説明

スポットピン、スポット装置、液体の点着方法、および生化学解析用ユニットの製造方法

【課題】点着時の先端部の変形を低減し、試薬の点着形状を安定させることのできるスポットピン、スポット装置を提供する。
【解決手段】液体を保持するための液体保持空間21を規定する筒状部を有する液体保持部16を含んでなるスポットピンであって、液体保持部16は、前記筒状部の一端面に、液体を点着対象面に接触させる点着面18を有するとともに、前記筒状部の軸方向において、点着面18から前記筒状部の内部まで延びる単一のスリット部17を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点着対象面に対して液体を点着するためのスポット装置、このスポット装置に用いるスポットピン、このスポットピンを用いた液体の点着方法および生化学解析用ユニットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DNAの塩基配列の解析を行う方法として、バイオチップなどの生化学解析用ユニットを用いる方法がある(たとえば特許文献1参照)。バイオチップは、基板に対して塩基配列が既知のプローブDNAをスポット状に固定化したものである。このようなバイオチップでは、蛍光物質で標識したサンプルDNAと接触させることにより、サンプルDNAに含まれるプローブDNAの相補鎖DNAがプローブDNAと結合する。そのため、プローブDNAに結合していないDNAを洗浄により除去し、相補鎖DNAに標識させた蛍光物質を光エネルギで励起させて、その励起光を検出することにより、目的とするDNAの検出を行うことができる。
【0003】
上述のように、バイオチップにおいては、基板に対してプローブDNAが固定化されているが、その固定化に際して、基板に対してプローブDNAを含む試薬が点着される。試薬の点着には、試薬を保持するための複数のスポットピンをヘッドに保持させたスポット装置が使用されている。
【0004】
図9は、一般的なスポット装置のヘッド周りの要部を示すものであり、ヘッド30は複数のスポットピン31が保持されている。各スポットピン31は、毛細管力を作用させる内部空間32を有するパイプ状に形成されたものである。このスポットピン31では、試薬にスポットピン31の先端部を浸漬することにより、内部空間32に作用する毛細管力によって内部空間32に試薬が吸引・保持される。図10は、スポットピン31を示すものであり、(a)が正面図、(b)がスポットピン31の先端面の平面図である。スポットピン31は、図10に示すように、内部空間32を形成するために、スリット33が設けられている。
【特許文献1】特開2004−354123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されたスポットピンは、先端面において、対向する外壁部を完全に貫通するようにスリットが形成されているため、先端面を基板に対して繰り返し点着させると、当該スリットの部分が開くように外側に広がり、先端面の開口径が必要以上に大きくなり、良好な点着ができなくなる場合があった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、細径のスポットピンであっても、点着時の先端部の変形を低減し、試薬の点着形状を安定させることのできるスポットピン、これを用いたスポット装置および液体の点着方法、ならびに生化学解析用ユニットの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のスポットピンは、液体を保持するための液体保持空間を規定する筒状部を有する液体保持部を含んでなるスポットピンであって、前記液体保持部は、前記筒状部の一端面に、液体を点着対象面に接触させる点着面を有するとともに、前記筒状部の軸方向において、前記点着面から前記筒状部の他端面に向かって延びる単一のスリット部を有することを特徴としている。
【0008】
本発明のスポット装置は、本発明に係るスポットピンと、前記スポットピンを軸方向に移動させるための移動機構と、前記移動機構の動作を制御するための制御部と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明の液体の点着方法は、本発明に係るスポットピンにおける液体保持空間に液体を保持させる工程と、前記スポットピンの点着面を点着対象面に接触させた後に、前記点着対象面から前記点着面を離間させ、前記液体保持空間の液体を前記点着対象面に点着する点着工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の生化学解析用ユニットの製造方法は、基体に試薬を固定化した生化学解析用ユニットの製造方法であって、本発明に係るスポットピンにおける液体保持空間に試薬を保持させる工程と、前記スポットピンの点着面を前記基体の表面に接触させた後に、前記基体から前記点着面を離間させ、前記液体保持空間の試薬を前記基板の表面に点着する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るスポットピン、スポット装置、液体の点着方法、および生化学解析用ユニットの製造方法によれば、スポットピンの点着面(液体保持部の筒状部の一端面)から液体保持部の筒状部の内部まで延びるスリット部を単一のものとしたため、点着面付近の強度を向上させることができる。