、駆動アーバ2の回動に伴なってクラッチスプリング3の一端側の駆動アーバ2への巻き締めが解除され(締まらない)、駆動アーバ2と従動アーバ4とが切り離されたままとなっている(クラッチの断状態)。
【0015】次に、このように構成した第1の実施例の動作を説明する。
【0016】例えば、図2に示すようにアマチュア6の突起部6aが、制御筒5の突起部5aと係止された状態(クラッチの断状態)から動作が開始するものとする。ギヤ1が回転している状態で、制御手段(図示せず)から電磁石7のコイル7aに一方向の電流を供給すると、図3に示すように電磁石7により形成される磁界によって、支持板25a、枠体25b,25c、アマチュア6及び永久磁石8で形成される磁路を通る閉磁界が生成され、アマチュア6は支点Xを中心に戻しばね9に抗して回動し、突起部5aとの係合が解除されて永久磁石8に吸引される。この解除によって駆動アーバ2の回転に伴なってクラッチスプリング3が巻き締まり、駆動アーバ2及び従動アーバ4が巻き締められてクラッチ接続状態になる。したがって、従動アーバ4が回動し従動アーバ4に結合された軸20が回転する。このような駆動アーバ2及び従動アーバ4の回転とともに、クラッチスプリング3及び制御筒5も一体に回転し、上述のクラッチ接続状態となってから半回転すると、制御筒5の突起部5bが、右側に傾いているアマチュア6(1点鎖線で示す)の突起部6aに達して係合する。すると、突起部5aが係合した場合と同様にクラッチスプリング3が緩み、クラッチが断状態となる。
【0017】その後、制御手段によって電磁石7のコイル7aに他方向の電流を供給して永久磁石8、アマチュア6、枠体25c,25b,25aで形成される磁路に図3とは逆向きの閉磁界を生成し、永久磁石8の磁界を打ち消す。このために、アマチュア6は戻しばね9のばね力によって、支点Xを中心に回動し突起部5bとの係止が解除されて左傾倒位置に至るとともに、クラッチ接続状態となって従動アーバ4を回転させる。そして、上述と同様に、従動アーバ4の回動が進んで半回転すると、制御筒5の突起部5aが、アマチュア6の突起部6aに係止し、再びクラッチスプリング3の一端側の駆動アーバ2への巻き締めが解除され、クラッチ遮断状態になって従動アーバ4並びに軸20は停止する。
【0018】このようにして、第1の実施例によると、永久磁石8を介在させているので、電磁石7への通電時間はアマチュア6を永久磁石8に吸引させるまでの短時間(数十msec)でよく、消費電力を削減でき、コイル7aからの発熱量も低減され、また、電磁石7が小型で済むので全体を大幅に小型化できる。また、クラッチスプリング3を使用しているので、位置ずれのない高精度の間欠駆動を行なえる。
【0019】図4及び図5は第2の実施例の構成を示す、この第2の実施例では第1の実施例の制御筒5を使用せず、アマチュア30自体にスリット30aを設けてクラッチスプリング3の一端が係止され、クラッチスプリング3の回転に伴なってアマチュア30も回転されているとともに、アマチュア30は軸20の軸方向に移動可能になっている。そして、アマチュア30が移動してもクラッチスプリング3の一端がスリット30aから外れないように設定してある。このアマチュア30と電磁石7との間にはリング状の戻しばね31が配設されている。この第2の実施例では、任意の位置で、電磁石7のコイル7aに一方向の電流を供給すると、アマチュア6が戻しばね31のばね力に抗して右方向に移動して永久磁石8に吸引され、アマチュア6が固定されてクラッチスプリング3の一端も同時に固定される。したがって、駆動アーバ2が回転すると、クラッチスプリング3の一端の巻き締めが解除されるために、クラッチ遮断状態となり駆動アーバ2の回転力は従動アーバ4に伝達されない。一方、任意の位置で、電磁石7のコイル7aに他方向の電流を供給すると、永久磁石8の磁力が弱められ、アマチュア6は戻しばね31のばね力で左方向に移動し、クラッチスプリング3の固定が解除される。この状態で、駆動アーバ2が回転すると、クラッチスプリング3の一端側は駆動アーバ2に巻き締められるので、クラッチ接続状態となって駆動アーバ2の回転が従動アーバ4に伝達される。
【0020】このように第2の実施例では、電磁石7のコイル7aに一方向の電流を供給すると従動アーバ4の回動が停止し、他方向の電流を供給すると従動アーバ4が回動し、所定の電流の切換動作を行なうことにより、従動アーバ2に結合された出力軸を任意の角度で間欠駆動することができる。
【0021】図6は第3の実施例の要部の構成を示し、この第3の実施例ではクラッチスプリング3の一端が係止され、クラッチスプリング3と共に回動する回転体33を設け、この回転体33と摩擦接触するアマチュア32が軸方向に移動自在に配設されている。