その結果、本発明に係るスポットピン、スポット装置、液体の点着方法、および生化学解析用ユニットの製造方法によれば、点着動作を繰り返しても、スリット部の幅の拡がりを低減することができるため、点着される液体の点着形状を安定化することができる。
【0012】
また、本発明において、前記スリット部を点着面側から第1スリット部と第2スリット部とを有するようにして、第1スリット部の幅を第2スリット部の幅よりも小さくすることにより、第1スリット部が形成された点着面付近の毛細管力を強めて液体の保持力を高め、一方で、第2スリット部の幅を大きくすることによって該第2スリット部が形成されている液体保持空間21付近の毛細管力を弱めることができる。その結果、このような構造によれば、点着面からの液もれを低減するとともに、液体保持部の軸方向に沿って液体保持空間の毛細管力を調整することができるため、過度な毛細管力の発現によって生じるエアギャップの発生を低減することができる。
【0013】
さらに、第1スリット部を点着面に向かって、漸次、第1スリット部の幅が小さくなるようなテーパ形状とすることにより、点着面付近の毛細管力をより強めることができる。その結果、このような構成によれば、点着面からの液もれを低減でき、さらにはスポットピンの上方側の液体保持部で保持された液体を、毛細管力が強まった第1スリット部に対応する液体保持部に促すことができるため、液体の点着が容易になる。
【0014】
また、液体保持部の一部を成す前記筒状部の軸方向における第1スリット部の長さを第2スリット部の長さに比べて短くすることにより、第2スリット部に対応する液体保持空間の体積に比べ、第1スリット部に対応する液体保持空間の体積が小さくなる。その結果、このような形態によれば、第1スリット部付近の毛細管力を弱めることができるため、点着を繰り返すことによってスポットピンに入っている液体が少なくなった場合であっても、液体保持空間に残存する液体をより少なくでき、液体保持空間で保持した液体をほぼ使いきることが可能となる。
【0015】
さらに、スポットピンの全体をジルコニアセラミックスで形成することにより、スポットピンの全体において機械的強度と弾性変形性を充分に確保することができるため、繰り返しの点着において作用する大きな負荷に対しても充分な耐久性を有することとなる。したがって、長期にわたってスポットピン自体の破損などが生じるのを抑制することができるとともに、スポットピンの端部の形状変化を抑制することができるため、長期にわたり安定した点着形状や点着直径を維持することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について、第1〜第3の実施の形態として、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
まず、本発明の第1の実施の形態について、図1〜図6を参照しつつ説明する。
【0018】
図1に示したスポット装置1は、プローブDNAを含む試薬Qを基板7における目的部位に点着するためのものであり、複数のスポットピン2(図面上は6つ)、ヘッド3、液体供給機構4、Z軸駆動機構5、XY軸駆動機構6、ステージ8、制御部11、点着液保持部9、および洗浄部10を備えている。
【0019】
図2および図3に示したように、各スポットピン2は、点着すべき試薬などの液体Q(図3参照)を内部に保持させるためものであり、係止部12、液体保持部16、スリット部17、点着面18、筒状穴22を有している。
【0020】
係止部12は、ヘッド3にスポットピン2を支持させる際に利用される部分であり、他の部分よりも外形寸法が大きくなされている。
【0021】
液体保持部16は、図4に示すように、毛細管力を作用(発現)させ、かつ液体Qを吸引・保持するものであり、一様な外径寸法を有する円筒状に形成されている。なお、液体保持部16は、毛細管力を作用させるような筒状穴22を備えた筒状部を有していればよく、たとえば外形が角柱形状であってもよい。
【0022】
スリット部17は、液体保持部16の一部に1つだけ形成されており、液体保持部16の一端面、すなわち点着面18から液体保持部16の軸方向に向かって延びている。このスリット部17は、液体保持部16の外周面に開口するように形成されている。それゆえ、スリット部17が形成されている液体保持部16の液体保持空間21は、スリット部17が形成されていない部位に比べて液体と接触する表面積が大きくなっているため、毛細管力が作用しやすくなっている。すなわち、スリット部17は、液体保持部16の毛細管力を高める機能を有している。具体的に、点着面18から吸い上げられる液体は、液体保持部16の筒状穴22で規定される液体保持空間21およびスリット部17で規定される空間でもって保持される。また、スリット部17は、液体保持部16において、点着面18から、点着面18の反対側の端面(他端面)まで形成されていてもよいが、液体保持部16の全長に対して10〜50%であれば、液体の保持力および点着容易性をより高めることができる。また、スリット部17の幅は、液体保持部16の直径に対して、2〜30%であればよい。
【0023】
点着面18は、点着対象物7の目的部位に液体Qを点着する際に、点着対象物7の目的部位に接触させるための部位であるとともに、目的部位との間に作用する毛細管力により点着される液体Qの形状およびスポット径を規定するための部位である。この点着面18は、円環状に形成されており、その外径D1は、たとえば0.1mm〜0.5mmに設定されている。もちろん、点着面18の形状は、円環状に限定されず、他の形状を採用することができる。
【0024】
筒状穴22は、図3に示したように、とともに液体保持空間21を規定するものであり、円形の断面を有している。筒状穴22の断面形状として円形を採用した場合には、加工が容易であるという効果を奏する。もちろん、筒状穴22の断面形状は、円形に限らず、楕円形、半円形、三角形、四角形、多角形、星形など形状を採用することができる。筒状穴22の断面形状として半円形、三角形、四角形、多角形、あるいは星形を採用した場合には、角部における毛細管力が追加されるためにより適切に毛細管効果を得ることができ、筒状穴22の断面形状として楕円形を採用した場合には角部を有する形態に比べて加工が容易である上に円形状の形態に比べて毛細管効果を得る上で有利となる。
【0025】
このように、本実施の形態では、スポットピン2の点着面18(液体保持部の筒状部の一端面)から液体保持部16の筒状部の内部まで延びるスリット部17を単一のものとしたため、点着面18付近の強度を向上させることができる。その結果、本実施の形態によれば、点着動作を繰り返しても、スリット部17の幅の拡がりを低減することができるため、点着される液体の点着形状を安定化することができる。
【0026】
また、このようなスポットピン2は、セラミック材料を用いて目的形状に成型した後、これを焼成することにより形成することができる。このようなセラミック材料としては、たとえばジルコニアセラミックスおよびアルミナセラミックスを挙げることができるが、強度や弾性変形性の観点から、ジルコニアセラミックスを使用するのが好ましい。もちろん、スポットピン2は、セラミックス以外の材料、たとえばステンレスやガラスを用いて形成することもできる。
【0027】
また、スポットピン2は、透光性を有するものとしてもよい。透光性を有するスポットピン2は、たとえばジルコニアセラミック材料を用いてスポットピン2の肉厚を0.03〜0.5mmに設定することにより、あるいはガラス材料を用いることにより形成することができる。ここで、液体保持部16における透光性を有する部位という場合の「透光性」とは、目視により液体保持部16における液体Qの存在(量)を確認できる特性を意味している。このような透光性は、液体保持部16の少なくとも一部を、たとえば視感透過率を3%以上とすることにより達成することができる。このようにしてスポットピン2に透光性を付与した場合には、液体保持部16に保持された液体Qの高さや位置(量)を容易に確認できるため、吸い上げ工程や点着工程での工程管理、品質管理が可能になる。
【0028】
また、透光性を有する部分をジルコニアセラミックスで形成し、その肉厚を0.03〜0.5mmの範囲に設定すれば、液体保持部16に保持された液体Qの高さや位置(量)を充分に視認できるのに加え、スポットピン2自体の機械的強度と弾性変形性を充分に確保できる。さらに、スポットピン2の全体をジルコニアセラミックスで形成する場合は、スポットピン2の全体において機械的強度と弾性変形性を充分に確保することができるため、繰り返しの点着において作用する大きな負荷に対しても充分な耐久性を有することとなる。したがって、長期にわたってスポットピン2自体の破損などが生じるのを抑制することができるとともに、スポットピン2の先端部の形状変化が抑制することができるため、長期にわたり安定した点着形状や点着直径を維持することができるようになる。