【0022】第3の実施例では、任意の位置で、電磁石7のコイル7aに一方向の電流を供給すると、戻しばね31のばね力に抗してアマチュア32が移動して永久磁石8に吸引され、一方、回転体33はクラッチスプリング3と一体的に回動自在な状態となっており、クラッチスプリング3の一端側は駆動アーバ2に巻き締められるので、クラッチ接続状態となる。また、電磁石7のコイル7aに他方向の電流を供給すると、永久磁石8の磁界が打ち消され戻しばね31のばね力によって、アマチュア32が回転体33と摩擦接触すると、回転体33の回動が阻止されるためにクラッチスプリング3の一端側の駆動アーバ2への巻き締めが解除され、駆動アーバ2の回動は従動アーバ4に伝達されずクラッチ遮断状態となる。
【0023】従って、第3の実施例では、電磁石7のコイル7aに一方向の電流を供給すると従動アーバ4が回動し、他方向の電流を供給すると従動アーバ4の回動が停止し、所定の電流の切換動作を制御手段で行なうことにより、従動アーバ4に結合された出力軸を任意の位置で間欠駆動することができる。
【0024】これら第2及び第3の実施例は、特に、ON duty(作動割合い)の大きいクラッチ動作で、消費電力の削減、全体の小型化、コイルからの発熱量の低減を実現できる。
【0025】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、消費電力を削減し、電磁石のコイルからの発熱量を低減でき、また、位置ずれのない高精度の間欠駆動が可能なスプリングクラッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例の構成を示す説明図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本発明の第1の実施例の動作の説明図である。
【図4】本発明の第2の実施例の構成を示す説明図である。
【図5】第2の実施例のアマチュアを示す説明図である。
【図6】本発明の第3の実施例の要部の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
1 ギヤ
2 駆動アーバ
3 クラッチスプリング
4 従動アーバ
5 制御筒
6,30,32 アマチュア
7 電磁石
8 永久磁石
9,31 戻しばね
33 回転体

【特許請求の範囲】
【請求項1】 入力側回転部材と、出力側回転部材と、該入力側回転部材及び出力側回転部材の周面に巻装されたクラッチスプリングとを備え、回転伝達時には、前記クラッチスプリングの締まりにより前記入力側回転部材の回転を前記出力側回転部材に伝達し、一方、回転遮断時には、前記クラッチスプリングの一端を係止することにより、前記クラッチスプリングを緩めて遮断するようにしてなるスプリングクラッチにおいて、正逆両方向に通電の切換が可能な電磁石と、該電磁石から離れる方向にばね付勢され、前記電磁石への一方向の通電によって、前記電磁石側へ吸引されるアマチュアと、前記アマチュアと前記電磁石間に設けられた永久磁石とを備え、前記一方向の通電によって前記電磁石とともに、前記永久磁石により前記アマチュアを吸引し、前記一方向の通電の遮断後も前記永久磁石により前記アマチュアの吸引状態を保持し、前記電磁石への他方向の通電によって、前記アマチュアの前記吸引状態を解除し、ばね付勢力により電磁石から離れた状態を保持し、前記アマチュアを2位置に選択することにより、回転伝達、あるいは回転遮断を行なうようにしたことを特徴とするスプリングクラッチ。
【請求項2】 前記入力側回転部材を1回転中に前記アマチュアを移動して所定角度毎に回転を遮断させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のスプリングクラッチ。
【請求項3】 前記入力出力側回転部材を複数回転中に1回前記アマチュアを移動させて回転を遮断するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のスプリングクラッチ。
【請求項4】 前記アマチュアは支持板によって揺動自在に支持されており、前記電磁石への通電で形成される磁界の磁路を、前記支持板及びアマチュアが構成していることを特徴とする請求項1の記載のスプリングクラッチ。
【請求項5】 前記アマチュアにクラッチスプリング係止部を設け、前記回転遮断時には前記アマチュアを吸引することにより前記クラッチスプリングの一端を直接係止するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のスプリングクラッチ。
【請求項6】 前記クラッチスプリングの一端を係合してある回転制動板を、前記アマチュアに対向して設け、回転伝達時には、前記アマチュアを電磁石方向に吸引して前記回転制動板から離し、一方、吸引を解除してばね付勢力により前記アマチュアを前記回転制動板に圧接させて前記回転制動板の回転を停止させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のスプリングクラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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