【0029】
図1および図2に示したように、ヘッド3は、複数のスポットピン2を保持するためのものであり、一対のプレート13,15の間に一対のスペーサ14,19を介在させ、一対のプレート13,15との間の距離を規定した構成を有している。プレート13にはさらに、Z軸駆動機構5にヘッド3を接続するためのブロック20が固定されている。各プレート13,15には、液体保持部16が挿通される複数の貫通孔が形成されている。このようなヘッド3では、プレート13における貫通孔の周辺部にスポットピン2の係止部12が係止され、かつプレート13,15のそれぞれの貫通孔に挿通された状態でスポットピン2が保持される。すなわち、各スポットピン2は、ヘッド3に対してZ方向に相対移動可能な状態で保持される。
【0030】
図1に示したZ軸駆動機構5は、ヘッド3ひいてはヘッド3に保持された複数のスポットピン2をZ方向(スポットピン2の軸方向)に移動させるためものであり、ヘッド3に対してブロック20(図2参照)を介して連結されている。このZ軸駆動機構5は、公知の機構により構築することができる。
【0031】
XY軸駆動機構6は、ヘッド3ひいてはヘッド3に保持された複数のスポットピン2をXY方向に移動させるためものであり、Z軸駆動機構5に連結されている。このXY軸駆動機構6もまた、公知の機構により構築することができる。
【0032】
ステージ8は、試薬が点着される複数の点着対象物7を載置するためのものであり、XY方向に移動可能に構成されている。ただし、ステージ8は、必ずしもXY方向に移動可能に構成する必要はない。
【0033】
制御部11は、液体供給機構4の開閉弁25の開閉を制御するとともに、Z軸駆動機構5、XY軸駆動機構6およびステージ8の動作を制御するものである。この制御部11は、たとえばCPU、ROMおよびRAMを備えた回路を含むものとして構成されている。
【0034】
点着液保持部9は、点着対象物7に点着する液体Qを保持するためのものであり、図1に示したように複数のスポットピン2の配置に対応させた複数の点着液保持槽9Aを有している。各点着液保持槽9Aに保持させる液体Qは、たとえばプローブDNAおよび溶媒を含む試薬である。プローブDNAは、ターゲットに対して特異的結合が可能物質である。ターゲットとしては、たとえば生体由来物質であるホルモン類、腫瘍マーカー、酵素、抗体、抗原、アブザイム、その他のタンパク質、核酸、cDNA、DNA、mRNAなどを生体から抽出、単離して採取し、化学的処理、化学修飾などの処理を施したものを挙げることができる。溶媒としては、プローブDNAに対して悪影響を及ぼすものでなければ特段の制限はないが、たとえば純水あるいはジメチルスルホオキサイドが使用される。
【0035】
もちろん、点着液保持部9に保持させるべき液体Qは、目的に応じて種々に変更可能であり、たとえばDNA以外のプローブを含む試薬を保持させることも可能である。またスポット装置1を試薬以外の液体を点着するのに使用する場合には、その目的に応じた液体を保持させた液体保持槽を有するカートリッジを使用することもできる。
【0036】
洗浄部10は、スポットピン2を洗浄するための洗浄液を保持したものである。この洗浄部10には、スポットピン2、とくに筒状孔22の内面およびスリット部17の側面に対する試薬の固着を抑制するための洗浄液が保持されている。洗浄液としては、純水、緩衝液あるいはアルコールが使用される。洗浄部10は、超音波を供給可能な構成であってもよく、超音波の供給によりスポットピン2を洗浄するようにしてもよい。洗浄後のスポットピン2を強制乾燥させるために、送風機や温風器を配置してもよい。
【0037】
次に、スポット装置1を用いた点着対象物7に対する液体Q(試薬)の点着動作、およびスポットピン2の洗浄動作について説明する。
【0038】
液体Qの点着動作は、スポットピン2の筒状孔22およびスリット部17に対する液体Qの吸引・保持工程、および液体Qの点着工程を含んでいる。
【0039】
図1および図4(a)に示したように、液体Qの吸引・保持工程は、スポットピン2の点着面18を、点着液保持槽9Aに保持させた液体Qに浸漬することにより行われる。
【0040】
より具体的には、まず、図1に示したXY軸駆動機構6を制御部11により制御し、各スポットピン2を対応する点着液保持槽9Aの直上に位置させる。次いで、Z軸駆動機構5を制御部11により制御し、図4(a)に示したように各スポットピン2を対応する点着液保持槽9Aの液体Qに一定時間浸漬させた後に引き上げる。このとき、点着面18を液体Qに浸漬させた場合には、筒状孔22およびスリット部17に作用する毛細管力により、液体保持空間21に液体Qが吸引され、それが液体保持空間21に保持された状態が達成される。
【0041】
図6に示したように、液体Qの点着工程は、点着対象物7の目的部位に対して、液体Qを保持させたスポットピン2を接触させた後に離間させることにより行われる。
【0042】
より具体的には、まず、XY軸駆動機構6を制御部11により制御し、各スポットピン2を点着対象物7における対応する目的部位の直上に位置させる。次いで、Z軸駆動機構5を制御部11により制御し、各スポットピン2を対応する目的部位に一定時間接触させた後に引き上げる。このとき、図6(a)および図6(b)に示すように、スポットピン2の点着面18を点着対象物7の目的部位に接触させると、液体保持空間21の液体Qの一部が点着対象物7における目的部位に接触し、点着面18と点着対象物7の目的部位との間に生じる僅かな隙間による毛細管作用によって、液体Qが点着面18の外径に相当する範囲まで広がる。次いで、図6(c)に示すように、スポットピン2を上昇させてスポットピン2を点着対象物7から離間させた場合には、点着対象物7の目的部位に点着面18の外径と略一致する直径の領域に液体Qが点着される。
【0043】
次に、スポットピン2の洗浄動作の一例について、図1および図5を参照しつつ説明する。まず、スポットピン2の洗浄に使用する液体供給機構4について説明する。
【0044】
図5に示したように、液体供給機構4は、スポットピン2における液体保持空間21に洗浄液などの液体Qを供給するものであり、XY軸駆動機構6に一体化されている。この液体供給機構4は、洗浄槽24、開閉弁25、およびチューブ26を備えている。
【0045】
洗浄槽24は、スポットピン2に供給するための洗浄液R、たとえばアルコールや純水を収容したものである。
【0046】
チューブ26は、洗浄槽24に収容された洗浄液Rをスポットピン2に供給するための流路を構成するものであり、洗浄槽24に接続され、かつスポットピン2のスリット部17の上部に接続可能とされている。すなわち、洗浄槽24の内部は、チューブ26を介してスポットピン2の液体保持空間21に連通可能とされている。
【0047】
開閉弁25は、洗浄槽24の内部が液体保持空間21に連通する状態と連通しない状態とを選択するためのもの、すなわち洗浄槽24に収容された洗浄液Rを液体保持空間21に供給できる状態と供給できない状態とを選択するためのものである。この開閉弁25は、チューブ26の途中に設けられている。
【0048】
この液体供給機構4では、チューブ26をスポットピン2におけるスリット部17の上部に接続した状態とし、開閉弁25を開けた状態とすることにより、液体保持空間21が洗浄槽24の内部と連通する。この状態では、洗浄槽24の洗浄液Rを、チューブ26を介して液体保持空間21に供給することができる。
【0049】
次いで、スポットピン2の洗浄動作において、より詳細に説明する。
【0050】
まず、ヘッド3の移動工程は、XY軸駆動機構6およびZ軸駆動機構5を制御部11により制御し、ヘッド3(スポットピン2)を液体供給機構4に向けて移動させ、図5(a)に示したように、スポットピン2のスリット部17の上部をチューブ26と連結させることにより行なわれる。
【0051】
一方、開閉弁25は、洗浄槽24に収容された洗浄液Rが漏れ出さないように、通常は閉じられているので、図5(b)に示すように制御部11によって開閉弁25が開けられる。これにより、洗浄槽24の洗浄液Rがチューブ26を通って液体保持空間21に供給される。スポットピン2の液体保持空間21には、通常、液体Qの一部が残存しているが(図5(a)参照)、このような残存液体Qは、洗浄液Rとともに筒状孔22およびスリット部17(液体保持空間27)の下部開口23から強制的に排出される。なお、洗浄槽24からの洗浄液Rの供給は、洗浄槽24に収容された洗浄液Rの自重により行なってもよいし、ポンプ等の送液機構を用いて行なってもよい。
【0052】
次に、液体保持空間21に対して適当量の洗浄液Rを供給した場合には、制御部11によって開閉弁25を閉じ、洗浄液Rの供給を停止する。このとき、液体保持空間21には、洗浄液Rが残存しているために、図示しない送風機や温風器を用いてスポットピン2の内部および外部を乾燥させる。これにより、図5(c)に示すように、スポットピン2は、液体保持空間21に液体Qも洗浄液Rも保持されていない清浄な状態に回復させられる。
【0053】
また、液体供給機構4を用いて洗浄液Rをスリット部17を介してスポットピン2の内部へ供給する代わりに、液体供給機構4を用いて、スポットピン2に試料溶液や試薬を供給するように構成することもできる。この場合、液体保持空間21の毛細管作用によって、試料溶液や試薬が液体保持空間21に吸い込まれる。そして、吸い込まれた試料溶液や試薬が筒状孔22(液体保持空間21)の下部開口23に到達すると、毛細管作用が抑制され、液体保持空間21には一定量の液体Qが保持される。
【0054】
次に、本発明の第2の実施の形態について、図7を参照して説明する。なお、図7においては、先に説明した第1の実施の形態と同様な要素については同一の符号を付してあり、以下における重複説明を省略する。
【0055】
図7に示したスポットピン2Aは、スリット部17が、第1スリット部17Aと第2スリット部17Bとを有している点で本発明の第1の実施の形態に係るスポットピン2と異なっている。そして、このスポットピン2Aでは、第1スリット部17Aの幅W1が第2スリット部17Bの幅W2よりも小さくなるように構成されている。より具体的に、第1スリット部17Aのスリット幅W1は、第2スリット部17Bのスリット幅W2の1/10〜2/3程度の幅となっている。このような構造によれば、第1スリット部17Aが形成された点着面18付近の毛細管力を強めて液体の保持力を高め、一方で、第2スリット部17Bの幅を大きくすることによって該第2スリット部17Bが形成されている液体保持空間21の毛細管力を弱めることができる。その結果、このような構造によれば、点着面18からの液もれを低減するとともに、液体保持部16の軸方向に沿って液体保持空間21の毛細管力を調整することができるため、過度な毛細管力の発現によって生じるエアギャップの発生を低減することができる。なお、エアギャップとは、スポットピンで点着面から液体を吸い上げた際、毛細管力が強すぎると、点着面よりも液体保持空間21側(液体の吸い上げ方向)に液体が必要以上に吸い上げられ、液体保持空間21に不要な空気は入り込む現象である。このようなエアギャップが生じると、空気を含んだ液体が点着される場合があり、点着直径にばらつきが生じる可能性がある。
【0056】
また、図7に示すように、スポットピン2Aにおいて、筒状の液体保持部16の軸方向における第1スリット部17Aの長さL1は、第2スリット部17Bの長さL2に比べて、短いほうが好ましい。このような構造によれば、第2スリット部17Bに対応する液体保持空間21の体積に比べ、第1スリット部17Aに対応する液体保持空間21の体積が小さくなる。その結果、このような形態によれば、第1スリット部17A付近の毛細管力を弱めることができるため、点着を繰り返すことによってスポットピンに入っている液体が少なくなった場合であっても、液体保持空間21に残存する液体をより少なくでき、液体保持空間21で保持した液体をほぼ使いきることが可能となる。また、第1スリット部17Aの長さL1は、たとえば0.03mm〜0.2mm、第2スリット部17Bの長さL2は、たとえば4mm〜10mmに設定されている。このとき、スポットピン2Aの全長L3は、8〜100mmである。
【0057】
次に、本発明の第3の実施の形態について、図8を参照して説明する。なお、図8においては、先に説明した第1の実施の形態と同様な要素については同一の符号を付してあり、以下における重複説明を省略する。
【0058】
図8に示したスポットピン2Bは、第1スリット部17A’が、点着面18に向かって、漸次、幅が小さくなるテーパ形状である点で本発明の第1の実施の形態に係るスポットピン2Aと異なっている。このような構造によれば、点着面18に向かって毛細管力を徐々に強めることができる。その結果、このような構成によれば、点着面18からの液もれを低減でき、さらにはスポットピン2Bの上方側の液体保持部16で保持された液体を、毛細管力が強まった第1スリット部17A’に対応する液体保持部16に促すことができるため、液体の点着が容易になる。
また、この第1スリット部17Aにおけるテーパ率は、第1スリット部17A’の最も幅が小さい部分(第2スリット部17Bと境界部分)をW3、第1スリット部17A’の最も幅が小さい部分(点着面側)をW4とし、第1スリット部17A’の液体保持部16の軸方向における長さをL3としたとき、(W3−W4/L3)=0.01〜0.7であるとよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1実施形態を説明するためのスポット装置の全体斜視図である。
【図2】図1に示したスポット装置におけるヘッド周りの断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態のスポットピンの断面図である。
【図4】スポットピンに対する液体の供給動作を説明するための断面図である。
【図5】スポット装置における液体供給機構を説明するための断面図である。
【図6】スポットピンを用いた点着動作を説明するための断面図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態のスポットピンを説明するためのものであり、(a)は断面図、(b)は正面図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態をスポットピンを説明するための正面図である。
【図9】一般的なスポット装置のヘッド回りの要部を示す断面図である。
【図10】従来のスポットピンを示すものであり、(a)は正面図、(b)は点着面の平面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 スポット装置
2 スポットピン
2A スポットピン
2B スポットピン
3 ヘッド
4 液体供給機構
5 Z軸駆動機構
6 XY軸駆動機構
7 点着対象物
8 ステージ
9 点着液保持部
9A 点着液保持槽
10 洗浄部
11 制御部
12 係止部
13 プレート
14 スペーサ
15 プレート
16 液体保持部
17 スリット部
17A、17A’ 第1スリット部
17B 第2スリット部
18 点着面
19 スペーサ
20 ブロック
21 液体保持空間
22 筒状孔
23 下部開口
24 洗浄槽
25 開閉弁
26 チューブ
27 内部空間
30 ヘッド
31 スポットピン
32 内部空間
33 スリット
W1〜W4 スリット部の幅
L スポットピン長さ
L1〜L3 スリット部の長さ
Q 液体
R 洗浄液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を保持するための液体保持空間を規定する筒状部を有する液体保持部を含んでなるスポットピンであって、
前記液体保持部は、前記筒状部の一端面に、液体を点着対象面に接触させる点着面を有するとともに、前記筒状部の軸方向において、前記点着面から前記筒状部の他端面に向かって延びる単一のスリット部を有することを特徴とするスポットピン。
【請求項2】
前記スリット部は、第1スリット部と該第1スリット部より幅が大きい第2スリット部とを有してなり、前記第1スリット部が前記第2スリット部よりも前記点着面側に位置していることを特徴とする請求項1に記載のスポットピン。
【請求項3】
前記第1スリット部は、前記点着面に向かって、漸次、幅が小さくなるテーパ形状であることを特徴とする請求項2に記載のスポットピン。
【請求項4】
前記第1スリット部は、前記筒状部の軸方向における長さが前記第2スリット部に比べて短いことを特徴とする請求項2または3に記載のスポットピン。
【請求項5】
全体がジルコニアセラミックスで形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスポットピン。
【請求項6】
請求項1〜6のいずれかに記載のスポットピンと、
前記スポットピンを軸方向に移動させるための移動機構と、
前記移動機構の動作を制御するための制御部と、
を備えていることを特徴とするスポット装置。
【請求項7】
前記スリット部から前記液体保持空間に液体を供給するための液体供給機構をさらに備えていることを特徴とする請求項6に記載のスポット装置。
【請求項8】
前記液体は、試料溶液、試薬または洗浄液であることを特徴とする請求項7に記載のスポット装置。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載のスポットピンにおける液体保持空間に液体を保持させる工程と、
前記スポットピンの点着面を点着対象面に接触させた後に、前記点着対象面から前記点着面を離間させ、前記液体保持空間の液体を前記点着対象面に点着する点着工程と、
を含むことを特徴とする液体の点着方法。
【請求項10】
前記点着工程の後において、前記液体保持空間に残存する液体を排出する工程をさらに含んでいることを特徴とする請求項9に記載の液体の点着方法。
【請求項11】
基体に試薬を固定化した生化学解析用ユニットの製造方法であって、
請求項1ないし5のいずれか1つに記載のスポットピンにおける液体保持空間に試薬を保持させる工程と、
前記スポットピンの点着面を前記基体の表面に接触させた後に、前記基体から前記点着面を離間させ、前記液体保持空間の試薬を前記基板の表面に点着する工程と、
を含むことを特徴とする生化学解析用ユニットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−264901(P2009−264901A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114120(P2008−114120)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】